説明

自動車用シートベルト装置

【課題】ウエビングの損傷を防止して腰部拘束性を向上することを目的とする。
【解決手段】ウエビングの引出をロックするためのロック機構、及びロック機構によってウエビングの引出がロックされた状態でウエビング荷重を予め定めた第1の荷重に制限するフォースリミッタ機構を備えてウエビングを一端側から巻き取り可能とされたシートベルトリトラクタ12と、衝突が検知されたときに、ウエビングの他端側を引き込んでウエビングに荷重を発生させるラップアウタプリテンショナ16と、ラップアウタプリテンショナ16が作動してウエビングに所定の荷重が発生した場合にウエビングに対する移動を制限する制限機構を備えたタングプレート20と、予め定めたウエビング損傷荷重よりも小さい第2の荷重で作動してエネルギを吸収するエネルギ吸収機構を備えてタングプレート20が着脱可能に連結されるバックル22と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用シートベルト装置にかかり、特に、緊急時に乗員を確実に拘束して安全を確保する自動車用シートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートベルト装置としては、衝突予測時にウエビングの巻き取りを行うプリテンショナなどの種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、バックル側を引き込んでウエビングの弛みを除くプリテンショナ、シートベルトリトラクタ側に設けられて所定荷重を超えるとウエビングを繰出すエネルギ吸収機構、及びウエビング締め付けタングプレートを備えている。そして、エネルギ吸収機構が作動してウエビングが繰り出されても、乗員の腰部が前方に移動することをウエビング締め付けタングプレートで防止することが提案されている。
【0004】
また、特許文献2に記載の技術では、バックルを引き込むことによって第1の張力を発生させ、衝突回避の操作が可能な範囲で乗員を拘束する第1のプリテンショナ機構と、第1の張力の状態からシートベルトを巻き取って第2の張力を発生させて、衝突に対して乗員を拘束する第2のプリテンショナ機構と、を備えることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−163179号公報
【特許文献2】特許第2946995号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、バックル側を引き込んでウエビングの弛みを除くと共に、ウエビング締め付けタングプレートでウエビングを締め付ける。これにより、乗員の腰部の前方への移動を防止している。また、エネルギ吸収機構によってショルダベルト荷重を吸収して一定になるようにしている。しかしながら、ウエビングを締め付けた状態で腰部が前方へ荷重移動することにより、ウエビング締め付けタングプレートを適用しない場合よりもラップベルト側の荷重が増加するため、ウエビングの損傷を防止するためにはウエビング締め付けタングプレートを適用しない場合よりも耐荷重が高いウエビングを使用する必要がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、第1のプリテンショナ機構によってバックルを引き込むことによってウエビングの弛みを除いた後に第2のプリテンショナ機構でウエビングを巻き取って乗員を拘束するようにしている。ウエビングがタングプレートで折り返されてショルダベルト側とラップベルト側とに分かれるので、第2のプリテンショナを作動したときに、ラップベルト側の張力よりショルダベルト側の張力の方が高くなり易くなるため、腰部拘束性を考えると改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、ウエビングの損傷を防止して腰部拘束性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、ウエビングの引出をロックするためのロック機構、及び前記ロック機構によってウエビングの引出がロックされた状態でウエビング荷重を予め定めた第1の荷重に制限するフォースリミッタ機構を備え、ウエビングを一端側から巻き取り可能とされたシートベルトリトラクタと、衝突が検知されたときに、ウエビングの他端側を引き込んでウエビングに荷重を発生させるプリテンショナ手段と、前記プリテンショナ手段が作動してウエビングに所定の荷重が発生した場合にウエビングに対する移動を制限する制限機構を備えたタングプレートと、予め定めたウエビング損傷荷重よりも小さい第2の荷重で作動してエネルギを吸収するエネルギ吸収機構を備え、前記タングプレートが着脱可能に連結されるバックルと、を備えることを特徴としている。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、シートベルトリトラクタは、ウエビングの引出をロックするためのロック機構、及びロック機構によってウエビングの引出がロックされた状態でウエビング荷重を予め定めた第1の荷重に制限するフォースリミッタ機構を備えて、ウエビングの巻き取りが可能とされている。すなわち、自動車の減速等でウエビングに荷重が発生した場合に、ロック機構によってウエビングの引出がロックされ、フォースリミッタ機構によってウエビング荷重が第1の荷重に制限される。
【0011】
プリテンショナ手段では、衝突が検知されたときに、ウエビングの他端側を引き込んでウエビングに荷重を発生させる。また、タングプレートは、プリテンショナ手段が作動してウエビングに所定の荷重が発生した場合にウエビングに対する移動を制限する制限機構を備えている。そして、バックルの他端側は、タングプレートが着脱可能に連結される。
【0012】
すなわち、プリテンショナ手段によってウエビングの他端側を引き込んで、タングプレートの制限手段によってウエビングの移動を制限することにより、初期の腰部の拘束性を向上することができ、大腿部への負荷を低減することができる。
【0013】
しかしながら、プリテンショナ手段とタングプレートの制限機構が共に作動することにより、ウエビングのラップベルト側の荷重が上昇してウエビングに損傷を及ぼす可能性があるが、バックルには、予め定めたウエビング損傷荷重よりも小さい第2の荷重で作動してエネルギを吸収するエネルギ吸収機構が設けられており、これによって、ウエビングの損傷を確実に防止することができる。従って、ウエビングの損傷を防止しつつ、腰部拘束性を向上することができる。
【0014】
なお、エネルギ吸収機構は、請求項2に記載の発明のように、第2の荷重として第1の荷重よりも大きい荷重で作動するように設定するようにしてもよい。これによって、乗員を効率良く拘束することができる。
【0015】
また、シートベルトリトラクタは、請求項3に記載の発明のように、衝突回避不可能と判定されたときに、衝突前にウエビングを巻き取るモータを更に備えるようにしてもよい。すなわち、衝突回避不可能と判定されてからモータによってウエビングを巻き取るため、作動タイミングを可能な限り遅らせて、モータの作動頻度を少なくすることができる。これによって、作動頻度が少なくなるため従来よりも強い荷重でウエビングを巻き取ることが可能となり、衝突前に乗員を確実に拘束することが可能となる。また、モータによって強い荷重でウエビングを巻き取ることが可能となるため、インフレータやマイクロガスジェネレータ(MGG)等を用いてウエビングを巻き取る構成のプリテンショナを廃止することも可能となる。
【0016】
さらに、エネルギ吸収機構は、請求項4に記載の発明のように、第2の荷重で塑性変形することによりエネルギを吸収する部材を有する構成を適用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、ウエビングの損傷を防止して腰部拘束性を向上することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置に適用可能なシートベルトリトラクタの概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置に適用可能なラップアウタプリテンショナの概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置に適用可能なタングプレートの概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置に適用可能なバックル部分の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置の制御系で行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置の各機構の動作順を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置が作動したときのショルダベルト荷重とラップベルト荷重の変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置の概略構成を示す図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10は、センターピラー等の車体側面内に配置されたシートベルトリトラクタ12を備えている。シートベルトリトラクタ12は、ウエビング14を巻き取るためのプリテンショナ機構(詳細は後述)を備えている。
【0021】
ウエビング14は、一端がシートベルトリトラクタ12によって巻き取り可能とされ、他端が後述するラップアウタプリテンショナ16を介して車両用シート側面または車体に固定されている。
【0022】
また、シートベルトリトラクタ12の上方には、ショルダアンカ18が設けられており、ウエビング14が挿通する。
【0023】
また、ウエビング14には、タングプレート20が移動可能に設けられており、タングプレート20がバックル22に係合されることにより、乗員が拘束される。本実施の形態では、タングプレート20には、所定の荷重がウエビングに加わったときにタングプレート20に対するウエビングの移動を制限するためのロック機構が設けられている(詳細は後述)。なお、ウエビング14のタングプレート20からショルダアンカ18側をショルダベルトと称し、タングプレート20からラップアウタプリテンショナ側をラップベルトと称する。
【0024】
また、バックル22の一端は、タングプレート20が挿入可能とされて、タングプレート20と連結される。一方、バックル22の他端は、エネルギ吸収機構(詳細は後述)を介して車体またはシート側面に固定されている。
【0025】
ここで、シートベルトリトラクタ12の具体的な構成について説明する。図2は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10に適用可能なシートベルトリトラクタ12の概略構成を示す図である。
【0026】
シートベルトリトラクタ12には、図2に示すように、ウエビング14を巻き取るスプール24を備えていると共に、ウエビング14の張力を一定に保つためのフォースリミッタ機構が設けられている。
【0027】
スプール24は中心部分が中空とされて、中空部分にトーションバー26が設けられており、当該トーションバー26がフォースリミッタ機構の主要部を構成する。トーションバー26は、スプール24に中央付近で連結部材27を介してスプール24と連結されており、スプール24の回転軸として機能すると共に、ウエビング荷重に付加される荷重を吸収して一定荷重に保つフォースリミッタ機構として作用する。フォースリミッタ機構は、具体的には、後述するロック機構32によってスプール24がロックされた状態で、所定の荷重を超えた張力がウエビング14に加わると、トーションバー26が捩られる。これにより、トーションバー26に連結部材27を介して連結したスプール24が回転してウエビング14が引き出されて、ウエビング14の張力を一定に保つようになっている。
【0028】
また、トーションバー26の一端には、プリテンショナ機構28が設けられており、他端には、バネ機構30が設けられている。
【0029】
バネ機構30は、スプール24を巻き取る方向に付勢するように作用し、バネ機構30によってウエビング14がスプール24に巻き取られるようになっている。
【0030】
また、プリテンショナ機構28は、ウエビング14の引出をロックするためのロック機構32を含んで構成されている。ロック機構32は、スプール24の回転軸に設けられている。ロック機構32は、所定の条件(スプールに所定荷重が加わった場合や、自動車に所定加速度が加わった場合など)が満たされた場合に、スプール24の回転をロックするようになっており、既知の種々の技術を適用できるため詳細な説明は省略する。
【0031】
プリテンショナ機構28は、プリテンショナモータ34及び各種ギヤによって構成されている。本実施の形態では、図2に示すように、ロック機構32と結合した伝達ギヤ36が、減速ギヤ38を介して、プリテンショナモータ34の回転軸に接続されたピニオンギヤ40と噛み合うようになっている。すなわち、プリテンショナモータ34を駆動することによって、ウエビング14のスプール24への巻き取りが可能とされている。なお、伝達ギヤ36としては、複数のギヤで構成された遊星ギヤ等を適用するようにしてもよい。
【0032】
次に、ラップアウタプリテンショナ16の具体的な構成について説明する。図3は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10に適用可能なラップアウタプリテンショナ16の概略構成を示す図である。
【0033】
ラップアウタプリテンショナ16は、各種構成を適用することができるが、本実施の形態では、ワイヤ42を介してジョイントアンカ44を引っ張ることで、該ジョイントアンカ44に連結されたウエビング14に張力を付与する構成を一例として説明する。
【0034】
具体的には、ラップアウタプリテンショナ16は、一端がジョイントアンカ44に連結されたワイヤ42と、ワイヤ42の他端が固定されたピストン(図示省略)と、ピストンがスライド可能に挿入されるシリンダ46と、シリンダ46の一端側からガスを供給するマイクロガスジェネレータ(MGG)48とを備えている。
【0035】
すなわち、MGG48を作動することによってシリンダ46の一端側からガスが発生し、当該ガスの圧力によってピストンをシリンダ46内で移動させることにより、ワイヤ42が図3矢印方向へ駆動される。これによってワイヤ42に連結されたジョイントアンカ44が引っ張られることにより、ウエビングに張力が付与されるようになっている。
【0036】
続いて、ロック機構を備えたタングプレート20の具体的な構成について説明する。図4は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10に適用可能なタングプレート20の概略構成を示す図である。なお、図4(B)、(C)は、図4(A)のA−A’断面図を示す。
【0037】
タングプレート20は、バックル22に挿入することによってバックルと連結されるタング部50と、ウエビング14が挿通される挿通穴52が設けられた本体部54と、を有する。
【0038】
また、本実施の形態に係わるタングプレート20の本体部54には、図4(B)に示すように、ウエビング14が挿通する挿通穴52内にカム56が回転可能に設けられている。このカム56の回転によってタングプレート20に対するウエビング14の移動が制限可能とされている。すなわち、カム56が図4(B)に示す位置の場合には、ウエビング14の移動が可能とされ、図4(C)に示すように、ウエビング14がラップベルト側へ所定の荷重で引っ張られた場合には、カム56が回転して、ショルダベルト側の挿通穴52とカム56との間にウエビング14が挟まることにより、ウエビング14の移動が制限されてロック状態となる。なお、ウエビング14の移動を制限するロック機構としては他の構成を採用するようにしてもよい。
【0039】
次に、バックル22に設けられたエネルギ吸収機構について説明する。図5は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10に適用可能なバックル部分の概略構成を示す図である。
【0040】
バックル22には、エネルギ吸収機構が設けられているが、該エネルギ吸収機構58は、ジグザグ状に形成された金属プレートからなり、該金属部レートの一端がタングプレート20と連結されるバックル22に接続される。他端は車体またはシート側面に固定されている。
【0041】
本実施の形態では、図5(A)に示すように、バックル22にタングプレート20が挿入されて連結されることで乗員が拘束される。この状態でウエビング14の荷重が増加して所定の荷重以上になったときには、図5(B)に示すように、エネルギ吸収機構58を構成する金属プレートのジグザグ状の部分が伸びて塑性変形する。この金属プレートの塑性変形によりエネルギを吸収するようになっている。
【0042】
本実施の形態では、エネルギ吸収機構58は、ウエビング損傷荷重より十分小さい荷重で金属プレートが塑性変形するように設定されている。また、エネルギ吸収機構58の作動荷重は、上述のフォースリミッタ機構によるウエビングの張力を開放する荷重よりも大きい値に設定されている。すなわち、フォースリミッタ機構が先に作動した後に、ウエビング荷重が更に上昇したところでエネルギ吸収機構58が作動して、タングプレート20に対するウエビング14の移動が制限されて荷重が増加することによるウエビング14の損傷を防止するようになっている。
【0043】
図6は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10の制御系の構成を示すブロック図である。
【0044】
本実施の形態では、自動車の衝突を予測するプリクラッシュシステム60と、自動車の衝突を検知する衝突検知システム62を備えている。
【0045】
プリクラッシュシステム60は、自動車の衝突を予測するための演算等を行うプリクラッシュECU64を備えている。
【0046】
プリクラッシュECU64には、自動車の衝突を予測するための各種センサが接続されており、本実施の形態では、レーダー66、車速センサ68、加速度センサ70、及びカメラ72が接続されている。
【0047】
レーダー66は、例えば、ミリ波を周囲に出射して対象物から反射してきた電波を受信し、伝搬時間やドップラー効果によって生じる周波数差などを基に対象物までの距離や自車との相対速度等を測定するものを適用することができる。そしてレーダー66の測定結果をプリクラッシュECU64に出力するようになっている。
【0048】
車速センサ68は、トランスミッションやハブ等の回転部分に設けられ、自動車の速度を検出するものを適用することができ、検出結果をプリクラッシュECU64に出力するようになっている。
【0049】
加速度センサ70は、加速、減速、或いは衝突等によって発生する加速度を検出し、検出結果をプリクラッシュECU64に出力する。
【0050】
また、カメラ72は、自動車周囲を撮影して、周辺の障害物を検出すると共に、障害物までの距離を測定するために設けられており、撮影結果をプリクラッシュECU64に出力する。
【0051】
そして、プリクラッシュECU64は、レーダー66、車速センサ68、及び加速度センサ70の検出結果、並びにカメラ72の撮影結果を取得して衝突を予測する。衝突の予測方法としては、例えば、入力される情報に基づいて障害物に衝突するまでの時間を演算し、演算した時間が車速等に応じて予め定めた時間以下になった場合に、衝突可能性があると判断することができる。
【0052】
また、プリクラッシュECU64には、上述のプリテンショナモータ34が接続されており、衝突を予測したときに、プリテンショナモータ34の駆動を制御するようになっている。これによって、スプール24にウエビング14が巻き取られ、ショルダベルトによって乗員が拘束される。
【0053】
一方、衝突検知システム62は、衝突時に展開するエアバッグを制御するためのエアバッグECU74を備えている。
【0054】
エアバッグECU74には、上述の加速度センサ70及び車速センサ68が接続されていると共に、乗員検知センサ76、及びバックルスイッチ78が接続されている。
【0055】
乗員検知センサ76は、例えば、シートクッションに加わる荷重を検出し、検出結果をエアバッグECU74へ出力する。
【0056】
また、バックルスイッチ78は、例えば、タングプレート20が挿入されたことを検知し、検知結果をエアバッグECU74に出力する。
【0057】
そして、エアバッグECU74は、加速度センサ70、車速センサ68、乗員検知センサ76、及びバックルスイッチ78から得られる情報に基づいて、自動車に設けられたエアバッグ装置の展開制御を行うようになっている。
【0058】
また、エアバッグECU74には、上述のラップアウタプリテンショナ16が接続されており、エアバッグECU74によって衝突が検知された場合に、ラップアウタプリテンショナ16のMGG48を点火するように制御する。これによって、MGG48からガスが発生し、ワイヤ42を介してジョイントアンカ44が引っ張られて、ラップベルトによって乗員が拘束される。
【0059】
続いて、上述のように構成された本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置の作用について説明する。図7は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10の制御系で行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【0060】
まず、ステップ100では、衝突が予測されたか否か判定される。該判定は、プリクラッシュシステム60のプリクラッシュECU64が衝突を予測したか否か(衝突回避不可か否か)を判定し、該判定が肯定されるまで待機してステップ102へ移行する。
【0061】
ステップ102では、プリクラッシュECU64がプリテンショナモータ34を駆動することによって、ウエビング14のスプール24への巻き取りが行われてステップ104へ移行する。これによって、プリテンショナモータ34が駆動されることにより、ショルダベルトが巻き取られて、予め定めた荷重に達したところでシートベルトリトラクタ12のロック機構32が作動して、ウエビングの引出が制限される。
【0062】
ステップ104では、衝突が検知されたか否か判定される。該判定は、エアバッグECU74によって衝突が検知されたか否かを判定し、該判定が否定された場合にはステップ106へ移行し、肯定された場合にはステップ110へ移行する。
【0063】
ステップ106では、衝突回避したか否か判定される。該判定は、プリクラッシュシステム60のプリクラッシュECU64によって衝突の予測がなくなったか否かを判定することにより衝突を回避したか否かを判定し、該判定が否定された場合にはステップ104に戻り、肯定された場合にはステップ108へ移行する。
【0064】
ステップ108では、プリクラッシュECU64がプリテンショナモータ34を制御して、ウエビング14を開放方向(スプール24から引き出す方向)に駆動することにより、ウエビングの張力が開放されてステップ100へ戻って上述の処理が繰り返される。なお、ステップ106、108は、万が一予測が外れた場合のフェールセーフとして設けた処理である。すなわち、本実施の形態では、基本的には、衝突回避不可である場合にプリテンショナモータ34を作動してウエビングを巻き取るので、ステップ106、108の処理は省略してもよい。
【0065】
一方、ステップ110では、エアバッグECU74がラップアウタプリテンショナ16を制御して作動させることによって、ラップアウタプリテンショナ16によってラップベルトを引っ張ることで乗員が拘束されて一連の処理を終了する。すなわち、ラップアウタプリテンショナ16が作動することにより、図4(C)に示すように、タングプレート20のカム56が回転してロック作動となり、タングプレート20に対するウエビングの移動が制限される。その後、自動車の減速に従ってショルダベルトへの荷重及びラップベルトへの荷重が上昇すると、シートベルトリトラクタ12のフォースリミッタ機構が作動してショルダベルトの荷重が一定に保持される。また、さらに荷重が上昇してラップベルト荷重が上昇すると、エネルギ吸収機構58が作動してラップベルト荷重が一定に保持され、ウエビングの損傷が防止される。
【0066】
ここで、ウエビング14の加わる荷重の推移例を参照しながら、自動車用シートベルト装置10の具体的な動作例を説明する。図8は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10の各機構の動作順を説明するための図である。また、図9は、本発明の実施の形態に係わる自動車用シートベルト装置10が作動したときのショルダベルト荷重とラップベルト荷重の変化の一例を示す図である。
【0067】
本実施の形態では、図9(A)に示すように、衝突予測として衝突確定(衝突回避不可)と判断してからプリテンショナモータ34を作動してショルダベルトの巻き取りを開始する(図9のA点)と、図8に示すように、ショルダベルトの巻き取りから一定荷重に達したところでシートベルトリトラクタ12のロック機構32が作動して(図9のB点)、ウエビング14の引出が制限される。
【0068】
従来は、ウエビングの巻き取り作動は衝突前にウエビングの弛みを除くことが目的とされているため、乗員が制動加速度等により前方へ移動する前に作動させる必要があり、衝突に至らない場合でも作動させる。従って、作動頻度が多いため乗員を引き戻す程の強い荷重で巻き取りを行うことができなかった。これに対して、本実施の形態では、上述のように衝突が確定してからプリテンショナモータ34を作動するのでウエビング14の巻き取りタイミングを可能な限り遅らせて、プリテンショナモータ34の作動頻度を少なくすることができる。これによって、作動頻度が少なくなるため従来よりも強い荷重でウエビング14を巻き取ることが可能となり、衝突前に乗員を確実に拘束することが可能となる。また、プリテンショナモータ34によって強い荷重でウエビング14を巻き取ることが可能となるため、インフレータやMGG等を用いたプリテンショナを廃止することも可能となる。
【0069】
一方、エアバッグECU74によって衝突が検知されて、図8に示すように、ラップアウタプリテンショナ16が作動されると(図9のC点)、ラップベルトの張力とショルダベルトの張力が上昇し、タングプレート20のカム56が回転してタングプレート20のロック機構が作動する(図9のD点)。このラップアウタプリテンショナ16の作動及びタングプレート20のロック機構作動により、初期の腰部の拘束性を向上することができ、大腿部への負荷を低減することができる。
【0070】
その後、更にショルダベルト荷重及びラップベルト荷重が上昇すると、図8に示すように、シートベルトリトラクタ12のフォースリミッタ機構が作動してショルダベルト荷重が一定に保たれ(図9のE点)る。さらにラップベルト側の荷重が上昇すると、エネルギ吸収機構58が作動して(図9のF点)、ウエビング14の損傷が防止される。
【0071】
すなわち、タングプレート20のロック機構と、エネルギ吸収機構58を組み合わせることにより、ラップベルト荷重が必要以上に上昇するのを抑えてウエビング14の損傷を防止することができると共に、エネルギ吸収機構58によってショルダベルト下部の張力を緩和することで胸のたわみ量の低減効果が期待できる。
【0072】
また、本実施の形態では、エネルギ吸収機構58が作動する荷重をウエビング14の損傷荷重よりも十分小さく設定しているので、タングプレート20のロック機構が作動してウエビング14の荷重が上昇しても、ウエビング14が損傷する前にエネルギ吸収機構58が作動するので、ウエビング14の損傷を確実に防止することができる。
【0073】
さらに、シートベルトリトラクタ12のフォースリミット機構が作動する荷重Xよりも、エネルギ吸収機構58が作動する荷重Yを大きい値に設定しているので、始めにフォースリミッタ機構が作動することで、ショルダベルト荷重が一定に保たれて胸部への負荷を低減することができる。そして、続いてエネルギ吸収機構58が作動することで、ラップベルト荷重が一定に保たれ、腰部の荷重の開放が最後となるので、腰部を拘束しつつ、大腿部への負荷を軽減することができる。すなわち、フォースリミッタ機構が作動する荷重Xよりもエネルギ吸収機構58が作動する荷重Yを大きい値とすることで、乗員を効率良く拘束することができる。
【0074】
従って、上述のような構成とすることにより、ウエビング14の損傷を防止しつつ、腰部拘束性を向上することができる。
【0075】
なお、上記の実施の形態では、プリクラッシュシステム60と衝突検知システム62を別々の構成として説明したが、これに限るものではなく、一体構成として1つのECUで衝突予測とエアバッグ制御等の各種制御を行う構成を適用するようにしてもよい。また、プリクラッシュシステム60は必須構成ではなく、省略するようにしてもよい。
【0076】
また、上記の実施の形態では、バックル22に設けられたエネルギ吸収機構58は、ジグザグ状の金属プレートの塑性変形を利用してエネルギを吸収するものを適用するようにしたが、これに限るものではない。例えば、シートベルトリトラクタ12のフォースリミッタ機構のように、トーションバーの捩れを利用してエネルギを吸収するようにしてもよいし、他のエネルギを吸収する構成を適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 自動車用シートベルト装置
12 シートベルトリトラクタ
14 ウエビング
16 ラップアウタプリテンショナ
20 タングプレート
22 バックル
26 トーションバー
28 プリテンショナ機構
32 ロック機構
34 プリテンショナモータ
48 MGG
56 カム
58 エネルギ吸収機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエビングの引出をロックするためのロック機構、及び前記ロック機構によってウエビングの引出がロックされた状態でウエビング荷重を予め定めた第1の荷重に制限するフォースリミッタ機構を備え、ウエビングを一端側から巻き取り可能とされたシートベルトリトラクタと、
衝突が検知されたときに、ウエビングの他端側を引き込んでウエビングに荷重を発生させるプリテンショナ手段と、
前記プリテンショナ手段が作動してウエビングに所定の荷重が発生した場合にウエビングに対する移動を制限する制限機構を備えたタングプレートと、
予め定めたウエビング損傷荷重よりも小さい第2の荷重で作動してエネルギを吸収するエネルギ吸収機構を備え、前記タングプレートが着脱可能に連結されるバックルと、
を備えた自動車用シートベルト装置。
【請求項2】
前記エネルギ吸収機構は、前記第2の荷重として前記第1の荷重よりも大きい荷重で作動するように設定された請求項1に記載の自動車用シートベルト装置。
【請求項3】
前記シートベルトリトラクタは、衝突回避不可能と判定されたときに、衝突前にウエビングを巻き取るモータを更に備えた請求項1又は請求項2に記載の自動車用シートベルト装置。
【請求項4】
前記エネルギ吸収機構は、前記第2の荷重で塑性変形することによりエネルギを吸収する部材を有する請求項1〜3の何れか1項に記載の自動車用シートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−18460(P2013−18460A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155727(P2011−155727)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】