説明

自動分析装置と液体試料の温度管理方法

【課題】液体試料を目標温度に保温する反応槽を使用している場合、液体試料の予熱手段を別途設けなくとも、液体試料の温度を速やかに目標温度とすることが可能な自動分析装置と液体試料の温度管理方法を提供すること。
【解決手段】反応槽を備えた自動分析装置と液体試料の温度管理方法。自動分析装置1は、各反応容器5に取り付けた表面弾性波素子24が発する音波によって液体試料を撹拌する撹拌装置20と、表面弾性波素子の駆動条件を制御する撹拌制御部とを備え、撹拌制御部は、液体試料の撹拌に際し、反応槽4の目標温度と液体試料の温度との差、液体試料の量及び比熱から演算される不足熱量が音波の吸収による液体試料の温度上昇の熱量と等しくなるように表面弾性波素子の駆動条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置と液体試料の温度管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動分析装置は、反応容器に分注された検体と試薬を含む液体試料を目標温度(例えば、37℃)に加温して反応させるため、いわゆるドライバス方式の下に目標温度に制御した反応槽に反応容器を保持しているものがある(例えば、特許文献1参照)。ここで、自動分析装置は、試薬を収容した試薬容器を反応槽よりも低温の試薬保冷庫で保冷している。このため、ドライバス方式の反応槽を使用した自動分析装置は、低温の試薬を分注すると反応容器やその周辺の温度が低下し、ウェットバス方式の反応槽に比べて液体試料が目標温度へ到達するのに時間が掛かり検査結果にばらつきが生じてしまうことから、予熱手段を設けて液体試料の温度を目標温度となるように加温している。
【0003】
【特許文献1】特開2007−248252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動分析装置は、多くの構成部材を備えていることから設計上の自由度に制限があり、予熱手段を設けるためには、設計上多くの難しさがあった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液体試料を目標温度に保温する反応槽を使用している場合、液体試料の予熱手段を別途設けなくとも、液体試料の温度を速やかに目標温度とすることが可能な自動分析装置と液体試料の温度管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の自動分析装置は、検体と試薬を含む液体試料が分注される複数の反応容器を保持し、前記液体試料を目標温度に保温する反応槽を備え、前記液体試料を撹拌して反応させ、反応液を分析する自動分析装置であって、前記各反応容器に取り付けた表面弾性波素子が発する音波によって前記液体試料を撹拌する撹拌手段と、前記表面弾性波素子の駆動条件を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記液体試料の撹拌の際の前記音波の吸収による前記液体試料の温度上昇を利用し、前記目標温度よりも低温の前記液体試料との温度差、前記液体試料の量及び比熱から演算される不足熱量を補うように前記表面弾性波素子の駆動条件を制御することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記制御手段は、当該分析装置の環境温度を前記検体の温度、前記試薬を収容した試薬保冷庫の温度又は前記試薬保冷庫の温度と前記試薬を希釈すべく試薬分注装置が吐出する希釈水の温度とから算定される温度を前記試薬の温度とし、前記検体と前記試薬の温度、前記検体と前記試薬の分注量情報及び比熱情報をもとに前記反応容器ごとに前記不足熱量を演算し、当該不足熱量を補うように前記表面弾性波素子の駆動条件を制御することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記制御手段は、分注される前記検体及び前記試薬の量を当該自動分析装置に入力される分析項目ごとの分注量から取得することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記制御手段は、前記表面弾性波素子の駆動条件として、少なくとも駆動時間,駆動電圧,駆動電力,駆動周波数のいずれか一つを制御することを特徴とする。
【0010】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の液体試料の温度管理方法は、検体と試薬を含む液体試料が分注される複数の反応容器を保持し、前記液体試料を目標温度に保温する反応槽を備え、前記液体試料を撹拌して反応させ、反応液を分析する自動分析装置における前記反応容器に分注された液体試料の温度管理方法であって、前記目標温度よりも低温の前記液体試料との温度差、前記液体試料の量及び比熱から前記液体試料の不足熱量を演算する演算工程と、前記演算工程で算出した不足熱量を補うように前記表面弾性波素子の駆動条件を制御して前記液体試料を加温する加温工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明において、検体と試薬を含む液体試料とは、検体の分析を目的として反応容器に分注される検体や試薬(濃縮試薬を含む)をいうものとし、また、洗浄水とは、分注プローブの洗浄を目的とする水をいい、希釈水とは、液体試料の希釈を目的として分注機構が吐出する水をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自動分析装置は、各反応容器に取り付けた表面弾性波素子が発する音波によって液体試料を撹拌する撹拌手段と、表面弾性波素子の駆動条件を制御する制御手段とを備え、制御手段は、液体試料の撹拌の際の音波の吸収による液体試料の温度上昇を利用し、目標温度よりも低温の液体試料との温度差、液体試料の量及び比熱から演算される不足熱量を補うように表面弾性波素子の駆動条件を制御し、液体試料の温度管理方法は、目標温度よりも低温の前記液体試料との温度差、前記液体試料の量及び比熱から前記液体試料の不足熱量を演算する演算工程と、前記演算工程で算出した不足熱量を補うように前記表面弾性波素子の駆動条件を制御して前記液体試料を加温する加温工程と、を含むので、反応槽の温度管理をするための液体試料の予熱手段を別途設けなくとも、液体試料撹拌用の表面弾性波素子の駆動条件を制御することにより目標温度よりも低温の液体試料の温度を速やかに目標温度とすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の自動分析装置と液体試料の温度管理方法にかかる実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明に係る自動分析装置の概略構成図である。図2は、図1の自動分析装置の構成を示すブロック図である。図3は、図1の自動分析装置で使用され、表面弾性波素子が取り付けられた反応容器の斜視図である。
【0014】
自動分析装置1は、図1及び図2に示すように、試薬保冷庫2,3、反応槽4、検体容器移送機構8、分析光学系12、洗浄機構13、制御部15及び撹拌装置20を備えており、自動分析装置1の環境温度を検出する図示しない温度センサが検体容器移送機構8の近傍に設けられている。温度センサが検出した環境温度は、検体の温度情報として制御部15へ出力される。
【0015】
試薬保冷庫2,3は、図1に示すように、それぞれ周方向に配置される複数の試薬容器2a,3aが保持され、図示しない駆動手段に回転されて試薬容器2a,3aを周方向に搬送するターンテーブルを有している。このとき、試薬保冷庫2には、第1試薬を収容した試薬容器2aが保持され、試薬保冷庫3には、第2試薬を収容した試薬容器3aが保持されている。また、試薬保冷庫2,3は、内部を所定温度に冷却する冷却装置と、冷却温度を検出する温度センサがそれぞれ設けられ、それぞれの冷却装置から供給される冷気によって試薬が所定温度に保冷されている。各温度センサが検出した冷却温度は温度情報として制御部15へ出力される。試薬保冷庫2,3は、これらの温度情報をもとに、冷却装置を制御部15によって制御することにより、内部が所定温度に冷却されている。従って、反応容器5に分注される検体と試薬を含む液体試料は、常に反応槽4の目標温度よりも低温状態にある。
【0016】
反応槽4は、制御部15によって制御される加熱手段によって予め設定した目標温度(例えば、37℃)に加温され、図1に示すように、複数の反応容器5を周方向に沿って配列して図示しない駆動手段によって矢印で示す方向に正転或いは逆転され、反応容器5を加温状態で搬送するドライバス方式の反応槽である。
【0017】
反応容器5は、図3に示すように、光学的に透明な素材から成形され、液体を保持する保持部5aを有する四角筒からなる容器であり、側壁5cに表面弾性波素子24が一体に取り付けられている。反応容器5は、後述する分析光学系12から出射された分析光に含まれる光の80%以上を透過する素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス,環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂が使用される。反応容器5は、表面弾性波素子24を取り付けた部分に隣接する下部側の点線によって囲まれた部分が前記分析光を透過させる測光用の窓5bとして利用される。反応容器5は、表面弾性波素子24を外側に向けて反応槽4にセットされ、図1に示すように、試薬分注機構6,7によって試薬保冷庫2,3の試薬容器2a,3aから試薬が分注される。
【0018】
試薬分注機構6,7は、それぞれ水平面内を矢印方向に回動するアーム6a,7aに試薬を分注するプローブ6b,7bが設けられ、洗浄水によってプローブ6b,7bを洗浄する洗浄手段(図示せず)を有している。希釈水は、試薬を希釈することに使用する。また、希釈水は、プローブ6b,7bを洗浄することにも使用する。希釈水は、試薬を分注した際に余分に吐出することによって、分注した試薬を所望濃度に希釈するのに使用される。このとき、試薬分注機構6,7は、希釈水をそれぞれの希釈水タンクからプローブ6b,7bへ導く配管に希釈水の温度を検出する温度センサが設けられている。温度センサは、前記配管のプローブ6b,7b側に設けることが好ましい。
【0019】
検体容器移送機構8は、図1に示すように、フィーダ9に配列した複数のラック10を矢印方向に沿って1つずつ移送する移送手段であり、ラック10を歩進させながら移送する。ラック10は、検体を収容した複数の検体容器10aを保持している。検体容器10aが保持した検体は、検体容器移送機構8によって移送されるラック10の歩進が停止するごとに、検体分注機構11によって各反応容器5へ分注される。ここで、検体容器移送機構8の近傍には、自動分析装置1の環境温度を検出する図示しない温度センサが設けられている。温度センサが検出した環境温度は、検体の温度情報として制御部15へ出力される。
【0020】
検体分注機構11は、図1に示すように、水平方向に回動するアーム11aとプローブ11bとを有しており、検体分注後のプローブ11bを洗浄水によって洗浄する洗浄手段(図示せず)がプローブ11bの移動経路に配置されている。
【0021】
分析光学系12は、試薬と検体とが反応した反応容器5内の液体試料を分析するための分析光を出射するもので、図1に示すように、発光部12a,分光部12b及び受光部12cを有している。発光部12aから出射された分析光は、反応容器5内の液体試料を透過し、分光部12bと対向する位置に設けた受光部12cによって受光される。受光部12cは、制御部15と接続されている。
【0022】
洗浄機構13は、ノズル13aによって反応容器5内の液体試料を吸引して排出した後、ノズル13aによって洗剤や洗浄水等を繰り返し注入及び吸引することにより、分析光学系12による分析が終了した反応容器5を洗浄する。
【0023】
制御部15は、図2に示すように、自動分析装置1の各部と接続されて各部の作動を制御すると共に、発光部12aの出射光量と受光部12cが受光した光量に基づく反応容器5内の液体試料の吸光度に基づいて検体の成分や濃度等を分析するものであり、例えば、マイクロコンピュータ等の制御手段が使用される。制御部15は、図1及び図2に示すように、キーボード等の入力部16及びディスプレイパネル等の表示部17と接続され、駆動制御部15a、情報管理部15b、演算部15c及び撹拌制御部15dを有している。
【0024】
駆動制御部15aは、試薬保冷庫2,3等、自動分析装置1における各種駆動部の駆動を制御する。情報管理部15bは、検体や試薬に関する温度情報や分注量情報等の管理情報を管理する。即ち、情報管理部15bは、検体容器移送機構8の近傍に設けた温度センサから入力される検体温度情報、試薬保冷庫2,3に設けた温度センサから入力される試薬の温度情報や試薬分注機構6,7の配管に設けた温度センサから入力される希釈水の温度情報、反応槽4の目標温度情報、ホストコンピュータから制御部15へ入力される検体の分析情報に基づく各反応容器5に分注される検体や試薬の量並びに希釈水の量に関する分注量情報、予め入力されている複数の検体や複数の試薬に関する比熱情報等の管理情報を管理する。
【0025】
演算部15cは、情報管理部15bが管理している温度情報、分注量情報、反応槽4の目標温度情報、各温度センサから入力される試薬,検体及び希釈水の温度情報、検体や試薬の比熱情報、更には検体分注量や試薬分注量等の管理情報をもとに反応容器5ごとに不足熱量を演算する。この不足熱量の演算に際し、試薬を希釈水によって希釈する場合、演算部15cは、試薬保冷庫の温度、希釈水の温度、試薬の量及び希釈水の量をもとに算定される温度を試薬の温度として使用する。
【0026】
撹拌制御部15dは、液体試料を撹拌する際の音波の吸収による液体試料の温度上昇を利用し、反応槽4の目標温度よりも低温である液体試料との温度差、液体試料の量及び比熱から演算された不足熱量を補うように表面弾性波素子24の駆動条件を制御する制御手段であり、送電体21を制御し、数MHz〜数百MHz程度の高周波信号からなる駆動電力を表面弾性波素子24に出力させる。このとき、撹拌制御部15dは、入力部16から入力される制御信号に基づいて表面弾性波素子24の駆動条件を制御する。例えば、撹拌制御部15dは、表面弾性波素子24の少なくとも駆動時間,駆動電圧,駆動電力,駆動周波数のいずれか一つを制御する。このため、撹拌制御部15dには、予め目標温度と液体試料との温度差、液体試料の量及び比熱から求まる不足熱量と駆動時間,駆動電圧,駆動電力,駆動周波数との関係についての対応表やグラフが記憶されている。
【0027】
撹拌装置20は、反応容器5に分注される検体と試薬を含む液体試料を音波によって非接触で撹拌する撹拌手段であり、図1に示すように、送電体21と表面弾性波素子24とを有している。
【0028】
送電体21は、反応槽4外周の互いに対向する位置に反応容器5と水平方向に対向させて配置され、電源から供給される電力をもとに数MHz〜数百MHz程度の高周波駆動信号からなる駆動電力を表面弾性波素子24に送電する。送電体21は、図4に示すように、表面弾性波素子24の電気端子24cに当接するブラシ状の接触子21aを有している。このとき、送電体21は、図1に示すように、配置決定部材22に支持されており、反応槽4の回転が停止したときに接触子21aから電気端子24cに駆動電力を送電する。
【0029】
配置決定部材22は、制御部15に作動が制御され、送電体21から電気端子24cに駆動電力を送電する送電時に、送電体21を移動させて送電体21と電気端子24cとの反応槽4の周方向並びに半径方向における相対配置を調整するもので、例えば、2軸ステージが使用される。具体的には、配置決定部材22は、反応槽4が回転し、送電体21から電気端子24cに駆動電力を送電していない非送電時は、作動が停止されて、送電体21と電気端子24cとを一定の距離に保持している。そして、配置決定部材22は、反応槽4が停止し、送電体21から電気端子24cに駆動電力を送電する送電時には、制御部15の制御の下に作動して送電体21を移動させ、送電体21と電気端子24cとが対向するように反応槽4の周方向に沿った位置を調整すると共に、送電体21と電気端子24cとを近接させて接触子21aと電気端子24cとを接触させることで送電体21と電気端子24cとの相対配置を決定する。
【0030】
表面弾性波素子24は、図3に示すように、基板24aの表面に櫛型電極(IDT)からなる振動子24bが設けられている。振動子24bは、送電体21から送電された電力を表面弾性波(超音波)に変換する音波発生手段であり、受電手段となる電気端子24cとの間が導体回路24dによって接続されている。表面弾性波素子24は、振動子24b,電気端子24c及び導体回路24dを外側に向け、エポキシ樹脂等の音響整合層を介して反応容器5の側壁5cに取り付けられる。
【0031】
ここで、表面弾性波素子24が発生した表面弾性波(超音波)は、側壁5cから反応容器5内の液体試料へ漏れ出すことよって液体試料を撹拌するが、一部は液体試料に吸収されることによって液体試料の温度を上昇させる。本発明は、液体試料の撹拌に際し、この液体試料の温度上昇を利用して液体試料の不足熱量を補完し、液体試料を目標温度に加温するものである。従って、反応容器5は、予め撹拌に使用される表面弾性波(超音波)と液体試料の温度上昇に使用される表面弾性波(超音波)の割合を把握しておく。そして、撹拌制御部15dは、この割合を考慮して表面弾性波素子24の駆動条件を制御する。
【0032】
以上のように構成される自動分析装置1は、回転する反応槽4によって周方向に沿って搬送されてくる複数の反応容器5に試薬分注機構6が試薬容器2aから第1試薬を順次分注した後、複数の反応容器5に検体分注機構11によってラック10に保持された複数の検体容器10aから順次検体を分注する。検体を分注した後、自動分析装置1は、複数の反応容器5に試薬分注機構7が試薬容器3aから第2試薬を順次分注してゆく。この間、反応容器5は、第1試薬の分注後、検体分注後及び第2試薬の分注後の各タイミングにおいて撹拌装置20によって分注された試薬や検体を含む液体試料が撹拌されると共に、試薬と検体とが反応し、反応槽4が再び回転したときに分析光学系12を通過する。反応容器5が分析光学系12を通過するとき、反応容器5内の液体試料は、受光部12cで側光され、制御部15によって成分や濃度等が分析される。そして、分析が終了した反応容器5は、洗浄機構13によって洗浄された後、再度検体の分析に使用される。
【0033】
このとき、制御部15は、以下のようにして反応容器5に分注された液体試料の温度を管理する。以下、制御部15による液体試料の温度管理方法を、図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0034】
制御部15は、情報管理部15bが管理している反応容器5ごとに分注される検体や試薬に関する温度情報、比熱情報及び分注量情報に関する管理情報を演算部15cが取得する(ステップS100)。次に、制御部15は、演算部15cが取得した管理情報をもとに演算部15cが不足熱量を演算する(ステップS102)。そして、制御部15は、表面弾性波素子24を駆動して液体試料を撹拌する際、演算部15cが算出した不足熱量を補完するように、撹拌制御部15dが反応容器5ごとに表面弾性波素子24の駆動条件を制御し、液体試料を加温する(ステップS104)。この制御部15による液体試料の温度管理方法は、反応槽4に保持された複数の反応容器5のそれぞれについて個々に実行される。
【0035】
従って、反応容器5に分注する液体試料、例えば、反応槽4の目標温度との差が小さい微量の試薬の場合、撹拌制御部15dによって駆動条件を制御しながら表面弾性波素子24を駆動して撹拌する。すると、表面弾性波素子24の発生した表面弾性波(超音波)が試薬に吸収されることによる試薬の温度上昇によって試薬の不足熱量が補完されるので、試薬の温度は、図5に実線で示すように、分注直後に一時的に低下するが、速やかに目標温度Ttに到達する(実線矢印参照)。このとき、試薬の温度は、反応容器5に挿入したサーミスタ等の温度センサを用いて分注直後から測定する。これに対し、同温、同量の同じ試薬を分注した反応容器5を表面弾性波素子24を駆動することなく放置し、反応槽4によって加温すると、試薬の温度は、図5に破線で示すように変化し、目標温度Ttに到達するのに時間を要する(点線矢印参照)。
【0036】
一方、反応槽4の目標温度との差が大きく、図5に示す微量の場合の数倍の量の試薬の場合、演算部15cが算出する不足熱量が大きくなるので、撹拌制御部15dは、表面弾性波素子24を駆動する駆動条件、例えば、駆動電力を増加させる。このため、試薬の温度は、図6に実線で示すように、分注直後に一時的に大きく低下するが、不足熱量が補完されるので、図5に示す場合と略同じ時間で速やかに目標温度Ttに到達する(実線矢印参照)。これに対し、同温、同量の同じ試薬を分注した反応容器5を反応槽4のみによって加温すると、試薬の温度は、図6に破線で示すように変化し、目標温度Ttに到達するのに要する時間が長くなる(点線矢印参照)。
【0037】
以上のように、自動分析装置1は、制御部15によって表面弾性波素子24の駆動条件を制御することで、撹拌に伴う液体試料の温度上昇を利用して液体試料の不足熱量を補完し、液体試料を目標温度に加温している。このため、自動分析装置1は、ドライバス方式の反応槽4を使用していても、液体試料の予熱手段を別途設けなくとも、液体試料の温度を速やかに目標温度とすることができる。また、自動分析装置1は、目標温度に加温した試薬と検体を含む液体試料を反応させるので、試薬と検体が常に同じ温度で反応を開始するので、測定値の信頼性が向上する。
【0038】
尚、上述の実施の形態で説明した自動分析装置1は、反応槽4の目標温度よりも低温の検体と試薬を含む液体試料の不足熱量を補うものであるから、例えば、試薬分注機構が濃縮試薬を分注するのに併せて洗浄水を吐出し、希釈水によって濃縮試薬を希釈した希釈試薬の不足熱量を補うのに使用する使用態様もある。また、反応槽4は、ドライバス方式の反応槽の場合について説明したが、本発明の自動分析装置1は、反応槽4がドライバス方式でない反応槽であってもよい。
【0039】
また、自動分析装置1は、第1試薬の分注後、検体分注後及び第2試薬の分注後の各タイミングにおいて表面弾性波素子による撹拌と熱量を補うための加温を行った。しかし、第1試薬や検体の量が少なく、かつ、これらの温度と反応層の目標温度との温度差が小さい場合には、自動分析装置1は、第2試薬を分注した後のみ、表面弾性波素子による撹拌と熱量を補うための加温とを行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る自動分析装置の概略構成図である。
【図2】図1の自動分析装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図1の自動分析装置で使用され、表面弾性波素子が取り付けられた反応容器の斜視図である。
【図4】送電体が接触子によって容器の表面弾性波素子の電気端子に当接した状態を示す斜視図である。
【図5】反応槽の目標温度との差が小さい微量の試薬における温度変化を示す図である。
【図6】反応槽の目標温度との差が大きく、図5に示す微量の場合の数倍の量の試薬における温度変化を示す図である。
【図7】本発明の液体試料の温度管理方法を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1 自動分析装置
2,3 試薬保冷庫
4 反応槽
5 反応容器
6,7 試薬分注機構
8 検体容器移送機構
9 フィーダ
10 ラック
11 検体分注機構
12 分析光学系
13 洗浄機構
15 制御部
16 入力部
17 表示部
20 撹拌装置
21 送電体
22 配置決定部材
24 表面弾性波素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬を含む液体試料が分注される複数の反応容器を保持し、前記液体試料を目標温度に保温する反応槽を備え、前記液体試料を撹拌して反応させ、反応液を分析する自動分析装置であって、
前記各反応容器に取り付けた表面弾性波素子が発する音波によって前記液体試料を撹拌する撹拌手段と、
前記表面弾性波素子の駆動条件を制御する制御手段と、
を備え、前記制御手段は、前記液体試料の撹拌の際の前記音波の吸収による前記液体試料の温度上昇を利用し、前記目標温度よりも低温の前記液体試料との温度差、前記液体試料の量及び比熱から演算される不足熱量を補うように前記表面弾性波素子の駆動条件を制御することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記制御手段は、当該分析装置の環境温度を前記検体の温度、前記試薬を収容した試薬保冷この温度又は前記試薬保冷庫の温度と前記試薬を希釈すべく試薬分注装置が吐出する希釈水の温度とから算定される温度を前記試薬の温度とし、前記検体と前記試薬の温度、前記検体と前記試薬の分注量情報及び比熱情報をもとに前記反応容器ごとに前記不足熱量を演算し、当該不足熱量を補うように前記表面弾性波素子の駆動条件を制御することを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記制御手段は、分注される前記検体及び前記試薬の量を当該自動分析装置に入力される分析項目ごとの分注量から取得することを特徴とする請求項2に記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記表面弾性波素子の駆動条件として、少なくとも駆動時間,駆動電圧,駆動電力,駆動周波数のいずれか一つを制御することを特徴とする請求項2に記載の自動分析装置。
【請求項5】
検体と試薬を含む液体試料が分注される複数の反応容器を保持し、前記液体試料を目標温度に保温する反応槽を備え、前記液体試料を撹拌して反応させ、反応液を分析する自動分析装置における前記反応容器に分注された液体試料の温度管理方法であって、
前記目標温度よりも低温の前記液体試料との温度差、前記液体試料の量及び比熱から前記液体試料の不足熱量を演算する演算工程と、
前記演算工程で算出した不足熱量を補うように前記表面弾性波素子の駆動条件を制御して前記液体試料を加温する加温工程と、
を含むことを特徴とする液体試料の温度管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−210483(P2009−210483A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55453(P2008−55453)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】