説明

腐食生成物の化学的溶解方法

【課題】システムから腐食生成物を除去する。
【解決手段】システム温度を46.1℃〜100℃に調整する工程2、システムに洗浄溶解溶剤を注入する工程4、システムを洗浄溶解溶剤で充填した後にシステムにガスを注入し、このガスをシステム内の溶剤と混合する工程6、溶解の所定時間後にシステムから溶剤を排出する工程8、システムに不動態化組成物を注入する工程10、システムにガスを注入し、このガスを不動態化組成物と混合する工程12、不動態化の所定時間後に組成物をシステムから排出する工程14、システムを少量の溶液でリンスする工程16、次いでシステムを完全量の溶液でリンスする工程18、を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食生成物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
原子炉の運転中、システムの配管、タンク、熱交換器など(以後「システム」)内にデブリが蓄積する。この蓄積物としては、スラッジ、スケール、沈着物及び腐食生成物又は他の金属種が挙げられる。これらの沈着物は放射性同位体で汚染されているか又は汚染されていないこともある。これらの沈着物はシステムのコンポーネント又はタンクに有害であり、除去しなければならない。蓄積した物質の除去に適用しうる多くの化学的方法がある。これらの化学的方法は、化学的処方、適用方法論及び効率の点で異なる。蓄積した腐食生成物及びスラッジの溶解及び可動化のために利用されている最先端技術の化学的方法は、処理かつ最終的に処分するのが困難な大量の廃棄物をもたらす。典型的に廃棄物は液体であるが、きわめて濃厚な液体に濃縮されていることがあり、液体状態を保つためにはより高い温度で維持する必要がある。大量の液体廃棄物は処分前処理が必要であり、かつ処分場に輸送しなければならない。液体廃棄物は典型的に州及び/又は米国連邦の処分ガイドラインを満たすために安定化を要するキレート剤及び/又は有機物を含んでおり、処分の困難性と費用を高めている。これらの大量の液体廃棄物の発生は、典型的に国家の規制機関に提出すべき環境上の許可を必要とする。
【0003】
化学薬品を利用してスラッジ、沈着物、スケール、腐食生成物又は他の錯体形成した金属イオンを除去するいくつかの方法がある。腐食生成物除去法としては、化学的酸化還元汚染除去法(Chemical Oxidation Reduction Decontamination)(CORD);低酸化状態金属イオン法(Low Oxidation State Metal Ions)(LOMI);及びCAN-DEREMが挙げられる。スケール又は沈着物除去法は、一般的にEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含む。スケール又は沈着物除去法は、EDTAベース蒸気発生器洗浄液(独占所有権がある)、例えばEPRI SGOG及びAdvanced Scale Conditioning Agents(ASCA)を含む。これらの各方法は、スラッジ材を効率的に除去するため特有の適用温度を必要とし、安定化するのが困難かつ取扱いに費用がかかる液体廃棄物特有のプロセスを発生させる。
【0004】
上述したように、現在の腐食生成物化学的溶解方法の問題は、主にEDTA等のキレート剤の存在のために処分が困難な大量の化学的液体廃棄物を発生させることである。典型的に、複数の化学薬品を混合してこれらの化学的キレート溶液にする。現在の方法は、スラッジ、腐食生成物及び他の上記物質を溶解又は可動化するために狭帯域の特有温度で相当長い適用時間を必要とする。
従来の化学的方法が必要とする狭帯域の特有温度は、現場で多くの機器を必要とし、かつ最適温度を維持するため反応炉冷却ポンプ又は他の混合装置を用いて洗浄すべきシステムの再循環に係わりうる。溶解又は可動化技術のプロセスを最適化するために必要な複数の化学薬品の使用の結果、現地外の場所で化学薬品を混合するためにさらに費用及び/又は時間がかかることになるか、或いは現地で化学薬品を混合するために十分なタンクが必要になる。
また、従来の方法は、スラッジ、スケール、腐食生成物又は沈着物を溶解、可動化又は他のやり方で処理するのに24時間以上必要とする。化学プロセスにシステムをさらす時間が長いほど、該プロセス中に起こりうるさらなる腐食又は他の攻撃の可能性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(発明の概要)
本発明の目的は、当該技術で現在知られている方法より短時間かつ低温度で大量に原子核又は非核システム内のシステム配管、タンク又は熱交換器からスラッジ、スケール、腐食生成物及び他の金属種を除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、システムから腐食生成物を除去する方法であって、以下の工程:前記システム温度を46.1℃(115°F)〜100℃(212°F)に調整する工程、前記システムに洗浄溶解溶剤を注入する工程、前記システムを前記洗浄溶解溶剤で充填した後に前記システムにガスを注入し、このガスを前記システム内の前記溶剤と混合する工程、溶解の所定時間後に前記システムから前記溶剤を排出する工程、前記システムに不動態化組成物を注入する工程、前記システムにガスを注入し、このガスを前記不動態化組成物と混合する工程、不動態化の所定時間後に前記組成物を前記システムから排出する工程、前記システムを少量の溶液でリンスする工程、次いで前記システムを完全量(full volume)の溶液でリンスする工程、を含む方法を提供する。
本発明のフローチャートを示す図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(詳細な説明)
本発明と関連するいくつかの化学的工程がある。本腐食生成物化学的溶解プロセスは下記工程を含む:加熱リンス2、鉄溶解4、6、8、不動態化10、12、14、及び少量のリンス16と完全量のリンス18。
加熱リンス2は、システムがまだプロセス条件でない場合、システム温度を調整してプロセス条件を満たすことである。溶解プロセス中のシステムのプロセス温度条件は46.1℃以上かつ100℃以下の温度である。従って、システムの温度が46.1℃未満の場合、システムに熱を注入してシステムを46.1℃〜100℃の温度に加熱する。システムを加熱する一つの方法は、リンス溶液を注入して、システムの温度を当該適用に最適な温度に上昇させることである。加熱源を介したシステム水の再循環又はシステム流体を加熱するためシステムへの蒸気注入などの他の加熱源を利用しうる。注入中にさらに熱を供給して温度を上げてシステムがさらに確実に最適温度に達するようにすることができる。
【0009】
適切な温度に達したら、システムに溶解溶剤を注入すること4によって、鉄溶解工程4、6、8が始まる。システムへの注入中、濃シュウ酸をタンクからの脱塩水とブレンドする。シュウ酸溶液は、システムからの該溶液の除去前に溶解によって鉄沈着物の空隙率を高める。典型的な濃度は、適用目的に応じて0.25〜40グラム/リットルのシュウ酸である。この混合物が腐食生成物又は他の金属錯体形成種を溶解、可溶化及び除去する。鉄溶液をシステム外部から46.1℃〜100℃の所望適用温度に加熱することができる。46.1℃のような低温を利用する場合、等しい効率のためにはより長い接触時間が必要であろう。注入後に溶剤が30分以内システム内に留まってよく、或いは溶剤がフィード及びブリードプロセスにある場合又は温度がより低い適用範囲にある場合、数日間留まってよい。
システムを溶剤で充填したら、ガスの注入6によって溶剤を混合することができる。ガスは窒素又は何らかの他のガスであってよい。間欠的に又は溶剤がシステム内にある間ずっとガスを注入してよい。注入時間はシステム及びプロセスの目的によって決まる。
システム内の混合溶液をポンプで再循環させるか又はほとんど停滞状態のままでさらに溶解プロセスを行なうことができる。適切な接触時間が経過した後か又は溶液が飽和状態に達した後、洗浄溶剤をシステムから排出8する。
どのくらいの量の沈着物を除去すべきか及びプロセスの目的によっては個々のシステムにおいて1回より多く鉄溶解工程4、6、8を適用してよい。
【0010】
システムの表面上の沈着物の不動態層を安定化するため、溶解工程4、6、8の後に不動態化工程10、12、14が続く。不動態化工程組成物は、沈着物の組成によって、5〜20グラム/リットルの過酸化水素及び0.25〜20グラム/リットルのシュウ酸で構成される。不動態化組成物は、炭素鋼表面上の沈着物の不動態層を、シュウ酸第一鉄の可溶性シュウ酸第二鉄への変換を通じて安定化する。不動態化組成物は、鉄溶解工程4、6、8の還元化学条件では溶解されないいくらかのイオンをもこの酸化化学において安定化する。不動態化工程8、10の適用中に維持される温度は、最適条件のため66℃(150°F)以下でなければならない。66℃より高い温度を利用できるが、過酸化水素自体の触媒破壊のため不動態化工程10、12、14が効果的でないだろう。接触時間は12時間未満に制限すべきであるが、全ての過酸化水素が枯渇したときにシステムから除去してよい。システムへの不動態化組成物の注入10後、ガスを注入して12、溶液を混合し、注入ラインをきれいにすることができる。このガス注入12は、15分程度と短くてよく、又はプロセス適用の完全持続時間と同じぐらいの長さ、例えば12時間までであってよい。12時間後、又は過酸化水素が枯渇したとき、処理タンクに排液を戻してシステムを空にする14。
【0011】
大部分のシステムの設計のため、排出後にシステム内にいくらかの溶剤が残るだろう。この溶剤を除去するため、少量リンス16を最低2回行なう。これらの少量リンスの量はきれにするシステムによって変わるが、典型的に該量は鉄溶解工程4の量の15〜50%であろう。少量リンス16の後、システムを鉄溶解工程及び不動態化工程と同レベルに充填する工程を含めた完全量リンス18を行なう。このリンス溶液はシステム内に残存してよく、又は排出してよい。
プロセスが完了して、使用した化学薬品が分解し、液体が脱塩されたら、残存沈着物溶解の2回目及び/又はさらに追加の溶剤用に液体を再利用することができる。不動態化組成物工程10を含め、本発明の1回以上の適用を行なった結果生じる名目上の炭素鋼腐食は0.127mm(0.005インチ)未満である。このプロセスの各適用は、想定されるシステム容積当たり工程毎に処理表面から454kg(1000ポンド)までのスラッジ、スケール及び腐食生成物又は他の金属沈着物を除去することができる。このプロセスを複数回適用すると、想定されるシステム容積当たり各適用によってさらに227kg(500ポンド)〜454kg除去することができる。
【0012】
本発明に由来するプロセス化学が湿式酸化によって破壊されることもあり、湿式酸化プロセス中に溶解沈着物が固体に再形成されることとなる。そこで、電気化学的又は機械的分離技術、例えばろ過、サイクロン装置又は清澄化によって、再形成した金属イオンを除去する。このプロセス化学の分解生成物は二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)である。残存液体を脱塩カラムに通してよく(通さなければならないわけではないが)、その結果、残存液体が脱塩され、必要に応じて再利用が可能となる。
本発明のpHは1.0〜5.5で最適化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムから腐食生成物を除去する方法であって、以下、
前記システム温度を46.1℃〜100℃に調整する工程、
前記システムに洗浄溶解溶剤を注入する工程、
前記システムを前記洗浄溶解溶剤で充填した後に前記システムにガスを注入し、このガスを前記システム内の前記溶剤と混合する工程、
溶解の所定時間後に前記システムから前記溶剤を排出する工程、
前記システムに不動態化組成物を注入する工程、
前記システムにガスを注入し、このガスを前記不動態化組成物と混合する工程、
不動態化の所定時間後に前記組成物を前記システムから排出する工程、
前記システムを少量の溶液でリンスする工程、次いで
前記システムを完全量の溶液でリンスする工程
を含む方法。
【請求項2】
前洗浄リンス溶液で前記システム温度を調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸気の注入によって前記システム温度を調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
外部ヒーターを用いた溶液の再循環によって前記システム温度を調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
原子炉冷却材ポンプを用いた一次熱交換器システムの再循環によって前記システム温度を調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶解溶剤が濃シュウ酸と脱塩水である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記脱塩水を46.1℃〜100℃に加熱する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記濃シュウ酸が0.25〜40グラム/リットルである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記溶解の所定時間が30分以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記溶解溶剤を濃縮溶液として前記システムに導入し、それを注入溶液で希釈する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記溶解の所定時間が24時間以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ガスが圧縮ガスである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ガスが窒素である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ガスを少なくとも15分間前記システムに注入する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記溶剤を排出する工程後に、
前記システムに溶解溶剤を注入する工程、前記システムを前記溶解溶剤で充填した後に前記システムにガスを注入し、このガスを前記システム内の前記溶剤と混合する工程、及び溶解のさらなる所定時間後に前記システムから前記溶剤を排出する工程
を繰り返す工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記不動態化組成物が、5〜20グラム/リットルの過酸化水素及び0.25〜20グラム/リットルのシュウ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記不動態化組成物が存在するときに前記システム温度を66℃以下に維持する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記不動態化の所定時間が12時間未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記不動態化組成物から過酸化水素が枯渇するまで前記不動態化組成物が前記システムと接しているように前記不動態化の所定時間を選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記少量のリンス量が前記溶解溶剤量の15〜50%に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記完全量のリンス量が前記溶解溶剤及び前記不動態化溶液の量に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記システムのpHを1.0〜5.5に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記システムが原子力発電所である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−125854(P2011−125854A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260991(P2010−260991)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(510310004)アレヴァ エヌペ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】