説明

自動二輪車の操舵装置

【課題】パワーアシスト手段で低速時の自動二輪車の姿勢制御を行い、レシオ可変手段を用いて全速度域での最適な操舵比が得るようにした自動二輪車の操舵装置を提供する。
【解決手段】ハンドル5へ入力される入力トルクMzに応じて第2モータM2による補助操舵力を与えるパワーアシスト手段W1と、ハンドル5の回動角度と前輪WFの操舵角度との比率である操舵比jを第1モータM1によって変更する操舵比可変手段S1と、車速Vを検知する車速検知手段92と、入力トルクMzを検知する入力トルク検知手段48と、操舵比jを検知する操舵比検知手段92と、車体のロール方向の角速度ωを検知するロール角速度検知手段93と、第1,第2モータM1,M2を制御する制御部100とを具備し、制御部100は、第2モータM2を車速V、入力トルクMzおよびロール方向の角速度ωに基づいて制御し、第1モータM1を車速Vおよび操舵比jに基づいて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の操舵装置に係り、特に、電動モータによって補助操舵力を与えるパワーアシスト手段を適用した自動二輪車の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の操舵装置において、乗員の操作負担が軽減されるよう電動モータによって操舵力をアシストするパワーアシスト手段を適用した構成が知られている。
【0003】
特許文献1には、車幅方向に延在するバータイプのハンドルで前輪を操舵する鞍乗型の4輪車両において、ハンドルの下部に結合されてヘッドパイプに回動自在に軸支されるステムシャフトに対し、電動モータによる補助操舵力を入力するようにしたパワーアシスト手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−232060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された4輪車用のパワーアシスト手段は、乗員によるハンドル操作力に応じた補助操舵力を与えるのみであり、特に二輪車に適した補助操舵力を与える手法に関しては検討されていなかった。より具体的には、前後輪のみで走行する二輪車においては、ごく低い速度での走行時に車体が左右に傾こうとする「ふらつき」が生じ、通常の二輪車では、乗員がハンドルを操舵したり体重移動をすることで車体のバランスを保つ必要がある。特に重量の大きな車両では、このバランスを保つためのハンドル操作の負担も大きくなることが考えられる。特許文献1に記載された技術は、このような操舵操作を補助するためにパワーアシスト手段を用いることを考慮するものではなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、1つは、パワーアシスト手段を用いて低速時の自動二輪車の姿勢制御を行うことを可能にし、もう1つはレシオ可変手段を用いて全速度域において最適な操舵比が得られるようにした自動二輪車の操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、前輪(WF)を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク(4)を、トップブリッジ(16)および該トップブリッジ(16)の車体下方側に位置するボトムブリッジ(17)によって保持すると共に、車体フレーム(2)に対して前記フロントフォーク(4)を操舵可能に支持する自動二輪車の操舵装置(30)において、乗員が操作するハンドル(5)へ入力される入力トルク(Mz)に応じて、第2モータ(M2)による補助操舵力を与えるパワーアシスト手段(W1)と、車速(V)を検知する車速検知手段(92)と、前記入力トルク(Mz)を検知する入力トルク検知手段(48)と、前記ハンドル(5)の回動角度と前記前輪(WF)の操舵角度との比率である操舵比(j)を検知する操舵比検知手段(92)と、車体のロール方向の角速度(ω)を検知するロール角速度検知手段(93)と、前記第2モータ(M2)を制御する制御部(100)とを具備し、前記制御部(100)は、前記第2モータ(M2)を、前記車速(V)、前記入力トルク(Mz)および前記ロール方向の角速度(ω)の値に基づいて制御する点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記車速(V)、前記入力トルク(Mz)および前記操舵比(j)の関数(T1=Mz・k(k=f(j,V)))に基づいて、前記補助操舵力としてのパワーアシストトルク(T1)を求めるパワーアシストトルク算出手段(104)と、前記車速(V)に応じて変化する車速−角速度マップに基づいて、前記ロール方向の角速度(ω)を打ち消すための操舵角補正トルク(T2)を求める操舵角補正トルク算出手段(105)とを具備し、前記第2モータ(M2)は、前記パワーアシストトルク(T1)と前記操舵角補正トルク(T2)とを合算した値に基づいて制御され、前記制御部(100)は、車速(V)が所定値以下でロール方向の角速度(ω)が所定値以上の場合に、車体の重心(G)の位置を車体中央に戻す方向のアシスト力を大きくする点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記操舵比(j)を、第1モータ(M1)によって任意に変更する操舵比可変手段(S1)を具備し、前記制御部(100)は、前記車速(V)の関数(J=f(V))によって求められる目標操舵比(J)と前記操舵比(j)との差分に基づいて前記第1モータ(M1)を制御する点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前輪(WF)を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク(4)を、トップブリッジ(16)および該トップブリッジ(16)の車体下方側に位置するボトムブリッジ(17)によって保持すると共に、車体フレーム(2)に対して前記フロントフォーク(4)を操舵可能に支持する自動二輪車の操舵装置(30)において、乗員が操作するハンドル(5)へ入力される入力トルク(Mz)に応じて、第2モータ(M2)による補助操舵力を与えるパワーアシスト手段(W1)と、車速(V)を検知する車速検知手段(92)と、前記入力トルク(Mz)を検知する入力トルク検知手段(48)と、前記ハンドル(5)の回動角度と前記前輪(WF)の操舵角度との比率である操舵比(j)を検知する操舵比検知手段(92)と、車体のロール方向の角速度(ω)を検知するロール角速度検知手段(93)と、前記第2モータ(M2)を制御する制御部(200)とを具備し、前記制御部(200)は、前記第2モータ(M2)を、前記車速(V)および前記入力トルク(Mz)の値に基づいて制御する点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記車速(V)、前記入力トルク(Mz)および前記操舵比(j)の関数(T=Mz・k(k=f(j,V)))に基づいて、前記補助操舵力としてのパワーアシストトルク(T)を求めるパワーアシストトルク算出手段(204)を具備し、前記第2モータ(M2)は、前記パワーアシストトルク(T)の値に基づいて制御される点に第5の特徴がある。
【0012】
また、前記操舵比(j)を、第1モータ(M1)によって任意に変更する操舵比可変手段(S1)を具備し、前記制御部(200)は、前記車速(V)の関数(J=f(V))によって求められる目標操舵比(J)と前記操舵比(j)との差分に基づいて前記第1モータ(M1)を制御する点に第6の特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
第1および第2の特徴によれば、パワーアシスト手段を備えた操舵装置を、車体のロール方向の角速度を考慮して制御することが可能となる。これにより、車体がふらつかないようにするための操舵操作を自動制御することが可能となり、乗員の操作負担を軽減することができる。また、特に低速域での車体のふらつきを低減することができると共に、あらゆる速度域で自動二輪車の安定性および運動性を高めることができる。
【0014】
さらに、操舵装置によって自動二輪車の安定性および運動性が高められるため、乗員の疲労が軽減されるほか、車体フレームの剛性を下げて軽量化しても従来と同様の安定性および運動性が得られ、ステアリングダンパが不要となるなど、車体の構造を簡略化することができる。
【0015】
第3の特徴によれば、パワーアシスト手段および操舵比可変手段を備えた操舵装置を、車体のロール方向の角速度を考慮して制御することが可能となる。これにより、低速から高速までの全速度域において最適な操舵比が得ることができ、自動二輪車の安定性および運動性を高めることができる。
【0016】
第4および第5の特徴によれば、ロール角速度検出手段を用いずに、パワーアシスト手段を備えた操舵装置を簡易な構成によって制御し、自動二輪車の安定性および運動性を高めることができる。また、車体が倒れないようにする操舵操作に対して補助操舵力が加えられるので、乗員の操作負担を軽減することができる。
【0017】
第6の特徴によれば、パワーアシスト手段および操舵比可変手段を備えた操舵装置を、車体のロール方向の角速度を考慮することなく制御することが可能となる。これにより、低速から高速までの全速度域において最適な操舵比を得ることができ、自動二輪車の安定性および運動性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車の操舵装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図2】操舵装置の側面図である。
【図3】操舵装置の上面図である。
【図4】操舵装置の側面断面図である。
【図5】スライダが車体前方側に移動した状態における操舵装置の側面図である。
【図6】操舵装置の上面断面図である。
【図7】操舵比可変手段の動作説明図である。
【図8】本実施形態に係る操舵装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図9】自動二輪車の重心の変動状態を示す模式図である。
【図10】ハンドル操作に伴って重心が移動する様子を示す模式図である。
【図11】ハンドル操作に伴って重心が正立状態に戻る過程を示す模式図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る操舵装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図13】車速と操舵比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車の操舵装置30(以下、単に操舵装置30と示すこともある)が適用された自動二輪車1の側面図である。自動二輪車1の操舵輪としての前輪WFは、左右一対のフロントフォーク4の下端部に回転自在に軸支されている。本発明の一実施形態に係る操舵装置30は、車体フレーム2の前端部に配設されている。操舵装置30は、後述する操舵比可変手段によってハンドルバー5への入力操作量とは異なる回動量で前輪WFを操舵可能にすると共に、パワーアシスト手段によって前輪WFの操舵力をアシストすることを可能にする電動ステアリング機構である。
【0020】
フロントフォーク4は、操舵装置30の上側に位置するトップブリッジ16と、操舵装置30の下側に位置するボトムブリッジ17とによって支持されている。前輪WFは、操舵装置30に対してトップブリッジ16およびボトムブリッジ17が一体に回動することによって操舵される。トップブリッジ16の上方には、乗員が把持する左右一対のハンドルグリップ6を有するハンドルバー5が配設されている。
【0021】
ハンドルバー5の車体前方側には、外装部品としてのフロントカウル7が配設されている。車体フレーム2の下方には、車体後方下方に向けて延びるエンジンハンガ3が設けられており、車両の動力源としてのエンジン8は、該エンジンハンガ3によって吊り下げられるように固定されている。駆動輪としての後輪WRは、マフラ10の車幅方向中央側に配設されるスイングアーム(不図示)の後端部に回転自在に軸支されている。スイングアームの前端部は、車体フレーム2の後方下方に設けられたスイングアームピボット9によって揺動自在に軸支されている。
【0022】
運転者が着座するシート12の車体前方には、給油口リッド11を有する燃料タンクカバー19が配設されている。シート12の後方には、同乗者が着座する後部シート13が設けられている。後部シート13の後方には、車幅方向中央にトランク14が取り付けられ、トランク14の下方には左右一対のサイドケース15が取り付けられている。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態に係る操舵装置30の側面図である。また、図3は、操舵装置30の上面図である。操舵装置30は、車体フレーム2の前端のヘッドパイプに配設されている。本実施形態では、アルミのパイプ材等からなる左右一対のメインフレーム2aの前端部に、アルミ鋳造等で形成された支持ケース(ヘッドパイプ)18が結合されている。そして、この支持ケース18に形成された凹部に、締結部材等を用いて操舵装置30を固定することにより、操舵装置30が車体フレーム2の前端部に固定される。このとき、操舵装置30の車体前方側の面は、支持ケース18から車体前方側に露出した状態となる。支持ケース18には、メインフレーム2aの前端部のみならず、エンジンハンガ3の上端部も結合されている。なお、本実施形態に係る支持ケース18は、通常の二輪車のヘッドパイプに相当し、車体フレーム2に対してフロントフォーク4を回転操舵可能にするものである。支持ケース18は、車体フレーム2の前端部に一体的に形成してもよい。
【0024】
ここで、通常の自動二輪車では、左右一対のフロントフォークをトップブリッジおよびボトムブリッジで支持し、このトップブリッジとボトムブリッジとを連結固定する回動軸としてのステムシャフトを、車体フレームの前端部に形成されたヘッドパイプに揺動自在に軸支することにより、前輪を操舵可能としている。これに対し、本実施形態に係る操舵装置30では、ハンドルバー5への入力操作とは異なる操舵角および操舵力によって前輪WFを操舵可能とするため、通常の自動二輪車とは異なる構成を有している。
【0025】
本実施形態では、操舵装置30の下部に設けられた出力軸66にボトムブリッジ17を固定することにより、出力軸66の回動動作に伴って、ボトムブリッジ17、トップブリッジ16およびフロントフォーク4が一体に回動するように構成されている。乗員が入力操作するハンドルバー5は、フロントフォーク4の揺動角度と異なる角度でハンドルバー5を回動させることを可能とするため、トップブリッジ16には固定されておらず、操舵装置30の上部に設けられた入力軸40に直接連結されている。本実施形態においては、入力軸40および出力軸66の回転軸が、同軸上に位置するように構成されている。
【0026】
操舵装置30は、上側ハウジング31および下側ハウジング32を有しており、この両者が形成する内部空間に、前記した操舵比可変手段およびパワーアシスト手段が収納されている。上側ハウジング31と下側ハウジング32とは、3本の締結ネジ33で固定されている。下側ハウジング32の車体後方側には、操舵比可変手段を作動させるための第1モータM1およびパワーアシスト手段を作動させるための第2モータM2がそれぞれ取り付けられている。第1モータM1および第2モータM2は、それぞれの軸線J1,J2が、互いに平行に車体前後方向に指向し、かつトップブリッジ16とボトムブリッジ17との間に位置するように配設されている。なお、本実施形態では、第1モータM1より第2モータM2の方が車体上下方向でわずかに低い位置に配設されているが、軸線J1,J2がほぼ同じ高さに位置するように配設してもよい。
【0027】
図3を併せて参照して、ボトムブリッジ17には、トップブリッジ16と同様に、左右一対のフロントフォーク4を支持するための挿通穴4aが形成されている。操舵装置30は、左右のフロントフォーク4の間の空間に収まるように構成されている。これにより、大きな前輪操舵角を確保することが容易になると共に、操舵装置30の重量を車幅方向中央に集中させることが可能となる。また、操舵装置30は、締結ネジ33を貫通させる車体前方側の1箇所のボス部分を除いて、フロントフォーク4の車体前端面より車体前方側に突出しないように配設されている。
【0028】
また、第1モータM1および第2モータM2は、メインフレーム2aおよび支持ケース18の外壁から車体前方側に突出することなく、支持ケース18の内側、すなわち車体内側に収まるように配設されている。本実施形態では、各モータM1,M2の回転軸J1,J2が車体前後方向に指向され、各モータM1,M2の後端部分が支持ケース18の後端面から若干突出するように配設されている。このような第1,2モータの配置によれば、例えば、両モータを操舵装置30の車体前方側に配置する構成に比して、操舵装置30の重心位置を車体後方側に寄せることができ、操舵装置30の重量が車体バランスに与える影響を低減することが可能となる。また、第1,2モータがメインフレーム2aの外方に突出しないため、両モータに外力や水分等の影響が及ぶことを防止し、両モータを防護することができる。
【0029】
本実施形態では、操舵力をアシストする第2モータM2に、操舵比可変手段を駆動する第1モータM1より大型のものが適用されている(例えば、発生トルクで、第1モータM1:0.3Nm、第2モータM2:1.3Nm)。また、本実施形態では、第1モータM1が車幅方向右側に配置され、第2モータM2が車幅方向左側でかつ第1モータM1より下方の位置に配設されている。このような第1,2モータの配置は、例えば、マフラを車体右側のみに配設する車両において、車幅方向右側の重量を減らして重量バランスの最適化を図る際に好適である。なお、両モータM1,M2の配設位置は、上下ハウジング31,32や車体フレームの形状等に合わせて種々の変形が可能である。
【0030】
なお、収納ケース18に設けられる操舵装置30の取り付け凹部を、通常の自動二輪車に使用されるヘッドパイプの取り付けが可能となるように構成しておけば、共通の車体フレームを用いて、本発明に係る操舵装置を適用した車両と通常のステアリング機構を有する車両とを生産することが可能となる。
【0031】
図4は、操舵装置30の側面断面図である。また、図5は、後述するスライダS1が車体前方側に移動した状態における側面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。前記したように、操舵装置30は、その上側に突出する入力軸40と、下側に突出する出力軸66とを有する。入力軸40の上端部には、スプライン嵌合により入力軸40と一体に回動するハンドルベース43が、ナット41およびワッシャ42によって取り付けられている。ハンドルベース43とトップブリッジ16とは、軸受44によって互いに回動自在に係合されている。乗員が操作するハンドルバー5は、このハンドルベース43に固定されており、ハンドルバー5への入力操作は、トップブリッジ16を介することなく、入力軸40に直接入力される。
【0032】
操舵装置の30の上側ハウジング31の上部には、円筒部31aが形成されている。この円筒部31aの上端部には、操舵装置30への水分等の侵入を防ぐダストシール45および入力軸40を軸支する軸受46が配設されている。軸受46の下部には、オイルシール47が配設されており、その下方には、入力トルク検知手段としてのトルクセンサ48が上下に2つ設けられている。トルクセンサ48には磁歪式が適用されており、入力軸40の外周部には、トルクセンサ48に対向する部分に磁性リング40aが取り付けられている。本実施形態では、トルクセンサ48によって入力軸40のねじれ量を検出し、このねじれ量に基づいて乗員のハンドル操作による操舵トルクが算出される。
【0033】
入力軸40の下端部には、円柱状の入力部材50が形成されている。入力部材50は、上側ハウジング31に嵌合された軸受49によって回転自在に支持されている。入力部材50の下面には、2つの鋼球51,52が転動自在に支持されており、入力部材50とこれに隣接配置されるスライダS1とは、鋼球51,52のみで接触するように構成されている。スライダS1の上面部の車体前方側には、鋼球51の転動方向を規制するガイドレール54が車体前後方向に指向して形成されている。上側ハウジング31と下側ハウジング32との間には、内部空間の密閉を保つO(オー)リング90が配設されている。
【0034】
操舵比可変手段としての円柱状のスライダS1は、大径の軸受53によってベースSBに回動自在に支持されると共に、第1モータM1を駆動させることで車体前後方向に移動可能に構成されている。スライダS1の位置は、図4に中立位置を示しており、図5には、車体前方側に移動させた状態を示している。スライダS1は、中立位置から車体後方側にも同様に移動可能とされる。なお、ここでは、スライダS1を操舵比可変手段として説明したが、以下では、スライダS1の他、入力部材50やスライダS1の駆動機構等を含むシステム全体を、操舵比可変手段と呼称することもある。
【0035】
スライダS1の下面には、2つの鋼球55,56が転動自在に支持されており、スライダS1に隣接配置されるウォームホイールW1の天板67とは、この鋼球55,56のみで接触するように構成されている。天板67の上面部の車体後方側には、鋼球56を案内するガイドレール57が車体前後方向に指向して形成されている。なお、ここでは、ウォームホイールW1をパワーアシスト手段として説明したが、以下では、ウォームホイールW1の他、ウォームホイールW1の駆動機構等を含むシステム全体を、パワーアシスト手段と呼称することもある。
【0036】
ウォームホイールW1および天板67は、出力軸66に対して相互回転不能に固定されている。出力軸66は、ウォームホイールW1の下部で、軸受58,59に回転自在に支持されている。軸受58,59は、外周部に雄ねじ部を有する軸受カラー62に嵌合されており、この軸受カラー62を下側ハウジング32の開口部に設けられた雌ねじ部に螺合することで下側ハウジング32に固定される。下側ハウジング32と軸受カラー62との間には、Oリング60が配設されている。軸受カラー62は、その外周部にロックリング63を締結することにより、下側ハウジング32に対して回動不能に固定される。軸受59の下部には、ダストシール61が配置されている。
【0037】
出力軸66および取り付けカラー64、取り付けカラー64およびボトムブリッジ17は、それぞれスプライン構造によって嵌合されており、出力軸66の先端にナット65を締結することにより、相互回転不能に固定される。上記した構成により、出力軸66に伝達された回転駆動力は、ボトムブリッジ17からフロントフォーク4、そして、フロントフォーク4の上端部でこれを支持するトップブリッジ16に伝達されることとなる。なお、本実施形態では、入力軸40と出力軸66とが同軸上に位置すると共に、出力軸66とフロントフォーク4とが平行をなすように構成されている。
【0038】
図6は、操舵装置30を上面断面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。前記したように、出力軸66に直結されるウォームホイールW1は、第2モータM2によって任意の速度で回動させることができる。第2モータM2は、自動二輪車1の各種センサ情報(操舵トルク、車速、エンジン回転数、ギヤ段数、車体のロール角およびピッチ角、ヨー角、舵角、操舵比等)に基づいて、前輪WFの操舵力を適切にアシストするように駆動される。これにより、例えば、停車時にハンドル操作を行う際の操作力を低減したり、所定の走行状態において最適な操舵トルクに駆動する等の制御が可能となる。
【0039】
第2モータM2は、コイル84が取り付けられた回転軸83を、その内周部に複数の永久磁石が取り付けられたカバー85に収納して構成されている。カバー85は、ネジ82によって、ベース部材81と共締めで下側ハウジング32に締結されている。回転軸83は、ベース部材81に嵌合された軸受80に軸支されている。回転軸83の端部は、連結部材79を介してウォーム(ねじ歯車)77が取り付けられたシャフト87と連結されている。シャフト87は、ウォーム77の車体後方側で軸受78に軸支されると共に、ウォーム77の車体前方側で軸受76に軸支されている。
【0040】
一方、スライダS1は、第1モータM1によって車体前後方向に移動可能に構成されている。第1モータM1は、コイル74が取り付けられた回転軸73を、その内周部に複数の永久磁石が取り付けられたカバー75に収納した構成とされる。カバー75は、ネジ86によって、ベース部材72と共締めで下側ハウジング32に締結されている。
【0041】
回転軸73は、ベース部材72に嵌合された軸受71に軸支されており、回転軸73の端部は、連結部材70を介してシャフト69と連結されている。シャフト69とスライダS1との間には、シャフト69側に形成された雄ねじとスライダS1側に形成された雌ねじとからなる送りネジ機構(不図示)が設けられている。これにより、シャフト69の回転に伴って、スライダS1が車体前後方向に移動するように構成されている。
【0042】
前記したスライダS1の上面部に形成されたガイドレール54と、ウォームホイールM1の天板67に形成されたガイドレール57とは、それぞれ、図6に示すガイドレール軌跡68に沿って形成されている。そして、ハンドルバー5から入力軸40に入力された回転駆動力は、鋼球51からガイドレール54を介してスライダS1に伝達され、さらに、スライダS1に伝達された回転駆動力は、鋼球56からガイドレール57を介してウォームホイールW1に伝達されるように構成されている。
【0043】
本実施形態では、第1モータM1の軸線J1および第2モータM2の軸線J2が、それぞれ、車体中心線Cと平行に配置されている。また、車体中心線Cから軸線J1までの距離と、車体中心線Cから軸線J2までの距離がほぼ等しく設定されており、これにより、車幅方向の重量バランスの最適化が図られている。
【0044】
本実施形態において、入力部材50の車体後方側の鋼球51と、ウォームホイールW1の車体前方側の鋼球55は、それぞれ回転駆動力の伝達に関与するものではなく、スライダS1が回転軸に対して傾かないように支持する機能のみを有している。ここで、図7を参照して、本実施形態に係る操舵比可変手段の構成を説明する。
【0045】
図7は、操舵比可変手段の動作説明図である。この図において、上下3段に重ねられた円柱状の部品D,E,Fは、それぞれ、上記実施形態における入力部材50、スライダS1、ウォームホイールW1に相当する。また、部品Dの下面に転動可能に支持される球B1は鋼球51に相当し、部品Eの下面に転動可能に支持される球B2は鋼球56に相当する。ここで、球B1は、部品Eの上面部に対して周方向への相対移動が規制され、また、球B2も、部品Fの上面部に対して、周方向への相対移動が規制されていることを前提とする。これにより、部品Eに入力された回転駆動力は、球B1によって部品Eに伝達され、さらに、部品Eに伝達された回転駆動力は、球B2によって部品Fに伝達されることとなる。なお、前記実施形態に示した操舵装置30では、ガイドレール54,57によってこの周方向への相対移動が規制されている。
【0046】
まず、部品Eがスライドせずに中立位置にある(a)の場合を参照する。(a)においては、部品D,E,Fの回転軸DO,EO,FOが同一軸上にある。このとき、部品D,E,Fは同期回転するので、部品Dを図示半時計方向にθ度回転させると、部品Fも同様にθ度だけ回転することとなる。
【0047】
次に、部品Eを車体前方側に所定距離だけスライドさせた(b)の場合を参照する。(b)においては、部品Eが車体前方側にスライドすることにより、部品Eの回転軸EOが、部品D,Fの回転軸DO,FOより車体前方側に移動する。すると、部品Eは回転軸EOを中心に回転するため、部品Dをθ度回転させたときに、部品Eの回転角度はθ度より小さなθ1度となる。この部品Eの回転角度の減少が、そのまま部品Fに伝達されることとなり、部品Fの回転角度は入力角度より小さなθ1度となる。
【0048】
そして、部品Eを車体後方側に所定距離だけスライドさせた(c)の場合を参照する。(c)においては、部品Eが車体後方側にスライドすることにより、部品Eの回転軸EOが、部品D,Fの回転軸DO,FOより車体後方側に移動する。すると、部品Eは回転軸EOを中心に回転するため、部品Dをθ度回転させたときに、部品Eの回転角度はθ度より大きなθ2度となる。この部品Eの回転角度の増加が、そのまま部品Fに伝達されて、部品Fの回転角度は入力角度より大きなθ2度となる。
【0049】
上記したように、本実施形態に係る操舵比可変手段によれば、部品Eを車体前後方向の任意に位置にスライドさせることで、部品Dの入力回転角度に対する部品Dの出力回転角度を任意に変更することが可能となる。すなわち、前記実施形態(図4参照)において、入力軸40の回転角度と出力軸66の回転角度との間のレシオを任意に変更することが可能となる。前記した第1モータM1は、自動二輪車1の各種センサ情報(操舵トルク、車速、エンジン回転数、ギヤ段数、車体のロール角およびピッチ角、ヨー角、舵角、操舵比等)に基づいて、最適な操舵比に設定されるように駆動される。これにより、例えば、自動二輪車の車速が高くなるほど同じハンドル操作量に対する前輪の操舵角を低減したり、極低速走行時にハンドル操作でバランスを取る際にハンドル操作に対する操舵角を大きくする等の制御が実行可能となる。
【0050】
また、上記したような操舵比可変手段の構成によれば、複数の歯車等の複雑な機構を用いることなく入力軸と出力軸の回転角度の比率を任意に変更できるので、操舵比可変手段の軸方向の寸法を低減することが可能となる。本発明に係る操舵装置は、フロントフォークを上下で支持するトップブリッジとボトムブリッジとの間に、操舵比可変手段およびパワーアシスト手段の両方を含む操舵装置が収められているが、これは、構造を簡略化して小型化を図った操舵比可変手段の適用が大きく貢献している。
【0051】
また、トップブリッジとボトムブリッジとの間に、上から順に、トルク検知機構、操舵比可変手段、パワーアシスト手段を収納することにより、モータの回転駆動力が加わる前の段階で操舵トルクを正確に検知することが可能となる。また、操舵装置を車体フレームの前端部近傍に集中配置することが可能となる。さらに、出力軸に固定された部材(ウォームホイール)に対してアシストが行われるため、機械摩擦等による損失を低減し、第2モータMの出力を効率よく操舵力に変換することが可能となる。
【0052】
図8は、本実施形態に係る操舵装置の制御部の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。エンジンを制御するECU等に含まれる制御部100には、ハンドル5の回動角度と前輪WFの操舵角度との比率である操舵比jを検知する実操舵比検知手段92と、自動二輪車の車速Vを検知する車速検知手段91と、乗員がハンドル5を操舵することにより生じる入力トルク(Mz)を検知する入力トルク検知手段(トルクセンサ)48と、車体のロール方向の角速度ωを検知するロール角速度検知手段93からの情報が入力される。制御部100は、これら各センサ情報に基づいて第1モータM1および第2モータM2を駆動する。本実施形態では、第2モータM2を、車速V、入力トルクMzおよびロール方向の角速度ωの値に基づいて制御し、一方、第1モータM1を、車速Vおよび操舵比jの値に基づいて制御するように構成されている。
【0053】
なお、本実施形態では、車速検知手段91が、後輪WR等の回転速度を検知するホールセンサ(不図示)によって構成され、実操舵比検知手段92が、前記スライダS1の摺動量を検知する変位センサ(不図示)によって構成され、さらに、ロール角速度検知手段93が、略車体中央に取り付けられたジャイロセンサ(不図示)によって構成されている。
【0054】
目標操舵比算出手段101は、車速検知手段91によって検知された車速Vに基づいて目標操舵比Jを算出する。この算出処理は、予め定められた所定の関数(J=f(V))に車速Vを代入することで実行される。目標操舵比Jは、ハンドル5の回動角度に対する前輪WFの回動角度の大きさを示すものであり、図13に示すように、例えば、車速Vがゼロの状態での初期値Ja(例えば、1.4)から、所定車速V1(例えば、30km/h)における所定値Jb(例えば、1.0)に至るまで、車速Vの増加に伴って減少するように設定することができる。
【0055】
第1モータ駆動量算出手段102では、目標操舵比Jと実操舵比(操舵比)jとの差分に基づいて第1モータ駆動量p1(p1=|J−j|)が算出される。第1モータ駆動制御部103は、この第1モータ駆動量p1の算出値に基づいて第1モータM1を駆動する。
【0056】
また、パワーアシストトルク算出手段104では、車速検知手段91によって検知された車速V、入力トルク検知手段48によって検知された入力トルクMzおよび目標操舵比Jに基づいて、パワーアシストトルクT1(T1=Mz・k)が算出される。ここで、アシスト係数kは、目標操舵比Jと車速Vの関数(k=f(J,V))とされ、例えば、所定車速までは一定値を保ち、その後、車速の増加に伴って漸減するように設定することができる。
【0057】
一方、操舵角補正トルク算出手段105は、車速検知手段91によって検知された車速Vおよびロール角速度検知手段93によって検知されたロール角速度ωに基づいて、操舵角補正トルクT2を算出する。この算出処理は、発生したロール角速度ωを打ち消すためのPID制御または現代制御によって行われる。なお、車速Vは、操舵角補正トルクT2の算出に用いられるデータマップの選択時に用いられる。
【0058】
第2モータ駆動量算出手段106では、パワーアシストトルクT1および操舵角補正トルクT2に基づいて第2モータ駆動量p2が算出される。この算出処理は、パワーアシストトルクT1と操舵角補正トルクT2との合算(p2=T1+T2)によって行われる。第2モータ駆動制御部107は、この第2モータ駆動量p2の算出値に基づいて第2モータM2を駆動する。
【0059】
以下、図9ないし11を参照して、第2モータM2を駆動制御することで車体のふらつきが低減される原理を説明する。
【0060】
図9は、自動二輪車の重心Gの変動状態を示す模式図である。この図では、車両を正面から見た状態を示している。前輪WFおよび後輪WRのみが接地点Sで路面Rに接している自動二輪車は、所定値以上の速度で走行して車体の慣性力および前後輪の回転慣性力が生じている間は、重心Gを正立状態(図示実線)に保つことが容易である。しかしながら、車体の慣性力が弱まる低速走行時には、図示破線で示すように接地点Sを中心に重心Gが左右に移動しやすくなる、すなわち、車体が左右方向に傾きやすくなる。
【0061】
通常の自動二輪車では、このような低速走行時の左右方向への傾き(ふらつき)を抑えるために、乗員がハンドル操作や体重移動によって重心Gを正立状態に戻す操作を行うこととなる。このうち、ハンドル操作によって重心Gを正立状態に戻すことができる理由は、以下に説明するように、ハンドル操作に伴って、重心Gのおよび接地点Sをそれぞれ移動させることができるからである。
【0062】
図10は、ハンドル操作に伴って重心Gが移動する様子を示す模式図である。この図では、前輪WFおよび後輪WRが、接地点SF,SRによって路面に接地している自動二輪車を上方から見た状態を示している。前記したように、自動二輪車の前輪WFは、車体フレームのヘッドパイプHを中心に回動するフロントフォークに取り付けられており、このフロントフォークの上部に取り付けられたハンドル5を左右に切ることで操舵することができる。通常、ヘッドパイプHは、前輪WFの接地点SFより車体後方側に配置されている。このため、ハンドル5を左右に操舵すると、接地点SFを中心にしてヘッドパイプHが左右に移動し、これに伴って重心Gが車体左右方向に移動することとなる。この図では、ハンドル5を左方に切ることで重心Gの位置が右方に移動した状態を示している。
【0063】
このような車体特性を有する自動二輪車においては、ハンドル5を操舵することで重心Gの位置を左右に移動させることができる。したがって、例えば、車体が左方に傾き始めた、すなわち、重心Gが車幅方向左方に移動しはじめた場合には、ハンドル5を左方に切ることによって、移動しはじめた重心Gの位置を車体中央側に戻すことが可能となる。
【0064】
図11は、ハンドル操作に伴って重心Gが正立状態に戻る過程を示す模式図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。この図では、車両を正面から見た状態を示している。前記したように、接地点Sに対して傾き始めた重心Gは、接地点Sを移動させることによっても正立状態に戻すことができる。
【0065】
図中(a)では、走行中に前輪WFが障害物Mに接触したため、車体が右方に傾いた状態を示している。図中(b)では、この傾きを正立状態に戻すために、車体が傾いた方向と同じ右側にハンドル5が操舵された状態を示している。図中(c)では、前輪WFが、ハンドル5を切った方向に軌跡Kに沿って転動し、車体の傾きが正立状態に戻りつつある状態を示している。そして、図中(d)では、前輪WFの接地点SFが、図中(a)における車体中心線Cから車体右側に距離Lだけ移動すると共に、重心Gが正立状態に戻った状態を示している。
【0066】
本実施形態に係る自動二輪車の操舵装置では、ジャイロセンサによってロール方向の角速度ωが検知される、すなわち、車体が傾き始めたことが検知されると、パワーアシスト手段W1によってその傾いた方向にハンドル5を切ることで重心Gの位置および接地点Sの位置を移動させて、車体を素早く直立状態に戻すことが可能に構成されている。制御部100の操舵角補正トルク算出手段105は、検知されたロール方向の角速度ωを打ち消すための操舵角補正トルクT2を算出し、第2モータ駆動力算出手段106に伝達する。
制御部100は、車速Vが所定値以下でロール方向の角速度ωが所定値以上の場合に、車体の重心Gの位置を車体中央に戻す方向で第2モータM2に与えるアシスト力を大きくするように制御する。これにより、特に低速域での車体のふらつきを低減することができると共に、あらゆる速度域で自動二輪車の安定性および運動性を高めることが可能となる。
【0067】
本実施形態に係るふらつき低減制御の構成によれば、乗員の操作に関わらず各センサ出力に基づいて実行される完全自動制御とすることが可能であるが、乗員による操舵力が加わって初めてふらつきが低減される半自動制御が実行されるように構成してもよい。
【0068】
図12は、本発明の第2実施形態に係る操舵装置の制御部の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。前記第1実施形態で示した制御部100が、ふらつき低減制御の際にハンドル5を切る方向および操舵力の大きさは、車体のふらつきを最短時間で抑える理想的な操作を、予め定められたマップ等に基づいて具現化したものといえる。しかしながら、通常、自動二輪車の乗員は、車体のふらつきを抑えるための適切なハンドル操作を行う運動能力を有していると仮定することができる。この場合には、例えば、重量が大きいために大きな操舵力を必要とする車両等においても、乗員の意思通りに前輪が操舵されるように補助操舵力を与えることで、車体のふらつき低減が容易な車両を得ることができると考えられる。
【0069】
本発明の第2実施形態に係る操舵装置は、上記したような二輪車の特性を鑑みて、ロール方向の角速度ωを考慮することなく、ハンドルへの入力トルクMzおよび車速Vの値に基づいて第2モータM2を駆動するものである。
【0070】
制御部200には、ハンドル5の回動角度と前輪WFの操舵角度との比率である操舵比jを検知する実操舵比検知手段92と、自動二輪車の車速Vを検知する車速検知手段91と、乗員がハンドル5を操舵することにより生じる入力トルク(Mz)を検知する入力トルク検知手段(トルクセンサ)48からの情報が入力される。制御部200は、第2モータM2を、車速Vおよび入力トルクMzの値に基づいて制御し、一方、第1モータM1を、車速Vおよび操舵比jの値に基づいて制御するように構成されている。
【0071】
目標操舵比算出手段201は、車速検知手段91によって検知された車速Vに基づいて目標操舵比Jを算出する。この算出処理は、予め定められた所定の関数(J=f(V))に車速Vを代入することで実行される。
【0072】
第1モータ駆動量算出手段202では、目標操舵比Jと実操舵比jとの差分に基づいて第1モータ駆動量p1(p1=|J−j|)が算出される。第1モータ駆動制御部203は、この第1モータ駆動量p1の算出値に基づいて第1モータM1を駆動する。
【0073】
また、パワーアシストトルク算出手段204では、車速検知手段91によって検知された車速V、入力トルク検知手段48によって検知された入力トルクMzおよび目標操舵比Jに基づいて、パワーアシストトルクT(T=Mz・k)が算出される。ここで、アシスト係数kは、目標操舵比Jと車速Vの関数(k=f(J,V))とされる。
【0074】
第2モータ駆動量算出手段205では、パワーアシストトルクTに基づいて第2モータ駆動量p2が算出される。第2モータ駆動制御部206は、この第2モータ駆動量p2の算出値に基づいて第2モータM2を駆動する。
【0075】
本実施形態に係る操舵装置によれば、乗員が車体のふらつきを抑制しようとするハンドル操作をパワーアシスト手段W1によって補助することにより、乗員の操作意思を素早く前輪WFの操舵角に反映させることが可能となる。これにより、ハンドル操作の主体はあくまでも乗員としたまま、乗員の操作負担を低減し、低速走行時のふらつきを素早く抑えることができるようになる。
【0076】
なお、フロントフォーク、トップブリッジ、ボトムブリッジ、車体フレーム、支持ケースの形状や配置、入力トルク検知手段、ロール角速度検知手段、車速検知手段および実操舵比検知手段の構造や配置、操舵比可変手段およびパワーアシスト手段の駆動機構の形態等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。また、目標操舵比やパワーアシストトルクを算出するための関数、操舵角補正トルクの算出方法、アシスト係数の設定値等は、車両の形態等に合わせて適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…自動二輪車、2…車体フレーム、2a…メインフレーム、4…フロントフォーク、5…ハンドルバー、16…トップブリッジ、17…ボトムブリッジ、18…支持ケース、30…自動二輪車の操舵装置、31…上側ハウジング、32…下側ハウジング、40…入力軸、48…トルクセンサ(入力トルク検知手段)、66…出力軸、91…車速検知手段、92…実操舵比検知手段、93…ロール角速度検知手段、100…制御部、101…目標操舵比算出手段、102…第1モータ駆動量算出手段、103…第1モータ駆動制御部、105…操舵角補正トルク算出手段、104…パワーアシストトルク算出手段、106…第2モータ駆動量算出手段、107…第2モータ駆動制御部、M1…第1モータ、M2…第2モータ、S1…スライダ(操舵比可変手段)、W1…ウォームホイール(パワーアシスト手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(WF)を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク(4)を、トップブリッジ(16)および該トップブリッジ(16)の車体下方側に位置するボトムブリッジ(17)によって保持すると共に、車体フレーム(2)に対して前記フロントフォーク(4)を操舵可能に支持する自動二輪車の操舵装置(30)において、
乗員が操作するハンドル(5)へ入力される入力トルク(Mz)に応じて、第2モータ(M2)による補助操舵力を与えるパワーアシスト手段(W1)と、
車速(V)を検知する車速検知手段(92)と、
前記入力トルク(Mz)を検知する入力トルク検知手段(48)と、
前記ハンドル(5)の回動角度と前記前輪(WF)の操舵角度との比率である操舵比(j)を検知する操舵比検知手段(92)と、
車体のロール方向の角速度(ω)を検知するロール角速度検知手段(93)と、
前記第2モータ(M2)を制御する制御部(100)とを具備し、
前記制御部(100)は、前記第2モータ(M2)を、前記車速(V)、前記入力トルク(Mz)および前記ロール方向の角速度(ω)の値に基づいて制御することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項2】
前記車速(V)、前記入力トルク(Mz)および前記操舵比(j)の関数(T1=Mz・k(k=f(j,V)))に基づいて、前記補助操舵力としてのパワーアシストトルク(T1)を求めるパワーアシストトルク算出手段(104)と、
前記車速(V)に応じて変化する車速−角速度マップに基づいて、前記ロール方向の角速度(ω)を打ち消すための操舵角補正トルク(T2)を求める操舵角補正トルク算出手段(105)とを具備し、
前記第2モータ(M2)は、前記パワーアシストトルク(T1)と前記操舵角補正トルク(T2)とを合算した値に基づいて制御され、
前記制御部(100)は、車速(V)が所定値以下でロール方向の角速度(ω)が所定値以上の場合に、車体の重心(G)の位置を車体中央に戻す方向のアシスト力を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項3】
前記操舵比(j)を、第1モータ(M1)によって任意に変更する操舵比可変手段(S1)を具備し、
前記制御部(100)は、前記車速(V)の関数(J=f(V))によって求められる目標操舵比(J)と前記操舵比(j)との差分に基づいて前記第1モータ(M1)を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項4】
前輪(WF)を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク(4)を、トップブリッジ(16)および該トップブリッジ(16)の車体下方側に位置するボトムブリッジ(17)によって保持すると共に、車体フレーム(2)に対して前記フロントフォーク(4)を操舵可能に支持する自動二輪車の操舵装置(30)において、
乗員が操作するハンドル(5)へ入力される入力トルク(Mz)に応じて、第2モータ(M2)による補助操舵力を与えるパワーアシスト手段(W1)と、
車速(V)を検知する車速検知手段(92)と、
前記入力トルク(Mz)を検知する入力トルク検知手段(48)と、
前記ハンドル(5)の回動角度と前記前輪(WF)の操舵角度との比率である操舵比(j)を検知する操舵比検知手段(92)と、
車体のロール方向の角速度(ω)を検知するロール角速度検知手段(93)と、
前記第2モータ(M2)を制御する制御部(200)とを具備し、
前記制御部(200)は、前記第2モータ(M2)を、前記車速(V)および前記入力トルク(Mz)の値に基づいて制御することを特徴とする自動二輪車の操舵装置。
【請求項5】
前記車速(V)、前記入力トルク(Mz)および前記操舵比(j)の関数(T=Mz・k(k=f(j,V)))に基づいて、前記補助操舵力としてのパワーアシストトルク(T)を求めるパワーアシストトルク算出手段(204)を具備し、
前記第2モータ(M2)は、前記パワーアシストトルク(T)の値に基づいて制御されることを特徴とする請求項4に記載の自動二輪車の操舵装置。
【請求項6】
前記操舵比(j)を、第1モータ(M1)によって任意に変更する操舵比可変手段(S1)を具備し、
前記制御部(200)は、前記車速(V)の関数(J=f(V))によって求められる目標操舵比(J)と前記操舵比(j)との差分に基づいて前記第1モータ(M1)を制御することを特徴とする請求項4または5に記載の自動二輪車の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−73624(P2011−73624A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228396(P2009−228396)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】