説明

腫瘍性疾患および自己免疫疾患を治療するためのパラジウム錯化合物を含有する医薬調製物ならびにその使用

本発明は、一般式(I):Pd(S2COR)2(式中、Rは1〜30個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝のアルキル残基、2〜30個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝のアルケニル残基、4〜30個の炭素原子を有する単環式もしくは単環式アルケニル残基、または6〜30個の炭素原子を有する単環式もしくは多環式芳香族残基である)の少なくとも1つの化合物を含有する医薬調製物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、腫瘍性疾患および自己免疫疾患を治療するためのパラジウム錯化合物を含有する医薬調製物ならびにその使用に関する。
【0002】
現在、癌性疾患は、通常、手術前および/または後の薬物治療または放射線治療により治療される。薬物による腫瘍治療、すなわち化学療法は、種々の方法で癌増殖に影響する化合物を使用する。しかし、化学療法は、しばしば、脱毛、悪心、嘔吐、疲労感、骨髄および白血球の損傷等の患者に不快な重篤な副作用が伴う。これは、シスプラチンまたはカルボ-白金等の現在使用される白金化合物に特に当てはまる。幾分の重篤な二次感染もまた頻繁に起こる。さらに、全ての型の腫瘍が化学療法に応答するわけではない(例えば、腎細胞癌または胃腸管の腫瘍)。
【0003】
近年、白金-キサントゲナート錯体、所謂、「チオプラチン」(DE 199 40 407.0)を用いたある程度有望な結果がある。しかし、化合物の溶解性の低さを考慮すると患者に最大許容および最大治療投薬量を患者に投与する場合、いくらかの問題が生じる。
【0004】
従来、自己免疫疾患は、通常、サイトカインおよび重金属化合物で通常治療されていた。しかし、この治療は、しばしば、あまり効果的でなく、自己免疫疾患は止まらず、症状は改善されなかった。
【0005】
従って、本発明の目的は癌性疾患または自己免疫疾患を治療するための有効な薬物を提供することである。
【0006】
薬物は、少量で有効であり、可能な限り健康な細胞に対する毒性効果が低く、副作用が低くなければならない。さらに、薬物はまた局所治療に適しており、外来治療により投与されうるべきである。さらに、薬物はまた、再発の危険性を低下させなければならない。さらに、作用の損失なしに薬物を長期間保存可能でなければならない。
【0007】
驚くべきことに、パラジウムジチオカルボン酸錯体が優れた抗腫瘍および抗自己免疫効果を有する安定な化合物を形成することが見出された。
【0008】
それゆえ、本発明の主題は、一般式(I)
Pd(S2COR)2 (I)
式中、Rは1〜30個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルキル残基、2〜30個の炭素原子を有する直鎖または分枝のアルケニル残基、3〜30個の炭素原子を有する単環式または多環式アルキル残基、4〜30個の炭素原子を有する単環式または多環式アルケニル残基、または6〜30個の炭素原子を有する単環式または多環式芳香族残基であり、これらの残基は1つまたはいくらかの置換基で任意に置換されている、
のパラジウム錯体を含有する医薬調製物に関する。
【0009】
任意の直鎖または分枝のC1〜30アルキル残基が使用されうる。その例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec.-ブチル、tert.-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、n-ヘプチル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、3-エチルペンチル、2,2,3-トリメチルブチル、n-オクチル、2-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、4-メチルヘプチル、2,2-ジメチルヘキシル、2,3-ジメチルヘキシル、2,4-ジメチルヘキシル、3,3-ジメチルヘキシル、3,4-ジメチルヘキシル、4,4-ジメチルヘキシル、2-エチルヘキシル、3-エチルヘキシル、4-エチルヘキシル、2,2,3-トリメチルペンチル、2,3,3-トリメチルペンチル、3-メチル-3-エチルペンチル等の基である。それらの良好な溶解性のために、メチル、エチル、プロピルおよびイソプロピル基等の短いアルキル鎖が好ましい。
【0010】
Rは、好ましくは、直鎖C1〜14アルキル残基またはC3〜14シクロアルキル残基である。Rは、好ましくは、-CH3CH2またはイソプロピルを示す。
【0011】
いずれの直鎖または分枝のC2〜30アルケニル残基も使用されうる。その例は、ビニル、プロペニル、イソプロペニル、アリル、2-メチルアリル、ブテニルまたはイソブテニル、ヘキセニルまたはイソヘキセニル、ヘプテニルまたはイソヘプテニル、オクテニル、またはイソオクテニル基である。ビニル、プロペニルおよびイソプロペニル基が好ましい。
【0012】
3〜30個の炭素原子を有するシクロアルキル残基は任意のシクロアルキル残基でありうる。その例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルまたはシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシル基である。シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシル基が好ましい。
【0013】
4〜30個の炭素原子を有するシクロアルケニル残基は任意のシクロアルケニル残基でありうる。その例は、シクロブテニル、シクロペンテニルまたはシクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル、シクロノネニルまたはシクロデセニル基である。シクロブテニル、シクロペンテニルまたはシクロヘキセニル基が好ましい。
【0014】
多環式アルキル残基およびアルケニル残基各々の例は、ノルボルナン、アダマンタンまたはベンズバレンである。
【0015】
Rはまた、任意の単環式または多環式C6〜30アリール残基でありうる。その例は、炭素環式、単環式残基、例えば、フェニル基;複素環式、単環式残基、例えば、チエニル、フリル、ピラニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピラジニル、チアゾリル、オキサゾリル、ピロリニル、イミダゾリニル、ピラゾリニル、チアゾリニル、トリアゾリル、テトラゾリル、およびこれらの基を含みうるヘテロ原子(単数または複数)の位置異性体、炭素環式アネレーティッド(anellated)環からなる残基、例えば、ナフチル基またはフェナントレニル基、アネレーティッド複素環式環からなる残基、例えば、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ナフト[2,3-b]チエニル、チアントレニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、フェノキサチイニル、インドリジニル、イソインドリル、3H-インドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリジニル、イソキノリル、キノリル、フタルジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、&-カルボリニル、アクリジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、インドリニル、イソインドリニル、イミダゾピリジル、イミダゾピリドミジニル(imidazopyridmidinyl)、またはフロ[2,3-b]ピロール、またはチエノ[2,3-b]フラン、および特にフェニル等の上記に規定された複素環式単環からなるアネレーティッド多環式系、2-フリル等のフリル基、2-イミダゾリル等のイミダゾリル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル等のピリジル、ピリドミジン(pyridmidin)-2-イル等のピリミジニル、チアゾール-2-イル等のチアゾリル、チアゾリン-2-イル等のチアゾリニル、トリアゾリル-2-イル等のトリアゾリル、テトラゾール-2-イル等のテトラゾリル、ベンズイミダゾール-2-イル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアゾール-2-イル等のベンズイミダゾリル、プリン-7-イル等のプリニルまたは4-キノリル等のキノリルである。
【0016】
種々の上記の残基の好適に存在する置換基は以下の群から選ばれうる:
- ハロゲン:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、
- アミノ、アルキルアミノ、ジメチルアミノまたはエチルアミノ、ジメチルアミノ、
ジエチルアミノ、メチルエチルアミノ等のジアルキルアミノ、これらのジアルキルアミノ残基の各々は、任意に酸化物形態で存在しうる、
- アミノメチルまたはアミノエチル等のアミノアルキル、
- ジメチルアミノメチルまたはジメチルアミノエチル等のジアルキルアミノアルキル、
- ジメチルアミノエチルオキシ等のジアルキルアミノアルキルオキシ、
- ヒドロキシル、
- アルコキシカルボニル等の遊離エステル化カルボキシル基、例えば、メトキシカルボニルもしくはエトキシカルボニル、または塩に変換されたもの(例えば、ナトリウムまたはカリウム原子により)、
- トリフルオロメチル等の、1つまたはいくらかのハロゲン原子(例えば、フッ素)により任意に置換されたメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert.-ブチル等の1〜8個の炭素原子を有するアルキル、
- オキソ、シアノ、ニトロ、ホルミル、
- アセチル、プロピオニル、ブチリル、ベンゾイル等のアシル、
- アセトキシ等のアシルオキシまたは式:
-O-CO-(CH2)nCO2H(式中n=1〜5)
の残基、
- メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ等のアルコキシ、
- メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ等のアルキルチオ、
- カルバモイル、
- ビニル、プロペニル等のアルケニル、
- エチニル、プロピニル等のアルキニル、および
- フェニル、フリル、チエニル等のアリール。
【0017】
トリフルオロメチル、トリフルオロブチル、ペンタフルオロプロピル、ペンタフルオロブチル、ペンタフルオロペンチル、ヘプタフルオロブチル、もしくはノナフルオロブチル基または2-クロロエチル等の1つまたはいくらかのハロゲン原子により置換されたアルキル残基は、かかる置換残基の例として記載されうる。
【0018】
概して、上記式(I)の化合物は、表現「チオパラジウム化合物」により記載されうる。
【0019】
式(I)の化合物は、C.G.Sceney, R.J.Magee, Palladium Xanthate Complexes Chimia Scripta, 1974, 6, 47-48; C.G.Sceney, J.O.Hill, R.J.Magee, Thermal Studies on palladium alkyl xanthates, Thermochimica Acta 1973, 6, 111-117およびG.W.Watt, B.J.McCormick, The synthesis and characterization of methyl and ethylxanthato complexes of Pt(II), Pd(II), Ni(II), Cr(III)およびCo(III), J.Inorg.Nucl.Chem. 1965, 27, 898-900に記載されるようにジアルカリテトラクロロパラデート(II)とのアルカリO-アルキルジチオカルボネートの反応により好適に製造される。
【0020】
式(I)の化合物は、精巣腫瘍、卵巣癌、膀胱癌、結腸癌、前立腺癌、小細胞性および非小細胞性気管支癌、頭部および頸部の癌、胸部および腹部の癌、子宮頸部および子宮内膜の癌、肉腫および黒色腫ならびに白血病等の種々の癌性疾患の治療に適切である。小細胞性気管支癌または結腸直腸癌の治療が好ましい。治療はまた、放射線治療付随治療として、または手術の前および/または後に行われうる。
【0021】
式(I)の化合物は良好に許容される。L50値は腫瘍治療において公知のシス-白金よりも3倍低い。良好な抗腫瘍効果を有する投薬量が使用される場合、副作用はほとんど生じない。特に、シスプラチンについて知られている心配される腎毒性は本発明の化合物の場合にはこのように未だ生じていない。本発明の化合物の別の利点は、それらが大抵の種々の腫瘍に対して広範な活性スペクトラムを有し、また従来の白金化合物(例えばシスプラチン)での治療に抵抗性であった腫瘍に対して特に有効であることである。パラジウム化合物は固体腫瘍に特に適する。ヒト腫瘍細胞株に対する細胞傷害効果はシスプラチンの30〜50倍高いことが見出された。チオプラチン化合物と比べて、パラジウム化合物の細胞傷害効果は7倍高い。低毒性であるゆえに、最大耐量(経口投与の場合100mg/kg)を支障なく達成することが可能である。
【0022】
金錯体等の重金属化合物はしばしば自己免疫疾患の治療に使用される。これらの化合物は、腎毒性および骨髄機能低下(bone marrow depression)等の重篤な副作用を有する。しかし、本発明のパラジウム錯体は、良好に許容され、それ故、現在利用可能な重金属薬物よりも優れている。式(I)の化合物は、例えば、関節炎、梅毒、潰瘍性大腸炎、糖尿病、多発性硬化症、紅斑性狼蒼の治療に使用されうる。
【0023】
多くの腫瘍組織がやや酸性の環境を有するので、本発明の化合物の有効性がアルカリpH域よりもわずかに酸性のpH域において大きいことに、別の優位性がある。発明者らは、ビス[O-イソプロピルジチオ-カルボナート]パラジウム(bis[O-isopropyldithio-carbonato]palladium)(II)、ビス[O-シクロヘキサル-ジチオカルボナート]パラジウム(bis[O-cyclohexal-dithiocarbonato]palladium)(II)およびビス[O-エチルジチオカルボナート]パラジウム(bis[O-ethyldithiocarbonato]palladium)(II)、パラジウムが硫黄原子と錯体化される式(I)の全てのパラジウム配位錯体を用いた研究(図4および5参照)を行った。プロトン付加に続いて、2つの硫黄がイオンを可逆的に開く状態で連結し(そのため、アクア錯体が形成する)、DNAの架橋を開始し得る。pH値の上昇後、プロトンが硫黄原子から解離し、不活性な分子が回収される。式(I)のプロドラッグに由来する(わずかな)酸性域へのpH値の移動は、実際に反応性の化合物の形成に影響を与える。この概念は、実施例によって確認される。
【0024】
本発明の医薬調製物は、種々の方法、たとえば経口的に、非経口的に、皮膚に、皮下に、静脈内に、筋肉内に、直腸に、腫瘍内に投与され得る。静脈内および腫瘍内投与、すなわち特定の疾患にかかった器官または身体の一部への投与が好ましい。該医薬調製物は、医師により決定される期間にわたって患者に投与される。該医薬調製物は、ヒトおよび動物の双方に投与され得る。
【0025】
本発明の化合物の投与量は、年齢、体重、性別、疾患の重篤度などの患者固有パラメーターにより医師によって決定される。投与量は、好ましくは0.001〜1000 mg/kg体重である。
【0026】
投与種類に合わせて、医薬調製物は適切な方法、たとえば単純もしくは被覆錠剤、硬質もしくは軟質ゼラチンカプセル、使用に先立ち水を加えて元に戻すための粉末、顆粒粉末、坐薬、胚珠、注射可能物質、点滴溶液、ポマード、クリーム、ゲル、ミクロスフェア、移植片の形態で製剤化され、それらは従来どおりの生薬の手順で製造される。
【0027】
式(I)の化合物は任意に、さらに活性な物質と共におよび医薬組成物中で一般的な賦形剤、たとえば製造される調製物によって滑石、アラビアゴム、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、カカオバター、水性および非水性キャリア、動物もしくは植物由来の脂質(adipoid)、パラフィン誘導体、グリコール(特にポリエチレングリコール)、種々の可塑剤、分散剤、または乳化剤、防腐剤と共に投与され得る。
【0028】
塩化ナトリウム溶液、エタノール、ソルビトール、グリセロール、オリーブオイル、アーモンドオイル、プロピレングリコールまたはエチレングリコールなどの添加剤は、液体調製物の製造のために使用され得る。
【0029】
好ましくは、点滴および注射可能溶液が製造される。好ましくは、それらは水性溶液または懸濁物であり、使用する前に、たとえば活性物質をそのまま、またはマンニトール、ラクトース、グルコースなどのキャリアを共に含む凍結乾燥製品から製造することが可能である。調製済み溶液は滅菌され、任意に補助剤、たとえば防腐剤、安定剤、乳化剤、溶解補助剤、浸透圧を制御するための緩衝剤および/または塩と混合される。滅菌は、小さい孔径を有するフィルターを介する滅菌ろ過によって成され得、その後該組成物は任意に凍結乾燥され得る。少量の抗生物質もまた、滅菌性を維持するために添加され得る。
【0030】
抗癌治療または自己免疫疾患に対する治療を必要とする動物へ投与するための単位投与量形態での本発明の医薬調製物の供給は有益である。
【0031】
本発明はまた、医薬調製物および医薬組成物に関するものであり、それらはそれぞれ有機もしくは無機不活性固体または液体である薬学的に適合性があるキャリアおよび希釈剤と共に活性成分(本発明の式(I)の化合物)の治療有効量を含み、キャリアおよび希釈剤はそれぞれ、意図された投与に適し、活性成分と好ましくない相互作用を示さない。
【0032】
本発明はまた、式(I)の化合物と薬学的に適合性があるキャリアとを混合する工程により特徴付けられる医薬組成物の製造方法にも関する。
【0033】
本発明の薬物は、特に実施例部分に記載される化合物、とりわけ上記式(I)においてRがメチル、エチル、プロピルもしくはイソプロピル基、またはCH2CH2OH、CH2CH2CH2OH、CH2(CH2)2CH2OH基である化合物を含み得る。
【0034】
本発明の医薬調製物および/または医薬組成物は、活性物質として上記で規定された少なくとも一つの活性物質を含む。任意に、たとえばシクロスポリン、ラパマイシン、15-デオキシスペルグアリン、OKT3、アザチオプリン、サイトカイン(たとえばTNF)、インターフェロン等の免疫抑制薬剤などのさらなる薬学的に活性な物質が、該組成物に添加され得る。さらに、本発明の組成物は、付加的にステロイドまたはさらなる細胞増殖抑制剤(たとえばシスプラチン、メトトレキサート、アミノプテリン、ダカルバチン(dacarbacine)、ニトロソ尿素化合物、フルオロウラシル、ブレオマイシン、ダウノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシンCなど)を含み得る。
【0035】
本発明は、図面により更に説明される。
【0036】
本発明は、以下の実施例によりさらに詳細に説明される。
【実施例】
【0037】
実施例1:パラジウム錯体の合成
一般手順
C.G.Sceney, R.J.Magee、Palladium Xanthate Complexes Chimia Scripta、1974、6、47-48;C.G.Sceney, J.O.Hill, R.J.Magee、Thermal Studies on palladium alkyl xanthate、Thermochimica Acta 1973、6、111-117およびG.W.Watt, B.J.McCormick、The synthesis and characterization of methyl and ethylxanthato complexes of Pt(II),Pd(II),Ni(II),Cr(III) and Co(III)、J.Inorg.Nucl.Chem.1965、27、898-900中に記載されたとおりの方法によって全てのO-アルキル-ジチオカルボナートを調製した。
【0038】
O-アルキル-ジチオ炭酸カリウム(KS2COR)を以下の一般操作によりテトラクロロパラジウム酸二カリウム(II)(K2PdCl4)と反応させた:
5mlの蒸留水中の1.53mmol K2PdCl4を5mlの蒸留水中の4.60mmolのO-アルキル-ジチオ炭酸カリウム(KS2COR)と強く撹拌しながら混合し、続いてさらに5mlの蒸留水を添加した。反応槽を閉じ、混合物を室温で80〜120分間撹拌した。沈殿物を吸引ろ過により分離し、蒸留水で3回洗浄し、ジエチルエーテルまたはペンタンのいずれかを用いて洗浄した。アセトンまたはアセトン/CHCl3からの再結晶化により、黄色または褐色結晶としてPd錯体が生じた。生成物を減圧下(10-3 Torr)で1〜2日乾燥させた。
【0039】
ビス(O-アルキル-ジチオカルボナート)-パラジウム(II)-錯体(1〜7)の構造を、1H-および13C-MMR-、IR-ならびにUV-分光測定法により、質量分光測定法および成分分析により実証した。
【0040】
Pd-錯体は水に不溶性であり、アセトンに難溶性であり、CHCl3に溶解性である。
【0041】
ビス(O-シクロヘキシル-ジチオカルボナート)パラジウム(II) (1)
収率:82%、褐色結晶。
【0042】
ビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II) (2)
収率:79%、オレンジ色結晶。
【0043】
ビス(O-エチル-ジチオカルボナート)パラジウム(II) (3)
収率:79%、褐色がかった金色結晶。
【0044】
ビス(O-(2-メチル)-ブチル-ジチオカルボナート)パラジウム(II) (4)
収率:18%、オレンジ色がかった褐色結晶。
【0045】
ビス(O-ブチル-ジチオカルボナート)パラジウム(II) (5)
収率:57%、褐色結晶。
【0046】
ビス(O-ヘキシル-ジチオカルボナート)パラジウム(II) (6)
収率:64%、オレンジ色がかった金色結晶。
【0047】
ビス(O-メチル-ジチオカルボナート)パラジウム(II) (7)
収率:85%、赤色結晶。
【0048】
実施例2:ヒト癌細胞株におけるPd-錯体(1〜7)の抗腫瘍活性
細胞傷害解析
Pd-錯体をアセトンに溶解した(1mg/mlストック溶液)。ヒト癌細胞株SK-MEL 25(メラノーマ)およびCALU-6(肺癌)を、Pd-錯体の細胞傷害活性の測定に使用した。対照として、周知の抗腫瘍薬物であるシスプラチンおよび対応するプラチナ錯体も含んだ。2x106細胞/96穴プレートの濃度で細胞を接種した。24時間後に組織培養培地を除去し、10%ウシ胎児血清および100単位/mlペニシリン/ストレプトマイシンが補充され、2.2g/l(pH7.4)または0.85g/l(pH6.8)NaHCO3のいずれかを含む、新しい培養培地を添加した。5%CO2を含む雰囲気中における1時間の平衡化の後、薬物を様々な濃度(50、25、12.5、6.25、3.1、1.6、0.8μg/ml)で4連で添加した。未処理培養物を対照として用いた。2時間後、培養培地を0.1mlの新しい組織培養培地(pH7.4、10%ウシ胎児血清)と交換した。次に培養プレートを37℃で48時間(SK-MEL 25)または72時間(Calu-6)インキュベートした。次に、細胞を3%ホルムアルデヒドで固定化し、1%クリスタルバイオレットで染色した。生細胞数は結合したクリスタルバイオレットの量に比例する。従って、相対細胞数をAntos 2001 ELISA reader(550 nm)で測定することができた。ODデータから用量作用曲線を確立し、細胞数がコントロールの50%まで減少した時点の濃度(IC50)を決定した。結果を表1ならびに図4および5に示す。
【0049】

【0050】
実施例3:インビボにおけるビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)の抗腫瘍活性
ヒト小細胞肺癌細胞(H10)を無胸腺のヌードマウス(系統Balb c)に移植した。3週間後(その時点で腫瘍は6〜10 mmの大きさに増殖していた)に、治療を開始した。5匹の動物にビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)の単回の静脈内注射(30%シクロデキストリン中の0.2 mg/ml、0.2ml/20g体重)を0日および4日に与えた。腫瘍サイズは、測径器を用いて二次元で測定した。対照として10匹の動物に30%シクロデキストリンを与えた。相対的腫瘍増殖を毎日測定した。平均値±標準偏差を図1に示す。
【0051】
実施例4:障害性研究
雌Balb cマウス(6〜8週齢、5匹/群)に、30%シクロデキストリン/70%水中の2 mg/mlビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)溶液を0.2 ml/20g体重で注射(外側尾静脈の静脈内)した。対照動物には30%シクロデキストリン/70%水を与えた。各群の平均体重を毎日測定した。標準偏差が5%未満であることが分かった。結果を図2に示す。
【0052】
雌Balb cマウス(6〜8週齢、5匹/群)に、0、10または20mg/mlビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)のいずれかを含む0.2mlピーナッツオイル/20g体重を(胃内挿管により)与えた。各群の平均体重を毎日測定した。標準偏差が8%未満であることが分かった。結果を図3に示す。
【0053】
実施例5:シクロヘキシル-パラジウム-キサンテートの抗腫瘍スペクトル
ヒト癌細胞株(ATTCから入手した)を、2x106細胞/プレートの濃度で96穴プレートに接種した。1日後、シスプラチンまたはシクロヘキシル-パラジウム-キサンテートのいずれかを用い、25、12.5、6.3、3.2、1.6、0.8、0.4または0.0μg/mlの濃度で4連で細胞を処理した。細胞を37℃で48時間インキュベートした。培養液を廃棄した後、細胞を3%ホルムアルデヒド固定化し、0.5%クリスタルバイオレットで染色した。ERISA readerで595nmでのODを測定した。用量作用曲線からIC50値を読み取った。
【0054】

【0055】
結果:6つの細胞株全てにおいてシクロヘキシル-パラジウム-キサンテートがシスプラチンよりも優れていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1 インビボにおけるビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)の抗腫瘍活性
【図2】図2 20mg/kgのビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)の静脈内適用後の傷害性
【図3】図3 100mg/kgおよび200mg/kgのビス(O-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)の経口適用後の傷害性
【図4】図4 ヒトメラノーマ細胞株SK-MEL 25における細胞傷害効果
【図5】図5 ヒト肺癌細胞株Calu-6における細胞傷害効果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
Pd(S2COR)2
式中、Rは1〜30個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝のアルキル残基、2〜30個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝のアルケニル残基、3〜30個の炭素原子を有する単環式もしくは多環式アルキル残基、4〜30個の炭素原子を有する単環式もしくは多環式アルケニル残基、または6〜30個の炭素原子を有する単環式もしくは多環式芳香族残基であり、これらの残基は1つまたはいくらかの置換基により任意に置換されている、
の少なくとも1つの化合物の内容物により特徴付けられる医薬調製物。
【請求項2】
式(I)の化合物において、Rが各々直鎖C1〜14アルキル残基またはC3〜14シクロアルキル残基である請求項1記載の医薬調製物。
【請求項3】
式(I)の化合物において、RがCH3CH2、イソプロピル、CH2CH2OH、CH2CH2CH2OHまたはCH2(CH2)2CH2OHである請求項1または2記載の医薬調製物。
【請求項4】
式(I)の化合物がビス(O-シクロヘキシル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)、ビス-イソプロピル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)、ビス(O-エチル-ジチオ-カルボナート)パラジウム(II)、ビス(O-(2-メチル)-ブチル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)、ビス(O-ブチル-ジチオカルボナート)-パラジウム(II)、ビス(O-ヘキシル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)またはビス(O-メチル-ジチオカルボナート)パラジウム(II)である請求項1〜3いずれか記載の医薬調製物。
【請求項5】
シクロスポリン、ラパマイシン、15-デオキシスペルグアリン、OKT3およびアザチオプリンからなる群より選ばれる免疫抑制化合物をさらに含有してなる請求項1〜4いずれか記載の医薬調製物。
【請求項6】
サイトカイン、インターフェロンまたはさらなる抗悪性腫瘍薬をさらに含有してなる請求項1〜4いずれか記載の医薬調製物。
【請求項7】
抗癌剤または抗自己免疫剤での処置を必要とする哺乳動物に投与するための単位投薬形態で提供される請求項1〜6いずれか記載の医薬調製物。
【請求項8】
薬学的に適合する不活性担体または希釈剤をさらに含有してなる請求項1〜7いずれか記載の医薬調製物。
【請求項9】
癌性疾患を処置するための請求項1〜8いずれか記載の医薬調製物の使用。
【請求項10】
癌性疾患が小細胞性気管支癌または結腸直腸癌である請求項9記載の医薬調製物の使用。
【請求項11】
自己免疫疾患を処置するための請求項1〜8いずれ記載の医薬調製物の使用。
【請求項12】
式(I)の化合物が薬学的に適合しうる担体または希釈剤と混合されることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の医薬調製物の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−502145(P2006−502145A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−530233(P2004−530233)
【出願日】平成15年8月20日(2003.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009247
【国際公開番号】WO2004/018043
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(500030655)
【出願人】(505065504)ウニヴェルジテート ハイデルベルク (1)
【Fターム(参考)】