説明

自動搬送車システム及び搬送車

【課題】キャパシタ蓄電装置の利用可能な実エネルギー密度を高めると共に、搬送車の発車時に所望の電圧まで効率よく充電し、キャパシタの電力を無駄なく効率的に利用できるようにする。
【解決手段】予め設定された搬送ライン2と、搬送ライン2上に予め設定された複数の停車位置3と、停車位置3で充電を行う充電装置4と、キャパシタ蓄電装置11を搭載しキャパシタ蓄電装置11を動力源として駆動され搬送ライン上を走行し複数の停車位置3で順次停車して物品の搬送を行う搬送車1とを備え、キャパシタ蓄電装置11に対し、停車位置3に搬送車1が停車したときに充電装置4から第1の基準電圧まで充電を行い、発車するときに第2の基準電圧まで充電を行うことにより、次に充電を行う停車位置3までキャパシタ蓄電装置11を動力源として搬送車1を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送車が搬送ライン上を走行し複数の停車位置で順次停車して物品の搬送を行う自動搬送車システム及び搬送車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やOA機器、半導体、家電機器等の製造工場においては、組立、加工、製造等の作業対象となる製品や部品等の物品を所定の工程にしたがって搬送する自動搬送車(AGV:Automated Guided Vehicles)が用いられる。自動搬送車は、物品を積載する台車からなる車体と、この車体を各工程に従ってそれぞれの作業位置まで順次走行移動させるための走行駆動系及び操舵系を備えている。通常、それら走行駆動系には、駆動輪に連結した駆動用モータを備え、操舵系には、操舵用モータを備えて、動力源として充放電可能な蓄電池(バッテリ)を搭載して各モータを駆動し、自動搬送車を各作業位置に順次走行移動させている。
【0003】
走行駆動系及び操舵系は、例えば無線受信部やマイクロプロセッサ、インターフェース部、ドライブ部等を備えた制御装置により、無線信号を受けて制御指令に基づき制御される。自動搬送車は、その搬送ラインに誘導手段として例えば誘導線や磁気テープ、反射テープ等を配置し、適宜発行される指示や自動操縦プログラムにより所定の作業位置間を搬送区間として物品を搬送している(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
従来よりバッテリ搭載型の搬送車に関して種々の提案がなされている。それらは、例えば走行経路の一部に複数の分岐経路を設定して分岐経路毎に充電装置を設置し、稼働する充電装置の台数を最小限にすることで省エネ化を図るものである(例えば、特許文献3参照)。また、SOC(State Of Charge:充電状態)の浅いところで充放電を繰り返すと充電末期に電圧が上昇するメモリ効果を回避するため所定範囲のSOCになるように充放電を行うようにするものである(例えば、特許文献4参照)。さらには、ステーションに充電電源に接続された給電側回路結合手段を有し、搬送車がステーションに到着したとき、蓄電池に充電電力を供給するものがある(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
このように従来の自動搬送車の動力源は、鉛電池等の二次電池に貯められたエネルギーにより自走するものであった。周知の如く、鉛電池を急速に充電することは不可能で、仮に急速な充電を行ったとしても急速な電池の劣化につながる。したがって、自動搬送車が走行した後電池残量が低下すると、今までは、(a)充電済みの電池をすべて載せかえる、(b)充電済みの予備の自動搬送車と交換する、(c)多数設けられた充電処置ポイントで少しずつ充電する、などの処置が一般的であった。
【0006】
この場合、(a)は重たい電池を載せかえる作業にかかる時間とコストが問題になる。(b)は自動搬送車自体を余分に設備する必要があり、トータルコストに問題が出る。また、(c)は充電スタンドの設備費用にコストアップが生じラインのコースレイアウトにもある程度制限が生じる。しかも、従来の鉛電池等の二次電池は、大きいエネルギー密度を有するが、出力密度が小さいため頻繁な短時間での充電放電の繰り返しには不向きであるなど、従来のバッテリ搭載型の自動搬送車には種々の課題が存在した。この課題を解決するものとして、出力密度の大きなエネルギー貯蔵体である電気二重層キャパシタを採用し、電気二重層キャパシタ単独又は電気二重層キャパシタと二次電池を動力源に有する自動搬送車も提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】特開2007−148525号公報
【特許文献2】特開2007−38818号公報
【特許文献3】特開2006−48365号公報
【特許文献4】特開2003−9415号公報
【特許文献5】特開昭61−273133号公報
【特許文献6】特開平7−163016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動力源の電池部分に電気二重層キャパシタを用いると、それまでの二次電池では、例えば4時間かかっていた充電時間を1分に短縮することができ、また、長寿命なため、定期交換や保液等のメンテナンスの必要もなくなる。また、予備機の必要もないため、工場ライン全体でのコストダウンにつながる。
【0008】
しかし、自動搬送車システムにおいて、停車時間を短縮してラインの搬送効率を上げ、円滑な搬送、作業の効率化を進めるには、動力源であるキャパシタ蓄電装置のさらに小型、軽量化、充電の効率化が求められる。それには、キャパシタ蓄電装置において、搬送車の発車時までの充電効率を高め、小型、軽量化をしながらさらにエネルギー蓄積密度、利用効率を高めることである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであって、自動搬送車システムにおいて、キャパシタ蓄電装置の利用可能な実エネルギー密度を高めると共に、搬送車の発車時に所望の電圧まで効率よく速やかに充電し、キャパシタの電力を無駄なく効率的に利用できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために本発明に係る自動搬送車システムは、搬送車が搬送ライン上を走行し複数の停車位置で順次停車して物品の搬送を行う自動搬送車システムであって、予め設定された搬送ラインと、前記搬送ライン上に予め設定された複数の停車位置と、前記停車位置で充電を行う複数の充電装置と、キャパシタ蓄電装置を搭載し前記キャパシタ蓄電装置を動力源として駆動され前記搬送ライン上を走行し前記複数の停車位置で順次停車して物品の搬送を行う搬送車とを備え、前記キャパシタ蓄電装置に対し、前記停車位置に前記搬送車が停車したときに前記充電装置から第1の基準電圧まで充電を行い、発車するときに第2の基準電圧まで充電を行うことにより、次に充電を行う停車位置まで前記キャパシタ蓄電装置を動力源として前記搬送車を駆動することを特徴とする。
【0011】
また、予め設定された搬送ライン上を走行し複数の停車位置で順次停車して物品の搬送を行う搬送車として、キャパシタ蓄電装置と、駆動輪に連結され前記キャパシタ蓄電装置を動力源とする駆動モータと、停車位置で連結される充電装置から前記キャパシタ蓄電装置を充電する充電回路と、前記キャパシタ蓄電装置から前記駆動モータに放電する放電回路と、前記充電回路によるキャパシタ蓄電装置の充電及び前記放電回路によるキャパシタ蓄電装置の放電を制御する制御装置とを備え、前記制御装置が前記充電回路及び前記放電回路を制御することにより、前記キャパシタ蓄電装置に対し、前記停車位置に停車したときに前記充電装置から第1の基準電圧まで充電を行い、発車するときに第2の基準電圧まで充電を行い、次に充電を行う停車位置まで前記キャパシタ蓄電装置を動力源として駆動されるように構成したことを特徴とする。
【0012】
前記第1の基準電圧及び第2の基準電圧は、前記充電装置毎に当該充電装置から前記搬送車の制御装置に設定されることを特徴とし、あるいは前記第1の基準電圧及び第2の基準電圧は、前記充電装置のそれぞれに設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、キャパシタ蓄電装置に対して第1の基準電圧まで充電を行って待機させ、発車するとき、所謂スイングバック充電によりさらに上の第2の基準電圧まで充電を行うので、キャパシタ蓄電装置の利用可能な実エネルギー密度を高めると共に、所望の電圧までの充電時間の短縮、充電効率の向上を図ることができる。
【0014】
自動搬送車システムは、時間と工程の管理を集中的に行っているのが一般的で、いつどこにどんな部品を運ぶかが予め分かっている場合が多い。これは、搬送車がいつどんなタイミングで動き出すかが明確だということである。キャパシタ蓄電装置の蓄電エネルギー量は搭載しているキャパシタ蓄電装置の充電電圧と静電容量で決定してしまうが、短時間であれば定格を越えた電圧を充電することは可能である。搬送車の充電設備に、走行管理プログラムをリンクさせ、走り出す数秒〜数十秒前にスイングバック電圧まで追加充電を行い走行させることで走行時間の長時間化が容易に行える。
【0015】
ラインのコンベアを排除し、搬送車のまま工程を移動する工場ラインシステムが実用化されつつある。多数の搬送車がコンベア的に移動する中でどれか一つが停止してしまった場合、ライン全体が止まってしまう課題を残しており、停止する原因の一つとして、電池不良や完全放電がある。キャパシタ蓄電装置を動力源とすることで工程ごとに完全充電を施すことができ24時間稼動を実現できる。またスイングバック方式を適用することでさらに稼動時間を長くすることができ、工程の安定化やシステムコストの削減に寄与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明に係る自動搬送車システムの実施の形態を説明する図、図2はキャパシタ蓄電装置を搭載した搬送車の構成概要を説明する図、図3は搬送車の速度プロファイル及びキャパシタ蓄電装置の電圧プロファイルの例を示す図である。図中、1、1a 、1b 、1c 、1i は搬送車、2は搬送ライン、31 〜33 、3i 、3n は停車位置、41 〜43 、4i は充電装置、5、51 〜53 、5i は充電ライン、11はキャパシタ蓄電装置、12は充電回路、13は放電回路、14は制御装置、15は駆動モータ、16は駆動輪を示す。
【0017】
図1において、搬送車1a 、1b 、1c 、1i は、物品を積載する車両であり、キャパシタ蓄電装置を搭載してそのキャパシタ蓄電装置を動力源として自走し、予め設定された搬送ライン2を走行する。搬送ライン2は、誘導手段として例えば誘導線や磁気テープ、反射テープ等を配置し、所定の作業位置間を搬送区間として物品を搬送するラインである。停車位置31 〜33 、3i 、3n は、その搬送ライン2上に予め設定され、搬送車1a 、1b 、1c 、1i が停車して、物品の積み卸しや積載した製品や部品の組立、加工、溶接、製造、梱包等の作業、処理、待機を行う位置である。充電装置41 〜43 、4i は、停車位置31 〜33 、3i に配置され、停車中(待機中)の搬送車1a 、1b 、1c のキャパシタ蓄電装置に連結する充電ライン51 〜53 を通して充電を行うものである。
【0018】
搬送車1は、例えば図2に示すように動力源としてキャパシタ蓄電装置11が搭載される。そして、このキャパシタ蓄電装置11を充電する充電回路12、駆動輪16に連結される駆動モータ15、キャパシタ蓄電装置11から駆動モータ15に放電する放電回路13、充電回路12及び放電回路13を制御することによりキャパシタ蓄電装置11の充放電、搬送車1の駆動制御を行う制御装置14を備えている。
【0019】
キャパシタ蓄電装置11は、例えば電気二重層キャパシタ、ナノゲートキャパシタなどを用いて構成され、複数個のキャパシタを直並列に接続することによって、短時間の大電流放電、大電力の供給を可能にするものである。キャパシタ蓄電装置11は、搬送ライン上の停車位置において充電ライン5を介して充電装置4と連結されて充電され、放電回路13を通し放電され、駆動輪14に連結した駆動モータ13を駆動する。充電回路12は、充電装置4或いは駆動モータ15の回生電力を電源として、これらの電源からキャパシタ蓄電装置11を充電する回路であり、放電回路13は、駆動モータ15に対する給電要求に応じてキャパシタ蓄電装置11から蓄電された電力を放電するものである。
【0020】
制御装置14は、指令信号に基づき充電回路12、充電装置4を制御することにより、キャパシタ蓄電装置11の充放電を制御し搬送車1の発車、停車を制御するものである。そのために制御装置14は、キャパシタ蓄電装置11、駆動モータ15の構成、要求される制御の内容によって、適宜キャパシタ蓄電装置11の充放電電流、充電電圧、温度などの検出信号、駆動モータ15の端子電圧、負荷電流(放電電流、回生電流)などの検出信号、その他充電回路12、放電回路13の制御に必要な検出信号を入力する。そして、制御装置14においては、第1の基準電圧と第2の基準電圧を設定して搬送車1の停車時と発車時に応じてキャパシタ蓄電装置11の充電レベルを制御している。本実施形態においては、第1の基準電圧を待機電圧Echとし、第2の基準電圧を尖頭電圧Ecpとしている。第1の基準電圧として、尖頭電圧Ecpより低い待機電圧Echが設定される。
【0021】
次に、例えば搬送車1が停車位置31 をt2時に発車して停車位置32 まで図3(a)に示すt2〜t5の速度プロファイルで走行し、停車位置32 からt7〜の速度プロファイルで走行するときのキャパシタ蓄電装置11の電圧プロファイルについて説明する。まず、搬送車1がt2時に発車するため、キャパシタ蓄電装置11は、図3(b)に示すようにt1時以前から少なくとも停車位置32 までの走行に必要な所定の電力を蓄電する充電が行われる。搬送車1がt2時に発車すると、t3時まで加速走行のため急速な放電が行われるが、その後t4時まで力行に移行することで緩やかな放電になる。そして、t4時から減速域に入るとt5時まで回生電力により充電が行われる。その間のキャパシタ蓄電装置11の充放電に伴う電圧の推移が概略図3(b)のt1〜t4にプロファイルとして示されている。
【0022】
停車位置32 に停車すると、ここでは、次に発車するまでのt5〜t7の間に、キャパシタ蓄電装置11に対して、まず、第1の基準電圧Echまで充電を行って(t5〜t6)待機する。そして、t7の発車時にさらに第2の基準電圧Ecpまで充電を行ってから、搬送車1の走行(加速ー力行)を開始する。
【0023】
キャパシタ蓄電装置11は、t1〜t2に示すように発車時に所定の電圧まで充電を行ってもよいが、本実施形態では、t5〜t7に示すように一旦第1の基準電圧Echまで充電を行って待機し発車時にさらに第2の基準電圧Ecpまで充電を行ってから放電に移行して発車させている。
【0024】
自動搬送車システムは、その使用目的によって、停車位置31 〜34 が等間隔であるものや等間隔ではないもの、搬送車1に積載する物品の重量が変動しないものや、停車位置31 〜34 で逐次変動するものがある。また、搬送車1が一定の加減速度と定速度域からなる1パターンの速度プロファイルからなるものや走行距離や積載重量の変化に応じて速度プロファイルを変えるもの、各停車位置31 〜34 の停車時間がほぼ一定しているものや停車位置31 〜34 によって停車時間が異なるものなどがある。本実施形態では、これらの使用目的に応じた各走行区間の走行に必要な電力のうち最大電力Wmax が蓄電が可能な静電容量Cのキャパシタ蓄電装置11が搭載される。
【0025】
キャパシタ蓄電装置11において、図3(b)に示す電圧EL が放電可能な下限の電圧(放電下限電圧)とし、電圧EU が充電可能な上限の電圧(充電上限電圧)とすると、静電容量Cでの最大蓄電量Qは、Q=CEU 2 /2であり、放電可能な蓄電量Q′は、Q′=C(EU 2 −EL 2 )/2である。本実施形態の搬送車両1では、このQ′が各走行区間の走行に必要な電力のうち最大電力Wmax より大きくなる静電容量Cのキャパシタ蓄電装置11が必要となる。
【0026】
駆動用の電源として二次電池を搬送車1に搭載し充電して走行搬送する場合、二次電池の充電には数時間を必要とする。そのため、二次電池を搬送ライン2の中間にある停車位置で充電を行いながら使おうとすると、数時間の停車時間が必要になり、使用目的が大きく制限される。また、搬送ライン2の中間にある停車位置で充電をせずに、始めの充電により搬送ライン2の最後まで走行搬送するには、大容量の二次電池を搭載しなければならない。大容量の二次電池を搭載することはまた、搬送車1の重量を大きくして搬送走行において無駄な電力をそれだけ多く消費することになる。
【0027】
本実施形態の自動搬送車システムにおいては、駆動用の電源としてキャパシタ蓄電装置11を搬送車1に搭載し、一旦待機電圧のレベルまで充電しておき、発車時にスイングバック充電するため、数秒〜数十秒以内に充電を行うことができる。したがって、ほとんどの使用目的に対応して搬送ライン2での搬送行程に遅れを生じることなく、搬送ライン2の中間にある停車位置で適宜に充電を行うことができる。このことにより、搬送車1に搭載する駆動用の電源を小型、軽量化することができ、無駄な電力の消費を低減することもできる。また、蓄電容量を考慮した稼働時間など長さに関係なく搬送ライン2を設定することができ、予備として用意する搬送車1の台数も減らし、搬送車1を特別の充電ステーションで充電する必要もなく、長時間連続して搬送ライン2上を走行させ稼働させることができる。
【0028】
キャパシタ蓄電装置11の充電電圧Ec は、待機電圧Echの充電状態に維持され、その後は、自己放電により充電電圧の低下があっても充電を停止したまま放置してもよいし、充電回路12を通して充電装置4からフロートモードでキャパシタ蓄電装置11を充電して設定電圧に維持するように制御装置14が充電回路12を制御してもよい。本実施形態では、キャパシタ蓄電装置11に対し、搬送車1が発車するまでは、準備状態として、充電電圧Ec を一定の水準の待機電圧Ech以下に保持して待機し、尖頭電圧Ecpをスイングバック定格として搬送車1が発車時に充電電圧Ec を尖頭電圧Ecpまで急速充電してから駆動モータ15に放電を開始して搬送車1を駆動する。
【0029】
このことにより、キャパシタ蓄電装置11は、最大出力時の尖頭電圧Ecpに充電されたまま長時間保持されることがなくなる。つまり、搬送車1が発車するまでの時間放置される準備状態では、尖頭電圧Ecpより低い待機電圧Ech以下でキャパシタ蓄電装置11の充電電圧を保持する。このことにより、キャパシタ蓄電装置11は、準備状態で高い充電電圧に放置され性能劣化が進むのを防ぐことができる。しかも、搬送車1が発車する時には、完全な放電状態ではなく、待機電圧Echから急速充電するので、起動時間を短縮することができる。また、尖頭電圧Ecpまで充電電圧を高めることにより、待機電圧Echに比べ蓄電量を大幅に増大させることができ、構成するキャパシタの使用数量を減らすことができる。そのことは、より蓄電密度を高め電源の小型、軽量、コンパクト化を図ることができ、キャパシタ蓄電装置11の利用効率の大幅な向上を図ることができる。
【0030】
図4は制御装置による搬送車の停車時の充電処理と発車時の充電処理の例を説明する図である。本実施形態における制御装置14による搬送車の停車時の充電処理では、まず、図4(a)に示すように例えば搬送車1が停車位置に到着したか否かを監視する(ステップS11)。搬送車1が停車位置に到着すると、充電回路12を制御して充電装置4からキャパシタ蓄電装置11に充電を開始する(ステップS12)。次に、キャパシタ蓄電装置11の充電電圧Ec を読み込み(ステップS13)、充電電圧Ec が待機電圧Echに達したか否かを判定する(ステップS14)。充電電圧Ec が待機電圧Echに達すると充電回路12を制御して充電を停止する(ステップS15)。
【0031】
また、制御装置14による搬送車の発車時の充電処理では、図4(b)に示すように例えば搬送車1の発車指令を監視する(ステップS21)。搬送車1の発車指令ができる、充電回路12を制御して充電装置4からキャパシタ蓄電装置11に充電を開始する(ステップS22)。そして、キャパシタ蓄電装置11の充電電圧Ec を読み込み(ステップS23)、充電電圧Ec が尖頭電圧Ecpに達したか否かを判定する(ステップS24)。充電電圧Ec が尖頭電圧Ecpに達すると充電回路12を制御して充電を停止し(ステップS25)、放電回路13を制御して放電を開始し、所望の加速走行に必要な電力を駆動モータ15に給電する(ステップS26)。
【0032】
さらに、キャパシタ蓄電装置について説明する。まず、キャパシタ蓄電装置の一般的な設計仕様、特性について説明する。図5はキャパシタ設計仕様データの構成例を示す図、図6は電圧と劣化特性との関係を説明する図である。
【0033】
キャパシタ設計仕様データは、例えば図5に示すモジュール電圧eM 、セル直列数NS 、モジュール静電容量CM 、モジュール内部抵抗rM 、モジュール直列数NMS、並列数NMP、バンク電圧eB (満充電時の電圧eBf)、バンク静電容量CB 、バンク内部抵抗rB 、モジュール数NM 等の定格仕様を含む、所謂キャパシタ蓄電装置の設計仕様データである。モジュールは、所定数のセルを直列接続したキャパシタ蓄電装置の基本構成単位であり、バンクは、複数個のモジュールを直列接続し、さらにそれらを並列接続してキャパシタ蓄電装置を構成するものである。
【0034】
例えば2.5(V)のセルを20個直列接続してモジュール電圧eM が50(V)のモジュールが構成される。このモジュールを基本構成単位とすると、負荷の使用(開始)電圧eL が650(V)である場合には、13個のモジュールを直列接続するものとして並列数1のバンクが選択、設定される。つまり、モジュール直列数NMSが13、満充電時のバンク電圧(eBf)が650(V)のバンク構成にすることで、バンク静電容量CB はCM /13、バンク内部抵抗rB は13×rM により求められる。並列数NMPが1から2にになれば、それに応じて新たなバンク静電容量CB が2倍、バンク内部抵抗rB が2分の1、モジュール数NM が2倍になる。このようにバンクに関する定格仕様の値は、バンク電圧が決まると共に他の値も決まる。
【0035】
キャパシタの容量Cを少しでも大きく、利用できる蓄電量q(=CE2 /2)を多く、自己放電を最小にすることが求められている。しかし、これらはキャパシタに本質的なものとして、その性能向上を待つほかにないとのいうのが通常の認識である。キャパシタは、静電容量Cが使用により当初の100%から経時的に何%の劣化があるか、その劣化度Dを指標にすると、劣化度Dは、図6に示すように時間tの平方根√tに比例する。しかも、その劣化の程度は、電圧Ech、Ecp(>Ech)によって変化し、同じ劣化度Dの劣化に要する時間tは電圧差ΔEに比例して電圧が低くなるほど長くなる(例えば、特許第3969736号公報参照)。
【0036】
キャパシタの電圧Echにおける劣化度DEhは時間tEhの平方根に比例することから、劣化係数αEhは、
〔数1〕
αEh=DEh/√tEh
により求められる。ここで、劣化係数αEhは、電圧Echにおいて劣化度DEhの劣化に時間tEhを要するという係数になる。いま、劣化度Dr を固定値に設定すると、それぞれの電圧Es 、Er においてその劣化度Dr の劣化に要する時間tEsr 、tErr より電圧Ex に関する値が求められる。すなわち、同じ劣化度の劣化に要する時間は電圧差の関数になることから、電圧Ex における劣化度Dr の劣化に要する時間tExr は、
〔数2〕
Exr =λEr(Vr-Vx)/Vint×tErr
ここで、λEr=tEsr /tErr :劣化時間の倍率
int =Er −Es :電圧差
となる。その結果、電圧Ex における劣化係数αExは、
〔数3〕
αEx=Dr /√tExr
により求められる。
【0037】
従来のキャパシタ蓄電装置は、負荷の使用(開始)電圧eL に対応する満充電時のバンク電圧(eBf)のバンク構成が選定される。この満充電時のバンク電圧(eBf)は、その充電状態で所定の劣化度、例えば80%の劣化に要する時間以上の寿命を有する、つまりフロート定格電圧である。尖頭電圧Ecpは、負荷の使用(開始)電圧eL に相当するので、従来のキャパシタ蓄電装置では、満充電時のバンク電圧(eBf)が尖頭電圧Ecpとなるキャパシタ蓄電装置が選定される。
【0038】
しかし、本実施形態では、待機電圧Echを設定して放電開始直前に尖頭電圧Ecpまでスイングバック充電することにより、満充電時のバンク電圧(eBf)が待機電圧Echとなるキャパシタ蓄電装置を選定することができる。それは、尖頭電圧Ecpの充電状態が短時間となるため、その間の充電状態によるキャパシタ蓄電装置の性能劣化、影響を低く抑えることができるからである。
【0039】
本実施形態において、設計仕様である満充電時のバンク電圧(eBf)を待機電圧Echとして、尖頭電圧Ecpまでスイングバック充電する場合、尖頭電圧Ecpの劣化特性は、図6により説明した電圧と劣化特性との関係には当てはまらない。それは、図6に示す特性は、その電圧の充電状態が維持されたフロートモードにおける劣化であり、すぐ放電される一時的な電圧の充電状態に対する特性ではないからである。本実施形態のスイングバック充電される、所謂スイングバック定格電圧としての尖頭電圧Ecpは、例えば次のようにして選定される。
【0040】
尖頭電圧Ecpを選定するための試験では、サイクルモード寿命試験により、例えば負荷5の運転インターバルに相当する所定の繰り返し周期でキャパシタ蓄電装置の充電電圧をパルス状に急速充放電したとき、性能劣化が所定の範囲内となる電圧を求める。このパルス状の急速充放電試験を待機電圧Echから徐々に電圧を上げながら繰り返し行うと、性能劣化の進行が大きくなる電圧を見出すことができる。この変化点となる電圧以下の電圧を尖頭電圧Ecpとして選定することができる。これは、キャパシタ内の不純物が電気分解により蓄積して劣化を始める電圧に相当し、キャパシタに依存する値である。
【0041】
例えば2.7Vのフロート定格電圧の電気二重層キャパシタでは、2.7Vの待機電圧Echに対して3V程度を尖頭電圧Ecpとすることができる。これに対し、2.9Vのフロート定格電圧のナノゲートキャパシタでは、2.9Vの待機電圧Echに対して3.7V程度を尖頭電圧Ecpとすることができる。勿論これ以下の電圧で待機電圧Echより高い電圧であれば本実施形態の発明の効果は得られる。
【0042】
図7はキャパシタの充放電特性と電圧との関係を説明する図である。キャパシタは、充電電圧を高電圧まで上げることにより静電容量に増す傾向が観られる。それは、例えば図7に示すように待機電圧Echから電圧0Vまでの放電時間ΔtとΔt′(>Δt)に差によって観察できる。図7に示す充放電特性は、キャパシタを待機電圧Echまで定電流充電し、緩和充電(フロートモード)の後、定電流放電をした特性と同様に尖頭電圧Ecpまで定電流充電したときのものである。
【0043】
また、エネルギー密度を試算すると、2.9Vの待機電圧Ech、つまり満充電時のバンク電圧(eBf)を3.7Vまでスイングバック充電して蓄電すると、約1.3倍に電圧を上げることによりエネルギー密度を1.6倍まで上げることができる。充電時間では、0Vから3.7Vまでの定電流による標準充電時間を60秒とすると、2.9Vから3.7Vまでの充電時間は約13秒になり、大幅な充電時間の短縮となる。
【0044】
このように本実施形態では、使用の直前に充電し直ちに放電するので、比較的高電圧まで上げてもキャパシタの寿命への影響を少なくして実効蓄電出力を増大させることができる。また、高電圧まで充電すれば、キャパシタの漏れ電流による自己放電が増大するのは当然であるが、待機時は尖頭電圧Ecpより低い待機電圧Echにとどめるので、自己放電をむしろ減少させることができる。しかも、自己放電により減少した電荷は使用の直前にスイングバック充電により埋め戻されるで、実質的に自己放電の影響は無視できる。したがって、小型、コンパクトにして大容量化したキャパシタ蓄電装置が実現でき、必要以上の設計仕様の容量に選定することによる無駄をなくすことができる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば上記実施の形態では、各停車位置毎に充電装置を設置する例で説明したが、キャパシタ蓄電装置11の容量や各走行区間に必要な電力に応じ、複数の走行区間で1つの充電装置を設置するような構成であってもよい。また、搬送車の制御装置において、第1の基準電圧と第2の基準電圧を設定してこれらの基準電圧までの待機充電とスイングバック充電を行うようにしたが、第1の基準電圧と第2の基準電圧は、それぞれキャパシタ蓄電装置11の設計値として設定された固定値であってもよいし、各停車位置において充電装置4より設定してもよい。
【0046】
この場合、その停車位置から次の充電装置のある停車位置までの搬送車の走行に必要な負荷電力に応じて第2の基準電圧を設定してもよいし、第1の基準電圧も第2の基準電圧と同様に充電装置毎に設定してもよい。このようにすることにより、次の充電装置のある停車位置までの搬送車の走行に必要な負荷電力が少なくてよいときに充電の無駄をなくすことができ、その充電装置の容量を小さくすることができる。また、第1の基準電圧を第2の基準電圧に連動させることにより、常に一定のスイングバック充電にすることができ、発車時の充電時間のバラツキをなくし、発車時のタイミング制御を簡便にすることができる。
【0047】
また、それぞれの停車位置の充電装置側において、第1の基準電圧と第2の基準電圧を設定して充電装置側の充電電圧の監視のもとに待機充電とスイングバック充電を行うようにしてもよい。このことにより、搬送ラインに応じて各充電装置側を設計して搬送車側の制御装置の負荷を軽減することができ、搬送車の汎用性を高めることができる。これら搬送車の発車、停止、走行の加減速度、力行速度の制御、キャパシタ蓄電装置の充電制御、各基準値の設定などは、例えば図示しないホストシステムで稼働プログラムやスケジュールと共に時間管理され、有線、無線で充電装置や搬送車に対して行われるようになる。
【0048】
さらに、電気二重層キャパシタ、ナノゲートキャパシタを具体的な数値で示したが、設計仕様の異なる各種のキャパシタにも同様に適用できることは勿論である。また、待機電圧Echは、満充電時のバンク電圧(eBf)に相当する電圧として説明したが、公称定格電圧や最高充電電圧、使用電圧などに相当する電圧或いはそれ以下の電圧とし、尖頭電圧Ecpは、それより高い電圧として性能劣化が著しくならない電圧を適宜選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る自動搬送車システムの実施の形態を説明する図。
【図2】キャパシタ蓄電装置を搭載した搬送車の構成概要を説明する図。
【図3】搬送車の速度プロファイル及びキャパシタ蓄電装置の電圧プロファイルの例を示す図。
【図4】制御装置による搬送車の停車時の充電処理と発車時の充電処理の例を説明する図。
【図5】キャパシタ設計仕様データの構成例を示す図。
【図6】電圧と劣化特性との関係を説明する図。
【図7】キャパシタの充放電特性と電圧との関係を説明する図。
【符号の説明】
【0050】
1、1a 、1b 、1c 、1i …搬送車、2…搬送ライン、31 〜33 、3i 、3n …停車位置、41 〜43 、4i …充電装置、5、51 〜53 、5i …充電ライン、11…キャパシタ蓄電装置、12…充電回路、13…放電回路、14…制御装置、15…駆動モータ、16…駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送車が搬送ライン上を走行し複数の停車位置で順次停車して物品の搬送を行う自動搬送車システムであって、
予め設定された搬送ラインと、
前記搬送ライン上に予め設定された複数の停車位置と、
前記停車位置で充電を行う複数の充電装置と、
キャパシタ蓄電装置を搭載し前記キャパシタ蓄電装置を動力源として駆動され前記搬送ライン上を走行し前記複数の停車位置で順次停車して物品の搬送を行う搬送車と
を備え、前記キャパシタ蓄電装置に対し、前記停車位置に前記搬送車が停車したときに前記充電装置から第1の基準電圧まで充電を行い、発車するときに第2の基準電圧まで充電を行うことにより、次に充電を行う停車位置まで前記キャパシタ蓄電装置を動力源として前記搬送車を駆動することを特徴とする自動搬送車システム。
【請求項2】
前記第1の基準電圧及び第2の基準電圧は、前記充電装置のそれぞれに設定されることを特徴とする請求項1記載の自動搬送車システム。
【請求項3】
予め設定された搬送ライン上を走行し複数の停車位置で順次停車して物品の搬送を行う搬送車であって、
キャパシタ蓄電装置と、
駆動輪に連結され前記キャパシタ蓄電装置を動力源とする駆動モータと、
停車位置で連結される充電装置から前記キャパシタ蓄電装置を充電する充電回路と、
前記キャパシタ蓄電装置から前記駆動モータに放電する放電回路と、
前記充電回路によるキャパシタ蓄電装置の充電及び前記放電回路によるキャパシタ蓄電装置の放電を制御する制御装置と
を備え、前記制御装置が前記充電回路及び前記放電回路を制御することにより、前記キャパシタ蓄電装置に対し、前記停車位置に停車したときに前記充電装置から第1の基準電圧まで充電を行い、発車するときに第2の基準電圧まで充電を行い、次に充電を行う停車位置まで前記キャパシタ蓄電装置を動力源として駆動されるように構成したことを特徴とする搬送車。
【請求項4】
前記第1の基準電圧及び第2の基準電圧は、前記充電装置毎に当該充電装置から前記搬送車の制御装置に設定されることを特徴とする請求項1記載の自動搬送車システム又は請求3記載の搬送車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−225491(P2009−225491A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63965(P2008−63965)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(393013560)株式会社パワーシステム (127)
【Fターム(参考)】