説明

自動車用懸架装置

【課題】 締結不良を防止でき、また種々の自動車に適用しやすい自動車用懸架装置を提供する。
【解決手段】 車体側部材1とサブフレーム2とを連結する支持部材3は、前記支持部材は、サブフレーム2に結合して上方に延びる外側筒状部材31と、この外側筒状部材31の上部に内嵌する内側筒状部材32と、この内側筒状部材32に内嵌し、上下方向の長さが外側筒状部材31よりも短いインシュレータ33と、を備える。そして、インシュレータ33が、当該インシュレータ33を上下方向に貫通するボルト5で車体側部材1に締結する。これにより、ボルトの長さが短くなり、ボルトの倒れによる締結不良の発生のおそれが少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用懸架装置に関し、特に車体とサブフレームの連結部分の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に示すように、車体とサブフレームとは、振動を吸収するインシュレータ等の支持弾性体と、車体とサブフレームとの間にできるスペースを埋めるためのスペーサと、を介して連結される。
上記特許文献1に開示される技術では、インシュレータが内挿されたサブフレームと車体との間に、スペーサが配置されている。そして、このスペーサとインシュレータは、サブフレームの下部より上下方向に貫通したボルトによって車体に締結されている。また、インシュレータ及びサブフレームの下方には、インシュレータの経年劣化による破断等でサブフレームが脱落するのを防止するために、落下防止ストッパが配置されている。
【特許文献1】特開2003−246276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したような従来の技術では、以下のような問題があった。まず、ボルトは、上下方向に重なるように配置されたインシュレータ及びスペーサを締結する必要から、長くせざるを得ず、このためボルトの倒れによる締結不良の発生が懸念された。また、サブフレームの下方に落下防止ストッパを配置する構造のため、落下防止ストッパの分だけ地上高が減り、地上高が低くなり過ぎる場合には路面との干渉を避ける必要からそのまま採用できないこともある。
本発明は上述のような問題に鑑みてなされたものであり、締結不良を防止でき、また種々の自動車に適用しやすい自動車用懸架装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の自動車用懸架装置は、車体側部材の下方にサブフレームが配置され、前記車体側部材と前記サブフレームとを、上下方向に延在する支持部材により連結する懸架装置において、前記支持部材は、前記サブフレームに結合して上方に延びる筒状部材と、前記筒状部材の上部に内挿され、上下方向の長さが前記筒状部材よりも短い支持弾性体と、を備え、前記支持弾性体は、当該支持弾性体を上下方向に貫通するボルトで車体側部材に締結されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ボルトを短くすることができるので、ボルトの倒れによる締結不良の発生のおそれがない。また種々の車両に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る自動車用懸架装置の構造を示す断面図である。
車体側部材1の下方に、サブフレーム2が配置され、その車体側部材1とサブフレーム2とは、上下方向に延在する支持部材3により連結されている。これにより、サブフレーム2は支持部材3を介して車体側部材1に弾性支持される。
【0007】
支持部材3は、外側筒状部材31と、内側筒状部材32と、インシュレータ33と、を備える。
外側筒状部材31は、上下に延びる略円筒状部材であり、その上部が絞られて小径の小径部31aを形成している。その外側筒状部材31は、下部がサブフレーム2に溶着されて一体となって上方に延び、上記小径部31aに内側筒状部材32が内嵌されている。なお、小径部31aよりも下部の外径が、小径部31aよりも大きくなっているのは、後述する落下防止ストッパ4との接触を避けるためである。
この外側筒状部材31が、本発明の筒状部材に相当する。
【0008】
内側筒状部材32は、軸を上下に向けた略円筒状部材であり、外側筒状部材31の内径と略同等の外径を有する嵌合部32aと、その嵌合部32aの下側に連続して形成された、嵌合部32aよりも外径の小さい掛部32bとからなる。そして、上述のように嵌合部32aが外側筒状部材31に嵌合される。これと共に、内側筒状部材32は、内周にインシュレータ33を嵌合している。なお、嵌合部32aの上下方向長さは、これに外嵌する外側筒状部材31の小径部31aの上下方向長さよりも長くなっている。外側筒状部材31に内側筒状部材32を取り付ける際には、上下方向の位置において、嵌合部32aが小径部31aの適用する車両に応じた位置に嵌合するように圧入する。これにより、支持部材3の上下方向の長さを調節する。圧入後は、当該位置で溶着される。図中の符号31bは溶着部である。
【0009】
インシュレータ33は、軸を上下に向けたブッシュ内筒33aと、このブッシュ内筒33aと同軸に配置されるブッシュ外筒33bと、このブッシュ内筒33aとブッシュ外筒33bの間に介装されるゴム部材33cと、を備える。このインシュレータ33は、全体として外側筒状部材3よりも上下方向に短くなっている。そして、上述のようにブッシュ外筒33bは内側筒状部材32に嵌合する。さらに、ボルト5が下側からブッシュ内筒33aの中空部を上下に挿通され、ボルト5の頭部がワッシャを介してインシュレータ33の下端面に当接して、当該インシュレータ33を車体側部材1に締結している。これにより、支持部材3の全体がボルト5によって車体側部材1に締結される。
【0010】
なお、サブフレーム2から振動が伝えられると、ブッシュ内筒33aよりも上下方向に短いブッシュ外筒33bが振動するが、当該振動はゴム部材33cによって減衰し、ブッシュ内筒33a及び車体側部材1にはほとんど伝えられない。また、ブッシュ外筒33bの上端部は外側に向かって折り曲げられており、組み立て時には当該部分が内側筒状部材32の上端に接触するまで圧入される。
【0011】
また、ボルト5の締結に用いるワッシャは、本発明の落下防止ストッパ4に相当し、インシュレータ33の下端部の外径よりも大きく、かつ、内側筒状部材32の掛部32bの外径と同等又は少し小さい寸法である。インシュレータ33及び内側筒状部材32は、落下防止ストッパ4と同軸上に配置されていることから、インシュレータ33及び掛部32bは、それぞれ落下防止ストッパ4に上下方向で対向する。
【0012】
次に、上記構成の支持部材3がもたらす作用効果について説明する。
まず、上記構成では、従来のスペーサとしての役割を果たす外側筒状部材31の中空部内にインシュレータ33を取り付け、このインシュレータ33をボルト5で車体側部材1に締結する構造としている。このため、ボルト5を短くすることができ、ボルトの倒れによる締結不良の発生を抑制できる。
【0013】
また、上記構成では、インシュレータ33と内側筒状部材32の掛部32bとが、それぞれ落下防止ストッパ4に上下方向で対向する。従って、例えば、ゴム部材33cの経年劣化によりインシュレータ33が破断し、ブッシュ外筒33bが外嵌した内側筒状部材32と共に落下した場合や、内側筒状部材32がインシュレータ33から外れて落下した場合に、落下防止ストッパ4がインシュレータ33又は掛部32bを受け、サブフレーム2の落下が防止される。
【0014】
また、上記構成では、落下防止ストッパ4も外側筒状部材31の中空部内に収容している。このため、落下防止ストッパを設けても地上高が路面と干渉するほど低くなってしまうようなことがなくなり、従来において適用できなかった車種に適用可能となる。
さらに、上記構成では、内側筒状部材32の嵌合部32aよりも掛部32bの外径を小さくし、落下防止ストッパ4の外径もこれと同径としている。このように、落下防止ストッパ4の径をできる限り小さくすることで、外側筒状部材31の小径部31aよりも下部の外径をより小さくすることができ、種々の車種に適用がしやすくなっている。また、小径部31aと下部の外径差が大きく、絞りがきついと、製造の難易度が高く、製造コストも高いが、上記構成のように外径差を小さくすればこの問題も解消する。
【0015】
また、上記構成では、内側筒状部材32の嵌合部32aの上下方向長さを、これに嵌合する外側筒状部材31の小径部31aよりも長くすることで、上下方向の取り付け位置を任意に選択可能とし、支持部材3の上下方向長さを調節可能としている。このため、車体側部材1とサブフレーム2との間にできるスペースが異なる種々の車種に、同一の支持部材3を適用することができる。あるいは、支持部材3の長さを調整するだけで、車両姿勢を容易に変更することが可能となる。
なお、本発明は、上述の構成に限定されないものであることはいうまでもない。
【0016】
例えば、図2に示すような構成をとることもできる。以下、図1の構成と異なる点を中心に説明する。
図2の構成では、図1のものと支持部材の構成が若干異なる。図2の支持部材7は、筒状部材71とインシュレータ73とを備えてなり、図1のように筒状部材が外側筒状部材及び内側筒状部材との2重構造にはなっていない。筒状部材71は、上端部において径の小さい小径部71aを有し、ここにインシュレータ73を内嵌させる。インシュレータ73は、図1に示したものと同様にブッシュ外筒73bとブッシュ内筒73aとこれらを連結するゴム部材73cとを備えるが、ブッシュ外筒73bが直接筒状部材71に嵌合する点で異なっている。このため、ブッシュ外筒73bの筒状部材71に嵌合する部分は上下方向の長さが、筒状部材71の小径部71aよりも長く、取り付け位置を上下に変更可能になっている。また、図1と同様にワッシャが落下防止ストッパ6となっている。しかし、本構成では別部材が配置されないため、落下防止ストッパ6は、筒状部材の小径部71aを受け止めることができるよう、当該小径部71aの内径よりも大きな外径とされている。なお、符号71bは溶着部である。
【0017】
図2の構成においても、ボルト5の長さを短くすることができるので、締結不良のおそれがない。また、落下防止ストッパ6が筒状部材71の中空部内に配置されるので、落下防止ストッパ6のせいで地上高が低くなることもない。
その他、図示しないが、掛部が構成される別部材は上記のような内側筒状部材32に限定されず、例えば、一端が外側筒状部材31に取り付けられ、かつ、他端が外側筒状部材の内側に向かって張り出して落下防止ストッパと対向するようなものであってもよい。但し、内側筒状部材32を設ける構成とすれば、インシュレータ33及び外側筒状部材31の双方に嵌合するので、別部材の脱落等のおそれがなく、形状からみても製造が容易である。また、支持部材3の長さを変更可能な構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1とは異なる本発明の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 車体側部材
2 サブフレーム
3,7 支持部材
4,6 落下防止ストッパ
5 ボルト
31 外側筒状部材
31a 小径部
31b,71b 溶着部
32 内側筒状部材
32a 嵌合部
32b 掛部
33,73 インシュレータ
33a,73a ブッシュ内筒
33b,73b ブッシュ外筒
33c,73c ゴム部材
71 筒状部材
71a 小径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材の下方にサブフレームが配置され、前記車体側部材と前記サブフレームとを、上下方向に延在する支持部材により連結する懸架装置において、
前記支持部材は、前記サブフレームに結合して上方に延びる筒状部材と、前記筒状部材の上部に内挿され、上下方向の長さが前記筒状部材よりも短い支持弾性体と、を備え、
前記支持弾性体は、当該支持弾性体を上下方向に貫通するボルトで車体側部材に締結されることを特徴とする自動車用懸架装置。
【請求項2】
前記ボルトに支持されると共に、前記筒状部材の内周の一部に対し、下側に配置され、且つ、上下方向において対向する部分を有する落下防止ストッパを、前記筒状部材の中空部内に配置したことを特徴とする請求項1に記載の自動車用懸架装置。
【請求項3】
前記落下防止ストッパと上下方向において対向する筒状部材の一部は、前記筒状部材の内周面に取り付けた別部材で構成されることを特徴とする請求項2に記載の自動車用懸架装置。
【請求項4】
前記別部材は、前記筒状部材の上部の内周に嵌合されると共に、前記支持弾性体を内周に嵌合する内側筒状部材であることを特徴とする請求項3に記載の自動車用懸架装置。
【請求項5】
前記内側筒状部材は、前記筒状部材との嵌合部分よりも下側部分が前記筒状部材との嵌合部分よりも内側に位置して、その下側部分が掛部として前記落下防止ストッパと上下に対向し、
前記落下防止ストッパの外形は、上面視で前記掛部の外周内に収まる形状であることを特徴とする請求項4に記載の自動車用懸架装置。
【請求項6】
前記内側筒状部材は、前記筒状部材に対して上下方向に取り付け位置を変更可能であることを特徴とする請求項4又は5に記載の自動車用懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−290109(P2006−290109A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112184(P2005−112184)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】