説明

自動二輪車の変速制御装置

【課題】スラローム走行などで車体のロール挙動が速く、バーハンドルを速く切る場合に、よりスムーズで快適な走行を行う。
【解決手段】自動二輪車に備える無段変速機42の変速を制御する変速制御装置50において、車体のロール角速度を検出するロール角速度センサ46と、バーハンドル21の舵角角速度Sを検出する舵角角速度センサ45と、これらのロール角速度センサ46及び舵角角速度センサ45からの検出信号がそれぞれロール角速度基準値Rstd、舵角角速度基準値Sstdを超えたときに変速を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の変速制御装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動二輪車の変速制御装置として、車両の操舵角と車速を検出して変速機での変速を禁止するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−116752公報
【0003】
特許文献1の図1及び図5を以下に説明する。
静油圧式無段変速機5は、定容量油圧ポンプ6と可変容量油圧モータ7とを駆動軸8上で一体化し、定容量油圧ポンプ6と可変容量油圧モータ7との間を油圧閉回路で接続したものである。
【0004】
内燃機関1のクランク軸2に設けられた駆動ギヤ3と噛み合う被動ギヤ4が回転すると、定容量油圧ポンプ6も回転し、このときの回転力が駆動軸8に出力され、このときに可変容量油圧モータ7に内蔵された可動斜板(不図示)の傾斜角度が傾斜角度制御機構10によって変更されるため、静油圧式無段変速機5の変速比が変更になる。
詳しくは、上記可動斜板の傾斜角度制御は、ECU30により制御モータ11を駆動制御することにより行われる。
【0005】
ECU30には、車速センサ33からの車速信号、バーハンドルに設けられた舵角センサ38からの舵角信号が入力され、これらの信号に基づいてECU30は、傾斜角度制御機構10に可動斜板の傾斜角度を変更させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
入力された車速及び舵角が演算され、演算結果がある条件になったときに静油圧式無段変速機5での変速(シフトダウン)が禁止されるが、例えば、車両のスラローム中などのロール挙動が速いときには、車速及び舵角の演算結果が所定条件を満たさなくとも変速を禁止したい場合がある。
【0007】
本発明の目的は、自動二輪車の変速制御装置を改良することで、スラローム走行などで車体のロール挙動が速く、バーハンドルを速く切る場合には変速を制限することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、自動二輪車に備える自動変速機の変速を制御する変速制御装置において、車体のロール角速度を検出するロール角速度検出手段と、バーハンドルの舵角角速度を検出する舵角角速度検出手段と、これらのロール角速度検出手段及び舵角角速度検出手段からの検出信号がそれぞれ基準値を超えたときに変速を禁止することを特徴とする。
【0009】
作用として、ロール角速度が基準値を超え、且つ舵角角速度が基準値を超えたときに、変速制御装置は変速を禁止する。
車体のロールが速くてロール角速度が基準値を超え、バーハンドルを速く切って舵角角速度が基準値を超えた場合に、変速を禁止することで、車体ロール中や操舵中に車輪の駆動力の変化が無くなり、よりスムーズで快適な旋回を行うことができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、ロール角速度検出手段を、車体後部で後輪上方に配置したことを特徴とする。
作用として、ロール角速度検出手段は、エンジンから遠い位置に配置されるから、エンジンの振動の影響を受けにくい。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、車体のロール角速度を検出するロール角速度検出手段と、バーハンドルの舵角角速度を検出する舵角角速度検出手段と、これらのロール角速度検出手段及び舵角角速度検出手段からの検出信号がそれぞれ基準値を超えたときに変速を禁止するので、車体ロール中や操舵中に車輪の駆動力の変化を無くすことができ、よりスムーズで快適な旋回動作を行うことができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、ロール角速度検出手段を、車体後部で後輪上方に配置したので、ロール角速度検出手段がエンジンから遠い位置に配置されてエンジンの振動の影響が受けにくくなり、車体のロール角速度を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る変速制御装置を備える自動二輪車の側面図であり、自動二輪車10は、車体フレーム11の前端を構成するヘッドパイプ12にフロントフォーク13が操舵自在に取付けられ、ヘッドパイプ12から車両後方に延びるメインアッパフレーム14(車体フレーム11を構成する)にパワーユニット16が上下スイング自在に取付けられ、フロントフォーク13の下端に前輪17、パワーユニット16の後端に後輪18が取付けられたスクータ型車両である。
【0014】
ここで、21はフロントフォーク13に連結されたバーハンドル、22はフロントカバー、23はヘッドランプ、24はフロントフェンダ、25はレッグシールド、26はフロアステップ、27は車体フレーム11を構成するロアフレーム、28はタンデムシート(28aはライダーシート、28bはピリオンシート)、31はサイドカバー、33はグラブレール、34はリヤコンビネーションランプ、36はリヤクッションユニット、37はリヤフェンダ、38はメインスタンドである。
【0015】
パワーユニット16は、前部を構成するエンジン41と、このエンジン41に一体的に連結されて後方へ延びる無段変速機42とからなり、これらのエンジン41及び無段変速機42を制御するコントロールユニット43がメインアッパフレーム14の後部に取付けられている。
【0016】
コントロールユニット43は、エンジン41を制御するエンジン制御部と、無段変速機42での変速を制御する変速制御部とを備え、自動二輪車10は、変速制御部を含む変速制御装置を備える。これらのエンジン制御部、変速制御部及び変速制御装置については、図2で詳述する。
【0017】
45はバーハンドル21の舵角の角速度を検出する舵角角速度センサであり、ヘッドパイプ12の上部に取付けられている。
46は車体のロールの角速度を検出するロール角速度センサであり、車体後部、即ち、後輪18の上方に位置するとともにメインアッパフレーム14の後部に取付けられている。
【0018】
図2は本発明に係る変速制御装置を示すブロック図であり、変速制御装置50は、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ51と、自動二輪車の車速を検出する車速センサ52と、舵角角速度センサ45と、ロール角速度センサ46と、舵角角速度基準値Sstd及びロール角速度基準値Rstdが記憶された記憶部53と、エンジン回転数センサ51、車速センサ52、舵角角速度センサ45及びロール角速度センサ46からそれぞれ出力されるエンジン回転数信号ES、車速信号VS、舵角角速度信号SAV、ロール角速度信号RAVが入力されるとともに、舵角角速度信号SAVと舵角角速度基準値Sstd、ロール角速度信号RAVとロール角速度基準値Rstdをそれぞれ比較し演算する演算部54と、演算部54での演算結果としての演算信号SC1が入力されるアクチュエータ駆動部56と、このアクチュエータ駆動部56からの駆動信号SDにより無段変速機42での変速を行うアクチュエータ57とからなる。
上記の記憶部53、演算部54及びアクチュエータ駆動部56は、変速制御部58を構成するものである。
【0019】
無段変速機42は、エンジン41に備えるクランク軸41aに連結されたドライブプーリ61と、後輪18(図1参照)側に連結されたドリブンプーリ62と、これらのドライブプーリ61及びドリブンプーリ62のそれぞれに掛けたベルト63とからなる。
【0020】
ドライブプーリ61は、クランク軸41aに一体的に取付けられた固定プーリ半体61aと、この固定プーリ半体61aに対して接近又は離れるようにクランク軸41aに移動自在に取付けられた可動プーリ半体61bとからなり、可動プーリ半体61bはアクチュエータ57によって駆動される。
【0021】
ドリブンプーリ62は、出力軸65に一体的に取付けられた固定プーリ半体62aと、この固定プーリ半体62aに対して接近又は離れるように出力軸65に移動自在に取付けられた可動プーリ半体62bとからなり、出力軸65は複数のギヤを介して後輪18の車軸に連結されている。
可動プーリ半体62bは、図示せぬスプリングによってベルト63を介して固定プーリ半体62aに押付けられている。
【0022】
上記したアクチュエータ57でドライブプーリ61の可動プーリ半体61bを固定プーリ半体61aに近づけると、ドライブプーリ61の溝幅が小さくなり、ドライブプーリ61に掛けられるベルト63の巻付け半径が大きくなる。これに伴って、ドリブンプーリ62の可動プーリ半体62bはスプリングの弾性力に抗して固定プーリ半体62aから離れ、ドリブンプーリ62に掛けられるベルト63の巻付け半径が小さくなる。従って、変速比(ドリブンプーリ62側巻付け半径/ドライブプーリ61側ベルト巻付け半径)は小さくなる。
【0023】
また、上記とは反対に、アクチュエータ57でドライブプーリ61の可動プーリ半体61bを固定プーリ半体61aから遠ざけると、ドライブプーリ61の溝幅が大きくなり、ドライブプーリ61側のベルト63の巻付け半径が小さくなる。これに伴って、ドリブンプーリ62の可動プーリ半体62bはスプリングの弾性力で固定プーリ半体62aに近づき、ドリブンプーリ62側のベルト63の巻付け半径が大きくなる。従って、変速比は大きくなる。
【0024】
演算部54は、演算結果としての演算信号SC2をエンジン制御部67に送り、エンジン制御部67は、演算信号SC2に基づいてエンジン41を制御(例えば、エンジン回転数を制御)する。
上記した変速制御部58及びエンジン制御部67は、前述のコントロールユニット43に含まれる部分である。
【0025】
例えば、自動二輪車がスラローム走行を開始したときに、演算部54は、エンジン回転数及び車速がそれぞれゼロでないか(即ち、停車中かどうか)を確認し、停車中でない場合は、そのときの舵角角速度を記憶部53の舵角角速度基準値Sstdと比較し、更に、そのロール角速度を記憶部53のロール角速度基準値Rstdと比較して、検出された舵角角速度が舵角角速度基準値Sstd以上であり、ロール角速度がロール角速度基準値Rstd以上であれば、アクチュエータ駆動部56に演算信号SC1を送り、アクチュエータ駆動部56からアクチュエータ57に駆動信号SDを送ってドライブプーリ61の可動プーリ半体61bの位置を維持する。
【0026】
これにより、ドライブプーリ61の溝幅は変化しないから、無段変速機42の変速は行われず、変速比一定となる。例えば、この状態で吸気装置のスロットル開度を変化させてもエンジン回転数が変化するだけで変速比は変化しないから、車速が変化するだけである。
【0027】
例えば、スラローム走行中に無段変速機42の変速が行われると、後輪18の駆動力が変化し、スムーズで快適な旋回動作を阻害する可能性がある。
【0028】
本発明では、上記したように、自動二輪車のスラローム走行等の車体のロールが速く、操舵が速いときには、無段変速機42の変速を禁止する制御を行うことで、変速による後輪の駆動力の変化を無くすことができ、よりスムーズで快適な走行を行うことができる。
【0029】
図3は本発明に係る変速制御装置における変速制御のフローチャートである。図中のSTXXはステップ番号を表す。
ST01…車速が正(V>0)、且つエンジン回転数が正(Ne>0)かどうか判断する。
V>0、且つNe>0である(YES)ならば、ST02に進む。
V>0、且つNe>0でない(NO)、即ちV=0、Ne=0(自動二輪車が停止している)ならば、処理を終了する。
【0030】
ST02…舵角角速度Sが舵角角速度基準値Sstdに等しいか、あるいは舵角角速度基準値Sstdより大きいか(S≧Sstd)どうか判断する。
S≧Sstdである(YES)ならば、ST03に進む。
S≧Sstdでない(NO)、即ち、S<Sstdならば、ST06に進む。
【0031】
ST03…ロール角速度Rがロール角速度基準値Rstdに等しいか、あるいはロール角速度基準値Rstdより大きいか(R≧Rstd)どうか判断する。
R≧Rstdである(YES)ならば、ST04に進む。
R≧Rstdでない(NO)、即ち、R<Rstdならば、ST06に進む。
【0032】
ST04…エンジン回転数Neを一定に保つ。
ST05…アクチュエータにより変速を禁止することで、変速比を一定にする。
ST06…アクチュエータにより変速を実施することで、変速比を可変にする。
以上で変速制御装置による変速制御が完了する。
上記したように、変速を禁止するとともにエンジン回転数Neを一定に保つことで、ライダーの運転操作負荷をより一層軽減することができる。
【0033】
以上の図1及び図2で示したように、本発明は第1に、自動二輪車10に備える自動変速機としての無段変速機42の変速を制御する変速制御装置50において、車体のロール角速度Rを検出するロール角速度検出手段としてのロール角速度センサ46と、バーハンドル21の舵角角速度Sを検出する舵角角速度検出手段としての舵角角速度センサ45と、これらのロール角速度センサ46及び舵角角速度センサ45からの検出信号がそれぞれロール角速度基準値Rstd、舵角角速度基準値Sstdを超えたときに変速を禁止することを特徴とする。
【0034】
これにより、車体ロール中や操舵中に車輪の駆動力の変化を無くすことができ、よりスムーズで快適な走行を行うことができる。
【0035】
本発明は第2に、ロール角速度センサ46を、車体後部で後輪18上方に配置したことを特徴とする。
これにより、ロール角速度センサ46がエンジン41から遠い位置に配置されてエンジン41の振動の影響が受けにくくなり、車体のロール角速度を精度良く検出することができる。
【0036】
尚、本実施形態では、図2に示したように、エンジン制御部67は、演算部54からの演算信号SC2に基づいて、例えば吸気装置のスロットル開度を一定にして、エンジン41の回転数を一定に保つようにするが、これに限らず、スロットルバルブを急速に開けたときのようなスロットル開度の開度変化率が所定値よりも大きい場合に、エンジン回転数の上昇率を一定の割合に小さくして車両の挙動を抑制する)制御を行なってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の変速制御装置は、自動二輪車に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る変速制御装置を備える自動二輪車の側面図である。
【図2】本発明に係る変速制御装置を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る変速制御装置における変速制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
10…自動二輪車、18…後輪、21…バーハンドル、42…自動変速機(無段変速機)、45…舵角角速度検出手段(舵角角速度センサ)、46…ロール角速度検出手段(ロール角速度センサ)、50…変速制御装置、R…ロール角速度、Rstd…基準値(ロール角速度基準値)、S…舵角角速度、Sstd…基準値(舵角角速度基準値)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車に備える自動変速機の変速を制御する変速制御装置において、
車体のロール角速度を検出するロール角速度検出手段と、バーハンドルの舵角角速度を検出する舵角角速度検出手段と、これらのロール角速度検出手段及び舵角角速度検出手段からの検出信号がそれぞれ基準値を超えたときに変速を禁止することを特徴とする自動二輪車の変速制御装置。
【請求項2】
前記ロール角速度検出手段は、車体後部で後輪上方に配置されることを特徴とする請求項1記載の自動二輪車の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−75761(P2008−75761A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256006(P2006−256006)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】