説明

膜ステロイド受容体アゴニストによるエリスロポエチン(EPO)作用の増強

本発明は、エリスロポエチン(EPO)の作用の増強剤としての膜ステロイド受容体アゴニストの使用に関する。本発明は、様々な器官および組織における細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および再生を制御するための、膜ステロイド受容体アゴニストとエリスロポエチンの併用にも関する。(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチンを含む組成物も、(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチンを含むキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスロポエチン(EPO)の作用の増強剤としての膜ステロイド受容体アゴニストの使用に関する。より具体的には、膜ステロイド受容体に対するアゴニストとして作用する、ステロイドの複合体、例えば、ステロイドと任意の種類のタンパク質(血清アルブミン、抗体または他のタンパク質、これらはステロイドを細胞中に入らせず、したがってステロイドが膜受容体のアゴニストとして機能することを可能にする)との巨大分子複合体、または微小分子複合体もしくは作用剤(例えば、カテキンもしくはエピカテキン二量体)が、造血または造血組織外の(extra-hemopoietic)組織中のエリスロポエチンの作用の賦活薬として使用される。本発明は、EPOの投与される用量を減少させ、その副作用を最小限にすることによって、様々な器官および組織における細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および再生を制御するために、膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOの両方をキットまたは組成物というかたちで組み合わせて使用し得ることを主張する。
【0002】
したがって、本発明はさらに、(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチンを含む組成物に関する。本発明はさらに、(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチンを含むキットに関する。
【背景技術】
【0003】
ステロイドは、ステロイド受容体と呼ばれる特定の細胞内分子標的を活性化する小親油性分子である。結合に続いて、受容体の二量体化、核移行、核酸の特定のステロイド制御型エレメントへの結合があり、引き続いてステロイドで制御される遺伝子の調節がおこる。いくつかの別々のステップが関係するために、この作用は完了するのに時間を要する(通常数時間である、Kumar MV、Tindall DJ.Prog.Nucleic Acid Res.Mol.Biol.1998;59:289〜306を参照)。しかし近年では、多くの報告が、この順序は常に順守されるわけではないことを示している。実際に、ステロイドは、古典的な受容体を欠いている細胞中で多くの効果を発揮するが、いくつかの効果は数分で起こり、古典的な核作用の仕組みに整合しない時間の差がある。
【0004】
これらの知見により、新規の受容体とみなされる、血漿膜中のステロイド結合要素が同定された(Brann DWら、Steroid Biochem.Mol.Biol.1995;52:113〜33;Grazzini Fら、Nature 1998;392:209〜512;Nadal Aら、FASEB J.1998;12:1341〜8;Nemere IおよびFarach−Carson MC.Biochem.Biophys.Res.Commun.1998;248:443〜9;Wehling M.Annu.Rev.Physiol.1997;59:365〜93を参照)。これらを通じて、ステロイドは、イオン動員(ion mobilization)、分泌および細胞骨格修飾を含めた短期作用を及ぼす。しかし、これらの膜ステロイド部位の性質は依然として理解しにくいが、最近、いくつかの報告により、特定のステロイド結合要素としての膜タンパク質(通常、7回膜貫通型Gタンパク質共役スーパーファミリーに属する)が同定された。一方、急速/非ゲノム性ステロイド作用は、血漿膜上に固定された古典的な細胞内受容体による、翻訳後修飾(例えば、パルミトイル化/ミリストイル化)、あるいはc−Src、PI3キナーゼもしくは未知の細胞型特異的膜タンパク質などの多くのシグナル伝達分子などとの相互作用(Beyer Cら、J Neurochem 2003;87:545〜50中に概説されている)、あるいは他の成長因子受容体との相互作用のいずれかを通じても起こり得る。膜ステロイド受容体のシグナル伝達には、PI3K−Akt経路の活性化が含まれ、それは、細胞型と検査されるステロイドに応じて、細胞生存および/またはアポトーシスにつながる(Kampa MおよびCastanas EMol Cell Endocrinol 2006;246:76〜82に概説されている)。
【0005】
膜ステロイド受容体が同定されるまで、ステロイドの免疫原性を増大させるために、ステロイド−タンパク質、具体的にはステロイド−アルブミン複合体が担体として使用されていた(Erlanger,B.ら(1957)J.Biol.Chem.228:713;Erlanger,B.ら(1959)J.Biol.Chem.234:1090;およびMethods Enzymol.1:144中のErlanger,B.F.ら(1967)を参照)。しかし、膜ステロイド受容体が同定された後も、これらの複合体に関心が増大し続けている、これは、これらが、膜レベルでのステロイド受容体の活性化を通じて、有用な追加の性質を提供し得るためである。例えば、WO2004006966では、in virtoおよびin vivoでの癌細胞中の各ステロイド種の特異的作用に基づく、癌細胞成長の特異的修飾因子としてのステロイド−タンパク質複合体の使用が開示されている(Kampa Mら、Mol Cancer Ther 2006;5:1342〜51;Hatzoglou Aら、J Clin Endocrinol Metab 2005;90:893〜903も参照)。
【0006】
EPOは、低酸素に応答して腎臓によって産生される30.4kDの糖タンパク質であり、赤血球前駆細胞に作用して赤血球形成を刺激する。EPOは、サイトカイン受容体スーパーファミリーのメンバーである、特定の膜受容体に結合することによってその作用を発揮する。EPOが結合した後、EPORは二量体化し、シグナル伝達カスケードを開始し、細胞増殖、分化および生存を制御する(Farrell F、およびLee A.Oncologist 2004;9 Suppl 5:18〜30に概説されている)、しかし、EPOとEPORの多数の赤血球外局在化および赤血球外作用が報告されている。EPO/EPORは、神経組織中で発見され、心臓および癌の細胞株を成長させ、潜在的な自己分泌/パラ分泌の役割の証拠を提供した(Lacombe CおよびMayeux P.Nephrol Dial Transplant 1999;14 Suppl 2:22〜8で考察された)。EPORは、多くの非赤血球細胞、例えば、内皮細胞、神経細胞およびライディッヒ細胞、骨髄芽球、および巨核球など、ならびに多くの癌細胞株または腫瘍中に存在する(例えば、Pelekanouら、2007;Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.16、2016〜23を参照)。
【0007】
ヒトの治療において、EPOは、腎不全または癌もしくは癌化学療法のいずれかによって重篤な貧血症に罹患している患者に投与される。異なるアミノ酸および/または異なるグリコシル化度を有する、ヒト組換え型EPOアナログが合成されている(米国特許第4,833,092号、同第4,859,765号、同第4,853,871号、同第4,863,857号、同第5,733,761号、同第5,641,670号、同第5,688,679号、同第5,733,764号、EP640619および国際特許WO93/09222、同WO94/12650、同WO95/31560、同WO90/11354、同WO91/06667、同WO91/09955、同WO99/05268、同WO99/66054、同WO99/38890、同WO99/11781、同WO98/05363を参照)。しかし、EPOの投与法は異なり、赤血球細胞の安定な血中レベルを維持するという、さらなる困難を提示している。この点において、新規のEPO複合体を通じて(WO2002049673、WO02/32957、WO94/28024を参照)、新規のEPO処方を発見することによって(EP1723172、WO2006120030、KR20050027837)、または異なる投与法の適用を発見することによって(WO2005097167)、様々な手法が試みられてきた。
【0008】
さらに、EPOは、鉄の代謝の修飾によって心保護的(WO2004047858)もしくは糖尿病患者において保護的(WO2004019972)であり、または酸素化を増大させて(WO2004/022577)もしくはWO02053580、WO02080676、ならびにUS2002/0086816および2003/0072737に開示されているように、直接の保護的および増強効果を通じて組織保護的であると開示されている。さらに、WO2005070450に開示されているように、低用量のエリスロポエチンにより、内皮前駆細胞の物理的運動、増殖および分化を刺激することができ、血管形成が刺激され、内皮前駆細胞の機能障害に関連する疾患が治療される。この作用剤の能力により、新規の医薬製剤およびEPOの用途がもたらされると主張されている。
【0009】
最後に、神経細胞、網膜、筋肉、心臓および腎臓を含めた、EPO応答性組織、器官または細胞の機能および生存率を増強し、回復する多数のEPO修飾またはEPO様分子が記載されている(PCT/US01/49479、US10/188,905、10/185,841、10/612,665)。この点において、EPORのキメラアナログを含む、別のクラスの分子が開発された(US2004/0214236)。上記の短い概説により、EPOは、赤血球刺激細胞作用に加えて、いくつかの細胞、組織および器官の保護的活性を有することが示されているが、これらはその最初に記載した作用と無関係である。
【0010】
したがって、EPOは、多くの非常に有用な治療用途を有し、本発明の組成物およびキットにより、EPOの作用を有利に増強し、延長し、増大させることができる手段が提供されることが分かる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしさらに、いくつか最近の報告により、癌患者における貧血症を治療するためにEPOを治療的に使用することに関して懸念が提起されたが、これはEPOが、一部の腫瘍細胞の成長を刺激するようにin vivoで作用する恐れがあるためである。これらの懸念を考慮して、FDAは、貧血症を治療するのに十分な用量を依然として提供する一方で、可能な限り低用量のEPOをそのような患者に使用するべきであるという、医者への指針指示を発行した(Steinbrook,R.、2007、N Engl J Med 356、2448〜2451;Fadlo R.Khuri,F.R.、2007、N Engl J Med 356、2445〜2448)。本発明は、膜ステロイド受容体アゴニストをEPOと組み合わせ、EPOの作用の増強剤として使用することによって、EPO療法に関連するこの潜在的な問題に対する解決法を提供し、FDA指針に従う方法を提供する。膜ステロイド受容体アゴニストのこの使用により、同じ治療効果(例えば、赤血球新生)を達成するのに使用されるEPOの用量を低減することが可能になり、それによってEPO投与の副作用、特に高用量のEPOに伴う副作用が最小限になる。EPO投与の副作用には、上記で議論したように腫瘍細胞成長の刺激が含まれる可能性があるが、従来の副作用、例えば、血栓塞栓性事故、心血管事故および死のリスクの増大なども含まれる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、膜ステロイド受容体アゴニストと併用することにより、エリスロポエチンの細胞生存/アポトーシス、成長、分化、再生および遊走に対する作用が増強されるという驚くべき発見を説明する。
【0013】
本発明の第1の実施形態では、本発明者らは、非赤血球細胞におけるエリスロポエチンの抗アポトーシス作用を説明する。
第2の実施形態では、本発明者らは、非赤血球細胞に対する膜受容体アゴニストのアポトーシス促進または抗アポトーシス/生存作用を示す。この効果は、使用される細胞およびステロイドに依存する。
【0014】
さらなる実施形態では、本発明者らは、赤血球細胞と完全に異なる細胞中にエストロゲンまたはアンドロゲン膜受容体アゴニストを加えることによって、EPO効果が増強されるという驚くべき発見を説明する。この効果には、細胞成長およびアポトーシスの誘導または阻害が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】T47D乳房上皮細胞のアポトーシスへのEPOの用量効果(左パネル)と時間効果を示す図である。
【図2】T47D乳房上皮細胞のアポトーシスへのE2−BSAの用量効果(左パネル)と時間効果を示す図である。
【図3】T47D上皮細胞のアポトーシスへの、EPOとE2−BSAの驚くべき相加的効果を示す図である。この効果は、長いインキュベーション時間(24時間)の後にのみ明白である。
【図4】T47D乳房上皮細胞のアポトーシスへのテストステロン−BSAの用量効果(左パネル)と時間効果を示す図である。
【図5】T47D乳房上皮細胞のアポトーシスへの、EPOとテストステロン−BSAの驚くべき相加的効果を示す図である。上のパネルは、テストステロン−BSA(四角)のアポトーシス促進作用を示す。対照的に、細胞を最大用量のテストステロン−BSA(10-7M)でインキュベートしたとき、約80%のアポトーシスが誘発され、EPOの濃度(円)を変更していくと、アポトーシスの完全な逆転が観察される。下のパネルは、EPO、テストステロン−BSA、およびそれらの等モル会合物(10-7M)の時間効果を示す。示したように、テストステロン−BSAの添加により、6時間インキュベーションした後でも、エリスロポエチンの抗アポトーシス効果が驚くほど増強される。
【図6】EPOまたはテストステロン−BSAのいずれかでプレインキュベートし、かつ抗アンドロゲン受容体(AR)抗体で免疫沈降し、EPORに対する抗体でブロットするか(A)、逆に、抗EPOR抗体で免疫沈降し、タンパク質のアミノ末端に対する抗AR抗体でブロットした(B)、T47D細胞膜の免疫共沈およびブロッティングの効果を示す図である。同じ細胞株に対する本発明者らの以前の結果(Kampa Mら、Exp Cell Res 2005、307、41〜51)では、ここで使用した抗体によって膜アンドロゲン受容体を認識することができることを示した。図に示したように、EPOR(分子質量66kD)とAR(分子質量110kD)の間のブロッティング交差反応はまったく観察されない。
【図7】多重技法(multiplex technique)を用いて測定したいくつかの細胞内シグナル伝達分子を示す図である。上のレーンは、血清の存在下、EPOおよび/またはテストステロン−BSA(10-7M)の存在下で観察された変化を示し、下のレーンは、血清の不存在下、EPOおよび/またはエストラジオール−BSA(10-7M)の存在下での変化を示す。
【図8】EPO、テストステロン−BSAまたはそれらの会合物を添加した後の、多くのシグナル伝達分子の変化を(左上のパネルにおいて)示す図である。バーの厚さは、対応する分子の相対的な刺激(「増大」)または阻害(「減少」)を示す。他の3つのグラフは、EPOまたはそれとテストステロン−BSAとの会合物のアポトーシス促進作用(テストステロン)または抗アポトーシス作用に関与するシグナル伝達カスケードを示す。アポトーシス促進作用から抗アポトーシス作用へのp38とJnkカスケードの切り換えに注目することは興味深い。
【図9】EPO、E2−BSAまたはそれらの会合物を添加した後の、多くのシグナル伝達分子の変化を(左上のパネルにおいて)示す図である。バーの厚さは、対応する分子の相対的な刺激(「増大」)または阻害(「減少」)を示す。他の3つのグラフは、EPO、E2−BSAまたはそれらの会合物の抗アポトーシス作用に関与するシグナル伝達カスケードを示す。
【図10】EPO、E2−BSAおよびそれらの会合物(上のレーン)、EPO、テストステロン−BSAおよびそれらの会合物(下のレーン)でインキュベートした後の、アクチン細胞骨格の修飾を示す図である。EPOの後、特にテストステロン−BSAとEPOの後の、驚くべき糸状仮足の突出および葉状仮足の形成に注目されたい。
【図11】EPO、テストステロン−BSA(10-7M)もしくはそれらの等モル組合せ(上のパネル)、またはEPOもしくはエストラジオール−BSA(10-7M)もしくはそれらの等モル組合せ(下のパネル)でインキュベートした後に、血清の存在下(上のパネル)または血清の不存在下(下のパネル)でインキュベートした、T47D細胞中のβカテニンの修飾を示す図である。
【図12】T47D上皮細胞のアポトーシスに対するEPOとE2−BSAの相加的よりも驚くほど大きい効果を示す図である。この効果は12時間後、特に24時間後に明白である。図12はまた、EPO単独と比べた場合の、T47D乳房上皮細胞のアポトーシスに対するEPOとテストステロン−BSAの相加的よりも驚くほど大きい効果を示す図である。アポトーシスは、24時間後に完全に無効になった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、最も広くは、本発明は、
(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチン(EPO)を含む組成物を提供する。
【0017】
場合により、前記組成物は、医薬として許容可能な担体または希釈剤をさらに含む。
本明細書で使用される場合、用語「エリスロポエチン」は、EPORに対してアゴニスト性を有する任意の物質を指す。これには、未変性(native)エリスロポエチン、エリスロポエチンの組換え型または合成形態、特にヒト組換え型エリスロポエチン、EPOR刺激抗体、エリスロポエチン様ペプチド、EPOの機能的断片、複合体化したもしくは遊離のEPO、アミノ酸置換を含むEPOおよび/またはグリコシル化度が異なるかもしくは変化したEPO、またはシアル酸を含むEPOが含まれる。そのような置換EPO分子またはグリコシル化度が異なる分子、もしくはシアル酸を含む分子は周知であり、当技術分野で記載されており(例えば、米国特許第4,833,092号、同第4,859,765号、同第4,853,871号、同第4,863,857号、同第5,733,761号、同第5,641,670号、同第5,688,679号、同第5,733,764号、EP640619、および国際特許WO93/09222、同WO94/12650、同WO95/31560、同WO90/11354、同WO91/06667、同WO91/09955、同WO99/05268、同WO99/66054、同WO99/38890、同WO99/11781、同WO98/05363において)、これらの任意のものを使用することができる。この用語には、療法に使用される任意の形態のEPO、特にその商品名または製造名、例えば、エポエチンα(Epogen、Eprex、Procritとして市販されている)、またはダルベポエチン(Aranespとして市販されている)などによって記載される場合の形態も含まれる。当業者は、上記リストを、上述した特性を有する任意の他の身体的物質、半合成物質または合成物質に拡張することができる。特に、したがってこの用語には、当技術分野で既知のEPO修飾またはEPO様分子が含まれ、これはEPORへのアゴニスト効果を有する。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「ステロイド」は、適切な相同性認識(homologous cognitive)ステロイド受容体へのアゴニスト活性を有する、任意の天然、半合成または合成分子を指す。これには、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、エストロゲン、プロゲスチン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびビタミンD受容体アゴニストが含まれる。したがって、好ましいステロイドは糖質コルチコイド(例えば、コルチゾール)、鉱質コルチコイド、エストロゲン(例えば、エストラジオール)、プロゲスチン、プロゲステロン、アンドロゲン(例えば、テストステロン)およびビタミンDである。特に好ましいステロイドは、エストロゲンまたはアンドロゲン、特にエストラジオールおよびテストステロンである。当業者は、このリストを核または膜ステロイド受容体スーパーファミリーにアゴニスト的に作用する任意の他の分子に拡張することができる。例えば、既知のステロイドアナログも含まれる。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「膜ステロイド受容体」は、遊離または複合体化したステロイドに結合し、引き続いて細胞内シグナル伝達カスケードを誘発することができる、血漿膜に緩く、または強く結合した、任意の分子または多分子体を指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「膜ステロイド受容体アゴニスト」は、膜ステロイド受容体にアゴニスト的に結合することができる任意の分子を指す。これには、認識ステロイド受容体、膜および/または細胞内へのアゴニスト性を有する、コレステロール骨格に由来するか、由来しない、遊離および複合体化したステロイド、または任意の他の天然、半合成もしくは合成物質(微小もしくは巨大分子)が含まれる。特に、ステロイド−タンパク質複合体(WO2004006966を参照)に加えて、文献GR20050100013によれば、この用語は、カテキン、エピカテキンおよびプロアントシアニドール縮合タンニンに及ぶ。
【0021】
好ましい膜ステロイド受容体アゴニストは、ステロイドの複合体、例えば、任意の種類のタンパク質とのステロイドの巨大分子複合体である。適切なタンパク質は、ステロイドを細胞中に入らせず、それによって複合体が膜ステロイド受容体のアゴニストとして機能することを可能にするものである。前記複合体に使用されるタンパク質の好ましい例は、哺乳動物タンパク質、好ましくは、球状タンパク質、血漿タンパク質、アルブミンまたは抗体(任意のクラスでよい、WO2004006966を参照)などのタンパク質である。特に好ましい哺乳動物タンパク質は、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンである。ステロイドの微小分子複合体もアゴニストとして含めることができる(例えば、WO2004006966に記載されているように、例えば、ペプチド断片はステロイドに複合体化し得る)。微小分子アゴニストの他の具体的な例は、文献GR20050100013に記載されているように、カテキン、エピカテキンおよびプロアントシアニドール縮合タンニンである。膜ステロイド受容体アゴニストのさらなる例は、抗体、例えば、抗膜ステロイド受容体抗体であり、これは任意のクラスでよく、膜ステロイド受容体にアゴニスト的に結合する。
【0022】
膜ステロイド受容体アゴニストの例は、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、エストロゲン、プロゲスチン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびビタミンD受容体アゴニストである。好ましい膜ステロイド受容体アゴニストは、エストロゲンまたはアンドロゲン膜受容体アゴニストである。したがって複合体中に含めるのに好ましいステロイドは、エストロゲンまたはアンドロゲン、特にテストステロンおよびエストラジオールである。本発明の特に好ましい実施形態では、ステロイド複合体は、テストステロン−アルブミン複合体またはエストラジオール−アルブミン複合体である。さらに好ましい複合体は、ヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンを含む。さらに、GR20050100013によれば、任意の天然または修飾カテキン、エピカテキンおよびプロアントシアニドール縮合タンニンも使用することができる。
【0023】
本発明のなおさらなる態様では、造血もしくは非造血組織中のEPOの作用を増強するのに使用される、または本明細書の他の箇所に定義されているものなどの療法において使用される、動物に同時、別々または連続的に投与するための複合製剤としての、(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチン(EPO)を含む製品が提供される。
【0024】
本発明のなおさらなる態様では、(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチン(EPO)を含むキットが提供される。好ましいキットでは、成分(i)および(ii)は、第1と第2の容器中にわけて提供される。本発明のキットは、使用に適しており、本明細書の他の箇所に記載されている本発明の方法および使用において使用されることが好ましい。
【0025】
本発明のなおさらなる態様では、療法において使用される本発明の組成物、製品またはキットが提供される。本発明の組成物の好ましい治療的使用は、EPOの作用を増強して、例えば、細胞、組織または器官の機能および生存率を増強し、または回復するため、特に、造血または非造血細胞、組織または器官中のEPOの栄養、再生、増殖および/または抗アポトーシス作用のうちの1つ以上を増強するためである。EPOの抗アポトーシスおよび/または増殖作用の増強は、本発明の特に好ましい態様である。
【0026】
本発明によって様々な使用も提供される。したがって、本発明は、EPOの作用、例えば、細胞、組織または器官の機能および生存率の増強または回復の増強剤として、特に、造血または造血外(extra-hemopoietic)細胞、組織または器官中のEPOの栄養、再生、増殖および/または抗アポトーシス作用のうちの1つ以上を増強するための、膜ステロイド受容体アゴニストの使用を提供する。EPOの抗アポトーシス作用が増強されることが好ましい。
【0027】
さらなる実施形態では、本発明は、エリスロポエチン(EPO)の作用、例えば、細胞、組織、または器官の機能および生存率の増強または回復を増強するため、特に、EPOの栄養、再生、増殖および/または抗アポトーシス作用のうちの1つ以上を増強するために、EPOと連続的、同時に、またはそうでなければ追加して、膜ステロイド受容体アゴニストを使用することを提供する。EPOの抗アポトーシス作用が増強されることが好ましい。
【0028】
本発明は、造血および造血外(extra-hemopoietic)細胞、器官および組織中の細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および/または再生を制御するための、膜ステロイド受容体アゴニストとEPOの使用も提供する。これらの作用剤は、アポトーシスを制御するために使用されることが好ましい。
【0029】
本発明は、EPOの作用を増強するための薬物または組成物の製造における、膜受容体アゴニストの使用をさらに提供する。
さらに、細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および/または再生を制御するための薬物の製造における、膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOの使用も提供される。これらの作用剤は、アポトーシスを制御するために使用されることが好ましい。
【0030】
本発明のなおさらなる態様では、EPOの作用を増強する方法であって、有効量の膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOを動物に投与することを含む方法が提供される。
細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および/または再生を制御する方法であって、有効量の膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOを動物に投与することを含む方法がさらに提供される。前記方法は、アポトーシスを制御するのに使用されることが好ましい。
【0031】
上記で議論した使用または方法は、EPOおよび膜ステロイド受容体アゴニストを単独で(例えば、同時、別々、もしくは連続的に)、または当技術分野における任意の医薬として許容可能な形態での組合せ(例えば、同時投与)で投与することを含む。
【0032】
本発明のなおさらなる態様では、動物への美容目的のための、本発明の組成物の使用が提供される。
EPOに関連して本明細書で使用される場合、用語「増強剤」、「増強すること」、「増強」または「増強する」などは、造血または非造血細胞、組織または器官中のEPOの作用を増大させ、または増強することができる実体(entity)を指す。前記増大または増強は、EPO単独で見られるか予期されるものと比較して、作用の検出可能または測定可能な増大または増強を指す。この増大または増強は有意であることが好ましく、統計的に有意であることがより好ましい。統計的に有意な増大または増強は、0.1未満、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.01未満の確率値を有することが好ましい。統計的有意性を判定する適切な方法は周知であり、当技術分野で実証されており、これらのいずれも使用し得る。任意のそのような増大または増強は、相加的より大きいか、相乗的である(すなわち、EPOおよび膜ステロイド受容体アゴニストとの複合効果は、それらの個々の効果の合計よりも大きい)ことが好ましい。
【0033】
EPOの任意の作用は、本発明の方法および使用によって増強することができる。しかし、増強される好ましい作用は、細胞生存/アポトーシス、成長/増殖、分化、再生および遊走のうちの1つ以上に対するEPOの効果である。増強される特に好ましい作用は、EPOの抗アポトーシス効果である。
【0034】
細胞への膜ステロイド受容体アゴニスト単独の効果は、細胞の性質、アゴニストおよび影響される受容体の性質に応じて変動する。したがって、いくつかの膜ステロイド受容体アゴニスト、例えば、エストラジオール−アルブミンは、非赤血球細胞、例えば、上皮細胞への抗アポトーシス効果を有することが示されたが、一方、他の膜ステロイド受容体アゴニスト、例えば、テストステロン−アルブミンは、非赤血球細胞、例えば、上皮細胞へのアポトーシス促進効果を有することが示された。しかし、重要なことに、かつ驚くべきことに、EPOの作用、特にEPOの抗アポトーシス作用への膜ステロイド受容体アゴニストの増強効果は、単独では細胞に対して抗アポトーシス(例えば、エストラジオール−アルブミン)またはアポトーシス促進(例えば、テストステロン−アルブミン)効果のいずれかを有する膜ステロイド受容体アゴニストを用いて実証された。したがって、EPOの抗アポトーシス作用は、単独では、アポトーシス促進または抗アポトーシス活性のいずれかを有する膜ステロイド受容体アゴニストを用いて増強されることが実証された。
【0035】
したがって、抗アポトーシス性膜ステロイド受容体アゴニスト(例えば、エストラジオール−アルブミン)のEPOとの組合せでは、EPO単独で見られるか予期されるアポトーシスの低減と比較して、アポトーシスが著しく低減される。
【0036】
さらに、アポトーシス促進性膜ステロイド受容体アゴニスト(例えば、テストステロン−アルブミン)のEPOとの組合せでは、EPO単独で見られるか予期されるアポトーシスの低減と比較して、アポトーシスが著しく低減される。
【0037】
したがって、アポトーシスの制御を伴う本発明の好ましい実施形態では、アポトーシスを低減し、または減少させられる。そのようなアポトーシスの低減または減少とは、膜ステロイド受容体アゴニストとEPOのいずれかを単独で用いた場合に認められる、または予期されるものと比較した、これらの作用剤を併用した場合の検出可能または測定可能なアポトーシスの低減または減少を指す。この低減または減少は有意であることが好ましく、統計的に有意であることがより好ましい。統計的に有意な低減または減少は、0.1未満、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.01未満の確率値を有することが好ましい。統計的有意性を判定する適切な方法は周知であり、当技術分野で実証されており、これらの任意のものを使用することができる。任意のそのような低減または減少は、相加的より大きいか、相乗的である(すなわち、EPOと膜ステロイド受容体アゴニストとの複合効果は、それらの個々の効果の合計よりも大きい)ことが好ましい。
【0038】
本発明の組成物、方法などによって影響される、すなわちEPO作用の増強の標的である、好ましい細胞(またはそのような細胞を含む組織もしくは器官)は、非赤血球細胞、特に上皮細胞、内皮細胞、または間葉細胞である。特に好ましい細胞は上皮細胞である。他の好ましい細胞は、骨髄系統の細胞、例えば、赤血球、リンパ様、単核または顆粒球細胞である。
【0039】
本明細書に記載されるin vivoの方法および使用は、動物、好ましくは哺乳動物において一般に実施される。任意の哺乳動物、例えば、ヒトおよび任意の家畜(livestock)、家畜(domestic animal)、実験動物を治療し得る。具体的な例として、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、雌ウシおよびサルが挙げられる。しかし、動物または哺乳動物はヒトであることが好ましい。しかし、in vitro またはex vivoの方法も提供される。
【0040】
本発明による作用剤の医薬組合せの製造、または本発明によるキットの製造において、同じ組成物中に存在しても、別々の組成物中に存在しても、活性化合物(1つ以上の医薬として許容可能な塩を含めた、EPOおよび膜ステロイド受容体アゴニスト)は、医薬として許容可能な担体と一般に混合される。もちろんこの担体は、製剤中の活性成分または任意の他の成分と適合していなければならず、患者にとって有害であってはならない。担体は、固体または液体またはその両方とすることができ、単位用量製剤、例えば、0.01%、0.5%、1%、から99重量%の活性化合物を含有してもよい錠剤として、化合物とともに製剤化されることが好ましい。1つ以上の活性化合物を本発明の製剤中に組み込むことができ、これは、成分を混合し、場合により1つ以上の副成分を含有させることから本質的になる、当業者に周知の任意の薬学の技法によって調製し得る。
【0041】
本発明の製剤には、外部または内部使用、例えば、経口、直腸、頬側(例えば、舌下)、膣、非経口(例えば、皮下、筋肉内、皮内、または静脈内)、局所的(すなわち、気道表面を含めた、皮膚および粘膜表面の両方)ならびに経皮投与に適したものが含まれる。最も適当な投与経路はもちろん、どの特定の場合でも、治療される状態の性質および重症度、ならびに活性化合物の性質に依存する。EPOおよび膜ステロイド受容体アゴニストの同時投与の場合、非経口投与が好ましい。連続的投与の場合、他の経路も使用することができる。
【0042】
経口投与に適した製剤は、それぞれが所定量の活性化合物を含有している、別個の単位、例えば、カプセル、カシェ剤、トローチ剤もしくは錠剤などで、粉末もしくは顆粒として、水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液として、または水中油型もしくは油中水型エマルジョンで提供され得る。そのような製剤は、任意の適当な薬学の方法によって調製することができ、これは、活性化合物と適当な担体(これは、上記のように1つ以上の副成分を含有してもよい)とを会合させるステップを含む。
【0043】
非経口投与用の製剤は、活性化合物の滅菌水性および非水性注射溶液を含み、これは、血液と等張であることが好ましい。この製剤は、さらに抗酸化剤、緩衝液、静菌剤および溶液を血液と等張にする溶質を含有してもよい。製剤は、単回用量または多回用量容器(例えば、滅菌密封アンプルおよびバイアル)で提供することができ、使用直前に滅菌液体担体(例えば、注射用食塩水または水)を加えることだけが必要な、凍結乾燥状態で貯蔵することができる。
【0044】
局所的使用には、任意の医薬として許容可能な製剤(例えば、軟膏、ポマード、ゲル、または当業者に既知の任意の他の医薬として許容可能な形態)を使用することができる。
本発明の組成物、キット、使用および方法の好ましい治療用途は、創傷治癒、器官、組織および細胞の再生、細胞、器官もしくは組織の保護的療法(例えば、心保護的、脳保護的もしくは糖尿病保護的療法)、抗アポトーシス療法、または細胞の遊走、増殖、もしくは分化を調節することが望まれる療法である。本発明の組成物、キット、使用および方法によって治療することができる具体的な状態は、貧血症(例えば、腎不全、癌または癌化学療法による貧血症)、心不全、脳外傷、脳卒中、創傷および創傷治癒、または製剤の再生特性が必要な、当技術分野で既知の任意の他の疾患である。さらに、本発明の組成物、キット、使用および方法は、根底にある機構が、組織、器官または細胞の再生、増殖または遊走を含む任意の場合において、美容的使用のための主要または補助的な装備(appointment)として使用することができる。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「療法」または「治療」には、予防的療法が含まれ、これにより疾患の予防または発症の遅延がもたらされ得る。この用語「療法」および「治療」には、疾患との闘いまたは治癒が含まれるが、疾患またはこの疾患に関連する1つ以上の症状の制御、低減または軽減も含まれる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「有効量」は、治療の性質に応じて、治療有効量または予防有効量を指すことができる。治療有効量は、所望の治療結果を達成するのに必要な量(適切な投与量および投与処方で)であると考えられる。予防有効量は、所望の予防的結果を達成するのに必要な量(適切な投与量および投与処方で)であると考えられる。以下に示すように、これらの量は、投与経路、患者の体重、年齢および性別、ならびに個体における疾患の重症度に応じて変動する可能性がある。
【0047】
膜ステロイド受容体アゴニスト、EPOおよび任意の他の活性成分(含まれる場合)の適当な用量は、患者によって変動し、治療される特定の疾患または状態の性質にも依存する。前記投与量により、行われる治療の性質に応じて治療有効量または予防有効量が構成されることが好ましい。適当な用量は、投与経路、患者の体重、年齢および性別、ならびに疾患または状態の重症度により、当業者または医師によって決定することができる。例として、EPO投与は、薬物技術的(pharmacotechnic)形態に応じて、非経口で50〜1000μg/週、好ましくは450μg/週と変動し得る。膜ステロイド受容体アゴニストについては、好ましい用量は、非経口で、HSA複合体について体重1kg当たり1〜100mgであり、優先的には体重1kg当たり5mg(10−7Mの血漿濃度に対応する)である。しかし、本発明によれば、EPOに対する膜ステロイド受容体アゴニストの増強効果により、望まれる場合、EPOを従来療法に必要な用量よりも低い用量、例えば、5〜10分の1に低減された用量で投与することが可能になることを覚えておくべきである。したがって、EPOおよび膜ステロイド受容体アゴニストが併用される、本発明の組成物、キット、方法または使用において、EPOの用量、例えば、EPOの同時投与用量は、5〜10分の1に低減し得る。
【0048】
活性成分は、単回単位用量または複数回単位用量として投与することができる。一般に、一週間量の活性作用剤が好ましい。しかし、膜ステロイド受容体アゴニストとして微小分子タンニンを使用する場合、毎日の経口治療を使用し得る。そのような毎日の経口治療については、体重1kg当たり30〜3000μg、好ましくは体重1kg当たり300〜500μgの範囲の経口での推定一日量が一般に適切である。
【0049】
しかし、適切な投与量は、患者に応じて変動する場合があり、任意の特定の対象について、具体的な投与量処方は、患者の個々の必要性によって時間をかけて調整されるべきであることに注意すべきである。したがって、本明細書に示される任意の投与量範囲は、例示的なものであるとみなされるべきであり、特許請求した組成物の範囲または実際の使用を限定するものではない。
【0050】
本明細書に記載される組成物は、本明細書に記載される任意の成分を含む、これらの成分から本質的になる、またはこれらの成分からなってもよい。
本明細書の目的については、単語「含む(comprising)」は、「含む(including)がそれだけに限らない」を意味し、単語「含む(comprises)」は、対応する意味を有すると明らかに理解されるであろう。したがって単語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」は、排他的というよりむしろ、包括的に解釈されるべきである。
【0051】
本明細書で使用される場合、および添付の特許請求の範囲では、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈で明らかに別段に指示されていない限り、複数への言及を含む。
【0052】
本発明のさらなる実施形態は、以下の図面を参照して、以下の非限定的な実施例において示される。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
ヒト上皮細胞(実施例においては、エストロゲンおよびプロゲステロン細胞内受容体と、エストロゲンおよびアンドロゲン膜受容体との双方ならびにEPO受容体を発現している、ヒト乳房上皮細胞株T47Dを使用した、Arcasoy MOら、Biochem Biophys Res Commun 2003;307:999〜1007;Kampa Mら、Exp Cell Res 2005;307:41〜51を参照)は、血清補充培地中で培養した。次いでこれらを洗浄し、指定された濃度(10-12から10-7Mの範囲)のEPOを補充した血清非含有培地中に移した。6、12および24時間後、ApoPercentageアッセイ(Biocolor Ltd.、Belfast、N.Ireland)によってアポトーシスをアッセイし、早期アポトーシス細胞の細胞膜の初期損傷を検出した。成長因子および/または栄養分を省くことによる細胞の血清欠乏が、主なアポトーシス促進誘発要因(pro-apoptotic challenge)である。実際に、その後6時間という早期に、細胞はアポトーシスを始める。しかし、EPOは、このアポトーシス現象を部分的に逆転させることができる。図1は、EPOによって開始される、細胞のアポトーシスの用量および時間依存的な抑制を示す。
【0054】
[実施例2]
ヒト上皮T47D細胞を血清の存在下で培養した。次いで、これらを指定された濃度のエストラジオール−BSA複合体(Sigma−Hellas、Athens、Greece)を補充した血清非含有培地中に移した。実施例1に示したように測定されるアポトーシスを、6、12および24時間後に測定した。図2に示すように、E2−BSAは、時間および用量に依存して血清の欠乏により誘発されるアポトーシスを部分的に逆転させる。
【0055】
[実施例3]
ヒト上皮T47D細胞を培養し、EPO(10-7M)およびE2−BSA(10-7M)を補充した血清非含有培地中に移した。6、12および24時間後に、実施例1で説明したようにアポトーシスをアッセイした。6時間と12時間では、作用剤の組合せの効果は、それらのそれぞれの効果、すなわち単独で投与した効果と等しかった。驚いたことに、24時間後に、E2−BSAとEPOの相加的効果が観察され、作用剤の物理的または機能的相互作用を示している。この相互作用は、受容体レベルで(すなわち、細胞膜レベルで)、または受容体の後の細胞内シグナル伝達カスケードを修飾することによって生じるのかもしれないが、最終的に抗アポトーシスに至る。図3は、E2−BSAとEPOのこの驚くべき相加的作用を示す。
【0056】
[実施例4]
ヒト上皮T47D細胞を血清補充培地で培養した。次いで、テストステロン−BSA(Sigma−Hellas、Athens、Greece)を添加し(10-12〜10-6M)、実施例1で詳述したようにアポトーシスをアッセイした。6時間後という早期に、用量に依存してテストステロン−BSAによって開始されるアポトーシスを検出することができる。図4は、この十分に実証されたアポトーシスを示す(Kampa Mら、Exp Cell Res 2005;307:41〜51を参照)。驚いたことに、様々な用量のEPO(10-12〜10-7M)とともに最大用量のテストステロン−BSA(10-6M)を添加することにより、テストステロンのアポトーシス効果が完全に逆転される。これを図5にも示す。血清補充培地中のEPOは、試験した時点ではまったく効果を有さないことは注目すべきことである。EPOのこの驚くべき効果は、6時間だけでなく、12時間および24時間でも存在する(図5)。EPOとテストステロン−BSAの相互作用は、受容体レベル(異種の受容体とのいずれかのリガンドの交差相互作用、例えば、膜アンドロゲン受容体とのEPOの相互作用またはその逆)、膜アンドロゲン受容体とのEPORの交差相互作用、または細胞内シグナル伝達カスケードの修飾を通じた受容体の後のレベルでの相互作用で起こるのかもしれない。第1の選択肢(膜アンドロゲン受容体へのEPOまたはEPORへのテストステロン−BSAの交差結合)は起こりそうにない。実際には、EPOの不在または存在下で、テストステロン−BSA−FITC(Sigma−Hellas、Athens、Greece)で標識したT47D細胞で実施したフローサイトメトリー分析により、テストステロンの等しい結合性が示される。この結果により、EPOとテストステロン−BSAは、同じ受容体分子に結合しないことが示される。
【0057】
[実施例5]
EPORと膜アンドロゲン受容体の可能性のある相互作用を同定するために、細胞を、テストステロン−BSA(10-7M)、EPO(10-7M)、またはそれらの等モル組合せ(10-7Mの各作用剤)とともにインキュベートした。30分後に、培地を除去し、Bonaccorsi Lら、Steroids、69、549〜52、2004に記載されているように細胞を洗浄し、ホモジナイズし、可溶化し、EPORまたはアンドロゲン受容体に対する抗体(両方ともSanta Cruz Biotechnology、CAから)でインキュベートした。可能性の高い受容体−抗原複合体は、プロテイン−G−セファロース(Sigma Hellas、Athens、Greece)に12時間吸収させ、遠心し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、その後にニトロセルロース膜にブロットした。次いでこの膜を他の抗体でブロットした(すなわち、抗EPOR抗体でインキュベートした細胞膜を抗ARでブロットし、一方、抗ARでインキュベートした膜を抗EPOR抗体でブロットした)。図6に示すように、2つの受容体間で交差反応はまったく観察されず、細胞膜レベルでEPOR−mARのヘテロ二量体はおそらくまったく形成されなかったことを示している。上記結果により、EPOとアンドロゲンの競合的作用は、細胞膜レベルでは媒介されないが、シグナル伝達レベルでの相互作用による可能性があることが示される。
【0058】
[実施例6]
T47D細胞を、EPO(10-7M)、テストステロン−もしくは−エストラジオール−BSA(10-7M)、またはそれらの等モル組合せ(それぞれ10-7M)の存在下でインキュベートした。対応する時点で、図7に記載するように、細胞を溶解緩衝液中で溶解させ、遠心し、図に示すように、Upstate(Lake Placid、NY)の多重シグナル伝達アッセイを使用して、リン酸化または非シグナル伝達分子の存在について上清を分析した。図は、各作用剤またはそれらの組合せの存在下での、時間に伴う各シグナル伝達分子の活性化を示す。
【0059】
上記結果に基づいて、図8および9は、EPORとmAR(図8)およびEPORとmER(図9)を活性化した後の、シグナル伝達分子(左上のパネル)とシグナル伝達経路の活性化または阻害を模式的に示す。アポトーシス経路および生存経路が示されている。
【0060】
[実施例7]
細胞質分裂および細胞運命に関係する既知の要素は、皮質アクチンである。アクチン束は、細胞中への動的作用を通じ、かつ細胞基層の相互作用を制御することにより、それぞれ細胞内刺激または細胞のその基層との相互作用を通じて起こるかどうかに応じて、アポトーシスまたはアノイキスを開始することによって、細胞運動性(糸状仮足および葉状仮足によって開始され、持続される)から、細胞分裂、および細胞運命といった多くの現象を制御する。テストステロン−BSA(ならびにE2−BSA)は、皮質アクチン重合状態の既知の修飾因子である(Papakonstanti EAら、Mol Endocrinol 2003;17:870〜81;Kampa M、およびCastanas E.Mol Cell Endocrinol 2006;246:76〜82を参照)。驚いたことに、アクチンの動態は、EPOによっても修飾され、葉状仮足を形成した。さらにより驚いたことに、上皮細胞をEPOおよびテストステロンとインキュベートしたとき、皮質アクチンの顕著な修飾が観察され、糸状仮足と葉状仮足を大量に形成した。これらの例を図10に示す。皮質および細胞内アクチンの修飾は、細胞増殖、成熟および遊走に直接関係する。EPOのテストステロン−もしくはエストラジオール−BSAとの複合作用下でのこのアクチン修飾に続いてβカテニンの修飾があり(図11)、細胞質分裂におけるこれらの分子の関係を示している。この点において、かつテストステロン−BSAとEPOの複合作用下で、この会合物は、組織再生、創傷治癒、ならびに他の医学的および美容用途にとって価値のあるものになり得ると考えられる。
【0061】
[実施例8]
細胞(T47Dヒト乳癌上皮細胞株)を、EPOまたはE2−BSA(E2)またはテストステロン−BSA(Testo)およびそれらの組合せの不存在または存在下で、指定した時間、血清補充(S)培地または血清非含有(SF)培地中でインキュベートした。EPO、E2−BSAおよびテストステロン−BSAは、すべて10-7Mの濃度で使用した。アポトーシスは、実施例1で説明したように、BioColor ApoPercentageキットを用いてアッセイした。
【0062】
結果により、EPOは、血清補充培地中で不活性であることが示された(データは示していない)。しかし、血清の不存在下では、それにより血清の欠如によって誘発されたアポトーシスが著しく減少した。この効果は、長いインキュベーション時間(12または24時間)と比較して、短い時間(6時間)でより顕著であり、これはペプチドの漸進的分解に起因した。E2−BSAの作用下で同じ効果が観察された。対照的に、E2−BSAとEPOの同時添加により、アポトーシスの相加的より大きい持続性でかつ時間依存性の阻害が誘発され、12時間、特に24時間で明白であった。
【0063】
以前に報告したように、テストステロン−BSAにより、血清補充培地中でアポトーシスの誘導が誘発された。この培養物にEPOを添加することにより(単独では、アポトーシスへの効果がなかった)、アポトーシスの時間依存的な低減が誘発された。アポトーシスは、24時間後に完全に停止した。
【0064】
これらの実験から導き出すことができる結論は、ステロイド膜受容体アゴニストを添加すると、EPOの抗アポトーシス作用が増強され、延長されるということである。
(上記実施例では乳癌モデルを使用し、これは、細胞、特に上皮細胞および固形上皮腫瘍、ならびに乳房上皮腫瘍および乳房腫瘍の挙動の優れた一般的モデルである)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチン(EPO)を含む組成物。
【請求項2】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、エストロゲン、プロゲスチン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびビタミンD受容体アゴニストからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、エストロゲンまたはアンドロゲン膜受容体アゴニストである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記膜ステロイド受容体アゴニストがステロイド複合体である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、ステロイドとタンパク質またはペプチドとの巨大分子複合体である、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記タンパク質が、球状タンパク質、血漿タンパク質、アルブミンまたは抗体である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミンまたは別の種由来のアルブミンである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記複合体中の前記ステロイドが、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド、エストロゲン、プロゲスチン、プロゲステロン、アンドロゲンおよびビタミンDからなる群から選択される、請求項4から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ステロイドがエストロゲンまたはアンドロゲンである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ステロイドがテストステロンまたはエストラジオールである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、ステロイドまたはフェノール化合物などの、コレステロール骨格を有しまたは含まない、微小分子もしくは巨大分子の天然もしくは合成作用剤を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、天然もしくは修飾のカテキン、エピカテキン、およびプロアントシアニドール縮合タンニンからなる群から選択される微小分子アゴニストである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが抗体を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
EPOの作用を増強するのに使用される、動物に同時、別々または連続的に投与するための複合製剤としての、(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチン(EPO)を含む製品。
【請求項15】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、請求項2から13のいずれか一項に定義した通りである、請求項14に記載の製品。
【請求項16】
(i)膜ステロイド受容体アゴニストおよび(ii)エリスロポエチン(EPO)を含むキット。
【請求項17】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、請求項2から13のいずれか一項に定義した通りである、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
療法において使用される、請求項1から17のいずれか一項に定義された組成物、製品またはキット。
【請求項19】
EPOの作用を増強するのに使用される、請求項18に記載の組成物、製品またはキット。
【請求項20】
前記EPOの作用が、栄養、再生、増殖および抗アポトーシス作用からなる群から選択される1つ以上である、請求項19に記載の組成物、製品またはキット。
【請求項21】
前記EPOの作用が抗アポトーシス作用である、請求項20に記載の組成物、製品またはキット。
【請求項22】
EPOの作用を増強するための、膜ステロイド受容体アゴニストの使用。
【請求項23】
EPOの作用を増強するための薬物または組成物の製造における、膜受容体アゴニストの使用。
【請求項24】
EPOの作用を増強する方法であって、有効量の膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOを動物に投与することを含む方法。
【請求項25】
前記EPOの作用が、請求項20または21に定義した通りである、請求項22から24のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項26】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、請求項2から13のいずれか一項に定義した通りである、請求項22から25のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項27】
細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および/または再生を制御するための、膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOの使用。
【請求項28】
細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および/または再生を制御するための薬物の製造における、膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOの使用。
【請求項29】
細胞のアポトーシス、増殖、分化、遊走および/または再生を制御する方法であって、有効量の膜ステロイド受容体アゴニストおよびEPOを動物に投与することを含む方法。
【請求項30】
アポトーシスを制御するための、請求項27から29のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項31】
アポトーシスを低減するための、請求項30に記載の使用または方法。
【請求項32】
前記膜ステロイド受容体アゴニストが、請求項2から13のいずれか一項に定義した通りである、請求項27から30のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項33】
動物への美容目的のための、請求項1から17のいずれか一項に記載の組成物、製品またはキットの使用。
【請求項34】
前記使用または方法によって影響される細胞が、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、および骨髄系統の細胞からなる群から選択される1つ以上である、先行する請求項のいずれか一項に定義された使用または方法。
【請求項35】
前記細胞が上皮細胞である、請求項34に記載の使用または方法。
【請求項36】
前記骨髄系統の細胞が、赤血球、リンパ様、単核および顆粒球細胞からなる群から選択される1つ以上である、請求項34に記載の使用または方法。
【請求項37】
ヒトに対して実施される、先行する請求項のいずれか一項に定義された使用または方法。
【請求項38】
創傷治癒、器官、組織もしくは細胞の再生もしくは保護的療法、抗アポトーシス療法のための、あるいは貧血症、心不全、脳傷害、脳卒中、創傷、または細胞、組織もしくは器官の再生が必要とされる任意の疾患を治療するための、先行する請求項のいずれか一項に定義された使用または方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−511026(P2010−511026A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538777(P2009−538777)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004537
【国際公開番号】WO2008/065387
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(505196897)バイオネイチャー・イー・エイ・リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】BIONATURE E.A. LIMITED
【Fターム(参考)】