説明

自動変速機用流体フィルタ

【課題】 余分な部品を使用せず軽量を保ったまま、フィルタと上下ケースとの結合力が強い自動変速機用流体フィルタ装置を提供する。
【解決手段】 流出口を有する上ケースと、流入口を有する下ケースと、前記上下ケース間に画成される空所に配置されたフィルタとからなる自動変速機用流体フィルタ装置において、前記上下ケースの少なくとも一方には、突起が設けられており、前記フィルタに刺さった状態で溶け、前記フィルタと結合していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等に用いられる自動変速機用流体フィルタ装置及びその製造方法に関し、特に流体フィルタ装置のフィルタの上下ケースとフィルタの結合部の改良及び結合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に使用されている自動変速機用流体フィルタ装置は、上ケース、下ケース及びフィルタ(濾過材)を有し、フィルタは上ケース及び下ケースを組み合わせることにより画成される空所内に、両ケース間で挟持固定される構成である。この構成により、下ケースに設けられた流入口から流入された流体は、フィルタを通過することにより濾過され、上ケースに設けられた流出口より排出される。
【0003】また、フィルタの材料としては、ナイロンやポリエステル等の繊維からなるフェルト状をなすシート状のものが使用され、これを2つ折りにし袋状とし、上、下ケース間に装着され使用されている。
【0004】このような従来例である自動変速機用流体フィルタ装置の基本的な構成の例が図4及び図5に断面図で示されている。
【0005】まず、図4を参照しつつ一従来例について説明する。自動変速機用流体フィルタ装置102は、流出口106を有する上ケース103と、流入口105を有する下ケース104と、フィルタ110によって構成されている。そして、フィルタ110を上ケース103と下ケース104によって画成される空所111内に配置し、流入口105の縁部107及び上下ケース103、104の嵌合部108を加締めることによって固定していた。尚、縁部107において、フィルタ110を下ケース104とは別個の部材である鳩目等を用いて加締めることもあった。
【0006】しかしながら前記のような自動変速機用フィルタ装置を得るには、少なくとも下ケースを金属製にする必要があった。また、フィルタを固定するために、下ケースとは別個の部材である鳩目等が必要になることもあった。
【0007】そこで、上下ケースを合成樹脂製とし、上下ケース及びフィルタを溶着することによって固定する自動変速機用流体フィルタ装置の組立て方法が採用した別の従来例(例えば特開平4−321864)がある。図5はその構成を示している。尚、前述の従来例と同様に同一部材には同一符号が添付されている。
【0008】この従来例の構成は、図4に示されている従来例の構成と基本的には同じである。異なる部分は、フィルタ210の開口縁部207を下ケース204の流入口縁部217に溶着している点である。
【0009】図6は、流入口縁部217の上面である溶着面205aとフィルタ210の開口縁部207との溶着状態を示す拡大図である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】前記のように溶着によってフィルタが固定された自動変速機用流体フィルタ装置では、フィルタを固定するための余分な部品が不要となり、自動変速機用流体フィルタ装置を軽量化できるという点で大変優れたものである。しかしながら、フィルタのケースに対する引張り強度が弱いため、フィルタが外れてしまうという不具合を内在する。
【0011】そこで、本発明は上記の問題点を解決し、フィルタを固定するための余分な部品を必要とせず、自動変速機用流体フィルタ装置を軽量に保ったまま、フィルタとケースの結合力が強い自動変速機用流体フィルタ装置を得ることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明は、流出口を有する上ケースと、流入口を有する下ケースと、前記上下ケース間に画成される空所に配置されたフィルタとからなる自動変速機用流体フィルタ装置において、前記下ケースの該流入口部には、突起が設けられており、前記フィルタに刺さった状態で溶け、前記フィルタと結合していることを特徴とするものである。また、流出口を有する上ケースと、流入口を有する下ケースと、前記上下ケース間に画成される空所に配置されたフィルタとからなる自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法において、前記下ケースの流入口部に突起を設けることと、前記突起を、前記フィルタに刺し込むことと、その後前記突起を溶かして前記フィルタに結合させることとによって、自動変速機用流体フィルタ装置をつくることから成る自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の自動変速機用流体フィルタ装置は、フィルタを合成樹脂等といった可溶性を有する上ケースや下ケースに設けられた突起に刺し込み、突起を溶かすことによってフィルタを固定するものである。
【0014】前記フィルタは、ナイロン或いはポリエステル等の繊維からなるフェルト材或いはネット状の部材によって構成されるものである。
【0015】さらに、フィルタとケースの結合力を強くするため、前記上下ケースの一方又は両方の嵌合部に突起が設けられ、前記フィルタに刺さった状態で溶け、前記フィルタと結合する自動変速機用流体フィルタ装置とすることもできる。
【0016】本発明の自動変速機用流体フィルタ装置を得るには、まずフィルタをケースに固定した後、上下ケースを固定する、ことによる自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法である。
【0017】さらに、フィルタとケースの結合力を強い自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法として、前記上下ケースの一方または両方の嵌合部に突起を設けることと、前記突起を、前記フィルタに刺し込むことと、その後前記突起を溶かして前記フィルタに結合させることとによって、自動変速機用流体フィルタ装置をつくることから成る自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法がある。
【0018】
【実施例】以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。尚、図面において同一部分は同一符号で示してある。
【0019】図1は、本発明による自動変速機用流体フィルタ装置の基本的な構成の断面図である。この構成は前述した第2の従来例の構成とほぼ同じであり、自動変速機用流体フィルタ2は、流入口5を有する下ケース4と、流出口6を有する上ケース3とで濾過材すなわちフィルタ10を挟持して、フィルタ10を上ケース3と下ケース4とで画成する空所11内に保持している。
【0020】この構成により、自動変速機内のオイルパン(不図示)から吸い上げられ、下ケース4の流入口5より流入するオイルは、フィルタ10で金属粉やダスト等の不純物が濾過された後、空所11を介して流出口6から自動変速機(不図示)に向かって流出する。以下、自動変速機用流体フィルタ装置2の各構成要素について図を参照しつつ詳述する。
【0021】下ケース4は、一方が開口する箱形をなすとともに、その内側と外側とを導通させる流入口5が形成されている。また、上ケース3は、一方が開口する箱形をなすとともに、その内側と外側とを導通させる流出口6が形成されている。上ケース3の流出口6と下ケース4の流入口5とを対向させて結合することにより、上下ケース間にほぼ密閉された空所11が形成される。
【0022】また、フィルタ10は、所定の厚さを有するシート状であり、ナイロン或いはポリエステルからできたフェルト材の不織布である。尚、フィルタ10をフェルト材などの不織布で作る場合は、所定の剛性を得るため、例えば線状に加熱圧縮した部分を設けても良い。
【0023】このフィルタ10の開口部13を下ケース4の上部において流入口5の周縁部の溶着面5aに溶着させ、さらに、前記フィルタ10をその中央部で2つ折りにして上ケース9を被せて上下ケース3、4の周縁部を接合して上ケース3の周縁部と下ケース4の周縁部との間に2つ折りにしたシート状のフィルタ10の周縁部を挟持固定されている。
【0024】この構成において、下ケース4の流入口5よりATFオイル等の流体が流入すると、オイルは、フィルタ10で濾過されたのち上ケース3の流出口6より流出するようになっている。
【0025】以下に上下ケースとフィルタとの結合部分の構成について詳述する。図2は、フィルタ10の開口部周縁と下ケース4の流入口5の周縁部との溶着状態を示す部分断面図である。図2に示されているように、下ケース4の上面4aには上方向(図中)に突出する突起1が複数設けられ、フィルタ10に刺さった状態でフィルタとの溶着時に溶け、下ケース4の突起1がフィルタ10の繊維成分と結合することとなる。この構成により、下ケース4の流入口5縁部とフィルタ10の開口部13縁部の結合力が従来と比べ増加できる。
【0026】さらに、上下ケース3、4の周縁部9を接合し、上ケース3の周縁部と下ケース4の周縁部との間で挟持固定されている2つ折りにしたシート状のフィルタ10の周縁部の構成について、図3を参照しつつ詳述する
【0027】図3は、2つ折りにしたシート状のフィルタ10が上下ケース間で挟持固定された状態の結合部9の断面図である。上ケース3の下面3c及び下ケース4の上面4bにはそれぞれ、図中において下方向及び上方向に突出する複数の突起21が設けられている。
【0028】2つ折りのフィルタ10は、上ケース3と下ケース4に狭持されることにより、突起21がフィルタ10に刺さった状態で溶着され、突起21がフィルタ10の繊維成分と結合することとなる。この構成により、上下ケース3、4に対するフィルタ10の結合力は従来と比べ増加する。
【0029】また、フィルタをケースに溶着する方法としては、超音波溶着、高周波溶着等何れでも良く、要は、フィルタに突き刺さった状態でケースに設けられた突起が溶着さえできればよい。
【0030】尚、突起の数、形状および設置箇所は自動変速機用流体フィルタ装置の構造によって任意に設定することができる。
【0031】
【発明の効果】以上の構成によって、本発明によれば、ケースに設けられた突起が、フィルタに刺さった状態で溶け、フィルタに溶着されると、フィルタの繊維成分と結合するので、フィルタと上下ケース間の引張り強度を向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による自動変速機用流体フィルタ装置を示す概略断面図である。
【図2】本発明による自動変速機用流体フィルタ装置の流入口縁部の一部を拡大した部分断面図である。
【図3】本発明による自動変速機用流体フィルタ装置の嵌合部の一部を拡大した部分断面図である。
【図4】従来例である自動変速機用流体フィルタ装置を示す概略断面図である。
【図5】他の従来例である自動変速機用流体フィルタ装置を示す概略断面図である。
【図6】図5に示される自動変速機用流体フィルタ装置の流入口縁部の一部を拡大した部分断面図である。
【符号の説明】
1、21 突起
2 自動変速機用流体フィルタ装置
3 上ケース
4 下ケース
5 流入口
6 流出口
9 結合部
10 フィルタ
11 空所
13 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 流出口を有する上ケースと、流入口を有する下ケースと、前記上下ケース間に画成される空所に配置されたフィルタとからなる自動変速機用流体フィルタ装置において、前記下ケースの流入口部には、突起が設けられており、前記フィルタに刺さった状態で溶け、前記フィルタと結合していることを特徴とする自動変速機用流体フィルタ装置。
【請求項2】 前記上下ケースの一方の嵌合部に突起が設けられており、前記フィルタに刺さった状態で溶け、前記フィルタと結合している請求項1に記載の自動変速機用流体フィルタ装置。
【請求項3】 前記上下ケースの両方の嵌合部に突起が設けられており、前記フィルタに刺さった状態で溶け、前記フィルタと結合している請求項1に記載の自動変速機用流体フィルタ装置。
【請求項4】 前記上下ケースのうち、流入口部又は嵌合部に突起が設けられているものは、合成樹脂等の可溶性を有する部材からなる請求項1乃至3に記載の自動変速機用流体フィルタ装置。
【請求項5】 流出口を有する上ケースと、流入口を有する下ケースと、前記上下ケース間に画成される空所に配置されたフィルタとからなる自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法において、前記下ケースの流入口部に突起を設けることと、前記突起を、前記フィルタに刺し込むことと、その後前記突起を溶かして前記フィルタに結合させることとによって、自動変速機用流体フィルタ装置をつくることから成る自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法。
【請求項6】 さらに、前記上下ケースの一方または両方の嵌合部に突起を設けることと、前記突起を、前記フィルタに刺し込むことと、その後前記突起を溶かして前記フィルタに結合させることとによって、自動変速機用流体フィルタ装置をつくることから成る請求項5に記載の自動変速機用流体フィルタ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−218108(P2000−218108A)
【公開日】平成12年8月8日(2000.8.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−23761
【出願日】平成11年2月1日(1999.2.1)
【出願人】(000102784)エヌエスケー・ワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】