説明

自動車の前部車体構造

【課題】軽衝突時のボディ・ノーダメージとオフセット衝突時の折れモードコントロールとを両立させること。
【解決手段】左右のフロントホイールハウス27、28に取り付けられて断面構造部を構成する連結補強メンバ31、32を、フロントサイドフレーム11、12の側(縦壁部27A、28A)の下部メンバ31A、32Aと、ホイールハウスアッパメンバ25、26の側(湾曲壁部)27B、28Bの上部メンバ31B、32Bとに分割し、上部メンバ31B、32Bの強度を下部メンバ31A、32Aの強度より弱くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に関し、特に、フロントホイールハウスの補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノコック構造の自動車の前部車体構造として、上側をホイールハウスアッパメンバに接合され下側をフロントサイドフレームに接合されたフロントホイールハウスが設けられ、前記フロントホイールハウスの壁面に沿って配置されて前記フロントサイドフレームと前記ホイールハウスアッパメンバとを連結してフロントホイールハウスとで閉じ断面構造部を構成する溝形横断面形状の連結補強メンバを有するものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このような前部車体構造では、連結補強メンバの追加だけで、フロントホイールハウス剛性の飛躍的な向上を期待できる。
【特許文献1】特開2005−112175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前面衝突によってフロントサイドフレームの上下の動きが拘束され、その状態で前輪サスペンションが前側に進みながら沈み込むような場合、前輪サスペンションの沈み込みの動きをフロントホイールハウスが吸収しなくてはならなくなる。このため、軽衝突でもフロントホイールハウスに皺変形が生じ、車体修理を要することなり、リペアビリティが悪い。
【0005】
断面構造部を構成する連結補強メンバがフロントホイールハウスに取り付けられたものでは、フロントホイールハウス剛性が高いことにより、軽衝突時にフロントホイールハウスに皺変形が生じることがなく、リペアビリティが改善される。
【0006】
しかし、フロントサイドフレームの耐折れ性も向上するため、オフセット衝突(ODB)時に、フロントサイドフレームが折れ変形し難くなる。
【0007】
このように、連結補強メンバの単純な追加だけでは、軽衝突時のボディ・ノーダメージとオフセット衝突時の折れモードコントロールとを両立することが難しい。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、軽衝突時のボディ・ノーダメージとオフセット衝突時の折れモードコントロールとを両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による自動車の前部車体構造は、上側をホイールハウスアッパメンバに接合され下側をフロントサイドフレームに接合されたフロントホイールハウスが設けられ、前記フロントホイールハウスの壁面に沿って配置されて前記フロントサイドフレームと前記ホイールハウスアッパメンバとを連結してフロントホイールハウスとで閉じ断面構造部を構成する溝形横断面形状の連結補強メンバを有する自動車の前部車体構造であって、前記連結補強メンバは、互いに連結された前記フロントサイドフレームの側の下部メンバと前記ホイールハウスアッパメンバの側の上部メンバとにより分割構成されており、前記下部メンバと前記上部メンバとで、耐変形性に対する強度差を与えられており、前記上部メンバの強度が前記下部メンバの強度より小さいことを特徴としている。
【0010】
本発明による自動車の前部車体構造は、より詳細には、前記連結補強メンバが前記フロントホイールハウスの車体前方側の前縁部に沿って設けられており、前記フロントホイールハウスの前縁部は、前記ホイールハウスアッパメンバの側が湾曲壁部に、前記フロントサイドフレームの側が垂直近くに立ち上がった縦壁部になっており、前記湾曲壁部に前記上部メンバが取り付けられ、前記縦壁部に前記下部メンバが取り付けられている。
【0011】
本発明による自動車の前部車体構造は、より詳細には、前記フロントホイールハウスにダンパハウジングが一体形成されている。
【0012】
本発明の自動車の前部車体構造によれば、フロントホイールハウスに取り付けられて断面構造部を構成する連結補強メンバが、フロントサイドフレームの側(縦壁部)の下部メンバと、ホイールハウスアッパメンバの側(湾曲壁部)の上部メンバとに分割され、上部メンバの強度が下部メンバの強度より小さいことにより、フロントホイールハウスの過剰な剛性向上を招くことなく、軽衝突時にはフロントホイールハウスに皺変形が生じず、オフセット衝突(ODB)時にはフロントサイドフレームが折れ変形する程度に、フロントホイールハウスの剛性を適度に高めることができる。
【0013】
これにより、分割された連結補強メンバの下部メンバと上部メンバの、個別の耐変形性に対する強度設計によって、比較的容易に、軽衝突時のボディ・ノーダメージとオフセット衝突時の折れモードコントロールとを両立させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明による自動車の前部車体構造の実施形態を、図1〜図5を参照して説明する。
【0015】
本実施形態の前部車体構造は、骨格強度部材として、車体前後方向に延在する箱形断面の左右のフロントサイドメンバ11、12と、フロントサイドメンバ11、12の先端を互いに接続するフロントバンパビーム13とを有し、これらの内側にエンジンルーム14を画定している。
【0016】
左右のフロントサイドメンバ11、12は、各々、後端をアウトリガー15、16によって左右のサイドシルメンバ17、18の前端に固定接合されている。
【0017】
左右のフロントサイドメンバ11、12には主スチフナ19、補助スチフナ20が重ね合わせ接合されている。主スチフナ19は、例えば、高張力鋼により構成されており、フロントサイドフレーム11、12の長手方向に沿って長く、前端縁が車体前後方向に段差になっている。主スチフナ19の前端縁は、段差により、オフセット衝突時のフロントサイドフレーム11、12の折れ想定ライン(鉛直な折れライン)Aを車体前後方向に跨ぐ位置にある。
【0018】
左右のフロントサイドメンバ11、12の前端部には、各々フロントロアエックステンションメンバ21、22によってホイールハウスロアメンバ23、24の下端側が接合されている。ホイールハウスロアメンバ23、24の上端側にはホイールハウスアッパメンバ25、26の下端側が接合されている。
【0019】
左右のフロントサイドメンバ11、12とホイールハウスアッパメンバ25、26との間には、上側をホイールハウスアッパメンバ25、26に接合され、下側をフロントサイドフレーム11、12に接合された左右のフロントホイールハウス27、28が設けられている。
【0020】
フロントホイールハウス27、28にはダンパハウジング29、30が一体形成されている。このことは、車体構成部品点数の削減になり、軽量化、コストダウンに寄与する。
【0021】
フロントホイールハウス27、28の前縁部は、フロントサイドフレーム11、12の折れ想定ラインAより車体後部側にあり、このフロントホイールハウス27、28の前縁部の壁面に沿って溝形横断面形状の連結補強メンバ31、32が接合溶接されている。連結補強メンバ31、32は、フロントサイドフレーム11、12の側の下部メンバ31A、32Aと、ホイールハウスアッパメンバ25、26の側の上部メンバ31B、32Bとにより分割構成されている。
【0022】
フロントホイールハウス27、28の前縁部は、図3によく示されているように、フロントサイドフレーム11、12の側(下側)が垂直近くに立ち上がった縦壁部27A、28Aに、ホイールハウスアッパメンバ25、26の側(上側)が湾曲壁部27B、28Bになっている。
【0023】
下部メンバ31A、32Aは、下端をフロントサイドフレーム11、12に、上端を上部メンバ31B、32Bの下端に各々接合(連結)されている。上部メンバ31B、32Bは、下端を下部メンバ31A、32Aの上端に、上端をホイールハウスアッパメンバ25、26に各々接合(連結)されている。
【0024】
下部メンバ31A、32Aは、フロントホイールハウス27、28の縦壁部27A、28Aに沿って設けられ、上部メンバ31B、32Bは、フロントホイールハウス27、28の湾曲壁部27B、28Bに沿って設けられ、図4、図5に示されているように、各々、フロントホイールハウス27、28と共働して閉じ断面構造部を構成している。この閉じ断面構造部は、フロントホイールハウス27、28の剛性を高くする。
【0025】
ここで、重要なことは、上述のように分割構成された下部メンバ31A、32Aと上部メンバ31B、32Bとで、耐変形性に対する強度差を与えられていることである。耐変形性に対する強度差は、下部メンバ31A、32Aと上部メンバ31B、32Bとで、耐変形性(強度)が異なった材質の材料であるか、図4、図5に示されているように、異なった板厚にすることにより、与えることができる。
【0026】
本実施形態では、上部メンバ31B、32Bの板厚が下部メンバ31A、32Aの板厚より薄く、上部メンバ31B、32Bの強度が下部メンバ31A、32Aの強度より小さい。
【0027】
上部メンバ31B、32Bの強度が下部メンバ31A、32Aの強度より小さいことにより、フロントホイールハウス27、28の過剰な剛性向上を招くことなく、軽衝突時にはフロントホイールハウス27、28に皺変形が生じず、オフセット衝突(ODB)時にはフロントサイドフレーム11、12が折れ想定ラインAをもって折れ変形する程度に、フロントホイールハウス27、28の剛性を適度に高めることができる。
【0028】
これにより、分割された連結補強メンバ31、32の下部メンバ31A、32Aと上部メンバの31B、32B、個別の耐変形性に対する強度設計によって、比較的容易に、軽衝突時のボディ・ノーダメージとオフセット衝突時の折れモードコントロールとを両立させることができる。
【0029】
また、連結補強メンバ31、32がフロントホイールハウス27、28の前縁部と共にフロントサイドフレーム11、12の折れ想定ラインAより車体後部側にあることも、軽衝突時のボディ・ノーダメージとオフセット衝突時の折れモードコントロールとの両立に有効に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明による自動車の前部車体構造の一つの実施形態を示す全体斜視図である。
【図2】本発明による自動車の前部車体構造の一つの実施形態の要部の側面図である。
【図3】図2の線III−IIIに沿った拡大断面図である。
【図4】図3の線IV−IVに沿った断面図である。
【図5】図3の線V−Vに沿った断面図である。
【符号の説明】
【0031】
11、12 フロントサイドメンバ
13 フロントバンパビーム
14 エンジンルーム
15、16 アウトリガー
17、18 サイドシルメンバ
19 主スチフナ
20 補助スチフナ
21、22 エフロントロアエックステンションメンバ
23、24 ホイールハウスロアメンバ
25、26 ホイールハウスアッパメンバ
27、28 フロントホイールハウス
27A、28A 縦壁部
27B、28B 湾曲壁部
29、30 ダンパハウジング
31、32 連結補強メンバ
31A、32A 下部メンバ
31B、32B 上部メンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側をホイールハウスアッパメンバに接合され下側をフロントサイドフレームに接合されたフロントホイールハウスが設けられ、前記フロントホイールハウスの壁面に沿って配置されて前記フロントサイドフレームと前記ホイールハウスアッパメンバとを連結してフロントホイールハウスとで閉じ断面構造部を構成する溝形横断面形状の連結補強メンバを有する自動車の前部車体構造であって、
前記連結補強メンバは、互いに連結された前記フロントサイドフレームの側の下部メンバと前記ホイールハウスアッパメンバの側の上部メンバとにより分割構成されており、前記下部メンバと前記上部メンバとで、耐変形性に対する強度差を与えられており、前記上部メンバの強度が前記下部メンバの強度より小さいことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記連結補強メンバは前記フロントホイールハウスの車体前方側の前縁部に沿って設けられており、前記フロントホイールハウスの前縁部は、前記ホイールハウスアッパメンバの側が湾曲壁部に、前記フロントサイドフレームの側が垂直近くに立ち上がった縦壁部になっており、前記湾曲壁部に前記上部メンバが取り付けられ、前記縦壁部に前記下部メンバが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記フロントホイールハウスにダンパハウジングが一体形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−23385(P2009−23385A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185603(P2007−185603)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】