説明

膜分離式排水処理方法および装置

【課題】生物処理され微生物を含む混合液を膜分離する膜分離式の生物処理において、膜の目詰まりを防止する。
【解決手段】複数の生物処理槽(第1生物処理槽11、第2生物処理槽12)を直列接続して生物処理装置10を構成する。BODのような微生物基質を含む原水が導入される第1生物処理槽11に、導入される基質の10倍量以上の汚泥を膜分離槽21から返送する。第1生物処理槽11のHRTを短くして、返送汚泥に基質を吸収させた時点で後段側生物処理槽に送り、吸収された基質を生物分解させる。このようにして生物処理された生物処理水は、分離膜17を備える膜分離槽21で膜分離して分離汚泥を上記量で返送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物含有水等の排水を生物汚泥により処理し、生物汚泥を含む混合液を膜分離して処理水を得る膜分離式排水処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物等を含む排水の処理方法として、生物処理が知られている。生物処理法の中でも活性汚泥と呼ばれる微生物群集を利用する活性汚泥法は、様々な性状の排水に適用でき、良好な水質の処理水が得られるため、広く用いられている。活性汚泥法では、生物処理槽に活性汚泥の基質となる汚濁物質を含む排水を導入して活性汚泥と接触させ、汚濁物質を生物分解させる。生物処理槽から流出する生物処理水は、生物汚泥を含むため固液分離装置で固形分を分離して清澄化された処理水を得る。
【0003】
固液分離装置としては沈殿装置が多く使用されている。沈殿装置では一般的に、フロック化した活性汚泥を重力沈降させることにより固液分離を行う。生物汚泥は、汚泥滞留時間(SRT)が長くなるとフロック化する傾向がある。そこで、生物処理槽を複数設け、前段側の生物処理槽を高負荷で運転して微生物を指数関数的に増殖させた後、SRTを長くした後段側の生物処理槽に導入する方法が知られている(特許文献1)。この方法では、前段側生物処理槽で増殖した分散状態の生物汚泥は、後段側生物処理槽でフロック化され、沈降性が高くなる。
【0004】
一方、固液分離装置として膜分離装置を用いる場合、沈降性が悪い生物汚泥を含む混合液も清澄化できる。そこで、生物処理槽の後段に膜分離装置を設けた膜分離式の生物処理装置およびこれを用いる生物処理方法も知られている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特許第3478241号公報
【特許文献2】特開2005−74346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで膜分離装置には、分離膜が目詰まりするという問題がある。特に生物汚泥を含む生物処理水を膜分離すると、微生物が生産した粘質物等が膜面に付着して目詰まりを生じやすい傾向がある。
【0006】
膜の目詰まり防止策としては、特許文献2に記載された方法のように粘質物を凝集剤で凝集させる方法の他にも、分離膜の洗浄方法を工夫する方法が知られている。具体的には1週間か2週間に一度程度、次亜塩素酸ナトリウム等の薬剤を用いて分離膜を逆洗する。しかし、このような簡易洗浄法は洗浄用薬品を必要とする上、分離膜を洗浄している間も処理水を得るためには代替用の分離膜が必要となり、高コストとなる。
【0007】
別の膜の目詰まり防止方法としては、膜への通水方法を工夫する方法がある。具体的には、分離膜で10分程度、吸引濾過を行った後、1分程度、吸引を停止する間欠吸引を行う。間欠吸引を行う場合、吸引停止時間中は処理水が得られないため、膜分離の効率が良くない。
【0008】
膜の目詰まりを防止するさらに別の方法としては、生物処理槽の活性汚泥浮遊物質(MLSS:Mixed Liquor Suspended Solid)濃度と汚泥負荷を低くする方法がある。この方法では、膜に付着する生物汚泥量を少なくするためにMLSSを低く(例えば12,000mg/L以下)する。また、粘質物の生成を抑制するために生物処理槽に保持される汚泥に対するBOD(生物化学的酸素消費量で表される有機物)汚泥負荷を低くして、汚泥滞留時間(SRT:Sludge Retention Time)が長くなるようにする。
【0009】
しかし、MLSSとSRTの制御による効果は必ずしも十分ではない。また、生物処理槽のMLSSを低くしてSRTを長くすると、生物処理槽に対する負荷が低くなるため生物処理装置をコンパクトにできない。
【0010】
本発明は、かかる課題に対し、膜の目詰まり防止効果を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、膜分離装置で分離された分離汚泥を一定量以上、生物処理槽に返送して分離汚泥にBOD成分のような汚濁物質を吸収させた後、これを分解させることで粘質物の生成が抑制されることを見出し、本発明を完成した。具体的には本発明は以下を提供する。
【0012】
(1) 排水を生物処理装置で生物処理した後、分離膜を備える膜分離槽で前記生物処理装置から流出した生物処理水を液分と分離汚泥とに膜分離する膜分離式排水処理方法であって、 前記生物処理装置を、前記分離汚泥が返送される第1生物処理槽と、前記第1生物処理槽後段に設けられる第2生物処理槽とで構成し、 前記第1生物処理槽への前記分離汚泥の返送量を、MLVSSの乾燥質量として前記排水に含まれて前記第1生物処理槽に流入する基質量の10倍以上とし、 前記第1生物処理槽を高負荷で運転する膜分離式排水処理方法。
(2) 前記排水は前記基質としてのBOD成分を含む有機物含有水であり、 前記第1生物処理槽を、BOD汚泥負荷4kg−BOD/kg−MLVSS/day以上の高負荷で運転する(1)に記載の膜分離式排水処理方法。
(3) 前記生物処理装置を、互いに直列に接続された3以上の生物処理槽で構成し、 前記膜分離槽の前段側に設けられ前記膜分離槽と接続される最後段生物処理槽の汚泥滞留時間を20日以上とする(1)または(2)に記載の膜分離式排水処理方法。
(4) 排水が導入され高負荷で運転される第1生物処理槽、および前記第1生物処理槽後段に設けられる第2生物処理槽を備える生物処理装置と、 分離膜を備え前記生物処理装置から流出した生物処理水を液分と分離汚泥とに膜分離する膜分離槽と、 前記分離汚泥を前記第1生物処理槽に返送する汚泥返送管であって、前記分離汚泥を、MLVSSの乾燥重量として前記排水に含まれて前記第1生物処理槽に流入する基質量の10倍以上となるように返送する汚泥返送管と、を含む膜分離式排水処理装置。
(5) 前記排水は前記基質としてBOD成分を含む有機物含有水であり、 前記第1生物処理槽は、BOD汚泥負荷4kg−BOD/kg−MLVSS/day以上の高負荷で運転される処理槽である(4)に記載の膜分離式排水処理装置。
(6) 前記生物処理装置は、互いに直列に接続された3以上の生物処理槽を備え、 前記膜分離槽の前段側に設けられ前記膜分離槽と接続される最後段生物処理槽は、汚泥滞留時間が20日以上で運転される処理槽である(4)または(5)に記載の膜分離式排水処理装置。
【0013】
本発明により処理される排水は、活性汚泥の基質となる汚濁物質を含む排水であれば限定されない。汚濁物質はBOD成分に限定されず、有機態窒素やアンモニア態窒素等の窒素分であってもよい。よって、「生物処理槽」には、好気的にBOD除去を行う「曝気槽」、嫌気的に有機物を分解する「消化槽」、硝化を行う「硝化槽」、および脱窒を行う「脱窒槽」が含まれるものとする。生物処理槽には上記汚濁物質を基質として増殖する生物汚泥が保持される。こうした生物汚泥としては、BODを分解する好気性細菌を主体とする汚泥(以下、特に「BOD汚泥」と称する)、アンモニアを酸化する硝化細菌を主体とする汚泥(以下、特に「硝化汚泥」と称する)、硝酸または亜硝酸を還元する脱窒菌を主体とする汚泥(以下、特に「脱窒汚泥」と称する)、およびメタン菌等を主体とする汚泥(以下、特に「メタン汚泥」と称する)が挙げられる。
【0014】
生物処理装置は、直列に接続された2以上の生物処理槽を備える。活性汚泥の基質となる物質を含む排水が導入される生物処理槽(第1生物処理槽)には、生物処理装置後段の膜分離装置で得られた分離汚泥を返送する。
【0015】
分離汚泥は、糖、たんぱく質、および有機酸等の基質を吸収する。分離汚泥による基質の吸収量は、概ね、活性汚泥有機性浮遊物質(MLVSS:Mixed Liquor Volatile Suspended Solids)の1/10程度である。そこで、本発明では、分離汚泥の返送量を、MLVSS乾燥質量換算で第1生物処理槽に持ち込まれるBOD等の基質の10倍量以上とする。分離汚泥の返送量をこのようにすれば、第1生物処理槽に流入する基質のほぼ全量を分離汚泥に吸収させることができる。なお、10倍以上というのは、第1生物処理槽で分離汚泥が当該処理槽に持ち込まれる基質を吸収するのに必要とされる量である。ただし、基質の種類によっては分離汚泥による吸収量が前述した値より大きい場合もありうる。このような場合に分離汚泥の返送量を第1生物処理槽に持ち込まれる基質の10倍を下回らせつつ基質を吸収させることができる量とすることは本発明の均等の範囲である。
【0016】
一方、これら基質が微生物の代謝活動により分解される速度は、吸収速度に比べてはるかに遅い。本発明では、第1生物処理槽では分離汚泥に基質を吸収させるにとどめ、第1生物処理槽の後段で分離汚泥に吸収した基質を分解させる。このようにすることにより、第1生物処理槽後段で粘質物の生成量の少ない活性汚泥を形成できる。
【0017】
また、分離汚泥による基質の吸収速度は、BODとして概ね4kg−BOD/kg−MLVSS/day程度である。よって、第1生物処理槽の滞留時間は、分離汚泥が基質を吸収できる時間であればよい。具体的には、第1生物処理槽のBOD汚泥負荷は、分離汚泥による基質の吸収速度と同程度の4kg−BOD/kg−MLVSS/day以上の高負荷とするとよい。このような高負荷にすることで、第1生物処理槽では分離汚泥に基質を吸収させるにとどめることができる上、第1生物処理槽を小型化できる。ただし、基質が分離汚泥により吸収されにくい物質、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、機械油を主体とする場合は、第1生物処理槽のBOD汚泥負荷は4kg−BOD/kg−MLVSS/dayより低くする方がよい。
【0018】
なお、分離汚泥を十分な量、返送せずに第1生物処理槽を高負荷運転すると、生物汚泥による粘質物の生成量が増え、膜の目詰まりの原因となるため、好ましくない。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、膜分離槽で分離された分離汚泥を第1生物処理槽に返送して、排水中の基質を吸収させた後、第1生物処理槽の後段の生物処理槽で生物分解を行わせることで、粘質物の生成を抑制できる。よって、本発明によれば、生物処理された混合液を膜分離する際の目詰まりを効果的に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。以下、同一部材については同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0021】
図1は、本発明に用いられる膜分離式排水処理装置(以下、単に「処理装置」という)1の模式図である。処理装置1は、生物処理装置10と膜分離槽21とを含む。生物処理装置10は、第1生物処理槽11と第2生物処理槽12とを備え、第1生物処理槽11および第2生物処理槽12には、散気手段として散気管15がそれぞれ設けられている。
【0022】
膜分離槽21には分離膜17が設けられ、分離膜17は液中に浸漬されている。膜分離槽21にはまた、散気管15が設けられている。散気管15は、分離膜17を曝気洗浄できるよう、膜分離槽21の底部であって分離膜17の下側に配置されている。
【0023】
第1生物処理槽11には原水管30が接続され、原水管30を介して排水が生物処理装置10に導入される。第1生物処理槽11と第2生物処理槽12とは第1処理液管31を介して直列に接続されている。第2生物処理槽12は、第2処理液管32を介して膜分離槽21と接続されている。膜分離槽21には、分離膜で分離された分離汚泥が取り出される汚泥引抜管35と、分離水(処理水)が取り出される分離水管36がさらに接続されている。汚泥引抜管35からは汚泥返送管37が分岐しており、汚泥返送管37は第1生物処理槽11に接続されている。膜分離槽21で分離された分離汚泥は、汚泥引抜管35および汚泥返送管37を介して第1生物処理槽11に返送される。
【0024】
排水は、微生物の基質となる物質、例えばBOD成分や窒素等を含む。以下、処理装置1を用いてBOD成分を含む有機物含有水を排水として処理する場合の本発明に係る生物処理方法について説明する。
【0025】
第1生物処理槽11には、BOD成分を含む排水が導入され、膜分離槽21から送られた分離汚泥と混合される。分離汚泥の返送量は、MLVSSとしての乾燥質量が、排水に含まれて第1生物処理槽11に持ち込まれるBOD量の10倍以上となるようにする。
【0026】
例えば、第1生物処理槽11に流入する有機物含有水のBOD濃度が1,000mg/Lで、その流入量が100m/dayである場合、第1生物処理槽11に持ち込まれるBOD量は100kg/dayとなる。そこで、分離汚泥の返送量は、MLVSS(乾燥質量)として1,000kg−MLVSS/day以上とすればよい。
【0027】
本発明者の知見によれば、返送された分離汚泥は4kg−BOD/kg−MLVSS/day以上の速度で基質となるBOD成分を微生物体内に吸収する。分離汚泥による基質の吸収速度は、好気性条件の場合に最も速くなるが、無酸素条件下であっても、あるいは嫌気性条件下であっても、吸収速度はそれほど、低下しない。また、汚泥の種類の違い(BOD汚泥か硝化汚泥か等の違い)および基質の違い(BOD成分か窒素か等の違い)によってもさほど異なることはない。
【0028】
本発明では、第1生物処理槽11においては、分離汚泥と排水を混合して排水中の基質(BOD成分)を分離汚泥に吸収させればよい。すなわち特許文献2では第1生物処理槽で排水中の汚濁物質を基質として生物汚泥を増殖させるが、本発明では生物汚泥を増殖させるのではなく、膜分離槽21から返送された分離汚泥に汚濁物質を分離汚泥に吸収させる。そのために本発明では分離汚泥の返送量を上述した量とする。
【0029】
分離汚泥は、基質を吸収した時点で第1生物処理槽から取り出す。このため、第1生物処理槽11では、分離汚泥による基質の吸収速度と同等以上の汚泥負荷をかけ、水理学的滞留時間(HRT)を短くすればよい。具体的には、第1生物処理槽11のBOD汚泥負荷は4kg−BOD/kg−MLVSS/day以上とするとよい。例えば、上記条件において分離汚泥のMLVSS濃度が15,000mg/L、第1生物処理槽11のMLVSS濃度が10,000mg/Lである場合において、第1生物処理槽11のBOD汚泥負荷を5kg−BOD/kg−MLVSS/dayとして、HRTを36分以下とする。この場合、上記MLVSS濃度の分離汚泥であれば返送量は67m/day(返送率67%)以上であればよい。
【0030】
第1生物処理槽11をこのような高負荷で運転してHRTを短くすることは、生物処理装置10を小型化することにもつながる。第1生物処理槽11の負荷を低くすると装置の大型化を招く上、生物汚泥による粘質物の生成を抑制する効果が満足に得られない。
【0031】
なお、第1生物処理槽11の運転条件は、流入BOD量と分離汚泥の返送量の比が上記条件を満足すれば足り、さらに上記負荷条件を満足していればよく、その他の条件(酸素濃度)は限定されない。ただし、分離汚泥による基質の吸収は微生物活動によって生じる作用であるため、pHおよび温度に影響される。このため、第1生物処理槽11の槽内液のpHは中性付近(6〜8.5程度)であり、温度は10〜40℃程度が好ましい。
【0032】
第1生物処理槽11の槽内液は、第1処理液管31から取り出して第2生物処理槽12に導入する。本発明では、生物処理装置10に流入する有機物の大部分は第1生物処理槽11で分離汚泥に吸収されているため、第2生物処理槽12では、分離汚泥に吸収した基質を生物分解させればよい。具体的には、第2生物処理槽12では、負荷を低くしてSRTを長く(20日以上)にするとよい。このようにすることで、分離汚泥が吸収した基質を生物分解させるとともに、粘質物の生成量が少ない活性汚泥を得ることができる。
【0033】
第2生物処理槽12の運転条件は、SRTを長くすることが好ましい他は特に限定されず、吸収された基質が分解される条件であればよい。なお、本発明では第1生物処理槽11で、原水に含まれるBODの大部分が分離汚泥に吸収されているため、第2生物処理槽12のBOD汚泥負荷は低くなる。
【0034】
第2生物処理槽12から取り出した槽内液は、第2処理液管32を介して膜分離槽21に送る。膜分離槽21に送られる槽内液(生物処理水)に含まれる活性汚泥は、粘質物の生成が抑制されている。よって、膜分離槽21では分離膜17の目詰まりを防止するために間欠吸引を行う必要はなく、散気管15から曝気しながら連続的に膜分離すればよい。もっとも、間欠吸引をすることは排除されない。膜分離により液分と分離された分離汚泥は、汚泥引抜管35から引き抜き、汚泥返送管37を介してその途中に設けたポンプPによって上述した必要量を第1生物処理槽11に送る。余剰の引抜汚泥は汚泥引抜管35から系外へ排出してよい。分離水は、処理水として分離水管36から取り出せばよい。
【0035】
なお、分離膜17としては、固液分離に一般に用いられている膜であれば特に限定されない。具体的には、精密濾過(MF)膜、または限外濾過(UF)膜を用いればよく、膜モジュールの形状は中空糸、または平膜等であってよい。
【0036】
本発明は、上記方法に限定されない。次に、本発明の他の実施態様として、図2に示す処理装置2を用いた処理方法を説明する。処理装置2は、生物処理装置10Bが3槽の直列接続された生物処理槽を備える点で、第1実施形態に係る処理装置1と異なる。3槽の生物処理槽を、前段側から第1生物処理槽11B、第2生物処理槽12B、および第3生物処理槽13と称する。
【0037】
第1生物処理槽11Bは、分離汚泥が返送され、基質を含む排水が導入される点で第1実施態様の処理装置1の第1生物処理槽11と同様である。ただし、処理装置2では第1生物処理槽11Bは散気管を備えず、代わりに攪拌機16を備え、嫌気的な生物処理を行うよう構成されている。処理装置2においても、第1生物処理槽11Bにはこれに流入する基質(例えばたんぱく質)の10倍以上の分離汚泥が膜分離槽21から返送され、高負荷で運転されるとよい。
【0038】
第2生物処理槽12Bは、第1生物処理槽11Bと同様の構成で散気管を備えず攪拌機16を備える嫌気性生物処理槽として構成されている。第3生物処理槽13は、第1実施態様の処理装置1における第2生物処理槽12に相当し、SRTを長くして低負荷で運転される。
【0039】
このように、3槽以上の生物処理槽を直列接続して配置する場合、基質を含む排水が導入される第1生物処理槽に、MLVSS乾燥質量換算で10倍量以上の分離汚泥を返送する。また、分離汚泥が返送される第1生物処理槽は負荷を高くする。一方、膜分離槽直前に配置される生物処理槽(最後段の生物処理槽)は、SRTを長くして運転するとよい。
【実施例】
【0040】
[実施例1]
排水として、食品工場廃水(BOD濃度1,900mg/L)を図1に示す処理装置1と同様の構成の装置で処理した。第1生物処理槽11および第2生物処理槽12はどちらも好気条件で運転される好気処理槽である。膜分離槽21には、ポリエチレン製の精密濾過膜を(モジュール形式:中空糸膜、三菱レイヨン株式会社製、商品名「ステラポア LFM」)を浸漬させ曝気した。膜面積は4mとした。その他の各槽の運転条件を以下に記す。
【0041】
〔第1生物処理槽〕
MLVSS :8,300〜8,900mg/L
HRT :1.1時間
BOD汚泥負荷:4.4〜4.7kg−BOD/kg−MLVSS/day
〔第2生物処理槽〕
MLVSS :8,400〜9,000mg/L
HRT :24時間
〔膜分離槽〕
MLVSS :15,500mg/L
膜フラックス :0.4m/day
HRT :1時間
【0042】
実施例1では、膜分離槽21からの分離汚泥の返送量を、第1生物処理槽11への原水流入量の125%とした。この返送量は、MLVSSの乾燥質量として、第1生物処理槽11への流入BOD量の約10.2倍である。
【0043】
上記条件で10日間、排水の処理を行った結果、分離膜の圧損はほとんど上昇しなかった。また、膜分離後に得られた分離水(処理水)の水質は、全有機物(TOC)濃度34mg/Lであり、膜分離槽の溶解性TOC濃度は35mg/Lであった。
【0044】
[実施例2]
実施例2として、図2に示す処理装置2と同様の構成の装置で処理した。実施例2では、第1生物処理槽11Bおよび第2生物処理槽12Bはどちらも嫌気的条件で運転される嫌気処理槽である。第2生物処理槽12Bの構成及び運転条件は第1生物処理槽11Bと同様にしたが、HRTは8時間とした。第3生物処理槽13は、実施例1の第2生物処理槽12と同様の構成および運転条件とし、膜分離槽21も実施例1と同様の構成および運転条件とした。
【0045】
実施例2では、第1生物処理槽11Bおよび第2生物処理槽12Bを嫌気処理槽にした以外は、実施例1と同じ条件で実施例1と同じ排水を処理した。この条件で10日間、排水の処理を行った結果、分離膜の圧損はほとんど上昇しなかった。また、膜分離後に得られた分離水(処理水)の水質は、TOC濃度32mg/Lであり、膜分離槽の溶解性TOC濃度も同様に32mg/Lであった。
【0046】
[比較例1]
比較例1として、実施例1において第1生物処理槽11の負荷を低くした実験を行った。具体的には、第1生物処理槽11のHRTを2時間にしてBOD汚泥負荷を下げた。第1生物処理槽1の負荷を低くした以外は実施例1と同様の構成および運転条件で、実施例1と同じ排水を処理した。その結果、運転直後から分離膜の圧損が上昇し始め、4日間で16kPa上昇した。このときの処理水の水質は、TOC濃度30mg/Lであり、膜分離槽の溶解性TOC濃度は58mg/Lであった。
【0047】
[比較例2]
比較例2では、実施例1において第1生物処理槽11への分離汚泥の返送量を低下させた。具体的には、第1生物処理槽1への分離汚泥の返送量を第1生物処理槽11への原水流入量の80%にした。汚泥返送量を少なくした以外は実施例1と同様の構成および運転条件で、実施例1と同じ排水を処理した。その結果、運転直後から分離膜の圧損が上昇し始め、7日間で21kPa上昇した。このときの処理水の水質は、TOC濃度44mg/Lであり、膜分離槽の溶解性TOC濃度は87mg/Lであった。
【0048】
以上より、本発明によれば微生物による粘質物の生成を抑制して膜の目詰まりを防止できることが示された。通常の活性汚泥法では一般に、生物汚泥に分解される有機物の2〜3%程度の代謝産物が生成されるが、本発明によれば代謝産物の生成量は代謝産物の生成量は分解された有機物の1〜2%に抑制される。特に、実施例2に示すように、生物処理装置を3槽以上の直列接続された生物処理槽で構成して処理すれば、代謝産物の生成量自体は1〜2%程度であるものの、膜の目詰まりの大きな原因となる高分子物質の生成量を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、有機物等を含む排水の膜分離式生物処理に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に用いられる第1実施態様に係る排水処理装置の模式図。
【図2】本発明に用いられる第2実施態様に係る排水処理装置の模式図。
【符号の説明】
【0051】
1、2 排水処理装置
10、10B 生物処理装置
11、11B 第1生物処理槽
12、12B 第2生物処理槽
13 第3生物処理槽
15 散気管
16 攪拌機
17 分離膜
21 膜分離槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を生物処理装置で生物処理した後、分離膜を備える膜分離槽で前記生物処理装置から流出した生物処理水を液分と分離汚泥とに膜分離する膜分離式排水処理方法であって、
前記生物処理装置を、前記分離汚泥が返送される第1生物処理槽と、前記第1生物処理槽後段に設けられる第2生物処理槽とで構成し、
前記第1生物処理槽への前記分離汚泥の返送量を、MLVSSの乾燥質量として前記排水に含まれて前記第1生物処理槽に流入する基質量の10倍以上とし、
前記第1生物処理槽を高負荷で運転する膜分離式排水処理方法。
【請求項2】
前記排水は前記基質としてのBOD成分を含む有機物含有水であり、
前記第1生物処理槽を、BOD汚泥負荷4kg−BOD/kg−MLVSS/day以上の高負荷で運転する請求項1に記載の膜分離式排水処理方法。
【請求項3】
前記生物処理装置を、互いに直列に接続された3以上の生物処理槽で構成し、
前記膜分離槽の前段側に設けられ前記膜分離槽と接続される最後段生物処理槽の汚泥滞留時間を20日以上とする請求項1または2に記載の膜分離式排水処理方法。
【請求項4】
排水が導入され高負荷で運転される第1生物処理槽、および前記第1生物処理槽後段に設けられる第2生物処理槽を備える生物処理装置と、
分離膜を備え前記生物処理装置から流出した生物処理水を液分と分離汚泥とに膜分離する膜分離槽と、
前記分離汚泥を前記第1生物処理槽に返送する汚泥返送管であって、前記分離汚泥を、MLVSSの乾燥重量として前記排水に含まれて前記第1生物処理槽に流入する基質量の10倍以上となるように返送する汚泥返送管と、を含む膜分離式排水処理装置。
【請求項5】
前記排水は前記基質としてBOD成分を含む有機物含有水であり、
前記第1生物処理槽は、BOD汚泥負荷4kg−BOD/kg−MLVSS/day以上の高負荷で運転される処理槽である請求項4に記載の膜分離式排水処理装置。
【請求項6】
前記生物処理装置は、互いに直列に接続された3以上の生物処理槽を備え、
前記膜分離槽の前段側に設けられ前記膜分離槽と接続される最後段生物処理槽は、汚泥滞留時間が20日以上で運転される処理槽である請求項4または5に記載の膜分離式排水処理装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−50764(P2009−50764A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217809(P2007−217809)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】