説明

自動車のロッカー構造

【課題】自動車のロッカーの高剛性を確保しつつ軽量化を図ること。
【解決手段】アウタパネル11とインナパネル12とで閉断面をなし、内部にリィンフォース2を設けた自動車のロッカー1であって、スライドドア開口5の下縁をなすロッカー後半部1Bにスライドドアのガイドレールが内設されてロッカー前半部1Aと上記後半部1Bとで断面形状の異なる自動車のロッカー構造において、リィンフォース2を、前部リィンフォース2Aと後部リィンフォース2Bとに分割し、前部リィンフォース2Aを降伏応力580MPaないしそれ以上で前後同一断面をなす直線状の高張力鋼板で構成し、前部リィンフォース2Aの後端と後部リィンフォース2Bの前端とを、センタピラー6の下端が結合されたロッカー中間部1Cで重ね合わせ連結せしめ、もってロッカー全体を軽量化するとともに高い剛性を確保した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のロッカー、特に後半部にスライドドア用ガイドレールが内設されたロッカー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、図7に示すように後部座席に対応する車体側面のリヤドア開口5をスライドドアSDで開閉するようになし、後部座席への乗降性を良好にしたものがある。この種の車両には、図7、図8に示すように、車体側面の下縁に沿って前後方向に延びるロッカー1を備え、リヤドア開口5の下縁をなすロッカー後半部に、車外側に向けて開口する断面ほぼコ字形の溝部13が設けられ、溝部13内にスライドドア(図略)下端を支持案内するガイドレールが内設されたものがある(例えば特許文献1参照)。
図7、図8において、4はフロントドア開口、FDはフロントドア、6はセンタピラー、7,8はフロントピラーおよびリヤピラーを示し、各ピラー6,7,8は下端がロッカー1に結合されている。
【0003】
ロッカー1は、図3に示すように、アウタパネル11とインナパネル12とで閉断面をなし、内部にはその前後方向全長にわたり一体成形され、アウタパネル11の内面に沿いロッカー1内を車幅方向に仕切る断面ほぼハット形のリィンフォース2が設けられた基本構造を有している。
【0004】
ところでロッカー後半部では、アウタパネル11の上縁に沿って開口を形成し、リィンフォース2の上半部を欠除させてロッカー内の上半部にスペースを設け、このスペースに断面コ字形のパネル部材を上記開口縁に連通するように設けてスライドドア案内用の溝部13を形成している。
【特許文献1】特開2008−24268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のこの種のロッカー1は、その前半部と後半部との境界で断面形状が急変するので、車両の前面衝突や側面衝突に対する剛性が低下する。そこで剛性を確保すべくリィンフォース2の板厚を厚くしているが、これによりロッカー1の重量が増加するという問題がある。
そこでリィンフォース2として高張力鋼板を用いれば板厚を上げることなく高剛性が得られるが、高張力鋼板は成形性が良いとは言えず、前後で断面形状が大きく変化するリィンフォース2を成形することが困難である。
そこで本発明は、車両の前面および側面衝突時の衝撃に対する剛性が十分に確保できかつ軽量化された自動車のロッカー構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車体側面の下縁に沿って前後方向に延び、車体側面のフロントドア開口およびその後方のスライドドア開口の下縁を形成する自動車のロッカーであって、アウタパネルとインナパネルとで閉断面をなし、かつロッカー内には上記アウタパネルに沿う断面ハット形でロッカー内を車幅方向に仕切るリィンフォースが設置され、上記スライドドア開口の下縁をなすロッカー後半部にはその車外面に断面ほぼコ字形で、前後方向に延びる溝部が設けられ、該溝部にスライドドア案内用のロアレールが内設された自動車のロッカー構造において、
上記リィンフォースを、ロッカー前半部に位置する前部リィンフォースと、上記ロッカー後半部に位置する後部リィンフォースとに分割し、
上記前部リィンフォースを、前後方向にほぼ同一断面形状の直線状の高張力鋼板で構成し、
上記前部リィンフォースの後端と上記後部リィンフォースの前端とを、センタピラーの下端が結合された上記ロッカーの前後中間位置で重ね合わせ連結し、
上記両リィンフォースメントの連結部の重ね合わせ幅を上記センタピラーとロッカーとの結合部の前後幅と合致せしめる(請求項1)。
リィンフォースを前部リィンフォースと後部リィンフォースとに分割し、車両前衝突に対して特に高い剛性が要求され、また断面形状が変化しない前者を高張力鋼板で構成したので、リィンフォース全体の剛性強化と軽量化がなされる。
また前部リィンフォースの後端と後部リィンフォースの前端とを、センタピラーの下端とロッカーとの結合部の前後幅全体にわたる範囲で重ね合わせ連結したので、車両側面衝突時の衝撃に対する両リィンフォースの連結部の剛性を確保でき、もってロッカーの折れ変形を防止する
【0007】
上記前部リィンフォースを、降伏応力580MPa以上の高張力鋼板で構成する(請求項2)。
従来よりも薄い板厚で高い剛性が得られる。
【0008】
上記ロッカーの溝部は、ロッカー後半部の上半部に沿って形成され、その前端は上記センタピラーとロッカーの結合部の前後中間位置まで延び、
上記前部リィンフォースと後部リィンフォースの重ね合わせ連結部の後縁を、その上半部では上記溝部前端の前方に位置せしめ、下半部では上記溝部前端の後方で上記センタピラーとの結合部の後端に位置せしめる(請求項3)。
前部リィンフォースの後端の上半部は、溝部の前端を避けてセンタピラーの中間位置までとするが、下半部は後部リィンフォースの前端下半部およびフロントピラーの結合部後端位置に至るまで重ね合わせ連結したから高い連結部の剛性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、従来構造と同様、スライドドア開口の下縁をなす後半部にスライドドアの下端を支持案内するガイドレールが内設されたロッカーに本発明を適用したものである。
図1はロッカーの内部を車内側から見た斜視図であり、仮想線で示すように、ロッカー1は車体側面の下縁に沿って前後方向に延びる長尺部材で、ロッカー前半部1Aがフロントドア開口4の下縁を構成し、ロッカー後半部1Bがスライドドア開口5の下縁を構成する。
【0010】
ロッカー1にはその前後中間位置(以下、ロッカー中間部という)1Cに上記両開口4,5を仕切るセンタピラー6の下端が結合してある。センタピラー6の下端は前後幅が拡大してある。ロッカー1の前端および後端にはそれぞれフロントピラー7下端およびリヤピラー8下端が結合してある。
【0011】
図1の実線はロッカー1内に設置したリィンフォース2を示す。リィンフォース2は、ロッカー前半部1Aに位置する前部リィンフォース2Aと、ロッカー後半部1Bに位置し溝部13によりロッカー前半部1aとは断面形状が異なる後部リィンフォース2Bとからなる分割構造をなす。
【0012】
前部リィンフォース2Aの後端と後部リィンフォース2Bの前端とは、センタピラー6の下端が結合されたロッカー中間部1Cで連結してあり、かつ両リィンフォース2A,2Bの連結部は、センタピラー6とロッカー1との結合部の前端から後端にかけての範囲で重ね合わせ連結してある。
溝部13は、ロッカー後半部1Bの車外面の上半部に沿って形成され、溝部13の前端はロッカー中間部1Cのほぼ前後中央位置まで延びている。
【0013】
以下、図1ないし図6に基づき、前後のリィンフォース2A,2Bの形状および両者2A,2Bの連結部の構造を説明する。
図1ないし図3に示すように、前部リィンフォース2Aは、車外側に張り出した縦面状の中央部21aと、上下の側面部22a,23aおよび上下のフランジ部24a,25aとで断面ほぼハット形をなす。そして中央部21aと上下の側面部22a,23aとの間の屈曲部の稜線、上下の側面部22a,23aと上下のフランジ部24a,25aとの間の屈曲部の稜線がそれぞれ前後方向に直線状で、前後方向にほぼ同一断面をなし、降伏応力が580MPaないしそれ以上の性能を有する高張力鋼板で構成してある。
【0014】
前部リィンフォース2Aは、ロッカー前半部1Aの内部において、アウタパネル11の内面沿いに配し、上下のフランジ部24a,25aをそれぞれアウタパネル11とインナパネル12の上下の結合フランジ部同士の結合部と一体に溶接してロッカー1内を車幅方向に仕切るように設置してある。
【0015】
図1、図2、図4、図5に示すように、前部リィンフォース2Aの後端では、上半部の後端縁はロッカー中間部1Cに結合されたセンタピラー6の下端の前後方向中央部に位置し、下半部の後端縁はそれよりも後方へ延びており、前部リィンフォース2Aの後端縁は階段形状としてある。
【0016】
後部リィンフォース2Bは従来からリィンフォースとして一般に用いられる鋼板からなり、前端の前端縁は、前部リィンフォース2Aの中央部21a、上下の側面部22a,23a、上下のフランジ部24a,25aと対応する中央部21b、上下の側面部22b,23b、上下のフランジ部24b,25bとからなる断面ハット形としてあり、後部リィンフォース2Bはその前端縁をセンタピラー6の下端の前端に位置させて前部リィンフォース2Aの後端に重ね合わせ連結せしめてある。
【0017】
図2、図5、図6に示すように、後部リィンフォース2Bにはその上半部に前後方向に溝部13がある。溝部13は前端が後部リィンフォース2Bの前端縁の近くにあり、溝部13の深さは、スライドドアの閉じ切り時および開き始めの時の軌道に従い、図5、図6に示すように前端部側(図5)が一般部(図6)よりも深く形成してある。
溝部13はロッカー後半部1Bのアウタパネル11の上半部に開口を形成するとともに、ロッカー後半部の上部空間に断面ほぼコ字形のパネル部材14を設け、パネル部材14の開口端をアウタパネル11の開口の折り曲げ部に重ね合わせ溶接することに形成してある。溝部13の内奥沿いには、スライドドアを案内するガイドレールRが設けてある。
【0018】
溝部13に対応して、後部リィンフォース2Bはその上半部、即ち上記側面部22bおよび上部フランジ24bを欠除させ、下部フランジ25bがアウタパネル11およびインナパネル12の下部の結合フランジ部と一体に結合せしめてあり、後部リィンフォース2Bの上端部分は、溝部13の前部では上記パネル部材14の下面に、後部では上記パネル部材14の下面および奥底面に溶接結合せしめてある。なお、溝部13の前部(図5)において、インナパネル12を貫通して車内側へ突出するパネル部材14の車内端はカバー部材15で被覆してある。
【0019】
後部リィンフォース2Bは、図2、図4、図5に示すように、その前縁をフロントピラー6の下端の前端に位置せしめて前端を前部リィンフォース2Aの後端内面に重ね合わせ溶接してある。これにより両リィンフォース2A,2Bの連結部では、その上半部が溝部13の前端の前方位置で連結され下半部は溝部13の下方位置で、フロントピラー6の下端の前後幅にわたる範囲で連結されている。
なおロッカー後半部1Bの後端部分ではパネル部材14の奥底面に沿う後部リィンフォース2Bの上縁部分を更に上方へ延出させてフランジ部を形成し、これをアウタパネル11とインナパネル12の上部の結合フランジ一体に結合せしめてある(図1参照)。
【0020】
本実施形態によれば、ロッカー1を補強し、前後に断面形状の異なるリィンフォース2を、前部リィンフォース2Aと後部リィンフォース2Bとに分割し、車両前面衝突時などに前方からの衝撃を特に大きく受ける前部リィンフォース2Aは高張力鋼板を用い、前後方向に同一断面をなす直線状に形成したから、リィンフォースの成形が容易であり、かつ従来よりも板厚を薄くして軽量化し、高い剛性が発揮される。
【0021】
また分割した前部リィンフォース2Aと後部リィンフォース2Bとの連結部を、センタピラー6とロッカー1との結合部に設け、かつ連結部を結合部の前後全幅にわたる幅としたから、車両の前面および側面衝突に対して、ロッカー1の中間部1Cでは連結部とともにセンタピラー6の下端が一体となって衝撃を受け止めるから折れ変形に対して高い剛性が発揮される。
【0022】
なお、ロッカー1はその全長のうち、両リィンフォース2A,2Bの連結部の後方位置ではリィンフォース2Bの上半部が欠除しているので、剛性は他の部分よりも低く、他の部分よりも折れ変形が起こりやすい。しかしこの部分は後部座席の乗員の足元スペースとなっており、折れ変形の乗員の安全性への影響は小さい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のロッカー構造に用いるリィンフォースの車内側斜め前方から見た斜視図である。
【図2】上記リィンフォースを構成する前部リィンフォースと後部リィンフォースとの連結部を示す拡大斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う位置での断面図である。
【図4】図2のIV−IV線に沿う位置での断面図である。
【図5】図2のV−V線に沿う位置での断面図である。
【図6】図1のVI−VI線に沿う位置での断面図である。
【図7】スライドドアにより開閉するドア開口を備えた車両の側面図である。
【図8】従来のロッカーを示す側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ロッカー
1A ロッカー前半部
1B ロッカー後半部
1C ロッカー中間部
11 アウタパネル
12 インナパネル
13 溝部
2 リィンフォース
2A 前部リィンフォース
21a 中央部
22a 上部側面部
23a 下部側面部
24a 上部フランジ部
25a 下部フランジ部
2B 後部リィンフォース
21b 中央部
22b 上部側面部
23b 下部側面部
24b 上部フランジ部
25b 下部フランジ部
6 センタピラー
SD スライドドア
R ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側面の下縁に沿って前後方向に延び、車体側面のフロントドア開口およびその後方のスライドドア開口の下縁を形成する自動車のロッカーであって、アウタパネルとインナパネルとで閉断面をなし、かつロッカー内には上記アウタパネルに沿う断面ハット形でロッカー内を車幅方向に仕切るリィンフォースが設置され、上記スライドドア開口の下縁をなすロッカー後半部にはその車外面に断面ほぼコ字形で、前後方向に延びる溝部が設けられ、該溝部にスライドドア案内用のロアレールが内設された自動車のロッカー構造において、
上記リィンフォースを、ロッカー前半部に位置する前部リィンフォースと、上記ロッカー後半部に位置する後部リィンフォースとに分割し、
上記前部リィンフォースを、前後方向にほぼ同一断面形状の直線状の高張力鋼板で構成し、
上記前部リィンフォースの後端と上記後部リィンフォースの前端とを、センタピラーの下端が結合された上記ロッカーの前後中間位置で重ね合わせ連結し、
上記両リィンフォースメントの連結部の重ね合わせ幅を上記センタピラーとロッカーとの結合部の前後幅と合致せしめたことを特徴とする自動車のロッカー構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車のロッカー構造において、
上記前部リィンフォースを、降伏応力580MPaないしそれ以上の高張力鋼板で構成した自動車のロッカー構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動車のロッカー構造において、
上記ロッカーの溝部は、ロッカー後半部の上半部に沿って形成され、その前端は上記センタピラーとロッカーの結合部の前後中間位置まで延び、
上記前部リィンフォースと後部リィンフォースの重ね合わせ連結部の後縁を、その上半部では上記溝部前端の前方に位置せしめ、下半部では上記溝部前端の後方で上記センタピラーとの結合部の後端に位置せしめた自動車のロッカー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−83255(P2010−83255A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252878(P2008−252878)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】