説明

自動二輪車のクランクケース補強構造

【課題】チェーン張力方向におけるクランクケースの剛性を簡易な方法で向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明は、エンジン12に設けられたクランク軸24と、クランク軸24に接続された入力軸26及び出力軸27を備えた変速装置25と、出力軸27に設けられたドライブスプロケット33と、ドライブスプロケット33とチェーン34を介して接続されたドリブンスプロケットと、クランク軸24、入力軸26及び出力軸27を支持するクランクケース20と、を備えた自動二輪車に用いられ、出力軸27は、軸受31を介してクランクケース20に支持され、クランクケース20には、出力軸27の後側から前側までボルト40が固定され、ボルト40は、ドライブスプロケット33の軸心とドリブンスプロケットの軸心を結ぶ方向に沿って、軸受31の近傍を通過するように設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のクランクケース補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車においては、エンジンのクランク軸が、入力軸及び出力軸を備えた変速装置に接続されている。変速装置の出力軸にはドライブスプロケットが設けられ、このドライブスプロケットは、チェーン又はベルトを介して、後輪と回転一体に設けられたドリブンスプロケットと接続されている。そして、エンジンの駆動力が、変速装置と、ドライブスプロケットと、チェーン又はベルトと、ドリブンスプロケットとを介して後輪に伝達されることで、自動二輪車の走行が可能となっている。
【0003】
このようにチェーン又はベルトを介してエンジンの駆動力を後輪に伝達する場合には、一般に、変速装置の出力軸の端からドライブスプロケットを露出させ、そこにチェーン又はベルトを巻き掛ける構成を採用する場合が多い。その際、自動二輪車の本体フレームにクランクケースを搭載する構成を可能とするため、出力軸上にドライブスプロケットが片持ち状態で支持されることになる(特許文献1の「駆動スプロケット79」参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3628452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような構成の自動二輪車においては、走行時にチェーン又はベルトに強い張力が発生し、これに伴って、後輪側に捻られるような力がドライブスプロケット及び出力軸に作用する。そのため、出力軸を支持するクランクケースやこのクランクケースを保持する車体フレームの懸架部には、捻り方向の荷重に対する剛性が要求される。この剛性が不足している場合には、出力軸が大きく傾いてしまい、チェーンと各スプロケットの噛合い不良による耐久性能の低下や、変速装置に設けられたギアの噛合い不良による騒音の増加や、シフト時のギアの作動不良といった不具合が生じる。
【0006】
特に、変速装置の入力軸と出力軸の軸心同士を結ぶ方向とチェーンの張力の方向が略直交するような場合(特許文献1参照)、チェーンは出力軸を車両後方に向かって引っ張り、変速装置のギアの噛合いによって生じる反力は出力軸を車両前方に向かって押し出す。その結果、出力軸の軸受、特にドライブスプロケット配置側の軸受は、大きなモーメント荷重を受ける。更に、一般的なクランクケースにおいては、最も応力がかかる部分(出力軸の上下部近傍)に入力軸の軸受の保持部が形成されるため、入力軸や出力軸の軸受を保持するのに必要な剛性を確保しにくいという問題がある。
【0007】
このような問題を回避するため、クランク軸の軸線を含む平面でクランクケースを分割するエンジンでは、クランクケースの分割面上に出力軸を配置し、出力軸の軸受の側方において、クランクケースの一方部材(例えば、アッパクランクケース)と他方部材(例えば、ロアクランクケース)を締結する方式が多く用いられている。しかしながら、いずれかのシリンダが上方を向いたエンジンにおいては、出力軸はクランク軸の後方に配置されるため、クランクケースの一方部材と他方部材の締結方向は、ドライブチェーンの張力の方向に対して略直角を成すことになり、上記した締結による補強の効果は限定的である。
【0008】
また、クランクケースをクランク軸の軸線と直交する平面で分割する場合、出力軸の軸受は、エンジンの冷機時にクランクケースに圧入される。通常、出力軸の軸受は鉄製であり、クランクケースはアルミ製であり、両部材の熱膨張係数は異なる。そのため、エンジンが冷機状態から暖機状態へと移行すると、両部材が異なる比率で熱膨張し、両部材の間に隙間が生じてしまう場合が多い。これに伴って、脱落防止用のリテーナ等で軸受を支持することが必要となり、構成の複雑化を招いている。
【0009】
そこで、本発明は上記の事情を考慮し、出力軸の軸受を保持している部分について、チェーン張力方向におけるクランクケースの剛性を簡易な方法で向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジンに設けられたクランク軸と、該クランク軸に接続された入力軸及び該入力軸に接続された出力軸を備えた変速装置と、前記出力軸に設けられたドライブスプロケットと、該ドライブスプロケットの後方に設けられて該ドライブスプロケットとチェーンを介して接続されたドリブンスプロケットと、前記クランク軸、前記入力軸及び前記出力軸を支持するクランクケースと、を備えた自動二輪車におけるクランクケース補強構造であって、前記出力軸は、軸受を介して前記クランクケースに支持され、前記クランクケースには、前記出力軸の後側から前側までボルトが固定され、該ボルトは、前記ドライブスプロケットの軸心と前記ドリブンスプロケットの軸心を結ぶ方向に沿って、前記軸受の近傍を通過するように設けられていることを特徴とする。
【0011】
このような構成を採用することにより、出力軸の軸受をクランクケースが保持している部分について、クランクケースのチェーン張力方向の剛性を簡易な方法で向上させることが可能となり、チェーン張力に伴う捻り方向の荷重によってクランクケースが変形するのを抑制することが可能となる。
【0012】
また、前記クランクケースには、前記ボルトを固定するボルト孔が設けられ、該ボルト孔は、前記ボルトの前端部が螺合される雌ネジ部と、前記ボルトの後端部が配置される締付座面と、を備え、前記雌ネジ部は、前記ドライブスプロケットの軸心と前記ドリブンスプロケットの軸心を結ぶ方向と直交する前記クランクケースの断面のうち最小断面積の部分よりも前側に配置され、前記締付座面は、前記最小断面積の部分よりも後側に配置されていても良い。
【0013】
このような構成を採用することにより、もっとも変形が起こりやすい部分であるクランクケースの最小断面積の部分を確実に補強することが可能となり、クランクケースの変形を一層効果的に抑制することが可能となる。
【0014】
更に、前記ボルトの材質は、前記クランクケースの材質よりもヤング率が高いことが好ましい。
【0015】
このような構成を採用することにより、ボルトをクランクケースよりも高剛性化することが可能となり、ボルトによりクランクケースを確実に補強して、クランクケースの変形を一層効果的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、出力軸の軸受を保持している部分について、チェーン張力方向におけるクランクケースの剛性を簡易な方法で向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車を示す左側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る自動二輪車において、エンジンを示す左後方からの斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る自動二輪車において、エンジンを示す左側面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る自動二輪車において、ボルト孔にボルトを挿入する前の状態のロアクランクケースを示す左側面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る自動二輪車において、ボルト孔にボルトを挿入した状態のロアクランクケースを示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、本発明の構造を、オンロードタイプの自動二輪車1に適用する場合について説明する。なお、上下、左右、前後の方向は、自動二輪車1に乗車する運転者から見た方向を基準とする。
【0019】
まず、図1を用いて、自動二輪車1の全体の構成について説明する。
【0020】
自動二輪車1には、骨組を構成する車体フレーム2が設けられ、車体フレーム2の前方から下方にかけて設けられたカウリング3により、自動二輪車1の前部が覆われている。車体フレーム2は、例えばツインチューブ型であり、車体フレーム2の前部上端に配置されたヘッドパイプ4と、ヘッドパイプ4から後下方に向かって延設された左右一対のメインフレーム5と、メインフレーム5の後部から後上方に向かって延設された左右一対のシートレール6と、を主体として構成されている。
【0021】
ヘッドパイプ4には、左右一対のフロントフォーク7が左右に回転可能に支持されている。フロントフォーク7の下端には前輪8が軸支され、フロントフォーク7の上端にはハンドルバー9が左右方向に固定されている。
【0022】
左右一対のメインフレーム5の間には燃料タンク10が設けられ、燃料タンク10の後方には、シートレール6の上方に運転者シート11が設けられ、燃料タンク11の下方にはエンジン12(図2、図3参照)が搭載されている。左右一対のメインフレーム5の後下部にはピボット軸13が架設され、ピボット軸13にはスイングアーム14の前端部が上下方向揺動可能に支持されている。スイングアーム14の後端部には後輪15が軸支され、後輪15の上部側方にはマフラ16が設けられている。
【0023】
次に、主に図2、図3を用いて、エンジン12及びその周辺の構成について説明する。
【0024】
エンジン12は、例えばDOHC式の水冷4気筒エンジンであり、アッパクランクケース17及びロアクランクケース18からなる上下二分割式のクランクケース20と、アッパクランクケース17の前部に一体成型されて上前方に延設されるシリンダ21と、シリンダ21の上方に設けられるシリンダヘッド22と、シリンダヘッド22の上面を被覆するシリンダヘッドカバー23と、を備えている。
【0025】
クランクケース20は、アルミ製である。クランクケース20内には、アッパクランクケース17とロアクランクケース18の分割面Pに沿って、クランク軸24が軸支されている。なお、図2及び図3において、クランク軸24は、その軸心の位置のみが破線で表示されている。クランク軸24は、シリンダ21内に上下動可能に収納されたピストン(図示せず)とコンロッド(図示せず)を介して接続されており、ピストンの上下動がコンロッドを介してクランク軸24の回転に変換されるように構成されている。
【0026】
クランクケース20内には、クランク軸24の後方に、変速装置25が設けられている。変速装置25は、例えば6段変速式であって、クランク軸24の後方にクランク軸24と平行に設けられた入力軸26と、入力軸26の下方にクランク軸24及び入力軸26と平行に設けられた出力軸27と、を備えている。なお、図2及び図3において、入力軸26は、その軸心の位置のみが破線で表示されている。また、図2において、出力軸27の左端部を除く部分は、その軸心の位置のみが破線で表示されている。
【0027】
入力軸26は、アッパクランクケース17とロアクランクケース18の分割面P上に設けられており、鉄系材料で形成された左右一対の軸受28を介して、クランクケース20に軸支されている。入力軸26は、クランクケース20の後端部に設けられたクラッチ30(図2参照)を介してクランク軸24と接続されており、クランク軸24の回転が、クラッチ30を介して入力軸26に伝達されるように構成されている。
【0028】
出力軸27は、鉄系材料で形成された左右一対の軸受31を介してロアクランクケース18に軸支されている。出力軸27は、複数のギア(図示せず)を介して入力軸26と接続されており、各ギアごとに設定されたギア比に従って、入力軸26の回転が減速されて出力軸27に伝達されるように構成されている。出力軸27の左端部は、ロアクランクケース18に設けられた挿通穴32(図4、図5参照)を介してロアクランクケース18の左方に露出している。
【0029】
出力軸27の左端部には、出力軸27と回転一体のドライブスプロケット33が片持ち状態で設けられている。ドライブスプロケット33には、チェーン34の前端部が巻き掛けられており、このチェーン34の後端部は、後輪15と回転一体に設けられたドリブンスプロケット35(図1参照)に巻き掛けられている。これにより、ドライブスプロケット33とドリブンスプロケット35がチェーン34を介して接続され、ドライブスプロケット33、チェーン34及びドリブンスプロケット35を介して出力軸27の回転が後輪15に伝達されるように構成されている。
【0030】
次に、主に図4、図5を用いて、本実施形態に係るクランクケース補強構造について説明する。
【0031】
ロアクランクケース18には、挿通穴32の上下に一対のボルト孔36が設けられている。各ボルト孔36は、挿通穴32の後側から前側まで、ドライブスプロケット33の軸心とドリブンスプロケット35の軸心を結ぶ方向(図4、図5の矢印X参照。以下、「軸心連結方向X」と略称する。)に沿って設けられている。換言すれば、各ボルト孔36は、チェーン34の巻き掛け方向に沿って設けられている。各ボルト孔36は、出力軸27の左側の軸受31の上部近傍と下部近傍をそれぞれ通過するように設けられている。
【0032】
各ボルト孔36の前端部には雌ネジ部37が設けられている。雌ネジ部37は、軸線連結方向Xと直交するロアクランクケース18の断面のうち最小断面積の部分(図4、図5の矢印Y参照。以下、「最小断面積部分Y」と略称する。)よりも前側に配置されている。なお、本実施形態では、挿通穴32を通過する部分が、最小断面積部分Yとなっている。各ボルト孔36の後端部には、締付座面38が設けられている。締付座面38は、最小断面積部分Yよりも後側に配置されている。
【0033】
図5に示されるように、各ボルト孔36にはボルト40が固定されている。各ボルト40は、アルミ製のクランクケース20よりもヤング率が高く、且つ、熱膨張係数が小さい材料(例えば、鉄系材料やTi合金材)で形成されている。
【0034】
各ボルト40の先端部には雄ネジ部41が設けられ、ボルト40の基端部にはボルトヘッド42が設けられている。そして、各ボルト40の雄ネジ部41を各ボルト孔36の雌ネジ部37に螺合させながら、各ボルト40のボルトヘッド42を、各ボルト孔36の締付座面38に締め付けていくことで、各ボルト40が各ボルト孔36に固定されている。
各ボルト孔36の締付座面38と各ボルト40のボルトヘッド42の間には、補強部材としてのワッシャ43が介装されている。
【0035】
上記のように、各ボルト40が各ボルト孔36に固定されると、各ボルト40は、出力軸27の後側から前側まで配置される。ここで、「出力軸27の後側」とは、出力軸27の軸心よりも後側のことであり、必ずしも出力軸27の外周よりも後側でなくても良い。同様に、「出力軸27の前側」とは、出力軸27の軸心よりも前側のことであり、必ずしも出力軸27の外周よりも前側でなくても良い。
【0036】
また、上記のように、各ボルト40が各ボルト孔36に固定されると、各ボルト40は、軸心連結方向Xに沿って配置される。また、上側のボルト40は、出力軸27の左側の軸受31の上部近傍を通過するように配置され、下側のボルト40は、出力軸27の左側の軸受31の下部近傍を通過するように配置される(図2参照)。
【0037】
上記の如く構成されたものにおいて、エンジン12が駆動されると、クラッチ30、入力軸26、出力軸27、ドライブスプロケット33、チェーン34及びドリブンスプロケット35を介して、クランク軸24の回転が後輪15に伝達され、自動二輪車1が走行する。この走行時において、チェーン34には、軸心連結方向Xに沿って強い張力が発生し、これに伴って、ドリブンスプロケット35側に捻られる方向の力が、ドライブスプロケット33及び出力軸27に作用する。この点、本実施形態では、軸心連結方向Xに沿って、出力軸27の後側から前側までボルト40がクランクケース20に固定されている。そのため、チェーン34の張力方向におけるクランクケース20の剛性を向上させることが可能となり、ドライブスプロケット33及び出力軸27に作用する捻り方向の力によって、クランクケース20が変形するのを抑制することが可能となる。
【0038】
また、チェーン34の張力によりドライブスプロケット33及び出力軸27に作用する捻り方向の力によって、出力軸27の軸受31、特に、ドライブスプロケット33に近い側の軸受31(本実施形態では、左側の軸受31)には、強い荷重がかかる。この点、本実施形態では、各ボルト40が、左側の軸受31の近傍を通過するように設けられている。そのため、強い荷重がかかる部分を効果的に補強することが可能となる。
【0039】
以上の如く、本実施形態では、ボルト孔36にボルト40を挿入するという簡易な構成でクランクケース20を補強し、出力軸27の軸受31を保持している部分(以下、「軸受保持部分」と略称する。)におけるクランクケース20のチェーン張力方向の剛性を高めることを可能としている。
【0040】
更に、本実施形態においては、最小断面積部分Yの前側に各ボルト孔36の雌ネジ部37が配置され、最小断面積部分Yの後側に各ボルト孔36の締付座面38が配置されている。そのため、最小断面積部分Yを両側から挟み込むようにして、各ボルト40を各ボルト孔36に固定することが可能となり、伸びや破損等の変形が特に生じやすい部分である最小断面積部分Yの剛性を、確実に高めることができる。これに伴って、クランクケース20の変形抑制効果を一層高めることが可能となる。
【0041】
なお、本実施形態では、図4及び図5に示されるように、ボルト孔36の雌ネジ部37の全体が、クランクケース20の最小断面積部分Yよりも前側に配置されているが、最小断面積部分Yを前後両側から挟み込んで最小断面積部分Yの剛性を高めるには、少なくとも雌ネジ部37の一部が最小断面積部分Yよりも前側に配置されていれば良い。
【0042】
また、ボルト40の材質は、クランクケース20の材質よりもヤング率が高いため、ボルト40をクランクケース20よりも高剛性化することが可能となり、ボルト40によりクランクケース20を確実に補強して、クランクケース20の変形を一層効果的に抑制することが可能となる。
【0043】
また、出力軸27の軸受31とクランクケース20とは上述の如く材質が異なり、アルミ製のクランクケース20の方が鉄製の軸受31よりも熱膨張係数が高い。そのため、エンジン12が冷機状態から暖機状態へと移行するのに伴って、熱膨張によってクランクケース20が軸受31よりも大きく変形して、軸受31とクランクケース20の軸受保持部分の間に隙間が生じてしまう虞がある。特にチェーン34の引張り方向においては、上記のような隙間が生じやすくなる。
【0044】
しかしながら、本実施形態では、クランクケース20よりも熱膨張係数が低い材質でボルト40が形成されているため、エンジン12の暖機時に、ボルト40によってクランクケース20の変形が抑制される。その結果、上記したクランクケース20の変形による隙間の発生を抑制することが可能となり、クランクケース20による軸受31の保持に弛みが生じるのを防止することができる。なお、ボルト40は、荷重方向である軸線連結方向Xに沿って配置されているため、上記した隙間の発生を抑制する効果を、特に荷重方向において高めることができる。
【0045】
更に、クランクケース20に軸受保持部を加工する際には、締付部材等を用いずに真円狙いで加工を行い、軸受31をクランクケース20の軸受保持部に圧入した後にボルト40をボルト孔36に固定することで、荷重方向における軸受31の与圧を高めて、温度変化や荷重に対して高い剛性を備えたクランクケース20を得ることが可能となる。加えて、暖機時における締結力を容易に調節することが可能となり、冷機時の軸受31の転がり隙間の設定に影響を受けることなく、高い剛性を得ることが可能となる。
【0046】
また、エンジン12を車体フレーム2に搭載した状態においても、容易にボルト40をボルト孔36に固定することが可能であるため、エンジン12が暖機状態になってからボルト40をボルト孔36に固定することで、運転時における最適な与圧を軸受31に付与することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態では、各ボルト孔36の締付座面38と各ボルト40のボルトヘッド42の間に補強部材としてのワッシャ43が介装されているため、各ボルト40の締付時に締付座面38にかかる力を、より広い面積で受けることが可能となる。そのため、上記した締付時の力により、締付座面38が変形してしまうのを抑制することが可能となり、締付座面38の耐久性を向上させることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、アンカーボルト状のボルト40を有底状のボルト孔36に固定する構成としたが、他の異なる実施形態では、クランクケース20の前後方向にボルト孔36を貫通形成しておき、このボルト孔36に貫挿させたボルト40の先端にナット(図示せず)を固定する構成としても良い。
【0049】
本実施形態では、クランク軸24と入力軸26を通過する面を分割面とする上下二分割式のクランクケース20に本発明の構成を適用する場合について説明したが、他の異なる実施形態では、クランク軸24と出力軸27を通過する面を分割面とするクランクケース20や、左右二分割式のクランクケース20に本発明の構成を適用することも可能である。本実施形態では、本発明の構成をオンロードタイプの自動二輪車1に適用する場合について説明したが、他の異なる実施形態では、オフロードタイプ、スクータ等に本発明の構成を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 自動二輪車
12 エンジン
20 クランクケース
24 クランク軸
25 変速装置
26 入力軸
27 出力軸
31 軸受
33 ドライブスプロケット
34 チェーン
35 ドリブンスプロケット
36 ボルト孔
37 雌ネジ部
38 締付座面
40 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに設けられたクランク軸と、該クランク軸に接続された入力軸及び該入力軸に接続された出力軸を備えた変速装置と、前記出力軸に設けられたドライブスプロケットと、該ドライブスプロケットの後方に設けられて該ドライブスプロケットとチェーンを介して接続されたドリブンスプロケットと、前記クランク軸、前記入力軸及び前記出力軸を支持するクランクケースと、を備えた自動二輪車におけるクランクケース補強構造であって、
前記出力軸は、軸受を介して前記クランクケースに支持され、
前記クランクケースには、前記出力軸の後側から前側までボルトが固定され、該ボルトは、前記ドライブスプロケットの軸心と前記ドリブンスプロケットの軸心を結ぶ方向に沿って、前記軸受の近傍を通過するように設けられていることを特徴とする自動二輪車のクランクケース補強構造。
【請求項2】
前記クランクケースには、前記ボルトを固定するボルト孔が設けられ、該ボルト孔は、前記ボルトの前端部が螺合される雌ネジ部と、前記ボルトの後端部が配置される締付座面と、を備え、
前記雌ネジ部は、前記ドライブスプロケットの軸心と前記ドリブンスプロケットの軸心を結ぶ方向と直交する前記クランクケースの断面のうち最小断面積の部分よりも前側に配置され、
前記締付座面は、前記最小断面積の部分よりも後側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のクランクケース補強構造。
【請求項3】
前記ボルトの材質は、前記クランクケースの材質よりもヤング率が高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動二輪車のクランクケース補強構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−167563(P2012−167563A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27306(P2011−27306)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】