説明

自動車の前部車体構造

【課題】 既存の部材を有効に利用して重量の増加を抑制しつつ、前方からの荷重を広範囲に分散伝達させることができる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】 車室の前壁部を構成するダッシュパネル3と、車幅方向に延びこのダッシュパネルに接合されるダッシュクロスメンバ10と、ダッシュパネル3に接合されこのダッシュパネル3に対するブレーキブースタの取付部分を補強するブースタ取付用レインフォースメント19とを備える。ダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部は車両前後方向に沿って延びるフロアトンネル部12の前端部に接合される。ブースタ取付用レインフォースメント19はレイン本体20とこのレイン本体20から車幅方向内側に延出してダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部に接合される補強アーム部21とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の前壁部を構成するダッシュパネルを含む自動車の前部車体構造に関し、詳しくはこのダッシュパネルにブレーキブースタなどの車両用補機を取り付ける場合にこの取付部分を補強する補機レインフォースメントを備える自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、自動車の車室とエンジン室とを仕切る仕切部としてダッシュパネルが、カウルパネルとフロアパネルとの間に配設されている。このダッシュパネルの前面または後面に、車幅方向に沿ってダッシュクロスメンバが接合され、このダッシュクロスメンバによってダッシュパネルの強度を向上させている。また、このダッシュパネルには、種々の車両用補機が取り付けられ、例えばブレーキペダルに入力される踏力を増強するブレーキブースタが取り付けられている。このブレーキブースタの支持剛性を高めるために、ダッシュパネルにおけるブレーキブースタの取付部分にブースタ取付用レインフォースメントが接合されることがある。
【特許文献1】特開2000−95148号公報(図8参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種の自動車においては、衝撃力等が入力された場合に局所的に負荷が作用することを回避してこの衝撃力等を緩和するために、前方から入力された荷重を分散させつつ、車両後方側に伝達させることが望まれており、自動車の前部車体構造についても従来から種々の工夫が施されている。
【0004】
ここで、特許文献1に示される自動車の前部車体構造においては、ダッシュパネルに入力された荷重はダッシュクロスメンバやブースタ取付用レインフォースメントを介して左右のサスペンションアッパブラケットに伝達され、これにより入力された荷重を分散伝達させるように構成されているが、緩衝のためにはさらなる荷重の分散が求められる。
【0005】
特に、特許文献1に記載の前部車体構造においては、ブースタ取付用レインフォースメントをさらに拡大してこのレインフォースメントを他の強度部材に接続させることも考えられるが、この場合には、レインフォースメントの重量が大幅に増加するという不都合が生じることになる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、既存の部材を有効に利用して重量の増加を抑制しつつ、前方からの荷重を広範囲に分散伝達させることができる自動車の前部車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る自動車の前部車体構造は、車室の前壁部を構成するダッシュパネルと、車幅方向に延びこのダッシュパネルに接合されるダッシュクロスメンバと、上記ダッシュパネルに接合されこのダッシュパネルに対する車両用補機の取付部分を補強する補機レインフォースメントとを備え、上記ダッシュクロスメンバの車幅方向中央部は車両前後方向に沿って延びるフロアトンネル部の前端部に接合され、上記補機レインフォースメントはレイン本体とこのレイン本体から車幅方向内側に延出してダッシュクロスメンバの車幅方向中央部に接合される補強アーム部とを有することを特徴とするものである。
【0008】
この発明によれば、補機レインフォースメントは、レイン本体と、このレイン本体から車幅方向内側に延出してダッシュクロスメンバの車幅方向中央部に接合される補強アーム部とを有するので、補機レインフォースメントに入力される荷重は、レイン本体を介してだけでなく、補強アーム部を介しても伝達され、これにより入力荷重を効率的に分散させることができる。しかも、補機レインフォースメントを有効に利用し、また、レイン本体を単に拡大するのではなく、このレイン本体から延出する補強アーム部を通じて荷重が伝達されるので、重量の増加を可及的に抑制することができる。また、この補強アーム部が接合されるダッシュクロスメンバの車幅方向中央部分は、車両前後方向に沿って延びるフロアトンネル部の前端部に接合されるので、補強アーム部を通じて伝達された荷重は、フロアトンネル部を通じて車両の後方側に伝達させることができ、補機レインフォースメントに入力された荷重をより広範囲に分散させることができる。
【0009】
上記車両用補機は、特に限定されるものではないが、上記車両用補機は、ブレーキペダルの操作力を増強してブレーキ力を発生させるブレーキブースタであるであるのが好ましい(請求項2)。
【0010】
すなわち、ブレーキブースタの取り付けにあたってブースタ取付用レインフォースメントが用いられることがあり、この強度部材であるブースタ取付用レインフォースメントを有効に利用して前部車体構造を構成することができる。
【0011】
上記ダッシュクロスメンバの車幅方向両端部は、サスペンションタワー等に接合されるものであってもよいが、車両後方側に入力荷重を分散させる観点から車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームに接合されるのが好ましく、この場合には、この接合部分またはその周辺に上記レイン本体の下端部が接合されるのが好ましい(請求項3)。
【0012】
このように構成すれば、補機レインフォースメントに入力された荷重をレイン本体と補強アーム部とを通じて効率的に車両後方側に分散して伝達させることができる。
【0013】
レイン本体の上端部は、その具体的接合箇所が特に限定されるものではなく、例えばダッシュパネルの表面の所定箇所に接合されるものであってもよいが、上記レイン本体の上端部はダッシュクロスメンバの上方において車幅方向に延びるカウルパネルに接合されるのが好ましく、またこの場合に、上記補強アーム部はレイン本体とダッシュクロスメンバとの間に筋交状に配設されているのが好ましい(請求項4)。
【0014】
このように構成すれば、レイン本体に入力された荷重はレイン本体を通じてカウルパネルに伝達され、このカウルパネルを通じて車体上部にも分散して伝達させることができる。すなわち、より広い範囲に荷重を分散させることができる。
【0015】
ところで、通常、車体下部は車体上部に比べて剛性が高く構成されることから、補強アーム部がダッシュクロスメンバとレイン本体との間に筋交状に配設されることにより、この剛性が高い車体下部に伝達される荷重を大きくすることができ、補機レインフォースメントに入力される荷重を広範囲に、かつ、適正に分散させることができる。
【0016】
上記補強アーム部は、プレート状に形成され、ダッシュパネルに重合接合されるものであってもよいが、上記補強アーム部は、車両前後方向に膨出してダッシュパネルとともに閉断面を形成するように構成されているのが好ましい(請求項5)。
【0017】
このように構成すれば、補強アーム部の剛性を向上させることができ、より効率的に荷重を伝達させることができる。
【0018】
ここで、上記フロントトンネル部にはこのフロアトンネル部とともに車両前後方向に延びる閉断面を形成するトンネルレインフォースメントが接合され、このトンネルレインフォースメントはその前端部がダッシュパネルに接合されているのが好ましい(請求項6)。
【0019】
このように構成すれば、トンネルレインフォースメントによってフロントトンネル部の剛性を向上させることができ、これによりフロントトンネル部に入力される荷重が増大してもより確実かつ適正に荷重を伝達させることができる。
【0020】
この発明において、補機レインフォースメントのレイン本体と補強アーム部とに跨って車両を操作するための操作用ペダルが取り付けられているのが好ましい(請求項7)。
【0021】
すなわち、このレイン本体と補強アーム部とに跨って、クラッチペダル、アクセルペダルやフット式パーキングブレーキペダル等の各種操作用ペダルが取り付けられるのが好ましく、このように構成すれば、補強アーム部を有効に利用して操作用ペダルの支持剛性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の自動車の前部車体構造によれば、補機レインフォースメントを有効に利用して車重の増加を可及的に抑制しつつ、前方から入力される荷重を広範囲に分散伝達させることができ、車体に入力される衝撃力等を効果的に吸収することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。図1はこの発明の一実施形態に係る自動車の前部車体構造を後方側から示す斜視図であり、図2は同前部車体構造を前方側から示す斜視図である。また、図3は、同前部車体構造の背面図である。
【0024】
各図に示されるように、この前部車体には、車室の前壁部を構成するダッシュパネル3と、ブレーキペダル5(図4参照)の操作力を増強してブレーキ力を発生させるブレーキブースタ4(車両用補機の一例に相当)とが設けられている。ダッシュパネル3は、車室の前面部を覆うように形成された板状体であり、鋼板から形成されている。
【0025】
このダッシュパネル3は、図4に示すように、フロアパネル6の前端縁から斜め上方に延びる傾斜壁部7と、この傾斜壁部の上端から略鉛直方向に起立する起立壁部8とを有し、この起立壁部8の上端部が略水平に折り曲げられて車幅方向に延びるカウルパネル9の下面に接合されている。また、起立壁部8の前面、言い換えると、起立壁部8のエンジン室側の壁面の下端部には、カウルパネル9の下方において車幅方向に延びるダッシュクロスメンバ10が取り付けられている。なお、カウルパネル9はその車幅方向両端部がAピラーに接合されている。
【0026】
ダッシュクロスメンバ10は、図4に示すように、鋼板を屈曲して断面視略ハット状に形成され、その開口縁のフランジ部10aが起立壁部8の前面下端部に接合されることにより、起立壁部8の前面とともに車幅方向に延びる閉断面Cを構成している。このダッシュクロスメンバ10の車幅方向両端部は、図2に明示するように、車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム11におけるキックアップ部11aの前端部に接合されている。すなわち、ダッシュクロスメンバ10は、その両端部において、車両前後方向に延びる強度部材に接合されている。
【0027】
また、図3および図5に示すように、このダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部は、車幅方向中央部に沿って車体の前後方向に延びるフロアトンネル部12の上面壁に接合されている。具体的には、このフロアトンネル部12の上面壁は、前上がり状に傾斜する傾斜壁部12aと、この傾斜壁部12aの先端から上方に延出し起立壁部8との境界部分を構成する起立境界壁部12bとを有し、この起立境界壁部12bの前面がダッシュクロスメンバ10の下側フランジ部10aに接合されている。また、このフロアトンネル部12の外側には、このフロアトンネル部12の上部とともに車両前後方向に延びる閉断面C2を形成するトンネルレインフォースメント13が配設されている。
【0028】
トンネルレインフォースメント13は、図1および図3に示すように、断面視略M字状に形成され、その側壁13aの内面がフロアトンネル部12の外側面上部にスポット溶接等により接合されるとともに、天壁中央平面部13bがフロアトンネル部12の上面に重合され、スポット溶接等により接合されている。このトンネルレインフォースメント13は、図5に示すように、その前端部が略上向きに折り曲げられ、フロアトンネル部12の起立境界壁部12b、言い換えると起立壁部8の下端部の後面に接合されている。
【0029】
すなわち、このフロアトンネル部12と起立壁部8との境界部分である起立境界壁部12bの前後各面に、ダッシュクロスメンバ10またはトンネルレインフォースメント13が接合されている。なお、当実施形態では、ダッシュパネル3とフロアパネル6とは別体に形成されているが、フロアトンネル部12の前端部がダッシュパネル3と一体に形成されている。
【0030】
また、ダッシュパネル3の起立壁部8には、図2に示すように、種々の形状、大きさの開口部14〜17が貫設されている。これらの開口部14〜17は、各種の車両用補機の一部やこの補機に接続される各種ケーブルが挿通されるものである。
【0031】
これらの開口部14〜17のうち、車幅方向について運転席側(当実施形態では車幅方向右側)に配設された開口部14には、図4に示すように、ブレーキブースタ4がそのバルブ・オペレーティング・ロッド4aを含む後端突出部4bを挿通させた状態で装着されている。また、この開口部14の周囲には複数個(図例では4個)のねじ挿通孔18が穿設され、このねじ挿通孔18にはブレーキブースタ4のパワーシリンダ4cの背面に突設されたスタッドボルト4dが挿通されている。
【0032】
このブレーキブースタ4が装着されたダッシュパネル3の後面側には、当該ダッシュパネル3によるブレーキブースタ4の支持剛性を向上させるためのブースタ取付用レインフォースメント19(補機レインフォースメントの一例に相当)がその周囲をダッシュパネル3の後面にスポット溶接等されることにより接合されている。このブースタ取付用レインフォースメント19は、その外観が、図6に示すように、車幅方向内側の側縁部、すなわちフロアトンネル部12側の側縁部が当該フロアトンネル部12側に延出し、その延出基端部分の下端から上方に延びる切欠き部19aが設けられた形状を呈している。
【0033】
具体的には、ブースタ取付用レインフォースメント19は、略矩形状に形成されたレイン本体20と、このレイン本体20の車幅方向内側の側縁上部から斜め下方に延びる補強アーム部21とを備え、一枚の鋼板をプレス加工することにより一体に形成されている。
【0034】
レイン本体20は、大部分の領域がダッシュパネル3の後面に当接するとともに一部の領域が後方に膨出してダッシュパネル3の後面から離間するように形成され、これにより剛性を向上させている。このレイン本体20は、図4に示すように、その上端部がカウルパネル9の後面にスポット溶接等により接合されるとともに、その下端部がダッシュクロスメンバ10の上側フランジ部10aが接合されるダッシュパネル3の後面にスポット溶接等により接合されている。すなわち、このレイン本体20の下端部は、ダッシュパネル3を介してダッシュクロスメンバ10に接合されている。さらに、このレイン本体20の下端部は、車幅方向について、ダッシュパネル3を介してダッシュクロスメンバ10とフロントサイドフレーム11とに跨ってスポット溶接等により接合されている。したがってこのレイン本体20の下端部は、ダッシュクロスメンバ10とフロントサイドフレーム11との接合部分にもダッシュパネル3を介して接合されることになる。
【0035】
また、レイン本体20の中央部には、ダッシュパネル3の開口部14に連通するレイン貫通孔22が貫設されるとともに、このレイン貫通孔22の周囲に上記ねじ挿通孔18に連通するねじ挿通孔23が貫設されている。このレイン貫通孔22はブレーキブースタ4の後端突出部4bが挿通されるものであり、ねじ挿通孔23はブレーキブースタ4のスタッドボルト4dがそれぞれ挿通されるものである。したがって、ブレーキブースタ4は、その後端突出部4bを開口部14およびレイン貫通孔22に挿通させるとともに、スタッドボルト4dをねじ挿通孔18,23に挿通させ、このスタッドボルト4dにナット24を螺着することによりダッシュパネル3の前面に装着されている。
【0036】
さらに、レイン本体20の上部には、図4および図6に示すように、ブレーキペダル5のペダルブラケット25を取り付けるための左右一対のペダル取付部26が設けられている。このペダル取付部26には、スタッドボルト26aが立設されており、このスタッドボルト26aにペダルブラケット25を取り付けられることによりブレーキペダル5が装着されている。このブレーキペダル5のレバー5aは中間部においてバルブ・オペレーティング・ロッド4aが枢支され、ブレーキペダル5の操作力がブレーキブースタ4に入力されるように構成されている。
【0037】
一方、補強アーム部21は、図3に明示するように、背面視において上方に凸のアーチ状に湾曲形成され、下端部がダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部に接合されている。したがって、この補強アーム部21はレイン本体20とダッシュクロスメンバ10との間に筋交状に配設され、補強アーム部21とレイン本体20とによって構成される切欠き部19aがダッシュパネル3の開口部15に連通するように配置されている。
【0038】
具体的には、補強アーム部21の下端部は、ダッシュクロスメンバ10における車幅方向中央部であって、フロアトンネル部12の起立境界壁部12bとの接合部分から車幅方向外側に外れた部分、すなわちレイン本体20寄りの部分に、図8に示すように、ダッシュパネル3を介してスポット溶接等により接合されている。このように、補強アーム部21の下端部がダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部にダッシュパネル3を介して接合されているとともに、このダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部には上記したようにフロアトンネル部12の前端部(起立境界壁部12b)が接合されるので、補強アーム部21を通じて伝達された荷重はダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部を通じてフロアトンネル部12およびトンネルレインフォースメント13に伝達される。
【0039】
この補強アーム部21は、幅方向の中央領域27が後方に膨出してビード状に形成され、図7に示すように、ダッシュパネル3の後面とともに閉断面C3を構成している。この閉断面C3により補強アーム部21の剛性が向上され、この補強アーム部21を通じて効率的に荷重が伝達できるようになっている。
【0040】
このブースタ取付用レインフォースメント19には、その補強アーム部21とレイン本体20とに跨ってクラッチペダルユニット28が取り付けられている。すなわち、ブースタ取付用レインフォースメント19の切欠き部19aの周辺は、比較的平坦に形成されるとともに、後方に膨出して当たり部29が形成され、この当たり部29にペダル装着用のスタッドボルト30が立設されている。図1に示すように、このスタッドボルト30にクラッチペダルユニット28の取付ブラケット31が支持されてナット(図示せず)により螺着され、これによりこのブースタ取付用レインフォースメント19にクラッチペダルユニット28が取り付けられている。このクラッチペダルユニット28から延びるワイヤ(図示せず)は、ブースタ取付用レインフォースメント19の切欠き部19aおよびダッシュパネル3の開口部15を通してエンジン室内に引き込まれている。
【0041】
なお、ダッシュクロスメンバ10の閉断面C内であって、車幅方向についてレイン本体20のフロアトンネル部12側の側縁部と補強アーム部21との間には、図4および図8に示すように、ダッシュクロスメンバ10の強度を向上させるための補助レインフォースメント35が配設されている。この補助レインフォースメント35は、断面視略コ字状に形成され、車幅方向左右両端部の外面がダッシュクロスメンバ10の内面に接合されている。
【0042】
以上のように構成された自動車の前部車体構造によれば、ブースタ取付用レインフォースメント19はレイン本体20とこのレイン本体20からフロアトンネル部12側に延出してダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部に接合される補強アーム部21とを備えるとともに、この補強アーム部21が接合されるダッシュクロスメンバ10の中央部はフロアトンネル部12の前端部に接合されているので、衝突等によって自動車の前方側から荷重が入力されてブースタ取付用レインフォースメント19を通じてレイン本体20に荷重が入力された場合には、補強アーム部21を通じてフロアトンネル部12にも荷重が分散される。
【0043】
すなわち、自動車の前方側からレイン本体20に荷重が入力された場合には、このレイン本体20からカウルパネル9、ダッシュクロスメンバ10およびフロントサイドフレーム11に荷重が分散伝達されるだけでなく、補強アーム部21を通じてダッシュクロスメンバ10の車幅方向中央部、およびフロアトンネル部12並びにトンネルレインフォースメント13に荷重が分散伝達され、これにより入力荷重を効率的に分散させて車体の広範囲にわたってエネルギーを吸収させ、衝撃を緩和することができる。
【0044】
しかも、この入力荷重の分散にあたって、ブレーキブースタ4の支持剛性を向上させるための強度部材であるブースタ取付用レインフォースメント19を有効に利用し、また従来の構造におけるブースタ取付用レインフォースメントを改良して単にこのレインフォースメントを拡大するのではなく、このレイン本体20における上側の側縁部から筋交状に延出する補強アーム部21を通じて荷重が伝達されるように構成されるので、重量の増加を可及的に抑制することができる。
【0045】
ところで、通常、車体下部は車体上部に比べて剛性が高く構成されることから、補強アーム部21がダッシュクロスメンバ10とレイン本体20との間に筋交状に配設されることにより、この剛性が高い車体下部に伝達される荷重を大きくすることができ、ブースタ取付用レインフォースメント19に入力される荷重を広範囲に、かつ、適正に分散させることができる。
【0046】
なお、以上に説明した自動車の車体前部構造は、本発明に係る構造の一実施形態であって、同構造の具体的構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、変形例を以下に説明する。
【0047】
(1)上記実施形態では、補助アーム部21がレイン本体20の側縁部上側からフロアトンネル部12側に向かって延出し、レイン本体20とダッシュクロスメンバ10との間に筋交状に配設されているが、この補強アーム部21はレイン本体20の側縁部の一部がフロアトンネル部12側に向かって延出するものであれば、その具体的形状が特に限定されるものではない。
【0048】
例えば、補強アーム部は、矩形状のレイン本体20の側縁部下側からダッシュクロスメンバ10に沿って車幅方向、フロアトンネル部12側に延びて形成されるものであってもよい。或いは、矩形状のレイン本体20の側縁部がトライアングル状にフロアトンネル部12側に延出し、この延出部の中央部にダッシュパネル3の開口部15よりも一回り大きい大開口部を設けるようにしてもよい。このように構成しても、重量の増加を抑制しつつ、ブースタ取付用レインフォースメント19に入力される荷重を車両前後方向に延びる強度部材に効率的に分散して伝達させることができる。
【0049】
(2)また、上記実施形態では、補強アーム部21の下端部が、フロアトンネル部12の前端部が接合される部分からレイン本体20側に外れた位置に接合されているが、この補強アーム部21の下端部を直接フロアトンネル部12の前端部に接合するものであってもよい。ただし、上記実施形態のように、フロアトンネル部12の前端部が接合された部分から外れたダッシュクロスメンバ10の中央部に、補強アーム部21の下端部が接合されると、このダッシュクロスメンバ10を通じて反対側(フロアトンネル部12に対してレイン本体20側と反対側)のフロントサイドフレームにも荷重を伝達させることができ、より広範囲に入力荷重を分散させることができる。
【0050】
(3)上記実施形態では、ダッシュクロスメンバ10の車幅方向両端部は、フロントサイドフレーム11に接合されているが、この両端部がサスペンションタワーに接合されるものであってもよい。ただし、車両前後方向に延びる強度部材に効率的に入力荷重を分散伝達させるには、上記実施形態のように、ダッシュクロスメンバ10の車幅方向両端部がフロントサイドフレーム11に接合されるのが好ましい。
【0051】
(4)上記実施形態では、レイン本体20の上端部がカウルパネル9に接合されているが、ダッシュパネル3の後面上端部に接合されるものであってもよい。ただし、レイン本体20の上端部がカウルパネル9に接合されることにより、車幅方向に延びるカウルパネルおよびこのカウルパネルが接合されているAピラーを通じて車体上部構造にも荷重を分散させることができる。
【0052】
(5)上記補強アーム部21は平坦なプレートとして形成されるものであってもよいが、上記実施形態のように一部車両後方に膨出させてダッシュパネル3とともに閉断面C3を構成するのが好ましい。このようにすれば、重量の増加を抑制しつつ、補強アーム部21の強度を向上させることができる。
【0053】
(6)なお、ブースタ取付用レインフォースメント19のレイン本体20と補強アーム部21との間に跨って取り付けられるペダルは、クラッチペダルの他、フット式パーキングブレーキペダルであってもよく、運転席が車両左側に設けられる場合にはアクセルペダルを配設するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動車の前部車体構造を後方側から示す斜視図である。
【図2】同構造を前方側から示す斜視図である。
【図3】同構造を示す背面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】ブースタ取付用レインフォースメントを示す斜視図である。
【図7】図3のVII−VII線断面図である。
【図8】図3のVIII−VIII線断面図である。
【符号の説明】
【0055】
3 ダッシュパネル
4 ブレーキブースタ(車両用補機)
5 ブレーキペダル(ペダル)
9 カウルパネル
10 ダッシュクロスメンバ
11 フロントサイドフレーム
12 フロアトンネル部
13 トンネルレインフォースメント
19 ブースタ取付用レインフォースメント
20 レイン本体
21 補強アーム部
27 中央領域
28 クラッチペダルユニット(操作用ペダル)
C 閉断面
C2 閉断面
C3 閉断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前壁部を構成するダッシュパネルと、車幅方向に延びこのダッシュパネルに接合されるダッシュクロスメンバと、上記ダッシュパネルに接合されこのダッシュパネルに対する車両用補機の取付部分を補強する補機レインフォースメントとを備え、
上記ダッシュクロスメンバの車幅方向中央部は車両前後方向に沿って延びるフロアトンネル部の前端部に接合され、上記補機レインフォースメントはレイン本体とこのレイン本体から車幅方向内側に延出してダッシュクロスメンバの車幅方向中央部に接合される補強アーム部とを有することを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
上記車両用補機は、ブレーキペダルの操作力を増強してブレーキ力を発生させるブレーキブースタであることを特徴とする請求項1記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
上記ダッシュクロスメンバの車幅方向両端部が車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームに接合されるとともに、この接合部分またはその周辺に上記レイン本体の下端部が接合されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動車の前部車体構造。
【請求項4】
上記レイン本体の上端部はダッシュクロスメンバの上方において車幅方向に延びるカウルパネルに接合され、上記補強アーム部はレイン本体とダッシュクロスメンバとの間に筋交状に配設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項5】
上記補強アーム部は、車両前後方向に膨出してダッシュパネルとともに閉断面を形成するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項6】
上記フロアトンネル部にはこのフロアトンネル部とともに車両前後方向に延びる閉断面を形成するトンネルレインフォースメントが接合され、このトンネルレインフォースメントはその前端部がダッシュパネルに接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項7】
補機レインフォースメントのレイン本体と補強アーム部とに跨って車両を操作するための操作用ペダルが取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−30627(P2007−30627A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214801(P2005−214801)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】