説明

自動車のサイドシル構造

【課題】重量の増加を最小限に抑えながらサイドシルの後部の剛性を高める。
【解決手段】サイドシルの後部において、相互に結合されて閉断面を構成するサイドシル補強部材23およびおよびジャッキアッププレート24の内部にバルクヘッド26を結合し、かつバルクヘッド26の後方でサイドシル補強部材23およびジャッキアッププレート24にホイールアーチエクステンション25を結合することで、サイドシル補強部材23、ジャッキアッププレート24、バルクヘッド26およびホイールアーチエクステンション25によりボックス構造を構成するので、そのボックス構造によってサイドシルの後部の剛性を高めて側面衝突時の衝撃吸収性能を高めることができる。しかもバルクヘッド26を追加するだけで済むために重量の増加を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体側面下部に前後方向に配置されるサイドシルが、車体外側に位置するアウターパネルと車体内側に位置するインナーパネルとの間に挟持された断面溝型のサイドシル補強部材を備える自動車のサイドシル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のサイドシルをサイドシルアウターパネルとサイドシルインナーパネルとを結合して閉断面に構成し、サイドシルの後部においてサイドシルアウターパネルとサイドシルインナーパネルとの間にビード部を有するコーナープレートを挟持して補強することで、側面衝突時の衝撃吸収性能を高めるものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
また自動車のサイドシルのアウターパネルの後端とホイールハウス部の前端とを補強部材を介して結合することで、側面衝突時の衝撃吸収性能を高めるものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−125655号公報
【特許文献2】特開2009−29323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車の後部側面に衝突荷重が入力したとき、サイドシルの後部の剛性を高めることで衝撃吸収性能を確保することが可能であるが、上記従来のものではサイドシルの後部の剛性を充分に高めることは難しく、更なる剛性の向上が望まれる。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、重量の増加を最小限に抑えながらサイドシルの後部の剛性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、自動車の車体側面下部に前後方向に配置されるサイドシルが、車体外側に位置するアウターパネルと車体内側に位置するインナーパネルとの間に挟持された断面溝型のサイドシル補強部材を備える自動車のサイドシル構造において、前記サイドシルの後部において、前記アウターパネルおよび前記インナーパネル間に挟持されたジャッキアッププレートと前記サイドシル補強部材とを結合して閉断面を構成し、前記サイドシル補強部材および前記ジャッキアッププレートの内部にバルクヘッドを結合し、かつ前記バルクヘッドの後方で前記サイドシル補強部材および前記ジャッキアッププレートにホイールアーチエクステンションに結合することで、前記サイドシル補強部材、前記ジャッキアッププレート、前記バルクヘッドおよび前記ホイールアーチエクステンションによりボックス構造を構成することを特徴とする自動車のサイドシル構造が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記バルクヘッドは、上縁、下縁、車体外側縁および車体内側縁で前記サイドシル補強部材および前記ジャッキアッププレートに結合されることを特徴とするサイドシル構造が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記バルクヘッドの車体内側縁は前記ジャッキアッププレートに結合される内側フランジを備え、前記内側フランジは前記バルクヘッドの本体部との間に鈍角を成して屈曲することを特徴とする自動車のサイドシル構造が提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記インナーパネルの後端に連なるリヤフレームを備え、前記ジャッキアッププレートは前記リヤフレームに結合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造が提案される。
【0011】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記サイドシル補強部材は前部サイドシル補強部材および後部サイドシル補強部材を結合して構成され、前記ジャッキアッププレートは前記後部サイドシル補強部材に結合されることを特徴とする自動車のサイドシル構造が提案される。
【0012】
尚、本願発明の前部サイドシル補強部材22および後部サイドシル補強部材23は本発明のサイドシル補強部材に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、自動車の車体側面下部に前後方向に配置されるサイドシルが、車体外側に位置するアウターパネルと車体内側に位置するインナーパネルとの間に挟持された断面溝型のサイドシル補強部材を備えており、サイドシルの後部において、アウターパネルおよびインナーパネル間に挟持されたジャッキアッププレートとサイドシル補強部材とが結合されて閉断面を構成する。サイドシル補強部材およびジャッキアッププレートの内部にバルクヘッドを結合し、かつバルクヘッドの後方でサイドシル補強部材およびジャッキアッププレートにホイールアーチエクステンションを結合することで、サイドシル補強部材、ジャッキアッププレート、バルクヘッドおよびホイールアーチエクステンションによりボックス構造を構成するので、そのボックス構造によってサイドシルの後部の剛性を高めて側面衝突時の衝撃吸収性能を高めることができる。しかもバルクヘッドを追加するだけで済むために重量の増加を最小限に抑えることができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、バルクヘッドは、上縁、下縁、車体外側縁および車体内側縁でサイドシル補強部材およびジャッキアッププレートに結合されるので、前記ボックス構造を一層強固なものとすることができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、バルクヘッドの車体内側縁に設けられてジャッキアッププレートに結合される内側フランジがバルクヘッドの本体部との間に鈍角を成して屈曲するので、内側フランジがバルクヘッドの本体部に対して直角に屈曲する場合に比べて、ジャッキアッププレートおよび内側フランジ間に隙間が発生し難くして寸法誤差を容易に吸収することができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、インナーパネルの後端に連なるリヤフレームにジャッキアッププレートを結合したので、ジャッキアッププレートの周辺の車体剛性を更に高めることができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、サイドシル補強部材は前部サイドシル補強部材および後部サイドシル補強部材を結合して構成されるので、ジャッキアッププレートを後部サイドシル補強部材に結合する際に、後部サイドシル補強部材の長さが短くなる分だけ作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アウターパネルを取り除いた状態での車体の左側面図。
【図2】図1の2部拡大図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図2の4−4線断面図。
【図5】図2の5方向矢視図。
【図6】図3の6方向矢視図。
【図7】ジャッキアッププレートおよびホイールハウスエクステンションの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は、5ドアのハッチバック型の自動車の左側面の前部ドア開口11および後部ドア開口12を囲む部分の側面図であって、最も手前側に位置するアウターパネル13(鎖線参照)を取り除いた状態を示している。車体の左側面は、前部ドア開口11および後部ドア開口12の下側に沿って車体前後方向に延びるサイドシル14と、前部ドア開口11および後部ドア開口12の上側に沿って車体前後方向に延びるルーフサイドレール15と、サイドシル14およびルーフサイドレール15の前端間を接続するフロントピラー16と、サイドシル14およびルーフサイドレール15の前後方向中間部間を接続するセンターピラー17と、サイドシル14およびルーフサイドレール15の後端間を接続するリヤピラー18およびリヤホイールハウス19とで構成される。
【0021】
図2〜図6に示すように、サイドシル14は、車体内側に開放する溝型断面のアウターパネル13(図3および図4参照)の上下のフランジ部13a,13bと、車体外側に開放する溝型断面のインナーパネル20の上側および下側のフランジ部20a,20bとを結合して閉断面に構成される。サイドシル14の後端近傍において、インナーパネル20の後部に車体外側に開放する溝型断面のリヤフレーム21(図3および図6参照)が結合され、そのリヤフレーム21は後方側が車体内側に向けて湾曲する。インナーパネル20およびリヤフレーム21の結合部aは、図3および図6に示されている。
【0022】
サイドシル14のアウターパネル13およびインナーパネル20の間に、車体内側に開放する溝型断面の前部サイドシル補強部材22および後部サイドシル補強部材23が挟まれる。前部サイドシル補強部材22および後部サイドシル補強部材23の結合部bは、後部ドア開口12の前部に位置している(図2参照)。
【0023】
サイドシル14の後端部近傍において、後部サイドシル補強部材23とリヤフレーム21との間にジャッキアッププレート24が挟まれる。概ね平板状のジャッキアッププレート24は他の板材よりも厚くて剛性の高い部材であって、車体をジャッキアップする際にジャッキによって支持されるジャッキアップポイント24a(図2および図5参照)を備えている。
【0024】
図7に示すように、ジャッキアッププレート24の後縁の外面にホイールハウスエクステンション25の前部に設けた内側フランジ25aの内面が重ね合わされて溶接w1され、かつジャッキアッププレート24の上端の外面にホイールハウスエクステンション25の前縁の内面が重ね合わされて溶接w2される。
【0025】
図4および図5に示すように、ジャッキアッププレート24の下縁は、アウターパネル13の下側のフランジ部13bと、後部サイドシル補強部材23の下側のフランジ部23bと、リヤフレーム21の下側のフランジ部21bとに4枚重ねで重ね合わされて溶接w3され、ジャッキアッププレート24の上部は、アウターパネル13の上側のフランジ部13aと、リヤフレーム21の上側のフランジ部21aとに3枚重ねで重ね合わされて溶接w4される。また後部サイドシル補強部材23の上側のフランジ部23aは、ジャッキアッププレート24の外面に重ね合わされて溶接w5される。
【0026】
図5に示すように、後部サイドシル補強部材23の前部では、ジャッキアッププレート24が存在しないため、その上側のフランジ部23aはアウターパネル13の上側のフランジ部13a(図5では不図示)とリヤフレーム21の上側のフランジ部21aとに重ね合わされて溶接w6されるとともに、その下側のフランジ部23bはアウターパネル13の下側のフランジ部13b(図5では不図示)とリヤフレーム21の下側のフランジ部21bとに重ね合わされて溶接w7される。また後部サイドシル補強部材23の後端に設けたフランジ部23cの内面は、ホイールハウスエクステンション25の外側フランジ25bの外面に重ね合わされて溶接w8される(図5参照)。
【0027】
図3〜図6から明らかなように、溝型断面を有する後部サイドシル補強部材23と平板状のジャッキアッププレート24とによって囲まれた四角筒状部分の内部に、車体前後方向を向く板状のバルクヘッド26が配置される。バルクヘッド26の本体部26aは、上縁を後方に折り曲げた上側フランジ26bと、外縁を後方に折り曲げた外側フランジ26cと、下縁を前方に折り曲げた下側フランジ26dと、内縁を斜め前方に折り曲げた内側フランジ26eとを備える。そして上側フランジ26b、外側フランジ26cおよび下側フランジ26dは後部サイドシル補強部材23に溶接w9され、内側フランジ26eはジャッキアッププレート24の前端に溶接w10される。
【0028】
以上のように、サイドシル14の後部は、アウターパネル13の上側のフランジ部13aとインナーパネル20の上側のフランジ部20aとの間に後部サイドシル補強部材23の上側のフランジ部23aを挟持し、かつアウターパネル13の下側のフランジ部13bとインナーパネル20の下側のフランジ部20bとの間に後部サイドシル補強部材23の下側のフランジ部23bを挟持して閉断面に構成されるので、その剛性を高めて側面衝突時の衝撃吸収性能を高めることができる。
【0029】
特に、サイドシル14の後端部は、アウターパネル13の上側および下側のフランジ部13a,13bとインナーパネル20の上側および下側のフランジ部20a,20aとの間に板厚の大きいジャッキアッププレート24の上縁および下縁を挟持し、ジャッキアッププレート24と後部サイドシル補強部材23とによって構成された閉断面の空間の前部をバルクヘッド26により閉塞し、かつ前記閉断面の空間の後部をホイールアーチエクステンション25で閉塞したので、後部サイドシル補強部材23、ジャッキアッププレート24、バルクヘッド26およびホイールアーチエクステンション25により6面を囲まれた直方体状のボックス構造を構成することができ、そのボックス構造によってサイドシル14の後部の剛性を高めて側面衝突時の衝撃吸収性能を更に高めることができ、しかも追加する部材は小型のバルクヘッドを26だけで済むために重量の増加を最小限に抑えることができる。
【0030】
またバルクヘッド26は、上側フランジ26b、外側フランジ26cおよび下側フランジ26dで後部サイドシル補強部材23に結合され、かつ内側フランジ26eでジャッキアッププレート24に結合されるので、バルクヘッド26の周囲を概ね全周に亙って結合して前記ボックス構造を一層強固なものとすることができる。
【0031】
またバルクヘッド26は、上側フランジ26b、外側フランジ26cおよび下側フランジ26dが後部サイドシル補強部材23に結合された後に内側フランジ26eがジャッキアッププレート24に結合されるが、内側フランジ26eが本体部26aに対して屈曲する角度α(図3参照)が鈍角に設定されているので、角度αが直角である場合に比べて、ジャッキアッププレート24および内側フランジ26e間に隙間が発生し難くなり、後部サイドシル補強部材23あるいはジャッキアッププレート24の寸法誤差を容易に吸収することができる。
【0032】
またジャッキアッププレート24はインナーパネル20の後端に連なるリヤフレーム21にも結合されるので、ジャッキアッププレート24の周辺の車体剛性を更に高めることができる。
【0033】
更に、サイドシル補強部材は前部サイドシル補強部材22および後部サイドシル補強部材23を結合して構成されるので、ジャッキアッププレート26を後部サイドシル補強部材23に結合する際に、後部サイドシル補強部材23の長さが短くなる分だけ作業が容易になる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0035】
例えば、実施の形態ではサイドシル補強部材が前部サイドシル補強部材22および後部サイドシル補強部材23に分割されているが、それを一部材で構成しても良い。
【符号の説明】
【0036】
13 アウターパネル
14 サイドシル
20 インナーパネル
21 リヤフレーム
22 前部サイドシル補強部材(サイドシル補強部材)
23 後部サイドシル補強部材(サイドシル補強部材)
24 ジャッキアッププレート
25 ホイールアーチエクステンション
26 バルクヘッド
26a 本体部
26e 内側フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体側面下部に前後方向に配置されるサイドシル(14)が、車体外側に位置するアウターパネル(13)と車体内側に位置するインナーパネル(20)との間に挟持された断面溝型のサイドシル補強部材(22,23)を備える自動車のサイドシル構造において、
前記サイドシル(14)の後部において、前記アウターパネル(13)および前記インナーパネル(20)間に挟持されたジャッキアッププレート(24)と前記サイドシル補強部材(22,23)とを結合して閉断面を構成し、
前記サイドシル補強部材(22,23)および前記ジャッキアッププレート(24)の内部にバルクヘッド(26)を結合し、かつ前記バルクヘッド(26)の後方で前記サイドシル補強部材(22,23)および前記ジャッキアッププレート(24)にホイールアーチエクステンション(25)に結合することで、前記サイドシル補強部材(22,23)、前記ジャッキアッププレート(24)、前記バルクヘッド(26)および前記ホイールアーチエクステンション(25)によりボックス構造を構成することを特徴とする自動車のサイドシル構造。
【請求項2】
前記バルクヘッド(26)は、上縁、下縁、車体外側縁および車体内側縁で前記サイドシル補強部材(22,23)および前記ジャッキアッププレート(24)に結合されることを特徴とする、請求項1に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項3】
前記バルクヘッド(26)の車体内側縁は前記ジャッキアッププレート(24)に結合される内側フランジ(26e)を備え、前記内側フランジ(26e)は前記バルクヘッド(26)の本体部(26a)との間に鈍角を成して屈曲することを特徴とする、請求項2に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項4】
前記インナーパネル(20)の後端に連なるリヤフレーム(21)を備え、前記ジャッキアッププレート(24)は前記リヤフレーム(21)に結合されることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の自動車のサイドシル構造。
【請求項5】
前記サイドシル補強部材は前部サイドシル補強部材(22)および後部サイドシル補強部材(23)を結合して構成され、前記ジャッキアッププレート(24)は前記後部サイドシル補強部材(23)に結合されることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の自動車のサイドシル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−30689(P2012−30689A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171717(P2010−171717)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】