説明

脂質ヒスチジンゲル化剤

【課題】弱酸性からアルカリ性の液性範囲、水、アルコール、水溶液、アルコール水溶液、有機溶媒及び有機溶媒と水との混合溶媒等の幅広い溶媒に対して、幅広いpH領域、特に中性領域においてもゲルを形成できる脂質ヒスチジンゲル化剤、高い環境・生体適合性及び生分解性を有するヒドロゲルを形成するためのゲル化剤、及び、各種混合溶媒ゲルを形成するための脂質ヒスチジンゲル化剤、及び前期ゲル化剤の自己集合化により形成されるファイバー並びにゲル化剤又はファイバーと溶媒とで構成されるゲルの提供。
【解決手段】式(1):
【化1】


(式中、R1は炭素原子数9乃至19の飽和又は1個の不飽和結合を持つ脂肪族基を表し
、ヒスチジン部はL又Rいずれかの光学活性ヒスチジンで表される脂質ヒスチジン又はその薬学的に使用可能な塩からなることを特徴とするゲル化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−脂質ヒスチジンから成るゲル化剤、該ゲル化剤の自己集合化により形成されるファイバー、及びゲル化剤又はファイバーと溶媒、具体的には、水、水溶液、アルコール、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸エステル、グリセライド、又はアルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸エステル若しくはグリセライドのいずれかと水との混合溶媒、
とからなるゲル又はヒドロゲルに関する。
本発明のN−脂質ヒスチジンは、化粧品、寒天等のゲル状食料品及び医薬品製剤等をはじめとする各種ゲル状基材の製造においてゲル化剤として特に好適に利用できる。また、該N−脂質ヒスチジンから得られたヒドロゲルは、化粧品、(ソフト)コンタクトレンズ、及びコンタクトレンズのケア関連製品、紙おむつ及び芳香剤などの日用品用途、乾燥地農業用途、クロマトグラフィーなどの分析化学用途、医療・薬学用途、並びにタンパク質の担持体、細胞培養関連基材及びバイオリアクター等の生化学分野用途等各種機能性材料として好適である。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは水を溶媒とするため生体適合性の高いゲルとして有用であり、紙おむつや化粧品、芳香剤の日用品向け用途をはじめとして、幅広い分野で使用されている。
従来型のヒドロゲルとしては、アガロースなどの天然高分子ゲルや、アクリルアミドゲルなどの高分子鎖間を化学共有結合にて架橋した合成高分子ゲルを挙げることができる。
【0003】
近年、ヒドロゲルに物質保持性能、外部刺激応答性能、さらには環境に配慮して生分解性能等の各種機能を付与させた機能性ゲルが注目されており、前記天然又は合成高分子ゲルに共重合反応を用いて機能性分子を組み入れることにより、様々な機能発現の試みがなされている。
【0004】
このように新たな機能をヒドロゲルに付与するには、ゲルのナノ構造やその表面構造を詳細に検討する必要があるが、上述の共重合反応を用いた機能性分子の組み入れ方法では、機能性基の導入率に限界があること及び精密分子設計が難しいという問題がある。さらに未反応の残存物質の安全性の問題、ひいてはゲル調製が非常に煩雑であるという様々な課題を有している。
【0005】
こうした従来の「トップダウン型」の機能性材料の開発に対し、物質の最少単位である原子又は分子を集合させ、その集合体である超分子に新しい機能を見出す「ボトムアップ型」の機能性材料の創製研究が注目されている。
ゲルの分野においても、低分子化合物の自己集合化による非共有結合性ゲルファイバー(所謂「超分子ポリマー」)から形成される新たなゲルの開発が進められている。この「自己集合化」とは、当初ランダムな状態にある物質(分子)群において、分子が適切な外部条件下で分子間の非共有結合性相互作用等により自発的に会合することにより、マクロな機能性集合体に成長することを指す。
上記新たなゲルは、理論的にはモノマーの分子設計により、分子間相互作用や分子集合体の弱い非共有結合を制御することで、巨視的なゲルの構造や機能の制御が可能である点が注目されている。
但し、低分子化合物の分子間相互作用や非共有結合を如何に制御するかについては、明確な方法論が見出されておらず、また非共有結合性ゲルの研究は、比較的ゲル形成が容易であることから有機溶媒中における水素結合を利用した自己集合体の研究が先行しており
、水溶液中における自己集合化化合物(すなわちゲル化剤など)は偶発的な発見の域に留まっている。
【0006】
現在報告されている非共有結合性ゲルを形成するゲル化剤は、大きく分けて以下の3種類が挙げられる。
[1.両親媒性低分子を骨格として有するもの]
人工脂質膜をモデルとしたもので、四級アンモニウム塩部を親水部とし、アルキル長鎖を疎水部とした界面活性剤ゲル化剤、二つの界面活性剤型分子の親水部を連結した双界面活性剤型ゲル化剤などが挙げられる。
こうしたゲル化剤から形成されるヒドロゲルの一例として、分岐型アルキル基を疎水部に有するカチオン性両親媒性化合物の分散水溶液に、分子量90以上のアニオンを添加することにより形成される分子組織性のハイドロゲルに関する提案がなされている(特許文献1)。
[2.生体内成分をモチーフとした骨格を有するもの]
ペプチド二次構造骨格(α−ヘリックス構造やβ−シート構造など)による分子集合体間の会合を利用したゲル化剤が挙げられる。
例えばα−ヘリックス構造を有するもの(非特許文献1)、β−シート構造を有するもの(非特許文献2)に関する提案がなされている。
[3.半人工型低分子を骨格として有するもの]
DNA塩基やペプチド鎖、糖鎖などの生体内成分(親水部)とアルキル鎖(疎水部)等の組合せからなり、先に挙げた2つのゲル化剤の特徴を組み合わせたゲル化剤といえる。ここでDNA塩基、ペプチド鎖及び糖鎖は、親水性を高めるだけではなく、水素結合などの分子間相互作用を付与する役割を担っている。
例えばN−アセチル化された糖類誘導体から成るヒドロゲル化剤(特許文献2)などの提案がなされている。
また、<疎水部−システイン残基(ネットワーク形成時にジスルフィド結合形成)−グリセリン残基(柔軟性を付与)−リン酸化セリン残基−細胞接着性ペプチド>という構造を有する両親媒性ペプチドが、疎水部を核としてβ−シート型ファイバーネットワークを形成することが開示されている(非特許文献3)。
しかしながら、ケミカルライブラリーを用いて糖脂質型超分子ヒドロゲルの作成を行った事例(非特許文献4)の報告もあるように、分子設計的にヒドロゲル化剤を設計し見出すことは困難で、試行錯誤の上、見出されてくるものである。
【0007】
両親媒性である疎水性部+ペプチドで構成されたジペプチド化合物も、自己集合体を形成しうる「ボトムアップ型」の機能性材料の一つとして注目されている。「2−(ナフタレン−2−イルオキシ)酢酸」+「グリシルグリシン又はグリシルセリンなど」等の特殊な脂質部を持つジペプチド化合物で、ヒドロゲルとなることが知られている。しかしながら、いずれも酸性水溶液をゲル化するか、又はゲル化したヒドロゲルが酸性のものである(非特許文献5)。
さらに、こうして見つけられた多くの低分子ヒドロゲルは、水溶液のみをゲル化するものであり、有機溶媒をもゲル化するものはほとんどなく、その構造は限られていた。両方ゲル化するものでも水又は限られた液性の水溶液と特殊な有機溶媒との組合せに限られていた(非特許文献6、7、8)。すなわち、広い液性の水溶液をゲル化し、及び有機溶媒や更に化粧品等にも使用される実用的な溶媒に対してもゲル化能を発揮するゲル化剤は知られていない。
これに対して、天然に存在する脂肪酸「ラウリン酸又はミリスチン酸」と「グリシルグリシン」で構成した脂質ペプチド化合物は、水に溶解させるとヒドロゲルを形成せずに、多重なベシクルの内径50−90nmの中空を有する有機ナノチューブを形成して析出する(特許文献3)。
ところで、長鎖と単一アミノ酸トリプトファンとを組み合わせた自己組織化材料として
は、トリプトファンのカルボキシル基にパルミチルアミンを反応させてα−アミノ基をトリメチル化しアミノカチオンとしたものが知られている。この自己組織化材料はカチオン性の両親媒性化合物なので、水に溶解させるとその溶液は酸性であり、その性質は液性に左右されることが示唆され、中性からアルカリ領域での使用は不向きと考えられる(非特許文献9)。また、両端にカルボキシル基をもつ炭素数10〜20のジカルボン酸の両端にアミノ酸を結合させた場合、アミノ酸としてアラニンを用いた場合にはゲル化するが、ヒスチジンを用いた場合では自己組織化してファイバー構造を形成するが溶解したままゲル化しないことが報告されている(非特許文献10)。このように、自己組織化能とゲル化能とは異なり、さらに色々な液性や溶媒に対応できる脂質アミノ酸型ゲル化剤は知られていない。さらにまた、アミノカチオン等の生体や環境への安全性に関する課題を残している。
ところで、ヒスチジンを有するゲル化剤として、Pal−GlyGlyGlyHisとPal−GlyGlyHisが、広いpH領域に亘る水への高いゲル化能を有し、さらにエタノール水溶液へのゲル化能を有することが報告されている(非特許文献11)が、他の有機溶媒へのゲル化は報告されず、水・有機溶媒と多様性のあるゲル化剤は知られていない
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−085957号公報
【特許文献2】特開2003−327949号公報
【特許文献3】特開2004−250797号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ペカタら、サイエンス、281、389(1998)(W .A.Pekata et.al., SCIENCE, 281, 389 (1998))
【非特許文献2】A.アジェリら、アンケヴァンテ ヒェミー 2003、42、5603−5606(A.Aggeli et.al., Angew. Chem. Int. Ed., 2003, 42. 5603−5606)
【非特許文献3】ジェフリー D.ハルトゲリンク、エリア ベニアシュ、サミュエル I.ストゥップ、サイエンス、294巻、1684−1688頁(2001)(Jefffry D. Hartgerink, Elia Beniaah, Samuel I. Stupp, SCIENCE, vol294, 1684−1688(2001))
【非特許文献4】松本真治,濱地格,ドージンニュース No.118, 1−16(2006)
【非特許文献5】Z.ヤング、B.クゥら,ジャーナル オブ マテリアル ケミストリー、17,850−854(2007)(Z. Yang, B. Xu et al., J. Mater. Chem. 17, 850−854(2007))
【非特許文献6】P.クマールら、ケミストリ オブ マテリアル、l9,138−140(2007)(P. K. Kumar et al., Chem. Mater. 2007, 19, 138−140)
【非特許文献7】P.クマール 、G.ジョン、ケミカル コミュニケーションズ.2218−2220(2006)(P. K. Kumar and G. John, Chem. Commun. 2006,2218−2220)
【非特許文献8】Y.マツザワ、M.アベ、ら アドヴァンスド ファンクショナル マテリアルズ、17,1507−1514(2007)(Y. Matsuzawa, M. Abe et al., Adv. Funct. Mater. 2007, 17, 1507−1514)
【非特許文献9】デバプラチン ダス、アンタラ ダスグプタ、サンギタ ロイ、ラジェンドラ ナラヤン ミトラ、シシル デブナス、and パラサンタ クマル ダス, ケム ユーロ.J.,12,5068−5074(2006)(Debaparatim Das, Antara Dasgupta, Sangita Roy, Rajendra Narayan Mitra,Sisr Debnath, and Prasanta Kumar Das,Chem. Eur.J. 2006, 12, 5068−5074 )
【非特許文献10】ソフィー フランシェ、ナンシー デ ビグエリー、モニーク リビエラ アンド アルマンド ラッテ,ニュー ジャーナル オブ ケミストリー,23,447−452(1999)(Sophie Franceschi, Nancy de Viguerie, Monique Riviere and Armand Latte,New J. Chem. 1999, 23, 447−452.)
【非特許文献11】香田大輔、丸山達生、園川沙織、中島一紀、後藤雅宏、第44回化学関連関東支部九州大会要旨。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来型のヒドロゲルにおいては、その合成高分子ゲルを形成するにおいて、また場合により、ゼラチン(コラーゲン)等の天然高分子をゲル化するにおいて、アルデヒド基を有する架橋剤を使用する必要がある。
また、天然高分子ゲルは勿論のこと、(合成)高分子ゲルに機能を付与するには、高分子鎖を化学修飾するか、機能分子を組み入れるために共重合反応を行う必要がある。
このように従来型のヒドロゲルにおいては、ゲルの調製が煩雑であり、未反応の架橋剤及び共重合反応時の未反応物質が残存するという問題も有していた。
【0011】
また、これまで提案された上述の非共有結合性ゲルを形成するゲル化剤において、前記両親媒性低分子を骨格とする(1.)場合、溶媒の液性によりゲル形成に至らないことがある。すなわち、アルカリ性領域ではミセルを形成し乳化液となり、一方、酸性領域ではファイバー状に自己集合してヒドロゲルが得られるものの、生体に安全とされる中性領域でヒドロゲル化する例はほとんど報告されていない。また、四級アンモニウムカチオン等(例えば特許文献1)は生体環境への安全性に不安を残すなどの課題も有している。
また生体内成分をモチーフとした骨格(2.)においては、大量製造にむかないという生産性の問題を有し、さらにゲル形成能が温度及びpHに依存するという課題を有している。
そして、半人工型低分子を骨格として有するもの(3.)においては、例えば特許文献2に記載のヒドロゲル化剤を構成するグリコシドアミノ酸誘導体を合成する反応スキーム(図1)を参照すると、毒性の高いアジ化ナトリウムを使用することが明記されており、また非特許文献3に記載の中空繊維の自己集合化にあたり、遷移金属(イオン)の添加が必須となるなど、生体適合性や環境安全性において課題を残すものである。
【0012】
このように、これまで報告された各種の非共有結合性のヒドロゲル及びゲルを形成するゲル化剤においては、ゲル形成能(ゲル構造保持能)や生体環境への安全性等の面でさらなる改善が求められているものである。
さらに生体環境への安全性の観点からは、より少量の添加量でヒドロゲル形成が可能となるゲル化剤に対する潜在的な要求がある。
また、医農薬製剤・化粧品・インク・塗料等の用途観点から、単に水をゲル化させるだけでなく、広いpH領域に対応でき、多種多様な水溶液及び水とアルコール又は有機溶媒との混合溶媒をゲル形成させるゲル化剤も求められていた。
【0013】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、新規ゲル化剤としての脂質ヒスチジンの提供であり、特に弱酸性からアルカリ性の広い液
性範囲において、特に中性領域においてもゲル化剤として機能し、アルコール、有機溶媒、化粧品溶媒などが混合した水溶液、無機塩や有機塩が溶解する水溶液と少量でヒドロゲルを形成できる高いヒドロゲル化能を有するゲル化剤として有用な脂質ヒスチジンを提供することにある。
また本発明の課題は、上記脂質ヒスチジンを用いて、弱酸性からアルカリ性との広い液性範囲で安定してゲル構造を保ち、また、高い環境・生体適合性及び生分解性を有するヒドロゲルを提供することにある。
さらなる本発明の課題は、脂質ヒスチジンの自己集合体により形成されたファイバーが低分子化合物を吸着又は包接することにより、低分子化合物を徐放化し得る医農薬の製剤基材として使用可能なヒドロゲルを提供することにある。また、上記低分子化合物が難溶性低分子化合物の場合でも、これを吸着又は包接し、溶解を促進することが可能な上記ファイバー及びファイバーから形成されるゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、本発明を見出すに至った。すなわち、第1観点として、式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1は炭素原子数9乃至19の飽和脂肪族基又は1個の不飽和結合を持つ脂肪族
基を表し、ヒスチジン部はL又Rいずれかの光学活性を表す。)で表される脂質ヒスチジン又はその薬学的に使用可能な塩からなることを特徴とするゲル化剤。
第2観点として、前記式(1)中、R1が炭素原子数11乃至は17の飽和脂肪族基又
は1個の不飽和結合を持つ脂肪族基であることを特徴とする第1観点に記載のゲル化剤。
第3観点として、前記式(1)中、R1が炭素原子数11乃至は17の飽和脂肪族基で
あることを特徴とする第2観点に記載のゲル化剤。
第4観点として、前記式(1)中、ヒスチジン部がL体であることを特徴とする第1観点乃至第3観点のいずれか1項に記載のゲル化剤。
第5観点として、さらに式(2)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R2は炭素原子数9乃至19の脂肪族基を表し、mは1乃至4の数である。)で
表される脂質ペプチド又はその薬理学的に使用可能な塩を含む第1観点乃至第4観点のいずれか1項に記載のゲル化剤。
第6観点として、第1観点乃至第5観点のいずれか1項に記載のゲル化剤が自己集合化して形成されるファイバー。
第7観点として、第1観点乃至第5観点のいずれか1項に記載のゲル化剤に界面活性剤を混合することにより、自己集合化することを特徴とするファイバー。
第8観点として、前記界面活性剤がアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤である第7観点に記載のファイバー。
第9観点として、第1観点乃至第5観点のいずれか1項に記載のゲル化剤が低分子化合物を吸着又は包接して自己集合化することにより形成されるファイバー。
第10観点として、第1観点乃至第5観点のうちいずれか1項に記載のゲル化剤及び溶媒を含有することを特徴とするゲル。
第11観点として、第4観点乃至第9観点のうちいずれか1項に記載のファイバー及び溶媒を含有することを特徴とするゲル。
第12観点として、前記溶媒が、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸エステル、グリセライド、又はアルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸エステル若しくはグリセライドのいずれかと水との混合溶媒である第10観点又は第11観点に記載のゲル。
第13観点として、前記溶媒が、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、又は、アルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液若しくは高級アルコールのいずれかと水との混合溶媒である第12観点に記載のゲル。
第14観点として、前記アルコール溶液がメタノール、エタノール、2−プロパノール及びi−ブタノールからなる群から選択される少なくとも1種のアルコールの溶液である、第12観点に記載のゲル。
第15観点として、前記親水性有機溶液が、アセトン、ジオキサン、N−メチルピロリドン及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の親水性有機溶媒の溶液である、第12観念に記載のゲル。
第16観点として、前記多価アルコールが、グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールである、第15観点記載のゲル。
第17観点として、前記疎水性有機溶液が、流動パラフィン、ミネラルオイル、水添ポリイソブテン及びオリーブ油からなる群から選択される少なくとも1種の疎水性有機溶媒の溶液である、第12観点に記載のゲル。
第18観点として、第1観点乃至第5観点のいずれか1項に記載のゲル化剤及び水を含有することを特徴とするヒドロゲル。
第19観点として、第6観点乃至第9観点のいずれか1項に記載のファイバー及び水を含有することを特徴とするヒドロゲル。
第20観点として、前記水は、さらに無機塩及び有機塩からなる群から選ばれた1種以上の塩を含有すること特徴とする第18観点又は第19観点に記載のヒドロゲル。
第21観点として、前記無機塩が炭酸塩、無機硫酸塩及び無機リン酸塩であり、前記有機塩が有機アミン塩酸塩及び有機アミン酢酸塩であり、該無機塩及び有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種の塩を含有することを特徴とする第20観点に記載のヒドロゲル。
第22観点として、前記無機塩が炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムであり、前記有機塩がエチレンジアミン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩及びトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩
である、該無機塩及び有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種の塩を含有することを特徴とする第20観点に記載のヒドロゲル。
第23観点として、さらに防腐剤を含有することを特徴とする、第10観点乃至第17観点のいずれか1項に記載のゲル。
第24観点として、さらに防腐剤を含有することを特徴とする、第18観点乃至第22観点のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
第25観点として、前記防腐剤がフェノキシエタノール、メチルパラベン又はこれら双方である第23観点に記載のゲル。
第26観点として、前記防腐剤がフェノキシエタノール、メチルパラベン又はこれら双方である第24観点に記載のヒドロゲル。
【発明の効果】
【0019】
本発明の脂質ヒスチジンは、従来型のゲル形成時に必要とされた架橋剤等を用いずに、水溶液又はアルコール水溶液をゲル化させてゲルを形成することができ、未反応の架橋剤の残存がない。また本発明の脂質ヒスチジンは低分子化合物からなるため、従来のゲル化剤のように天然又は合成高分子化合物で必要な機能発現のための化学修飾及び機能性分子の共重合反応による組み入れを行う必要がないため、未反応物質を含まずに、ゲルを形成することができるゲル化剤として有用である。
【0020】
また本発明の脂質ヒスチジンは、弱酸性領域からアルカリ性領域に亘る広い液性において、ゲル及びヒドロゲルを形成することができる。特に、細胞培養の基材、医用材料及び化粧品用材料等において要求される高い安全性の観点から、中性領域においてもゲル形成能を有する本発明の脂質ヒスチジンは、上記用途におけるゲル、特にヒドロゲルのゲル化剤として有用である。
更に、本発明の脂質ヒスチジンは、水のみならず、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、又はアルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコールのいずれかと水との混合溶媒、無機塩及び有機塩が溶解する溶液までも少量の添加量でゲル化させることができる。そのため、上記用途に加え、農薬製剤、インク、塗料と等の用途におけるゲル化剤として有用である。
【0021】
また本発明の脂質ヒスチジンは、近年BSE感染等で問題とされている動物由来材料(コラーゲン、ゼラチン、マトリゲルなど)を使用せず、脂質とヒスチジンのみから構成される人工低分子化合物であるため、得られたゲル又はヒドロゲルにおいて感染等による問題が生じない。しかも、アジ化ナトリウムなどの反応性は高いが毒性の試薬を使用することなく、脂質とヒスチジンのアミド化反応の一工程のみで脂質ヒスチジンの製造が可能であり、安全性の高いゲル化剤として好適に用いることができる。
なお本発明の脂質ヒスチジンは、上記以外にも、細胞傷害保護、ラングミュア単分子層(Langmuir monolayer)としても用いることができる。
【0022】
また本発明のファイバーは、水、水溶液、アルコール又はアルコール若しくは有機溶媒と水との混合溶媒中においては、前記脂質ヒスチジンが自己集合する際、その最も外側(すなわちファイバー表面)にヒスチジン部が位置することになるため、生体内に取り込まれた際、生体細胞と拒絶反応を起こしにくく、細胞接着性にも優れる。このため、医療用の徐放性担体及び吸着剤、並びに再生医療用足場材などに好適に用いることができる。
上記用途のほか、食品工業、農林業、化粧品分野及び繊維工業における安定剤、分散剤又は湿潤剤として、電子・情報分野における金属又は導電性物質をドープしたナノ部品として、さらにはフィルター用材料及び導電性材料としても有用である。
【0023】
そして本発明のヒドロゲルは、弱酸性領域からアルカリ性領域に亘る広い液性において、特に中性条件下でも安定にゲル構造を保つことができるため、細胞培養等の生化学向け
材料及び医用材料用途に好適である。
また本発明のヒドロゲルは、上述のように従来に比べて少量の脂質ヒスチジンの添加により得ることができるため、生体面・環境面の何れにおいても安全性の高いヒドロゲルといえる。
さらに上述のように、低分子化合物である脂質ヒスチジンから得られたゲル又はヒドロゲルは、外部環境中で、例えば土中で使用する場合、土壌細菌などにより容易に分解され、また生体内で使用する場合には代謝酵素により容易に分解されるため、環境・生体に対する負荷が少ない。
【0024】
本発明の脂質ヒスチジンは、会合して自己集合することによりファイバー構造を構築し、ビタミンEやメチルパラベン等の疎水性化合物をファイバー内に取込んで溶解を促進する効果があり、親水性化合物と疎水性化合物を同時に溶解させた溶液を作成するのに有効である。例えば、溶解させたい化合物が生理活性物質であれば化粧品・医薬部外品・医薬品及び農薬のような製剤製造において有効である。また、例えば溶解させたい対象物が染料又は顔料であればインクや塗料などの基材にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は水溶液中における脂質ヒスチジンの自己集合化及びゲル化の概念図である。
【図2】図2は疎水性有機溶液中における脂質ヒスチジンの自己集合化及びゲル化の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
[ゲル化剤]
本発明のゲル化剤は、下記式(1)で表される構造を有し、脂溶性の高い長鎖を有する脂質部(アルキルカルボニル基)とヒスチジン部により構成される。
【0027】
【化3】

【0028】
上記式(1)において、脂質部に含まれるR1は炭素原子数9乃至19の飽和脂肪族基
又は1個の不飽和結合を持つ脂肪族基を表し、好ましくは、炭素原子数11乃至17の飽和脂肪族基又は1個の不飽和結合を持つ脂肪族基であり、好ましくは炭素原子数11乃至17の飽和脂肪族基であり、好ましくは炭素原子数11乃至17の直鎖状飽和脂肪族基である。
好ましいR1で表される脂肪族基の具体例としては、例えばノニル基、デカニル基(カ
プリル基)、ウンデカニル基、ドデカニル基(ラウリル基)、トリデカニル基、テトラデカニル基(ミスチル基)、ペンタデカニル基、ヘキサデカニル基(パルミチル基)、へプタデカニル基、オクタデカニル基(ステアリル基)、ノナデカニル基、ノネニル基、デセ
ニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ナノデセニル基、などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
上記式(1)で表される化合物において、特に好適な脂質ヒスチジン化合物の具体例としては、以下の脂質ヒスチジンが挙げられる。例えば、N−ノニオイルヒスチジン、N−デカノイルヒスチジン、N−ウンデカノイルヒスチジン、N−ラウリロイルヒスチジン、N−トリデカノイルヒスチジン、N−ミストイルヒスチジン、N−ペンタデカノイルヒスチジン、N−パルミトイルヒスチジン、N−へプタデカノイルヒスチジン、N−ステアロイルヒスチジン、N−ノナデカノイルヒスチジン及びN―イコサノイルヒスチジン等があげられる。
【0030】
上記化合物のうち、より好適な脂質ヒスチジンとしては、N−デカノイルヒスチジン、N−ラウリロイルヒスチジン、N−トリデカノイルヒスチジン、N−ミストイルヒスチジン、N−ペンタデカノイルヒスチジン、N−パルミトイルヒスチジン及びN−ステアロイルヒスチジンが挙げられ、最も好適な脂質ヒスチジンとしては、N−ラウリロイルヒスチジン、N−ミストイルヒスチジン、N−パルミトイルヒスチジン及びN−ステアロイルヒスチジンが挙げられる。
【0031】
本発明の脂質ヒスチジンにおけるヒスチジン部としては、L又はRのいずれの光学活性ヒスチジン部を用いることができる。医薬部外品等に用いる場合には、生体内に存在するL体のヒスチジン部を有する脂質ヒスチジンを用いることが特に好ましい。
【0032】
本発明のゲル化剤は上記脂質ヒスチジン又はその薬学的に使用可能な塩からなる。
前記薬学的に使用可能な脂質ヒスチジンの塩としては、例えば、ヒスチジン部のカルボキシル基に対応する塩として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、並びにヒスチジン部のイミダゾール基に対応する塩として、塩酸塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、及びコハク酸塩等が挙げられる。
【0033】
さらに、本発明のゲル化剤は、上記式(1)で表される脂質ヒスチジン又はその薬学的に使用可能な塩からなるゲル化剤に、さらに下記式(2)で表される脂質ペプチド又はその薬理学的に使用可能な塩を含むことができる。
【化4】

(式中、R2は炭素原子数9乃至19の脂肪族基を表し、mは1乃至4の数である。)
【0034】
前記式(2)中、R2で表される脂肪族基の具体例としては、上記R1で定義されたものがあげられる。
【0035】
[ゲル化剤より形成されるファイバー]
本発明の式(1)で表される脂質ヒスチジン又はその薬理学的に使用可能な塩からなるゲル化剤は、水、水溶液又はアルコール溶液、親水性溶液の水溶液中に投入されると、式(1)におけるヒスチジン部が水素結合により分子間非共有結合を形成し、一方、式(1)における脂質部が疎水的にパッキングするように自己集合化し、筒状の二次集合体、すなわちファイバーが形成される。
参考として図1に水溶液中における脂質ヒスチジンの自己集合化及びゲル化の概念図の一例を示す(但し、本発明において、全ての脂質ヒスチジンが図1に示す自己集合化及びゲル化の形態をとるとは限らない)。該脂質ヒスチジン分子(a)は疎水性部位である脂質部を中心として集合し(b)、自己集合化によりファイバー(c)を形成する。
同様に、前記脂質ヒスチジンからなるゲル化剤に、さらに式(2)で表される脂質ペプチドを含むゲル化剤も、式(2)中にヒスチジン部を有するため、式(1)及び式(2)におけるヒスチジン部が水素結合により分子間非共有結合を形成し、一方、式(1)及び式(2)における脂質部が疎水的にパッキングするように自己集合化し、筒状の二次集合体、すなわちファイバーが形成される。
【0036】
ファイバー形成に用いるゲル化剤は、本発明のゲル化剤を1種類用いても良く、又は2種類以上を組み合わせて用いても良い。好ましくは1種類又は2種類を用い、さらに好ましくは1種類を用いる。ただし2種類以上用いる場合は、1種類の場合と異なる性質を得ることが期待できる。
【0037】
また、本発明のゲル化剤は、界面活性剤を混合させて自己集合化することによりファイバーを形成することもできる。かかる界面活性化剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤が挙げられる。
【0038】
本発明においては、ファイバーが低分子化合物を吸着又は包接することもできる。例えば、ビタミンEのような疎水性化合物を本発明のファイバーに包接させることにより水溶液に溶解させることが容易になる。そのため、水溶液に、ビタミンCのような親水性化合物とビタミンEのような疎水性化合物を同時に溶解させることも可能になる。更にメチルパラベン等のパラベン類及びフェノキシエタノール等の水に溶解しにくい防腐剤の溶解を促進する効果もある。
【0039】
また、かかるファイバーより形成されるヒドロゲルは、液体又は生体と接触した場合、含有する低分子化合物を徐々に放出する所謂徐放化能を有することが可能である。かかる低分子の例としては、医薬、農薬又は機能性低分子などが挙げられる。
【0040】
また、本発明のゲル化剤は、特に疎水性有機溶液、場合により親水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル等の溶媒中に投入されると、式(1)におけるヒスチジン部を中心部にし、脂質部を表層部にして会合して自己集合化し、筒状の二次集合体、すなわちファイバーが形成される。
参考として、図2に疎水性有機溶液中における脂質ヒスチジンの自己集合化及びゲル化の概念図の一例を示す(但し、本発明において、全ての脂質ヒスチジンが図1に示す自己集合化及びゲル化の形態をとるとは限らない)。該脂質ヒスチジン分子(a)は親水性部位であるヒスチジン部を中心として集合し(e)、自己集合化によりファイバー(f)を形成する。
【0041】
[ゲル]
本発明のゲルは、ゲル化剤及び/又はファイバー並びに溶媒を含有して形成される。
本発明のゲルを形成させる際の溶媒としては、本発明ゲル化剤のファイバー化やゲル化を妨げるものでなければ特に限定されないが、好ましくは、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸
エステル、グリセライド、又はアルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸エステル及びグリセライドのいずれかと水との混合溶媒を用いることができる。
より好ましくは溶媒が、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、又はアルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液及び高級アルコールのいずれかと水との混合溶媒である。好ましくは水、2−プロパノール、i−ブタノール、グリセリン、ポリエチレングリコール、エタノール水溶液、2−プロパノール水溶液、i−ブタノール水溶液、流動パラフィン水溶液、プロピレングリコール水溶液、グリセリン水溶液、ポリエチレングリコール水溶液、1.3−ブタンジオール水溶液、ステアリルアルコール水溶液及びオレイルアルコール水溶液である。
前記アルコールとは1価のアルコールであり、好ましくは水に自由に溶解する水溶性アルコールであり、より好ましくは炭素原子数1乃至6のアルコールであり、さらに好ましくはメタノール、エタノール、2−プロパノールi−ブタノールであり、さらに特に好ましくはエタノール又は2−プロパノールである。
前記親水性有機溶液としては、水に任意の割合で溶解可能な有機溶媒の溶液を意味する。
用いる親水性有機溶液としては、例えば、アセトン、ジオキサン、N−メチルピロリドン及び多価アルコール等からなる群から選択される少なくとも一種の親水性有機溶媒の溶液である。前記多価アルコールの例としてはグリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール及びポリエチレングリコール等が挙げられる。好ましい親水性有機溶液はN−メチルピロリドン、グリセリン及びポリエチレングリコールの溶液である。
前記疎水性有機溶液としては、流動パラフィン、ひまし油、ヤシ油、ワセリン、ミネラルオイル、水添ポリイソブテン、オリーブ油の溶液などが挙げられ、好ましくは流動パラフィンの溶液である。
前記高級アルコールとしては、水に自由に溶解しない高分子のアルコールであり、ステアリルアルコール及びオレイルアルコールなどが挙げられる。
前記脂肪酸としては、ステアリン酸などが挙げられる。
前記高級脂肪酸エステルとしては、オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピルなどが挙げらる。
前記グリセライドとしては、トリオクタノイン、トリ(カプロリルカプリン酸)グリセリン、ステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。
【0042】
[ヒドロゲル]
前記ゲルの中で、溶媒として水を用いた場合、ヒドロゲルが形成される。
すなわち、本発明のゲルを水に溶解させると、ファイバーが形成され、さらに、三次元網目構造を形成する(例えば図1における(d)参照)。そして、ファイバー表面の親水性部分(ヒスチジン部)と水間で非共有結合を形成して膨潤することにより、水溶液全体がゲル化し、ヒドロゲルが形成される。
【0043】
本発明のヒドロゲルは無機塩及び有機塩又はそれらからなる群から選択される1種以上の塩を含有しても良い。かかる塩はヒドロゲル形成に至る過程のどの段階で加えても良いが、ゲル化剤を加える前に溶媒に加えて溶液にしておくことが好ましい。
無機塩又は有機塩は、複数種を加えても良いが、好ましくは1又は2種である。無機塩又は有機塩を2種類加えることで、溶液が緩衝能をもつことも望ましい。
好ましい前記無機塩の例としては炭酸塩、無機硫酸塩若しくは無機リン酸塩が挙げられる。より好ましくは、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸二水素ナトリウムであり、さらに好ましくは炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムである。また、好ましい前記有機塩の例としては、有機アミンの塩酸塩及び有機アミン酢酸
塩が挙げられる。より好ましくはエチレンジアミン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩及びトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩である。
【0044】
本発明のヒドロゲルは、ゲル中にファイバーを含むものであるため、ビタミンEのような機能性の疎水性化合物並びにメチルパラベン及びフェノキシエタノール等の水に溶解しにくい防腐剤等を含有することができる。
【0045】
本発明のヒドロゲル形成時のメカニズムについて詳細は明らかにされていないが、脂質ヒスチジン分子の荷電状態が関与しているものと考えられる。
本発明の脂質ヒスチジンは、C末端のカルボキシル基とヒスチジンの側鎖イミダゾール基に由来する塩基を有する両イオン性化合物である。そのイオン状態は、カルボキシル基のみが陰イオン化した状態、イミダゾール部のみが陽イオン化した状態、双性イオン化した状態、両置換基ともイオン化していない状態の4形状間で平衡にあると考えられる。
アミノ酸残基の酸解離定数を考慮すると、脂質ペプチド分子は酸性領域ではイミダゾール基がプラスに帯電して陽イオン化し、塩基性領域ではペプチド部C末端の末端カルボキシル基がマイナスに帯電して陰イオン化し、中性領域では双性イオン化した状態が多く存在するものと考えられる。
イオン化した状態になるとヒスチジン部の水との親和性が増強され、疎水部である長鎖部を水との接触を遠ざけるように自己集合化がなされ、ナノファイバーを形成する。その際、双性イオン状態がより多く存在していると、ナノファイバー間で陽イオンと陰イオンによるイオン結合形成されて架橋構造を形成した網目構造になる。この網目構造の形成により、より多くの水を取り込むことが出来るようになることで、優れたヒドロゲル形成能を発現するものと考えている。
【0046】
以上のように、本発明の脂質ヒスチジンは、双性イオン状態が多く存在している中性領域において安定なヒドロゲルを形成することができる。また、低分子化合物であることから本発明の脂質ヒスチジン及びそれから得られるヒドロゲルはともに環境・生体内において分解可能であり、生体適合性の高いゲル化剤及びヒドロゲルを得ることができる。
【0047】
このため、本発明の脂質ヒスチジンからなるゲル化剤、ファイバー及びそれから得られるヒドロゲルは、細胞培養基材、細胞及びタンパク質などの生体分子保存材、外用基材、医療用材料、生化学用材料、化粧品材料、食品用材料、乾燥地農業用材、並びにコンタクトレンズ、紙おむつ及び人工アクチュエーター等の日用品材料など様々な分野における材料に使用することができる。また、酵素などのバイオリアクター担体として、研究、医療及び分析等の各種産業に幅広く利用することができる。
【0048】
さらに、本発明のヒドロゲルは低分子の脂質ヒスチジンから形成されたゲルであるため、該化合物の設定により、例えば外部刺激応答性によりゾル−ゲル転換するゲルを形成できるなど、高分子鎖の修飾や共重合反応の実施と必要せずとも、様々な機能を容易に付加することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【0050】
[実施例で用いる略記号]
以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
His:ヒスチジン(東京化成工業(株))
NMP:N−メチルピロリドン(純正化学(株))
TEA:トリエチルアミン(純正化学(株))
DMT−MM:4−(4,6、ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロライド n−ハイドレイト(国産化学(株))
【0051】
実施例1及び実施例2の脂質ヒスチジンは、以下に示す液相合成法により合成を行った。
【0052】
[実施例1:N−パルミトイル−Hisの合成]
【化5】

【0053】
パルミチン酸(100mg、0.38mmol)をメタノール20gに溶解させ、DMT−MM(161.2mg、0.58mmol)、H−His−OMe・2HCl(84.7mg、0.35mmol)、TEA(39.3mg、0.38mmol)を加え、室温で64時間攪拌した。反応溶液を減圧濃縮後、5%食塩水で3回分液操作し、硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた反応溶液を減圧濃縮し、粗生成物を固体として240mg得た。この粗生成物にメタノール8mL加え、不溶物をろ過した。この溶液に1NのNaOHaq(1.3mL)加え、室温で1時間攪拌した。反応溶液に2NのHClaqを加え、pHを5に調整した。析出した固体を水、アセトンで洗浄し、目的化合物を白色固体として32mg(収率20%)得た。
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6,δppm):7.98(1H,d、J=7.8Hz),7.53(1H,s,),6.77(1H,s,)4.43−4.35(1H,m),2.95−2.88(1H,m),2.84−2.76(1H,m),2.05(2H,t,J=7.2Hz),1.45(2H,m),1.23(24H,s),0.85(3H,t,J=6.6Hz).
MS(EI)m/z:394.3(M++1,bp)
HPLC精製条件:
カラム:YMC−Pack ODS−3 (250x4.6mm I.D.)
流速:2ml/min
溶出:メタノール/リン酸バッファー(pH 2.1)= 85/15
検出波長:205nm
温度:室温
【0054】
[実施例2:N−ラウロイル−Hisの合成]
【化6】

実施例1と同様の手順にて、N−ラウロイル−Hisの合成を行った。
ラウリン酸(1g、5mmol)をメタノール80gに溶解させ、DMT−MM(2.07g、6.55mmol)、H−His−OMe・2HCl(1.08g、4.5mmol)、TEA(500mg、4.95mmol)を加え、室温で17時間攪拌した。反応溶液を減圧濃縮後、イオン交換水で分液操作後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られ
た反応液を減圧濃縮し、粗生成物を固体として1.5g得た。この粗生成物にメタノール10g、1NのNaOHaq(7.43mL)を加え、室温で1時間攪拌した。反応溶液に2NのHClaqを加え、pHを5に調整した。析出したゲル状固体をアセトにトリル10g加えてろ過し、水、アセトン、クロロホルムで洗浄し、目的化合物を白色固体として155.7mg(収率9.3%)得た。
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6,δppm):7.99(1H,d、J=7.8Hz),7.53(1H,s,),6.78(1H,s,)4.40−4.35(1H,m),2.93−2.88(1H,m),2.84−2.76(1H,m),2.05(2H,t,J=7.5Hz),1.43(2H,m),1.23(18H,s),0.85(3H,t,J=6.9Hz).
MS(EI)m/z:338.2(M++1,bp)
HPLC精製条件:
カラム:YMC−Pack ODS−A (150x4.6mm I.D.)
流速:2ml/min
溶出:メタノール/リン酸バッファー(pH 2.1)= 75/25
検出波長:205nm
温度:室温
【0055】
[実施例3:水及びpHによるN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験]
上記実施例1で合成されたN−パルミトイル−Hisに、スクリュー管(マルエムNo.1、(株)マルエム製)中で、これらのN−パルミトイル−Hisの濃度が1.0、0.5wt%(w/v)となるように各種溶液を加えた。これを、ヒートブロック高温槽(日本ジェネティクス(株)製)で、90℃以上に加熱し、その後、室温にて放置した。溶液の流動性が失われて、スクリュー管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化(○)」とし、流動性が失われず、スクリュー管を倒置したときに溶液が流れ落ちる状態を「非ゲル化(×)」と判定した。また、加熱後にN−パルミトイル−Hisが全て溶解しないものを「全て溶解せず(※)」とした。得られた結果を表1に示す。

条件A 超純水
条件B PH:3.1(クエン酸緩衝溶液)
条件C PH:3.9(クエン酸緩衝溶液)
条件D PH:5.2(クエン酸緩衝溶液)
条件E PH:6.0(クエン酸−リン酸緩衝溶液)
条件F PH:6.9(リン酸緩衝溶液)
条件G PH:8.1(リン酸緩衝溶液)
条件H PH:9.0(炭酸−重炭酸緩衝溶液)
条件I PH:10(炭酸−重炭酸緩衝溶液)
【0056】
表1.pHによるN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表1】

(表中、「○」はゲル化、「×」は非ゲル化、「※」は加熱後も全て溶解せず、 「−」
は未測定、であることを示す。)
【0057】
[実施例4:一価及び多価アルコール水溶液を用いたN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験]
上記実施例1で合成されたN−パルミトイル−Hisに、スクリュー管(マルエムNo.1、(株)マルエム製)中で、これらN−パルミトイル−Hisが所定の濃度(w/v)となるように各種溶液を加えた。これをヒートブロック高温槽(日本ジェネティクス(株)製)で、90℃以上に加熱し、その後、室温にて放置した。溶液の流動性が失われて、スクリュー管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化(○)」と判定し、流動性が失われず、スクリュー管を倒置したときに溶液が流れ落ちる状態を「非ゲル化(×)」と判定した。また、加熱後にN−パルミトイル−Hisが全て溶解しないものを「全て溶解せず(※)」とした。各溶媒において得られた結果を表2乃至表5に示す。
【0058】
表2.グリセリン水溶液中におけるN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表2】

【0059】
表3.プロピレングリコール水溶液中におけるN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表3】

【0060】
表4.エタノール水溶液中におけるN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表4】

【0061】
表5.イソプロパノール水溶液中におけるN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表5】

【0062】
[実施例5:MNP水溶液、シクロペンタシロキサン/エタノール溶液を用いたN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験]
上記実施例1で合成されたN−パルミトイル−Hisに、スクリュー管(マルエムNo.1、(株)マルエム製)中で、これらN−パルミトイル−Hisを所定の濃度(w/v)となるように各種溶液を加えた。これをヒートブロック高温槽(日本ジェネティクス(株)製)で、90℃以上に加熱し、その後、室温にて放置した。溶液の流動性が失われて、スクリュー管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化(○)」と判定し、流動性が失われず、スクリュー管を倒置したときに溶液が流れ落ちる状態を「非ゲル化(×)」と判定した。また、加熱後にN−パルミトイル−Hisが全て溶解しないものを「全て溶解せず(※)」とした。各溶媒において得られた結果を表6及び表7に示す。
【0063】
表6.NMP水溶液中のN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表6】

【0064】
表7.シクロペンタシロキサン(SH 245(東レダウコーニング社製))/エタノール中のN−パルミトイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表7】

【0065】
[実施例6:水及びpHによるN−ラウロイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験]
上記実施例2で合成されたN−ラウロイル−Hisに、スクリュー管(マルエムNo.1、(株)マルエム製)中で、これらのN−ラウロイル−Hisの濃度が1.0、0.5wt%(w/v)となるように各種溶液を加えた。これをヒートブロック高温槽(日本ジェネティクス(株)製)で、90℃以上に加熱し、その後、室温にて放置した。溶液の流動性が失われて、スクリュー管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化(○)」とし、流動性が失われず、スクリュー管を倒置したときに溶液が流れ落ちる状態を「非ゲル化(×)」と判定した。また、加熱後にN−ラウロイル−Hisが全て溶解しないものを「全て溶解せず(※)」とした。各pHにおいて、得られた結果を表8に示す。

条件J 超純水
条件K pH:3.1(クエン酸緩衝溶液)
条件L pH:3.9(クエン酸緩衝溶液)
条件M pH:5.2(クエン酸緩衝溶液)
条件N pH:6.0(クエン酸−リン酸緩衝溶液)
条件O pH:6.9(リン酸緩衝溶液)
条件P pH:8.2(リン酸緩衝溶液)
条件Q pH:9.0(炭酸−重炭酸緩衝溶液)
条件R pH:10(炭酸−重炭酸緩衝溶液)
表8.pHによるN−ラウロイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【0066】
【表8】

(表中、「○」はゲル化、「×」は非ゲル化、「※」は加熱後に全て溶解しない ことを、「−」は未測定であることを示す。)
【0067】
[実施例7:一価及び多価アルコール水溶液を用いたN−ラウロイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験]
上記実施例2で合成されたN−ラウロイル−Hisに、スクリュー管(マルエムNo.1、(株)マルエム製)中で、これらN−ラウロイル−Hisが所定の濃度(w/v)となるように各種溶液を加えた。これをヒートブロック高温槽(日本ジェネティクス(株)製)で、90℃以上に加熱し、その後、室温にて放置した。溶液の流動性が失われて、ス
クリュー管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化(○)」とし、流動性が失われず、スクリュー管を倒置したときに溶液が流れ落ちる状態を「非ゲル化(×)」と判定した。また、加熱後にN−ラウロイル−Hisが全て溶解しないものを「全て溶解せず(※)」とした。各溶媒において、得られた結果を表9乃至表12に示す。
【0068】
表9.グリセリン水溶液中におけるN−ラウロイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表9】

【0069】
表10.プロピレングリコール水溶液におけるN−ラウロイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表10】

【0070】
表11.エタノール水溶液におけるN−ラウロイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表11】

【0071】
表12.イソプロパノール水溶液におけるN−ラウロイル−Hisのヒドロゲル化能評価試験
【表12】

【0072】
上述のように、実施例1で合成した脂質ヒスチジン(N−パルミトイル−His)及び実施例2で合成した脂質ヒスチジン(N−ラウロイル−His)は実施例3及び実施例6の結果に示された通り、弱酸性領域からアルカリ性領域、特に中性条件下でも安定にゲルを形成するゲル化剤としての働きを示した。また、本発明のゲル化剤は0.5質量%と少量の添加量でもゲルを形成することが示された。
また、実施例1で合成した脂質ヒスチジン(N−パルミトイル−His)は、実施例4に1価及び2価アルコール水溶液において少量でゲル化剤として働くことが示された。さらに、実施例5に親水性有機溶媒と水との混合溶媒中でもゲル化剤として働くことが示された。
また、実施例2で合成した脂質ヒスチジン(N−ラウロイル−His)は、実施例7に1価及び多価アルコール水溶液、特に3価アルコールであるグリセリン水溶液中において少量でゲル化剤として働くことが示された。
上述のように、本発明の脂質ヒスチジンは、弱酸性領域からアルカリ性領域、特に中性条件下でも安定にゲルを形成するゲル化剤としての働きを示し、さらに脂質部を選択することにより、各種溶液に対してゲル化剤として働くことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明による脂質ヒスチジンからなるゲル化剤、ファイバー並びにそれから得られるゲルは、弱酸性領域からアルカリ性領域に亘る広い液性において、特に中性条件下でも安定にゲル構造を保つことができ、更にアルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール及びこれらと水との混合溶媒をもゲル化し、生体適合性が非常に高いことから、各種機能性材料としての用途に好適である。
例えば、上述の広い液性に適する観点から、洗浄剤(医療用、生活用、工業用等)、ゾル・ゲル化剤(化粧品、その他日用品用途)、色素安定用途のゲル化剤、食品用添加剤(酸性食品、アルカリ性食品、中性食品等)などの用途に好適である。
また、中性領域においては細胞培養基材及び皮膚基材等、生物・生化学向け材料として、酸性領域においては、胃酸調製剤、腸溶性製剤、満腹感による生分解性抗メタボリック剤などの医薬品製剤の基材として、ペクチン等を含有する酸性乳飲料を製造する際の安定剤又は添加剤として、或いはアルカリ土壌の改良用途等に用いることができる。
さらにアルカリ性領域においては、アルカリ性飲料、乳飲料を製造する際に安定剤や添加剤として、各種アルカリ性酵素(アルカリプロテアーゼ、アルカリセラーゼ、アルカリアミラーゼ、アルカリキシラーゼ、アルカリぺクチン酸リアーゼ等)を用いた触媒反応向け用途として、好アルカリ性菌の産業利用に置いて、アルカリ電池等に用いるゲル化剤として、酸性土壌の改良剤用途として、その他バイオリアクター、洗剤・石鹸、化粧品、創薬、分析検査等、各種産業に利用における基材、反応添加剤、促進剤として用いることができる。
また、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール及びこれらと水との混合溶媒に関しては、化粧品用基基材、医薬部外品用基材、医薬外用剤、インク、塗料などにも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、R1は炭素原子数9乃至19の飽和脂肪族基又は1個の不飽和結合を持つ脂肪族
基を表し、ヒスチジン部はL又Rいずれかの光学活性を表す。)で表される脂質ヒスチジン又はその薬学的に使用可能な塩からなることを特徴とするゲル化剤。
【請求項2】
前記式(1)中、R1が炭素原子数11乃至は17の飽和脂肪族基又は1つの不飽和結
合を持つ脂肪族基であることを特徴とする請求項1に記載のゲル化剤。
【請求項3】
前記式(1)中、R1が炭素原子数11乃至は17の飽和脂肪族基であることを特徴と
する請求項2に記載のゲル化剤。
【請求項4】
前記式(1)中、ヒスチジン部がL体であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のゲル化剤。
【請求項5】
さらに式(2)
【化2】

(式中、R2は炭素原子数9乃至19の脂肪族基を表し、mは1乃至4の数である。)で
表される脂質ペプチド又はその薬理学的に使用可能な塩を含む請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のゲル化剤。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のゲル化剤が自己集合化して形成されるファイバー。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のゲル化剤に界面活性剤を混合することにより、自己集合化して形成されるファイバー。
【請求項8】
前記界面活性剤がアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤で
ある請求項7に記載のファイバー。
【請求項9】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のゲル化剤が低分子化合物を吸着又は包接して自己集合化することにより形成されるファイバー。
【請求項10】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のゲル化剤及び溶媒を含有することを特徴とするゲル。
【請求項11】
請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のファイバー及び溶媒を含有することを特徴とするゲル。
【請求項12】
前記溶媒が、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸エステル、グリセライド、又は、アルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、脂肪酸、高級脂肪酸エステル若しくはグリセライドのいずれかと水との混合溶媒である請求項10又は請求項11に記載のゲル。
【請求項13】
前記溶媒が、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液、疎水性有機溶液、高級アルコール、又は、アルコール、親水性有機溶液、疎水性有機溶液若しくは高級アルコールのいずれかと水との混合溶媒である請求項12に記載のゲル。
【請求項14】
前記アルコール溶液がメタノール、エタノール、2−プロパノール及びi−ブタノールからなる群から選択される少なくとも1種のアルコールの溶液である、請求項12に記載のゲル。
【請求項15】
前記親水性有機溶液が、アセトン、ジオキサン、N−メチルピロリドン及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の親水性有機溶媒の溶液である、請求項12に記載のゲル。
【請求項16】
前記多価アルコールが、グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールである、請求項15に記載のゲル。
【請求項17】
前記疎水性有機溶液が、流動パラフィン、ミネラルオイル、水添ポリイソブテン及びオリーブ油からなる群から選択される少なくとも1種の疎水性有機溶媒の溶液である、請求項12に記載のゲル。
【請求項18】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のゲル化剤及び水を含有することを特徴とするヒドロゲル。
【請求項19】
請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のファイバー及び水を含有することを特徴とするヒドロゲル。
【請求項20】
前記水は、さらに無機塩及び有機塩からなる群から選ばれた1種以上の塩を含有することを特徴とする請求項18又は請求項19に記載のヒドロゲル。
【請求項21】
前記無機塩が炭酸塩、無機硫酸塩及び無機リン酸塩であり、前記有機塩が有機アミン塩酸塩及び有機アミン酢酸塩であり、該無機塩及び有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種の塩を含有することを特徴とする請求項20に記載のヒドロゲル。
【請求項22】
前記無機塩が炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸
カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムであり、前記有機塩がエチレンジアミン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩及びトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩であり、該無機塩及び有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種の塩を含有することを特徴とする請求項20に記載のヒドロゲル。
【請求項23】
さらに、防腐剤を含有することを特徴とする請求項10乃至請求項17のいずれか1項に記載のゲル。
【請求項24】
さらに、防腐剤を含有することを特徴とする請求項18乃至請求項22のいずれか1項に記載のヒドロゲル。
【請求項25】
前記防腐剤がフェノキシエタノール、メチルパラベン又はこれら双方である請求項23に記載のゲル。
【請求項26】
前記防腐剤がフェノキシエタノール、メチルパラベン又はこれら双方である請求項24に記載のヒドロゲル。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−57620(P2011−57620A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209381(P2009−209381)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】