説明

自動車の前部車体構造

【課題】前面衝突時の衝撃力に対する衝撃吸収機能を確保しつつ、車両上方からの衝撃力に対する衝撃吸収機能を高めることができる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】アッパメンバ3の前後方向中途部より後側部分を、前面衝突時の衝撃力を車体後方に伝達する閉断面部3aとし、前側部分を、前記車両上方からの衝撃力を下方に変形することにより吸収する板形状部3bとし、該板形状部3bに衝撃吸収部材12が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後方向に延びるアッパメンバと、該アッパメンバの上方及び車幅方向外側方を覆うフェンダパネルと、車両上方からの衝突物による衝撃力を吸収する衝撃吸収部材とを備え、該衝撃吸収部材を介して前記フェンダパネルをアッパメンバに取り付けた自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、前面衝突時の衝撃力をアッパメンバを介して車体後方に伝達することで車室への影響を回避するとともに、車両上方からの衝突物による衝撃力を前記アッパメンバの上面に配置した複数の衝撃吸収部材により吸収することで被衝突物への影響を低減する構造を採用する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−334958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記従来の前部車体構造では、アッパメンバは前面衝突時の衝撃力の吸収機能を高めるために剛性の高い部材により構成されている。このため車両上方からの衝撃力を衝撃吸収部材が吸収しきれないときには、荷重が高剛性のアッパメンバにそのまま作用することとなり、衝撃力を十分に吸収できない場合がある。
【0004】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、前面衝突時の衝撃力に対する衝撃吸収機能を確保しつつ、車両上方からの衝撃力に対する衝撃吸収機能を高めることができる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両前後方向に延びるアッパメンバと、該アッパメンバの上方及び車幅方向外側方を覆うように配設されたフェンダパネルと、車両上方からの衝突物による衝撃力を吸収する衝撃吸収部材とを備え、該衝撃吸収部材を介して前記フェンダパネルをアッパメンバに取り付けるようにした自動車の前部車体構造であって、前記アッパメンバの前後方向中途部より後側部分を、前面衝突時の衝撃力を車体後方に伝達可能とする閉断面部とし、前側部分を、前記車両上方からの衝撃力を下方に変形することにより吸収する板形状部とし、該板形状部に前記衝撃吸収部材が取り付けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る前部車体構造によれば、アッパメンバの後側部分を前面衝突時の衝撃力を車体後方に伝達可能な閉断面部とし、前側部分を車両上方からの衝撃力を下方に変形することにより吸収可能な板形状部とし、該板形状部に衝撃吸収部材を取り付けたので、前面衝突時の衝撃力は剛性の高い閉断面部が車体後方に伝達することで吸収し、上方からの衝撃力は衝撃吸収部材が吸収することとなる。この場合、衝撃吸収部材が衝撃力を吸収しきれない場合は、板形状部が下方に変形することで吸収することとなる。これにより、前面衝突時の室内への影響を回避しつつ、車両上方からの衝撃力による被衝突物への影響を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0008】
図1ないし図8は、本発明の一実施形態による自動車の前部車体構造を説明するための図であり、図1,図2は自動車の前部車体の側面図,断面図(図1のII-II線断面図)、図3〜図6は前部車体フレームの側面図,平面図,正面図,断面図(図3のVI-VI線断面図)、図7,図8はアッパメンバの側面図,平面図である。
【0009】
図において、1は自動車の前部車体フレームを示している。該前部車体フレーム1は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の上方に配置された車両前後方向に延びる左,右のアッパメンバ3,3と、該左,右のアッパメンバ3と前記サンドメンバ2とに架け渡して結合された上下方向に延びる左,右のサスペンションタワー4,4と、前記左,右のアッパメンバ3の後端部に結合された上下方向に延びる左,右のフロントピラー5,5とを備えている。
【0010】
また前部車体フレーム1は、前記左,右のアッパメンバ3の上方及び車幅方向外側方を覆うように配設され、前輪6の上方を覆う左,右のフェンダパネル10,10と、該左,右のフェンダパネル10の上方を開閉可能に覆うフード11と、前記左,右のアッパメンバ3とフェンダパネル10との間に配設された衝撃吸収部材12,12とを備えている。なお、前部車体フレーム1は略左,右対称をなしている。
【0011】
前記左,右のサイドメンバ2は、直線状に延びるフロントメンバ部2aと、該フロントメンバ部2aの後端から斜め下方に延びるキック部2bと、該キック部2bの下端から後方に略直線状に延びるリヤメンバ部2cとを有する。前記左,右のキック部2bの下方にエンジンユニット(不図示)が搭載されている。
【0012】
前記左,右のアッパメンバ3の前端3′は、サイドメンバ2の前端2′より後方に位置しており、これにより形成された左,右のアッパメンバ3の前方の空間にヘッドライト14,14が配設されている。該ヘッドライト14の外周縁は前記フェンダパネル10とフード11とで囲まれている。
【0013】
前記左,右のサスペンションタワー4の前側には、アッパメンバ3とサイドメンバ2とを上下方向に連結する補強メンバ15,15が配置されている。該左,右の補強メンバ15は、車両側方から見ると、アッパメンバ3からサイドメンバ2のフロントメンバ部2aに向かって前下がりに傾斜する概ね三角形状をなしている。
【0014】
前記左,右の補強メンバ15は、車幅方向内側に配置されたインナメンバ15aと、該インナメンバ15aの外側に配置されたアウタメンバ15bとを結合することにより、上下方向に延びる閉断面を形成した構造を有する(図6参照)。
【0015】
前記補強メンバ15の内側壁15cには、前記サスペンションタワー4の外側壁4aが結合され、上側壁15dには、前記アッパメンバ3が結合されている。また補強メンバ15の下側壁15eには、サイドメンバ2のフロントメンバ部2aに結合されている。
【0016】
前記左,右のアッパメンバ3は、前後方向中途部より後側部分が矩形状の閉断面部3aをなし、前側部分が板形状部3bをなしており、詳細には以下の構造を有する。
【0017】
前記アッパメンバ3は、正面から見ると、概ねクランク形状をなすインナ部材17と、該インナ部材17の車幅方向外側の後側部分に配設されたアウタ部材18との2部材により構成されている。
【0018】
前記インナ部材17は、前後方向に延びる上壁部17aと、該上壁部17aの内縁から下方に延びる内側壁部17bと、該内側壁部17bの下縁から段付き状に下方に延びる接合部17cとを有し、該接合部17cが前記補強メンバ15に接合されている。
【0019】
前記接合部17cは、車両側方から見ると、これの前後方向寸法が上壁部17aの大略1/2程度に設定され、かつ該上壁部17aの後半部に位置している。また前記内側壁部17bの前縁部は、接合部17cの前端から上壁部17aの前端にいくほど上下寸法が小さくなるよう円弧状をなしている。
【0020】
前記アウタ部材18は、インナ部材17の後半部を外側から覆うように配置され、該インナ部材17の上壁部17aに接合された上辺部18aと、該上辺部18aの外縁から下方に延びる外辺部18bと、該外辺部18bの下縁から外側に屈曲して延びるフランジ部18cとを有し、該フランジ部18cが補強メンバ15に接合されている。
【0021】
これにより、前記閉断面部3aは、左,右のアッパメンバ3の後半部を構成するインナ部材17とアウタ部材18とで形成され、前記板形状部3bは、アッパメンバ3の前半部を構成するインナ部材17の片持ち形状の上壁部17aにより形成されている。即ち、前記閉断面部3aから前方に延びる上壁部17aの前半部が板形状部3bとなっている。
【0022】
前記アッパメンバ3の板形状部3bである上壁部17aの前端部に前記衝撃吸収部材12が配置されている。該衝撃吸収部材12は、横断面ハット状の板金製のものからなり、前記上壁部17aに接合された前,後フランジ部12a,12aと、該前,後フランジ部12aから上方に立ち上がる前,後板部12b.12bと、該前,後板部12bの上縁同士を連結する上板部12cとを有する。
【0023】
前記衝撃吸収部材12の上板部12cは、アッパメンバ3より車幅方向内側に偏位して延びる延長部12dを有する。該延長部12dには、前記フェンダパネル10の上縁から段落ち状に形成されたフランジ部10aがボルト20により取り付けられている(図2参照)。
【0024】
前面衝突時の衝撃力は、サイドメンバ2から補強メンバ15を介してアッパメンバ3の閉断面部3aに分散されて伝達され、該閉断面部3aからフロントピラー5を介して車体後方に伝達される。この場合、前記衝撃力は板形状部3bには作用しない。
【0025】
このように本実施形態によれば、アッパメンバ3の後半部を前面衝突時の衝撃力を車体後方に伝達可能な閉断面部3aとし、前半部を車両上方からの衝撃力を下方に変形することにより吸収可能な板形状部3bとし、該板形状部3bの前端部に衝撃吸収部材12を取り付けたので、前面衝突時の衝撃力は剛性の高い閉断面部3aが負担して車体後方に伝達し、上方からの衝突物による衝撃力はフェンダパネル10を介して衝撃吸収部材12が変形することにより吸収する。この場合、衝撃吸収部材12が吸収しきれなかった衝撃力は、板形状部3bが下方に変形することで吸収される。これにより、前面衝突時の室内への影響を回避しつつ、車両上方からの衝撃力による被衝突物への影響を低減できる。
【0026】
本実施形態では、前記アッパメンバ3の閉断面部3aを、インナ部材17とアウタ部材18とを組み合わせることで形成したので、閉断面部3aの大きさ,長さ,形状等の設定範囲を容易に調整できる。
【0027】
本実施形態では、前記衝撃吸収部材12を断面ハット状の板金製のものとし、上板部12cにアッパメンバ3より車幅方向内側に偏位して延びる延長部12dを形成し、該延長部12dにフェンダパネル10を取り付けたので、上方からの衝撃力によって延長部12dが容易に変形することとなり、衝撃吸収機能を高めることができる。
【0028】
なお、前記実施形態では、衝撃吸収部材を板金製により構成したが、本発明の衝撃吸収部材は、例えば硬質ゴム又は樹脂により構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態による自動車の前部車体の側面図である。
【図2】前記前部車体の断面図(図1のII-II線断面図)である。
【図3】前記自動二輪車の前部車体フレームの側面図である。
【図4】前記前部車体フレームの平面図である。
【図5】前記前部車体フレームの正面図である。
【図6】前記前部車体フレームの断面図(図3のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記前部車体フレームのアッパメンバの側面図である。
【図8】前記アッパメンバの平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 前部車体フレーム
3 アッパメンバ
3a 閉断面部
3b 板形状部
10 フェンダパネル
12 衝撃吸収部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるアッパメンバと、該アッパメンバの上方及び車幅方向外側方を覆うように配設されたフェンダパネルと、車両上方からの衝突物による衝撃力を吸収する衝撃吸収部材とを備え、該衝撃吸収部材を介して前記フェンダパネルをアッパメンバに取り付けるようにした自動車の前部車体構造であって、
前記アッパメンバの前後方向中途部より後側部分を、前面衝突時の衝撃力を車体後方に伝達可能とする閉断面部とし、前側部分を、前記車両上方からの衝撃力を下方に変形することにより吸収する板形状部とし、該板形状部に前記衝撃吸収部材が取り付けられていることを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−101847(P2009−101847A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275388(P2007−275388)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】