説明

自動車の前部車体構造

【課題】車体重量,コストアップの問題を招くことなく、エプロンメンバの根元からの倒れ込みを防止して車両衝突時の荷重を効果的にフロントピラーに伝達できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】エプロンメンバ3の内側壁部には、車両前方からの入力により折れ変形を誘発する剛性断点部a,bが設けられ、該剛性断点部a,bは、ストラットタワー6の軸芯を通る中心線Cとフロントピラー4の前端4′との間に位置するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の入力をサイドメンバからエプロンメンバを介してフロントピラーに伝達するようにした自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両衝突時のエネルギー吸収機能を高めることにより、車室への影響を回避する構造を採用している。例えば、特許文献1,2には、サイドメンバとエプロンメンバとを剛性部材により結合し、衝突時の入力をサイドメンバ,剛性部材を介してエプロンメンバからフロントピラーに分散させて伝達するようにしたエネルギー吸収構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−213245号公報
【特許文献2】特開2005−335619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造では、車両衝突時の入力によりエプロンメンバのカウル結合部が座屈変形し易いという懸念がある。このような座屈変形を抑制するには、エプロンメンバの板厚を大きくしたり、剛性,強度の高い鋼板に変更したりして補強することが考えられる。しかしながら、このようにすると、エプロンメンバ全体がフロントピラー結合部を起点に車内側に大きく倒れてしまうおそれがあり、衝突荷重をフロントピラーに効果的に伝達できなくなる。特に、エプロンメンバのフロントピラー結合部には、車体の組付け上の都合から上面視で隙間が生じることから、この隙間に起因してエプロンメンバが根元から車内側に倒れ易くなっている。また前記エプロンメンバの板厚を大きくしたり、高強度鋼板に変更したりすると車体重量及びコストアップを招くという問題が生じる。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車体重量,コストアップの問題を招くことなく、エプロンメンバの根元からの倒れ込みを防止して車両衝突時の荷重をフロントピラーに確実に伝達できる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、車両前後方向に延びるサイドメンバと、該サイドメンバの上方に車両前後方向に延びるよう配設され、車幅方向内側に位置する内側壁部と外側に位置する外側壁部とを有する略中空形状のエプロンメンバと、該エプロンメンバの後端部に接続された車両上下方向に延びるフロントピラーと、前記エプロンメンバと前記サイドメンバとに架け渡して接続された結合部材と、前記エプロンメンバの内側壁部に接続されたストラットタワーとを備えた自動車の前部車体構造であって、前記エプロンメンバの内側壁部には、車両前方からの入力により折れ変形を誘発する剛性断点部が設けられ、該剛性断点部は、前記ストラットタワーの軸芯を通る中心線と前記フロントピラーの前端との間に位置するように配置されていることを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、前記剛性断点部は、前記エプロンメンバのストラットタワーの上面を跨いだ上側及び下側にそれぞれ設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明に係る前部車体構造によれば、エプロンメンバの内側壁部に、ストラットタワーの中心線とフロントピラーの前端との間に位置するよう剛性断点部を設けたので、車両衝突時の入力によりエプロンメンバには剛性断点部を起点にして車内側への折れ変形が誘発されることとなり、エプロンメンバの折れ変形をコントロールすることが可能となる。これによりエプロンメンバの座屈変形を抑制できるとともに、フロントピラー結合部からの倒れ込みを抑制でき、衝突荷重をフロントピラーに効率よく伝達することができ、ひいては車室への影響を回避できる。
【0009】
本発明では、エプロンメンバに剛性断点部を設けるだけの構造であるので、前述の板厚をアップしたり、材質を変更したりする場合のような車体重量,コストアップを招くことはない。
【0010】
請求項2の発明では、剛性断点部をストラットタワーの上面を跨いだエプロンメンバの上側及び下側に設けたので、剛性,強度の高いストラットタワーの変形が容易となり、エプロンメンバの座屈変形及び倒れ込みをより確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体の側面図である。
【図2】前記前部車体の平面図である。
【図3】前記前部車体の断面図(図1のIII-III線断面図)である。
【図4】前記前部車体のエプロンメンバの分解斜視図である。
【図5】前記エプロンメンバの折れ変形を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による自動車の前部車体を説明するための図である。
【0014】
図において、1は自動車の前部車体を示している。この前部車体1は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の車幅方向外側の上方に配設された略中空形状をなすエプロンメンバ3,3と、該左,右のエプロンメンバ3の後端部3aに接続された車両上下方向に延びるフロントピラー4,4と、前記左,右のエプロンメンバ3と前記サイドメンバ2とに架け渡して接続された結合部材5,5と、前記左,右のエプロンメンバ3の内側に配設されたストラットタワー6,6とを備えている。
【0015】
また前記前部車体1は、該前部車体1をエンジン室Aと車室Bとに画成するダッシュパネル(図示せず)及び前記左,右のエプロンメンバ3,3を結合するように延びるカウルパネル7とを備えている。このカウルパネル7は、車幅方向に延びる前壁7aと後壁7bとを底壁7cにより一体に結合した上方に開口する断面大略ハット形状のものであり、前壁7a,後壁7bの左,右フランジ部7dが前記左,右のエプロンメンバ3に結合されている。
【0016】
前記カウルパネル7は、これの前壁7a,底壁7c部分が前記左,右のストラットタワー6の後側上方を覆うように配設されている。これによりエンジン室Aの前後長を縮小することにより、車室Bの拡大を図っている。
【0017】
前記左,右のサイドメンバ2は、前後方向に延びるフロント部2aと、該フロント部2aに続いて斜め下方に延びるキック部2bと、該キック部2bに続いて後方に延びるリヤ部2cとを有する。前記左,右のフロント部2a間にエンジンユニット(不図示)が搭載されており、前記左,右のキック部2b及びリヤ部2cの上面にフロアパネル(不図示)が配設されている。
【0018】
前記フロントピラー4は、断面略ハット形状のピラーアウタ14と、略平板形状のピラーインナ15との間に断面略ハット形状のピラーリインホース16を配設し、これらを一体的に結合することにより上下方向に延びる閉断面を形成した構造を有する。
【0019】
前記結合部材5は、上下方向に延びる閉断面構造を有し、これの上端部5aが前記エプロンメンバ3の前端部3bに結合され、下端部5bが前記サイドメンバ2のフロント部2aに結合されている。
【0020】
これにより車両衝突時の荷重は、サイドメンバ2から結合部材5を介してエプロンメンバ3に分散されて伝達され、該エプロンメンバ3からフロントピラー4に伝達される。
【0021】
前記ストラットタワー6は、不図示の前輪懸架装置のショックアブソーバを支持する支持孔6cが形成された上壁部6aと、該上壁部6aから下方に大略スカート形状をなすよう延びるストラット本体6bとを有する。このストラットタワー6の上端部は前記エプロンメンバ3に結合されており、下端部は前記サイドメンバ2に結合されている。
【0022】
前記エプロンメンバ3は、車幅方向内側に位置する内側壁部と外側に位置する外側壁部とを有する大略中空角筒形状のものであり、詳細には、アウタメンバ10とインナメンバ11とを閉断面をなすよう結合した構造を有する。
【0023】
前記アウタメンバ10は、上フランジ部10aと、該上フランジ部10aに続いて下方に屈曲して延びる外側壁10bと、該外側壁10bの下端から車内側に屈曲して延びる下側壁10cと、該下側壁10cの内端から下方に屈曲して延びる下フランジ部10dとを有する。
【0024】
前記インナメンバ11は、前記上フランジ部10aに溶接により結合された外フランジ部11aと、該外フランジ部11aに続いて車内側に延びる上側壁11bと、該上側壁11bの内端から下方に屈曲して延びる内側壁11cとを有し、該内側壁11cに続いて下方に延びる下フランジ部11dが前記下フランジ部10dに溶接により結合されている。
【0025】
前記エプロンメンバ3の内側壁部は、インナメンバ11の内側壁11c,下フランジ部11d及びアウタメンバ10の下フランジ部10dを含み、前記外側壁部は、アウタメンバ10の上フランジ部10a,外側壁10b及びインナメンバ11の外フランジ部11aを含む。
【0026】
前記アウタメンバ10は、外側壁10bに続いて後方に延びる延長部10eを有し、該延長部10eは前記フロントピラー4のピラーアウタ14に溶接により結合されている。
【0027】
また前記インナメンバ11は、内側壁11cに続いて後方に突出する後フランジ部11eを有し、該後フランジ部11eは前記ピラーインナ15とカウルパネル7のフランジ部7dとの結合部に重ね合わせて溶接により一体に結合されている。
【0028】
前記左,右のエプロンメンバ3は、車両上方から見たとき、後端部3aに対して前端部3bが車内側に偏位するよう若干湾曲形成されている。また前記左,右の結合部材5は、上方から見たとき、エプロンメンバ3の前端部3bからサイドメンバ2に向かって車内方に湾曲形成されている。
【0029】
前記左,右のエプロンメンバ3の内側壁部には、車両前方からの入力により折れ変形を誘発する剛性断点部a,bが設けられている。
【0030】
この各剛性断点部a,bは、前記ストラットタワー6の支持孔6cの軸芯を通る中心線Cと前記フロントピラー4の前端との間に位置するように配置されている。より詳細には、ストラットタワー6の中心線Cとカウルパネル7の前壁7aとの間に位置するように配置されている。
【0031】
前記各剛性断点部a,bは、前記エプロンメンバ3のストラットタワー6の上面6dを跨いだ上側及び下側に設けられており、詳細には以下の構造を有する。
【0032】
前記ストラットタワー6の上面6dより上側に設けられた剛性断点部aは、前記インナメンバ11の内側壁11cに車内側に膨出するよう形成されたビード11fの前縁により形成されている。
【0033】
このビード11fは、上下方向に延びる縦ビード部11f′と、該縦ビード部11f′に続いて後方に延びる上下一対の横ビード部11f′′,11f′′とを有し、前記縦ビード部11f′の前縁が剛性断点部aとなっている。
【0034】
前記ビード11fは、車両側方から見ると、前記カウルパネル7の前壁7aと後壁7bとに前後方向に架け渡すように配置され、かつ後端が前記フロントピラー4の前縁4′近傍に位置するよう配置されている。これによりエプロンメンバ3のカウルパネル7との結合剛性を高めることができ、カウルパネル7の座屈変形が抑制されており、かつフロントピラー4への入力伝達を高めている。
【0035】
前記ストラットタワー6の上面6dより下側に設けられた剛性断点部bは、前記アウタメンバ10の下フランジ10dに続いて下方に突出形成されたひれ状の突出部10fの前縁により形成されている。
【0036】
この突出部10fは、車両側方から見ると、ストラット本体6bにより覆われており、前記縦ビード部11f′の下方に位置するよう配置されている。
【0037】
そして各剛性断点部a,bは、車両側方から見ると、該断点部a,b同士を結ぶ線が中心線Cに対して後下方に傾斜し、かつ大略直線上に位置するよう配置されている。
【0038】
本実施例によれば、エプロンメンバ3の内側壁部を形成する内側壁11c及び下フランジ部10dにそれぞれビード11f,突出部10fを形成して剛性断点部a,bを設け、この剛性断点部a,bをストラットタワー6の中心線Cとフロントピラー4の前端との間に配置したので、車両衝突時の入力によりエプロンメンバ3には剛性断点部a,bを起点とした車内側への折れ変形が誘発されることとなり、エプロンメンバ3の折れ変形をコントロールすることが可能となる。これにより、エプロンメンバ3のカウルパネル7結合部分における座屈変形を抑制できるとともに、フロントピラー結合部である後端部3aからの倒れ込みを抑制でき、衝突荷重をフロントピラー4に効率よく伝達することができ、ひいては車室への影響を回避できる。
【0039】
ここで、エプロンメンバ3のフロントピラー結合部には、車体の組み付け上の都合から隙間が生じ、これが起因してエプロンメンバが根元から大きく倒れる易くなっている。本実施例では、エプロンメンバ3がこれの中途部に設定した剛性断点部a,bで折れ変形することから、前記根元での変形量を小さくできる。即ち、図5に示すように、エプロンメンバ3がこれの中途部3′と根元3′′とで車内側に2段階に折れ変形し、中途部3′の変形が根元3′′の変形を抑制するように作用する。その結果、車室への影響をより確実に抑制できる。
【0040】
本実施例の剛性断点部a,bは、前記エプロンメンバ3にビード11f,突出部10eを形成するだけの構造であるので、従来のようなエプロンメンバの板厚をアップしたり、高剛性の材質に変更したりする場合のような車体重量,コストアップを招くことはなく、軽量化,低コスト化に貢献できる。
【0041】
本実施例では、前記剛性断点部a,bを、ストラットタワー6の上面6dを跨いだエプロンメンバ3の上側及び下側に設けたので、強度,剛性の高いストラットタワー6の変形が容易となり、エプロンメンバ3の座屈変形及び倒れ込みをより確実に抑制することができる。
【0042】
特に小型車の場合には、車室の拡大を図る観点から、カウルパネル7をストラットタワー6の上方に張り出すように配置する場合がある。このトラットタワーの上壁部は、前輪を介して伝わる路面振動に対する剛性を確保するために板厚が大きいため、入力により座屈しにくい。一方、カウルパネルは、荷重伝達を効果的行うためにもできるだけ断面形状を潰したくない。
【0043】
本実施例では、各剛性断点部a,bを板厚の大きい上壁部6aを上,下に跨ぐように配置したので、ストラットタワー6,特にストラット本体6bの折れ変形が容易となり、狭いエンジン室でのレイアウトであっても大きなエネルギー吸収効果を得ることができる。
【0044】
なお、前記実施例では、剛性断点部a,bを、エプロンメンバ3にビード11f及び突出部10fを形成することにより構成したが、本発明の構成断点部は、エプロンメンバの剛性を中途部で変化させることにあるから、例えば脆弱部等により形成することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 前部車体
2 サイドメンバ
3 エプロンメンバ
3a 後端部
4 フロントピラー
4′ 前端
5 結合部材
6 ストラットタワー
6d 上面
10b 外側壁(エプロンメンバの外側壁部)
10d 下フランジ部(エプロンメンバの内側壁部)
11c 内側壁(エプロンメンバの内側壁部)
a,b 剛性断点部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるサイドメンバと、
該サイドメンバの上方に車両前後方向に延びるよう配設され、車幅方向内側に位置する内側壁部と外側に位置する外側壁部とを有する略中空形状のエプロンメンバと、
該エプロンメンバの後端部に接続された車両上下方向に延びるフロントピラーと、
前記エプロンメンバと前記サイドメンバとに架け渡して接続された結合部材と、
前記エプロンメンバの内側壁部に接続されたストラットタワーとを備えた自動車の前部車体構造であって、
前記エプロンメンバの内側壁部には、車両前方からの入力により折れ変形を誘発する剛性断点部が設けられ、
該剛性断点部は、前記ストラットタワーの軸芯を通る中心線と前記フロントピラーの前端との間に位置するように配置されている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、
前記剛性断点部は、前記エプロンメンバのストラットタワーの上面を跨いだ上側及び下側にそれぞれ設けられている
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148743(P2012−148743A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10808(P2011−10808)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】