説明

腎臓病を処置及び予防するための薬学的組成物

腎臓病を処置及び予防するための薬学的組成物
腎臓病を処置及び予防するための、(a)治療に有効な量の式1または2により表される化合物、またはその、薬学的に許容され得る塩、プロドラッグ、溶媒和化合物または異性体、及び(b)薬学的に許容され得るキャリヤー、希釈剤または添加剤もしくはそれらのいずれかの組合せを含んでなる薬学的組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、腎臓病を処置及び予防するための薬理学的活性を有する薬学的組成物に関する。より詳しくは、本発明は、腎臓病を処置及び予防するための、(a)活性成分として、治療に有効な量の特定のナフトキノン系化合物またはその、薬学的に許容され得る塩、プロドラッグ、溶媒和化合物または異性体、及び(b)薬学的に許容され得るキャリヤー、希釈剤または添加剤もしくはそれらのいずれかの組合せを包含する薬学的組成物に関する。
【発明の背景】
【0002】
腎臓は、生体のホメオスタシスを維持するための重要な器官であり、糸球体濾過及び腎臓管再吸収及び分泌過程を通して尿の形成及び排出を行うが、その際、様々な生理学的機能、例えば体液、電解質及び酸性度の調整、代謝廃物、毒素及び薬物を包含する各種廃物の排出、血圧の制御、及び他の代謝及び内分泌機能、に関与する。
【0003】
腎機能が損なわれると、腎臓及び関連構造の肥大、腎萎縮、体液レベルの変化、電解質の不均衡、代謝性アシドーシス、ガス交換低下、抗感染活性の低下、潜在的尿毒素の蓄積、等を引き起こす。内因性活性剤としてある種の物質、例えばドーパミン、テオフィリン、及びANP、が腎機能を促進することが報告されている。
【0004】
腎臓病は、腎機能低下により引き起こされる医学的状態を意味し、従って、有害薬物及び水分を除去及び制御する能力が失われるために、廃物または排出物の内部蓄積と共に身体の水分過剰状態を伴う。用語「腎臓病」は、広い意味では全ての慢性腎臓病を包含し、狭い意味では、病理学的原因が不明瞭なままであり、体質変化及び糸球体濾過機能の低下により立証される病気を指す。
【0005】
腎臓病は、遺伝性、先天性及び後天性の型に分類できる。
【0006】
遺伝病は、一般的に若年期に臨床的症状を示し、最も頻繁には多発性嚢胞腎臓病(PKD)を、希にAlport症候群、遺伝性腎炎、等を包含する。先天性病気には、尿路閉鎖または尿路感染を引き起こし、腎臓組織を破壊し、最終的に腎不全を引き起こすことがある泌尿生殖器奇形がある。後天的病気には、各種の腎炎があり、糸球体腎炎が最も多い。腎臓病は、全身系の病気、例えば糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、高血圧症、等、によっても引き起こされることがある。腎臓病の他の病原性因子には、尿路結石及び薬物、例えば草薬、鎮痛薬、殺虫剤、等、が挙げられる。
【0007】
過去においては、腎臓病の発生は、主として慢性糸球体炎が原因であった。現在では、糸球体炎に対する治療処置が進歩したが、糖尿病の増加による糖尿病性慢性腎不全が支配的である。さらに、他の医学的症状、例えば狼瘡、高血圧、腎結核、腎結石、多発性嚢胞腎臓病(PKD)及び慢性腎盂腎炎、も腎臓病の発病に寄与している。しかし、問題とする病気の確認が遅過ぎ、腎臓がほとんど機能しなくなった後になるので、発病原因が分からない場合が多い。
【0008】
急性腎不全(ARF)は、腎機能が、体内の窒素系廃物(例えば血液尿素窒素(BUN)及びクレアチニン)の正常なレベルを維持できない点にまで急速に低下することである。
【0009】
慢性腎不全(CRF)は、数ヶ月または数年の期間にわたって腎機能が徐々に、進行的に低下することである。慢性腎不全は、腎機能の進行的な低下による全ての病気に由来し、穏やかな腎機能異常から深刻な腎不全までの広い範囲にわたっている。問題の病気がさらに進行すると、末期腎臓病(ESRD)につながる。慢性腎不全の初期段階に自覚症状が無く、進行が非常に遅いために、腎機能が、正常な腎機能の1/10レベルに低下しても、明らかな症状が現れない。糖尿病及び高血圧が、CRF及びESRDの主要発病原因であることが分かっている(Jacobsen, 2005、Nordfors et al., 2005)。
【0010】
亞急性腎不全(SRF)は、CRFとARFの間の中程度の状態を指す。亞急性腎不全は、ARFの臨床的特徴ならびにCRFの臨床的特徴を示す(Daeschner及びSinger, 1973、Mills et al., 1981、Bal et al., 2000)。
【0011】
糖尿病性ネフロパシー、すなわち糖尿病により引き起こされる腎臓損傷、には、腎臓内部構造、特に糸球体(腎臓メンブラン)の肥大及び硬化(硬化症)が関与することが最も多い。Kimmelstiel-Wilson病は、糖尿病性ネフロパシーの独特な顕微鏡的特徴であり、糸球体の硬化症にガラス質の結節症堆積物が伴う。
【0012】
糸球体は、血液が濾過され、尿が形成される箇所である。糸球体は、選択性メンブランとして作用し、ある種の物質を尿の中に排出し、他の物質を体内に維持する。糖尿病性ネフロパシーが進行するにつれて、破壊される糸球体の数が増加し、腎臓機能低下を引き起こす。濾過が遅くなり、タンパク質、つまりアルブミン、が尿中に漏れることがある。アルブミンは、他の症状が現れる5〜10年前に尿中に出現することがある。
【0013】
糖尿病性ネフロパシーは、究極的にネフローゼ症候群(尿中に過剰のタンパク質が喪失することにより特徴付けられる一群の症状)及び慢性腎不全につながることがある。この異常は進行し続け、タンパク尿を伴う腎不全が現れた後、通常2〜6年以内に末期腎臓病が発現する。
【0014】
糖尿病性ネフロパシーを引き起こすメカニズムは解明されていない。これは、糸球体の基部メンブラン及び組織の構造中にグルコース分子が不適切に取り込まれることにより、引き起こされることがある。高血糖レベルに関連する過剰濾過(hyperfiltration)が、病気発現の別のメカニズムであろう。
【0015】
糖尿病性ネフロパシーは、米国における慢性腎不全及び末期腎臓病の最も一般的な原因である。インスリン依存性糖尿病患者の約40%が最終的に末期腎臓病を発症する。インスリン依存性糖尿病(IDDM)の結果として糖尿病性ネフロパシーを発症した患者の80%が、18年以上この糖尿病をかかえている。非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)患者の少なくとも20%が糖尿病性ネフロパシーを発症するが、病気発症の時間的推移は、IDDMよりはるかに多様である。危険性は、血液グルコースレベルの管理に関連している。グルコースの管理が悪い場合の危険性は、グルコースレベルを良く管理している場合よりも高い。
【0016】
糖尿病性ネフロパシーは、一般的に高血圧、網膜症、及び脈管(血管)変化を包含する他の糖尿病合併症を伴うが、これらの合併症は、ネフロパシーの初期段階では明白ではない場合がある。ネフロパシーは、ネフローゼ症候群または慢性腎不全発症前の多年にわたり存在する場合がある。ネフロパシーは、定期的な尿分析が尿中のタンパク質を示す場合に診断されることが多い。
【0017】
現在、糖尿病性ネフロパシーの処置は、この病気がより進行した段階におけるアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、例えばカプトプリル(商品名Capoten)、の投与を包含する。ACE阻害薬は、この病気が無症状である(すなわち、患者がタンパク尿しか示さない)時は有効ではないので、現在、この病気の早い段階における処置方法はない。
【発明の概要】
【0018】
そこで、本発明は、上記の問題及び他の未解決の技術的問題を解決するためになされたものである。
【0019】
本発明の目的は、(a)活性成分として、腎臓病に対する治療及び予防効果を有する特定のナフトキノン系化合物を治療に有効な量で含む薬学的組成物を提供することである。
【0020】
本発明の一態様により、上記及び他の目的は、腎臓病を処置及び予防するための薬学的組成物であって、(a) 治療に有効な量の、下記の式1及び2により表される化合物から選択された一種以上の化合物、またはその、薬学的に許容され得る塩、プロドラッグ、溶媒和化合物または異性体、及び
(b) 薬学的に許容され得るキャリヤー、希釈剤または添加剤もしくはそれらのいずれかの組合せを含んでなる薬学的組成物を提供することにより達成することができる。
【化1】

式中、
及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、またはC〜C低級アルキルまたはアルコキシであるか、またはR及びRを一つにして、置換された、または置換されていない、飽和化または部分的もしくは完全に不飽和化されていてよい、環状構造を形成することができ、
、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシル、C〜C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、またはC〜C20シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであるか、またはR〜Rの2個を一つにして、飽和化または部分的もしくは完全に不飽和化されていてよい、環状構造を形成することができ、
Xは、C(R)(R’)、N(R”)からなる群から選択され、ここでR、R’、及びR”は、それぞれ独立して、水素またはC〜C低級アルキル、O及びS、好ましくはOまたはSであり、より好ましくはOであり、
YはC、SまたはNであるが、但し、YがSである場合、R及びRは存在せず、Rは水素またはC〜C低級アルキルであり、YがNである場合、Rは存在せず、
nは0または1であるが、但し、nが0である場合、nに隣接する炭素原子は直接結合を介して環状構造を形成する。
【0021】
本発明の薬学的組成物の腎臓病に対する治療効果を研究するために行った実験から、本発明者らは、本発明の薬学的組成物が、急性腎不全(ARF)及び糖尿病性ネフロパシーを誘発させた動物モデルにおける血清クレアチニンレベル及び血液尿素窒素(BUN)レベルを大きく下げ、タンパク尿の排出を減少させることを見出し、それによって、腎臓病に対する有益な治療効果を確認した。
【0022】
従って、本発明の薬学的組成物は、各種腎臓病の治療または予防に使用できる。本発明の背景では、用語「腎臓病」は、あらゆる種類の腎の病気及び異常を包含する広い概念であり、例えば糸球体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、慢性腎不全、急性腎不全、亞急性腎不全、悪性腎硬化症、血栓性細管異常症候群、移植組織拒絶、腎糸球体症、腎肥大症、腎過形成、タンパク尿、造影剤誘発されたネフロパシー、毒素誘発された腎損傷、酸素フリーラジカル仲介されるネフロパシー及び腎炎が挙げられる。急性腎不全または糖尿病性ネフロパシーが好ましい。
【0023】
本開示で使用する用語「薬学的に許容され得る塩」は、投与した生物に重大な刺激を引き起こさず、化合物の生物学的活性及び特性を失わせない化合物の処方物を意味する。薬学的塩の例には、この化合物と、薬学的に許容され得る陰イオンを含む無毒性酸付加塩を形成できる酸、例えば無機酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸及びヨウ化水素酸、有機炭酸、例えば酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸及びサリチル酸、またはスルホン酸、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸、との酸付加塩が挙げられる。具体的には、薬学的に許容され得るカルボン酸塩の例には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウム、との塩、アミノ酸、例えばアルギニン、リシン及びグアニジン、との塩、有機塩基、例えばジシクロヘキシルアミン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリン及びトリエチルアミン、との塩が挙げられる。本発明の化合物は、この分野で良く知られている従来の方法により、それらの塩に転化することができる。
【0024】
ここで使用する用語「プロドラッグ」は、生体内で親薬物に転化される試剤を意味する。プロドラッグは、状況に応じて、親薬物より投与し易いので、有用であることが多い。プロドラッグは、例えば経口投与により、生物が利用可能にすることができるが、親薬物は利用できない場合がある。プロドラッグは、薬学的組成物に対して、親薬物よりも優れた溶解度を有することもある。プロドラッグの一例として、本発明の化合物をエステル(「プロドラッグ」)として投与することにより、水溶性が移動度にとって決定的である細胞膜を横切り易くなり、次いで、水溶性が有利である細胞の内側に入った後は、代謝により活性成分であるカルボン酸に加水分解されるが、これに限定するものではない。プロドラッグの別の例は、酸性基に結合した短ペプチド(ポリアミノ酸)であり、そこではペプチドが代謝され、活性部分が現れる。
【0025】
そのようなプロドラッグの一例として、本発明の薬学的組成物は、活性成分として下記の式1aにより表されるプロドラッグを包含することができる。
【化2】

式中、
、R、R、R、R、R、R、R、X及びnは、式1に規定した通りである。
【0026】
及びR10は、それぞれ独立して、-SONaまたは下記の式Aにより表される置換基またはその塩であり、
【化3】

式中、
11及びR12は、それぞれ独立して、水素または置換された、または置換されていないC〜C20直鎖状アルキルまたはC〜C20分岐鎖状アルキルであり、
13は、下記の置換基i)〜viii) 、すなわち
i)水素、
ii)置換された、または置換されていないC〜C20直鎖状アルキルまたはC〜C20分岐鎖状アルキル、
iii)置換された、または置換されていないアミン、
iv) 置換された、または置換されていないC〜C10シクロアルキルまたはC〜C10ヘテロシクロアルキル、
v) 置換された、または置換されていないC〜C10アリールまたはC〜C10ヘテロアリール、
vi)-(CRR’-NR”CO)-R14、式中、R、R’及びR”は、それぞれ独立して、水素または置換された、または置換されていないC〜C20直鎖状アルキルまたはC〜C20分岐鎖状アルキルであり、R14は、水素、置換された、または置換されていないアミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリールからなる群から選択され、lは1〜5から選択される、
vii)置換された、または置換されていないカルボキシル、
viii) -OSO-Na
からなる群から選択され、
kは0〜20から選択されるが、但し、kが0である場合、R11及びR12は存在せず、R13は、カルボニル基に直接結合している。
【0027】
ここで使用する用語「溶媒和化合物」は、化学量論的または非化学量論的量の、非共有分子間力により結合した溶剤をさらに包含する、本発明の化合物またはそれらの塩を意味する。好ましい溶剤は、揮発性、無毒性である、及び/または人に投与できる。溶剤が水である場合、その溶媒和化合物は水和物と呼ばれる。
【0028】
ここで使用する用語「異性体」は、同じ化学式または分子式を有するが、光学的または立体的に異なっている本発明の化合物またはそれらの塩を意味する。他に指示が無い限り、用語「式1または2の化合物」は、化合物自体、それらの薬学的に許容され得る塩、プロドラッグ、溶媒和化合物及び異性体を包含する。
【0029】
ここで使用する用語「アルキル」は、脂肪族炭化水素基を意味する。アルキル部分は、「飽和化された」基でよく、これは、アルケンまたはアルキン部分を全く含まないことを意味する。あるいは、アルキル部分は、「不飽和化されたアルキル」部分でもよく、これは、少なくとも一個のアルケンまたはアルキン部分を含むことを意味する。用語「アルケン」部分は、少なくとも2個の炭素原子が少なくとも一個の炭素-炭素二重結合を形成している基を意味し、「アルキン」部分は、少なくとも2個の炭素原子が少なくとも一個の炭素-炭素三重結合を形成している基を意味する。アルキル部分は、置換されている、または置換されていないに関わらず、分岐鎖状、直鎖状または環状でよい。
【0030】
ここで使用する用語「ヘテロシクロアルキル」は、一個以上の環炭素原子が酸素、窒素または硫黄で置換されている炭素環式基を意味し、例えばフラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン及びトリアジンが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0031】
ここで使用する用語「アリール」は、少なくとも一個の、共役パイ(π)電子系を有する環を有する芳香族置換基を意味し、炭素環式アリール(例えばフェニル)及び複素環式アリール(例えばピリジン)基の両方を包含する。この用語は、単環式または縮合環多環式(すなわち隣接する炭素原子対を共有する環)基を包含する。
【0032】
ここで使用する用語「ヘテロアリール」は、少なくとも一個の複素環を含む芳香族基を意味する。
【0033】
アリールまたはヘテロアリールの例には、フェニル、フラン、ピラン、ピリジル、ピリミジル及びトリアジルが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0034】
本発明の式1または2におけるR、R、R、R、R、R、R及びRは、所望により置換されていてよい。置換されている場合、その置換基は、個別に、または独立して、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環式、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、メルカプト、アルキルチオ、アリールチオ、シアノ、ハロゲン、カルボニル、チオカルボニル、O-カルバミル、Nカルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、イソシアナート、チオシアナート、イソチオシアナート、ニトロ、シリル、トリハロメタンスルホニル、及び一または二置換されたアミノを包含するアミノ、及びそれらの保護された誘導体である。さらに、式1aのR11、R12及びR13の置換基も、上記のように置換されていてよく、置換されている場合、上記の置換基のように置換されていてよい。
【0035】
式1の化合物の中で、下記の式3及び4の化合物が好ましい。
【0036】
式3の化合物は、nが0であり、隣接する炭素原子が、それらの間の直接結合を経由して環状構造(フラン環)を形成し、以下、「フラン化合物」または「フラノ-o-ナフトキノン誘導体」と呼ばれることが多い。
【化4】

【0037】
式4の化合物は、nが1の化合物であり、以下、「ピラン化合物」または「ピラノ-o-ナフトキノン」と呼ばれることが多い。
【化5】

【0038】
式1で、R及びRのそれぞれは、特に好ましくは水素である。
【0039】
式3のフラン化合物の中で、式3aの、R、R、及びRが水素である化合物、または式3bの、R、R及びRが水素である化合物が特に好ましい。
【化6】

【0040】
さらに、式4のピラン化合物の中で、式4aの、R、R、R、R、R及びRが水素である化合物、または式4bまたは4cの、R及びRが一つになって、置換されているか、または置換されていない環状構造を形成する化合物が特に好ましい。
【化7】

【0041】
式2の化合物の中で、下記の式2a及び2bの化合物が好ましいが、これらに限定するものではない。
【0042】
式2aの化合物は、nが0であり、隣接する炭素原子が、それらの間の直接結合を経由して環状構造を形成し、YがCである化合物である。
【化8】

【0043】
式2bの化合物は、nが1であり、YがCである化合物である。
【化9】

【0044】
式2aまたは2bの中で、R、R、R、R、R、R、R、R及びXは式2に規定する通りである。
【0045】
前立腺及び/または睾丸(精腺)に関連する病気の処置及び/または予防に対して治療効果を発揮する本発明の効果的な物質は、以下、「活性成分」と呼ぶことが多い。
活性成分の調製
【0046】
本発明の薬学的組成物で、以下に例示する、式1または式2の化合物は、この分野で公知の従来方法及び/または有機化学合成分野で一般的な技術及び方法に基づく様々な製法により、調製することができる。以下に記載する製造方法は、単なる例であって、他の製法も使用できる。従って、本発明の範囲は、下記の製法に限定されるものではない。
【0047】
一般的に、三環式ナフトキノン(ピラノ-o-ナフトキノン及びフラノ-o-ナフトキノン)誘導体は、主として二つの方法により合成することができる。一つは、下記のβ-ラパコン合成スキームのように、3-アリル-2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンを酸触媒条件で使用する環化反応である。
【化10】

【0048】
すなわち、2-アリルオキシ-1,4-ベンゾキノンとスチレンまたは1-ビニルシクロヘキサン誘導体との間のDiels-Alder反応、及び得られた中間体を、空気中に存在する酸素または酸化体、例えばNaIO及びDDQ、を使用して脱水することにより、3-アリルオキシ-1,4-フェナントレンキノンを得ることができる。上記の化合物をさらに再加熱することにより、Claisen転位によりLapachole形態の2-アリル-3-ヒドロキシ-1,4-フェナントレンキノンを合成することができる。
【化11】

【0049】
こうして得られた2-アリル-3-ヒドロキシ-1,4-フェナントレンキノンを、最終的に酸触媒条件で環化にかけ、各種の3,4-フェナントレンキノンを基剤とする、または5,6,7,8-テトラヒドロ-3,4-フェナントレンキノン系化合物を合成することができる。この場合、上記の式中に表される置換基(上記式中R21、R22、R23)の種類に応じて、5または6環の環化が起こり、やはり対応する適切な置換基(下記式中R11、R12、R13、R14、R15、R16)に転化される。
【化12】

【0050】
さらに、3-アリルオキシ-1,4-フェナントレンキノンは、酸(H)またはアルカリ(OH)触媒の条件で、3-オキシ-1,4-フェナントレンキノンに加水分解され、次いでこれが各種のアルキルハライドと反応し、C-アルキル化により、2-アリル-3-ヒドロキシ-1,4-フェナントレンキノンを合成する。こうして得られた2-アリル-3-ヒドロキシ-1,4-フェナントレンキノン誘導体を、酸触媒の条件で、環化にかけ、各種の3,4-フェナントレンキノン系または5,6,7,8-テトラヒドロ-3,4-ナフトキノン系化合物を合成する。この場合、上記の式中に表される置換基(上記式中R21、R22、R23)の種類に応じて、5または6環の環化が起こり、やはり対応する適切な置換基(下記式中R11、R12、R13、R14、R15、R16)に転化される。
【化13】

【0051】
しかし、置換基R11及びR12が同時に水素である化合物は、酸触媒作用による環化によっては得られない。これらの誘導体は、J.K. Snyder et al.(Tetrahedron Letters 28 (1987), 3427-3430)により報告されている方法により、より詳しくは、先ず環化によりフラノベンゾキノンを導入したフラン環を形成し、次いで1-ビニルシクロヘキセン誘導体との環化により三環のフェナントロキノンを形成し、続いて水素付加により還元することにより、得られる。
【化14】

【0052】
上記の合成方法に加えて、本発明の、R11置換基R11及びR12が同時に水素である化合物は、下記の方法により合成することができる。
【0053】
製造方法1は、下記の一般的な化学反応スキームで表すことができる、酸触媒作用で環化することによる活性成分の合成である。
【化15】

【0054】
すなわち、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンを各種の臭化アリル(allylic bromide)またはその等価物と塩基の存在下で反応させ、C-アルキル化生成物及びO-アルキル化生成物が同時に、得られる。反応条件に応じて、2種類の誘導体の一方だけを合成することもできる。O-アルキル化誘導体は、トルエンまたはキシレンのような溶剤を使用してO-アルキル化誘導体を還流することにより、クライゼン(Claisen)転位により、別の種類のC-アルキル化誘導体に転化されるので、各種の3-置換された-2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン誘導体を得ることができる。こうして得られた各種のC-アルキル化誘導体を、触媒として硫酸を使用する環化にかけることにより、これらの化合物の中で、ピラノ-o-ナフトキノンまたはフラノ-o-ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0055】
製造方法2は、3-メチレン-1,2,4-[3H]ナフタレントリオンを使用するDiels-Alder反応である。V. Nair et al, Tetrahedron Lett. 42 (2001), 4549-4551、は、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン及びホルムアルデヒドを一緒に加熱することにより製造される3-メチレン-1,2,4-[3H]ナフタレントリオンを各種のオレフィン化合物と共にDiels-Alder反応にかけることにより、様々なピラノ-o-ナフトキノン誘導体を比較的容易に合成できることを報告している。この方法は、触媒として硫酸を使用する環化の誘発と比較して、様々な形態のピラノ-o-ナフト-キノン誘導体を比較的簡単な様式で合成できるので有利である。
【化16】

【0056】
製造方法3は、ラジカル反応によるハロアルキル化及び環化である。クリプトタンシノン及び15,16-ジヒドロ−タンシノンの合成に使用される方法と同じ方法を、フラノ-o-ナフトキノン誘導体の合成に都合良く使用できる。すなわち、A.C. Baillie et al.(J. Chem. Soc. (C) 1968, 48-52)により開示されているように、3-ハロプロパン酸または4-ハロブタン酸誘導体から誘導された2-ハロエチルまたは3-ハロエチルラジカル化学種を2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンと反応させ、それによって、3-(2-ハロエチルまたは3-ハロプロピル)-2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノンを合成し、次いでこれを、好適な酸性触媒条件下で環化にかけ、各種のピラノ-o-ナフトキノンまたはフラノ-o-ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【化17】

【0057】
製造方法4は、Diels-Alder反応による4,5-ベンゾフランジオンの環化である。クリプトタンシノン及び15,16-ジヒドロ−タンシノンの合成に使用される別の方法は、J.K. Snyder et al.(Tetrahedron Letters 28 (1987), 3427-3430)により報告されている方法でよい。この方法により、4,5-ベンゾフランジオン誘導体と各種のジエン誘導体との間のDiels-Alder反応により、フラノ-o-ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【化18】

【0058】
上記の製造方法に基づき、置換基の種類に応じて、関連する合成方法を使用し、各種の誘導体を合成することができる。
【0059】
本発明の化合物の中で、特に好ましい化合物を下記の表1に示すが、これらに限定するものではない。
[表1]
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【表1−5】

【表1−6】

【表1−7】

【表1−8】

【表1−9】

【表1−10】

【表1−11】

【表1−12】

【0060】
ここで使用する用語「薬学的組成物」は、式1または2の化合物と他の化学成分、例えば希釈剤またはキャリヤー、の混合物を意味する。
【0061】
薬学的組成物により、化合物を生物に投与し易くなる。この分野では、様々な投与技術が公知であり、経口、注入、エーロゾル、非経口、及び局所投与が挙げられるが、これらに限定するものではない。薬学的組成物は、問題とする化合物を酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、等と反応させることにより、得ることができる。有効成分、つまり再狭窄の処置及び予防に治療的に有効な成分は、上記式の全ての化合物、以下に「活性成分」と呼ぶ、を包含する。
【0062】
用語「治療的に有効な量」は、その化合物を投与した時に、活性成分の、処置を必要とする病気の一種以上の症状をある程度緩和または軽減するか、または予防を必要とする病気の臨床的マーカーまたは症状の開始を遅延させるのに有効な量を意味する。従って、治療的に有効な量は、活性成分の、(i)病気の進行速度を逆転させる、(ii)病気のさらなる進行をある程度抑制する、及び/または(iii)病気に関連する一種以上の症状をある程度緩和する(または、好ましくは、無くす)効果を発揮する量を意味する。治療的に有効な量は、処置を必要とする病気に対する公知の生体内及びインビトロモデル系で、問題とする化合物で実験することにより、経験的に決定することができる。
【0063】
本発明の薬学的組成物では、活性成分として、式1または2の化合物を、以下に説明するように、この分野で公知の従来方法及び/または有機化学合成分野で一般的な技術及び方法に基づく様々な製法により、調製することができる。
【0064】
本発明の薬学的組成物は、それ自体公知の様式で、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖剤製造、粉末化(levigation)、乳化、カプセル封入、エントラッピングまたは凍結乾燥製法により製造することができる。
【0065】
従って、本発明により使用する薬学的組成物は、薬学的に許容され得るキャリヤー、希釈剤または添加剤、またはそれらの組合せをさらに含んでなることができる。薬学的組成物は、活性化合物を薬学的に使用できる製剤に加工し易くする添加剤及び補助成分を含んでなる一種以上の薬学的に許容され得るキャリヤーを使用する、従来の様式で処方することができる。薬学的組成物により、化合物を生物に投与し易くなる。
【0066】
用語「キャリヤー」は、化合物を細胞または組織中に取り入れ易くする化学的化合物を意味する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、多くの有機化合物を生物の細胞または組織中に吸収し易くするので、一般的に使用されるキャリヤーである。
【0067】
用語「希釈剤」は、問題とする化合物を溶解させる、ならびに化合物の生物学的に活性な形態を安定化させる、水に希釈された化学的化合物を定義する。この分野では、緩衝された溶液中に溶解した塩を希釈剤として使用する。リン酸塩緩衝された食塩水(PBS)は、人間の体液イオン強度条件を模擬するので、一般的に使用される緩衝剤溶液である。緩衝塩は、溶液のpHを低濃度で調整できるので、緩衝希釈剤は、化合物の生物学的活性をほとんど変化させない。
【0068】
本明細書に記載する化合物は、それ自体で、または化合物が、組合せ治療におけるように他の活性成分と、あるいは好適なキャリヤーまたは添加剤と混合されている薬学的組成物の形態で投与することができる。適切な処方は、選択された投与経路によって異なる。化合物を処方及び投与するための技術は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co., Easton, PA, 18th edition, 1990に記載されている。
【0069】
活性成分を身体中に投与するための薬学的処方物に関連する様々な技術は、この分野では公知であり、経口、注入、エーロゾル、非経口、及び局所投与が挙げられるが、これらに限定するものではない。必要であれば、処方物は、問題とする化合物を酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、等と反応させることにより、得ることもできる。
【0070】
薬学的処方は、この分野で公知の従来方法により行うことができる。好ましくは、薬学的処方物は、経口、外部、経皮、経粘膜及び注入処方物であり、経口処方物が特に好ましい。
【0071】
一方、注入には、本発明の試剤を水溶液、好ましくは生理学的に相容性がある緩衝液、例えばHanks溶液、Ringer溶液、または生理学的食塩水中に処方することができる。経粘膜投与には、透過させるバリヤーに対して適切な浸透剤を処方物に使用する。そのような浸透剤は、一般的にこの分野で公知である。
【0072】
本発明の薬学的組成物は、特に好ましくは、腸を標的(対象)とする処方物に調製された経口薬学的組成物でよい。
【0073】
一般的に、経口薬学的組成物は、経口投与により胃を通過し、小腸により大部分吸収され、次いで身体の全ての組織に拡散し、それによって、標的組織に対して治療効果を発揮する。
【0074】
これに関して、本発明の経口薬学的組成物は、式1または式2活性成分の化合物の生物吸収及び生物学的利用能を、活性成分の腸を標的とする処方により強化する。より詳しくは、本発明の薬学的組成物中の活性成分が主として胃及び小腸上部で吸収される場合、身体中に吸収された活性成分は肝臓代謝を直接受け、肝臓代謝には活性成分のかなりの分解が伴うので、望ましいレベルの治療効果を発揮することは不可能である。他方、活性成分が、下側小腸のあたり及び下流で大部分吸収される場合、吸収された活性成分はリンパ管を経由して標的組織に移動し、それによって、高い治療効果を発揮する。
【0075】
さらに、本発明の薬学的組成物が、消化過程の最終目的地である結腸までを標的にするように構築されるので、薬物の生体内保持時間を増加することができ、薬物を体内に投与した後の身体代謝のために起こることがある薬物の分解を最小に抑えることができる。その結果、薬物の薬物動態学的特性を改良し、病気の処置に必要な活性成分の臨界有効量を大幅に下げ、痕跡量の活性成分を投与しても所望の治療効果を得ることができる。さらに、経口薬学的組成物では、胃内pH変動及び食物吸収パターンにより引き起こされることがある、個人間の、及び個人内の、生物学的利用能の個別変動を低減することにより、薬物の吸収変動を最小に抑えることができる。
【0076】
従って、本発明の腸を標的とする処方物は、活性成分が小及び大腸で、より好ましくは空腸、及び下側小腸に対応する回腸及び結腸で、特に好ましくは回腸または結腸で、大部分が吸収されるように製造する。
【0077】
腸を標的とする処方物は、様々な方法を通して、消化管の多くの生理学的パラメータを活用することにより、設計することができる。本発明の好ましい一実施態様では、腸を標的とする処方物を、(1)pHに敏感な重合体を基材とする処方方法、(2)腸に特異的な細菌性酵素により分解し得る生物分解性重合体を基材とする処方方法、(3)腸に特異的な細菌性酵素により分解し得る生物分解性マトリックスを基材とする処方方法、または(4)特定の遅延時間の後に薬物を放出できる処方方法、およびそれらのいずれかの組合せにより製造することができる。
【0078】
具体的には、pHに敏感な重合体を使用する、腸を標的とする処方物(1)は、消化管のpH変化に基づく薬物送達系である。胃のpHは1〜3であるのに対し、小及び大腸のpHは、胃のpHと比較して、7以上の値を有する。この事実に基づいて、pHに敏感な重合体を使用して、薬学的組成物を、消化管のpH変動に影響されずに、下側腸部分に確実に到達させることができる。pHに敏感な重合体の例には、メタクリル酸-エチルアクリレート共重合体(Eudragit、Rohm Pharm GmbHの登録商標)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)およびそれらの混合物からなる群から選択された少なくとも一種が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0079】
好ましくは、pHに敏感な重合体は、被覆方法により加えることができる。例えば、重合体の添加は、重合体を溶剤中に混合して水性塗料懸濁液を形成し、得られた塗料懸濁液を噴霧して塗料皮膜を形成し、その塗料皮膜を乾燥させることにより、行うことができる。
【0080】
腸に特異的な細菌性酵素により分解し得る生物分解性重合体を使用する、腸を標的とする処方(2)は、腸細菌により生産される特異的な酵素の分解能力を活用することに基づく。特異的な酵素の例には、アゾ還元酵素、細菌性ヒドロラーゼグリコシダーゼ、エステラーゼ、ポリサッカリダーゼ、等が挙げられる。
【0081】
標的としてアゾ還元酵素を使用する腸を標的とする処方物を設計しようとする場合、生物分解性重合体は、アゾ芳香族結合を含む重合体、例えばスチレンとヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の共重合体、でよい。この重合体を、活性成分を含む処方物に添加すると、活性成分は、腸細菌、例えばBacteroides fragilis及びEubacterium limosum、により特異的に分泌されるアゾ還元酵素の作用により、この重合体のアゾ基が還元され、腸の中に放出される。
【0082】
標的としてグリコシダーゼ、エステラーゼ、またはポリサッカリダーゼを使用する腸を標的とする処方物を設計しようとする場合、生物分解性重合体は、天然産の多糖またはその置換された誘導体でよい。例えば、生物分解性重合体は、デキストランエステル、ペクチン、アミロース、エチルセルロース及びそれらの薬学的に許容され得る塩からなる群から選択された少なくとも一種でよい。この重合体を活性成分に添加すると、活性成分は、腸細菌、例えばBifidobacteria及びBacteroides spp、により特異的に分泌される各酵素の作用により、重合体が加水分解され、腸の中に放出される。これらの重合体は、天然材料であり、生体内毒性の危険性が低いという利点がある。
【0083】
腸に特異的な細菌性酵素により分解し得る生物分解性マトリックスを使用する、腸を標的とする処方物(3)は、生物分解性重合体が互いに架橋している形態でよく、活性成分または活性成分含有処方物に添加することができる。生物分解性重合体の例には、天然産の重合体、例えばコンドロイチン硫酸、グアーガム、キトサン、ペクチン、等が挙げられる。薬物放出程度は、マトリックスを構成する重合体の架橋度によって変えることができる。
【0084】
天然産重合体に加えて、生物分解性マトリックスは、N-置換されたアクリルアミドを基剤とする合成ヒドロゲルでよい。例えば、N-tert-ブチルアクリルアミドのアクリル酸による架橋または2-ヒドロキシエチルメタクリレートと4-メタクリロイルオキシアゾベンゼンの共重合により合成されるヒドロゲルをマトリックスとして使用することができる。架橋は、例えば上記のようなアゾ結合でよく、処方物は、架橋密度を維持して腸薬物送達に最適な条件を与え、薬物が腸に送達された時に、結合が分解され、腸粘膜と相互作用する形態でよい。
【0085】
さらに、遅延時間後に薬物を経時的に放出する、腸を標的とする処方物(4)は、pH変化に関係無く、予め決められた時間後に活性成分を放出できる機構を使用する薬物送達系である。活性薬物の腸放出を達成するために、処方物は、胃のpH環境に耐性を有するべきであり、活性成分を腸の中に放出する前に、身体から腸に薬物を送達するのに要する時間に対応する5〜6時間の休止状態にあるべきである。時間に特異的な遅延放出処方物は、ポリエチレンオキシドとポリウレタンの共重合から調製されたヒドロゲルの添加により製造することができる。
【0086】
具体的には、遅延放出処方物は、薬物を不溶性の重合体に付けた後、上記の組成を有するヒドロゲルを添加することにより、処方物が、胃及び小腸の上側消化管中にある間に、水を吸収し、次いで膨潤し、次いで小腸の、下側消化管である下側部分に移行し、薬物を放出するように製造することができ、薬物の遅延時間は、ヒドロゲルの長さに応じて決定される。
【0087】
重合体の別の例として、エチルセルロース(EC)を遅延放出処方物に使用することができる。ECは、不溶性の重合体であり、水浸透または蠕動運動による腸の内圧変化による膨潤媒体の膨潤に応答して、薬物放出時間を遅延させるファクターとして役立つ。別の例として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)も、重合体の厚さ制御により特定時間の後に薬物を放出させる遅延剤として使用でき、5〜10時間の遅延時間を有することができる。
【0088】
本発明の経口薬学的組成物では、活性成分が、結晶化度が高い結晶性構造的、または結晶化度が低い結晶性構造的を有することができる。
【0089】
ここで使用する用語「結晶化度」は、結晶性部分の、結晶性化合物全体に対する重量画分として定義され、この分野で公知の従来方法により測定することができる。例えば、結晶化度の測定は、結晶性部分及び無定形部分の各密度に/から、適切な値を加える及び/または差し引くことにより得られる、予め設定された値を前もって仮定することにより結晶化度を計算する、密度方法または沈殿方法、融解熱の測定が関与する方法、X線回折分析によりX線回折強度分布から結晶性回折画分及び非結晶性回折画分を分離することにより結晶化度を計算するX線方法、または赤外線吸収スペクトルの結晶性帯域間の幅のピークから結晶化度を計算する赤外線方法により、行うことができる。
【0090】
本発明の経口薬学的組成物では、活性成分の結晶化度が、好ましくは50%以下である。より好ましくは、活性成分が、材料の固有結晶性が完全に失われた無定形構造を有することができる。無定形化合物は、結晶性化合物と比較して、比較的高い溶解度を示し、薬物の溶解速度および生体内吸収速度を大きく改良することができる。
【0091】
本発明の好ましい一実施態様では、無定形構造を、活性成分を微小粒子または微粒子に調製(活性成分の微小化)する際に形成することができる。微小粒子は、例えば活性成分の噴霧乾燥、重合体を含む活性成分の溶融物形成が関与する融解方法、活性成分を溶剤中に溶解させた後に活性成分と重合体の共沈殿物の形成が関与する共沈殿、封入体(inclusion body)形成、溶剤蒸発、等により製造することができる。噴霧乾燥が好ましい。活性成分が無定形構造を有していない、すなわち、結晶性構造または半結晶性構造を有していても、機械的摩砕により活性成分を微粒子に微小化することにより、粒子の比表面積が大きくなるために、溶解性が改良され、活性成分の溶解速度及び生物吸収性速度が改良される。
【0092】
噴霧乾燥は、活性成分を特定の溶剤に溶解させ、得られた溶液を噴霧して乾燥させることにより、微粒子を製造する方法である。噴霧乾燥工程の際に、ナフトキノン化合物の結晶化度の大半が失われて無定形状態になり、従って、細かい粉末の形態にある噴霧乾燥生成物が得られる。
【0093】
機械的摩砕は、強い物理的な力を活性成分粒子に作用させることにより、活性成分を微粒子に粉砕する方法である。機械的摩砕は、様々な摩砕方法、例えばジェットミリング、ボールミリング、振動ミリング、ハンマーミリング、等、を使用して行うことができる。空気圧を40℃未満の温度で使用して行うことができるジェットミリングが特に好ましい。
【0094】
一方、結晶性構造と関係なく、粒子状活性成分の粒子直径を下げることにより、比表面積が増加するので、溶解速度および溶解度が増加する。しかし、粒子直径が過度に小さくなると、そのようなサイズを有する微粒子を調製するのが困難になり、溶解度の低下を引き起こすことがあるアグロメレーションまたは凝集も起こる。従って、好ましい一実施態様では、活性成分の粒子直径は、5 mm〜500μmでよい。この範囲では、粒子のアグロメレーションまたは凝集を最大限に抑制することができ、粒子の比表面積が高いために、溶解速度および溶解度を最大限にすることができる。
【0095】
好ましくは、界面活性剤をさらに加え、微粒子を形成する際に起こることがある粒子のアグロメレーションまたは凝集を防止する、及び/または帯電防止剤をさらに加え、静電気の発生を防止することができる。
【0096】
必要であれば、摩砕工程の際に吸湿材料をさらに加えるとよい。式1または式2の化合物は、水により結晶化する傾向があるので、吸湿材料を配合することにより、ナフトキノン系化合物が時間と共に再結晶するのを抑制し、微小化により増加した化合物粒子の溶解度を維持することができる。さらに、吸湿材料は、活性成分の治療効果に悪影響を及ぼさずに、薬学的組成物の凝固及び凝集を抑制するのに役立つ。
【0097】
界面活性剤の例には、陰イオン系界面活性剤、例えばドキュセートナトリウム及びラウリル硫酸ナトリウム、陽イオン系界面活性剤、例えばベンズアルコニウムクロライド、ベンズエトニウムクロライド及びセトリミド、非イオン系界面活性剤、例えばグリセリルモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビタンエステル、両親媒性重合体、例えばポリエチレン-ポリプロピレン重合体及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合体(Poloxamer)、及びGelucireTMシリーズ(Gattefosse Corporation, USA)、プロピレングリコールモノカプリレート、オレオイルmacrogol-6-グリセリド、リノレオイルmacrogol-6-グリセリド、カプリロカプロイルmacrogol-8-グリセリド、プロピレングリコールモノラウレート、及びポリグリセリル-6-ジオレエートが挙げられるが、これらに限定するものではない。これらの材料は、単独で、またはいずれかの組合せで、使用することができる。
【0098】
吸湿材料の例には、コロイド状シリカ、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、塩化ナトリウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウム、等、が挙げられるが、これらに限定するものではない。これらの材料は、単独で、またはいずれかの組合せで、使用することができる。
【0099】
上記の吸湿材料の幾つかは、帯電防止剤としても使用できる。
【0100】
界面活性剤、帯電防止剤、及び吸湿材料は、上記の効果を達成できる特定の量で加え、そのような量は、微小化条件に応じて適切に調節できる。好ましくは、添加剤は、活性成分の総重量に対して0.05〜20重量%の範囲で使用することができる。
【0101】
好ましい一実施態様では、本発明の薬学的組成物を経口投与用の製剤に処方する際に、水溶性重合体、可溶化剤及び崩壊促進剤をさらに添加することができる。好ましくは、添加剤及び粒子状活性成分を溶剤中で混合し、混合物を噴霧乾燥することにより、組成物を所望の剤形に処方することができる。
【0102】
水溶性重合体は、ナフトキノン系化合物分子または粒子の周囲に親水性を付与して水溶性を強化することにより、粒子状活性成分の凝集を防止し、好ましくは式1または式2の活性成分化合物の無定形状態を維持するのに役立つ。
【0103】
水溶性重合体は、pHに依存しない重合体であり、個人間の、及び個人内の、胃腸pH変動下でも、活性成分の結晶化度を下げ、親水性を強化することができるのが好ましい。
【0104】
水溶性重合体の好ましい例には、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、及びカルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルフタレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、及びそれを含む重合体、ポリアルケンオキシドまたはポリアルケングリコール、及びそれを含む重合体、からなる群から選択された少なくとも一種が挙げられる。
【0105】
本発明の薬学的組成物では、特定のレベルより高い過剰の水溶性重合体を含有しても、溶解度はそれ以上増加せず、溶離剤に露出された時に水溶性重合体が過度に膨潤するために、処方物の周囲に被膜が形成されることにより、処方物硬度が全体的に増加する、溶離剤が処方物中に浸透しなくなる、などの、様々な不利な問題を引き起こす。従って、可溶化剤は、式1または式2の化合物の物理的特性を修正することにより、処方物の溶解度を最大限にするように添加するのが好ましい。
【0106】
これに関して、可溶化剤は、式1または式2の溶解性が低い化合物の溶解度及び湿潤性を高め、食餌から発生するナフトキノン系化合物の生物学的利用能変動及び食物摂取後の薬物投与の時間差を大幅に低減させることができる。可溶化剤は、従来広く使用されている界面活性剤または両親媒性化合物から選択することができ、可溶化剤の具体例としては、上に規定する界面活性剤を参照するとよい。
【0107】
崩壊促進剤は、薬物放出速度の改良に役立ち、標的箇所で薬物を急速に放出させ、それによって、薬物の生物学的利用能を増加することができる。
【0108】
崩壊促進剤の好ましい例は、クロスカルメロース(Croscarmellose)ナトリウム、吸着剤: クロスポビドン (Crosprovidone)、カルシウムカルボキシメチルセルロース、デンプングリコレートナトリウム及び低級置換されたヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択された少なくとも一種が挙げられるが、これらに限定するものではない。クロスカルメロース(Croscarmellose)ナトリウムが好ましい。
【0109】
上記の様々なファクターを考慮し、活性成分100重量部に対して、水溶性重合体10〜1000重量部、崩壊促進剤1〜30重量部、及び可溶化剤0.1〜20重量部を添加するのが好ましい。
【0110】
必要であれば、上記の成分に加えて、処方物に関して、この分野で公知の他の材料を所望により添加することができる。
【0111】
噴霧乾燥用の溶剤は、噴霧乾燥工程の際に、その物理的特性を変えずに高い溶解度及び容易な揮発性を示す材料である。そのような溶剤の好ましい例には、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノール、及びエタノールが挙げられるが、これらに限定するものではない。これらの材料は、単独で、それらのいずれかの組合せで使用することができる。好ましくは、噴霧溶液中の固体含有量は、噴霧溶液の総重量に対して5〜50重量%の範囲内である。
【0112】
上記の腸を標的とする処方物の製法は、上記のようにして調製した処方物粒子に対して行うのが好ましい。
【0113】
好ましい一実施態様では、本発明の経口薬学的組成物は、下記の工程、すなわち
(a)式1または式2の化合物を単独で、または界面活性剤及び吸湿材料との組合せで加え、式1の化合物をジェットミルで粉砕し、活性成分微小粒子を製造する工程、
(b)活性成分微小粒子を水溶性重合体、可溶化剤及び崩壊促進剤と共に溶剤に溶解させ、得られた溶液を噴霧乾燥させ、処方物粒子を製造する工程、及び
(c)処方物粒子をpHに敏感な重合体及び可塑剤と共に溶剤に溶解させ、得られた溶液を噴霧乾燥させ、処方物粒子上に腸を標的とする被覆を行う工程
を含んでなる製法により処方することができる。
【0114】
界面活性剤、吸湿材料、水溶性重合体、可溶化剤及び崩壊促進剤は、上に規定した通りである。可塑剤は、被覆の硬化を阻止するために加える添加剤であり、例えば重合体、例えばポリエチレングリコール、を包含することができる。
【0115】
あるいは、活性成分の処方物は、工程(b)のビヒクル及び工程(c)の腸を標的とする被覆材料を、工程(a)のジェットミル加工した種としての活性成分粒子上に順次または同時に、噴霧することにより、行うことができる。
【0116】
本発明で使用するのに好適な薬学的組成物は、活性成分がその意図する目的を達成するのに有効な量で含まれる組成物を包含する。より詳しくは、治療的に有効な量とは、化合物の、病気の症状を予防、緩和または改善するか、または処置している患者の延命に有効な量を意味する。治療的に有効な量は、特に本明細書に記載する詳細な開示に基づいて、当業者が十分に決定することができる。
【0117】
本発明の薬学的組成物は、単位剤形に処方し、活性成分として式1または式2の化合物を約0.1〜1,000 mgの単位用量で含むのが好ましい。投与する式1または式2の化合物の量は、担当医師が、処置している患者の体重及び年齢、病気の特徴的な性質及び重大性に応じて決定する。しかし、一般的に成人の処置に必要な投与量は、投与の頻度及び強度に応じて約1〜3000 mg/日である。一般的に、成人に対する筋肉内または静脈内投与には、総投与量として約1〜500 mg/日で十分であるが、患者によっては、より多くの投与量が望ましい場合もあろう。
【0118】
本発明の別の態様により、式1または式2の化合物の、腎臓病の処置及び予防のための医薬の製造における使用を提供する。
【0119】
腎臓病の例には、糸球体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、慢性腎不全、急性腎不全、亞急性腎不全、悪性腎硬化症、血栓性細管異常症候群、移植組織拒絶、腎糸球体症、腎肥大症、腎過形成、タンパク尿、造影剤誘発されたネフロパシー、毒素誘発された腎損傷、酸素フリーラジカル仲介されるネフロパシー及び腎炎が挙げられる。
【0120】
用語「処置」は、式1または式2の化合物またはそれを含んでなる組成物を、病気の症状を示す患者に投与した時の病気の進行を止めるか、または遅延させることを意味する。用語「予防」は、式1または式2の化合物またはそれを含んでなる組成物を、病気の症状を示していないが、病気の症状が発現する危険性が高い患者に投与した時に、病気の症状を止めるか、または遅延させることを意味する。
【0121】
図1は、実験例1により急性腎不全を誘発した動物で測定した血清クレアチニンレベルを示すグラフである。
【0122】
図2は、実験例1により急性腎不全を誘発した動物で測定したBUNレベルを示すグラフである。
【0123】
図3は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定したグリコシル化されたヘモグロビンレベルを示すグラフである。
【0124】
図4は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定した左腎臓重量を示すグラフである。
【0125】
図5は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定した尿アルブミンレベルを示すグラフである。
【0126】
図6は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定した尿タンパク質レベルを示すグラフである。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1は、実験例1により急性腎不全を誘発した動物で測定した血清クレアチニンレベルを示すグラフである。
【図2】図2は、実験例1により急性腎不全を誘発した動物で測定したBUNレベルを示すグラフである。
【図3】図3は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定したグリコシル化されたヘモグロビンレベルを示すグラフである。
【図4】図4は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定した左腎臓重量を示すグラフである。
【図5】図5は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定した尿アルブミンレベルを示すグラフである。
【図6】図6は、実験例2により糖尿病性ネフロパシーを誘発した動物で測定した尿タンパク質レベルを示すグラフである。
【好ましい実施態様の詳細な説明】
【0128】
ここで、下記の例を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。これらの例は、本発明を説明するためにのみ記載するのであり、本発明の範囲及び精神を制限するものではない。
【0129】
本発明の薬学的組成物の治療効果は、下記のように確認される。
材料及び方法
【0130】
1.血清クレアチニンレベルの検定
クレアチンは、筋肉エネルギー代謝の廃物であるクレアチニンに非酵素的に転化される。クレアチニンは、廃棄副生成物であり、従って、腎臓により濾過されるが、再吸収されない。筋肉質量は一般的に一定レベルに維持され、腎臓以外の他の器官にはあまり敏感ではないので、血清クレアチニンレベルは、糸球体濾過速度の良い指標である。クレアチニン濃度が高い程、腎機能のより重大な低下を反映している。例えば、クレアチニンレベルの2倍増加は、糸球体濾過速度の50%低下を示す。
【0131】
2.血液尿素窒素(BUN)レベルの検定
毒性アンモニアの体内蓄積は、タンパク質代謝過程の際にアミノ酸の脱アミノ化によりアンモニアが生成し、次いで肝臓中で尿素に転化される様式で防止される。従って、BUNの測定は、腎臓が正常に機能しているか、否かを試験するための重要な指針である。BUNレベルが正常なレベルを超えると、その患者は急性腎炎、慢性腎炎、前立腺過形成、等が疑われる。BUNレベルが正常値未満に低下すると、その患者は尿崩症、筋ジストロフィー、等が疑われる。
【0132】
3.グリコシル化されたヘモグロビン(HbAlc)の検定
血液グルコースレベルが高くなると、血液中のグルコースが赤血球中のヘモグロビンと部分的に結合し、グリコシル化されたヘモグロビン(HbAlcと呼ばれる)を形成する。グリコシル化されたヘモグロビンが形成されると、対応する赤血球が、HbAlcを、赤血球が破壊されるまでの寿命を全うするまで維持する。高い血中グルコースレベルが長期間にわたって続くと、それに対応して赤血球中のHbAlcのレベルが増加する。HbAlcは、比較的長期間にわたる血中グルコースレベルを反映するので、HbAlcレベルの測定は、過去数ヶ月にわたって糖尿病が治療的にどの程度良く管理されているかを示す有用な指針になり得る。
【0133】
4.尿アルブミン及び尿タンパク質の検定
尿中へのアルブミン排出速度の増加は、糖尿病性ネフロパシーにおいて最も先行する臨床的知見である。従って、尿アルブミンレベルの増加は、腎または肝の病気の指針である。
【0134】
実験例1 本発明の化合物の急性腎不全に対する効果
式1の化合物の中で、7,8-ジヒドロ-2,2-ジメチル-2H-ナフト(2,3-b)ジヒドロピラン-7,8-ジオン(以下、「例1の化合物」と呼ぶ)の、急性腎不全に対する効果を試験した。この目的に、生後6週間の雄のSprague-Dawleyラット、体重200〜220 g(Japan SLC, Inc., 日本国)を下記の表1に示すように2つのグループ、すなわちビヒクル処置した比較グループ及び例1の化合物を受けたグループ、に分けた。動物には試料を経口経路で与えた。2週間の処置が完了した後、急性腎不全をラット中に誘発した。
【0135】
【表2】

【0136】
急性腎不全(ARF)は、下記の手順により誘発した。虚血/還流損傷を、SDラットをケタミンとロンプンの混合物(9:1、kg/mL)で麻酔にかけ、腹部を剃り、開腹し、続いて腎の動脈及び静脈を30分間クリップ結紮して虚血を誘発することにより、起こした。腹部手術の際、ラットの体温を36.0±0.5℃に維持した。30分後、結紮クリップを取り外して還流させ、続いて腹部を縫合した。
【0137】
IR誘発に続いて、それぞれの動物から+1日、+3日及び+5日に、それぞれ血清0.2 mLを試料採取した。クレアチニン及びBUN(血液尿素窒素)レベルを自動生物化学的分析装置(HOTACHI, 7020)で測定した。得られた結果を図1及び2にそれぞれ示す。
【0138】
測定した血清クレアチニンレベルを示す図1に関して、血清中のクレアチニン含有量は、例1の、本発明の化合物を投与したグループ(MB 660)で、比較グループと比較して、大きく減少したことが確認される。そのような血清クレアチニンの減少は、特に還流3日後に最も顕著であった。
【0139】
図2に関して、MB 660グループは、比較グループと比較して、血清BUNの重大な低下も示した。血清BUNレベルの低下は、還流3日後に最も顕著であった。
【0140】
これらの実験結果から分かるように、例1の化合物を投与することにより、糸球体濾過速度が増加し、従って、本発明の化合物が腎臓病に対して優れた治療効果を有することを示唆している。
【0141】
実験例2 本発明の化合物の糖尿病性ネフロパシーに対する効果
生後8週間のZucker糖尿病性脂肪質(ZDF)ラット(Charles River Laboratory)を下記の表2に示すように4グループ、すなわちビヒクル、MB 660(250 mg/kg)、Pair-fed(ペアフィード; 同時飼育)、及びRosi(6 mg/kg)に分けた。試験試料を動物に経口投与した。
【0142】
【表3】

【0143】
糖尿病性ネフロパシーモデルの動物には、低脂肪飼料(11.9 kcal脂肪、5053、Labdiet)を与えた。血液グルコースレベルが300 mg/dlであり、体重(BW)が300 gを超える動物を選択し、試験試料で4及び8週間それぞれ処置した(生後合計12及び16週間)。腎臓病に関連するグリコシル化されたヘモグロビン(HbAlc)、尿アルブミン及び尿タンパク質 (1,000 x 尿アルブミン/尿クレアチニン) の生体内変化を観察した。得られた結果を図3〜6に示す。アルブミンは、免疫混濁度測定検定(immunoturbidimetric assay)を使用して測定し、クレアチニンは、Jaffe速度法を使用して測定した。
【0144】
図3に関して、グリコシル化されたヘモグロビン(HbAlc)の値は、本発明の例1の化合物を投与したグループ(MB 660)で著しく低く、従って、血中グルコース制御が改良されたことが確認される。さらに、図4に示すように、糖尿病性ネフロパシーを誘発したグループ(比較)は左腎臓重量の増加を示したのに対し、 MB 660グループは左腎臓重量の大幅な減少を示した。
【0145】
さらに、尿アルブミンレベル(図5参照)及び1000 x 尿アルブミン/尿クレアチニンにより計算した毎日の尿タンパク質レベル(図6参照)は、ロシグリタゾン(Rosiglitazone:商品名)投与したグループ(Rosi)よりも、MB 660グループの方がより低く、従って、アルブミン尿及びタンパク尿が本発明の化合物の投与に応答して大きく低下したことが分かる。これらの結果から、本発明の例1の化合物は、Rosiglitazoneと比較して、糖尿病性ネフロパシーに対する治療効果が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
上記の説明から明らかなように、本発明の薬学的組成物は、糸球体濾過速度を増加させ、血中グルコースを制御し、タンパク尿を減少させ、それによって、腎臓病、例えば急性腎不全、糖尿病性ネフロパシー、等、の処置及び予防に優れた効果を有する。
【0147】
本発明の好ましい実施態様を例示のために開示したが、当業者には明らかなように、請求項に記載する本発明の範囲及び精神から離れることなく、様々な修正、追加、及び置き換えが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓病を処置及び予防するための薬学的組成物であって、
(a)治療に有効な量の、下記の式(1)及び(2)により表される化合物から選択された一種以上のものを含んでなる、薬学的組成物。
【化1】

[上記式中、
及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、またはC〜C低級アルキルまたはアルコキシであり、又は、R及びRを一つにして、飽和化又は部分的若しくは完全に不飽和化されてよい、置換された、又は置換されていない、環状構造を形成することができるものであり、
、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシル、C〜C20アルキル、アルケンまたはアルコキシ、またはC〜C20シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであるか、又はR〜Rの2個を一つにして、飽和化又は部分的若しくは完全に不飽和化されてよい、環状構造を形成することができるものであり、
Xは、C(R)(R’)、N(R”)からなる群から選択されてなり、ここでR、R’、及びR”は、それぞれ独立して、水素またはC〜C低級アルキル、O及びSであり、
YはC、SまたはNであるが、但し、YがSである場合、R及びRは存在せず、Rは水素またはC〜C低級アルキルであり、YがNである場合、Rは存在しないものであり、
nは0または1であるが、但し、nが0である場合、nに隣接する炭素原子は直接結合を介して環状構造を形成するものである。]
【請求項2】
XがOである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
プロドラッグが、下記の式(1a)により表される化合物である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【化2】

[上記式中、
、R、R、R、R、R、R、R、X及びnは、上記式(1)において定義されたものであり、
及びR10は、それぞれ独立して、-SO-Na又は下記の式Aにより表される置換基またはその塩であり、
【化3】

〔上記式中、
11及びR12は、それぞれ独立して、水素、又は置換された、若しくは置換されていないC〜C20直鎖状アルキルまたはC〜C20分岐鎖状アルキルであり、
13は、下記の置換基i)〜viii) ;
i)水素、
ii)置換された、又は置換されていないC〜C20直鎖状アルキル又はC〜C20分岐鎖状アルキル、
iii)置換された、又は置換されていないアミン、
iv) 置換された、又は置換されていないC〜C10シクロアルキル又はC〜C10ヘテロシクロアルキル、
v) 置換された、又は置換されていないC〜C10アリール又はC〜C10ヘテロアリール、
vi)-(CRR’-NR”CO)-R14
(上記式中、
R、R’及びR”は、それぞれ独立して、水素又は置換された、又は置換されていないC〜C20直鎖状アルキル又はC〜C20分岐鎖状アルキルであり、
14は、水素、置換された、又は置換されていないアミン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリールからなる群から選択され、
lは1〜5から選択されてなるものである。)、
vii)置換された、又は置換されていないカルボキシル、
viii) -OSO-Naからなる群から選択されてなり、
kは0〜20から選択されるが、但し、kが0である場合、R11及びR12は存在せず、R13は、カルボニル基に直接結合しているものである。]
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(3)及び(4)で表される化合物から選択されてなる、請求項1に記載の薬学的組成物。
【化4】

[上記式中、
、R、R、R、R、R、R及びRは、上記式(1)において定義されたものである。]
【請求項5】
及びRのそれぞれが水素である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記式(3)で表される化合物が、R、R、及びRがそれぞれ水素である、下記の式(3a)で表される化合物、又はR、R、及びRがそれぞれ水素である、下記の式(3b)で表される化合物である、請求項4に記載の薬学的組成物。
【化5】

【請求項7】
前記式(4)の化合物が、下記の式(4a)〜(4c)で表される化合物から選択されてなる、請求項4に記載の薬学的組成物。
【化6】

【請求項8】
前記式(2)で表される化合物が、nが0であり、隣接する炭素原子がそれらの間で直接結合を介して環状構造を形成し、YがCである、下記の式(2a)で表される化合物、又は、nが1であり、YがCである、下記式(2b)で表される化合物である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【化7】

[上記式中、
、R、R、R、R、R、R、R及びXは、上記式(1)において定義されたものである。]
【請求項9】
前記(式1)で表される化合物又は前記(式2)で表される化合物が、結晶性構造中に含まれてなる、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記(式1)で表される化合物が、無定形構造中に含まれてなる、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記(式1)で表される化合物又は前記(式2)で表される化合物が、微粒子の形態で処方されてなる、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記微粒子の形態への処方が、機械的摩砕、噴霧乾燥、沈殿方法、均質化、及び超臨界微小化からなる群から選択された粒子微小化方法を使用して行われる、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記処方が、機械的摩砕としてジェットミリング及び/又は噴霧乾燥を使用することにより行われる、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記微粒子の粒子径が、5nm〜500μmである、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記薬学的組成物が、腸を対象とする処方物に調製されてなる、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記腸を対象とする処方が、pHに敏感な重合体の添加により行われる、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記腸を対象とする処方が、腸に特異的な細菌性酵素により分解し得る生物分解性重合体の添加により行われる、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記腸を対象とする処方が、腸に特異的な細菌性酵素により分解し得る生物分解性マトリックスの添加により行われる、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記腸を対象とする処方が、遅延時間の後に薬物が経時的に放出される形態(「時間に特異的な遅延放出処方」)により行われる、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記腎臓病が、糸球体腎炎、糖尿病性ネフロパシー、慢性腎不全、急性腎不全、亞急性腎不全、悪性腎硬化症、血栓性細管異常症候群、移植組織拒絶、腎糸球体症、腎肥大症、腎過形成、タンパク尿、造影剤誘発されたネフロパシー、毒素誘発された腎損傷、酸素フリーラジカル仲介されるネフロパシー及び腎炎からなる群から選択される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の式(1)で表される化合物又は式(2)で表される化合物を使用する、勃起機能障害を処置及び/又は予防するための医薬の製造方法。
【請求項22】
前記腎臓病が、急性腎不全又は糖尿病性ネフロパシーの体系によるものである、請求項21に記載の薬学的組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2011−507949(P2011−507949A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540567(P2010−540567)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007508
【国際公開番号】WO2009/084835
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(509010436)マゼンス インコーポレイテッド (11)
【出願人】(503429401)ケイティ、アンド、ジー、コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】KT & G CORPORATION
【Fターム(参考)】