説明

脳内β−エンドルフィン産生促進剤

【課題】調合香料、調味料、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、又は繊維に配合することができる、新たな脳内β-エンドルフィン産生促進剤の提供。
【解決手段】下記式(I)で表されるフェノール誘導体を含む脳内β-エンドルフィン産生促進剤。


式(I)中、RはHO-又はCH3O-であり、R及びRはそれぞれ独立にH-、HO-及びCH3O-からなる群より選ばれた基(但し、R及びRの少なくとも一方はCH3O-である)であり、RはH-、CH3O-、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルケニル基からなる群より選ばれた基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳内β-エンドルフィン産生促進剤に関する。更に詳しくは、特定の化合物を有効成分とする脳内β-エンドルフィン産生促進剤、および、該脳内β-エンドルフィン産生促進剤を含有する製品に関する。
【背景技術】
【0002】
β−エンドルフィンは、モルヒネと同様の作用を示す内因性オピオイドであり、鎮痛作用や抗ストレス作用を有することから脳内麻薬とも呼ばれており、脳下垂体中葉、後葉に多く含まれ、ストレスなどの侵害要因によって血中にも分泌されることが知られている。更に、β−エンドルフィンは、皮膚中にも存在することが明らかにされており、ケラチノサイトの増殖促進、線維芽細胞の増殖促進をすることが知られている。また、皮膚をはじめとして、筋肉、神経、血中などの体内組織や器官のβ−エンドルフィンの量を増加させることで、抗炎症効果、スリミング効果、保湿効果、皮膚の障壁機能の増強効果等様々なβ−エンドルフィンによる効果について報告されている。
【0003】
例えば特開2005−213152号公報では、バラの水性抽出成分であるローズウォーターが、特開2005−179291号公報では、テルミナリア、セイヨウオトギリソウ、トウキンセンカ、ジャイアントケルプより選ばれる1種又は2種以上の抽出物が、それぞれ皮膚におけるβ−エンドルフィンの産生を促進することにより、皮膚にリラックス効果を与えるとともに、ストレスに起因する種々の皮膚症状、特に細胞賦活作用や美白作用に基づく皮膚症状の予防や改善を図ることが開示されている。また、特開2007−63135号公報では、β−エンドルフィン産生促進作用をもつキク科 ヘリクリスムイタリクム(Helichrysum italicum)、セリ科 クリスマムマリチマム(Crithmum maritimum)、シソ科 フランスラベンダー(Lavandula stoechas)、ハンニチバナ科 シスツスモンスペリエンシス(Cistus monspeliensis)、及びマメ科 ウレックス ユーロパエウス(Ulex europaeus)の植物抽出物が、筋肉の過剰な収縮を抑制して疲労回復することで肩こり、首痛、腰痛等の筋肉疲労の諸症状を改善すること、並びに、該植物抽出物を用いた筋肉疲労改善剤及び外用剤が開示されている。
【0004】
しかし、上掲特開2005−213152号公報および特開2005−179291号公報では、ヒト表皮細胞におけるβ−エンドルフィンの産生促進しか検証されておらず、これによる皮膚症状に対する改善について記載されているに過ぎず、脳内におけるβ−エンドルフィンの産生促進については何ら記載されていない。また、特開2007−63135号公報では、上記植物抽出物がβ−エンドルフィン産生促進作用を有すると記載されているが、β−エンドルフィン産生促進作用を示す具体的検証はなされていない。
【0005】
一方、本発明者は、特開2009−29761号公報で、リナロール、l−α−テルピネオール、ネロリドール、l−メントール、ベンジルアセテート、サンタロールおよびムスコンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が脳内β−エンドルフィンの濃度を高め、その産生を促進させることを報告している。また、本発明者は、1,3,5−トリメトキシベンゼンが脳内β−エンドルフィンの濃度を増加させることも報告している(三原智,フレグランスジャーナル,38(4),43-50(2010))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−213152号公報
【特許文献2】特開2005−179291号公報
【特許文献3】特開2007−63135号公報
【特許文献4】特開2009−29761号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】三原智,フレグランスジャーナル,38(4),43-50(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来とは異なる脳内β−エンドルフィン産生物質を見出すことにより、新たな脳内β-エンドルフィン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、鰹だしの香気成分に着目して鋭意検討した結果、特定の香気成分が脳内β−エンドルフィンの濃度を高め、その産生を促進させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、下記式(I)で表されるフェノール誘導体を含む脳内β-エンドルフィン産生促進剤が提供される。
【化1】

【0011】
式(I)中、RはHO-又はCH3O-であり、R及びRはそれぞれ独立にH-, HO-及びCH3O-からなる群より選ばれた基(但し、R及びRの少なくとも一方はCH3O-である)であり、RはH-、CH3O-、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルケニル基からなる群より選ばれた基である。
【0012】
有効成分として用いられる前記式(I)で表される化合物は、通常、芳香を有し、香料として使用できる成分であり、したがって、前記脳内β-エンドルフィン産生促進剤は、各種調合香料及び調味料の香料素材として使用できる他、各種の製品に脳内β−エンドルフィン産生促進作用を付与するために使用することができる。その際、他の香料と併用することにより、各種の芳香を備えた製品を提供することができる。また、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤(シャンプー、リンス、洗剤等)、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、又は繊維などの各種製品に前記脳内β-エンドルフィン産生促進剤を配合することにより、脳内β−エンドルフィン産生促進作用を付与することができる。これらの場合、上記式(I)で表される化合物が、脳内β−エンドルフィン産生促進作用を発揮させるに十分な量だけ配合されればよい。
【0013】
したがって、本発明の他の局面によれば、上記脳内β-エンドルフィン産生促進剤を含有する調合香料、調味料、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、又は繊維が提供される。
【0014】
また、本発明のさらに他の局面によれば、上記脳内β-エンドルフィン産生促進剤を、調合香料、調味料、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、又は繊維に配合することをからなる、脳内β−エンドルフィン産生促進作用を備えた製品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脳内β−エンドルフィンの濃度を高める化合物を見出したので、優れた脳内β−エンドルフィン産生促進効果を発揮する組成物を得ることができ、また、該化合物は芳香を有することから、脳内β−エンドルフィン産生促進効果を有する各種調合香料及び調味料の製造に使用することができ、また、各種製品に脳内β−エンドルフィン産生促進機能を付与するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は実施例1で用いた暴露容器の底面図、(b)は該容器の一側面図、(c)は該容器の上面図である。
【図2】実施例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の脳内β-エンドルフィン産生促進剤において有効成分として用いられる化合物は、上記式(I)で表わされるフェノール誘導体である。
【0018】
式(I)において、RはHO-又はCH3O-である。式(I)のRがHO-であるフェノール類は、生体中で容易にO-メチル化されてRがCH3O-の化合物に変換されることが知られている(FFI Journal, 209(3), 260-266(2004)参照)。したがって、式(I)のRがHO-のフェノール類と同様に、式(I)のRがCH3O-のフェノール誘導体も、脳内β−エンドルフィン産生促進効果を発揮する。
【0019】
及びRは、それぞれ独立に、H-、HO-及びCH3O-からなる群より選ばれた基(但し、R及びRの少なくとも一方はCH3O-である)であり、好ましくは、R及びRは、H-及びCH3O-からなる群より選ばれた基(但し、R及びRの少なくとも一方はCH3O-である)であり、より好ましくは、R及びRは、両方ともCH3O-である。
【0020】
Rは、H-、CH3O-、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルケニル基からなる群より選ばれた基である。好ましくは、Rは、H-、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルケニル基からなる群より選ばれた基である。
炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、CH3-、C2H5-、n-C3H7-、iso-C3H7- 、n-C4H9-、iso-C4H9-、sec-C4H9-及びtert-C4H9-が挙げられるが、好ましくは、CH3-、C2H5-、n-C3H7-及びiso-C3H7-である。
炭素数1〜4のアルケニル基としては、例えば、CH2=CH-、CH2=CH-CH2-、CH3-CH=CH-、CH2=CH-C2H4-、CH3-CH=CH-CH2-及びC2H5-CH=CH-が挙げられるが、好ましくは、CH2=CH-、CH2=CH-CH2-及びCH3-CH=CH-である。
【0021】
一般に、脳内のβ−エンドルフィン濃度増加率は分子量の高い化合物ほど高くなる傾向が見られることから、式(I)の化合物の分子量は、120以上が好ましいと考えられ、130以上がより好ましいと考えられ、150以上が特に好ましいと考えられる。式(I)の化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記式(I-1)乃至(I-9)のメトキシフェノール誘導体が挙げられ、より好ましい具体例としては、下記式(I-1)乃至(I-8)のメトキシフェノール誘導体が挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
【化9】

【0031】
上記式(I)で示される各種化合物は、それぞれ、合成されたものまたは鰹節等の天然物から精製したもののいずれであってもよい。これらの有効成分は、単独で使用してもよく、または、任意の2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
特に、上記式(I-1)〜(I-9)で示される化合物は、鰹だしの香気成分に多く含まれるフェノール誘導体であり、脳内β−エンドルフィン濃度の増加に寄与する成分と考えられる。したがって、上記式(I-1)〜(I-9)で示される化合物を単独で又は組み合わせて使用することにより、脳内のβ−エンドルフィン濃度を増加させる作用とともに、鰹だしの風味の報酬効果(執着行動、強化効果)をも再構成した調合香料、調味料、加工食品、飲料等を提供することも可能と考えられる。この場合、上記式(I-1)〜(I-9)で示される化合物と、イノシン酸やグルタミン酸などのうま味成分やアラニン、グリシン、リジンなどのアミノ酸とを併用することによって、より一層鰹だしに近い風味を再構成することができるものと考えられる。
【0033】
また、上記式(I-1)〜(I-9)で示される化合物に、交感神経を抑制しリラックス効果を発揮する香気成分を混合すると、脳内β−エンドルフィンの産生をより促進できると考えらえる。そのようなリラックス効果を発揮する香気成分として、鰹節香気成分中に含まれる1,3,5−トリメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンなどが挙げられる。また、上記式(I-1)〜(I-9)で示される化合物に、特開2009−29761号公報に開示されるリナロール、l−α−テルピネオール、ネロリドール、l−メントール、ベンジルアセテート、サンタロール、ムスコンなどの脳内β−エンドルフィン産生促進化合物を混合すると、本発明の脳内β-エンドルフィン産生促進剤のβ-エンドルフィン産生促進作用を増強することもできる。
【0034】
本発明の脳内β−エンドルフィン産生促進剤は、上記成分以外の他の成分を配合した組成物として構成されてもよい。かかる他の成分は、必要に応じて適宜配合することができ、具体例としては、医薬品,医薬部外品,皮膚化粧料、洗浄剤(シャンプー、リンス、洗剤等)、芳香剤、消臭剤などに配合される油性成分、防腐剤、酸化防止剤、保湿剤、保留剤、粉体、染料、顔料、乳化剤、可溶化剤、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、溶剤、他のβ−エンドルフィン産生促進作用を有する成分等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベートポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレンアルキルエーテル等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホン酸塩等が挙げられる。溶剤としては、エチルアルコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、3−メチル−3−メトキシブタノール、ポリエチレングリコール、トリエチルシトレート、トリグリセライド、パラフィン、イソパラフィン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。ただし、上記他の成分は、上記例示のものに限定されるものではない。
【0035】
得られた脳内β−エンドルフィン産生促進剤は、それ自体を単独で用いても良く、または、調合香料や調味料にその一素材として配合してもよい。
当該脳内β−エンドルフィン産生促進剤、または、当該脳内β−エンドルフィン産生促進組剤を含有する調合香料または調味料は、各種製品に配合してその製造に用いることができる。かかる製品としては、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤(シャンプー、リンス、洗剤等)、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、繊維等が挙げられる。
【0036】
本発明の脳内β-エンドルフィン産生促進剤を含有する製品が医薬品である場合は、種々の投与形態の製剤とすることができる。すなわち、経口的投与の場合に、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、粒剤もしくは丸剤等の固形製剤や、溶液、エマルジョンもしくはサスペンジョンなどの液剤の形態等で投与することができる。これらの製剤の調製にあたっては製剤化のために許容される添加剤、例えば賦形剤、安定剤、防腐剤、潤滑剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、張度調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤等を併用して製剤化することが出来る。
【0037】
本発明の脳内β-エンドルフィン産生促進剤を含有する製品が加工食品及び飲料である場合は、一般的な加工食品及び飲料の形態であるクリーム、マーガリン、清涼飲料、ドリンク剤、栄養飲料、乳製品、豆乳、発酵豆乳、大豆蛋白飲料、豆腐、納豆、油揚げ、厚揚げ、がんもどき、ハンバーグ、ミートボール、唐揚げ、ナゲット、各種総菜、焼き菓子、シリアル、飴、ガム等の菓子類、タブレット、パン類、米飯類などのように、様々な形態に調製することができる。さらに、本発明の脳内β-エンドルフィン産生促進剤を、健康用途の飲食品(特定保健用食品、特別用途食品等)中に含有させることもできる。
【0038】
本発明の脳内β−エンドルフィン産生促進剤を調合香料、調味料、又は各種製品に配合する場合、その配合量は、上記式(I)で示される化合物が脳内β−エンドルフィンを増加させるに十分な量だけ配合される量であればよい。脳内β−エンドルフィンを増加させるに十分な量は、通常、全体の“におい成分”中における上記式(I)で示される化合物の量と脳内β−エンドルフィンの産生を低減させる “におい成分”の量とのバランスで定まると考えられる。
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
下記(1)乃至(3)の手順に従い、脳内β−エンドルフィン産生促進剤の暴露によるラットの脳内β−エンドルフィン濃度変化について確認実験を行った。
(1)暴露実験
脳内β−エンドルフィン濃度を測定するための実験動物として、生後5週齢のF344系雄性ラット(日本クレア社製)を準備(1群:5匹)し、各群のラットに対して上記式(I-1)で示される2,6−ジメトキシフェノール(分子量154)について暴露実験を実施した。
【0041】
ラットに対する2,6−ジメトキシフェノールの暴露は下記の専用の装置(以下、暴露容器という。)を用いて行った。
・暴露容器
図1に示すように、23cm四方のアクリル樹脂製の透明板を5枚用い、4つの側壁と1つの開閉可能な上蓋とを備え、底部に直径3.0mmの銅パイプを10mmの間隔を空けて配置して開放系とした透明な容器を作成し、容器の上蓋内面及び側壁内面の計5面に幅2cm,長さ23cmの濾紙を底面から15cmの高さ(上蓋は対角線上)に貼り付けた。
【0042】
2,6−ジメトキシフェノールによる暴露は、当該ケージに5匹のラットを暴露容器内に配置し、当該容器の各濾紙に1枚あたり0.5mlの2,6−ジメトキシフェノールのエタノール溶液を塗布することで行った。一回当たりの、2,6−ジメトキシフェノールの塗布量は、0.2〜2.5mgとなるように溶剤のエタノールの量によって調整した。暴露開始から20分間隔で上蓋を開放し、うちわで風を送ることにより容器内部の空気を置換した。暴露実験中は絶食とし、水道水を満たしたプラスチック製シャーレをケージ内に置き、水分のみはラットが自由に摂取できるようにした。また、暴露開始から120分間隔で暴露容器内の各濾紙に1枚あたり0.5mlの上記エタノール溶液を再塗布した。また、暴露中はケージを流しに設置して、常に少量の水道水でケージ底面の糞尿を洗い流した。なお、2,6−ジメトキシフェノール及びエタノールの比重は空気の比重よりも高いので、底面から流出する。
【0043】
実験期間は、1日10時間(即ち、上記エタノール溶液を1日5回塗布)で、7日間(合計70時間; 図2:○印)、もしくは、14日間(合計140時間; 図2:●印)とした。
【0044】
(2)β−エンドルフィンの測定
2,6−ジメトキシフェノールによる暴露実験終了後、直ちに各群のラットを苦痛を与えずに断頭により屠殺し、脳から視床下部組織を摘出して秤量後、4倍量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate buffered saline)に浸漬してテフロン(登録商標)ホモゲナイザーで当該組織を破壊した。次に、この破壊物を15,000rpmで15分間遠心分離を行い、上清を分離採取し、β−エンドルフィン濃度測定サンプルとした。
【0045】
サンプル中のβ−エンドルフィン量はELISA法によって測定し、同時にタンパク量をBradford法により測定し、タンパク1mgあたりのβ−エンドルフィン濃度を算出し、2,6−ジメトキシフェノールの一回当たりの塗布量との関係を図2に示した。
【0046】
図2より、0.5mg/回の2,6−ジメトキシフェノールを塗布した場合、ラット視床下部β−エンドルフィン濃度が1.4倍(図2:○印)、14日間では1.7倍(図2:●印)と"におい"を嗅ぐ期間が長くなると増加割合がより大きくなることが認められた。したがって、2,6−ジメトキシフェノールは、フェノール類の香りとして初めて脳内のβ−エンドルフィン濃度を増加させることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の脳内β−エンドルフィン産生促進剤は、調合香料の他、調味料、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、又は繊維などの各種製品に脳内β−エンドルフィン産生促進作用を付与するのに利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 透明板
2 濾紙
3 銅パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるフェノール誘導体を含む脳内β-エンドルフィン産生促進剤。
【化1】


式(I)中、RはHO-又はCH3O-であり、R及びRはそれぞれ独立にH-、HO-及びCH3O-からなる群より選ばれた基(但し、R及びRの少なくとも一方はCH3O-である)であり、RはH-、CH3O-、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルケニル基からなる群より選ばれた基である。
【請求項2】
請求項1記載の脳内β-エンドルフィン産生促進剤を含有する調合香料、調味料、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、又は繊維。
【請求項3】
請求項1記載の脳内β-エンドルフィン産生促進剤を、調合香料、調味料、加工食品、飲料、嗜好品、化粧品、芳香剤、消臭剤、洗浄剤、浴剤、雑貨類、気化吸引用剤、医薬部外品、医薬品、外用組成物、又は繊維に配合することをからなる、脳内β−エンドルフィン産生促進作用を備えた製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219036(P2012−219036A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84118(P2011−84118)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【出願人】(592019213)学校法人昭和大学 (23)
【Fターム(参考)】