説明

自動車の排気ガス熱の利用

本発明は、排気ガス熱利用サイクル(2)を備える自動車の排気ガス熱利用装置(1)に関し、この場合、排気ガス熱利用サイクル(2)の作動流体の作動温度が制御される。このとき、作動温度(T、T、T)は、排気ガス熱利用サイクル(2)の熱交換器(5)を流れる作動流体の流量を調整することによって、作動流体の最大許容作動温度、詳細には分解温度を超過しないように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分の特徴を備える、自動車の排気ガス熱利用サイクルの作動方法に関する。さらに、本発明は、自動車の排気ガス熱利用装置に関する。さらに、本発明は、排気ガス熱利用装置の作動流体として用いる液体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、少なくとも1つの膨張機関を駆動するための有機流体ランキン・サイクルを備えるシステムと、膨張機関を駆動するための熱交換器と、少なくとも1つの膨張機関の駆動方法と、が説明されている。
【0003】
特許文献2によるランキン・サイクルでは、ランキン・サイクルの作動流体としての水が、排気ガスの排熱により、排気ガスが流れるエバポレータ内で気化される。この場合、エバポレータから流出する蒸気の温度が測定され、この蒸気温度を使ってエバポレータに供給される水量が制御される。
【0004】
特許文献3によるランキン・サイクルでは、例えばメチルシクロヘキサン又はオクタン又はヘプタンなどの有機化合物が作動流体として記載されており、この有機作動流体は排気ガスの熱によって気化される。安全性をモニタするため、エバポレータの排気ガス側には、排気ガスがエバポレータを通過した後に安全温度リミッタが配置されており、温度限界値を超過した場合、このリミッタがスイッチ信号によって装置を安全な状態にする。これによって、例えばランキン・サイクルの作動流体サイクルにおけるフローモニタなど、その他の安全性関連装置を省略することができる。この場合、低い温度は、流体がエバポレータを流れ、通過していることを示している。
【0005】
特許文献4には、エバポレータ用の温度コントロール装置が説明されており、このエバポレータは、ランキン・サイクルの一部であることができ、このランキン・サイクルによって自動車の内燃機関の排気ガスを利用することができる。この場合、作動流体としての水が、ランキン・サイクルの熱交換器内で排気ガスの排熱により気化される。ここでは、温度コントロール装置を用いて、排気ガスの流動率、排気ガス温度、水温、及び蒸気温度に基づきエバポレータに供給される水量を制御することにより、蒸気温度が調整される。
【0006】
ランキン・サイクルは、有機又は非有機媒体によって作動させることができる。有機作動流体によって作動するランキン・サイクルは、有機ランキン・サイクル(有機RC又はORC)とも呼ばれる。これに対して、しばしば有機媒体で作動するランキン・サイクルは、クラウジウス・ランキン・サイクル又はCRCと呼ばれる。
【0007】
有機作動流体によるランキン・サイクルの課題は、有機作動流体の温度安定性が比較的低温に限定されていることである
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007057164A1明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20060201153A1明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第202007002602U1明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1431523A1明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、作動方法又は排気ガス熱利用装置又は作動流体に関して、改善された実施形態又は少なくとも別の実施形態を提供するという問題に取り組んでおり、特に、この実施形態は作動流体の温度安定性がより適切に考慮されることを特徴としている。ここでは、特に、より高い効率が追求されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づき、この問題は独立請求項の対象によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項の対象である。
【0011】
本発明は、自動車の排気ガス熱利用サイクルの作動時に、排気ガス熱利用サイクルの熱交換器を通って流れる作動流体の流量を調整することによって、排気ガス熱利用サイクルの作動流体の作動温度を制御するという基本的な考え方に基づいている。この場合、作動温度を制御することにより、作動流体が最大許容作動温度を超過するのを防止しなければならない。
【0012】
有機作動流体を使用する場合、排気ガス温度は、作動流体の化学分解温度を明らかに超えてしまうことがある。従って、作動流体の最大許容作動温度を、化学分解温度よりも僅かに低く調整することが適切である。好ましいのは、作動流体のプロセス温度が、分解温度よりも温度制御性能の許容誤差範囲の分を下回っていることであろう。これによって、特に有機作動流体の分解を防止することができるか、もしくは少なくとも減少又は遅延させることができる。
【0013】
この場合、作動流体が混合物として実施されている場合、分解温度は、作動流体成分の化学分解温度のうち最も低い温度が好ましい。この温度を、これ以降、作動流体の最低化学分解温度と呼ぶ。
【0014】
作動流体、特に有機作動流体、が備えられ、排気ガス熱利用サイクルの熱交換器を通って流れる作動流体の流量を調整することによって作動温度を制御するように駆動される排気ガス熱利用サイクルは、自動車の排気ガス熱利用装置に使用することが可能である。
【0015】
作動流体としては、有機液体を、排気ガス熱利用サイクルを備える車両の、このような排気ガス熱利用装置の中で使用することができる。この場合、液体は気化および凝縮することができ、有機化合物であるか、又は有機化合物の混合物であり、少なくともメタノール、エタノール、N−プロパノール、イソプロパノール、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル又はアルカンを有している。これらの有機化合物の少なくとも1つ又は少なくともメタノールを含む化合物の混合物を排熱利用装置に用いることによって、排熱利用装置は、作動流体として水を用いる場合よりも高い効率を有するようになる。
【0016】
排気ガス熱利用は、排気ガスシステム内の排気ガス熱及び/又は排気ガス再循環ガスの熱を用いることができる。
【0017】
本発明のその他の重要な特徴及び利点は、従属請求項、図、及びそれらの図に関連する説明に示されている。
【0018】
前述した特徴及び以下に説明する特徴は、それぞれに示された特徴の組合せだけではなく、本発明の範囲から出ることなく、その他の組合せ又は単独でも適用可能であることは自明である。
【0019】
本発明の有利な実施例が図に簡単に示されており、以下の説明において実施例を詳細に述べる。この場合、同一又は同様の構成部品又は機能の同じ構成部品には同一の記号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】熱交換器を介して内燃機関の排気ガス流に接続されている排気ガス熱利用装置である。
【図2】様々な作動流体の効率特性である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に従って、自動車で使用するための排気ガス熱利用装置1には、排気ガス熱利用サイクル2と、排気ガス供給ライン4によって互いに接続されている内燃機関3とが含まれている。この排気ガス熱利用サイクル2は、この実施形態においてはクラウジウス・ランキン・サイクルとして形成されており、熱交換器5、出力コンバータ7付きタービン6、コンデンサ8及びポンプ9を有している。このような排気ガス熱利用サイクル2が、クラウジウス・ランキン・サイクルに基づく方法で駆動される場合、コンデンサ8とポンプ9との間には圧力p及び温度Tが存在し、ポンプ9と熱交換器5との間には圧力p及び温度Tが存在し、熱交換器5とタービン6との間には圧力pと温度Tが存在し、タービン6とコンデンサ8との間には圧力p及び温度Tが存在しており、圧力pは圧力pよりも大きく、温度Tは温度Tよりも高く、温度Tよりも高い。排気ガス熱利用サイクル2は、例えば、カルノー・サイクル、スターリング・サイクル又はジュール・サイクルなど、その他のサイクルによっても駆動することができる。この場合、場合によっては、作動流体において別の圧力比及び温度比が生じるかもしれない。
【0022】
内燃機関3から排気ガス供給ライン4を介して熱交換器5に送られる高温の排気ガスは、この熱交換器5を通過する際、循環ライン10を循環する作動流体を気化し、この作動流体はタービン6において膨張することにより、熱交換器5に供給される排熱11の一部を、出力コンバータ7によって利用可能な仕事12に変換することができる。次に、膨張した作動流体はコンデンサ8で液化され、ポンプ9によって上昇した圧力pによって、排熱11を受け取る熱交換器5に送られる。
【0023】
ここに提案されている実施形態では、排気ガス熱利用サイクル2が、1つの方法によって駆動可能であり、その方法では、作動流体の作動温度が、熱交換器5を流れる作動流体の流量を調整することによって、作動流体の最大許容作動温度を超過しないように制御される。例えばメタノール、ジエチルエーテル、ジメチルエーテルなど、又は有機化合物の混合物のような有機作動流体の場合、作動流体の作動温度T、Tを制御することは、排気ガス熱利用サイクル2が正常に機能するために極めて重要である。というのも、例えば温度が700℃にも達することのある高温の排気ガスによって、例えば350℃の作動流体の分解温度をすぐに超えてしまうからである。この場合、全負荷では、熱交換器5を通過する高温の排気ガスが、同様に熱交換器5を反対方向に通過する有機作動流体を少なくとも部分的に分解してしまうと考えられる。このことは防止する必要があるため、作動流体の最大許容作動温度は、例えば、作動流体の化学分解温度よりも少なくとも20℃低い温度にすることが適切である。
【0024】
このとき、混合物の場合には、個々の有機化合物が異なる温度で分解されることに注意する必要がある。この場合には、最も低い化学分解温度を考慮して最大許容作動温度を選択することが条件である。その際、作動流体の化学分解温度は、温度制御性能の調整範囲よりも高いこと、例えば排熱流の最大温度より20℃上回っているのが適切である。なぜなら、排熱流による作動流体の化学分解を無視することができるためであり、少なくとも、技術的故障によって熱交換器5を通る作動流体の流速がなくなり、それによって熱交換器5内に残った作動流体が熱交換器5を通過することなく、この中に留まっている場合にしか化学分解が生じることはないためである。
【0025】
その他に、作動流体の作動温度は、熱交換器5への流入前に作動流体を冷却することによって制御することもできる。同様に、作動温度は、熱交換器を流れる排熱流の流量を制限することによって、及び熱交換器5への流入前に排熱流に冷たい流体を加えることによって制御することができる。このような措置は、循環ライン10において最大の作動流体流量に達し、それ以上流量を増加させることができない場合に有利である。この場合、それでもなお、タービン6方向での熱交換器5後において温度上昇が生じ、作動流体の最大許容作動温度を超える危険がある場合、上述の措置によって、熱交換器5内で排熱流から作動流体に供給される排熱11を制限することが可能であるため、作動流体の作動温度を制御することができる。
【0026】
作動流体の作動温度を正確かつ精密に設定できるようにするため、作動温度を制御する際、別のパラメータを考慮することができる。熱交換器5前及び/又は後における排熱流温度の検出と処理、及び/又は熱交換器5前及び/又は後における作動流体温度の検出と処理とに基づき、並びにタービン6前及び/又は後における作動流体の圧力によって、及び/又は作動流体及び/又は排熱流の流速によって、熱交換器5に送られた排熱11が、とりわけ時間に応じて、検出信号を基に特定されることにより、最大負荷とは無関係に、作動温度を常に化学分解温度より低い温度に維持しておくことができる。
【0027】
このような有機化合物を作動流体として排熱利用装置1に使用することは有利であり、それらを使用する場合、排熱利用装置1の効率は、作動流体として水を使用する場合よりも大きい。例として、図2から分かるように、ここではメタノールが使用されている。図2によれば、n−オクタン13、n−ヘプタン14、トルオール15、n−ヘキサン16、シクロヘキサン17、ベンゾール18及びエタノール19の多数の効率曲線は、水20の効率曲線よりも悪い効率特性を示している。記載されている例では、メタノール21の効率曲線だけが、水20に対して優位な効率特性を示している。同様に、作動流体としてはアルカンも適している。しかし、この点については、作動流体として使用されるその他の有機化合物も、さらに高い排熱利用装置1の効率を有する可能性があることを指摘しておきたい。従って、有利な実施形態では、有機化合物又は有機化合物の混合物を有する有機作動流体が使用され、この作動流体は、排熱利用装置1において水20よりも高い効率を有している。
【0028】
作動流体の流量を変更することにより、作動流体の温度Tが変化する。流量の増加は、単位質量当たりの熱入力を減少させ、作動媒体温度Tを低下させる。流量の低下は、単位質量当たりの熱入力と作動媒体温度Tとを上昇させることができる。この方法により、作動温度Tの制御は、作動流体の流量の調整によって実現可能である。
【0029】
この場合、こうした作動流体の分解温度は、作動流体流量を調整して作動温度を制御することにより、排気ガス熱利用装置の作動中は常に、作動温度が作動流体の分解温度を下回っているように考慮されることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 排気ガス熱利用装置
2 排気ガス熱利用サイクル
3 内燃機関
4 排気ガス供給ライン
5 熱交換器
6 タービン
7 出力コンバータ
8 コンデンサ
9 ポンプ
10 循環ライン
11 排熱
12 仕事
13 N−オクタン
14 N−ヘプタン
15 トルオール
16 N−ヘキサン
17 シクロヘキサン
18 ベンゾール
19 エタノール
20 水
21 メタノール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス熱利用サイクル(2)の作動流体の作動温度(T、T、T)制御を伴う、車両内の排気ガス熱利用サイクル(2)の作動方法であって、
前記作動温度(T、T、T)は、前記排気ガス熱利用サイクル(2)の熱交換器(5)を通って流れる作動流体の流量を調整することによって、前記作動流体の最大許容作動温度を超過しないように制御されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記作動流体の前記作動温度(T、T、T)が、さらに、
−排熱流の冷却、詳細には前記熱交換器(5)への流入前に内燃機関(3)の排気ガスを冷却する、−前記熱交換器(5)を通って流れる排熱流の流量を制限する、
−前記熱交換器(5)への流入前に排熱流に冷たい流体を加える、
の措置の少なくとも1つによって制御されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記作動温度(T、T、T)を制御する際に、
−前記熱交換器(5)前の前記排熱流の温度、
−前記熱交換器(5)後の前記排熱流の温度、
−前記熱交換器(5)前の前記作動流体の温度(T)、
−前記熱交換器(5)後の前記作動流体の温度(T)、
−前記排気ガス熱利用サイクル(2)のタービン前の前記作動流体の圧力(p)、
−前記排気ガス熱利用サイクル(2)の前記タービン後の前記作動流体の圧力(p)、
−前記作動流体の流速、
−前記排熱流の流速、
のパラメータの少なくとも1つが考慮されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記作動流体の最大許容作動温度が、前記作動流体の化学分解温度よりも低いことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記作動流体の最大許容作動温度が、前記化学分解温度よりも温度制御性能の許容誤差範囲の分を下回っていることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、カルノー・サイクル、クラウジウス・ランキン・サイクル、スターリング・サイクル又はジュール・サイクルなどとして形成されているサイクルを有していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
排気ガス熱利用サイクル(2)が、請求項1〜6のいずれか一項の方法に従って作動可能であるように形成されている前記排気ガス熱利用サイクル(2)を備える、車両の排気ガス熱利用装置。
【請求項8】
排気ガス熱利用サイクル(2)を備える車両の、特に請求項7による排気ガス熱利用装置(1)において作動流体として使用され、気化及び凝縮することができ、有機化合物又は有機化合物の混合物を含むか、又は有機化合物又は有機化合物の混合物からなる液体であって、
−例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの単純なアルコール、
−例えば、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル、
−アルカン、
の化合物の少なくとも1つを有していることを特徴とする液体。
【請求項9】
前記作動流体の最も低い前記化学分解温度が、前記排熱流の最大温度よりも前記温度制御性能の調整範囲の分を上回っていることを特徴とする請求項1〜8に記載の液体。



【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−526224(P2012−526224A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508921(P2012−508921)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001834
【国際公開番号】WO2010/130317
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】