説明

自動車の車体前部構造

【課題】リアエンド部材に軽金属鋳物を使用した場合,リアエンド部材でのサブフレーム取り付け部の剛性を充分に強化しながら,正面衝突時には,該取り付け部を安定的に破壊し得るようにする。
【解決手段】ダッシュボード2から前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム6の前端下部と,フロントサイドフレーム6の後端に連設されるリアエンド部材5とにサブフレーム7の前後両端部を前部ボルト8及び後部ボルト9によりそれぞれ固着してなる,自動車の車体前部構造において,リアエンド部材5を軽金属鋳物で構成し,このリアエンド部材5の底壁10には,後部ボルト8が螺合緊締される鉛直方向のボス12と,このボス12の外周面を底壁10に連結する複数の補強リブ13とを一体に形成し,これら補強リブ13を囲む菱形のノッチ14を底壁10に凹設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ダッシュボードから前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームの前端下部と,フロントサイドフレームの後端に連設されるリアエンド部材とにサブフレームの前後両端部を前部ボルト及び後部ボルトによりそれぞれ固着してなる,自動車の車体前部構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体前部構造の構成部材に軽金属鋳物を使用することが,特許文献1参照に開示されるように,既に知られている。またダッシュボードから前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームの前端下部と,フロントサイドフレームの後端に連設されるリアエンド部材とにサブフレームの前後両端部をボルトにより固着してなる,自動車の車体前部構造において,リアエンド部材に軽金属鋳物を使用することも知られている。
【特許文献1】特開2002−166853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで,ダッシュボードから前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームの前端下部と,フロントサイドフレームの後端に連設されるリアエンド部材とにサブフレームの前後両端部をそれぞれボルトにより固着してなる,自動車の車体前部構造では,サブフレームに,エンジンを搭載すると共に,サスペンション機構を取り付けるので,リアエンド部材でのサブフレーム取り付け部は,走行安定性及び振動低減を確保するための高い剛性が要求され,一方,正面衝突時には,フロントサイドフレームの変形を安定させて衝突エネルギを吸収するために変形や破壊を可能にするという,通常時とは相反する特性が要求される。
【0004】
従来,リアエンド部材に軽金属鋳物を使用した場合,リアエンド部材でのサブフレーム取り付け部の剛性確保のために,その取り付け部周りに補強リブを立設すること行われているが,その場合,正面衝突時の破壊荷重の上限までしか剛性強化をすることができなかった。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,リアエンド部材に軽金属鋳物を使用した場合,リアエンド部材でのサブフレーム取り付け部の剛性を充分に強化しながら,正面衝突時には,該取り付け部を安定的に破壊し得るようにした,前記自動車の車体前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,ダッシュボードから前方に延びる左右一対のフロントサイドフレームの前端下部と,フロントサイドフレームの後端に連設されるリアエンド部材とにサブフレームの前後両端部を前部ボルト及び後部ボルトによりそれぞれ固着してなる,自動車の車体前部構造において,
少なくともリアエンド部材を軽金属鋳物で構成し,このリアエンド部材の底壁には,前記後部ボルトが螺合緊締される鉛直方向のボスと,このボスの外周面を前記底壁に連結する複数の補強リブとを一体に形成し,これら補強リブを囲む菱形のノッチを前記底壁に凹設したことを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,少なくとも一部の前記補強リブを前記ノッチに近接させたことを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記菱形のノッチを,該菱形の長対角線が車体の前後方向を向くように配置したことを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の特徴によれば,軽金属鋳物よりなるリアエンド部材の底壁に,前記後部ボルトが螺合緊締される鉛直方向のボスと,このボスの外周面を前記底壁に連結する複数の補強リブとを一体に形成し,これら補強リブを囲む菱形のノッチを前記底壁に凹設した簡単な構造により,リアエンド部材におけるサブフレームの取り付け部には,走行安定性及び振動低減を確保するための高い剛性を持たせ,また正面衝突時には,衝突エネルギを吸収するために安定した破壊を生じさせるという,相反する要求を満足させることができる。
【0010】
本発明の第2の特徴によれば,複数枚の補強リブがノッチに近接するように延びていて,ノッチの内側の底壁の剛性を効果的に強化するので,正面衝突時,ボスからノッチの薄肉底部への衝撃荷重の伝達を効率良く行うことができ,該薄肉底部の破壊の安定化を図ることができる。
【0011】
本発明の第3の特徴によれば,菱形のノッチでは,ボスより最も遠い前後の角部が鋭角となり,正面衝突時にその鋭角の角部の薄肉底部に大なる応力を集中させ,該薄肉底部の破壊の安定化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の一実施例に基づいて以下に説明する。
【0013】
図1は本発明の自動車の車体前部構造の斜視図,図2は図1の2矢視図,図3は図2の3部拡大断面図,図4は図3の4矢視図,図5は図4の5−5線拡大断面図である。
【0014】
先ず,図1及び図2において,自動車の車体1は,車室の前面を形成するダッシュボード2と,このダッシュボード2の,後方下り勾配の傾斜壁2aの後端に接続されるフロアボード3と,このフロアボード3を支持する左右一対のフレームフレーム4とを備えており,これらに次のような車体前部構造が接続される。
【0015】
即ち,ダッシュボード2には,その前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム6が接続されると共に,左右同側のフロントサイドフレーム6及びフレームフレーム4間に,これらを強固に連結するリアエンド部材5が配設される。また各フロントサイドフレーム6の前端部には,その下方に突出するサブフレーム支持部6aが一体に形成される。このサブフレーム支持部6aとリアエンド部材5とは,両者の下面が略同一高さとなるように形成され,これらの下面に平面視で方形枠型のサブフレーム7の前端部及び後端部がそれぞれ前部ボルト8及び後部ボルト9により固着される。
【0016】
図3及び図4において,上記リアエンド部材5は軽金属鋳物でされる。このリアエンド部材5は,前記ダッシュボード2の,後方下り勾配の傾斜壁2aの下部に水平に配置されてフロアボード3の底面に重ねられる底壁10と,この底壁10の前端から起立してダッシュボード2の前面に重ねられる起立壁11とを備えており,その底壁10には,その上方に突出して前記傾斜壁2aの下部空間に収まる鉛直方向のボス12と,このボス12の外周面を底壁10の上面に一体に連結する放射状配置の複数枚(図示例では4枚)の補強リブ13とが一体に形成され,これらボス12及びリブ13は,リアエンド部材5の鋳造時,同時に成形される。上記ボス12には,その下方から前記後部ボルト9が螺合されるねじ孔12aが設けられる。
【0017】
さらに底壁10の上面には,上記複数枚の補強リブ13を囲む菱形のノッチ14が凹設され,このノッチ14も,リアエンド部材5の鋳造時,ボス12及びリブ13と共に形成されるもので,図5に示すように,断面V字状をないしている。この菱形のリブ13は,その菱形の中心,即ち長対角線Aと短対角線Bとの交点がボス12の中心Cと一致すると共に,長対角線Aが車体1の前後方向を向くように配置される。前記リブ13は,ノッチ14に近接するように配置される。
【0018】
一方,サブフレーム7の後端部上面には,前記後部ボルト9が貫通するボルト孔15を中心に持つ円形の取り付け座16が隆起形成される。
【0019】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0020】
サブフレーム7の後端部をリアエンド部材5に連結する際には,取り付け座16をリアエンド部材5のボス12の下面に重ねた後,ボルト孔15に下方から挿通した後部ボルト9をボス12に螺合,緊締する。このボス12を有するリアエンド部材5は,軽金属鋳物で構成されるので,その軽量化を図りつゝ,リアエンド部材5に対する,サブフレーム7を含む隣接部材の取り付け精度を高めることができる。
【0021】
しかも,ボス12の外周には,リアエンド部材5の底壁10から起立する複数枚の補強リブ13が形成されるので,リアエンド部材5の更なる軽量化のために底壁10を薄肉に形成しても,ボス12周りの剛性を充分に高めて,サブフレーム7の支持剛性を効果的に強化することができ,走行安定性の向上と振動低減に寄与し得る。
【0022】
ところで,リアエンド部材5の底壁10の上面には,複数枚のリブ13を囲む菱形のノッチ14が凹設されているが,サブフレーム7から後部ボルト9を介してボス12に伝達される振動は,ボス12を中心にして同心円状に広がるものであるから,その振動の波wがノッチ14を通過するときは,その波wは,図4に示すように最大で4箇所でのみノッチ14と交差することになる。つまり,振動の波wが,ノッチ14全体に同時に作用することはない。したがって菱形のノッチ14によるボス12周りの剛性低下は極めて小さく,振動によるボス12周りの撓みを小さく抑えることができる。
【0023】
一方,この自動車の正面衝突時,衝撃荷重が前方からサブフレーム7に入力されると,サブフレーム7は,前後方向に長いため後部ボルト9周りの回転モーメントを受けることになり,この回転モーメントは,後部ボルト9からリアエンド部材5のボス12に伝達し,さらに高剛性のボス12及び補強リブ13から,菱形のノッチ14の薄肉底部へと伝達し,その薄肉底部に応力が集中する。その際,菱形のノッチ14の薄肉底部では,ボス12から最も離れた部分に最も大きい荷重が加わるから,菱形のノッチ14の鋭角部から破壊が始まり,遂には菱形のノッチ14の薄肉底部全体が破壊され,サブフレーム7が脱落することになり,以上により衝撃エネルギを効果的に吸収することができる。
【0024】
特に,ボス12に連結した複数枚の補強リブ13がノッチ14に近接するように延びていて,ノッチ14の内側の底壁10の剛性を効果的に強化しているので,ボス12からノッチ14の薄肉底部への衝撃荷重の伝達を効率良く行うことができ,該薄肉底部の破壊の安定化を図ることができる。
【0025】
また菱形のノッチ14は,該菱形の長対角線Aが前記ボス12の中心Cを通って車体1の前後方向を向くように配置されるので,該菱形でボス12より最も遠い前後の角部が鋭角となり,正面衝突時にその鋭角の角部の薄肉底部に大なる応力を集中させ,これも該薄肉底部の破壊の安定化に寄与することになる。
【0026】
かくして,軽金属製のリアエンド部材5におけるサブフレーム7の取り付け部には,走行安定性及び振動低減を確保するための高い剛性を持たせ,また正面衝突時には,衝突エネルギを吸収するために安定した破壊を生じさせるという,相反する要求を簡単な構造により満足させることができる。
【0027】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,フロントサイドフレーム6及びリアエンド部材5を軽金属鋳物で一体に構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の自動車の車体前部構造の斜視図。
【図2】図1の2矢視図。
【図3】図2の3部拡大断面図。
【図4】図3の4矢視図。
【図5】図4の5−5線拡大断面図。
【符号の説明】
【0029】
1・・・・車体
2・・・・ダッシュボード
5・・・・リアエンド部材 6・・・・フロントサイドフレーム
7・・・・サブフレーム
8・・・・前部ボルト
9・・・・後部ボルト
10・・・リアエンド部材の底壁
12・・・ボス
13・・・リブ
14・・・菱形のノッチ
A・・・・菱形のノッチの長対角線
B・・・・菱形のノッチの短対角線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュボード(2)から前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム(6)の前端下部と,フロントサイドフレーム(6)の後端に連設されるリアエンド部材(5)とにサブフレーム(7)の前後両端部を前部ボルト(8)及び後部ボルト(9)によりそれぞれ固着してなる,自動車の車体前部構造において,
少なくともリアエンド部材(5)を軽金属鋳物で構成し,このリアエンド部材(5)の底壁(10)には,前記後部ボルト(8)が螺合緊締される鉛直方向のボス(12)と,このボス(12)の外周面を前記底壁(10)に連結する複数の補強リブ(13)とを一体に形成し,これら補強リブ(13)を囲む菱形のノッチ(14)を前記底壁(10)に凹設したことを特徴とする,自動車の車体前部構造。
【請求項2】
請求項1記載の自動車の車体前部構造において,
少なくとも一部の前記補強リブ(13)を前記ノッチ(14)に近接させたことを特徴とする,自動車の車体前部構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自動車の車体前部構造において,
前記菱形のノッチ(14)を,該菱形の長対角線(A)が車体(1)の前後方向を向くように配置したことを特徴とする,自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−195332(P2008−195332A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35004(P2007−35004)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】