説明

自動車のフェンダパネル支持構造

【課題】前端コーナー部等のエプロンアッパメンバの上面部の幅が変形する位置でフェンダパネルの上縁を支持する支持構造において、悪路走行時などの衝撃に対する剛性を充分に確保でき、かつ上方から作用する大きな衝突荷重により容易に潰れ変形して衝撃を吸収するフェンダパネルの支持構造を実現すること。
【解決手段】エプロンアッパメンバ1の上面幅が変化する部分11にブラケット2を立設してフェンダパネル3の上縁30を固定する支持構造において、ブラケット2には上面部20とその前後に脚部21,22を備え、エプロンアッパメンバ1の上面幅の変化に対応して一方の脚部21の幅を他方の脚部22よりも狭く形成するとともに、一方の脚部21とほぼ同じ幅で上面部20の中間位置から下方へ延出する補助脚部23を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のフェンダパネルの上縁を、上方からの大きな衝突荷重により変形して衝撃を吸収可能なブラケットを介してエンジンルームの側面上縁部のエプロンアッパメンバに支持せしめたる自動車のフェンダパネル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のフェンダパネルの上縁の支持構造は歩行者保護対策の観点から、図7に示すように、エンジンルームの側面上縁部のエプロンアッパメンバ1の上面10に、上方から作用する大きな衝突荷重に対して下方へ潰れ変形して衝撃吸収する機能を有するブラケット2Aを複数設け、前後方向に長いフェンダパネル3の上縁30を複数のブラケット2Aによりエプロンアッパメンバ1の上面10よりも高い位置に固定することが行われている(例えば、特許文献1,2参照。)。
ブラケット2Aは金属板からなる成形品で、上面部とその前縁および後縁から屈曲して下方への延びる前後の脚部とで断面ほぼハット形をなし、前後の脚部の脚端をエプロンアッパメンバ1の上面に溶接して立設し、上面部にフェンダパネル3の上縁30をボルト部材bで締結固定している。
【0003】
ところで、ブラケットの取付面はその幅が変化し、幅が変化した個所にブラケットを立設する場合がある。エプロンアッパメンバの前端部を例にとると、図5、図6に示すように、エプロンアッパメンバ1の前端は車体前面のラジエータサポートアッパ4と平面視湾曲形状の金属板からなる前端コーナー部11でつながれ、その上面に前端ブラケット2Bを立設し、これにフェンダパネルの前端部を支持せしめたものがある。図5において50は前面コーナーパネル、51はフロントクロスメンバである。
【0004】
図6に示すように、前端コーナー部11ではエプロンアッパメンバ1の上面に合わせて幅広に形成されエプロンアッパメンバ1側に比べて車内側へ湾曲したラジエータサポートアッパ4側は狭幅に形成されている。これに対応して前端ブラケット2Bは、前端コーナー部11の幅広なエプロンアッパメンバ1側にこれに合わせて上面部20から下方の脚端へ向けて幅を広くした後方の脚部22の脚端を溶接固定する一方、幅の狭い前端コーナー部11のラジエータサポートアッパ4側に後方の脚部22よりも狭幅とした前方の脚部21の脚端を溶接固定してコーナー部を跨ぐように設けられ、上面部20のネジ穴29にフェンダパネルの上縁前端がボルト締めされる。
【特許文献1】特開2002−178953号公報
【特許文献2】特開2006−224800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来の前端ブラケット2Bでは、後方の脚部22に比べて前方の脚部21の脚幅が狭いので、車両の悪路走行時などにフェンダパネル3から前端ブラケット2Bに繰り返し作用する衝撃により前方の脚部21が変形して前端ブラケット2Bが傾斜し、フェンダパネル3の支持が不安定になるといった問題が生じる。
そこで前端ブラケット2Bの傾斜を防ぐため、前端ブラケット2Bの板厚を厚くすることが考えられるが、これでは上方からの大きな衝突荷重に対して衝撃吸収性能が低下する問題が生じる。
【0006】
そこで本発明は上記事情に鑑み、悪路走行時などの衝撃に対して変形せずにフェンダパネルの上縁を安定に支持することができ、かつ上方からの大きな衝突荷重に対して潰れ変形して衝撃吸収性能が充分に発揮できる自動車のフェンダパネル支持構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、自動車のエンジンルームの側面上縁に沿って前後方向に延びるエプロンアッパメンバの上面に、前後方向に所定の間隔をおいて、上面部の前後縁から下方へ延出する脚部を備えたブラケットを立設し、該ブラケットの上面部によりフェンダパネルの上縁を支持せしめた自動車のフェンダパネル支持構造において、上記エプロンアッパメンバの上面幅が変化する部分に立設する上記ブラケットは、エプロンアッパメンバの上面幅の変化に対応して一方の脚部の幅を他方の脚部の幅よりも狭く形成するとともに、一方の脚部とほぼ同じ幅でブラケットの上面部の中間位置から下方へ延出する補助脚部を設ける(請求項1)。
補助脚部を設けることで、ブラケット全体のフェンダパネル支持剛性がバランスし、ブラケット全体の板厚を厚くすることなく、悪路走行時の衝撃でブラケットが傾斜するのを防止できる。またブラケットは板厚を厚くしないから上方からの衝突荷重に対して高い衝撃吸収性能を発揮できる。
【0008】
上記補助脚部を設けたブラケットを、上記エプロンアッパメンバの前端から上面幅が狭小化しつつ湾曲状に延出してエンジンルームの前方のラジエータサポートに連結する前端コーナー部に立設し、ラジエータサポート側の一方の脚部をエプロンアッパメンバ側の他方の脚部よりも狭幅に形成し、上記補助脚部はこれをブラケットの上面部の車外側の側縁の中間部から延出せしめ、脚端を上記前端コーナー部の上面の車外側の端部に固定する(請求項2)。
本発明のブラケットはエプロンアッパメンバの前端とラジエータサポートとをつなぐ前端コーナー部に取付けるブラケットとして好適である。
【0009】
上記前後の両脚部および補助脚部には、上下中間位置に、上方から作用する衝突荷重により潰れ変形容易な易変形部を形成する(請求項3)。
上記前後の両脚部および補助脚部をそれぞれ、上下中間位置で屈曲する縦断面ほぼく字形に形成し、屈曲部を上記易変形部とする(請求項4)。
上記前後の両脚部および補助脚部にはそれぞれ上下中間位置に、上記易変形部として開口を設ける(請求項5)。
各脚部に易変形部を設けることにより、上方からの衝突荷重で各脚部が確実に潰れ変形して高い衝撃吸収性能を発揮できる。
【0010】
上記各脚部には脚端から屈曲してほぼ水平に延びるフランジ部を形成し、狭幅の上記一方の脚部では、脚端の両側縁からフランジ部の両側縁にかけての部分にこれらから起立する補強リブを形成する(請求項6)。
一方の脚部は悪路走行時の衝撃により脚端とフランジ部との屈曲角が変化して傾斜変形しやすいが、補強リブにより屈曲角の変化が防止されて衝撃に対する強度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図5に示すエプロンアッパメンバ1の上面10の前端とラジエータサポートアッパ4とをつなぐ前端コーナー部11の上方でフェンダパネルの上縁前端を固定する前端ブラケット2に本発明を適用した実施形態を説明する。
前端コーナー部11の周辺の車体構造は従来構造と同一構造である。エンジンルームの側壁上縁に沿って前後方向に延びるエプロンアッパメンバ3は閉断面構造をなし、前後方向に延びる水平面状の上面11を有する。
ラジエータサポートアッパ4は下方へ開口する断面ほぼコ字形をなし、車幅方向に沿って延び、左右の前面パネル50(図5では片側のみを示す)の上端間を架け渡すように設けてある。
【0012】
そしてエプロンアッパメンバ3の前端とラジエータサポートアッパ4の側端とはこれらとは別部材からなる前端コーナー部11でつないである。図1ないし図4に示すように、 前端コーナー部11は平面視、エプロンアッパメンバ1側の後方の端末から前方かつ車内側へ向けて湾曲状に延びる帯状の金属板で、湾曲外周側および内周側の両側縁には下方へ屈曲したリブが形成してある。
【0013】
前端コーナー部11は、後端部111がエプロンアッパメンバ1の上面幅に合わせてあり、後端末をエプロンアッパメンバの上面10前端に重ね合わせて溶接してある。車内側へ向かう前端部112は後端部111よりも細幅に形成してあり、前端末をラジエータサポートアッパ4の端末に重ね合わせて溶接してある。前端コーナー部11には前後中間の湾曲部の上面に前端ブラケット2が設置してある。
【0014】
前端ブラケット2は板厚約1.0mmの金属板からなるプレス成型品で、四角形状の上面部20と、その前縁および後縁から屈曲して下方へ延びる前後の脚部21,22とを備えた前後方向に断面ほぼハット形に形成してある。
後方の脚部22は上面部20の後縁から下方の脚端へ向けて順次脚幅が広くしてあり、脚端にはこれから屈曲して後方へほぼ水平に張り出す結合フランジ221が形成してある。結合フランジ221は前端コーナー部11の前後方向に沿うエプロンアッパメンバ1側の後端部111に重ね合わせて溶接してある。
【0015】
前方の脚部21はその脚幅を後方の脚部22よりも狭くしてあり、上面部20の前縁から脚端へかけてほぼ同じに幅に形成してある。後方の脚部22の脚端の幅に対して、前方の脚部21は脚端の幅が後方の脚部22の脚端の3分の2ないし2分の1程度に設定してある。
脚端には前方へほぼ水平に張り出す結合フランジ211が形成してある。また前方の脚部21には、脚端から屈曲部を経て結合フランジ211の左右両側縁にかけてこれらから傾斜状に起立する補強リブ26が形成してある。各補強リブ26の傾斜角は約45°に設定してある。
前方の脚部21は脚端の結合フランジ211が前端コーナー部11の車幅方向に沿うラジエータサポートアッパ4側の前端部112に重ね合わせて溶接してある。
【0016】
尚、前方の脚部21はその高さ寸法が後方の脚部22よりも若干低く設定してあり、ほぼ水平な前端コーナー部11の上面に対して前端ブラケット2の上面部20が緩やかな前下がりの傾斜姿勢をなすように設定してある。上面部20にはほぼ中央に裏面側にウェルドナットを有するネジ穴29が形成してある。
【0017】
更に、前端ブラケット2には、上面部20の車外側の側縁から屈曲して下方へ延びる補助脚部23が一体に形成してある。補助脚部23はその脚幅が前方の脚部21とほぼ同じに設定してある。脚端にはこれから屈曲した車外側へ張り出す結合フランジ231が形成してある。補助脚部23は結合フランジ231を前端コーナー部11の後端部111と前端部112の中間の湾曲状部の上面に溶接結合してある。
【0018】
前後の脚部21,22および補助脚部23は、上面部20との境界の屈曲角を鈍角に設定して脚上半部を傾斜姿勢とするとともに、脚上半部の下端に屈曲部24,24,24を設けて脚下半部が垂直となる緩やかなほぼく字形に形成してある。
このように各脚部21,22,23は、これらの上下中間の屈曲部24,24,24を易変形部として、上方からの衝突荷重に対して下方へ潰れ変形しやすくしてある。
【0019】
更に各脚部21,22,23には、上下方向および幅方向中間位置に、上記脚上半部と脚下半部とに跨るように、上記衝突荷重に対して易変形部をなす上下に長径の開口25,25,25が形成してある。
【0020】
フェンダパネル3の上端は、車体の側面を形成する縦壁状の一般部から緩やかに車体の上方かつエンジンルーム側へ湾曲状に延び、その上端から下方へ折り返した縦壁と、該縦壁の下縁から屈曲して車内側へほぼ水平に張り出すフランジ状の上縁30が形成してある。
フェンダパネル3の上端は、上縁30前端を前端ブラケット2の上面に20に重ね合わせてボルト締めして固定してある。これよりも後方の上縁30の一般部では従来構造と同様、前後の脚部を有する断面ほぼハット形のブラケットにより固定する。
【0021】
本実施形態によればエプロンアッパメンバ1とラジエータサポートアッパ4とをつなぐ湾曲状の前端コーナー部状の上面でフェンダパネル3の上縁30前端を支持する前端ブラケット2において、後方の脚部22に対して前方の脚部21の脚幅が狭い分、前方の脚部21の剛性が低いが、上面部20の側縁から下方へ延びる補助脚部23を設けてその脚端を前端コーナー部11に結合したので、補助脚部23が低剛性の前方の脚部21を補い、ブラケット全体の支持剛性を偏りなく均一にすることができる。従って、車両の悪路走行時にフェンダパネル3の上縁から作用する衝撃に対して前端ブラケット2は板厚を厚くすることなくバランスを保って傾斜せず、フェンダパネル3の上縁前端を安定に支持できる。
【0022】
前端ブラケット2の前方の脚部21は上記衝撃により脚端と結合フランジ211と屈曲角が変化しやすいが、脚端から結合フランジ211にかけて両側縁に補強リブ26を設けたので、屈曲角の変化が防止される。尚、補助脚部23は剛性の高い後方の脚部22に近い位置にあるので脚端に補強リブを設ける必要はない。
【0023】
前端ブラケット2は板厚を上げる必要がないから、交通事故で歩行者がフェンダパネル3の上縁またはエンジンフードの側縁にその上方から衝突した場合、上方から作用する大きな衝突荷重により各脚部21,22,23が潰れ変形して衝撃を吸収することができ、もって歩行者への保護性能を発揮できる。
特に、各脚部21,22,23は易変形部たる屈曲部24および開口25を設けることにより、これらを中心に上記衝突荷重により潰れ変形するので高い衝撃吸収性能を発揮する。
また前方の脚部21において、脚端から結合フランジ211にかけて設けた補強リブ26はこれを傾斜状としたので、上からの衝突荷重が大きいときは脚端と結合フランジ211間の屈曲角度が変化し、脚部21の下方への倒れ変形性を損ねない。
【0024】
上述の実施形態では、エプロンアッパメンバ1とラジエータサポートアッパ4とをつなぐ湾曲状の前端コーナー部11に設けた前端ブラケット2でフェンダパネル3の上縁前端を支持する構造に本発明を適用したが、前端に限らず、上面幅が変化するエプロンアッパメンバにおいては、幅が変化する部分に設けるブラケットとして、上記前端ブラケット2と同様のブラケットを用いることができる。
また上述の実施形態では脚部21,22,23に易変形部として屈曲部24と開口25を併用したが、屈曲角度を調整することで屈曲部24のみでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】車体の前端コーナー部の上方でフェンダパネルの上縁前端を支持する本発明の支持構造を示す要部斜視図である。
【図2】上記支持構造の平面図である。
【図3】上記支持構造の側面図である。
【図4】上記支持構造の一部断面とした正面図である。
【図5】本発明を適用する車体の前端コーナー部とその摺面を示す斜視図である。
【図6】上記前端コーナー部の上方でフェンダパネルを支持する従来の支持構造を示す斜視図である。
【図7】従来の代表的なフェンダパネルの支持構造を示す要部斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 エプロンアッパメンバ
11 前端コーナー部
2 前端ブラケット(ブラケット)
20 上面部
21 一方の脚部
22 他方の脚部
23 補助脚部
211,221,231 結合フランジ(フランジ部)
24 屈曲部(易変形部)
25 開口〔易変形部〕
26 補強リブ
3 フェンダパネル
30 上縁





















【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のエンジンルームの側面上縁に沿って前後方向に延びるエプロンアッパメンバの上面に、前後方向に所定の間隔をおいて、上面部の前後縁から下方へ延出する脚部を備えたブラケットを立設し、該ブラケットの上面部によりフェンダパネルの上縁を支持せしめた自動車のフェンダパネル支持構造において、
上記エプロンアッパメンバの上面幅が変化する部分に立設する上記ブラケットは、エプロンアッパメンバの上面幅の変化に対応して一方の脚部の幅を他方の脚部の幅よりも狭く形成するとともに、一方の脚部とほぼ同じ幅でブラケットの上面部の中間位置から下方へ延出する補助脚部を設けたことを特徴とする自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項2】
上記補助脚部を設けたブラケットを、上記エプロンアッパメンバの前端から上面幅が狭小化しつつ湾曲状に延出してエンジンルームの前方のラジエータサポートに連結する前端コーナー部に立設し、ラジエータサポート側の一方の脚部をエプロンアッパメンバ側の他方の脚部よりも狭幅に形成し、上記補助脚部はこれをブラケットの上面部の車外側の側縁の中間部から延出せしめ、脚端を上記前端コーナー部の上面の車外側の端部に固定した請求項1に記載の自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項3】
上記前後の両脚部および補助脚部には、上下中間位置に、上方から作用する衝突荷重により潰れ変形容易な易変形部を形成した請求項1または2に記載の自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項4】
上記前後の両脚部および補助脚部をそれぞれ、上下中間位置で屈曲する縦断面ほぼく字形に形成し、屈曲部を上記易変形部となした請求項3に記載の自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項5】
上記前後の両脚部および補助脚部にはそれぞれ上下中間位置に、上記易変形部として開口を設けた請求項3または4に記載の自動車のフェンダパネル支持構造。
【請求項6】
上記各脚部には脚端から屈曲してほぼ水平に延びるフランジ部を形成し、狭幅の上記一方の脚部では、脚端の両側縁からフランジ部の両側縁にかけての部分にこれらから起立する補強リブを形成した請求項1ないし5に記載の自動車のフェンダパネル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−254681(P2008−254681A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101567(P2007−101567)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】