腹膜劣化抑制剤および腹膜透析液
【課題】長期間、腹膜透析を継続することによって発生する腹膜劣化の防止が可能である腹膜劣化抑制剤およびを腹膜透析液を提供する。
【解決手段】エンドセリン受容体拮抗薬を含む腹膜劣化抑制剤。腹膜劣化抑制剤および高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む腹膜透析液。
【解決手段】エンドセリン受容体拮抗薬を含む腹膜劣化抑制剤。腹膜劣化抑制剤および高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む腹膜透析液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜透析に係る腹膜劣化抑制剤および腹膜透析液に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性および急性腎不全に罹患し、腎臓の機能が著しく低下すると、透析療法が適用される。透析療法は、体内から余剰水分を除去することによって体液の組成を一定に保つとともに、体液中の老廃物(尿毒素物質)などの溶質を除去する血液浄化療法である。透析療法としては、主に、ダイアライザーを含む血液体外循環回路を用いる血液透析と、腹腔内に透析液を貯留させ、半透過性の腹膜を透析膜として利用して体液を透析およびろ過する腹膜透析が知られている。
【0003】
より具体的に、腹膜透析では、腹腔内に貯留させる透析液の浸透圧を高くして、透析液と、腹膜上の毛細血管中の体液(血液)との間に浸透圧較差を生じさせることにより、体内に蓄積した余剰水分を毛細血管の限外ろ過能を介して透析液中に除去する。血液中の老廃物は、溶質として透析液中に拡散(排出)され、一方、透析液中のCa2+イオンなどの電解質は、血液中に拡散(補給)される。腹膜透析のドライビングフォースの基となる透析液中の浸透圧調節物質は、現在、主にD-グルコースであり、具体的に、1.5%〜4%のグルコース溶液が透析液として適用されている。
【0004】
腹膜透析療法は、CAPD(continuous ambulatory peritoneal dialysis)と称されるように、透析液を交換しながら常に腹腔内に透析液を貯留させておけば透析が連続的にに行われる。血液透析に比べて循環系および生体内部環境に与える影響が少ない上に、一日数回の透析液交換を自宅や職場で行うことができ、患者の拘束時間が少ないなどの利点を有しており、今や慢性腎不全治療の一つとして世界的に普及している。
【0005】
上記透過膜として利用する腹膜は、中皮細胞層、コラーゲン層および脂肪層からなり、中皮細胞、線維芽細胞、脂肪細胞などを含む。腹膜表面は、単層の中皮細胞が覆い、腹腔内の臓器と接触しても摩擦の起こらない表面を形成し、臓器全体を保護している。ところが腹膜透析の長期間継続では、この腹膜表面の中皮細胞が傷害を受け、腹膜が劣化する場合があることが知られている。具体的には、腹膜の中皮細胞が刺激を受けてコラーゲンやファイブロネクチンなど細胞外マトリックスを形成する物質を放出することに端を発し、これらの物質に刺激されて線維芽細胞などが増殖したり、さらに同様の物質を放出することで、腹膜のコラーゲン層が厚くなり、最終的には中皮細胞が脱落し、cellular desertと呼ばれる腹膜(機能)劣化状態すなわち腹膜線維症となる(非特許文献1参照)。
【0006】
腹膜劣化は、グルコース透析液を滅菌する際に発生するGDPs(Gluose Degradation Products)と呼ばれる物質や、酸性透析液の刺激、グルコースの代謝産物であるAGE(Advanced glycation endproducts)によって発生すると言われている。これまでに、透析液の中性化やGDPsを低減する試みが行われてきたが、グルコース(浸透圧調節物質)そのものの存在により発生する腹膜劣化は回避困難なものであった。
【0007】
腹膜透析における腹膜機能低下を防止するものとして、HMG−CoA還元酵素阻害剤を有効成分として含有する腹膜劣化防止剤(特許文献1参照)、HGF(Hepatocyte Growth Factor)HGFを含有する腹膜劣化抑制剤(特許文献2参照)の提案もある。
【0008】
【特許文献1】特開2004−269461号公報
【特許文献2】特開2001−226288号公報
【非特許文献1】P. J. Margetts et.al., "BASIC MECHANISMS AND CKINICAL IMPLICATIONS OF PERITONEAL FIBROSIS", Peritoneal Dialysis International, 2003, Vol.23, pp.530-541
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な腹膜劣化抑制剤およびこれを含む腹膜透析析液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、腹膜透析による腹膜劣化の課題を解決すべく、特に腹膜繊維症を誘起する中皮細胞からのファイブロネクチンなどの細胞外マトリックス形成物質の放出を抑制しうる薬剤を見出すべく、鋭意検討したところ、エンドセリン(endothelin:ET)受容体拮抗剤によって上記課題を解決しうることを見出した。これについて説明する。エンドセリンは、血管内皮細胞由来の21個のアミノ酸残基よりなるペプチドで、3種のアイソペプチド(エンドセリン−1(ET−1)、エンドセリン−2(ET−2),エンドセリン−3(ET−3))が同定されている。また、エンドセリン受容体は、各アイソペプチドに対する親和性に基づくエンドセリンA(ETA)受容体およびエンドセリンB(ETB)受容体の2種のサブタイプが存在し、臓器によってその分布が異なっている。エンドセリンは強力な血管収縮作用および血管平滑筋増殖作用があり、中でもET−1は強力かつ持続的な血管収縮作用があることが知られ、内皮細胞ではET−1が産生されることも知られている。しかし、中皮細胞におけるエンドセリンとファイブロネクチンなどの細胞外マトリックス形成物質との関連性は今まで報告されておらず、知られていない。
【0011】
本発明者は、ファイブロネクチンなどの細胞外マトリックス形成物質の放出を誘起するものとして、特に上記エンドセリンに注目し、腹膜中皮細胞におけるエンドセリンとファイブロネクチンとの関係、浸透圧調節物質(グルコース)の存在とエンドセリン産生増殖の関係を調べた。実施例として後述するとおり、グルコース添加の中皮細胞培養により、ET−1の産生増殖、エンドセリンB受容体の特異的な発現増加がそれぞれ確認された。さらに、ET−1添加の中皮細胞培養での、ファイブロネクチンmRNA発現量の増加が確認でき、ET−1のファイブロネクチン産生への関与が確認できた。これら知見に基づき、グルコースを含む培養系に、エンドセリン受容体拮抗剤を添加することにより、腹膜中皮細胞のファイブロネクチンmRNA発現量、ファイブロネクチン分泌量の増加は抑制されることが確認され、本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するものとして、以下の本発明が提供される。
【0012】
(1)エンドセリン受容体拮抗薬を有効成分として含む腹膜劣化抑制剤。
(2)前記エンドセリン受容体拮抗薬が、少なくともエンドセリンB受容体に結合する拮抗薬である(1)に記載の腹膜劣化抑制剤。
(3)前記エンドセリン受容体拮抗薬が、エンドセリンB受容体選択的拮抗薬、エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬およびこれらの組合せからなる群より選ばれる少なくとも1つである(1)に記載の腹膜劣化抑制剤。
【0013】
(4)少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質と、(1)ないし(3)のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤とを含む腹膜透析液。
(5)前記腹膜劣化抑制剤の有効成分であるエンドセリン受容体拮抗薬を0.01pM〜1mMの濃度で含む(4)に記載の腹膜透析液。
(6)前記浸透圧調節物質が糖類である(4)または(5)に記載の腹膜透析液。
(7)前記糖類がグルコースおよびグルコース誘導体から選ばれる(6)に記載の腹膜透析液。
(8)前記浸透圧調節物質を0.1〜10w/v%の濃度で含む(4)ないし(7)のいずれかに記載の腹膜透析液。
【0014】
(9)少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む高浸透圧液と、これとは別の(1)ないし(3)のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤との組合せからなる腹膜透析液。
(10)前記腹膜劣化抑制剤が、エンドセリン受容体拮抗薬を0.01pM〜1mMの濃度で含む液体である(9)に記載の腹膜透析液。
(11)前記浸透圧調節物質が糖類である(9)または(10)に記載の腹膜透析液。
(12)前記糖類がグルコースおよびグルコース誘導体から選ばれる(11)に記載の腹膜透析液。
(13)前記高浸透圧液が、前記浸透圧調節物質を0.1〜10w/v%の濃度で含む(9)ないし(12)のいずれかに記載の腹膜透析液。
(14)前記腹膜劣化抑制剤を、前記高浸透圧液と別のタイミングで腹腔内に適用する(9)ないし(13)のいずれかに記載の腹膜透析液の使用方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の腹膜劣化抑制剤およびこの腹膜劣化抑制剤を含む腹膜透析液によれば、腹膜透析の長期間継続による腹膜劣化を抑制することができるため、腹膜透析の期間を延長することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る腹膜劣化抑制剤および腹膜透析液について具体的に説明する。
本発明の腹膜劣化抑制剤は、エンドセリン受容体拮抗薬を有効成分として含む。上述のとおり、エンドセリン受容体は、エンドセリンA受容体とエンドセリンB受容体の2種類がある。これらの受容体に対する拮抗薬が開発されており、機能として分類するとエンドセリンA受容体を選択的にブロックするもの、エンドセリンB受容体を選択的にブロックするもの、エンドセリンA受容体とエンドセリンB受容体両方を一度にブロックするものが挙げられる。
【0017】
本発明で使用されるエンドセリン受容体拮抗薬は、これらのうちでも少なくともエンドセリンB受容体に結合する拮抗薬であり、すなわち、エンドセリンB受容体選択的拮抗薬の1種または2種以上であっても、エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬の1種または2種以上であっても、これらの組合せであってもよい。また、本発明で使用されるエンドセリン受容体拮抗薬は、ペプチド性、非ペプチド性のいずれの構造に分類されるものでもよい。
【0018】
エンドセリン受容体拮抗薬として市販されているものを使用することができる。たとえばエンドセリンB受容体選択的拮抗薬としては、ペプチド性では、BQ−788(Calbiochem)、IRL2500(Chiba-Geigy)、RES701−1(Kyowa)が挙げられ、非ペプチド性では、A−192621(Abbott)、K−8794(Kowa)が挙げられる。エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬としては、ペプチド性では、D142893(Parke-Davis)、TAK044(Takeda)が挙げられ、非ペプチド性では、A−182086(Abbott)、L−754142(Merck)、LU224332(Knoll)、Ro46−2005(Hoffmann-La Roche)、Bosentan(Hoffmann-La Roche, Actelion)、SB209670(GlaxoSmithKline)、Enrasentan(GlaxoSmithKline)が挙げられる。
【0019】
エンドセリン受容体は、B,A両タイプとも同定されており、その蛋白質、遺伝子情報はNCBIのPubMedなどから入手することができる。このことから、少なくともエンドセリンB受容体のmRNAの相補的塩基配列(アンチセンス)として設計されるDNAを、本発明の拮抗剤として挙げることもできる。
【0020】
本発明の腹膜劣化抑制剤の役目は、腹膜表面の中皮細胞からファイブロネクチンなどの細胞外マトリックスを形成する物質を放出するのを防止することである。すなわち、腹膜透析によって中皮細胞が高い浸透圧状態下に曝されたり、高濃度のD-グルコースにさらされることによって中皮細胞からエンドセリン−1が放出されると考えられる。中皮細胞はこのエンドセリン−1にオートクライン的あるいはパラクライン的に反応し、ファイブロネクチンなどの細胞外マトリックスを形成する物質を放出する。本発明の腹膜劣化抑制剤およびこれを含む場合の腹膜透析液によって、エンドセリン−1が中皮細胞に作用するのを抑制し、細胞外マトリックスを形成する物質を放出させなくするものである。
【0021】
本発明の腹膜劣化抑制剤は、有効成分としての上記エンドセリン受容体拮抗薬のみでも構わないし、他の成分を含有していても構わない。腹膜劣化抑制剤は、液状すなわち有効成分が液体に溶解した状態であるのが好ましく、この場合、他の成分は、通常、この液体中に含まれる溶質である。腹膜劣化抑制剤は予め液体に溶解させておいても構わないし、患者に投与する直前に溶解させても構わない。投与時に、液体に溶解した状態であれば、腹膜劣化抑制剤を効率よく腹膜(目的部位)にデリバリーできる。溶解する液体は、水(純水、滅菌水、RO水、蒸留水)、または有効成分以外の成分を含む薬液(たとえば、生理食塩水、PBS、Locke液、Ringer液、Tyrode液、Earle液、krebs液、Dulbecco液などの等張液、腹膜透析液(高浸透圧液)、腹膜洗浄液)などが挙げられる。
【0022】
腹膜劣化抑制剤を等張液に溶解させた場合、生体の浸透圧と類似した浸透圧になるため、腹膜への負担を最低限に抑えることができる。
また、腹膜劣化抑制剤を腹膜透析液(高浸透圧液)に溶解した態様は、本発明における腹膜透析液の一態様として提供されるものである。したがって本明細書では、腹膜劣化抑制剤を含まない腹膜透析液を、便宜上、高浸透圧液と称することもある。
【0023】
腹膜劣化抑制剤の溶解濃度としては、エンドセリン受容体拮抗薬の濃度が、0.01pM〜1mMになるのが望ましく、1pM〜1μMがより望ましい。なお、腹膜劣化抑制剤は、粉末、顆粒状で目的部位に投与されても構わない。
【0024】
腹膜劣化抑制剤を腹腔内に投与する方法としては、高浸透圧液と、別のタイミングで、または同時に腹腔内に適用することができる。たとえば腹膜透析液(高浸透圧液)に含ませて腹膜透析時に目的部位に投与する方法、腹膜透析用カテーテルを用いて腹腔内に投与する方法などが挙げられる。腹膜透析液(高浸透圧液)に含ませて腹膜透析と同時に投与する場合、透析と同時に腹膜を保護することができるだけでなく、別途腹膜劣化抑制剤を投与する手間が省けるため大変有用である。また、高浸透圧液の投与の数回に一度の割合で腹膜劣化抑制剤を含む腹膜透析液を投与するなどの方法を採ることもできる。
【0025】
上記のような腹膜劣化抑制剤と、少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質とを含む腹膜透析液も本発明として提供される。また、高浸透圧液と別の腹膜劣化抑制剤とのセットも、本発明の腹膜透析液として提供される。
これら本発明の腹膜透析液を構成する高浸透圧液そのものは、本発明の腹膜劣化抑制剤を含まないことを除けば腹膜透析液として公知の透析液を特に制限なく適用できる。
【0026】
腹膜透析液(高浸透圧液)は、少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む。この浸透圧調節物質は、生体に安全な浸透圧調節物質であればよく、そのような物質として知られている糖類、ペプチド、アミノ酸などが挙げられるが、糖類が望ましい。糖類としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖類、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロースなどの二糖類、グリコーゲン、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、オリゴグリコシルスクロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などの多糖類、マルチトール、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコールなど、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうちでも望ましくは、グルコースおよびグルコース誘導体である。グルコース誘導体は、グルコースを化学修飾したものでも構わないし、グルコースを基本単位とする多糖類でも構わない。さらに望ましくは、D-グルコースである。
【0027】
腹膜透析液(高浸透圧液)は、上記浸透圧調節物質を、通常、0.1〜10w/v%の濃度で含む。
腹膜透析液(高浸透圧液)の浸透圧は、通常、260mOsm/kg−600mOsm/kg程度、さらには280mOsm/kg−500mOsm/kg程度であるの好ましい。
【0028】
高浸透圧液としては、具体的に、腹膜透析に汎用されているグルコースの溶液(D-グルコース溶液)は勿論のこと、浸透圧調節物質として、約0.5〜約4.0w/v%のグルコースと、約0.25〜約4.0w/v%のポリペプチドを含む透析液でもよい。このペプチドを含む透析液の詳細は、特開2005−162767号公報に記載されており、ここにある記載を引用して本明細書に記載されているものとすることができる。
【0029】
また本発明では、浸透圧調節物質として、アミノ酸を、グルコースに代えて、またはグルコースとともに含む透析液も挙げられる。たとえば、特許第3483885号に提案されたアミノ酸の特定組成混合物:メチオニンが総溶液100mL当たり48mg以下で、フェニルアラニン/チロシン比が約1.3〜約3.0であり、そして塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が約1〜約2.2である、ロイシン、バリン、スレオニン、イソロイシン、リジン、ヒスチジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、アラニン、プロリン、アルギニン、グリシン、セリン、チロシン、アスパラギン酸塩、およびグルタミン酸塩のアミノ酸混合物を1.6w/v%以下の濃度で含む透析液を使用することもできる。
【0030】
本発明の腹膜透析液(高浸透圧液)は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じてさらに他の成分を含有していてもかまわない。たとえば、電解質(ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、クロルイオンなど)を含むことができる。
【0031】
また、腹膜透析液(高浸透圧液)は、酸性透析液でも中性透析液でも構わないが、中性透析液が望ましい。腹膜透析液(高浸透圧液)のpHは、通常、pH5.0−7.5程度さらには6.0−7.5程度であるのが望ましい。
【0032】
腹膜透析液の電気的中性を保つために、乳酸イオン、重炭酸イオンなどのアルカリ化剤などを含むこともできる。また、たとえば総カチオンとクロルイオンとの濃度差に応じて有機酸などを含有することができる。このような有機酸としては、たとえばプロピオン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、オキサル酢酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−L−システイン、グルタル酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、グルコン酸、N−アセチル−L−アスパラギン酸、N−アセチル−L−グルタミン酸、N−アセチル−L−メチオニン、N−アセチル−L−プロリン、N−アセチル−L−バリン、N−アセチル−L−グルタミン、N−アセチル−L−アルギニン、N−アセチル−L−ヒスチジン、N−アセチル−L−ロイシン、N−アセチル−L−トリプトファン、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0033】
腹膜透析液(高浸透圧液)の調製方法は特に限定されず、たとえば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、乳酸ナトリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩、重炭酸ナトリウムなどのカチオンおよびクロルイオン源、酸成分などを水に溶解する一般的な腹膜透析液と同様に調製することができる。
各溶質を溶解して調製された腹膜透析液は、軟質プラスチック製バッグあるいはガラス製容器などに封入した後、高圧蒸気滅菌や熱水滅菌を行うことが望ましい。
【0034】
腹膜透析液(高浸透圧液)の組成例を以下に示す。
ナトリウムイオン(Na+):125−135mEq/L、
カルシウムイオン(Ca2+):2−4mEq/L、
マグネシウムイオン(Mg2+):0.5−1.5mEq/L、
クロルイオン(Cl-):88−106mEq/L、
グルコース:1.0−4.5w/v%、および
乳酸イオンを含むアルカリ化剤:35−40mEq/L。
【0035】
他の、より具体的な腹膜透析液(高浸透圧液)の組成例を表1に示す。
【表1】
【実施例】
【0036】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実験例1)
D-グルコースのエンドセリン(ET−1)およびエンドセリン受容体産生に及ぼす影響を調べた。
<材料>
以下の実験で使用したヒト腹膜中皮細胞は、外科手術で切除されたヒト大網を以下の処理をしたものである。大網を3cm角に分割し、PBSで洗浄後、0.05%トリプシン加PBSに入れ、37℃で振盪しながらインキュベーションした。30分後、上清を回収し、240Gで5分間遠心して上清を除去した。残った細胞を、10%PBS加DMEMに懸濁し、37℃、5%CO2、95%RHで培養した。大網には、新鮮な0.05%トリプシン加PBSを添加して再度、37℃で振盪しながら30分間インキュベーションした。この操作を計4回繰り返し、中皮細胞を入手した。なお、例1以外も同様である。
【0038】
(1)D-グルコースを添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら2つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0039】
(2)D-グルコースを添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の3ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1.5%D-グルコース、0.5%牛胎児血清/DME培地/2.5%D-グルコース、0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら4つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0040】
(3)腹膜中皮細胞のRNA採取およびcDNA作成
上記(1)、(2)で培養した細胞の培地を廃棄し、PBSで洗浄した後、キット(RNeasy Mini kit、QIAGEN)を用いてRNAを採取した。
採取したRNAは、キット(Omniscript RT kit、QIAGEN)を用いて逆転写反応させ、cDNAを作成した。
【0041】
(4)エンドセリン受容体mRNA発現の分析
上記(3)で作成したcDNA、TaqMan Universal PCR Mix(Applied Biosystems)、TaqMan Probe(Applied Biosystems)を用いて、Real time-polymerase chain reaction(以下、RT−PCR)(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。使用したTaqMan Probe製品名は以下のとおりである。
ETA receptor:Hs 00609865_m1
ETB receptor:Hs 00240747_m1
β-actin:Hs 99999903_m1,
【0042】
上記(1)の各ウェルのエンドセリンA受容体およびエンドセリンB受容体のmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。これら結果を図1および図2に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のエンドセリンA受容体のmRNA発現量は全く変化しなかったのに対し(図1)、D-グルコースに暴露した細胞のエンドセリンB受容体のmRNA発現量は暴露しなかった細胞の13倍に増加していた(図2)。
このことから、透析液中に存在するD-グルコースによって、エンドセリンB受容体の発現量が増加することが示された。
【0043】
(5)エンドセリン−1mRNA発現の分析
上記(2)で作成したcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのエンドセリン−1のmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図3に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のエンドセリン−1のmRNA発現量は濃度依存的に増加し、4%グルコースでは暴露しなかった細胞の4.1倍に増加していた。このことから、透析液中に存在するD-グルコースによって、エンドセリン−1が産生されることが示された。
【0044】
(実験例2)
L-グルコースのエンドセリン(ET−1)産生に及ぼす影響を調べた。
(1)L-グルコースを添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/4%L-グルコースに交換した。これら2つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0045】
(2)エンドセリン−1mRNA発現の分析
上記(1)で培養した細胞から、実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、プライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのエンドセリン−1のmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図4に示す。
L-グルコースに暴露した細胞のエンドセリン−1のmRNA発現量は暴露しなかった細胞の2.2倍に増加していた。このことから、浸透圧調節物質であるL-グルコースによって、エンドセリン−1が産生されることが示された。
【0046】
(実験例3)
エンドセリン(ET−1)が腹膜中皮細胞のファイブロネクチン発現に与える影響を調べた。
(1)エンドセリン-1を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の3ウェルの培地をそれぞれ0.5%牛胎児血清/DME培地/0.1nMエンドセリン−1、0.5%牛胎児血清/DME培地/1nMエンドセリン−1、0.5%牛胎児血清/DME培地/10nMエンドセリン−1に交換した。これら2つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0047】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で培養した細胞から、実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図5に示す。
10nMのエンドセリン−1に暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.7倍に増加していた。このことから、中皮細胞のファイブロネクチン産生は、エンドセリン−1が原因物質であることが示された。
【0048】
(実験例4)
エンドセリンB受容体選択的拮抗剤のファイブロネクチン産生に及ぼす影響を、D-グルコースのファイブロネクチン産生に及ぼす影響との対比において調べた。
(1)BQ−788を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1μM BQ−788に交換し、1時間37℃、95%RHで培養した。次にこのウェルにD-グルコースを最終濃度4%になる様に添加した。この時、他の2つのウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地および0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら3つのウェルを37℃、95%RHで8時間および24時間培養した。
【0049】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で8時間培養し、作成したcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図6に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。
【0050】
(3)上清中に分泌されたファイブロネクチンの測定
上記(1)で24時間培養した細胞上清を採取し、BCA Protein Assay Kit(Pierce)でタンパク濃度を測定した。
また、Assay Max Human Fibronectin ELISA Kit(Assay Pro)でファイブロネクチン濃度を測定した。上清中のファイブロネクチン濃度をタンパク濃度で補正し、比較した。この結果を図7に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンの分泌量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンの分泌量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。このことから、本発明のエンドセリンB受容体選択的拮抗薬を添加することによって、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの分泌を抑えられることが示された。
【0051】
(実験例5)
エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗剤のファイブロネクチン産生に及ぼす影響を、D-グルコースのファイブロネクチン産生に及ぼす影響との対比において調べた。
(1)BQ−123、BQ−788を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1μM BQ−123(エンドセリン受容体A拮抗薬として入手可能な試験薬)/1μM BQ−788に交換し、1時間37℃、95%RHで培養した。次にこのウェルにD-グルコースを最終濃度4%になる様に添加した。この時、他の2つのウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地および0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら3つのウェルを37℃、95%RHで8時間および24時間培養した。
【0052】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で8時間培養した細胞から実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。
このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図8に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−123、BQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。このことから、本発明のエンドセリンAエンドセリンB受容体非選択的拮抗薬を添加することによって、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられることが示された。
【0053】
(3)上清中に分泌されたファイブロネクチンの測定
上記(1)で24時間培養した細胞上清を採取し、BCA Protein Assay Kit(Pierce)でタンパク濃度を測定した。また、Assay Max Human Fibronectin ELISA Kit(Assay Pro)でファイブロネクチン濃度を測定した。上清中のファイブロネクチン濃度をタンパク濃度で補正し、比較した。
この結果を図9に示す。D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−123、BQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。このことから、本発明のエンドセリンAエンドセリンB受容体非選択的拮抗薬を添加することによって、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられることが示された。
【0054】
(実験例6)
エンドセリンA受容体選択的拮抗剤のファイブロネクチン産生に及ぼす影響を、D-グルコースのファイブロネクチン産生に及ぼす影響との対比において調べた。
(1)BQ−123を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1μM BQ−123に交換し、1時間37℃、95%RHで培養した。次にこのウェルにD-グルコースを最終濃度4%になる様に添加した。この時、他の2つのウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地および0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら3つのウェルを37℃、95%RHで8時間および24時間培養した。
【0055】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で8時間培養した細胞から実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図10に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。予めBQ−123で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露した細胞よりやや減少したが、D-グルコースに暴露しなかった細胞と同等にはならなかった。
このことから、エンドセリンA選択的拮抗薬の添加では、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられないことが示された。
【0056】
(3)上清中に分泌されたファイブロネクチンの測定
上記(1)で24時間培養した細胞上清を採取し、BCA Protein Assay Kit(Pierce)でタンパク濃度を測定した。また、Assay Max Human Fibronectin ELISA Kit(Assay Pro)でファイブロネクチン濃度を測定した。上清中のファイブロネクチン濃度をタンパク濃度で補正し、比較した。この結果を図11に示す。D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。予めBQ−123で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露した細胞よりやや減少したが、D-グルコースに暴露しなかった細胞と同等にはならなかった。
このことから、エンドセリンA選択的拮抗薬の添加では、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられないことが示された。
【0057】
本実験例で使用したプライマーの配列を表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の腹膜劣化抑制剤および腹膜透析液は、腹膜透析の適用期間を延長でき、腹膜透析に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、D-グルコースを添加した細胞のエンドセリンA受容体のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図2】図2は、D-グルコースを添加した細胞のエンドセリンB受容体のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図3】図3は、D-グルコースを添加した細胞のエンドセリン−1のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図4】図4は、L-グルコースを添加した細胞のエンドセリン−1のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図5】図5は、エンドセリン−1を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図6】図6は、BQ-788を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図7】図7は、BQ-788を添加した細胞のファイブロネクチンの相対分泌量を示すグラフである。
【図8】図8は、BQ−123、BQ−788を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図9】図9は、BQ−123、BQ−788を添加した細胞のファイブロネクチンの相対分泌量を示すグラフである。
【図10】図10は、BQ−123を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図11】図11は、BQ−123を添加した細胞のファイブロネクチンの相対分泌量を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜透析に係る腹膜劣化抑制剤および腹膜透析液に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性および急性腎不全に罹患し、腎臓の機能が著しく低下すると、透析療法が適用される。透析療法は、体内から余剰水分を除去することによって体液の組成を一定に保つとともに、体液中の老廃物(尿毒素物質)などの溶質を除去する血液浄化療法である。透析療法としては、主に、ダイアライザーを含む血液体外循環回路を用いる血液透析と、腹腔内に透析液を貯留させ、半透過性の腹膜を透析膜として利用して体液を透析およびろ過する腹膜透析が知られている。
【0003】
より具体的に、腹膜透析では、腹腔内に貯留させる透析液の浸透圧を高くして、透析液と、腹膜上の毛細血管中の体液(血液)との間に浸透圧較差を生じさせることにより、体内に蓄積した余剰水分を毛細血管の限外ろ過能を介して透析液中に除去する。血液中の老廃物は、溶質として透析液中に拡散(排出)され、一方、透析液中のCa2+イオンなどの電解質は、血液中に拡散(補給)される。腹膜透析のドライビングフォースの基となる透析液中の浸透圧調節物質は、現在、主にD-グルコースであり、具体的に、1.5%〜4%のグルコース溶液が透析液として適用されている。
【0004】
腹膜透析療法は、CAPD(continuous ambulatory peritoneal dialysis)と称されるように、透析液を交換しながら常に腹腔内に透析液を貯留させておけば透析が連続的にに行われる。血液透析に比べて循環系および生体内部環境に与える影響が少ない上に、一日数回の透析液交換を自宅や職場で行うことができ、患者の拘束時間が少ないなどの利点を有しており、今や慢性腎不全治療の一つとして世界的に普及している。
【0005】
上記透過膜として利用する腹膜は、中皮細胞層、コラーゲン層および脂肪層からなり、中皮細胞、線維芽細胞、脂肪細胞などを含む。腹膜表面は、単層の中皮細胞が覆い、腹腔内の臓器と接触しても摩擦の起こらない表面を形成し、臓器全体を保護している。ところが腹膜透析の長期間継続では、この腹膜表面の中皮細胞が傷害を受け、腹膜が劣化する場合があることが知られている。具体的には、腹膜の中皮細胞が刺激を受けてコラーゲンやファイブロネクチンなど細胞外マトリックスを形成する物質を放出することに端を発し、これらの物質に刺激されて線維芽細胞などが増殖したり、さらに同様の物質を放出することで、腹膜のコラーゲン層が厚くなり、最終的には中皮細胞が脱落し、cellular desertと呼ばれる腹膜(機能)劣化状態すなわち腹膜線維症となる(非特許文献1参照)。
【0006】
腹膜劣化は、グルコース透析液を滅菌する際に発生するGDPs(Gluose Degradation Products)と呼ばれる物質や、酸性透析液の刺激、グルコースの代謝産物であるAGE(Advanced glycation endproducts)によって発生すると言われている。これまでに、透析液の中性化やGDPsを低減する試みが行われてきたが、グルコース(浸透圧調節物質)そのものの存在により発生する腹膜劣化は回避困難なものであった。
【0007】
腹膜透析における腹膜機能低下を防止するものとして、HMG−CoA還元酵素阻害剤を有効成分として含有する腹膜劣化防止剤(特許文献1参照)、HGF(Hepatocyte Growth Factor)HGFを含有する腹膜劣化抑制剤(特許文献2参照)の提案もある。
【0008】
【特許文献1】特開2004−269461号公報
【特許文献2】特開2001−226288号公報
【非特許文献1】P. J. Margetts et.al., "BASIC MECHANISMS AND CKINICAL IMPLICATIONS OF PERITONEAL FIBROSIS", Peritoneal Dialysis International, 2003, Vol.23, pp.530-541
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な腹膜劣化抑制剤およびこれを含む腹膜透析析液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、腹膜透析による腹膜劣化の課題を解決すべく、特に腹膜繊維症を誘起する中皮細胞からのファイブロネクチンなどの細胞外マトリックス形成物質の放出を抑制しうる薬剤を見出すべく、鋭意検討したところ、エンドセリン(endothelin:ET)受容体拮抗剤によって上記課題を解決しうることを見出した。これについて説明する。エンドセリンは、血管内皮細胞由来の21個のアミノ酸残基よりなるペプチドで、3種のアイソペプチド(エンドセリン−1(ET−1)、エンドセリン−2(ET−2),エンドセリン−3(ET−3))が同定されている。また、エンドセリン受容体は、各アイソペプチドに対する親和性に基づくエンドセリンA(ETA)受容体およびエンドセリンB(ETB)受容体の2種のサブタイプが存在し、臓器によってその分布が異なっている。エンドセリンは強力な血管収縮作用および血管平滑筋増殖作用があり、中でもET−1は強力かつ持続的な血管収縮作用があることが知られ、内皮細胞ではET−1が産生されることも知られている。しかし、中皮細胞におけるエンドセリンとファイブロネクチンなどの細胞外マトリックス形成物質との関連性は今まで報告されておらず、知られていない。
【0011】
本発明者は、ファイブロネクチンなどの細胞外マトリックス形成物質の放出を誘起するものとして、特に上記エンドセリンに注目し、腹膜中皮細胞におけるエンドセリンとファイブロネクチンとの関係、浸透圧調節物質(グルコース)の存在とエンドセリン産生増殖の関係を調べた。実施例として後述するとおり、グルコース添加の中皮細胞培養により、ET−1の産生増殖、エンドセリンB受容体の特異的な発現増加がそれぞれ確認された。さらに、ET−1添加の中皮細胞培養での、ファイブロネクチンmRNA発現量の増加が確認でき、ET−1のファイブロネクチン産生への関与が確認できた。これら知見に基づき、グルコースを含む培養系に、エンドセリン受容体拮抗剤を添加することにより、腹膜中皮細胞のファイブロネクチンmRNA発現量、ファイブロネクチン分泌量の増加は抑制されることが確認され、本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するものとして、以下の本発明が提供される。
【0012】
(1)エンドセリン受容体拮抗薬を有効成分として含む腹膜劣化抑制剤。
(2)前記エンドセリン受容体拮抗薬が、少なくともエンドセリンB受容体に結合する拮抗薬である(1)に記載の腹膜劣化抑制剤。
(3)前記エンドセリン受容体拮抗薬が、エンドセリンB受容体選択的拮抗薬、エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬およびこれらの組合せからなる群より選ばれる少なくとも1つである(1)に記載の腹膜劣化抑制剤。
【0013】
(4)少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質と、(1)ないし(3)のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤とを含む腹膜透析液。
(5)前記腹膜劣化抑制剤の有効成分であるエンドセリン受容体拮抗薬を0.01pM〜1mMの濃度で含む(4)に記載の腹膜透析液。
(6)前記浸透圧調節物質が糖類である(4)または(5)に記載の腹膜透析液。
(7)前記糖類がグルコースおよびグルコース誘導体から選ばれる(6)に記載の腹膜透析液。
(8)前記浸透圧調節物質を0.1〜10w/v%の濃度で含む(4)ないし(7)のいずれかに記載の腹膜透析液。
【0014】
(9)少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む高浸透圧液と、これとは別の(1)ないし(3)のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤との組合せからなる腹膜透析液。
(10)前記腹膜劣化抑制剤が、エンドセリン受容体拮抗薬を0.01pM〜1mMの濃度で含む液体である(9)に記載の腹膜透析液。
(11)前記浸透圧調節物質が糖類である(9)または(10)に記載の腹膜透析液。
(12)前記糖類がグルコースおよびグルコース誘導体から選ばれる(11)に記載の腹膜透析液。
(13)前記高浸透圧液が、前記浸透圧調節物質を0.1〜10w/v%の濃度で含む(9)ないし(12)のいずれかに記載の腹膜透析液。
(14)前記腹膜劣化抑制剤を、前記高浸透圧液と別のタイミングで腹腔内に適用する(9)ないし(13)のいずれかに記載の腹膜透析液の使用方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の腹膜劣化抑制剤およびこの腹膜劣化抑制剤を含む腹膜透析液によれば、腹膜透析の長期間継続による腹膜劣化を抑制することができるため、腹膜透析の期間を延長することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る腹膜劣化抑制剤および腹膜透析液について具体的に説明する。
本発明の腹膜劣化抑制剤は、エンドセリン受容体拮抗薬を有効成分として含む。上述のとおり、エンドセリン受容体は、エンドセリンA受容体とエンドセリンB受容体の2種類がある。これらの受容体に対する拮抗薬が開発されており、機能として分類するとエンドセリンA受容体を選択的にブロックするもの、エンドセリンB受容体を選択的にブロックするもの、エンドセリンA受容体とエンドセリンB受容体両方を一度にブロックするものが挙げられる。
【0017】
本発明で使用されるエンドセリン受容体拮抗薬は、これらのうちでも少なくともエンドセリンB受容体に結合する拮抗薬であり、すなわち、エンドセリンB受容体選択的拮抗薬の1種または2種以上であっても、エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬の1種または2種以上であっても、これらの組合せであってもよい。また、本発明で使用されるエンドセリン受容体拮抗薬は、ペプチド性、非ペプチド性のいずれの構造に分類されるものでもよい。
【0018】
エンドセリン受容体拮抗薬として市販されているものを使用することができる。たとえばエンドセリンB受容体選択的拮抗薬としては、ペプチド性では、BQ−788(Calbiochem)、IRL2500(Chiba-Geigy)、RES701−1(Kyowa)が挙げられ、非ペプチド性では、A−192621(Abbott)、K−8794(Kowa)が挙げられる。エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬としては、ペプチド性では、D142893(Parke-Davis)、TAK044(Takeda)が挙げられ、非ペプチド性では、A−182086(Abbott)、L−754142(Merck)、LU224332(Knoll)、Ro46−2005(Hoffmann-La Roche)、Bosentan(Hoffmann-La Roche, Actelion)、SB209670(GlaxoSmithKline)、Enrasentan(GlaxoSmithKline)が挙げられる。
【0019】
エンドセリン受容体は、B,A両タイプとも同定されており、その蛋白質、遺伝子情報はNCBIのPubMedなどから入手することができる。このことから、少なくともエンドセリンB受容体のmRNAの相補的塩基配列(アンチセンス)として設計されるDNAを、本発明の拮抗剤として挙げることもできる。
【0020】
本発明の腹膜劣化抑制剤の役目は、腹膜表面の中皮細胞からファイブロネクチンなどの細胞外マトリックスを形成する物質を放出するのを防止することである。すなわち、腹膜透析によって中皮細胞が高い浸透圧状態下に曝されたり、高濃度のD-グルコースにさらされることによって中皮細胞からエンドセリン−1が放出されると考えられる。中皮細胞はこのエンドセリン−1にオートクライン的あるいはパラクライン的に反応し、ファイブロネクチンなどの細胞外マトリックスを形成する物質を放出する。本発明の腹膜劣化抑制剤およびこれを含む場合の腹膜透析液によって、エンドセリン−1が中皮細胞に作用するのを抑制し、細胞外マトリックスを形成する物質を放出させなくするものである。
【0021】
本発明の腹膜劣化抑制剤は、有効成分としての上記エンドセリン受容体拮抗薬のみでも構わないし、他の成分を含有していても構わない。腹膜劣化抑制剤は、液状すなわち有効成分が液体に溶解した状態であるのが好ましく、この場合、他の成分は、通常、この液体中に含まれる溶質である。腹膜劣化抑制剤は予め液体に溶解させておいても構わないし、患者に投与する直前に溶解させても構わない。投与時に、液体に溶解した状態であれば、腹膜劣化抑制剤を効率よく腹膜(目的部位)にデリバリーできる。溶解する液体は、水(純水、滅菌水、RO水、蒸留水)、または有効成分以外の成分を含む薬液(たとえば、生理食塩水、PBS、Locke液、Ringer液、Tyrode液、Earle液、krebs液、Dulbecco液などの等張液、腹膜透析液(高浸透圧液)、腹膜洗浄液)などが挙げられる。
【0022】
腹膜劣化抑制剤を等張液に溶解させた場合、生体の浸透圧と類似した浸透圧になるため、腹膜への負担を最低限に抑えることができる。
また、腹膜劣化抑制剤を腹膜透析液(高浸透圧液)に溶解した態様は、本発明における腹膜透析液の一態様として提供されるものである。したがって本明細書では、腹膜劣化抑制剤を含まない腹膜透析液を、便宜上、高浸透圧液と称することもある。
【0023】
腹膜劣化抑制剤の溶解濃度としては、エンドセリン受容体拮抗薬の濃度が、0.01pM〜1mMになるのが望ましく、1pM〜1μMがより望ましい。なお、腹膜劣化抑制剤は、粉末、顆粒状で目的部位に投与されても構わない。
【0024】
腹膜劣化抑制剤を腹腔内に投与する方法としては、高浸透圧液と、別のタイミングで、または同時に腹腔内に適用することができる。たとえば腹膜透析液(高浸透圧液)に含ませて腹膜透析時に目的部位に投与する方法、腹膜透析用カテーテルを用いて腹腔内に投与する方法などが挙げられる。腹膜透析液(高浸透圧液)に含ませて腹膜透析と同時に投与する場合、透析と同時に腹膜を保護することができるだけでなく、別途腹膜劣化抑制剤を投与する手間が省けるため大変有用である。また、高浸透圧液の投与の数回に一度の割合で腹膜劣化抑制剤を含む腹膜透析液を投与するなどの方法を採ることもできる。
【0025】
上記のような腹膜劣化抑制剤と、少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質とを含む腹膜透析液も本発明として提供される。また、高浸透圧液と別の腹膜劣化抑制剤とのセットも、本発明の腹膜透析液として提供される。
これら本発明の腹膜透析液を構成する高浸透圧液そのものは、本発明の腹膜劣化抑制剤を含まないことを除けば腹膜透析液として公知の透析液を特に制限なく適用できる。
【0026】
腹膜透析液(高浸透圧液)は、少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む。この浸透圧調節物質は、生体に安全な浸透圧調節物質であればよく、そのような物質として知られている糖類、ペプチド、アミノ酸などが挙げられるが、糖類が望ましい。糖類としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖類、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロースなどの二糖類、グリコーゲン、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、オリゴグリコシルスクロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などの多糖類、マルチトール、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコールなど、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうちでも望ましくは、グルコースおよびグルコース誘導体である。グルコース誘導体は、グルコースを化学修飾したものでも構わないし、グルコースを基本単位とする多糖類でも構わない。さらに望ましくは、D-グルコースである。
【0027】
腹膜透析液(高浸透圧液)は、上記浸透圧調節物質を、通常、0.1〜10w/v%の濃度で含む。
腹膜透析液(高浸透圧液)の浸透圧は、通常、260mOsm/kg−600mOsm/kg程度、さらには280mOsm/kg−500mOsm/kg程度であるの好ましい。
【0028】
高浸透圧液としては、具体的に、腹膜透析に汎用されているグルコースの溶液(D-グルコース溶液)は勿論のこと、浸透圧調節物質として、約0.5〜約4.0w/v%のグルコースと、約0.25〜約4.0w/v%のポリペプチドを含む透析液でもよい。このペプチドを含む透析液の詳細は、特開2005−162767号公報に記載されており、ここにある記載を引用して本明細書に記載されているものとすることができる。
【0029】
また本発明では、浸透圧調節物質として、アミノ酸を、グルコースに代えて、またはグルコースとともに含む透析液も挙げられる。たとえば、特許第3483885号に提案されたアミノ酸の特定組成混合物:メチオニンが総溶液100mL当たり48mg以下で、フェニルアラニン/チロシン比が約1.3〜約3.0であり、そして塩基性アミノ酸/酸性アミノ酸比が約1〜約2.2である、ロイシン、バリン、スレオニン、イソロイシン、リジン、ヒスチジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、アラニン、プロリン、アルギニン、グリシン、セリン、チロシン、アスパラギン酸塩、およびグルタミン酸塩のアミノ酸混合物を1.6w/v%以下の濃度で含む透析液を使用することもできる。
【0030】
本発明の腹膜透析液(高浸透圧液)は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じてさらに他の成分を含有していてもかまわない。たとえば、電解質(ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、クロルイオンなど)を含むことができる。
【0031】
また、腹膜透析液(高浸透圧液)は、酸性透析液でも中性透析液でも構わないが、中性透析液が望ましい。腹膜透析液(高浸透圧液)のpHは、通常、pH5.0−7.5程度さらには6.0−7.5程度であるのが望ましい。
【0032】
腹膜透析液の電気的中性を保つために、乳酸イオン、重炭酸イオンなどのアルカリ化剤などを含むこともできる。また、たとえば総カチオンとクロルイオンとの濃度差に応じて有機酸などを含有することができる。このような有機酸としては、たとえばプロピオン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、オキサル酢酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−L−システイン、グルタル酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、グルコン酸、N−アセチル−L−アスパラギン酸、N−アセチル−L−グルタミン酸、N−アセチル−L−メチオニン、N−アセチル−L−プロリン、N−アセチル−L−バリン、N−アセチル−L−グルタミン、N−アセチル−L−アルギニン、N−アセチル−L−ヒスチジン、N−アセチル−L−ロイシン、N−アセチル−L−トリプトファン、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0033】
腹膜透析液(高浸透圧液)の調製方法は特に限定されず、たとえば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、乳酸ナトリウム、カルシウム塩、マグネシウム塩、重炭酸ナトリウムなどのカチオンおよびクロルイオン源、酸成分などを水に溶解する一般的な腹膜透析液と同様に調製することができる。
各溶質を溶解して調製された腹膜透析液は、軟質プラスチック製バッグあるいはガラス製容器などに封入した後、高圧蒸気滅菌や熱水滅菌を行うことが望ましい。
【0034】
腹膜透析液(高浸透圧液)の組成例を以下に示す。
ナトリウムイオン(Na+):125−135mEq/L、
カルシウムイオン(Ca2+):2−4mEq/L、
マグネシウムイオン(Mg2+):0.5−1.5mEq/L、
クロルイオン(Cl-):88−106mEq/L、
グルコース:1.0−4.5w/v%、および
乳酸イオンを含むアルカリ化剤:35−40mEq/L。
【0035】
他の、より具体的な腹膜透析液(高浸透圧液)の組成例を表1に示す。
【表1】
【実施例】
【0036】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実験例1)
D-グルコースのエンドセリン(ET−1)およびエンドセリン受容体産生に及ぼす影響を調べた。
<材料>
以下の実験で使用したヒト腹膜中皮細胞は、外科手術で切除されたヒト大網を以下の処理をしたものである。大網を3cm角に分割し、PBSで洗浄後、0.05%トリプシン加PBSに入れ、37℃で振盪しながらインキュベーションした。30分後、上清を回収し、240Gで5分間遠心して上清を除去した。残った細胞を、10%PBS加DMEMに懸濁し、37℃、5%CO2、95%RHで培養した。大網には、新鮮な0.05%トリプシン加PBSを添加して再度、37℃で振盪しながら30分間インキュベーションした。この操作を計4回繰り返し、中皮細胞を入手した。なお、例1以外も同様である。
【0038】
(1)D-グルコースを添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら2つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0039】
(2)D-グルコースを添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の3ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1.5%D-グルコース、0.5%牛胎児血清/DME培地/2.5%D-グルコース、0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら4つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0040】
(3)腹膜中皮細胞のRNA採取およびcDNA作成
上記(1)、(2)で培養した細胞の培地を廃棄し、PBSで洗浄した後、キット(RNeasy Mini kit、QIAGEN)を用いてRNAを採取した。
採取したRNAは、キット(Omniscript RT kit、QIAGEN)を用いて逆転写反応させ、cDNAを作成した。
【0041】
(4)エンドセリン受容体mRNA発現の分析
上記(3)で作成したcDNA、TaqMan Universal PCR Mix(Applied Biosystems)、TaqMan Probe(Applied Biosystems)を用いて、Real time-polymerase chain reaction(以下、RT−PCR)(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。使用したTaqMan Probe製品名は以下のとおりである。
ETA receptor:Hs 00609865_m1
ETB receptor:Hs 00240747_m1
β-actin:Hs 99999903_m1,
【0042】
上記(1)の各ウェルのエンドセリンA受容体およびエンドセリンB受容体のmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。これら結果を図1および図2に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のエンドセリンA受容体のmRNA発現量は全く変化しなかったのに対し(図1)、D-グルコースに暴露した細胞のエンドセリンB受容体のmRNA発現量は暴露しなかった細胞の13倍に増加していた(図2)。
このことから、透析液中に存在するD-グルコースによって、エンドセリンB受容体の発現量が増加することが示された。
【0043】
(5)エンドセリン−1mRNA発現の分析
上記(2)で作成したcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのエンドセリン−1のmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図3に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のエンドセリン−1のmRNA発現量は濃度依存的に増加し、4%グルコースでは暴露しなかった細胞の4.1倍に増加していた。このことから、透析液中に存在するD-グルコースによって、エンドセリン−1が産生されることが示された。
【0044】
(実験例2)
L-グルコースのエンドセリン(ET−1)産生に及ぼす影響を調べた。
(1)L-グルコースを添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/4%L-グルコースに交換した。これら2つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0045】
(2)エンドセリン−1mRNA発現の分析
上記(1)で培養した細胞から、実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、プライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのエンドセリン−1のmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図4に示す。
L-グルコースに暴露した細胞のエンドセリン−1のmRNA発現量は暴露しなかった細胞の2.2倍に増加していた。このことから、浸透圧調節物質であるL-グルコースによって、エンドセリン−1が産生されることが示された。
【0046】
(実験例3)
エンドセリン(ET−1)が腹膜中皮細胞のファイブロネクチン発現に与える影響を調べた。
(1)エンドセリン-1を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地に交換し、別の3ウェルの培地をそれぞれ0.5%牛胎児血清/DME培地/0.1nMエンドセリン−1、0.5%牛胎児血清/DME培地/1nMエンドセリン−1、0.5%牛胎児血清/DME培地/10nMエンドセリン−1に交換した。これら2つのウェルを37℃、95%RHで8時間培養した。
【0047】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で培養した細胞から、実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図5に示す。
10nMのエンドセリン−1に暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.7倍に増加していた。このことから、中皮細胞のファイブロネクチン産生は、エンドセリン−1が原因物質であることが示された。
【0048】
(実験例4)
エンドセリンB受容体選択的拮抗剤のファイブロネクチン産生に及ぼす影響を、D-グルコースのファイブロネクチン産生に及ぼす影響との対比において調べた。
(1)BQ−788を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1μM BQ−788に交換し、1時間37℃、95%RHで培養した。次にこのウェルにD-グルコースを最終濃度4%になる様に添加した。この時、他の2つのウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地および0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら3つのウェルを37℃、95%RHで8時間および24時間培養した。
【0049】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で8時間培養し、作成したcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図6に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。
【0050】
(3)上清中に分泌されたファイブロネクチンの測定
上記(1)で24時間培養した細胞上清を採取し、BCA Protein Assay Kit(Pierce)でタンパク濃度を測定した。
また、Assay Max Human Fibronectin ELISA Kit(Assay Pro)でファイブロネクチン濃度を測定した。上清中のファイブロネクチン濃度をタンパク濃度で補正し、比較した。この結果を図7に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンの分泌量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンの分泌量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。このことから、本発明のエンドセリンB受容体選択的拮抗薬を添加することによって、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの分泌を抑えられることが示された。
【0051】
(実験例5)
エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗剤のファイブロネクチン産生に及ぼす影響を、D-グルコースのファイブロネクチン産生に及ぼす影響との対比において調べた。
(1)BQ−123、BQ−788を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1μM BQ−123(エンドセリン受容体A拮抗薬として入手可能な試験薬)/1μM BQ−788に交換し、1時間37℃、95%RHで培養した。次にこのウェルにD-グルコースを最終濃度4%になる様に添加した。この時、他の2つのウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地および0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら3つのウェルを37℃、95%RHで8時間および24時間培養した。
【0052】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で8時間培養した細胞から実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。
このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図8に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−123、BQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。このことから、本発明のエンドセリンAエンドセリンB受容体非選択的拮抗薬を添加することによって、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられることが示された。
【0053】
(3)上清中に分泌されたファイブロネクチンの測定
上記(1)で24時間培養した細胞上清を採取し、BCA Protein Assay Kit(Pierce)でタンパク濃度を測定した。また、Assay Max Human Fibronectin ELISA Kit(Assay Pro)でファイブロネクチン濃度を測定した。上清中のファイブロネクチン濃度をタンパク濃度で補正し、比較した。
この結果を図9に示す。D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。しかし、予めBQ−123、BQ−788で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露しなかった細胞と変わらず、増加は見られなかった。このことから、本発明のエンドセリンAエンドセリンB受容体非選択的拮抗薬を添加することによって、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられることが示された。
【0054】
(実験例6)
エンドセリンA受容体選択的拮抗剤のファイブロネクチン産生に及ぼす影響を、D-グルコースのファイブロネクチン産生に及ぼす影響との対比において調べた。
(1)BQ−123を添加した腹膜中皮細胞の培養
ヒト腹膜中皮細胞を6ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清/DME培地でコンフルエントになるまで37℃、95%RHで培養した。培地を無血清DME培地に変更し、一昼夜培養した。その後、1ウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地/1μM BQ−123に交換し、1時間37℃、95%RHで培養した。次にこのウェルにD-グルコースを最終濃度4%になる様に添加した。この時、他の2つのウェルの培地を0.5%牛胎児血清/DME培地および0.5%牛胎児血清/DME培地/4%D-グルコースに交換した。これら3つのウェルを37℃、95%RHで8時間および24時間培養した。
【0055】
(2)ファイブロネクチンmRNA発現の分析
上記(1)で8時間培養した細胞から実験例1−(3)の方法を用いてcDNAを作成した。このcDNA、SYBR Green(Applied Biosystems)、表2に示すプライマーを用いてRT−PCR(ABI PRISM 7000、Applied Biosystems)を実施した。
各ウェルのファイブロネクチンのmRNAの発現をβ-アクチンのmRNA発現量で補正し、比較した。この結果を図10に示す。
D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。予めBQ−123で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露した細胞よりやや減少したが、D-グルコースに暴露しなかった細胞と同等にはならなかった。
このことから、エンドセリンA選択的拮抗薬の添加では、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられないことが示された。
【0056】
(3)上清中に分泌されたファイブロネクチンの測定
上記(1)で24時間培養した細胞上清を採取し、BCA Protein Assay Kit(Pierce)でタンパク濃度を測定した。また、Assay Max Human Fibronectin ELISA Kit(Assay Pro)でファイブロネクチン濃度を測定した。上清中のファイブロネクチン濃度をタンパク濃度で補正し、比較した。この結果を図11に示す。D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は暴露しなかった細胞の1.5倍に増加していた。予めBQ−123で培養した後、D-グルコースに暴露した細胞のファイブロネクチンのmRNA発現量は、D-グルコースに暴露した細胞よりやや減少したが、D-グルコースに暴露しなかった細胞と同等にはならなかった。
このことから、エンドセリンA選択的拮抗薬の添加では、D-グルコースによって発生し、腹膜劣化の原因となるファイブロネクチンの産生を抑えられないことが示された。
【0057】
本実験例で使用したプライマーの配列を表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の腹膜劣化抑制剤および腹膜透析液は、腹膜透析の適用期間を延長でき、腹膜透析に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、D-グルコースを添加した細胞のエンドセリンA受容体のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図2】図2は、D-グルコースを添加した細胞のエンドセリンB受容体のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図3】図3は、D-グルコースを添加した細胞のエンドセリン−1のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図4】図4は、L-グルコースを添加した細胞のエンドセリン−1のmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図5】図5は、エンドセリン−1を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図6】図6は、BQ-788を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図7】図7は、BQ-788を添加した細胞のファイブロネクチンの相対分泌量を示すグラフである。
【図8】図8は、BQ−123、BQ−788を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図9】図9は、BQ−123、BQ−788を添加した細胞のファイブロネクチンの相対分泌量を示すグラフである。
【図10】図10は、BQ−123を添加した細胞のファイブロネクチンのmRNA相対発現量を示すグラフである。
【図11】図11は、BQ−123を添加した細胞のファイブロネクチンの相対分泌量を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドセリン受容体拮抗薬を有効成分として含む腹膜劣化抑制剤。
【請求項2】
前記エンドセリン受容体拮抗薬が、少なくともエンドセリンB受容体に結合する拮抗薬である請求項1に記載の腹膜劣化抑制剤。
【請求項3】
前記エンドセリン受容体拮抗薬が、エンドセリンB受容体選択的拮抗薬、エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬およびこれらの組合せからなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1または2に記載の腹膜劣化抑制剤。
【請求項4】
少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質と、請求項1ないし3のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤とを含む腹膜透析液。
【請求項5】
前記腹膜劣化抑制剤の有効成分であるエンドセリン受容体拮抗薬を0.01pM〜1mMの濃度で含む請求項4に記載の腹膜透析液。
【請求項6】
前記浸透圧調節物質が糖類である請求項4または5に記載の腹膜透析液。
【請求項7】
前記糖類がグルコースおよびグルコース誘導体から選ばれる請求項6に記載の腹膜透析液。
【請求項8】
前記浸透圧調節物質を0.1〜10w/v%の濃度で含む請求項4ないし7のいずれかに記載の腹膜透析液。
【請求項9】
少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む高浸透圧液と、これとは別の請求項1ないし3のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤との組合せからなる腹膜透析液。
【請求項1】
エンドセリン受容体拮抗薬を有効成分として含む腹膜劣化抑制剤。
【請求項2】
前記エンドセリン受容体拮抗薬が、少なくともエンドセリンB受容体に結合する拮抗薬である請求項1に記載の腹膜劣化抑制剤。
【請求項3】
前記エンドセリン受容体拮抗薬が、エンドセリンB受容体選択的拮抗薬、エンドセリンA受容体/エンドセリンB受容体非選択的拮抗薬およびこれらの組合せからなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1または2に記載の腹膜劣化抑制剤。
【請求項4】
少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質と、請求項1ないし3のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤とを含む腹膜透析液。
【請求項5】
前記腹膜劣化抑制剤の有効成分であるエンドセリン受容体拮抗薬を0.01pM〜1mMの濃度で含む請求項4に記載の腹膜透析液。
【請求項6】
前記浸透圧調節物質が糖類である請求項4または5に記載の腹膜透析液。
【請求項7】
前記糖類がグルコースおよびグルコース誘導体から選ばれる請求項6に記載の腹膜透析液。
【請求項8】
前記浸透圧調節物質を0.1〜10w/v%の濃度で含む請求項4ないし7のいずれかに記載の腹膜透析液。
【請求項9】
少なくとも高浸透圧を維持するための浸透圧調節物質を含む高浸透圧液と、これとは別の請求項1ないし3のいずれかに記載の腹膜劣化抑制剤との組合せからなる腹膜透析液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−77026(P2007−77026A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262745(P2005−262745)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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