膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法
【課題】膨縮後における配線溝の形状を表現する溝形状関数モデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、基板表面上に形成される薄膜の膜厚を正確に予測する。
【解決手段】膜厚予測装置は、TEGを用いて実測された各種パターンの配線溝上に形成される銅メッキの膜厚の実測値と、メッキモデルおよび条件ファイルに基づいて算出された銅メッキの膜厚と、を比較する。つぎに、この比較結果から、最も適したメッキモデルを導出し、最適なメッキモデルを用いて設計対象となる基板表面に形成される銅メッキの膜厚を算出する。これにより、膜厚予測装置によれば、精度の高い膜厚予測シミュレーションをおこなうことができる。
【解決手段】膜厚予測装置は、TEGを用いて実測された各種パターンの配線溝上に形成される銅メッキの膜厚の実測値と、メッキモデルおよび条件ファイルに基づいて算出された銅メッキの膜厚と、を比較する。つぎに、この比較結果から、最も適したメッキモデルを導出し、最適なメッキモデルを用いて設計対象となる基板表面に形成される銅メッキの膜厚を算出する。これにより、膜厚予測装置によれば、精度の高い膜厚予測シミュレーションをおこなうことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置の製造方法に関する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法であり、特に半導体装置の表面上に形成された薄膜の膜厚を予測する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化や多層配線化にともない各層での平坦性が求められている。具体的には、半導体デバイス製造における配線工程において、銅メッキなどが施された基板表面上を、CMP(Chemical Mechanical Planarization)技術などにより研磨して均一に平坦化させることが品質向上の点で重要となっている。
【0003】
基板表面上に形成された銅メッキを適切に研磨するためには、研磨条件が重要となる。研磨条件とは、たとえば、研磨する際の研磨時間、研磨パッドの圧力および回転数などであり、銅メッキの膜厚に応じて変化させる必要がある。
【0004】
従来より、TEG(Test Element Group)を利用して、基板表面上に形成された銅メッキの膜厚を、銅メッキの体積および高さを表現する数式モデルを用いて算出する膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって最適な研磨条件を探索していた(たとえば、下記特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−257915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の従来技術では、膜厚予測シミュレーションによって算出された銅メッキの膜厚と、実際に基板表面に形成された銅メッキの膜厚と、のズレが大きくなってしまう場合があった。
【0007】
このため、基板表面上を適切に平坦化することができない場合があり、配線同士の接触や配線パターンのピントが基板表面上の凹凸によって合わなくなるなどの不具合が生じてしまい、歩留まりの低下につながるという問題があった。
【0008】
また、最適な研磨時間をユーザの試行錯誤によって探索することも考えられる。具体的には、たとえば、銅メッキが形成された基板表面上を、ある研磨条件のもとで研磨し、研磨後の銅メッキの膜厚を実測する。この作業を様々な研磨条件のもとで繰り返しおこない、基板表面上が平坦となる最適な研磨条件を探索する。
【0009】
しかしながら、この方法で最適な研磨条件を探索するためには、様々な研磨条件のもとで繰り返し膜厚の測定をおこなう必要があるため、多大な作業時間を要し、設計期間の増加および製作コストの増加につながるという問題があった。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、膨縮後における配線溝の形状を表現する溝形状関数モデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、基板表面上に形成される薄膜の膜厚を正確に予測する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法は、所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法において、前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付け、入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算し、演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記モデル値により形状が特定された配線溝を有する前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出し、この算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出し、この算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果に近似する算出結果を得ることができるパラメータの値を、当該パラメータの取り得る値の中から決定することができる。
【0013】
また、上記発明において、前記決定された最適値を前記溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得し、取得されたモデル値および前記設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出することとしてもよい。
【0014】
この発明によれば、配線溝の膨縮後における形状を考慮した溝形状関数モデルを用いて設計対象基板表面に形成される薄膜の膜厚を算出することができる。
【0015】
また、上記発明において、前記溝形状関数モデルは、前記膨縮後における前記配線溝の膨張幅または収縮幅の変化を表現する溝形状関数モデルであってもよい。
【0016】
この発明によれば、配線溝の膨縮後における当該配線溝の膨張幅または収縮幅の変化量を考慮した溝形状関数モデルを用いて設計対象基板表面に形成される薄膜の膜厚を算出することができる。
【0017】
また、上記発明において、前記溝形状関数モデルは、前記配線溝の溝底部からの高さの変化を表現する溝形状関数モデルであってもよい。
【0018】
この発明によれば、配線溝の溝底部からの高さの変化量を考慮した溝形状関数モデルを用いて設計対象基板表面に形成される薄膜の膜厚を算出することができる。
【0019】
また、上記発明において、前記膜厚関数モデルは、前記配線溝が膨縮することにより、当該配線溝上の薄膜表面上に形成される凹凸形状を半球形状にモデル化した膜厚関数モデルであり、演算されたモデル値を、この膜厚関数モデルに代入することによって前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出することとしてもよい。
【0020】
この発明によれば、前記配線溝が膨縮することによって当該配線溝上の薄膜表面上に形成される凹凸形状を実際の形状に近い半球形状にモデル化して、テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法によれば、膨縮後における配線溝の形状を表現する溝形状関数モデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、基板表面上に形成される薄膜の膜厚を正確に予測することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
(LSIの製造処理手順)
まず、半導体装置であるLSIを製造する際の製造処理手順の概要について説明する。図1は、LSIの製造処理手順の概要を示す説明図である。図1に示すように、LSIを製造する際には、まず、基板の表面上に形成された酸化膜上に、フォトマスクを介して光を照射し配線パターンを形成する(図中A)。フォトマスクとは、透明なガラス基板の上に光を通さない材料で半導体回路の配線パターンが描かれたものである。このフォトマスクを介して酸化膜上に紫外線を照射することによって半導体回路の配線パターンを転写することができる。
【0024】
つぎに、配線パターンが転写された酸化膜上をエッチングすることによって、配線溝を形成する(図中B)。エッチングとは、薬品やイオンの化学反応(腐食作用)を利用して、基板表面上の酸化膜などを形状加工することである。また、配線溝は、半導体回路の配線を形成するための溝である。配線の材料としては、電気伝導性の高い銅やアルミニウムなどが用いられる。
【0025】
そして、電解メッキを施すことによって酸化膜上に銅メッキを生成する(図中C)。ここでは、銅を例に挙げてメッキを生成したが、アルミニウムなどを用いてメッキを生成するようにしてもよい。なお、電解メッキとは、電気分解反応により金属イオンを還元し、陰極の導電性材料の表面に金属を析出させることである。
【0026】
つぎに、生成した銅メッキをCMP(Chemical Mechanical Polishing)により、余分な銅を除去する(図中D)。CMPとは、半導体装置などの基板表面上の凹凸面を、化学研磨剤やパッドなどで機械的に削って平坦化することである。
【0027】
そして、研磨終了後、配線が形成された酸化膜上にさらに酸化膜を形成する(図中E)。また、多層配線をおこなう場合は、上述した一連の処理(図中A〜E)を繰り返すことによって多層的に半導体回路を一つの基板上に形成することができる。
【0028】
ここで説明したLSIの製造工程において、CMPにより基板表面上を研磨することによって適切に基板表面上を平坦化することが重要な工程となっている(図中D)。なぜなら、たとえば、基板表面上が適切に平坦化されていない場合、基板上に形成された配線同士が接触したり、配線パターンのピントが基板表面上の凹凸によって合わなくなるなどの不具合が生じ、歩留まり低下の原因となってしまう。
【0029】
そこで、基板表面上を適切に平坦化するために、たとえば、研磨をおこなう際のパッドの圧力、回転数、研磨時間などの研磨条件を適切に設定する必要がある。設定する研磨条件は、基板表面上(酸化膜上)に生成される銅メッキの膜厚によって異なる。このため、基板表面上にどの程度の銅が堆積しているのかを示す銅メッキの膜厚を正確に把握する必要がある。
【0030】
この発明では、銅メッキを生成した際における配線溝の膨縮を考慮して、膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルを用いた膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって銅メッキの膜厚を正確に予測する。特に、配線溝が膨縮することによって、配線溝上の銅メッキ表面に形成される凹凸の高さを正確に算出し、正確な銅メッキの膜厚予測をおこなう。
【0031】
(膜厚予測方法の概要)
ここで、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測方法の処理の概要について説明する。図2は、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測方法の処理の概要を示す説明図である。図2に示すように、まず、TEG(Test Element Group)を用いて、各種パターンの配線溝上に形成される銅メッキの膜厚を実測する。具体的には、様々な値の配線幅、配線間隔幅によって形成された配線溝上における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さを実測する。
【0032】
ここで、TEGとは、半導体回路の材料、基本設計、基本プロセスなどを評価したり、故障メカニズムを調べるために作成された評価用のテスト基板である。なお、銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さについては後述する。
【0033】
図3は、各種パターンの配線溝が形成されたTEGの一例を示す説明図である。図3に示すように、電解メッキを施すことによって各種パターンの配線溝上に銅メッキが生成されている。このTEGを用いて、様々な値の配線幅、配線密度における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さを実測する。また、図3に示すパターン以外に、配線溝が形成されていない基板上に生成された銅メッキの高さH0を実測する。
【0034】
なお、図3中に示す配線幅および配線密度から、隣り合う配線溝間の幅(配線間幅)を求めることができる。たとえば、配線幅が「1(μm)」であり、配線密度が「75(%)」だった場合、ある領域における配線密度が「75(%)」であるため、配線幅と配線間幅との比率は「1:3」となる。つまり、配線間幅は、配線幅の3倍である「3(μm)」となる。
【0035】
つぎに、実測した各配線幅、配線密度における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さの実測値を記憶した実測値DB(データベース)を作成する。なお、実測値DBの具体的な内容についての説明は後述する。
【0036】
そして、実測値DBに記憶されている各配線幅、配線密度における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さと、メッキモデルと、条件ファイルと、を用いてキャリブレーション(最適化)をおこなう。メッキモデルには、基板表面上に生成される銅メッキの体積および高さを表現するモデル式と、配線溝の膨縮後における形状を表現するモデル式と、が含まれている。また、条件ファイルは、配線溝の膨縮後における形状を表現するモデル式に含まれるパラメータの取り得る値が記述されている。
【0037】
このメッキモデルおよび条件ファイルを用いて膜厚予測シミュレーションをおこない、銅メッキの高さおよび凹凸の高さを算出する。そして、同一形状の配線溝における、膜厚予測シミュレーションによって算出された算出結果と、実測値DBに記憶されている実測値と、を比較して最もズレの少ない値を検索する。なお、膜厚予測シミュレーションをおこなう際に用いるメッキモデルおよび条件ファイルの具体的な説明は後述する。
【0038】
つぎに、キャリブレーションをおこなった結果、最もズレの少ない算出結果の算出もとであるパラメータの値を最適値として、当該パラメータの取り得る値の中から抽出する。
【0039】
最後に、抽出したパラメータ(最適値)およびチップデータDBに記憶されている実際に設計対象となるLSIに関するデータを用いて、膜厚予測シミュレーションをおこない設計対象基板の表面上に生成される銅メッキの膜厚を予測する。シミュレーション結果としては、LSI表面上の各領域における銅メッキの膜厚を示す膜厚予測ファイルが出力される。なお、チップデータDBの具体的な内容および膜厚予測ファイルについての説明は後述する。
【0040】
(膜厚予測装置のハードウェア構成)
ここで、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置のハードウェア構成について説明する。図4は、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0041】
図4において、膜厚予測装置は、CPU401と、ROM402と、RAM403と、HDD(ハードディスクドライブ)404と、HD(ハードディスク)405と、FDD(フレキシブルディスクドライブ)406と、着脱可能な記録媒体の一例としてのFD(フレキシブルディスク)407と、ディスプレイ408と、I/F(インターフェース)409と、キーボード410と、マウス411と、スキャナ412と、プリンタ413とを備えている。また、各構成部は、バス400によってそれぞれ接続されている。
【0042】
ここで、CPU401は、膜厚予測装置の全体の制御を司る。ROM402は、ブートプログラムなどのプログラムを記録している。RAM403は、CPU401のワークウェアとして使用される。HDD404は、CPU401の制御にしたがってHD405に対するデータのリード/ライトを制御する。HD405は、HDD404の制御で書き込まれたデータを記憶する。
【0043】
FDD406は、CPU401の制御にしたがってFD407に対するデータのリード/ライトを制御する。FD407は、FDD406の制御で書き込まれたデータを記憶したり、FD407に記憶されたデータを膜厚予測装置に読み取らせたりする。
【0044】
また、着脱可能な記録媒体として、FD407のほか、CD−ROM(CD−R、CD−RW)、MO、DVD(Digital Versatile Disk)、メモリカードなどであってもよい。ディスプレイ408は、カーソル、アイコンあるいはツールボックスをはじめ、文書、画像、機能情報などのデータを表示する。このディスプレイ408には、たとえば、CRT、TFT液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどを採用することができる。
【0045】
I/F409は、通信回線を通じてインターネットなどのネットワーク414に接続され、このネットワーク414を介して他の装置に接続される。そして、I/F409は、ネットワーク414と内部のインターフェースを司り、外部装置からのデータの入出力を制御する。I/F409には、たとえばモデムやLANアダプタなどを採用することができる。
【0046】
キーボード410は、文字、数字、各種指示などの入力のためのキーを備え、データの入力をおこなう。また、タッチパネル式の入力パッドやテンキーなどであってもよい。マウス411は、カーソルの移動や範囲選択、あるいはウィンドウの移動やサイズの変更などをおこなう。ポインティングデバイスとして同様の機能を備えるものであれば、トラックボールやジョイスティックなどであってもよい。
【0047】
スキャナ412は、画像を光学的に読み取り、膜厚予測装置内に画像データを読み込む。なお、スキャナ412は、OCR機能を持たせてもよい。また、プリンタ413は、画像データや文書データを印刷する。プリンタ413には、たとえば、レーザプリンタやインクジェットプリンタなどを採用することができる。
【0048】
(膜厚予測装置の機能的構成)
つぎに、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置の機能的構成について説明する。図5は、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置の機能的構成を示すブロック図である。図5において、膜厚予測装置は、入力部501と、演算部502と、膜厚算出部503と、差分算出部504と、決定部505と、取得部506と、から構成されている。
【0049】
膜厚予測装置は、所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する。テスト基板とは、たとえば、各種形状の配線溝が形成されたTEGなどの評価用基板である。なお、膜厚関数モデルを示す具体的な数式については後述する。
【0050】
まず、入力部501は、配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける。配線形成時において、基板表面上に銅メッキなどの薄膜を形成した場合、基板上に形成された配線溝が膨縮することによって配線溝の形状が変化する。配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルとは、膨縮による配線溝の寸法の変化量を表現した数式である。
【0051】
具体的には、たとえば、溝形状関数モデルは、膨縮後における配線溝の膨張幅または収縮幅の変化を表現する溝形状関数モデルである。配線溝の膨張幅または収縮幅は、膨縮時における配線溝の幅の変化量を示している。すなわち、配線溝が収縮することによって、配線幅が収縮幅分狭くなり、配線溝が膨張することによって、配線幅が膨張幅分広がることとなる。
【0052】
また、溝形状関数モデルは、配線溝の溝底部からの高さの変化を表現する溝形状関数モデルであってもよい。具体的には、上記膜厚関数モデルを用いて薄膜の体積を算出する際の、配線溝の高さを表現する溝形状関数モデルである。たとえば、この溝形状関数モデルは、配線溝の溝底部からの高さの下限(配線溝の上面部からの深さの上限)を表現している。この溝形状関数モデルで表現される配線溝の高さの値の最大値は、実際の配線溝の高さを示す数値よりも小さくなる。溝形状関数モデルを示す具体的な数式については後述する。
【0053】
また、溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値とは、具体的な数値であってもよいし、当該パラメータの可変範囲やパラメータが取り得る値の条件などであってもよい。たとえば、パラメータAの可変範囲が「0<A<100」であり、条件として「整数」であった場合、パラメータAは「1〜99」の整数値を取ることができる。
【0054】
演算部502は、入力部501によって入力された値を、溝形状関数モデルに代入することによって、配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する。モデル値とは、配線溝の膨縮後における形状を特定するための値であり、たとえば、収縮幅を示す具体的数値や膨張幅を示す具体的数値である。
【0055】
具体的には、演算部502は、溝形状関数モデルに含まれるパラメータに具体的数値を代入することによって、膨縮後における配線溝の形状を特定する。すなわち、パラメータの値を変化させることによって、膨縮後における配線溝の様々な形状を特定する。ここで特定される配線溝の形状は、パラメータが取り得る値の総数(パラメータが複数ある場合は、それぞれのパラメータの組み合わせ数)と同じ数となる。
【0056】
膜厚算出部503は、演算部502によって演算されたモデル値および配線溝の寸法データを、膜厚関数モデルに代入することによって、テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する。配線溝の寸法データとは、配線溝の各種形状を示すデータであり、配線幅、配線間の幅を示す配線間幅、配線溝の高さ(深さ)などである。
【0057】
差分算出部504は、膜厚算出部503によって算出されたテスト基板に形成された薄膜の膜厚の算出結果と、テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する。このとき、差分算出部504は、同一の寸法データで示される配線溝における、薄膜の膜厚の算出結果と実測結果との差を算出する。すなわち、パラメータの値を変化させて算出した薄膜の膜厚の算出結果と、実際に測定した実測結果とを比較して、これらのズレ量を算出する。テスト基板に形成された薄膜の膜厚を実測する際の具体的な説明は後述する。
【0058】
決定部505は、差分算出部504の算出結果に基づいて、パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する。具体的には、たとえば、決定部505は、差分算出部504の算出結果が最小となるときの、膜厚算出部503による算出結果の算出もとであるパラメータの値を、最適値に決定するようにしてもよい。
【0059】
すなわち、差分算出部504の算出結果が最も小さいときが、上記ズレ量が少ないときであり、この算出もととなるパラメータの値によって特定された配線溝の形状が実際のテスト基板の配線溝の形状と同じであることを示している。このため、最もズレ量が少ないときのパラメータの値を最適値として決定する。
【0060】
取得部506は、決定部505によって決定された最適値を溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得する。具体的には、たとえば、演算部502によって演算されたモデル値が記憶されている記録媒体から、最適値を溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得する。また、取得部506は、決定部505によって最適値が決定された後、この最適値を用いて演算部502が演算したモデル値を取得するようにしてもよい。
【0061】
また、膜厚算出部503は、取得部506によって取得されたモデル値および設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、膜厚関数モデルに代入することによって、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出するようにしてもよい。
【0062】
なお、上述した入力部501、演算部502、膜厚算出部503、差分算出部504、決定部505および取得部506は、具体的には、たとえば、図4に示したROM402、RAM403、HD405、FD407などの記録媒体に記録されたプログラムをCPU401が実行することによってその機能を実現する。以下、図2を用いて説明した膜厚予測処理の各工程に関する詳細な説明をおこなう。
【0063】
(TEGの測定)
まず、TEGを用いて、各種パターンの配線溝上に形成される銅メッキの膜厚を実測する際の説明をする。図6は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その1)である。また、図7は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その2)である。
【0064】
図6および図7に示すように、基板表面上(酸化膜上)に電解メッキを施すことによって配線幅w、配線間幅sの配線溝上に銅メッキが形成されている。電解メッキを基板表面上に施した際に、酸化膜、すなわち配線溝が膨張または収縮する。これにより、配線幅wおよび配線間隔sの大きさが変化する。この配線溝の膨縮により、配線溝上に形成された銅メッキ表面に凹凸が発生する。この凹凸の高さが、上述した銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さに相当する。
【0065】
たとえば、図6に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δs」分(以下、収縮幅δs)ほど収縮した場合、配線幅wが「2δs」狭まる。そして、配線溝の収縮により、配線溝上に高さ「h1」の凹部が発生している。また、配線溝が形成されていない基板表面上には、高さ「H1」の銅メッキが形成されている。この「H1」が、上述した銅メッキの高さに相当する。
【0066】
また、たとえば、図7に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δe」分(以下、膨張幅δe)ほど膨張した場合、配線幅wが「2δe」広がる。そして、配線溝の膨張により、配線溝上に高さ「h2」の凸部が発生している。また、配線溝が形成されていない基板表面上には、高さ「H2」の銅メッキが形成されている。この「H2」が、上述した銅メッキの高さに相当する。
【0067】
ここで説明した、銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さを、図3に示すTEGに形成されている各種形状の配線溝それぞれについて実測する。そして、実測した実測結果を、実測値DBに格納しておく。
【0068】
ここで、TEGに形成されている各種形状の配線溝における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さ(以下、「凹凸の高さ」)を記憶した実測値DBの具体的な内容について説明する。図8は、実測値DBのデータ構造の一例を示す説明図である。図8に示す実測値DBには、様々な値の配線幅w、配線間隔sにおける銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhが示されている。
【0069】
たとえば、配線幅wが「0.1(μm)」、配線間隔sが「0.1(μm)」のときは、銅メッキの高さHが「200(μm)」、凹凸の高さhが「20(μm)」となる。なお、配線間幅は、上述したように、配線幅および配線密度から求めることができる。
【0070】
(キャリブレーション)
つぎに、実測値DBに記憶されている各配線幅w、配線間幅sにおける銅メッキの高さHおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さhと、膜厚予測シミュレーションによるシミュレーション結果とを比較するキャリブレーションについて説明する。
【0071】
まず、キャリブレーションをおこなう際に用いるメッキモデルについて説明する。このメッキモデルが、上述した基板に形成される薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルおよび配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに相当する。メッキモデルは、複数のモデル式から構成されている。ここで、基板表面上のある領域に形成される銅メッキの体積Vおよび銅メッキの高さHを表現するモデル式をつぎの(1)式および(2)式に示す。
【0072】
【数1】
【0073】
【数2】
【0074】
(1)式および(2)式において、Vは銅メッキの体積、Lは配線のエッジの長さ、Tは基板表面上に形成される配線溝の高さ、Teは有効高さ、Dは基板表面上における正方形領域の一辺の長さ、ρは配線密度、ρsは収縮時の配線密度、ρeは膨張時の配線密度を示している。また、H0は、基板表面上に配線溝が形成されていない場合における銅メッキの高さを示している。なお、体積Vは、基板表面上における一辺がDの正方領域に形成される銅メッキの体積である。
【0075】
つぎに、メッキモデルに含まれる配線溝の膨縮後における形状を表現する各種モデル式について説明する。詳細な説明は後述するが、メッキモデルに含まれる膨縮後における形状を表現する各種モデル式とは、たとえば、有効高さTeに関するモデル式、収縮幅δsに関するモデル式および膨張幅δeに関するモデル式である。
【0076】
まず、有効高さTeに関するモデル式について説明する。通常、ある領域(たとえば、基板表面上)に堆積される堆積物(たとえば、銅メッキ)の堆積量は、溝などが形成されていない平坦な部分に比べて、溝が形成されている部分のほうが多い。すなわち、ある領域に堆積される堆積物の堆積量は、領域の表面積に比例する。
【0077】
図9は、基板表面上に形成された配線溝の一例を示す説明図である。ここでは、配線溝部分における表面積を求める際に、配線溝の側壁部の高さを実際の高さTではなく配線溝の配線幅wに比例する有効高さTeを用いて求める。有効高さTeは、配線溝の上面部からの高さ(深さ)である。また、有効高さTeは、実際の高さTよりも小さな値となるため、配線溝における表面積は、たとえば、図9中点線で示す部分となる。
【0078】
具体的には、有効高さTeは、配線溝の溝底部からの高さの変化を表現するモデル式であり、配線溝の配線幅wに比例し、ある値以上となった場合に一定値「Te1」となる。有効高さTeを求める式を、つぎの(3)式に示す。
【0079】
【数3】
【0080】
なお、(3)式における、α1、β1、Te1はパラメータであり、条件ファイルに記述されている内容に基づいて様々な値を取る。ここで、条件ファイルに記述されている内容の具体的な説明をする。条件ファイルには、配線溝の膨縮後における形状を表現するモデル式に含まれる各種パラメータの可変範囲および当該可変範囲内において各種パラメータが取り得る値が記述されている。
【0081】
具体的には、たとえば、条件ファイルには、(3)式に含まれるパラメータα1およびβ1の可変範囲として、「0<α1<1」、「−1<β1<1」が記述されている。さらに、条件ファイルには、パラメータα1およびβ1の取り得る値が記述されている。たとえば、初期値が「α1=0.1」「β1=−0.9」であり、それぞれ初期値から「0.1」ずつ加算した値を取り得る。条件ファイルに記述されている内容に基づいて、各種パラメータがそれぞれ様々な値を取り得る。
【0082】
つぎに、基板表面上に電解メッキを施した際における配線溝の収縮幅δsおよび膨張幅δeについて説明する。収縮幅δsは、配線間幅sに比例し、ある値以上となった場合に一定値「(w+s)/2」となる。一定値「(w+s)/2」は、配線幅wと配線間幅sとを加算した値を半分にした値である。収縮幅δsを求める式を(4)式に示す。
【0083】
【数4】
【0084】
また、膨張幅δeは、配線幅wに比例し、ある値以上となった場合に一定値「(w+s)/2」となる。一定値「(w+s)/2」は、配線幅wと配線間幅sとを加算した値を半分にした値である。膨張幅δeを求める式を(5)式に示す。
【0085】
【数5】
【0086】
なお、(4)式および(5)式におけるα2、α3、β2、β3は、パラメータであり、条件ファイルの記述内容に基づいて様々な値を取り得る。
【0087】
つぎに、基板表面上に形成された銅メッキの体積を正確に求めるために、配線溝上の銅メッキの表面上に形成される凹凸形状(凹凸部の形状)を半球形状にモデル化したメッキモデルについて説明する。具体的には、上記(1)式および(2)式における凹凸部の体積を、凹凸部の形状をより正確に考慮して半球形状の体積として表す。
【0088】
ここでは、銅メッキ表面上に発生する凸部の体積を半球形状にモデル化したメッキモデルについて説明する。通常、電解メッキを施した際に配線溝が膨張した(たとえば、片側に「δe」ほど膨張)場合に当該配線溝上に形成される凸部は、半球の一部分となる。図10は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その3)である。また、図11は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その4)である。
【0089】
図10および図11に示すように、配線溝上に図中黒丸で示す点を中心とする半球形状の凸部が形成されている。ここで、半球形状の凸部の体積をSrとした場合、上記(2)式はつぎの(6)式となる。
【0090】
【数6】
【0091】
具体的には、(2)式において、凸部の体積を示す「hD2ρe」が半球形状の凸部の体積を示すSrに置き換わる。この(6)式を用いて求めた半球形状の凸部の体積Srおよび銅メッキの高さHから凸部の高さhを求める。以下、凸部の高さhを求める手順を説明する。
【0092】
ここで、配線溝上に半球形状の凸部を形成する球の半径をR、基板表面を基準に球の中心までの高さをM、半球形状の凸部が銅メッキ表面と接触する部分における幅をNとする。なお、球の中心までの高さMは、球の中心(図中黒丸)が基板表面よりも高い位置にある場合は正の値となり、球の中心が基板表面よりも低い位置にある場合は負の値となる。
【0093】
また、球の半径Rは、Mを用いて、『R=H+h−M』と表すことができる。さらに、半球形状の凸部の幅Nは、『N=w+2δe』となる。凸部の高さhを求める際には、まず、(6)式から、半球形状の凸部の体積Srおよび銅メッキの高さHを求める。具体的には、(6)式に配線溝の寸法データ(配線幅、配線間幅、エッジ長など)を代入して半球形状の凸部の体積Srおよび銅メッキの高さHを求める。つぎに、半球形状の凸部の体積Srから球の半径Rを求める。そして、求めた半径Rと半球形状の凸部の幅Nとから、凸部の高さhを求めることができる。
【0094】
なお、球の半径Rが「(w+s)/2」となった場合、半球形状は平坦となる。この場合、配線溝上に形成される凸部の形状が図5に示すような形状になり、凸部の体積はhD2ρeとなるため、(2)式を用いて凸部の高さhを求める。なお、銅メッキ表面上に発生する凹部の体積を上記同様に半球形状にモデル化し、銅メッキの膜厚予測をおこなうようにしてもよい。
【0095】
つぎに、(1)式および(6)式(または、(2)式)を用いて銅メッキの高さHおよび凹凸部の高さhを求める際の具体的な説明をする。ここで、配線幅w、配線間幅sおよび配線密度ρの関係について図6および図7を用いて説明する。(1)式および(2)式において、配線幅wおよび配線間幅sを使用するために、配線密度ρを、配線幅wおよび配線間幅sを用いて変換する。配線密度ρは、ある領域において配線が占める割合であり、つぎの(7)式を満たす。
【0096】
【数7】
【0097】
しかし、上述したように、基板表面上に電解メッキを施す際に、酸化膜、すなわち配線溝が膨張または収縮することによって配線幅wの大きさが変化する。具体的には、たとえば、図6に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δs」分ほど収縮した場合、配線幅wが「2δs」狭まる。この場合における配線幅w、配線間幅sおよび配線密度ρsの関係を(8)式に示す。
【0098】
【数8】
【0099】
また、たとえば、図7に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δe」ほど膨張した場合、配線幅wが「2δe」広がる。この場合における配線幅w、配線間隔sおよび配線密度ρeの関係を(9)式に示す。
【0100】
【数9】
【0101】
ここで、(1)式、(3)式、(4)式、(5)式、(6)式、(7)式および(8)式を用いて、銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを算出する際の手順の一例を示す。まず、(1)式を、(7)式および(8)式を用いて、つぎの(10)式に変換する。
【0102】
【数10】
【0103】
つぎに、(3)式および(4)式を用いて(10)式におけるTeおよびδsを各種パラメータを含む値に変換する。そして、配線溝の寸法データおよび条件ファイルに記述されている各種パラメータの取り得る値を代入し、銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを算出する。このとき算出される算出結果の総数は、各パラメータが取り得る値の数にパラメータの組み合わせ数を乗算した数となる。
【0104】
また、(10)式を用いて求めた凹凸の高さhが負の値(h<0)だった場合、(6)式を用いて銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを求める。具体的には、まず、(6)式を、(7)式を用いてつぎの(11)式に変換する。
【0105】
【数11】
【0106】
つぎに、(3)式を用いて(11)式におけるTeを各種パラメータを含む値に変換する。なお、(11)式におけるSrには、上記手順で求めた値を代入する。そして、配線溝の寸法データおよび条件ファイルに記述されている各種パラメータの取り得る値を代入し、銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを算出する。このとき算出される算出結果の総数は、各パラメータが取り得る値の数にパラメータの組み合わせ数を乗算した数となる。
【0107】
そして、メッキモデルを用いて算出した算出結果と、実測値DBに記憶されているTEGの実測結果と、を比較する。具体的には、メッキモデルを用いて算出した算出結果と、実測値DBに記憶されているTEGの実測結果と、の差を算出する。差の算出方法としては、たとえば、銅メッキの高さHと凹凸の高さhとの二乗平均の和などから差を算出する方法がある。
【0108】
つぎに、最小の差が算出されたときにおける、メッキモデルを用いて算出した算出結果の算出もととなるパラメータの値を抽出する。具体的には、α1、α2、α3、β1、β2、β3、Te1がそれぞれ「0.1、0.1、0.2、−0.1、−0.2、0.1、1」のときに、TEGの実測結果との差が最小となった場合、これらの値をパラメータの最適値として抽出する。
【0109】
(膜厚予測シミュレーション)
つぎに、実際に設計対象となる基板表面上に生成される銅メッキの膜厚を測定する際の膜厚予測シミュレーションについて説明する。ここでは、キャリブレーションをおこなうことによって抽出されたパラメータの最適値を用いて設計対象となる基板表面上に生成される銅メッキの膜厚を予測する。
【0110】
ここで、設計対象となる基板に関する情報が記憶されたチップデータDBについて説明する。チップデータDBには、設計対象となる基板表面をメッシュ状に区切った際における、各メッシュごとのそれぞれの配線密度ρおよび配線エッジの長さLが記憶されている。図12は、メッシュ状に区切られた基板表面を示す説明図である。また、図13は、チップデータDBのデータ構造の一例を示す説明図である。
【0111】
図12に示すように、設計対象となる基板の表面がメッシュ状に区切られている。基板表面には、実際に配線を形成するための配線溝が形成されている。なお、各領域は一辺がDの正方領域であり、各領域において同一幅の配線が同一配線間幅で形成されていることとする。この設計対象となる基板に関する情報が、各領域ごとにチップデータDBに記憶されている。
【0112】
図13に示すように、チップデータDBには、各領域ごとの座標、配線密度およびエッジ長が記憶されている。ここで、エッジ長とは、各領域に形成されている配線(または、配線溝)のエッジの長さである。具体的には、たとえば、図12に示す領域1200におけるエッジ長Lは、『L=L1+L2+L3』である。
【0113】
チップデータDBに記憶されている情報と、キャリブレーションをおこなうことによって抽出されたパラメータの最適値が代入されたメッキモデルと、を用いて設計対象となる基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を予測する。
【0114】
ここで、各領域における配線幅wおよび配線間隔sを求める手順の一例について説明する。まず、各領域における配線本数を求める。具体的には、一辺がDの正方領域において、同一配線幅の配線が同一配線間幅で形成されているため、配線本数は、エッジ長を正方領域の一辺で割って2等分したL/2Dとなる。また、配線幅wは、配線密度ρと正方領域の一辺Dを乗算し、配線本数でL/2D割った『w=ρD/(L/2D)=2D2ρ/L』となる。また、配線間幅sは、(7)式より『s=w(1−ρ)/ρ』となる。
【0115】
そして、チップデータDBに記憶されている、各領域における配線密度ρおよびエッジ長Lを用いて、各領域における配線幅wおよび配線間幅sを求める。ここで求めた配線幅wおよび配線間幅sを、パラメータの最適値が代入されたメッキモデルに代入することによって、設計対象となる基板表面上の各領域におけるメッキの高さHおよび凹凸の高さhを求めることができる。
【0116】
より具体的には、たとえば、キャリブレーションをおこなうことによって抽出されたパラメータの最適値を用いてTe、δe、δsを導出し、(8)式および(9)式からρsおよびρeを求める。そして、求めたρsおよびρeを(1)式または(6)式に代入し、各領域における銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを求める。このようにして、求められた結果は、膜厚予測ファイルとして出力される。
【0117】
ここで、膜厚予測シミュレーションをおこなった結果、出力される膜厚予測ファイルについて説明する。図14は、膜厚予測ファイルの一例を示す説明図である。図14に示すように、膜厚予測ファイルには、膜厚予測シミュレーションをおこなった基板表面上に生成される銅メッキの膜厚が各領域ごとに示されている。
【0118】
たとえば、図14に示すように、X座標が「50」、Y座標が「0」の領域における基板表面上に生成される銅メッキの膜厚は、銅メッキの高さHが「200」であり、凹凸の高さが「100」である。このように、設計対象となる基板表面上の各領域における膜厚が示される。
【0119】
(膜厚予測装置の膜厚予測処理手順)
つぎに、膜厚予測装置において実行される膜厚予測処理について図15を用いて説明する。図15は、膜厚予測装置において実行される膜厚予測処理手順を示すフローチャートである。ここでは、基板表面上に形成された銅メッキの膜厚を予測する際の膜厚予測処理について説明する。図15のフローチャートにおいて、まず、膜厚予測装置は、条件ファイルの入力を受け付けたか否かを判断する(ステップS1501)。
【0120】
ここで、条件ファイルが入力されるのを待って(ステップS1501:No)、入力された場合(ステップS1501:Yes)、メッキモデルおよび条件ファイルを用いてキャリブレーションをおこなう(ステップS1502)。具体的には、上述したように、条件ファイルに記述されているパラメータの値をメッキモデルに代入して、銅メッキの膜厚を算出し、算出した値とTEGの実測値とを比較することによって、それぞれの差を算出する。
【0121】
つぎに、キャリブレーションをおこなうことによって算出された算出結果をHD405などの記録媒体に保存する(ステップS1503)。そして、条件ファイルに記述されているすべてのパラメータの値に対するキャリブレーションが終了したか否かを判断する(ステップS1504)。
【0122】
ここで、終了していない場合(ステップS1504:No)、ステップS1502に戻り、メッキモデルに代入するパラメータの値を変化させて、キャリブレーションをおこなう。条件ファイルに記述されているすべてのパラメータの値に対してキャリブレーションが終了するまでステップS1502およびS1503の処理を繰り返す。
【0123】
ステップS1504において、すべてのパラメータの値に対するキャリブレーションが終了した場合(ステップS1504:Yes)、HD405などの記録媒体に保存されている算出結果の中から、最小の算出結果を抽出する(ステップS1505)。最小の算出結果とは、メッキモデルを用いて算出した銅メッキの膜厚の値と、TEGの実測値とのズレ量が最も少ないときの算出結果である。
【0124】
つぎに、ステップS1505において抽出された算出結果の算出もととなるパラメータの値を最適パラメータとして、条件ファイルに記述されているパラメータの取り得る値の中から抽出する(ステップS1506)。そして、抽出した最適パラメータをメッキモデルに代入する(ステップS1507)。
【0125】
最適パラメータが代入されたメッキモデルおよび設計対象となる基板のチップデータを用いて膜厚予測シミュレーションをおこなう(ステップS1508)。具体的には、最適パラメータが代入されたメッキモデルに、チップデータに記述されている設計対象基板に形成されている配線溝の形状を示す寸法データを代入し、設計対象基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を算出する。
【0126】
最後に、膜厚予測シミュレーションによるシミュレーション結果が記述された膜厚予測ファイルを出力して(ステップS1509)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0127】
このように、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置によれば、膨縮後における配線溝の形状を表現するメッキモデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、設計対象基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を正確に予測することができる。
【0128】
以上説明したように、膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法によれば、膨縮後における配線溝の形状を表現するメッキモデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、設計対象基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を正確に予測することができる。
【0129】
なお、本実施の形態で説明した膜厚予測方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することにより実現することができる。このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行される。またこのプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することが可能な伝送媒体であってもよい。
【0130】
(付記1)所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測させる膜厚予測プログラムにおいて、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付けさせる入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算させる演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出させる第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出させる第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定させる決定工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする膜厚予測プログラム。
【0131】
(付記2)前記決定工程は、
前記第2の算出工程の算出結果が最小となるときの、前記第1の算出工程による算出結果の算出もとである前記パラメータの値を、前記最適値に決定させることを特徴とする付記1に記載の膜厚予測プログラム。
【0132】
(付記3)前記決定工程によって決定された最適値を前記溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得させる取得工程と、
前記取得工程によって取得されたモデル値および前記設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出させる第3の算出工程と、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする付記1または2に記載の膜厚予測プログラム。
【0133】
(付記4)前記溝形状関数モデルは、
前記膨縮後における前記配線溝の膨張幅または収縮幅の変化を表現する溝形状関数モデルであることを特徴とする付記1〜3のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラム。
【0134】
(付記5)前記溝形状関数モデルは、
前記配線溝の溝底部からの高さの変化を表現する溝形状関数モデルであることを特徴とする付記1〜4のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラム。
【0135】
(付記6)前記膜厚関数モデルは、
前記配線溝が膨縮することにより、当該配線溝上の薄膜表面上に形成される凹凸形状を半球形状にモデル化した膜厚関数モデルであり、
前記第1の算出工程は、
前記演算工程によって演算されたモデル値を、前記膜厚関数モデルに代入することによって前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出させることを特徴とする付記1〜5のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラム。
【0136】
(付記7)付記1〜6のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラムを記録した前記コンピュータに読み取り可能な記録媒体。
【0137】
(付記8)所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測装置において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力手段と、
前記入力手段によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する膜厚算出手段と、
前記膜厚算出手段による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定手段と、
を備えることを特徴とする膜厚予測装置。
【0138】
(付記9)所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測方法において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定工程と、
を含んだことを特徴とする膜厚予測方法。
【産業上の利用可能性】
【0139】
以上のように、本発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法は、半導体装置の製造に有用であり、特に、多層配線を有する半導体装置の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】LSIの製造処理手順の概要を示す説明図である。
【図2】この発明の実施の形態にかかる膜厚予測方法の処理の概要を示す説明図である。
【図3】各種パターンの配線溝が形成されたTEGの一例を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図6】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その1)である。
【図7】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その2)である。
【図8】実測値DBのデータ構造の一例を示す説明図である。
【図9】基板表面上に形成された配線溝の一例を示す説明図である。
【図10】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その3)である。
【図11】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その4)である。
【図12】メッシュ状に区切られた基板表面を示す説明図である。
【図13】チップデータDBのデータ構造の一例を示す説明図である。
【図14】膜厚予測ファイルの一例を示す説明図である。
【図15】膜厚予測装置において実行される膜厚予測処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0141】
501 入力部
502 演算部
503 膜厚算出部
504 差分算出部
505 決定部
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置の製造方法に関する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法であり、特に半導体装置の表面上に形成された薄膜の膜厚を予測する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化や多層配線化にともない各層での平坦性が求められている。具体的には、半導体デバイス製造における配線工程において、銅メッキなどが施された基板表面上を、CMP(Chemical Mechanical Planarization)技術などにより研磨して均一に平坦化させることが品質向上の点で重要となっている。
【0003】
基板表面上に形成された銅メッキを適切に研磨するためには、研磨条件が重要となる。研磨条件とは、たとえば、研磨する際の研磨時間、研磨パッドの圧力および回転数などであり、銅メッキの膜厚に応じて変化させる必要がある。
【0004】
従来より、TEG(Test Element Group)を利用して、基板表面上に形成された銅メッキの膜厚を、銅メッキの体積および高さを表現する数式モデルを用いて算出する膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって最適な研磨条件を探索していた(たとえば、下記特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−257915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の従来技術では、膜厚予測シミュレーションによって算出された銅メッキの膜厚と、実際に基板表面に形成された銅メッキの膜厚と、のズレが大きくなってしまう場合があった。
【0007】
このため、基板表面上を適切に平坦化することができない場合があり、配線同士の接触や配線パターンのピントが基板表面上の凹凸によって合わなくなるなどの不具合が生じてしまい、歩留まりの低下につながるという問題があった。
【0008】
また、最適な研磨時間をユーザの試行錯誤によって探索することも考えられる。具体的には、たとえば、銅メッキが形成された基板表面上を、ある研磨条件のもとで研磨し、研磨後の銅メッキの膜厚を実測する。この作業を様々な研磨条件のもとで繰り返しおこない、基板表面上が平坦となる最適な研磨条件を探索する。
【0009】
しかしながら、この方法で最適な研磨条件を探索するためには、様々な研磨条件のもとで繰り返し膜厚の測定をおこなう必要があるため、多大な作業時間を要し、設計期間の増加および製作コストの増加につながるという問題があった。
【0010】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、膨縮後における配線溝の形状を表現する溝形状関数モデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、基板表面上に形成される薄膜の膜厚を正確に予測する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法は、所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法において、前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付け、入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算し、演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記モデル値により形状が特定された配線溝を有する前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出し、この算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出し、この算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果に近似する算出結果を得ることができるパラメータの値を、当該パラメータの取り得る値の中から決定することができる。
【0013】
また、上記発明において、前記決定された最適値を前記溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得し、取得されたモデル値および前記設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出することとしてもよい。
【0014】
この発明によれば、配線溝の膨縮後における形状を考慮した溝形状関数モデルを用いて設計対象基板表面に形成される薄膜の膜厚を算出することができる。
【0015】
また、上記発明において、前記溝形状関数モデルは、前記膨縮後における前記配線溝の膨張幅または収縮幅の変化を表現する溝形状関数モデルであってもよい。
【0016】
この発明によれば、配線溝の膨縮後における当該配線溝の膨張幅または収縮幅の変化量を考慮した溝形状関数モデルを用いて設計対象基板表面に形成される薄膜の膜厚を算出することができる。
【0017】
また、上記発明において、前記溝形状関数モデルは、前記配線溝の溝底部からの高さの変化を表現する溝形状関数モデルであってもよい。
【0018】
この発明によれば、配線溝の溝底部からの高さの変化量を考慮した溝形状関数モデルを用いて設計対象基板表面に形成される薄膜の膜厚を算出することができる。
【0019】
また、上記発明において、前記膜厚関数モデルは、前記配線溝が膨縮することにより、当該配線溝上の薄膜表面上に形成される凹凸形状を半球形状にモデル化した膜厚関数モデルであり、演算されたモデル値を、この膜厚関数モデルに代入することによって前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出することとしてもよい。
【0020】
この発明によれば、前記配線溝が膨縮することによって当該配線溝上の薄膜表面上に形成される凹凸形状を実際の形状に近い半球形状にモデル化して、テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法によれば、膨縮後における配線溝の形状を表現する溝形状関数モデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、基板表面上に形成される薄膜の膜厚を正確に予測することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
(LSIの製造処理手順)
まず、半導体装置であるLSIを製造する際の製造処理手順の概要について説明する。図1は、LSIの製造処理手順の概要を示す説明図である。図1に示すように、LSIを製造する際には、まず、基板の表面上に形成された酸化膜上に、フォトマスクを介して光を照射し配線パターンを形成する(図中A)。フォトマスクとは、透明なガラス基板の上に光を通さない材料で半導体回路の配線パターンが描かれたものである。このフォトマスクを介して酸化膜上に紫外線を照射することによって半導体回路の配線パターンを転写することができる。
【0024】
つぎに、配線パターンが転写された酸化膜上をエッチングすることによって、配線溝を形成する(図中B)。エッチングとは、薬品やイオンの化学反応(腐食作用)を利用して、基板表面上の酸化膜などを形状加工することである。また、配線溝は、半導体回路の配線を形成するための溝である。配線の材料としては、電気伝導性の高い銅やアルミニウムなどが用いられる。
【0025】
そして、電解メッキを施すことによって酸化膜上に銅メッキを生成する(図中C)。ここでは、銅を例に挙げてメッキを生成したが、アルミニウムなどを用いてメッキを生成するようにしてもよい。なお、電解メッキとは、電気分解反応により金属イオンを還元し、陰極の導電性材料の表面に金属を析出させることである。
【0026】
つぎに、生成した銅メッキをCMP(Chemical Mechanical Polishing)により、余分な銅を除去する(図中D)。CMPとは、半導体装置などの基板表面上の凹凸面を、化学研磨剤やパッドなどで機械的に削って平坦化することである。
【0027】
そして、研磨終了後、配線が形成された酸化膜上にさらに酸化膜を形成する(図中E)。また、多層配線をおこなう場合は、上述した一連の処理(図中A〜E)を繰り返すことによって多層的に半導体回路を一つの基板上に形成することができる。
【0028】
ここで説明したLSIの製造工程において、CMPにより基板表面上を研磨することによって適切に基板表面上を平坦化することが重要な工程となっている(図中D)。なぜなら、たとえば、基板表面上が適切に平坦化されていない場合、基板上に形成された配線同士が接触したり、配線パターンのピントが基板表面上の凹凸によって合わなくなるなどの不具合が生じ、歩留まり低下の原因となってしまう。
【0029】
そこで、基板表面上を適切に平坦化するために、たとえば、研磨をおこなう際のパッドの圧力、回転数、研磨時間などの研磨条件を適切に設定する必要がある。設定する研磨条件は、基板表面上(酸化膜上)に生成される銅メッキの膜厚によって異なる。このため、基板表面上にどの程度の銅が堆積しているのかを示す銅メッキの膜厚を正確に把握する必要がある。
【0030】
この発明では、銅メッキを生成した際における配線溝の膨縮を考慮して、膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルを用いた膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって銅メッキの膜厚を正確に予測する。特に、配線溝が膨縮することによって、配線溝上の銅メッキ表面に形成される凹凸の高さを正確に算出し、正確な銅メッキの膜厚予測をおこなう。
【0031】
(膜厚予測方法の概要)
ここで、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測方法の処理の概要について説明する。図2は、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測方法の処理の概要を示す説明図である。図2に示すように、まず、TEG(Test Element Group)を用いて、各種パターンの配線溝上に形成される銅メッキの膜厚を実測する。具体的には、様々な値の配線幅、配線間隔幅によって形成された配線溝上における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さを実測する。
【0032】
ここで、TEGとは、半導体回路の材料、基本設計、基本プロセスなどを評価したり、故障メカニズムを調べるために作成された評価用のテスト基板である。なお、銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さについては後述する。
【0033】
図3は、各種パターンの配線溝が形成されたTEGの一例を示す説明図である。図3に示すように、電解メッキを施すことによって各種パターンの配線溝上に銅メッキが生成されている。このTEGを用いて、様々な値の配線幅、配線密度における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さを実測する。また、図3に示すパターン以外に、配線溝が形成されていない基板上に生成された銅メッキの高さH0を実測する。
【0034】
なお、図3中に示す配線幅および配線密度から、隣り合う配線溝間の幅(配線間幅)を求めることができる。たとえば、配線幅が「1(μm)」であり、配線密度が「75(%)」だった場合、ある領域における配線密度が「75(%)」であるため、配線幅と配線間幅との比率は「1:3」となる。つまり、配線間幅は、配線幅の3倍である「3(μm)」となる。
【0035】
つぎに、実測した各配線幅、配線密度における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さの実測値を記憶した実測値DB(データベース)を作成する。なお、実測値DBの具体的な内容についての説明は後述する。
【0036】
そして、実測値DBに記憶されている各配線幅、配線密度における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さと、メッキモデルと、条件ファイルと、を用いてキャリブレーション(最適化)をおこなう。メッキモデルには、基板表面上に生成される銅メッキの体積および高さを表現するモデル式と、配線溝の膨縮後における形状を表現するモデル式と、が含まれている。また、条件ファイルは、配線溝の膨縮後における形状を表現するモデル式に含まれるパラメータの取り得る値が記述されている。
【0037】
このメッキモデルおよび条件ファイルを用いて膜厚予測シミュレーションをおこない、銅メッキの高さおよび凹凸の高さを算出する。そして、同一形状の配線溝における、膜厚予測シミュレーションによって算出された算出結果と、実測値DBに記憶されている実測値と、を比較して最もズレの少ない値を検索する。なお、膜厚予測シミュレーションをおこなう際に用いるメッキモデルおよび条件ファイルの具体的な説明は後述する。
【0038】
つぎに、キャリブレーションをおこなった結果、最もズレの少ない算出結果の算出もとであるパラメータの値を最適値として、当該パラメータの取り得る値の中から抽出する。
【0039】
最後に、抽出したパラメータ(最適値)およびチップデータDBに記憶されている実際に設計対象となるLSIに関するデータを用いて、膜厚予測シミュレーションをおこない設計対象基板の表面上に生成される銅メッキの膜厚を予測する。シミュレーション結果としては、LSI表面上の各領域における銅メッキの膜厚を示す膜厚予測ファイルが出力される。なお、チップデータDBの具体的な内容および膜厚予測ファイルについての説明は後述する。
【0040】
(膜厚予測装置のハードウェア構成)
ここで、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置のハードウェア構成について説明する。図4は、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0041】
図4において、膜厚予測装置は、CPU401と、ROM402と、RAM403と、HDD(ハードディスクドライブ)404と、HD(ハードディスク)405と、FDD(フレキシブルディスクドライブ)406と、着脱可能な記録媒体の一例としてのFD(フレキシブルディスク)407と、ディスプレイ408と、I/F(インターフェース)409と、キーボード410と、マウス411と、スキャナ412と、プリンタ413とを備えている。また、各構成部は、バス400によってそれぞれ接続されている。
【0042】
ここで、CPU401は、膜厚予測装置の全体の制御を司る。ROM402は、ブートプログラムなどのプログラムを記録している。RAM403は、CPU401のワークウェアとして使用される。HDD404は、CPU401の制御にしたがってHD405に対するデータのリード/ライトを制御する。HD405は、HDD404の制御で書き込まれたデータを記憶する。
【0043】
FDD406は、CPU401の制御にしたがってFD407に対するデータのリード/ライトを制御する。FD407は、FDD406の制御で書き込まれたデータを記憶したり、FD407に記憶されたデータを膜厚予測装置に読み取らせたりする。
【0044】
また、着脱可能な記録媒体として、FD407のほか、CD−ROM(CD−R、CD−RW)、MO、DVD(Digital Versatile Disk)、メモリカードなどであってもよい。ディスプレイ408は、カーソル、アイコンあるいはツールボックスをはじめ、文書、画像、機能情報などのデータを表示する。このディスプレイ408には、たとえば、CRT、TFT液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどを採用することができる。
【0045】
I/F409は、通信回線を通じてインターネットなどのネットワーク414に接続され、このネットワーク414を介して他の装置に接続される。そして、I/F409は、ネットワーク414と内部のインターフェースを司り、外部装置からのデータの入出力を制御する。I/F409には、たとえばモデムやLANアダプタなどを採用することができる。
【0046】
キーボード410は、文字、数字、各種指示などの入力のためのキーを備え、データの入力をおこなう。また、タッチパネル式の入力パッドやテンキーなどであってもよい。マウス411は、カーソルの移動や範囲選択、あるいはウィンドウの移動やサイズの変更などをおこなう。ポインティングデバイスとして同様の機能を備えるものであれば、トラックボールやジョイスティックなどであってもよい。
【0047】
スキャナ412は、画像を光学的に読み取り、膜厚予測装置内に画像データを読み込む。なお、スキャナ412は、OCR機能を持たせてもよい。また、プリンタ413は、画像データや文書データを印刷する。プリンタ413には、たとえば、レーザプリンタやインクジェットプリンタなどを採用することができる。
【0048】
(膜厚予測装置の機能的構成)
つぎに、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置の機能的構成について説明する。図5は、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置の機能的構成を示すブロック図である。図5において、膜厚予測装置は、入力部501と、演算部502と、膜厚算出部503と、差分算出部504と、決定部505と、取得部506と、から構成されている。
【0049】
膜厚予測装置は、所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する。テスト基板とは、たとえば、各種形状の配線溝が形成されたTEGなどの評価用基板である。なお、膜厚関数モデルを示す具体的な数式については後述する。
【0050】
まず、入力部501は、配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける。配線形成時において、基板表面上に銅メッキなどの薄膜を形成した場合、基板上に形成された配線溝が膨縮することによって配線溝の形状が変化する。配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルとは、膨縮による配線溝の寸法の変化量を表現した数式である。
【0051】
具体的には、たとえば、溝形状関数モデルは、膨縮後における配線溝の膨張幅または収縮幅の変化を表現する溝形状関数モデルである。配線溝の膨張幅または収縮幅は、膨縮時における配線溝の幅の変化量を示している。すなわち、配線溝が収縮することによって、配線幅が収縮幅分狭くなり、配線溝が膨張することによって、配線幅が膨張幅分広がることとなる。
【0052】
また、溝形状関数モデルは、配線溝の溝底部からの高さの変化を表現する溝形状関数モデルであってもよい。具体的には、上記膜厚関数モデルを用いて薄膜の体積を算出する際の、配線溝の高さを表現する溝形状関数モデルである。たとえば、この溝形状関数モデルは、配線溝の溝底部からの高さの下限(配線溝の上面部からの深さの上限)を表現している。この溝形状関数モデルで表現される配線溝の高さの値の最大値は、実際の配線溝の高さを示す数値よりも小さくなる。溝形状関数モデルを示す具体的な数式については後述する。
【0053】
また、溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値とは、具体的な数値であってもよいし、当該パラメータの可変範囲やパラメータが取り得る値の条件などであってもよい。たとえば、パラメータAの可変範囲が「0<A<100」であり、条件として「整数」であった場合、パラメータAは「1〜99」の整数値を取ることができる。
【0054】
演算部502は、入力部501によって入力された値を、溝形状関数モデルに代入することによって、配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する。モデル値とは、配線溝の膨縮後における形状を特定するための値であり、たとえば、収縮幅を示す具体的数値や膨張幅を示す具体的数値である。
【0055】
具体的には、演算部502は、溝形状関数モデルに含まれるパラメータに具体的数値を代入することによって、膨縮後における配線溝の形状を特定する。すなわち、パラメータの値を変化させることによって、膨縮後における配線溝の様々な形状を特定する。ここで特定される配線溝の形状は、パラメータが取り得る値の総数(パラメータが複数ある場合は、それぞれのパラメータの組み合わせ数)と同じ数となる。
【0056】
膜厚算出部503は、演算部502によって演算されたモデル値および配線溝の寸法データを、膜厚関数モデルに代入することによって、テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する。配線溝の寸法データとは、配線溝の各種形状を示すデータであり、配線幅、配線間の幅を示す配線間幅、配線溝の高さ(深さ)などである。
【0057】
差分算出部504は、膜厚算出部503によって算出されたテスト基板に形成された薄膜の膜厚の算出結果と、テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する。このとき、差分算出部504は、同一の寸法データで示される配線溝における、薄膜の膜厚の算出結果と実測結果との差を算出する。すなわち、パラメータの値を変化させて算出した薄膜の膜厚の算出結果と、実際に測定した実測結果とを比較して、これらのズレ量を算出する。テスト基板に形成された薄膜の膜厚を実測する際の具体的な説明は後述する。
【0058】
決定部505は、差分算出部504の算出結果に基づいて、パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する。具体的には、たとえば、決定部505は、差分算出部504の算出結果が最小となるときの、膜厚算出部503による算出結果の算出もとであるパラメータの値を、最適値に決定するようにしてもよい。
【0059】
すなわち、差分算出部504の算出結果が最も小さいときが、上記ズレ量が少ないときであり、この算出もととなるパラメータの値によって特定された配線溝の形状が実際のテスト基板の配線溝の形状と同じであることを示している。このため、最もズレ量が少ないときのパラメータの値を最適値として決定する。
【0060】
取得部506は、決定部505によって決定された最適値を溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得する。具体的には、たとえば、演算部502によって演算されたモデル値が記憶されている記録媒体から、最適値を溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得する。また、取得部506は、決定部505によって最適値が決定された後、この最適値を用いて演算部502が演算したモデル値を取得するようにしてもよい。
【0061】
また、膜厚算出部503は、取得部506によって取得されたモデル値および設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、膜厚関数モデルに代入することによって、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出するようにしてもよい。
【0062】
なお、上述した入力部501、演算部502、膜厚算出部503、差分算出部504、決定部505および取得部506は、具体的には、たとえば、図4に示したROM402、RAM403、HD405、FD407などの記録媒体に記録されたプログラムをCPU401が実行することによってその機能を実現する。以下、図2を用いて説明した膜厚予測処理の各工程に関する詳細な説明をおこなう。
【0063】
(TEGの測定)
まず、TEGを用いて、各種パターンの配線溝上に形成される銅メッキの膜厚を実測する際の説明をする。図6は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その1)である。また、図7は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その2)である。
【0064】
図6および図7に示すように、基板表面上(酸化膜上)に電解メッキを施すことによって配線幅w、配線間幅sの配線溝上に銅メッキが形成されている。電解メッキを基板表面上に施した際に、酸化膜、すなわち配線溝が膨張または収縮する。これにより、配線幅wおよび配線間隔sの大きさが変化する。この配線溝の膨縮により、配線溝上に形成された銅メッキ表面に凹凸が発生する。この凹凸の高さが、上述した銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さに相当する。
【0065】
たとえば、図6に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δs」分(以下、収縮幅δs)ほど収縮した場合、配線幅wが「2δs」狭まる。そして、配線溝の収縮により、配線溝上に高さ「h1」の凹部が発生している。また、配線溝が形成されていない基板表面上には、高さ「H1」の銅メッキが形成されている。この「H1」が、上述した銅メッキの高さに相当する。
【0066】
また、たとえば、図7に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δe」分(以下、膨張幅δe)ほど膨張した場合、配線幅wが「2δe」広がる。そして、配線溝の膨張により、配線溝上に高さ「h2」の凸部が発生している。また、配線溝が形成されていない基板表面上には、高さ「H2」の銅メッキが形成されている。この「H2」が、上述した銅メッキの高さに相当する。
【0067】
ここで説明した、銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さを、図3に示すTEGに形成されている各種形状の配線溝それぞれについて実測する。そして、実測した実測結果を、実測値DBに格納しておく。
【0068】
ここで、TEGに形成されている各種形状の配線溝における銅メッキの高さおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さ(以下、「凹凸の高さ」)を記憶した実測値DBの具体的な内容について説明する。図8は、実測値DBのデータ構造の一例を示す説明図である。図8に示す実測値DBには、様々な値の配線幅w、配線間隔sにおける銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhが示されている。
【0069】
たとえば、配線幅wが「0.1(μm)」、配線間隔sが「0.1(μm)」のときは、銅メッキの高さHが「200(μm)」、凹凸の高さhが「20(μm)」となる。なお、配線間幅は、上述したように、配線幅および配線密度から求めることができる。
【0070】
(キャリブレーション)
つぎに、実測値DBに記憶されている各配線幅w、配線間幅sにおける銅メッキの高さHおよび銅メッキを生成した際に配線溝上に形成される凹凸の高さhと、膜厚予測シミュレーションによるシミュレーション結果とを比較するキャリブレーションについて説明する。
【0071】
まず、キャリブレーションをおこなう際に用いるメッキモデルについて説明する。このメッキモデルが、上述した基板に形成される薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルおよび配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに相当する。メッキモデルは、複数のモデル式から構成されている。ここで、基板表面上のある領域に形成される銅メッキの体積Vおよび銅メッキの高さHを表現するモデル式をつぎの(1)式および(2)式に示す。
【0072】
【数1】
【0073】
【数2】
【0074】
(1)式および(2)式において、Vは銅メッキの体積、Lは配線のエッジの長さ、Tは基板表面上に形成される配線溝の高さ、Teは有効高さ、Dは基板表面上における正方形領域の一辺の長さ、ρは配線密度、ρsは収縮時の配線密度、ρeは膨張時の配線密度を示している。また、H0は、基板表面上に配線溝が形成されていない場合における銅メッキの高さを示している。なお、体積Vは、基板表面上における一辺がDの正方領域に形成される銅メッキの体積である。
【0075】
つぎに、メッキモデルに含まれる配線溝の膨縮後における形状を表現する各種モデル式について説明する。詳細な説明は後述するが、メッキモデルに含まれる膨縮後における形状を表現する各種モデル式とは、たとえば、有効高さTeに関するモデル式、収縮幅δsに関するモデル式および膨張幅δeに関するモデル式である。
【0076】
まず、有効高さTeに関するモデル式について説明する。通常、ある領域(たとえば、基板表面上)に堆積される堆積物(たとえば、銅メッキ)の堆積量は、溝などが形成されていない平坦な部分に比べて、溝が形成されている部分のほうが多い。すなわち、ある領域に堆積される堆積物の堆積量は、領域の表面積に比例する。
【0077】
図9は、基板表面上に形成された配線溝の一例を示す説明図である。ここでは、配線溝部分における表面積を求める際に、配線溝の側壁部の高さを実際の高さTではなく配線溝の配線幅wに比例する有効高さTeを用いて求める。有効高さTeは、配線溝の上面部からの高さ(深さ)である。また、有効高さTeは、実際の高さTよりも小さな値となるため、配線溝における表面積は、たとえば、図9中点線で示す部分となる。
【0078】
具体的には、有効高さTeは、配線溝の溝底部からの高さの変化を表現するモデル式であり、配線溝の配線幅wに比例し、ある値以上となった場合に一定値「Te1」となる。有効高さTeを求める式を、つぎの(3)式に示す。
【0079】
【数3】
【0080】
なお、(3)式における、α1、β1、Te1はパラメータであり、条件ファイルに記述されている内容に基づいて様々な値を取る。ここで、条件ファイルに記述されている内容の具体的な説明をする。条件ファイルには、配線溝の膨縮後における形状を表現するモデル式に含まれる各種パラメータの可変範囲および当該可変範囲内において各種パラメータが取り得る値が記述されている。
【0081】
具体的には、たとえば、条件ファイルには、(3)式に含まれるパラメータα1およびβ1の可変範囲として、「0<α1<1」、「−1<β1<1」が記述されている。さらに、条件ファイルには、パラメータα1およびβ1の取り得る値が記述されている。たとえば、初期値が「α1=0.1」「β1=−0.9」であり、それぞれ初期値から「0.1」ずつ加算した値を取り得る。条件ファイルに記述されている内容に基づいて、各種パラメータがそれぞれ様々な値を取り得る。
【0082】
つぎに、基板表面上に電解メッキを施した際における配線溝の収縮幅δsおよび膨張幅δeについて説明する。収縮幅δsは、配線間幅sに比例し、ある値以上となった場合に一定値「(w+s)/2」となる。一定値「(w+s)/2」は、配線幅wと配線間幅sとを加算した値を半分にした値である。収縮幅δsを求める式を(4)式に示す。
【0083】
【数4】
【0084】
また、膨張幅δeは、配線幅wに比例し、ある値以上となった場合に一定値「(w+s)/2」となる。一定値「(w+s)/2」は、配線幅wと配線間幅sとを加算した値を半分にした値である。膨張幅δeを求める式を(5)式に示す。
【0085】
【数5】
【0086】
なお、(4)式および(5)式におけるα2、α3、β2、β3は、パラメータであり、条件ファイルの記述内容に基づいて様々な値を取り得る。
【0087】
つぎに、基板表面上に形成された銅メッキの体積を正確に求めるために、配線溝上の銅メッキの表面上に形成される凹凸形状(凹凸部の形状)を半球形状にモデル化したメッキモデルについて説明する。具体的には、上記(1)式および(2)式における凹凸部の体積を、凹凸部の形状をより正確に考慮して半球形状の体積として表す。
【0088】
ここでは、銅メッキ表面上に発生する凸部の体積を半球形状にモデル化したメッキモデルについて説明する。通常、電解メッキを施した際に配線溝が膨張した(たとえば、片側に「δe」ほど膨張)場合に当該配線溝上に形成される凸部は、半球の一部分となる。図10は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その3)である。また、図11は、基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その4)である。
【0089】
図10および図11に示すように、配線溝上に図中黒丸で示す点を中心とする半球形状の凸部が形成されている。ここで、半球形状の凸部の体積をSrとした場合、上記(2)式はつぎの(6)式となる。
【0090】
【数6】
【0091】
具体的には、(2)式において、凸部の体積を示す「hD2ρe」が半球形状の凸部の体積を示すSrに置き換わる。この(6)式を用いて求めた半球形状の凸部の体積Srおよび銅メッキの高さHから凸部の高さhを求める。以下、凸部の高さhを求める手順を説明する。
【0092】
ここで、配線溝上に半球形状の凸部を形成する球の半径をR、基板表面を基準に球の中心までの高さをM、半球形状の凸部が銅メッキ表面と接触する部分における幅をNとする。なお、球の中心までの高さMは、球の中心(図中黒丸)が基板表面よりも高い位置にある場合は正の値となり、球の中心が基板表面よりも低い位置にある場合は負の値となる。
【0093】
また、球の半径Rは、Mを用いて、『R=H+h−M』と表すことができる。さらに、半球形状の凸部の幅Nは、『N=w+2δe』となる。凸部の高さhを求める際には、まず、(6)式から、半球形状の凸部の体積Srおよび銅メッキの高さHを求める。具体的には、(6)式に配線溝の寸法データ(配線幅、配線間幅、エッジ長など)を代入して半球形状の凸部の体積Srおよび銅メッキの高さHを求める。つぎに、半球形状の凸部の体積Srから球の半径Rを求める。そして、求めた半径Rと半球形状の凸部の幅Nとから、凸部の高さhを求めることができる。
【0094】
なお、球の半径Rが「(w+s)/2」となった場合、半球形状は平坦となる。この場合、配線溝上に形成される凸部の形状が図5に示すような形状になり、凸部の体積はhD2ρeとなるため、(2)式を用いて凸部の高さhを求める。なお、銅メッキ表面上に発生する凹部の体積を上記同様に半球形状にモデル化し、銅メッキの膜厚予測をおこなうようにしてもよい。
【0095】
つぎに、(1)式および(6)式(または、(2)式)を用いて銅メッキの高さHおよび凹凸部の高さhを求める際の具体的な説明をする。ここで、配線幅w、配線間幅sおよび配線密度ρの関係について図6および図7を用いて説明する。(1)式および(2)式において、配線幅wおよび配線間幅sを使用するために、配線密度ρを、配線幅wおよび配線間幅sを用いて変換する。配線密度ρは、ある領域において配線が占める割合であり、つぎの(7)式を満たす。
【0096】
【数7】
【0097】
しかし、上述したように、基板表面上に電解メッキを施す際に、酸化膜、すなわち配線溝が膨張または収縮することによって配線幅wの大きさが変化する。具体的には、たとえば、図6に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δs」分ほど収縮した場合、配線幅wが「2δs」狭まる。この場合における配線幅w、配線間幅sおよび配線密度ρsの関係を(8)式に示す。
【0098】
【数8】
【0099】
また、たとえば、図7に示すように、基板表面上に電解メッキを施した際に配線溝が片側に「δe」ほど膨張した場合、配線幅wが「2δe」広がる。この場合における配線幅w、配線間隔sおよび配線密度ρeの関係を(9)式に示す。
【0100】
【数9】
【0101】
ここで、(1)式、(3)式、(4)式、(5)式、(6)式、(7)式および(8)式を用いて、銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを算出する際の手順の一例を示す。まず、(1)式を、(7)式および(8)式を用いて、つぎの(10)式に変換する。
【0102】
【数10】
【0103】
つぎに、(3)式および(4)式を用いて(10)式におけるTeおよびδsを各種パラメータを含む値に変換する。そして、配線溝の寸法データおよび条件ファイルに記述されている各種パラメータの取り得る値を代入し、銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを算出する。このとき算出される算出結果の総数は、各パラメータが取り得る値の数にパラメータの組み合わせ数を乗算した数となる。
【0104】
また、(10)式を用いて求めた凹凸の高さhが負の値(h<0)だった場合、(6)式を用いて銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを求める。具体的には、まず、(6)式を、(7)式を用いてつぎの(11)式に変換する。
【0105】
【数11】
【0106】
つぎに、(3)式を用いて(11)式におけるTeを各種パラメータを含む値に変換する。なお、(11)式におけるSrには、上記手順で求めた値を代入する。そして、配線溝の寸法データおよび条件ファイルに記述されている各種パラメータの取り得る値を代入し、銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを算出する。このとき算出される算出結果の総数は、各パラメータが取り得る値の数にパラメータの組み合わせ数を乗算した数となる。
【0107】
そして、メッキモデルを用いて算出した算出結果と、実測値DBに記憶されているTEGの実測結果と、を比較する。具体的には、メッキモデルを用いて算出した算出結果と、実測値DBに記憶されているTEGの実測結果と、の差を算出する。差の算出方法としては、たとえば、銅メッキの高さHと凹凸の高さhとの二乗平均の和などから差を算出する方法がある。
【0108】
つぎに、最小の差が算出されたときにおける、メッキモデルを用いて算出した算出結果の算出もととなるパラメータの値を抽出する。具体的には、α1、α2、α3、β1、β2、β3、Te1がそれぞれ「0.1、0.1、0.2、−0.1、−0.2、0.1、1」のときに、TEGの実測結果との差が最小となった場合、これらの値をパラメータの最適値として抽出する。
【0109】
(膜厚予測シミュレーション)
つぎに、実際に設計対象となる基板表面上に生成される銅メッキの膜厚を測定する際の膜厚予測シミュレーションについて説明する。ここでは、キャリブレーションをおこなうことによって抽出されたパラメータの最適値を用いて設計対象となる基板表面上に生成される銅メッキの膜厚を予測する。
【0110】
ここで、設計対象となる基板に関する情報が記憶されたチップデータDBについて説明する。チップデータDBには、設計対象となる基板表面をメッシュ状に区切った際における、各メッシュごとのそれぞれの配線密度ρおよび配線エッジの長さLが記憶されている。図12は、メッシュ状に区切られた基板表面を示す説明図である。また、図13は、チップデータDBのデータ構造の一例を示す説明図である。
【0111】
図12に示すように、設計対象となる基板の表面がメッシュ状に区切られている。基板表面には、実際に配線を形成するための配線溝が形成されている。なお、各領域は一辺がDの正方領域であり、各領域において同一幅の配線が同一配線間幅で形成されていることとする。この設計対象となる基板に関する情報が、各領域ごとにチップデータDBに記憶されている。
【0112】
図13に示すように、チップデータDBには、各領域ごとの座標、配線密度およびエッジ長が記憶されている。ここで、エッジ長とは、各領域に形成されている配線(または、配線溝)のエッジの長さである。具体的には、たとえば、図12に示す領域1200におけるエッジ長Lは、『L=L1+L2+L3』である。
【0113】
チップデータDBに記憶されている情報と、キャリブレーションをおこなうことによって抽出されたパラメータの最適値が代入されたメッキモデルと、を用いて設計対象となる基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を予測する。
【0114】
ここで、各領域における配線幅wおよび配線間隔sを求める手順の一例について説明する。まず、各領域における配線本数を求める。具体的には、一辺がDの正方領域において、同一配線幅の配線が同一配線間幅で形成されているため、配線本数は、エッジ長を正方領域の一辺で割って2等分したL/2Dとなる。また、配線幅wは、配線密度ρと正方領域の一辺Dを乗算し、配線本数でL/2D割った『w=ρD/(L/2D)=2D2ρ/L』となる。また、配線間幅sは、(7)式より『s=w(1−ρ)/ρ』となる。
【0115】
そして、チップデータDBに記憶されている、各領域における配線密度ρおよびエッジ長Lを用いて、各領域における配線幅wおよび配線間幅sを求める。ここで求めた配線幅wおよび配線間幅sを、パラメータの最適値が代入されたメッキモデルに代入することによって、設計対象となる基板表面上の各領域におけるメッキの高さHおよび凹凸の高さhを求めることができる。
【0116】
より具体的には、たとえば、キャリブレーションをおこなうことによって抽出されたパラメータの最適値を用いてTe、δe、δsを導出し、(8)式および(9)式からρsおよびρeを求める。そして、求めたρsおよびρeを(1)式または(6)式に代入し、各領域における銅メッキの高さHおよび凹凸の高さhを求める。このようにして、求められた結果は、膜厚予測ファイルとして出力される。
【0117】
ここで、膜厚予測シミュレーションをおこなった結果、出力される膜厚予測ファイルについて説明する。図14は、膜厚予測ファイルの一例を示す説明図である。図14に示すように、膜厚予測ファイルには、膜厚予測シミュレーションをおこなった基板表面上に生成される銅メッキの膜厚が各領域ごとに示されている。
【0118】
たとえば、図14に示すように、X座標が「50」、Y座標が「0」の領域における基板表面上に生成される銅メッキの膜厚は、銅メッキの高さHが「200」であり、凹凸の高さが「100」である。このように、設計対象となる基板表面上の各領域における膜厚が示される。
【0119】
(膜厚予測装置の膜厚予測処理手順)
つぎに、膜厚予測装置において実行される膜厚予測処理について図15を用いて説明する。図15は、膜厚予測装置において実行される膜厚予測処理手順を示すフローチャートである。ここでは、基板表面上に形成された銅メッキの膜厚を予測する際の膜厚予測処理について説明する。図15のフローチャートにおいて、まず、膜厚予測装置は、条件ファイルの入力を受け付けたか否かを判断する(ステップS1501)。
【0120】
ここで、条件ファイルが入力されるのを待って(ステップS1501:No)、入力された場合(ステップS1501:Yes)、メッキモデルおよび条件ファイルを用いてキャリブレーションをおこなう(ステップS1502)。具体的には、上述したように、条件ファイルに記述されているパラメータの値をメッキモデルに代入して、銅メッキの膜厚を算出し、算出した値とTEGの実測値とを比較することによって、それぞれの差を算出する。
【0121】
つぎに、キャリブレーションをおこなうことによって算出された算出結果をHD405などの記録媒体に保存する(ステップS1503)。そして、条件ファイルに記述されているすべてのパラメータの値に対するキャリブレーションが終了したか否かを判断する(ステップS1504)。
【0122】
ここで、終了していない場合(ステップS1504:No)、ステップS1502に戻り、メッキモデルに代入するパラメータの値を変化させて、キャリブレーションをおこなう。条件ファイルに記述されているすべてのパラメータの値に対してキャリブレーションが終了するまでステップS1502およびS1503の処理を繰り返す。
【0123】
ステップS1504において、すべてのパラメータの値に対するキャリブレーションが終了した場合(ステップS1504:Yes)、HD405などの記録媒体に保存されている算出結果の中から、最小の算出結果を抽出する(ステップS1505)。最小の算出結果とは、メッキモデルを用いて算出した銅メッキの膜厚の値と、TEGの実測値とのズレ量が最も少ないときの算出結果である。
【0124】
つぎに、ステップS1505において抽出された算出結果の算出もととなるパラメータの値を最適パラメータとして、条件ファイルに記述されているパラメータの取り得る値の中から抽出する(ステップS1506)。そして、抽出した最適パラメータをメッキモデルに代入する(ステップS1507)。
【0125】
最適パラメータが代入されたメッキモデルおよび設計対象となる基板のチップデータを用いて膜厚予測シミュレーションをおこなう(ステップS1508)。具体的には、最適パラメータが代入されたメッキモデルに、チップデータに記述されている設計対象基板に形成されている配線溝の形状を示す寸法データを代入し、設計対象基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を算出する。
【0126】
最後に、膜厚予測シミュレーションによるシミュレーション結果が記述された膜厚予測ファイルを出力して(ステップS1509)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0127】
このように、この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置によれば、膨縮後における配線溝の形状を表現するメッキモデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、設計対象基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を正確に予測することができる。
【0128】
以上説明したように、膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法によれば、膨縮後における配線溝の形状を表現するメッキモデルを利用した膜厚予測シミュレーションをおこなうことによって、設計対象基板表面上に形成される銅メッキの膜厚を正確に予測することができる。
【0129】
なお、本実施の形態で説明した膜厚予測方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することにより実現することができる。このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行される。またこのプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することが可能な伝送媒体であってもよい。
【0130】
(付記1)所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測させる膜厚予測プログラムにおいて、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付けさせる入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算させる演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出させる第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出させる第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定させる決定工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする膜厚予測プログラム。
【0131】
(付記2)前記決定工程は、
前記第2の算出工程の算出結果が最小となるときの、前記第1の算出工程による算出結果の算出もとである前記パラメータの値を、前記最適値に決定させることを特徴とする付記1に記載の膜厚予測プログラム。
【0132】
(付記3)前記決定工程によって決定された最適値を前記溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得させる取得工程と、
前記取得工程によって取得されたモデル値および前記設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出させる第3の算出工程と、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする付記1または2に記載の膜厚予測プログラム。
【0133】
(付記4)前記溝形状関数モデルは、
前記膨縮後における前記配線溝の膨張幅または収縮幅の変化を表現する溝形状関数モデルであることを特徴とする付記1〜3のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラム。
【0134】
(付記5)前記溝形状関数モデルは、
前記配線溝の溝底部からの高さの変化を表現する溝形状関数モデルであることを特徴とする付記1〜4のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラム。
【0135】
(付記6)前記膜厚関数モデルは、
前記配線溝が膨縮することにより、当該配線溝上の薄膜表面上に形成される凹凸形状を半球形状にモデル化した膜厚関数モデルであり、
前記第1の算出工程は、
前記演算工程によって演算されたモデル値を、前記膜厚関数モデルに代入することによって前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出させることを特徴とする付記1〜5のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラム。
【0136】
(付記7)付記1〜6のいずれか一つに記載の膜厚予測プログラムを記録した前記コンピュータに読み取り可能な記録媒体。
【0137】
(付記8)所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測装置において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力手段と、
前記入力手段によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する膜厚算出手段と、
前記膜厚算出手段による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定手段と、
を備えることを特徴とする膜厚予測装置。
【0138】
(付記9)所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測方法において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定工程と、
を含んだことを特徴とする膜厚予測方法。
【産業上の利用可能性】
【0139】
以上のように、本発明にかかる膜厚予測プログラム、記録媒体、膜厚予測装置および膜厚予測方法は、半導体装置の製造に有用であり、特に、多層配線を有する半導体装置の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】LSIの製造処理手順の概要を示す説明図である。
【図2】この発明の実施の形態にかかる膜厚予測方法の処理の概要を示す説明図である。
【図3】各種パターンの配線溝が形成されたTEGの一例を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態にかかる膜厚予測装置の機能的構成を示すブロック図である。
【図6】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その1)である。
【図7】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その2)である。
【図8】実測値DBのデータ構造の一例を示す説明図である。
【図9】基板表面上に形成された配線溝の一例を示す説明図である。
【図10】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その3)である。
【図11】基板表面上に生成された銅メッキの一例を示す説明図(その4)である。
【図12】メッシュ状に区切られた基板表面を示す説明図である。
【図13】チップデータDBのデータ構造の一例を示す説明図である。
【図14】膜厚予測ファイルの一例を示す説明図である。
【図15】膜厚予測装置において実行される膜厚予測処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0141】
501 入力部
502 演算部
503 膜厚算出部
504 差分算出部
505 決定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測させる膜厚予測プログラムにおいて、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付けさせる入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算させる演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出させる第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出させる第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定させる決定工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする膜厚予測プログラム。
【請求項2】
前記決定工程によって決定された最適値を前記溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得させる取得工程と、
前記取得工程によって取得されたモデル値および前記設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出させる第3の算出工程と、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項1に記載の膜厚予測プログラム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜厚予測プログラムを記録した前記コンピュータに読み取り可能な記録媒体。
【請求項4】
所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測装置において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力手段と、
前記入力手段によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する膜厚算出手段と、
前記膜厚算出手段による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定手段と、
を備えることを特徴とする膜厚予測装置。
【請求項5】
所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測方法において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定工程と、
を含んだことを特徴とする膜厚予測方法。
【請求項1】
所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測させる膜厚予測プログラムにおいて、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付けさせる入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算させる演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出させる第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出させる第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定させる決定工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする膜厚予測プログラム。
【請求項2】
前記決定工程によって決定された最適値を前記溝形状関数モデルに代入することによって演算されたモデル値を取得させる取得工程と、
前記取得工程によって取得されたモデル値および前記設計対象基板が有する配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を算出させる第3の算出工程と、
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項1に記載の膜厚予測プログラム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の膜厚予測プログラムを記録した前記コンピュータに読み取り可能な記録媒体。
【請求項4】
所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測装置において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力手段と、
前記入力手段によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する膜厚算出手段と、
前記膜厚算出手段による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する差分算出手段と、
前記差分算出手段の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定手段と、
を備えることを特徴とする膜厚予測装置。
【請求項5】
所定の形状の配線溝を有するテスト基板を利用して、設計対象基板に形成される薄膜の膜厚を、当該薄膜の体積および高さを表現する膜厚関数モデルを用いて予測する膜厚予測方法において、
前記配線溝の膨縮後における形状を表現する溝形状関数モデルに含まれるパラメータの取り得る値の入力を受け付ける入力工程と、
前記入力工程によって入力された値を、前記溝形状関数モデルに代入することによって、前記配線溝の膨縮後における形状を特定するモデル値を演算する演算工程と、
前記演算工程によって演算されたモデル値および前記配線溝の寸法データを、前記膜厚関数モデルに代入することによって、前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚を算出する第1の算出工程と、
前記第1の算出工程による算出結果と前記テスト基板に形成された薄膜の膜厚の実測結果との差を算出する第2の算出工程と、
前記第2の算出工程の算出結果に基づいて、前記パラメータの取り得る値の中から当該パラメータの最適値を決定する決定工程と、
を含んだことを特徴とする膜厚予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−4683(P2008−4683A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171375(P2006−171375)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]