自動車用衝撃吸収部材
【課題】エネルギー吸収性能を維持しつつ、サイズの小型化を実現可能とした新規な構造の自動車用衝撃吸収部材を提供すること。
【解決手段】合成樹脂材料で形成されて外力の入力方向に対して平行に広がる平板形状とされた一対の縦壁部12,12を設けると共に、それら一対の縦壁部12,12に対してそれぞれ金属プレート14を固着せしめる一方、一対の縦壁部12,12の一方の側の端部間に跨るように縦壁部12以下の厚さ寸法とされた天壁部16を一体形成して、縦壁部12において天壁部16が一体形成された側の端部が外力の作用側となるように自動車に配設した。
【解決手段】合成樹脂材料で形成されて外力の入力方向に対して平行に広がる平板形状とされた一対の縦壁部12,12を設けると共に、それら一対の縦壁部12,12に対してそれぞれ金属プレート14を固着せしめる一方、一対の縦壁部12,12の一方の側の端部間に跨るように縦壁部12以下の厚さ寸法とされた天壁部16を一体形成して、縦壁部12において天壁部16が一体形成された側の端部が外力の作用側となるように自動車に配設した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に装着される衝撃吸収部材に係り、特にアクシデント等に際して剛性部材等への衝撃エネルギーを吸収して衝撃を緩和する自動車用衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のボデー等においては、乗員の安全性確保などを目的として衝撃吸収部材の装着が検討されている。かかる衝撃吸収部材としては、例えば、特許文献1(特開平10−35378号公報)に開示されているように、合成樹脂材料で一体成形されて格子状に組み合わせられた複数のリブを有する衝撃吸収構造が知られている。このような特許文献1に記載の衝撃吸収部材は、例えば、自動車の衝突等に際して作用せしめられる衝撃エネルギーが、リブ構造体の塑性変形によって吸収されるようになっている。
【0003】
ところで、自動車においては、その車室空間の広さが重要視されており、より広い車室空間を形成するために様々な努力が為されている。そして、車室空間の広さに対する昨今の高度な要求により、車両ボデーのルーフサイドパッド等に収容配置されて車室広さに直接的な影響を及ぼす自動車用の衝撃吸収部材に対しても小型化が求められている。また一方では、乗員の安全性等を高度に維持する必要があり、エネルギー吸収力の低下を招くおそれがある衝撃吸収部材の小型化を安易に実施することが困難であるという事実もある。これらの事情を背景として、衝撃吸収部材には小型化と高い衝撃エネルギー吸収力の両立が求められているのである。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の衝撃吸収部材では、外力が作用せしめられて、塑性変形せしめられると、特許文献1における図9(b)にも示されているように、複数のリブが倒れ込むように変形する場合がある。このような変形を生じると、各リブが相互に重なり合ってしまうため、外力の入力方向での変形ストロークを充分に得られないおそれがある。それ故、十分な衝撃エネルギーの吸収力を安定して確保しつつ、外力作用方向での小型化を効果的に実現することが困難であった。
【0005】
また、衝撃吸収部材の他の一例として、例えば、特許文献2(特開平10−29482号公報)に記載されているように、アルミ箔の両面にクラフト紙を重ねた複合材を用いて、断面形状が四角形の略パイプ状とされた衝撃エネルギー吸収材も知られている。このような特許文献2に記載の衝撃吸収部材は、自動車のボデーに外力が作用した場合に、部材全体が潰れるように塑性変形せしめられることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようになっている。それ故、外力作用時に部材が重なり合うように変形することによる変形ストロークのロスを有利に防ぐことが出来る。
【0006】
ところが、特許文献2に記載の衝撃吸収部材においても、エネルギー吸収力の維持と部材の小型化が高度に両立されているとは未だ言い難かった。即ち、特許文献2に記載の衝撃エネルギー吸収材では、全体に亘って金属材と紙の複合材で形成されていることから、部材厚さが厚くなり易い。それ故、必要とされる変形ストロークを確保しつつ、衝撃吸収部材のサイズを小型化することが困難であった。しかも、特許文献2に記載の衝撃吸収部材は、リボン状の複合材を巻きつけて全体として筒状となるように形成されており、湾曲等の変形を可能とするために表面には蛇腹状の凹凸が形成されている。かかる凹凸によって各壁部の実質的な壁厚寸法がより大きくなり易く、衝撃吸収部材の小型化を未だ充分には実現出来なかった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−35378号公報
【特許文献2】特開平10−29482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、衝撃エネルギーの吸収力を維持しつつ、サイズの小型化を実現可能とした新規な構造の自動車用衝撃吸収部材を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明は、自動車に作用せしめられる外力のエネルギーを吸収する自動車用衝撃吸収部材において、それぞれ外力の入力方向に広がる平板形状を有しており互いに所定距離を隔てて対向位置せしめられた一対の縦壁部と、それら一対の縦壁部における外力入力側の各端部間に跨る天壁部とが、合成樹脂材料で一体形成されていると共に、該一対の縦壁部にはそれぞれ金属プレートが固着されており、且つ該天壁部の厚さ寸法が該各縦壁部の該金属プレートを含む壁厚さ寸法以下とされている一方、該一対の縦壁部における外力入力側と反対側の両端部を相互に位置決めする位置決め部が設けられていることを、特徴とする。
【0011】
このような本発明に従う構造とされた自動車用衝撃吸収部材では、縦壁部が十分な強度を有すると共に、天壁部が縦壁部に比して低い強度で形成されており、入力される外力が一対の縦壁部で受けられるようになっている。そして、入力された外力によって一対の縦壁部が変形せしめられることにより、外力のエネルギーを有効に吸収することが出来る。なお、縦壁部の外力入力側の端部が天壁部によって連結されて相互に位置決めされていると共に、縦壁部の外力入力側とは反対側の端部にはそれら端部を相互に位置決めする位置決め部が設けられていることから、外力が作用せしめられた場合にも、左右両側の縦壁部の上端部同士や下端部同士の接近方向および離隔方向の相対的な変位が抑えられる。これにより、外力が左右両側の縦壁部に対して有効に且つ安定して及ぼされ得て、縦壁部が塑性変形を生ずることとなる。
【0012】
特に本発明では、縦壁部に金属プレートを固着せしめることによって縦壁部の強度を確保している。それ故、所定の衝撃エネルギー吸収力を得るために必要な強度を確保しつつ、縦壁部を薄肉化することが出来て、衝撃吸収部材の小型化を有利に実現することが出来る。更に、天壁部を合成樹脂単体で形成し、且つ縦壁部の総厚さ以下の壁厚さとすることにより、外力作用方向での変形ストロークを有利に確保することが出来る。それ故、所定の変形ストロークを確保しつつ、衝撃吸収部材の外力作用方向での小型化を有利に実現することが出来る。
【0013】
また、本発明においては、前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部間に跨るように底壁部が一体形成されており、該底壁部によって前記位置決め部が構成されている構造を、採用することが出来る。このような構造を採用することにより、特別な別体の位置決め部材等が必要でなくなり、簡単な構造で、一対の縦壁部の外力入力側と反対側の各端部を相互に位置決めすることが出来る。それ故、一対の縦壁部において所期の塑性変形を安定して生ぜしめることが出来て、エネルギー吸収力を有効に発揮せしめることが出来る。
【0014】
また、本発明においては、前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部において、自動車の車両ボデー側に固定するための固定部が設けられており、かかる固定部によって前記位置決め部が構成されている構造も、採用可能である。このような構造では、底壁部が必要でなくなり、底壁部との重なりに起因する変形ストロークの減少を回避し、外力作用方向での変形ストロークを一層有利に確保することが可能となる。
【0015】
さらに、本発明においては、前記縦壁部において前記金属プレートが埋設状態で固着されている構造が、好適に採用される。これにより、金属プレートの縦壁部への固着強度を十分に得ることが出来て、外力入力時に縦壁部が塑性変形せしめられた場合にも金属プレートの剥離や脱落を有利に防ぐことが出来る。
【0016】
また、本発明においては、前記縦壁部の少なくとも一方の面に前記金属プレートが重ね合わされて固着された構造を、採用することが出来る。このような構造を採用することにより、金属プレートを縦壁部に対して接着等で後固着することが可能となる。また、金属プレートの材質や厚さ,寸法等を変更するだけで、縦壁部や天壁部等の樹脂成形体を共通化して、互いに異なる衝撃吸収特性の衝撃吸収部材を得ることも可能となる。
【0017】
また、本発明においては、前記縦壁部の前記金属プレートを含む総厚さ寸法:D1 が、0.8mm≦D1 ≦3.5mmとされていることが望ましい。また、前記天壁部の厚さ寸法:D2 は、0.8mm≦D2 ≦3.5mmとされていることが望ましい。縦壁部や天壁部の厚さ寸法をこのような範囲で設定することにより、縦壁部や天壁部において、その強度を確保しつつ、薄肉化を一層有利に図ることが出来る。
【0018】
さらに、本発明においては、前記金属プレートの厚さ寸法:dが、0.2mm≦d≦1.0mmとされていることが望ましい。金属プレートの厚さ寸法をこのような範囲で設定することにより、縦壁部を適当に補強しつつ縦壁部全体の厚さ寸法が増大することを防ぐことが出来る。それ故、衝撃吸収部材における衝撃吸収性能の向上と小型化が一層有利に達成される。なお、金属プレートの厚さ寸法や幅寸法等は、金属プレートの材料や要求される強度等に応じて適宜に設定されるものであり、例えば縦壁部の全体に亘って金属プレートを固着することは、必ずしも必要ない。
【0019】
また、本発明において、好適には、前記一対の縦壁部及び前記天壁部の長手方向寸法:Lが、L≧80mmとされる。これにより、軸方向での有効座屈面を十分に確保することが出来て、衝撃エネルギーの吸収を有効に実現することが出来る。特に、例えば、乗員の頭部等を保護するために本発明に係る衝撃吸収部材が採用される場合等には、軸方向寸法をこのような範囲で設定することにより、乗員を有効に保護することが出来る。なお、より好適には、L≧100mm、更に好適には、L≧190mmとされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
先ず、図1,2には、本発明の一実施形態としての自動車用の衝撃吸収部材10が示されている。衝撃吸収部材10は、自動車の衝突時等において、乗員や他の部材の打ち当たりによる衝撃を変形によって吸収し、乗員の安全確保や他部材の破損回避等を実現するものである。なお、以下の説明において、上下方向とは、図2における上下方向をいうものとする。
【0022】
より詳細には、衝撃吸収部材10は、左右一対の縦壁部としての支持壁部12,12と、天壁部としての当接壁部16および底壁部としての連結壁部18を備えており、全体として略一定の矩形枠体形状の中空断面をもって延びる長手状の筒体形状とされている。なお、長手方向(軸方向)の形状は適当に設定可能であり、適当な湾曲形状など、装着部位に応じて適宜に設定され得る。また、衝撃吸収部材10における一対の支持壁部12,12と当接壁部16および連結壁部18は、ナイロンやポリカーボネート等の合成樹脂材料で一体成形されている。更に、衝撃吸収部材10は、略一定の断面寸法をもって長手方向で延びるように形成されていることが望ましい。
【0023】
支持壁部12は、略平板形状であって、一対の支持壁部12,12が互いに平行に設けられている。また、支持壁部12は、車両への装着状態において、外力が作用せしめられる方向に対して略平行となるように配設されている。なお、本実施形態では、衝撃吸収部材10に対して図2中における上方から下方に向かって外力が作用せしめられるものとして説明する。
【0024】
また、一対の支持壁部12,12にはそれぞれ金属プレートとしての補強金属板14が固着されている。補強金属板14は平板形状の金属板であって、本実施形態では支持壁部12に埋設されて支持壁部12の長手方向略全長に亘って設けられている。要するに、本実施形態における支持壁部12は、補強金属板14を中間層として、かかる補強金属板14の両側面をそれぞれ合成樹脂層で被覆して為る積層構造の複合体とされている。また、補強金属板14は、鉄やアルミニウム合金、マグネシウム合金等が好適に採用され、本実施形態ではステンレス鋼で形成されている。なお、補強金属板14は、凹凸や湾曲がない平板形状であることが望ましいが、衝撃吸収部材10が装着部位に応じて長手方向(軸方向)で湾曲等している場合には、かかる湾曲に沿って延びるように形成される。
【0025】
なお、支持壁部12の壁厚寸法:D1 は、0.8mm≦D1 ≦3.5mmとされていることが望ましく、より好適には、1.0mm≦D1 ≦2.5mmとされている。更に、補強金属板14の板厚寸法:dは、0.2mm≦d≦1.0mmとされていることが望ましく、より好適には、0.2mm≦d≦0.8mmとされている。これにより、支持壁部12全体の厚さを薄肉としつつ、補強金属板14によって十分な強度を支持壁部12に付与することが出来て、外力入力時における衝撃吸収力を有効に発揮せしめることが出来る。なお、支持壁部12の壁厚寸法:D1 とは、補強金属板14の板厚寸法:dを含んだ総壁厚さをいうものである。
【0026】
また、一対の支持壁部12,12の図2中における上端部を連結するように天壁部としての当接壁部16が設けられている。当接壁部16は、合成樹脂材料単体で形成されて、支持壁部12,12と一体形成されている。また、当接壁部16は、一対の支持壁部12,12の外力が作用せしめられる側の端部間に跨って設けられて、外力の作用方向と略直角を為す方向で広がる略平板形状とされている。更に、当接壁部16の厚さ寸法は、支持壁部12の厚さ寸法以下とされており、特に本実施形態では、支持壁部12と当接壁部16の厚さ寸法が同一とされている。
【0027】
なお、当接壁部16の壁厚寸法:D2 は、0.8mm≦D2 ≦3.5mmとされていることが望ましく、より好適には、1.0mm≦D2 ≦2.5mmとされている。当接壁部16の壁厚寸法を上記の範囲で設定することにより、当接壁部16を十分に薄肉としつつ、自動車の衝突時等に作用せしめられる衝撃力に対して十分な強度を得ることが出来て当接壁部16の破損を回避することが出来る。
【0028】
また一方、一対の支持壁部12,12の図1中における下端部を相互に連結するように底壁部としての連結壁部18が形成されている。連結壁部18は、当接壁部16と略平行に広がる平板形状であって、合成樹脂材料単体で構成されて支持壁部12,12と一体形成されている。これにより、一対の支持壁部12,12の一方の端部(図2中、上側)が当接壁部16で相互に連結されていると共に、他方の端部(図2中、下側)が連結壁部18によって相互に位置決めされている。また、本実施形態における連結壁部18の厚さ寸法は、支持壁部12の厚さ寸法以下とされており、特に本実施形態では、支持壁部12と連結壁部18の厚さ寸法が同一とされている。なお、上述の説明からも明らかなように、本実施形態では、支持壁部12、当接壁部16、連結壁部18が何れも等しい板厚寸法で形成されている。また、連結壁部18によって本実施形態における位置決め部が形成されている。
【0029】
なお、連結壁部18の壁厚寸法:D3 は、0.8mm≦D3 ≦3.5mmとされていることが望ましく、より好適には、1.0mm≦D3 ≦2.5mmとされている。連結壁部18の壁厚さを上述の範囲で設定することにより、当接壁部16と同様に、薄肉化を図りつつ、十分な耐久性、耐荷重性を付与することが出来て、連結壁部18の破損等によって所期のエネルギー吸収力が有効に発揮されなくなることを防止できる。
【0030】
さらに、連結壁部18は、図示しない車両ボデーにおける装着部位に対して重ね合わされて位置決め装着される。なお、必要に応じて接着やボルト止め等の方法で固定される。また、装着状態下では、例えば車両ボデー等の剛性部材に対して連結壁部18が重ね合わされる一方、当接壁部16側から合成樹脂材料等で形成されたガーニッシュ等の内装部品等が被せられて、衝撃吸収部材10の全体が覆われる。このようにして、衝撃吸収部材10が車両ボデーの所定位置において、収容状態で取り付けられる。
【0031】
また、衝撃吸収部材10は、その長手方向寸法:Lが、L≧80mmとされていることが望ましく、より好適にはL≧100mm、更に好適にはL≧190mmとされている。即ち、長手方向に十分な大きさを確保することにより、物体の打ち当たり時において有効にエネルギー吸収を実現できる。特に、衝撃吸収部材10に対して球形状の物体が打ち当てられる場合には、長手方向寸法を十分に確保することが、衝撃エネルギーの吸収を効果的に実現するために有効である。
【0032】
すなわち、球状の物体が衝撃吸収部材10に打ち当てられて、衝撃吸収部材10が変形せしめられる場合には、物体が変位せしめられるに従って衝撃吸収部材10の変形箇所(有効座屈面積)が次第に長手方向両側に広がっていく。これにより、物体の変位の進行に伴ってつぶれ様の変形が進むことによっても、変形抵抗(荷重)が著しく増大することなく、略一定の変形抵抗乃至は衝撃吸収力(荷重)を保つ。これにより、衝撃吸収部材10の変形ストロークの全体に亘ってトータル的に大きな衝撃エネルギーを吸収、緩和することが出来る。
【0033】
従って、例えば、衝突時における乗員の安全性を確保するために、自動車のルーフサイドパッド(乗員の頭部保護を目的として、車室内の天井部と側壁部の境界付近に設けられる)に衝撃吸収部材10を配設する場合には、乗員の頭部を効果的に保護するために、長手方向寸法を上述の範囲で設定することにより、優れた衝撃エネルギーの吸収性能を得ることが可能となる。
【0034】
なお、一対の支持壁部12,12と当接壁部16と連結壁部18が一体形成されると共に、一対の支持壁部12,12に補強金属板14が埋設された上述の如き構造を有する衝撃吸収部材10は、例えば、図3に示されているような合成樹脂の押出成形によって実現される。即ち、先ず、押出成形機19によって合成樹脂材料を押出成形して、図4の(a)に示されているように、当接壁部16及び連結壁部18を形成した後、図4の(b)に示されているように、当接壁部16と連結壁部18の間に補強金属板14を挿入し、更に、図4の(c)に示されているように、補強金属板14を覆うように一対の支持壁部12,12を当接壁部16及び連結壁部18と一体的に形成することにより、本実施例の自動車用衝撃吸収部材10が形成されている。勿論、このような製造方法は、あくまでも例示であって、公知の合成樹脂部材の成形方法から適宜に選択されて採用され得る。
【0035】
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用の衝撃吸収部材10は、衝撃エネルギーの吸収能力を低下させることなく、支持壁部12と当接壁部16と連結壁部18を何れも比較的に薄肉とすることが出来る。蓋し、支持壁部12に合成樹脂材料よりも高強度な金属材料で形成される補強金属板14を埋設状態で固着せしめることにより、支持壁部12の板厚を薄肉としつつ、強度を十分に確保することが出来る。更に、入力荷重を一対の支持壁部12,12で受けることにより、当接壁部16と連結壁部18の強度を支持壁部12に比して低くすることが出来て、当接壁部16と連結壁部18の板厚を薄肉とすることが出来るのである。
【0036】
これにより、乗員等の衝突安全性の確保や他部材の破損回避を有効に実現しつつ、衝撃吸収部材10全体を小型化することが出来る。特に、高さ方向での変形ストロークを維持しつつ、外力の入力方向での寸法を小さく出来ることから、本実施形態に係る衝撃吸収部材10が、例えば、乗員の頭部を保護する目的でルーフサイドパッドに配置される場合等には、衝撃吸収部材10の小型化により、自動車の車室空間を有利に得ることが可能である。
【0037】
また、支持壁部12に補強金属板14を固着せしめて支持壁部12の強度を有利に向上せしめることが出来ることから、優れたエネルギー吸収力を実現することが出来て、乗員の安全確保や他部材の破損等を有効に防ぐことが出来る。
【0038】
更に、支持壁部12や当接壁部16、連結壁部18、或いは、補強金属板14のサイズが適当に設定されていることにより、打ち当てられる他部材や乗員の衝撃エネルギー吸収による保護と、衝撃吸収部材10のコンパクト化を両立して有利に実現することが出来る。
【0039】
また、衝撃吸収部材10が長手方向で略一定の断面形状をもって延びるように形成されていることにより、衝撃吸収部材10の長手方向での打ち当り箇所の違いによる衝撃エネルギー吸収力のばらつきを抑えて、所期のエネルギー吸収を安定して実現することが出来る。更に、断面寸法を長手方向で略一定とすることにより、長手方向における打ち当り箇所の違いによるエネルギー吸収力のばらつきをより有利に防ぐことが出来る。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0041】
例えば、図5に示されている衝撃吸収部材20のように、補強金属板14,14が固着された一対の支持壁部12,12と当接壁部16で構成されて、下方に開口するコの字形断面であってもよい。なお、かかる衝撃吸収部材20では、一対の支持壁部12,12の図6中、下端部分が外向きに屈曲せしめられて、固定部22,22が形成されている。そして、固定部22,22が図示しない車両ボデーに対して、例えば、接着やボルト固定等によって固定されることにより、一対の支持壁部12,12の下端を相互に位置決めする位置決め部が構成されている。
【0042】
また、例えば、当接壁部16は、必ずしも平板形状である必要はなく、必要に応じて湾曲、或いは屈曲せしめられていても良い。具体的には、例えば、図6に示されている衝撃吸収部材24のように、当接壁部26が上方に向かって凸となる湾曲板形状とされていても良い。これによれば、支持壁部12に比して柔軟な当接壁部26の変形ストロークを大きく取ることが出来て、当接時の初期荷重を抑えることが出来る。それ故、当接壁部26の曲率等を調節することにより、当接初期の荷重値を容易に変更、設定することが出来るのである。
【0043】
さらに、図7に示されている衝撃吸収部材28のように、当接壁部26が上方に向かって凸な湾曲板形状とされていると共に、連結壁部18を含まず、外向きに屈曲せしめられた固定部22,22を有する構造とされていてもよい。また、その他にも、当接壁部は、上方に向かって湾曲凹状であっても良いし、幅方向中間部分において屈曲せしめられた山形状等であっても良い。
【0044】
また、補強金属板14は、固着強度等の観点から支持壁部12に埋設状態で固着されていることが望ましいが、必ずしも埋設されている必要はない。具体的には、例えば、支持壁部12の内側面と外側面の何れか一方、或いは、両方に補強金属板14が固着されていても良い。また、支持壁部12の少なくとも一方の面に補強金属板14を固着せしめると共に、支持壁部12の板厚方向略中央部分に補強金属板14を埋設状態で固着せしめることも可能である。なお、このように支持壁部12の表面に補強金属板14を固着する場合には、外力作用時における支持壁部12の変形によっても補強金属板14が脱落しないように、強固に接着等される。
【0045】
また、前記実施形態で示した各壁部12,16,18を構成する合成樹脂材料や補強金属板14に採用される金属材料等は、例示であって、何等限定的に解釈されるものではない。すなわち、適当な剛性や加工性等を有しており、所期のエネルギー吸収力や部材サイズ、乗員の安全性等を実現できる材料であれば、適宜に選択されて採用され得る。
【0046】
また、縦壁部や天壁部等を形成する合成樹脂材料は、繊維補強されたもの等を採用しても良い。
【0047】
また、本発明に従う構造とされた衝撃吸収部材は、自動車の各部位に装着可能であり、例えば、ボンネット等の外装材に装着することにより、乗員以外の人等が外部から自動車に衝突した場合の衝撃を吸収する機構が実現され得る。
【0048】
また、縦壁部に固着する金属プレートは、その強度を調節する等の目的をもって、一つの縦壁部において高さ方向や斜め方向等で複数に分割されていても良い。或いは、適当な箇所に貫通孔や窓部,切欠等を形成して強度を調節することも可能である。
【0049】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0050】
なお、以下に、本発明の一実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにする。なお、本発明が以下に示す実施例の記載によって何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもない。また、本発明には、以下に記載の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0051】
先ず、図8には、本発明の一実施例に係る自動車用の衝撃吸収部材10が示されている。自動車用の衝撃吸収部材10は、前記実施形態と略同一な構造とされている。即ち、一対の支持壁部12,12と、支持壁部12,12の上端に跨るように設けられる当接壁部16と、支持壁部12,12の下端を相互に連結する連結壁部18を有すると共に、支持壁部12,12には、それぞれ補強金属板14が埋設されて固着されている。これにより、全体として、略一定の正方形枠体形状の断面をもって延びる中空筒体形状の衝撃吸収部材10が形成されている。なお、以下の説明において、前記実施形態において示した衝撃吸収部材10と実質的に同一の部材乃至は部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0052】
また、本実施例における衝撃吸収部材10は、高さ寸法(外力作用方向での寸法):Hが23mm且つ幅寸法(一対の支持壁部12,12の対向方向寸法):Bが23mmとされていると共に、長手方向の寸法(奥行き寸法):Lが190mmとされている。更に、支持壁部12と当接壁部16と連結壁部18の板厚寸法:D1 ,D2 ,D3 が、何れも1mmとされている。更にまた、補強金属板14は、高さ寸法:hが19mmとされていると共に、板厚寸法:dが0.5mmとされており、支持壁部12,12の板厚方向略中央にそれぞれ配置されている。
【0053】
また、一対の支持壁部12,12と当接壁部16と連結壁部18を構成する合成樹脂材料としては、ガラス繊維を含まないナイロンを採用している。特に本実施例では、宇部興産株式会社製の商品名「UBE NYLON 1013IU50」を使用している。なお、本実施例で使用した合成樹脂材料は、ノッチ有りのシャルピー衝撃試験で20kJ/m2 以上且つ引張破断伸びが30%以上とされている。更に、使用した合成樹脂材料は、曲げ弾性率が1〜2GPaとされていると共に、引張降伏応力が20〜50MPaとされている。
【0054】
また、本実施例において支持壁部12に埋設状態で固着される補強金属板14としては、ステンレス鋼を使用している。
【0055】
一方、実施例の衝撃吸収部材10と比較するために、比較例1として、図9に示されているように、一対の支持壁部12,12と当接壁部16と連結壁部18が何れも合成樹脂単体で形成された衝撃吸収部材30を用意すると共に、比較例2として、図10に示されているように、当接壁部16にのみ補強金属板14を埋設状態で固着せしめた衝撃吸収部材32を用意した。なお、比較例1,2の衝撃吸収部材30,32のサイズや、支持壁部12、当接壁部16、連結壁部18のサイズ等は、何れも実施例の衝撃吸収部材10と同一である。また、比較例1,2において使用する合成樹脂材料は実施例の合成樹脂材料と同一である。更に、比較例2において使用する補強金属板14は、実施例の支持壁部12に埋設固着されている補強金属板14と同一のサイズ及び材料で形成されている。
【0056】
ここにおいて、半径:Rが82.5mmの半球体であるストライカー34を、本実施例、比較例1、比較例2の各衝撃吸収部材10,30,32に対して分速20mmの速度で当接せしめた場合におけるストライカー34の変位量とストライカー34に作用せしめられる荷重を測定する実験を行った。図11は、かかる実験において測定された変位量と荷重の測定結果の一例である。また、図12(a)〜(c)は、ストライカー34を実施例、比較例1、比較例2に当接せしめた場合における衝撃吸収部材10,30,32の変形の様子を示している。
【0057】
図11に示された実験結果によれば、比較例1の衝撃吸収部材30と比較例2の衝撃吸収部材32はほぼ同じ測定結果を示しており、当接壁部16への補強金属板14の配設がエネルギー吸収力に殆ど影響しないことが分かる。一方、本実施例は、図12(a)に示されているように、当接初期における支持壁部12,12の変形量が、図12(b),(c)に示された比較例1,2の支持壁部の変形量に比して小さく、図11の測定結果からも分かるように、比較例1及び比較例2に比して当接初期の荷重値の増加が大きくなる。具体的には、変位量4mmでの荷重値が、比較例1で0.7kN、比較例2で0.9kNであるのに対して実施例では3.7kNに達している。また、21mm変位して当接壁部16と連結壁部18が相互に当接せしめられるまでは、ストライカー34の変位量が漸増しても、荷重値は僅かに上下しつつ全体として略一定値を示している。これにより、図11に示されたグラフからも明らかなように、実施例に係る衝撃吸収部材10のエネルギー吸収力が、他の比較例1,2に比して大きくなっていることが確認された。なお、ストライカー34に及ぼされる荷重値の最大値は、乗員の安全性確保や衝撃吸収部材10に打ち当てられる他部材の破損回避等の観点から、5kN以下であることが望ましく、より好適には、4kN以下とされる。
【0058】
蓋し、支持壁部12に補強金属板14を固着して支持壁部12の剛性を高めることにより、支持壁部12に対するストライカー34の当接初期段階での荷重値を、合成樹脂材料単体で支持壁部を形成した場合に比して大きくすることが出来る。更に、ストライカー34が半球形とされていることから、ストライカー34の変位量が増えるに従って、衝撃吸収部材10の有効座屈面積が次第に増していく。それ故、ストライカー34の変位量が増しても、荷重値は増加することなく略一定値に保持されているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態としての衝撃吸収部材を示す斜視図。
【図2】図1に示された衝撃吸収部材の縦断面図。
【図3】図1に示された衝撃吸収部材の製造方法を示す説明図。
【図4】図1に示された衝撃吸収部材の製造工程を示す説明図。
【図5】本発明の別の実施形態としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図6】本発明のまた別の実施形態としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図7】本発明の更に別の実施形態としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図8】本発明の一実施例としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図9】比較例1としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図10】比較例2としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図11】実施例における実験結果を示すグラフ。
【図12】図8に示された実施例と図9に示された比較例1と図10に示された比較例2の変形状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0060】
10 衝撃吸収部材
12 支持壁部
14 補強金属板
16 当接壁部
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に装着される衝撃吸収部材に係り、特にアクシデント等に際して剛性部材等への衝撃エネルギーを吸収して衝撃を緩和する自動車用衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のボデー等においては、乗員の安全性確保などを目的として衝撃吸収部材の装着が検討されている。かかる衝撃吸収部材としては、例えば、特許文献1(特開平10−35378号公報)に開示されているように、合成樹脂材料で一体成形されて格子状に組み合わせられた複数のリブを有する衝撃吸収構造が知られている。このような特許文献1に記載の衝撃吸収部材は、例えば、自動車の衝突等に際して作用せしめられる衝撃エネルギーが、リブ構造体の塑性変形によって吸収されるようになっている。
【0003】
ところで、自動車においては、その車室空間の広さが重要視されており、より広い車室空間を形成するために様々な努力が為されている。そして、車室空間の広さに対する昨今の高度な要求により、車両ボデーのルーフサイドパッド等に収容配置されて車室広さに直接的な影響を及ぼす自動車用の衝撃吸収部材に対しても小型化が求められている。また一方では、乗員の安全性等を高度に維持する必要があり、エネルギー吸収力の低下を招くおそれがある衝撃吸収部材の小型化を安易に実施することが困難であるという事実もある。これらの事情を背景として、衝撃吸収部材には小型化と高い衝撃エネルギー吸収力の両立が求められているのである。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の衝撃吸収部材では、外力が作用せしめられて、塑性変形せしめられると、特許文献1における図9(b)にも示されているように、複数のリブが倒れ込むように変形する場合がある。このような変形を生じると、各リブが相互に重なり合ってしまうため、外力の入力方向での変形ストロークを充分に得られないおそれがある。それ故、十分な衝撃エネルギーの吸収力を安定して確保しつつ、外力作用方向での小型化を効果的に実現することが困難であった。
【0005】
また、衝撃吸収部材の他の一例として、例えば、特許文献2(特開平10−29482号公報)に記載されているように、アルミ箔の両面にクラフト紙を重ねた複合材を用いて、断面形状が四角形の略パイプ状とされた衝撃エネルギー吸収材も知られている。このような特許文献2に記載の衝撃吸収部材は、自動車のボデーに外力が作用した場合に、部材全体が潰れるように塑性変形せしめられることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようになっている。それ故、外力作用時に部材が重なり合うように変形することによる変形ストロークのロスを有利に防ぐことが出来る。
【0006】
ところが、特許文献2に記載の衝撃吸収部材においても、エネルギー吸収力の維持と部材の小型化が高度に両立されているとは未だ言い難かった。即ち、特許文献2に記載の衝撃エネルギー吸収材では、全体に亘って金属材と紙の複合材で形成されていることから、部材厚さが厚くなり易い。それ故、必要とされる変形ストロークを確保しつつ、衝撃吸収部材のサイズを小型化することが困難であった。しかも、特許文献2に記載の衝撃吸収部材は、リボン状の複合材を巻きつけて全体として筒状となるように形成されており、湾曲等の変形を可能とするために表面には蛇腹状の凹凸が形成されている。かかる凹凸によって各壁部の実質的な壁厚寸法がより大きくなり易く、衝撃吸収部材の小型化を未だ充分には実現出来なかった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−35378号公報
【特許文献2】特開平10−29482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、衝撃エネルギーの吸収力を維持しつつ、サイズの小型化を実現可能とした新規な構造の自動車用衝撃吸収部材を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明は、自動車に作用せしめられる外力のエネルギーを吸収する自動車用衝撃吸収部材において、それぞれ外力の入力方向に広がる平板形状を有しており互いに所定距離を隔てて対向位置せしめられた一対の縦壁部と、それら一対の縦壁部における外力入力側の各端部間に跨る天壁部とが、合成樹脂材料で一体形成されていると共に、該一対の縦壁部にはそれぞれ金属プレートが固着されており、且つ該天壁部の厚さ寸法が該各縦壁部の該金属プレートを含む壁厚さ寸法以下とされている一方、該一対の縦壁部における外力入力側と反対側の両端部を相互に位置決めする位置決め部が設けられていることを、特徴とする。
【0011】
このような本発明に従う構造とされた自動車用衝撃吸収部材では、縦壁部が十分な強度を有すると共に、天壁部が縦壁部に比して低い強度で形成されており、入力される外力が一対の縦壁部で受けられるようになっている。そして、入力された外力によって一対の縦壁部が変形せしめられることにより、外力のエネルギーを有効に吸収することが出来る。なお、縦壁部の外力入力側の端部が天壁部によって連結されて相互に位置決めされていると共に、縦壁部の外力入力側とは反対側の端部にはそれら端部を相互に位置決めする位置決め部が設けられていることから、外力が作用せしめられた場合にも、左右両側の縦壁部の上端部同士や下端部同士の接近方向および離隔方向の相対的な変位が抑えられる。これにより、外力が左右両側の縦壁部に対して有効に且つ安定して及ぼされ得て、縦壁部が塑性変形を生ずることとなる。
【0012】
特に本発明では、縦壁部に金属プレートを固着せしめることによって縦壁部の強度を確保している。それ故、所定の衝撃エネルギー吸収力を得るために必要な強度を確保しつつ、縦壁部を薄肉化することが出来て、衝撃吸収部材の小型化を有利に実現することが出来る。更に、天壁部を合成樹脂単体で形成し、且つ縦壁部の総厚さ以下の壁厚さとすることにより、外力作用方向での変形ストロークを有利に確保することが出来る。それ故、所定の変形ストロークを確保しつつ、衝撃吸収部材の外力作用方向での小型化を有利に実現することが出来る。
【0013】
また、本発明においては、前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部間に跨るように底壁部が一体形成されており、該底壁部によって前記位置決め部が構成されている構造を、採用することが出来る。このような構造を採用することにより、特別な別体の位置決め部材等が必要でなくなり、簡単な構造で、一対の縦壁部の外力入力側と反対側の各端部を相互に位置決めすることが出来る。それ故、一対の縦壁部において所期の塑性変形を安定して生ぜしめることが出来て、エネルギー吸収力を有効に発揮せしめることが出来る。
【0014】
また、本発明においては、前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部において、自動車の車両ボデー側に固定するための固定部が設けられており、かかる固定部によって前記位置決め部が構成されている構造も、採用可能である。このような構造では、底壁部が必要でなくなり、底壁部との重なりに起因する変形ストロークの減少を回避し、外力作用方向での変形ストロークを一層有利に確保することが可能となる。
【0015】
さらに、本発明においては、前記縦壁部において前記金属プレートが埋設状態で固着されている構造が、好適に採用される。これにより、金属プレートの縦壁部への固着強度を十分に得ることが出来て、外力入力時に縦壁部が塑性変形せしめられた場合にも金属プレートの剥離や脱落を有利に防ぐことが出来る。
【0016】
また、本発明においては、前記縦壁部の少なくとも一方の面に前記金属プレートが重ね合わされて固着された構造を、採用することが出来る。このような構造を採用することにより、金属プレートを縦壁部に対して接着等で後固着することが可能となる。また、金属プレートの材質や厚さ,寸法等を変更するだけで、縦壁部や天壁部等の樹脂成形体を共通化して、互いに異なる衝撃吸収特性の衝撃吸収部材を得ることも可能となる。
【0017】
また、本発明においては、前記縦壁部の前記金属プレートを含む総厚さ寸法:D1 が、0.8mm≦D1 ≦3.5mmとされていることが望ましい。また、前記天壁部の厚さ寸法:D2 は、0.8mm≦D2 ≦3.5mmとされていることが望ましい。縦壁部や天壁部の厚さ寸法をこのような範囲で設定することにより、縦壁部や天壁部において、その強度を確保しつつ、薄肉化を一層有利に図ることが出来る。
【0018】
さらに、本発明においては、前記金属プレートの厚さ寸法:dが、0.2mm≦d≦1.0mmとされていることが望ましい。金属プレートの厚さ寸法をこのような範囲で設定することにより、縦壁部を適当に補強しつつ縦壁部全体の厚さ寸法が増大することを防ぐことが出来る。それ故、衝撃吸収部材における衝撃吸収性能の向上と小型化が一層有利に達成される。なお、金属プレートの厚さ寸法や幅寸法等は、金属プレートの材料や要求される強度等に応じて適宜に設定されるものであり、例えば縦壁部の全体に亘って金属プレートを固着することは、必ずしも必要ない。
【0019】
また、本発明において、好適には、前記一対の縦壁部及び前記天壁部の長手方向寸法:Lが、L≧80mmとされる。これにより、軸方向での有効座屈面を十分に確保することが出来て、衝撃エネルギーの吸収を有効に実現することが出来る。特に、例えば、乗員の頭部等を保護するために本発明に係る衝撃吸収部材が採用される場合等には、軸方向寸法をこのような範囲で設定することにより、乗員を有効に保護することが出来る。なお、より好適には、L≧100mm、更に好適には、L≧190mmとされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
先ず、図1,2には、本発明の一実施形態としての自動車用の衝撃吸収部材10が示されている。衝撃吸収部材10は、自動車の衝突時等において、乗員や他の部材の打ち当たりによる衝撃を変形によって吸収し、乗員の安全確保や他部材の破損回避等を実現するものである。なお、以下の説明において、上下方向とは、図2における上下方向をいうものとする。
【0022】
より詳細には、衝撃吸収部材10は、左右一対の縦壁部としての支持壁部12,12と、天壁部としての当接壁部16および底壁部としての連結壁部18を備えており、全体として略一定の矩形枠体形状の中空断面をもって延びる長手状の筒体形状とされている。なお、長手方向(軸方向)の形状は適当に設定可能であり、適当な湾曲形状など、装着部位に応じて適宜に設定され得る。また、衝撃吸収部材10における一対の支持壁部12,12と当接壁部16および連結壁部18は、ナイロンやポリカーボネート等の合成樹脂材料で一体成形されている。更に、衝撃吸収部材10は、略一定の断面寸法をもって長手方向で延びるように形成されていることが望ましい。
【0023】
支持壁部12は、略平板形状であって、一対の支持壁部12,12が互いに平行に設けられている。また、支持壁部12は、車両への装着状態において、外力が作用せしめられる方向に対して略平行となるように配設されている。なお、本実施形態では、衝撃吸収部材10に対して図2中における上方から下方に向かって外力が作用せしめられるものとして説明する。
【0024】
また、一対の支持壁部12,12にはそれぞれ金属プレートとしての補強金属板14が固着されている。補強金属板14は平板形状の金属板であって、本実施形態では支持壁部12に埋設されて支持壁部12の長手方向略全長に亘って設けられている。要するに、本実施形態における支持壁部12は、補強金属板14を中間層として、かかる補強金属板14の両側面をそれぞれ合成樹脂層で被覆して為る積層構造の複合体とされている。また、補強金属板14は、鉄やアルミニウム合金、マグネシウム合金等が好適に採用され、本実施形態ではステンレス鋼で形成されている。なお、補強金属板14は、凹凸や湾曲がない平板形状であることが望ましいが、衝撃吸収部材10が装着部位に応じて長手方向(軸方向)で湾曲等している場合には、かかる湾曲に沿って延びるように形成される。
【0025】
なお、支持壁部12の壁厚寸法:D1 は、0.8mm≦D1 ≦3.5mmとされていることが望ましく、より好適には、1.0mm≦D1 ≦2.5mmとされている。更に、補強金属板14の板厚寸法:dは、0.2mm≦d≦1.0mmとされていることが望ましく、より好適には、0.2mm≦d≦0.8mmとされている。これにより、支持壁部12全体の厚さを薄肉としつつ、補強金属板14によって十分な強度を支持壁部12に付与することが出来て、外力入力時における衝撃吸収力を有効に発揮せしめることが出来る。なお、支持壁部12の壁厚寸法:D1 とは、補強金属板14の板厚寸法:dを含んだ総壁厚さをいうものである。
【0026】
また、一対の支持壁部12,12の図2中における上端部を連結するように天壁部としての当接壁部16が設けられている。当接壁部16は、合成樹脂材料単体で形成されて、支持壁部12,12と一体形成されている。また、当接壁部16は、一対の支持壁部12,12の外力が作用せしめられる側の端部間に跨って設けられて、外力の作用方向と略直角を為す方向で広がる略平板形状とされている。更に、当接壁部16の厚さ寸法は、支持壁部12の厚さ寸法以下とされており、特に本実施形態では、支持壁部12と当接壁部16の厚さ寸法が同一とされている。
【0027】
なお、当接壁部16の壁厚寸法:D2 は、0.8mm≦D2 ≦3.5mmとされていることが望ましく、より好適には、1.0mm≦D2 ≦2.5mmとされている。当接壁部16の壁厚寸法を上記の範囲で設定することにより、当接壁部16を十分に薄肉としつつ、自動車の衝突時等に作用せしめられる衝撃力に対して十分な強度を得ることが出来て当接壁部16の破損を回避することが出来る。
【0028】
また一方、一対の支持壁部12,12の図1中における下端部を相互に連結するように底壁部としての連結壁部18が形成されている。連結壁部18は、当接壁部16と略平行に広がる平板形状であって、合成樹脂材料単体で構成されて支持壁部12,12と一体形成されている。これにより、一対の支持壁部12,12の一方の端部(図2中、上側)が当接壁部16で相互に連結されていると共に、他方の端部(図2中、下側)が連結壁部18によって相互に位置決めされている。また、本実施形態における連結壁部18の厚さ寸法は、支持壁部12の厚さ寸法以下とされており、特に本実施形態では、支持壁部12と連結壁部18の厚さ寸法が同一とされている。なお、上述の説明からも明らかなように、本実施形態では、支持壁部12、当接壁部16、連結壁部18が何れも等しい板厚寸法で形成されている。また、連結壁部18によって本実施形態における位置決め部が形成されている。
【0029】
なお、連結壁部18の壁厚寸法:D3 は、0.8mm≦D3 ≦3.5mmとされていることが望ましく、より好適には、1.0mm≦D3 ≦2.5mmとされている。連結壁部18の壁厚さを上述の範囲で設定することにより、当接壁部16と同様に、薄肉化を図りつつ、十分な耐久性、耐荷重性を付与することが出来て、連結壁部18の破損等によって所期のエネルギー吸収力が有効に発揮されなくなることを防止できる。
【0030】
さらに、連結壁部18は、図示しない車両ボデーにおける装着部位に対して重ね合わされて位置決め装着される。なお、必要に応じて接着やボルト止め等の方法で固定される。また、装着状態下では、例えば車両ボデー等の剛性部材に対して連結壁部18が重ね合わされる一方、当接壁部16側から合成樹脂材料等で形成されたガーニッシュ等の内装部品等が被せられて、衝撃吸収部材10の全体が覆われる。このようにして、衝撃吸収部材10が車両ボデーの所定位置において、収容状態で取り付けられる。
【0031】
また、衝撃吸収部材10は、その長手方向寸法:Lが、L≧80mmとされていることが望ましく、より好適にはL≧100mm、更に好適にはL≧190mmとされている。即ち、長手方向に十分な大きさを確保することにより、物体の打ち当たり時において有効にエネルギー吸収を実現できる。特に、衝撃吸収部材10に対して球形状の物体が打ち当てられる場合には、長手方向寸法を十分に確保することが、衝撃エネルギーの吸収を効果的に実現するために有効である。
【0032】
すなわち、球状の物体が衝撃吸収部材10に打ち当てられて、衝撃吸収部材10が変形せしめられる場合には、物体が変位せしめられるに従って衝撃吸収部材10の変形箇所(有効座屈面積)が次第に長手方向両側に広がっていく。これにより、物体の変位の進行に伴ってつぶれ様の変形が進むことによっても、変形抵抗(荷重)が著しく増大することなく、略一定の変形抵抗乃至は衝撃吸収力(荷重)を保つ。これにより、衝撃吸収部材10の変形ストロークの全体に亘ってトータル的に大きな衝撃エネルギーを吸収、緩和することが出来る。
【0033】
従って、例えば、衝突時における乗員の安全性を確保するために、自動車のルーフサイドパッド(乗員の頭部保護を目的として、車室内の天井部と側壁部の境界付近に設けられる)に衝撃吸収部材10を配設する場合には、乗員の頭部を効果的に保護するために、長手方向寸法を上述の範囲で設定することにより、優れた衝撃エネルギーの吸収性能を得ることが可能となる。
【0034】
なお、一対の支持壁部12,12と当接壁部16と連結壁部18が一体形成されると共に、一対の支持壁部12,12に補強金属板14が埋設された上述の如き構造を有する衝撃吸収部材10は、例えば、図3に示されているような合成樹脂の押出成形によって実現される。即ち、先ず、押出成形機19によって合成樹脂材料を押出成形して、図4の(a)に示されているように、当接壁部16及び連結壁部18を形成した後、図4の(b)に示されているように、当接壁部16と連結壁部18の間に補強金属板14を挿入し、更に、図4の(c)に示されているように、補強金属板14を覆うように一対の支持壁部12,12を当接壁部16及び連結壁部18と一体的に形成することにより、本実施例の自動車用衝撃吸収部材10が形成されている。勿論、このような製造方法は、あくまでも例示であって、公知の合成樹脂部材の成形方法から適宜に選択されて採用され得る。
【0035】
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用の衝撃吸収部材10は、衝撃エネルギーの吸収能力を低下させることなく、支持壁部12と当接壁部16と連結壁部18を何れも比較的に薄肉とすることが出来る。蓋し、支持壁部12に合成樹脂材料よりも高強度な金属材料で形成される補強金属板14を埋設状態で固着せしめることにより、支持壁部12の板厚を薄肉としつつ、強度を十分に確保することが出来る。更に、入力荷重を一対の支持壁部12,12で受けることにより、当接壁部16と連結壁部18の強度を支持壁部12に比して低くすることが出来て、当接壁部16と連結壁部18の板厚を薄肉とすることが出来るのである。
【0036】
これにより、乗員等の衝突安全性の確保や他部材の破損回避を有効に実現しつつ、衝撃吸収部材10全体を小型化することが出来る。特に、高さ方向での変形ストロークを維持しつつ、外力の入力方向での寸法を小さく出来ることから、本実施形態に係る衝撃吸収部材10が、例えば、乗員の頭部を保護する目的でルーフサイドパッドに配置される場合等には、衝撃吸収部材10の小型化により、自動車の車室空間を有利に得ることが可能である。
【0037】
また、支持壁部12に補強金属板14を固着せしめて支持壁部12の強度を有利に向上せしめることが出来ることから、優れたエネルギー吸収力を実現することが出来て、乗員の安全確保や他部材の破損等を有効に防ぐことが出来る。
【0038】
更に、支持壁部12や当接壁部16、連結壁部18、或いは、補強金属板14のサイズが適当に設定されていることにより、打ち当てられる他部材や乗員の衝撃エネルギー吸収による保護と、衝撃吸収部材10のコンパクト化を両立して有利に実現することが出来る。
【0039】
また、衝撃吸収部材10が長手方向で略一定の断面形状をもって延びるように形成されていることにより、衝撃吸収部材10の長手方向での打ち当り箇所の違いによる衝撃エネルギー吸収力のばらつきを抑えて、所期のエネルギー吸収を安定して実現することが出来る。更に、断面寸法を長手方向で略一定とすることにより、長手方向における打ち当り箇所の違いによるエネルギー吸収力のばらつきをより有利に防ぐことが出来る。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0041】
例えば、図5に示されている衝撃吸収部材20のように、補強金属板14,14が固着された一対の支持壁部12,12と当接壁部16で構成されて、下方に開口するコの字形断面であってもよい。なお、かかる衝撃吸収部材20では、一対の支持壁部12,12の図6中、下端部分が外向きに屈曲せしめられて、固定部22,22が形成されている。そして、固定部22,22が図示しない車両ボデーに対して、例えば、接着やボルト固定等によって固定されることにより、一対の支持壁部12,12の下端を相互に位置決めする位置決め部が構成されている。
【0042】
また、例えば、当接壁部16は、必ずしも平板形状である必要はなく、必要に応じて湾曲、或いは屈曲せしめられていても良い。具体的には、例えば、図6に示されている衝撃吸収部材24のように、当接壁部26が上方に向かって凸となる湾曲板形状とされていても良い。これによれば、支持壁部12に比して柔軟な当接壁部26の変形ストロークを大きく取ることが出来て、当接時の初期荷重を抑えることが出来る。それ故、当接壁部26の曲率等を調節することにより、当接初期の荷重値を容易に変更、設定することが出来るのである。
【0043】
さらに、図7に示されている衝撃吸収部材28のように、当接壁部26が上方に向かって凸な湾曲板形状とされていると共に、連結壁部18を含まず、外向きに屈曲せしめられた固定部22,22を有する構造とされていてもよい。また、その他にも、当接壁部は、上方に向かって湾曲凹状であっても良いし、幅方向中間部分において屈曲せしめられた山形状等であっても良い。
【0044】
また、補強金属板14は、固着強度等の観点から支持壁部12に埋設状態で固着されていることが望ましいが、必ずしも埋設されている必要はない。具体的には、例えば、支持壁部12の内側面と外側面の何れか一方、或いは、両方に補強金属板14が固着されていても良い。また、支持壁部12の少なくとも一方の面に補強金属板14を固着せしめると共に、支持壁部12の板厚方向略中央部分に補強金属板14を埋設状態で固着せしめることも可能である。なお、このように支持壁部12の表面に補強金属板14を固着する場合には、外力作用時における支持壁部12の変形によっても補強金属板14が脱落しないように、強固に接着等される。
【0045】
また、前記実施形態で示した各壁部12,16,18を構成する合成樹脂材料や補強金属板14に採用される金属材料等は、例示であって、何等限定的に解釈されるものではない。すなわち、適当な剛性や加工性等を有しており、所期のエネルギー吸収力や部材サイズ、乗員の安全性等を実現できる材料であれば、適宜に選択されて採用され得る。
【0046】
また、縦壁部や天壁部等を形成する合成樹脂材料は、繊維補強されたもの等を採用しても良い。
【0047】
また、本発明に従う構造とされた衝撃吸収部材は、自動車の各部位に装着可能であり、例えば、ボンネット等の外装材に装着することにより、乗員以外の人等が外部から自動車に衝突した場合の衝撃を吸収する機構が実現され得る。
【0048】
また、縦壁部に固着する金属プレートは、その強度を調節する等の目的をもって、一つの縦壁部において高さ方向や斜め方向等で複数に分割されていても良い。或いは、適当な箇所に貫通孔や窓部,切欠等を形成して強度を調節することも可能である。
【0049】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0050】
なお、以下に、本発明の一実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにする。なお、本発明が以下に示す実施例の記載によって何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもない。また、本発明には、以下に記載の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0051】
先ず、図8には、本発明の一実施例に係る自動車用の衝撃吸収部材10が示されている。自動車用の衝撃吸収部材10は、前記実施形態と略同一な構造とされている。即ち、一対の支持壁部12,12と、支持壁部12,12の上端に跨るように設けられる当接壁部16と、支持壁部12,12の下端を相互に連結する連結壁部18を有すると共に、支持壁部12,12には、それぞれ補強金属板14が埋設されて固着されている。これにより、全体として、略一定の正方形枠体形状の断面をもって延びる中空筒体形状の衝撃吸収部材10が形成されている。なお、以下の説明において、前記実施形態において示した衝撃吸収部材10と実質的に同一の部材乃至は部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0052】
また、本実施例における衝撃吸収部材10は、高さ寸法(外力作用方向での寸法):Hが23mm且つ幅寸法(一対の支持壁部12,12の対向方向寸法):Bが23mmとされていると共に、長手方向の寸法(奥行き寸法):Lが190mmとされている。更に、支持壁部12と当接壁部16と連結壁部18の板厚寸法:D1 ,D2 ,D3 が、何れも1mmとされている。更にまた、補強金属板14は、高さ寸法:hが19mmとされていると共に、板厚寸法:dが0.5mmとされており、支持壁部12,12の板厚方向略中央にそれぞれ配置されている。
【0053】
また、一対の支持壁部12,12と当接壁部16と連結壁部18を構成する合成樹脂材料としては、ガラス繊維を含まないナイロンを採用している。特に本実施例では、宇部興産株式会社製の商品名「UBE NYLON 1013IU50」を使用している。なお、本実施例で使用した合成樹脂材料は、ノッチ有りのシャルピー衝撃試験で20kJ/m2 以上且つ引張破断伸びが30%以上とされている。更に、使用した合成樹脂材料は、曲げ弾性率が1〜2GPaとされていると共に、引張降伏応力が20〜50MPaとされている。
【0054】
また、本実施例において支持壁部12に埋設状態で固着される補強金属板14としては、ステンレス鋼を使用している。
【0055】
一方、実施例の衝撃吸収部材10と比較するために、比較例1として、図9に示されているように、一対の支持壁部12,12と当接壁部16と連結壁部18が何れも合成樹脂単体で形成された衝撃吸収部材30を用意すると共に、比較例2として、図10に示されているように、当接壁部16にのみ補強金属板14を埋設状態で固着せしめた衝撃吸収部材32を用意した。なお、比較例1,2の衝撃吸収部材30,32のサイズや、支持壁部12、当接壁部16、連結壁部18のサイズ等は、何れも実施例の衝撃吸収部材10と同一である。また、比較例1,2において使用する合成樹脂材料は実施例の合成樹脂材料と同一である。更に、比較例2において使用する補強金属板14は、実施例の支持壁部12に埋設固着されている補強金属板14と同一のサイズ及び材料で形成されている。
【0056】
ここにおいて、半径:Rが82.5mmの半球体であるストライカー34を、本実施例、比較例1、比較例2の各衝撃吸収部材10,30,32に対して分速20mmの速度で当接せしめた場合におけるストライカー34の変位量とストライカー34に作用せしめられる荷重を測定する実験を行った。図11は、かかる実験において測定された変位量と荷重の測定結果の一例である。また、図12(a)〜(c)は、ストライカー34を実施例、比較例1、比較例2に当接せしめた場合における衝撃吸収部材10,30,32の変形の様子を示している。
【0057】
図11に示された実験結果によれば、比較例1の衝撃吸収部材30と比較例2の衝撃吸収部材32はほぼ同じ測定結果を示しており、当接壁部16への補強金属板14の配設がエネルギー吸収力に殆ど影響しないことが分かる。一方、本実施例は、図12(a)に示されているように、当接初期における支持壁部12,12の変形量が、図12(b),(c)に示された比較例1,2の支持壁部の変形量に比して小さく、図11の測定結果からも分かるように、比較例1及び比較例2に比して当接初期の荷重値の増加が大きくなる。具体的には、変位量4mmでの荷重値が、比較例1で0.7kN、比較例2で0.9kNであるのに対して実施例では3.7kNに達している。また、21mm変位して当接壁部16と連結壁部18が相互に当接せしめられるまでは、ストライカー34の変位量が漸増しても、荷重値は僅かに上下しつつ全体として略一定値を示している。これにより、図11に示されたグラフからも明らかなように、実施例に係る衝撃吸収部材10のエネルギー吸収力が、他の比較例1,2に比して大きくなっていることが確認された。なお、ストライカー34に及ぼされる荷重値の最大値は、乗員の安全性確保や衝撃吸収部材10に打ち当てられる他部材の破損回避等の観点から、5kN以下であることが望ましく、より好適には、4kN以下とされる。
【0058】
蓋し、支持壁部12に補強金属板14を固着して支持壁部12の剛性を高めることにより、支持壁部12に対するストライカー34の当接初期段階での荷重値を、合成樹脂材料単体で支持壁部を形成した場合に比して大きくすることが出来る。更に、ストライカー34が半球形とされていることから、ストライカー34の変位量が増えるに従って、衝撃吸収部材10の有効座屈面積が次第に増していく。それ故、ストライカー34の変位量が増しても、荷重値は増加することなく略一定値に保持されているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態としての衝撃吸収部材を示す斜視図。
【図2】図1に示された衝撃吸収部材の縦断面図。
【図3】図1に示された衝撃吸収部材の製造方法を示す説明図。
【図4】図1に示された衝撃吸収部材の製造工程を示す説明図。
【図5】本発明の別の実施形態としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図6】本発明のまた別の実施形態としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図7】本発明の更に別の実施形態としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図8】本発明の一実施例としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図9】比較例1としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図10】比較例2としての衝撃吸収部材を示す縦断面図。
【図11】実施例における実験結果を示すグラフ。
【図12】図8に示された実施例と図9に示された比較例1と図10に示された比較例2の変形状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0060】
10 衝撃吸収部材
12 支持壁部
14 補強金属板
16 当接壁部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に作用せしめられる外力のエネルギーを吸収する自動車用衝撃吸収部材において、
それぞれ外力の入力方向に広がる平板形状を有しており互いに所定距離を隔てて対向位置せしめられた一対の縦壁部と、それら一対の縦壁部における外力入力側の各端部間に跨る天壁部とが、合成樹脂材料で一体形成されていると共に、該一対の縦壁部にはそれぞれ金属プレートが固着されており、且つ該天壁部の厚さ寸法が該各縦壁部の該金属プレートを含む壁厚さ寸法以下とされている一方、該一対の縦壁部における外力入力側と反対側の両端部を相互に位置決めする位置決め部が設けられていることを特徴とする自動車用衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部間に跨るように底壁部が一体形成されており、該底壁部によって前記位置決め部が構成されている請求項1に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部において、自動車の車両ボデー側に固定するための固定部が設けられており、かかる固定部によって前記位置決め部が構成されている請求項1に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記縦壁部において前記金属プレートが埋設状態で固着されている請求項1乃至3の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記縦壁部の少なくとも一方の面に前記金属プレートが重ね合わされて固着されている請求項1乃至4の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記縦壁部の前記金属プレートを含む総厚さ寸法:D1 が、0.8mm≦D1 ≦3.5mmとされている請求項1乃至5の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記天壁部の厚さ寸法:D2 が、0.8mm≦D2 ≦3.5mmとされている請求項1乃至6の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記金属プレートの厚さ寸法:dが、0.2mm≦d≦1.0mmとされている請求項1乃至7の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項9】
前記一対の縦壁部及び前記天壁部の長手方向寸法:Lが、L≧80mmとされている請求項1乃至8の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項1】
自動車に作用せしめられる外力のエネルギーを吸収する自動車用衝撃吸収部材において、
それぞれ外力の入力方向に広がる平板形状を有しており互いに所定距離を隔てて対向位置せしめられた一対の縦壁部と、それら一対の縦壁部における外力入力側の各端部間に跨る天壁部とが、合成樹脂材料で一体形成されていると共に、該一対の縦壁部にはそれぞれ金属プレートが固着されており、且つ該天壁部の厚さ寸法が該各縦壁部の該金属プレートを含む壁厚さ寸法以下とされている一方、該一対の縦壁部における外力入力側と反対側の両端部を相互に位置決めする位置決め部が設けられていることを特徴とする自動車用衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部間に跨るように底壁部が一体形成されており、該底壁部によって前記位置決め部が構成されている請求項1に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記一対の縦壁部における外力入力側と反対側の各端部において、自動車の車両ボデー側に固定するための固定部が設けられており、かかる固定部によって前記位置決め部が構成されている請求項1に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記縦壁部において前記金属プレートが埋設状態で固着されている請求項1乃至3の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記縦壁部の少なくとも一方の面に前記金属プレートが重ね合わされて固着されている請求項1乃至4の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記縦壁部の前記金属プレートを含む総厚さ寸法:D1 が、0.8mm≦D1 ≦3.5mmとされている請求項1乃至5の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記天壁部の厚さ寸法:D2 が、0.8mm≦D2 ≦3.5mmとされている請求項1乃至6の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記金属プレートの厚さ寸法:dが、0.2mm≦d≦1.0mmとされている請求項1乃至7の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【請求項9】
前記一対の縦壁部及び前記天壁部の長手方向寸法:Lが、L≧80mmとされている請求項1乃至8の何れか一項に記載の自動車用衝撃吸収部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−153136(P2007−153136A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351244(P2005−351244)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
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