説明

自動車のロールバー装置

【課題】装置全体の大型化や重量及びコストの上昇を招くことなく、ロール荷重,側突荷重及び引っ張り荷重を効率よく分散させて伝達することができる自動車のロールバー装置を提供する。
【解決手段】第1クロスバー部材23は、ブラケット25の斜辺部25aの上側部分に結合され、第2クロスバー部材24は、ブラケット25の下辺部25bに結合され、該ブラケット25の前端部25f及び後端部25gは、それぞれピラー部材11の閉断面a内に車幅方向に架け渡して配置されたカラー部材29,30を介して締結部材31により該ピラー部材11に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オープンカーに搭載されるロールバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のオープンカーでは、転倒時や側面衝突時の車室への影響を回避するようにしたロールバー装置を備えている。このようなロールバー装置として、例えば、特許文献1には、クロスバー部材の両端に前方に延びるよう結合されたリンクブラケットを左,右のピラー部材に結合し、前記クロスバー部材の両端部に下方に延びる延設部を結合し、該延設部の下端部をフロアパネルのキックアップに形成された角筒状のクロスメンバに結合し、さらに延設部の下端部を連結部材を介して前記ピラー部材のインナパネルに結合した構造のものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来装置では、転倒時のロールバーからのロール荷重を主に延設部で受けてフロアに伝達する構造であることから、延設部を板厚の大きい強固なものにする必要があり、またフロア位置が低い車両の場合には、延設部をフロアまで下方に延長させる必要があり、装置全体が大型化するとともに、重量及びコストが増えるという懸念がある。
【0005】
また前記従来装置では、側面衝突時の側突荷重をクロスバー部材から前方にオフセット配置されたリンクブラケットで受ける構造であり、リンクブラケットが変形して荷重をクロスバー部材に効率よく伝達できないという懸念がある。このようなリンクブラケットの変形を抑えるには、板厚を大きくしたり,リンクブラケット間に補強部材を追加したりする必要があり、前記同様に重量及びコストが上昇するという問題が生じる。
【0006】
さらに前記クロスバー部材に例えばシートベルトアンカを取り付けた場合、該ベルトアンカに加わる前方への引っ張り荷重に対してクロスバー部材及び延設部が前側に倒れるように変形し易いという懸念がある。このような変形を抑えるには、前記同様に板厚を大きくしたり,補強部材を追加したりする必要があり、この点からも重量及びコストが上昇するという問題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、装置全体の大型化や重量及びコストの上昇を招くことなく、ロール荷重,側突荷重及び引っ張り荷重を効率よく分散させて伝達することができる自動車のロールバー装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、シートの車両後側に車幅方向に延びるように配設され、左,右のピラー部材に取り付けられる自動車のロールバー装置であって、前記シートのシートバックの後方近傍に配設されたロールバーと、該ロールバーが結合された第1クロスバー部材と、該第1クロスバー部材の前側下方にオフセット配置された第2クロスバー部材と、前記左,右のピラー部材に配設されたブラケットとを備え、前記第1クロスバー部材は、前記ブラケットの上側部分に結合され、前記第2クロスバー部材は、前記ブラケットの下側部分に結合され、該ブラケットの少なくとも前端部及び後端部は、それぞれ前記ピラー部材の閉断面内に車幅方向に架け渡して配置されたカラー部材を介して締結部材により該ピラー部材に結合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るロールバー装置によれば、第1クロスバー部材をブラケットの上側部分に結合し、第2クロスバー部材をブラケットの下側部分に結合し、該ブラケットの前端部及び後端部をそれぞれピラー部材の閉断面内に車幅方向に架け渡して配置されたカラー部材を介して締結部材により該ピラー部材に結合する構成とした。
【0010】
このように構成したので、転倒時のロール荷重を、第1,第2クロスバー部材からブラケットを介してピラー部材の閉断面剛性を有効利用して該ピラー部材に効率よく分散させて伝達することができる。これにより板厚を大きくしたり,補強部材を追加したりすることなく、ロール荷重に対応できる。
【0011】
また第1,第2クロスバー部材をブラケットを介して左,右のピラー部材に結合したので、フロア位置が低い車両にも採用することができ、従来のフロアに結合するための延設部を不要にでき、装置全体を小型化できるとともに、重量及びコストを低減できる。
【0012】
本発明では、側面衝突時の側突荷重を、ピラー部材の前,後のカラー部材を介してブラケットから第1,第2クロスバー部材に効率よく分散させて伝達することができる。これにより板厚を大きくしたり,補強部材を追加したりすることなく、側突荷重に対応できる。
【0013】
また例えばベルトアンカを第1クロスバー部材に取り付けた場合、該ベルトアンカに作用する前方への引っ張り荷重を、第1,第2クロスバー部材とブラケットとで受けるとともに、カラー部材を介してピラー部材の閉断面に効率よく分散させて伝達することができる。その結果、板厚を大きくしたり、補強部材を追加したりすることなく、引っ張り荷重に対応できる。
【0014】
このように本発明では、第1,第2クロスバー部材をブラケットに結合し、該ブラケットをカラー部材を介してピラー部材に結合する構造としたので、従来のピラー部材とフロアに結合する場合に比べて装置全体を小型化できるとともに、重量及びコストを低減でき、かつロール荷重,側突荷重及び引っ張り荷重の何れの入力に対しても対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1によるロールバー装置を備えた自動車の斜視図である。
【図2】前記ロールバー装置の斜視図である。
【図3】前記ロールバー装置の断面平面図である。
【図4】前記ロールバー装置の斜視図である。
【図5】前記ロールバー装置の正面図である。
【図6】前記ロールバー装置の側面図(図5のVI-VI線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1ないし図6は、本発明の実施例1による自動車のロールバー装置を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で前後,左右という場合は、特記なき限り、シートに着座した状態で車両前進方向に見たときの前後,左右を意味する。
【0018】
図において、1は本実施例のロールバー装置2を備えたオープンカーの車体を示している。この車体1は、左,右のサイドパネル3,3と、該左,右のサイドパネル3のドア開口3aに配設されたドア4,4と、前記左,右のサイドパネル3の下端間に結合されたフロアパネル(不図示)と、該フロアパネルに搭載された左,右のシート5,5とを備えている。
【0019】
前記左,右のサイドパネル3の前部には、エンジンルームを開閉するフード8が配設され、後部には、ラゲージルームを開閉するラゲージドア9が配設されている。
【0020】
前記左,右のサイドパネル3は、前記ドア開口3aの前縁部を形成するフロントピラー部材10と、後縁部を形成するセンターピラー部材11とを有する。該フロントピラー部材10はフェンダエプロン12により覆われており、前記センターピラー部材11はクォータパネル13により覆われている。
【0021】
前記フロントピラー部材10は、左,右のサイドパネル3の上縁から上方に延びる門型状のフロントフレーム部10aを有し、該フロントフレーム部10aにはフロントガラス14が配設されている。
【0022】
左,右のセンターピラー部材11は、大略断面ハット形状のアウタパネル17と、大略平板状のインナパネル18との間にピラーリインホース19を配設し、これらの前フランジ部11a及び後フランジ部11b同士を溶接により結合することにより、上下方向に延びる角筒状の閉断面aを形成した構造を有する。
【0023】
前記ドア4は、ドアアウタパネル4aとドアインナパネル4bとを中空状をなすよう外縁部同士を結合した構造を有し、該ドア4内にはウインドガラス(不図示)が昇降可能に配設されている。
【0024】
前記ドア4内には、車両前後方向に延びるインパクトビーム20が配設されている。このインパクトビーム20は、車両側方から見たとき、これの両端部20aがフロントピラー部材10の後縁部及びセンターピラー部材11の前縁部にラップするように配設されている(図3参照)。これにより、側面衝突時にインパクトビーム20が両ピラー部材10,11間で突っ張ることにより、ドア4の車内側への進入量を抑制している。
【0025】
前記ロールバー装置2は、前記左,右のシート5の後側に車幅方向に延びるように配設され、左,右のセンターピラー部材11に取り付けられている。
【0026】
このロールバー装置2は、前記各シート5のシートバック5aの後側近傍に配置された逆U字形状の左,右のロールバー22,22と、該各ロールバー22が結合され、車幅方向に延びる金属パイプ製の第1クロスバー部材23と、該第1クロスバー部材23の車両前側下方にオフセット配置された車幅方向に延びる金属パイプ製の第2クロスバー部材24と、前記左,右のセンターピラー部材11に配設された板金製のブラケット25,25とを備えている。
【0027】
また前記ロールバー装置2は、前記第1,第2クロスバー部材23,24の左,右側部同士を上下方向に連結する金属パイプ製の連結バー部材26,26と、前記第1,第2クロスバー部材23,24の左,右側部と前記連結バー部材26とを連結する平板状のカバー部材27とを備えている。
【0028】
前記連結バー部材26は、段付き状に屈曲形成されている。この左,右の連結バー部材26の上端部26aには、前記第1クロスバー部材23の側端面23aが溶接により結合されている。また左,右の連結バー部材26の下端面26bは、前記第2クロスバー部材24の外端部24aに溶接により結合されている。
【0029】
前記左,右の連結バー部材26の上端面には、乗員をシート5に拘束するシートベルト装置のベルトアンカ21が取り付けられており、前記カバー部材27には、不図示のシートベルトリトラクタが取り付けられている。なお、前記ベルトアンカ21を第1クロスバー部材23に取り付けてもよい。
【0030】
前記カバー部材27は、前記第1,第2クロスバー部材23,24及び連結バー部材26に溶接により結合されている。このように、第1,第2クロスバー本体23,24の左,右側部をカバー部材27により結合したので、第1,第2クロスバー部材23,24の捩じれ剛性を高めることができる。ここで、平板状のカバー部材27に替えて、図2の二点鎖線に示すように、縦壁と横壁とを有する棚状のカバー部材27′を採用してもよい。
【0031】
前記左,右のブラケット25は、車両側方から見ると,車両前斜め下方に傾斜する斜辺部25aと、車両前後方向に略水平をなすよう延びる下辺部25bと、上下方向に延びる後縦辺部25cとを有する大略直角三角形状のものである(図6参照)。
【0032】
また前記左,右のブラケット25は、車両前方から見ると、下辺部25bより上側部分25dが車内側に偏位するよう屈曲形成されており、この上側部分25dに前記連結バー部材26が溶接により結合されている(図5参照)。これによりセンターピラー部材11とブラケット25との間には空間bが設けられている。この空間bには、例えば電動開閉式ルーフを搭載した場合の開閉リンク機構等が配設される。
【0033】
前記第1クロスバー部材23は、前記連結バー部材26を介在させて前記ブラケット25の斜辺部25aの上端部に結合されている。また前記第2クロスバー部材24は、前記ブラケット25の下辺部25bの前後方向中央部分に溶接により直接結合されている。
【0034】
前記ブラケット25の下辺部25bの前端部25f及び後端部25gには、それぞれ上下一対のボルト挿通孔25hが形成されている。この前端部25fと後端部25gとの前後間隔は、センターピラー部材11の前後寸法と大略同じとなるように設定されている。このように前後間隔を大きくすることにより、第1,第2クロスバー部材23,24の捩じれ剛性を高めることができる。
【0035】
前記前端部25fは、前記センターピラー部材11の前フランジ部11a近傍のインナパネル18とリインホース19との重ね合わせ部に当接するよう車外側に段付き状に屈曲形成されている。また後端部25gは、前記センターピラー部材11の後フランジ部11b近傍のインナパネル18とリインホース19との重ね合わせ部に当接するよう車外側に突出するよう膨出形成されている。
【0036】
そして前記ブラケット25の前端部25f及び後端部25gは、前記センターピラー部材11の閉断面a内に車幅方向に架け渡して配置された円筒状の各前,後カラー部材29,30を介して各締結ボルト31を締め付けることにより該センターピラー部材11に結合されている。
【0037】
この各カラー部材29,30は、前記センターピラー部材11のアウタパネル17とリインホース19との間に配置されており、該各カラー部材29,30内に挿入した締結ボルト31を締め付けることにより、センターピラー部材11とブラケット25とを結合している。
【0038】
前記ブラケット25の前端部25fは、前記インパクトビーム20の後端部20aと略同じ高さに位置しており、車両側方から見たとき、前記後端部20aとラップしている。また前記第2クロスバー部材24は、インパトビーム20の後端部20aと略同じ高さ位置に配置されている。これにより側面衝突時の側突荷重は、インパクトビーム20からセンタ-ピラー部材11,ブラケット25を介して第2クロスバー部材24にダイレクトに伝達される。
【0039】
本実施例によれば、ロールバー装置2を、ロールバー22が結合された第1クロスバー部材23と、該第1クロスバー部材23の車両前側下方に配置された第2クロスバー部材24と、大略直角三角形状のブラケット25,25とを備えたものとし、第1クロスバー部材23をブラケット25の斜辺部25aの上側部分に結合し、第2クロスバー部材24をブラケット25の下辺部25bの前後中央部に結合し、該下辺部25bの前端部25f及び後端部25gをそれぞれセンターピラー部材11の閉断面a内に車幅方向に架け渡して配置された前,後カラー部材29,30を介して締結ボルト31により該センターピラー部材11に結合する構成とした。
【0040】
このように構成したので、転倒時のロール荷重を、第1,第2クロスバー部材23,24からブラケット25を介してセンターピラー部材11の閉断面a剛性を有効利用して該センターピラー部材11に効率よく分散させて伝達することができる。これにより板厚を大きくしたり,補強部材を追加したりすることなく、ロール荷重に対応できる。
【0041】
また前記第1,第2クロスバー部材23,24をブラケット25を介して左,右のセンターピラー部材11に結合したので、フロア位置が低い車両にも採用することができ、従来のフロアに結合するための延設部を不要にでき、装置全体を小型化できるとともに、重量及びコストを低減できる。
【0042】
本実施例では、側面衝突時の側突荷重を、センターピラー部材11の前,後カラー部材29,30を介してブラケット25から第1,第2クロスバー部材23,24に効率よく分散させて伝達することができる。これにより板厚を大きくしたり,補強部材を追加したりすることなく、側突荷重に対応できる。
【0043】
またベルトアンカ21に作用する前方への引っ張り荷重を、第1,第2クロスバー部材23,24と三角形状のブラケット25とで受けるとともに、前,後カラー部材29,30を介してセンターピラー部材11の閉断面aに効率よく分散させて伝達することができる。その結果、板厚を大きくしたり、補強部材を追加したりすることなく、引っ張り荷重に対応できる。
【0044】
本実施例では、前記第1,第2クロスバー部材23,24を左,右のブラケット25に結合し、該ブラケット25を前,後カラー部材29,30を介してセンターピラー部材11に結合する構造としたので、従来のピラー部材とフロアに結合する場合に比べて装置全体を小型化できるとともに、重量及びコストを低減でき、かつロール荷重,側突荷重及び引っ張り荷重の何れの入力に対しても対応することができる。
【0045】
このようにロールバー装置2の小型化,軽量化が可能となるので、分割することなく一括して車体に搭載することができ、組み付け作業を容易に行うことができる。即ち、従来装置の場合は、大型化,重量化することから、分割して車体に搭載した後、組み付ける必要があり、作業性が低いという問題があった。
【0046】
本実施例では、ブラケット25の前端部25fとインパクトビーム20の後端部20aとを車幅方向にラップさせたので、側突荷重をインパクトビーム20からブラケット25を介して第2クロスバー部材24にダイレクトに伝達することができ、ドア4の室内への進入量をより一層抑制することができる。
【符号の説明】
【0047】
2 ロールバー装置
5 シート
11 センターピラー部材
22 ロールバー
23 第1クロスバー部材
24 第2クロスバー部材
25 ブラケット
25f 前端部
25g 後端部
29,30 カラー部材
31 締結ボルト(締結部材)
a 閉断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの後方に車幅方向に延びるように配設され、左,右のピラー部材に取り付けられる自動車のロールバー装置であって、
前記シートのシートバックの後方近傍に配設されたロールバーと、
該ロールバーが結合された第1クロスバー部材と、
該第1クロスバー部材の前側下方にオフセット配置された第2クロスバー部材と、
前記左,右のピラー部材に配設されたブラケットとを備え、
前記第1クロスバー部材は、前記ブラケットの上側部分に結合され、
前記第2クロスバー部材は、前記ブラケットの下側部分に結合され、
該ブラケットの少なくとも前端部及び後端部は、それぞれ前記ピラー部材の閉断面内に車幅方向に架け渡して配置されたカラー部材を介して締結部材により該ピラー部材に結合されている
ことを特徴とする自動車のロールバー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−201299(P2012−201299A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69625(P2011−69625)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】