説明

自動変速機の摩擦機構

【課題】摩擦機構のピストンに復元力を付与する弾性部材の位置をスプリングリテーナの形状を利用してより容易に変速機ケースの軸中心と一致できるようにする自動変速機の摩擦機構を提供する。
【解決手段】変速機ケース1の内周面に設けられるスプリングリテーナ17と、前記スプリングリテーナ17の収容面に設けられるウェーブコイルスプリング15、前記変速機ケース1の内部に設けられるセンターサポート7、前記センターサポート7に形成された圧力室7aに設けられ、前記ウェーブコイルスプリング15と接触して弾性力が付与されるピストン9、および前記変速機ケース1の内周面にスプライン結合され、前記ピストン9によって加圧される複数のプレート5を備えた自動変速機の摩擦機構であって、前記スプリングリテーナ17は、前記変速機ケース1の軸中心に対し前記ウェーブコイルスプリング15の軸中心を一致させるための突出顎17bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動変速機の摩擦機構に係り、より詳しくは、ピストンに復元力を付与する弾性部材を組み立てる時に変速機ケースの軸中心と容易に一致できるようにする自動変速機の摩擦機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動変速機は変速機ケースの内部に入力軸と遊星ギア列および遊星ギア列の各作動要素に連結されるクラッチ類とブレーキ類の摩擦機構を備える。この時、変速機ケースの軸中心に対し入力軸の軸中心と摩擦機構の軸中心は各々一致させ定位置を確保しなければならない。
一例として、要部構成を示す図1の通り、従来の自動変速機には、変速機ケース1の内部に入力軸3と摩擦機構5およびセンターサポート7等が設けられ、入力軸3と摩擦機構5は変速機ケース1の軸中心Xと一致する状態に組み立てられるが、その組み立て過程は次の通りである。
【0003】
変速機ケース1は、一側に直径が相対的に大きく設定され、トルクコンバーターに結合される大径部と、大径部と対向する他側に直径が相対的に小さく設定され、自動変速機の末端部をなす小径部とを形成する。それにより、作業者は、変速機ケース1の小径部を下にし、大径部を上にして直立させた後、内部に入力軸3を初めとする各種部品を順次組み立てる。
【0004】
しかし、摩擦機構5に締結力を与えるピストン9を圧力室7a内に取り付けたセンターサポート7を変速機ケース1の内部で組み立て方向(矢印で示す)に組み立てる時に、ピストン9と摩擦機構5に復元力を付与する皿バネ11との間で発生する干渉を肉眼で確認できないために組み立て難いだけでなく、その結果作業性の低下をもたらす。これは、図2に示すように、皿バネ11が内周面に等間隔で傾斜して突出する弾性片11aを備えており、弾性片11aがピストン9の先端部側に等間隔で突出する加圧端部9aと相互交差するように組み立てる必要があるためである。
【0005】
より詳しく説明すると、変速機ケース1の内部に皿バネ11を設けた後、センターサポート7にピストン9を先に組み立てた状態でセンターサポート7を変速機ケース1の内部で組み立て方向に組み立てる時に、ピストン9の加圧端部9aと皿バネ11の弾性片11aとの間の相互交差して結合される部位がセンターサポート7によって隠れるため、組み立て時に作業者は、センターサポート7を円周方向に回しながら、加圧端部9aと弾性片11aとの間の交差結合部位を合わせなければならない難しさがある。
図1において、符号13は、変速機ケース1の内周面に設けられ、皿バネ11の一側部を堅固に支持する止め輪である。
【0006】
このため、ピストン9の加圧端部9aと皿バネ11の弾性片11aとの間の相互交差方式の結合構造を新しい形態の弾性部材に変更した。
これは、図3に示す通り、変速機ケース1の内周面に組み立て方向(矢印で示す)に沿って止め輪13を設け、止め輪13に図4に示すウェーブコイルスプリング15の一側部が支持されるようにし、センターサポート7の圧力室7a内に設けられたピストン9の加圧端部9aを止め輪13の内径部とウェーブコイルスプリング15の内径部を通るように配置する新しい形態である。
【0007】
このような構造では、ピストン9とウェーブコイルスプリング15との間の直接結合部位がないために組み立て時にセンターサポート7を円周方向に回す問題は解消したものの、止め輪13に載置されるウェーブコイルスプリング15の軸中心を変速機ケース1の軸中心Xに対し正確に一致させないと、ピストン9の加圧端部9aとウェーブコイルスプリング15の内周面との間の接触による組み立て不良の問題が生じ、誤組み立て時にピストン9の加圧端部9aによってウェーブコイルスプリング15の一部が変形され正常な機能とならない問題が生じる。
図1と図3において、符号5aは変速機ケース1の内周面にスプライン結合される複数のプレートであり、5bは複数のプレート5aの間に交互に挟まれるディスクであり、5cは複数のディスク5bを外周面にスプライン結合するハブである。
【特許文献1】特開平06−017908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の諸問題を解消するためになされたものであり、摩擦機構のピストンに復元力を付与するように設けられる弾性部材の位置をスプリングリテーナの形状の特徴を利用してより容易に変速機ケースの軸中心と一致できるようにすることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような目的を達成するための本発明は、変速機ケースの内周面に設けられるスプリングリテーナと、前記スプリングリテーナの収容面に設けられるウェーブコイルスプリング、前記変速機ケースの内部に設けられるセンターサポート、前記センターサポートに形成された圧力室に設けられ、前記ウェーブコイルスプリングと接触して弾性力が付与されるピストン、および前記変速機ケースの内周面にスプライン結合され、前記ピストンによって加圧される複数のプレートを備えた自動変速機の摩擦機構であって、前記スプリングリテーナは、前記変速機ケースの軸中心に対し前記ウェーブコイルスプリングの軸中心を一致させるための突出顎を形成することを特徴とする。
【0010】
前記突出顎は、前記収容面の外径部から厚さ方向に沿って延びて形成され、内側面に前記スプリングリテーナの軸中心に向かう下向傾斜面を備えることを特徴とする。
【0011】
前記ウェーブコイルスプリングの外径は前記収容面と前記下向傾斜面との間の境界地点に対する半径と同一に設定され、前記ウェーブコイルスプリングの内径は前記スプリングリテーナの内径より小さくないように設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る自動変速機の摩擦機構によれば、変速機ケースの内部に設けられるスプリングリテーナの下向傾斜面を介し、変速機ケースの軸中心と摩擦機構のピストンに対し復元力を付与する弾性部材の軸中心をより容易に一致できるようにし、自動変速機の組み立て時にセンターサポートを円周方向に回さなくて済むだけでなく、変速機ケースの軸中心に対しスプリングリテーナと弾性部材の軸中心を一致させる軸方向への位置調節をしなくても良いために作業性を改善することができる。
【0013】
また、前記弾性部材の外径は前記下向傾斜面の外径と同一に設定し、前記弾性部材の内径は前記スプリングリテーナの内径より小さくないように設定し、前記変速機ケースの内部にセンターサポートの組み立て時、ピストンと弾性部材およびスプリングリテーナ間の干渉問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付した例示図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
本発明の実施形態は従来構造を示した図3を参考に記述し、従来と同一構成要素には同一参照符号を付する。
本発明が適用される自動変速機は、図5と図6に示すように、変速機ケース1の内部に入力軸3と摩擦機構5およびセンターサポート7等を設け、入力軸3と摩擦機構5およびセンターサポート7は変速機ケース1の軸中心Xと一致する状態に組み立てる。
【0016】
より詳しくは、変速機ケース1の内周面に形成された段差面1aにはリング形状のスプリングリテーナ17が設けられ、スプリングリテーナ17の収容面17aにはリング形状からなる弾性部材の一側面が支持されるように設けられる。以下、弾性部材は図4に示すウェーブコイルスプリング15を適用した実施形態について記述する。
【0017】
この場合、センターサポート7は、一側面に形成された圧力室7a内にピストン9を内装した状態で、ピストン9の加圧端部9aがスプリングリテーナ17の内径部とウェーブコイルスプリング15の内径部を通るように変速機ケース1の内部に組み立てられる。
スプリングリテーナ17は変速機ケース1の軸中心Xに対しウェーブコイルスプリング15の軸中心を一致させるための突出顎17bを形成し、突出顎17bは収容面17aの外径部からスプリングリテーナ17の厚さ方向に沿って延びるよう形成される。
【0018】
また、スプリングリテーナ17の突出顎17bは、内側面にスプリングリテーナ17の軸中心に向かって傾斜した形態の下向傾斜面17cを備える。この場合、スプリングリテーナ17の軸中心は変速機ケース1の軸中心Xと一致することは言うまでもない。
ウェーブコイルスプリング15の外径は、収容面17aと下向傾斜面17cとの間の境界地点に対する半径と同一に設定されることが好ましく、ウェーブコイルスプリング15の内径は、スプリングリテーナ17の内径より小さくないように、すなわちスプリングリテーナ17の内径と同一であるか大きく設定されることが好ましい。
【0019】
これにより、変速機ケース1の収容面17aにスプリングリテーナ17を組み立てた後、ウェーブコイルスプリング15を組み立てると、ウェーブコイルスプリング15は、その外径部位がスプリングリテーナ17の収容面17aと下向傾斜面17cとの間の境界地点に正確に一致する状態で載置することができる。
すなわち、スプリングリテーナ17上にウェーブコイルスプリング15を置いただけでも、ウェーブコイルスプリング15はスプリングリテーナ17の下向傾斜面17cに沿ってそのものの重さによって下降するため、スプリングリテーナ17に載置されるウェーブコイルスプリング15の軸中心は変速機ケース1の軸中心Xと正確に一致する状態となる。
【0020】
次に、変速機ケース1の内部にセンターサポート7を組み立てると、ピストン9の加圧端部9aは、スプリングリテーナ17の内径部とウェーブコイルスプリング15の内径部を通って、変速機ケース1の内周面にスプライン結合されたプレート5aに向かう。この過程でピストン9の加圧端部9aは、ウェーブコイルスプリング15は勿論、スプリングリテーナ17との間で発生する干渉を回避することができる。
【0021】
より詳しくは、変速機ケース1の大径部を上に、小径部を下にして作業台に置いた後、組み立て方向(矢印で示す)に沿って入力軸3と摩擦機構5を構成するプレート5aとディスク5bおよびハブ5cを組み立てる。その後、変速機ケース1の段差面1aにスプリングリテーナ17を組み立て、スプリングリテーナ17の収容面17aにウェーブコイルスプリング15を置く。
この過程でウェーブコイルスプリング15はスプリングリテーナ17の下向傾斜面17cを介して収容面17a上に正確に載置されるため、ウェーブコイルスプリング15の軸中心は変速機ケース1の軸中心Xと正確に一致する状態になる。
【0022】
次に、変速機ケース1の内部にセンターサポート7を挿入すると、ピストン9の加圧端部9aはウェーブコイルスプリング15の内径部とスプリングリテーナ17の内径部に対し特に干渉せずにプレート5aに向かう。
この過程でセンターサポート7は、従来のように円周方向に回す作業と変速機ケース1の軸中心Xに対しウェーブコイルスプリング15の軸中心を一致させる作業をしなくても良いため、作業時間の短縮のみならず作業性の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の自動変速機の組み立て状態を部分的に示す断面図である。
【図2】図1の皿バネを拡大して示す図である。
【図3】従来の自動変速機の組み立て状態に対する他の実施形態を部分的に示す断面図である。
【図4】図3のウェーブコイルスプリングを拡大して示す図である。
【図5】本発明が適用される自動変速機の組み立て状態を部分的に示す断面図である。
【図6】図5の変速機ケースの軸中心に対するスプリングリテーナとウェーブコイルスプリングの配置状態を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0024】
1:変速機ケース
3:入力軸
5:摩擦機構
7:センターサポート
9:ピストン
11:皿バネ
13:止め輪
15:ウェーブコイルスプリング
17:スプリングリテーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケースの内周面に設けられるスプリングリテーナと、前記スプリングリテーナの収容面に設けられるウェーブコイルスプリング、前記変速機ケースの内部に設けられるセンターサポート、前記センターサポートに形成された圧力室に設けられ、前記ウェーブコイルスプリングと接触して弾性力が付与されるピストン、および前記変速機ケースの内周面にスプライン結合され、前記ピストンによって加圧される複数のプレートを備えた自動変速機の摩擦機構であって、
前記スプリングリテーナは、前記変速機ケースの軸中心に対し前記ウェーブコイルスプリングの軸中心を一致させるための突出顎を形成することを特徴とする自動変速機の摩擦機構。
【請求項2】
前記突出顎は、前記収容面の外径部から厚さ方向に沿って延びて形成されることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の摩擦機構。
【請求項3】
前記突出顎は、内側面に前記スプリングリテーナの軸中心に向かう下向傾斜面を備えることを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の摩擦機構。
【請求項4】
前記ウェーブコイルスプリングの外径は前記収容面と前記下向傾斜面との間の境界地点に対する半径と同一に設定され、前記ウェーブコイルスプリングの内径は前記スプリングリテーナの内径より小さくないように設定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動変速機の摩擦機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−275908(P2009−275908A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277234(P2008−277234)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【Fターム(参考)】