説明

自動車電装補機用転がり軸受及びこれを用いた自動車電装補機

【課題】本発明は、潤滑性能はもちろんのこと、耐剥離性能を備え、長期間の使用を可能にするコンプレッサー等に提供できる転がり軸受用グリースを用いた自動車電装補機用転がり軸受及び自動車電装補機を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基油にイオン性液体を使用したグリースを封入したことを特徴とする自動車電装補機用転がり軸受を提供する。また、本発明は、前記自動車電装補機用転がり軸受を備える自動車電装補機を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池装置等の燃料電池分野に使用される転がり軸受用グリース組成物を備えた自動車電装補機用転がり軸受に関し、この分野に利用されるのに好適な耐剥離性能を向上させた転がり軸受用グリース組成物を用いた自動車電装補機用転がり軸受及びコンプレッサー等の自動車電装補機に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー需給問題や環境問題への関心が地球規模で高まるなか、高効率でクリーンなエネルギー供給・利用技術、高度化・効率化した省エネルギー技術の開発が求められており、その高効率でクリーンなエネルギー供給を実現するものとして燃料電池がある。
【0003】
燃料電池とは、水素と酸素が化学反応することで得られる化学エネルギーを電気エネルギーに変換することで電力を得るシステムをいう。そして、この燃料電池の原料となる水素はメタノールや天然ガスを改質して作られ、また化学反応の後に排出されるのは水だけであることからも、環境に配慮したゼロ・エミッション発電システムといえる。
【0004】
ひとくちに燃料電池といってもいくつかの発電形式があり、またその発電量により携帯用から自動車用、大規模な産業用と様々である。特に自動車用の発電システムとして、電気自動車のように充電が要らずハイブリッド車よりも高効率であることから、自動車などの移動体電源として、今後大きく普及していくと考えられる。
【0005】
燃料電池は、その使用環境から低温型と高温型に分けられる。自動車に燃料電池が搭載された場合、自動車として必要な性能である低温作動、小型軽量、そしてメンテナンスが容易であることなどが求められる。そして、これに適した燃料電池の種類として、固体高分子型が用いられている(燃料電池装置の一例は、特開2002−231294号公報の図1を参照)。
【0006】
このタイプは常温からせいぜい100℃程度までの温度範囲での使用であるため、温度条件としてはさほど過酷ではない。しかし、付属するコンプレッサー等の装置は、小型軽量化、および静粛化向上のためのエンジンルーム密封化により、高速高荷重の使用が必至である。
【0007】
さらに、この固体高分子型の場合、燃料電池は、図1に示すように、内部に電解質・電極・セパレーターからなるセルを直列に積層したスタックという構造を持っている。そのセルの中の電解質は、フッ素樹脂系高分子膜でできている。そしてこの電解質は、水素イオンの伝導性を維持し、膜の破損の原因となる水素と酸素の直接反応を避けるために、常に水分を含んだ状態を維持しなければならない。そのため、固体高分子型の燃料電池は、コンプレッサーとの間に加湿器を介した構造をとっている。
【0008】
このことから、水蒸気の浸入を防ぐシール構造をもつ転がり軸受の使用や、錆びにくい材料の利用もあるが、グリースにおいて、耐水性や耐剥離性に優れ、かつ長寿命を実現できるグリース組成物は提案されていないというのが現状である。
【特許文献1】特開2002−231294号公報
【特許文献2】特開2001−07396号公報
【特許文献3】特開平9−169989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
燃料電池を自動車等に搭載した場合、コンプレッサーを介し動力を伝えるが(スクロール型コンプレッサーの一例として、特開2001−07396号公報を参照)、燃料電池は酸素を原料とし水を排出するといく化学反応によりエネルギーを得ることから、コンプレッサーが高温下に置かれ、また組み込まれた転がり軸受においては高速・高荷重下での使用が考えられる。
【0010】
燃料電池車用転がり軸受に使用されるグリースには、通常の自動車に用いられる軸受と同様、軸受潤滑寿命が長いこと、グリース漏れが少ないこと、低温性能に優れること、錆止め性能に優れること、軸受音響性能に優れることなど主として潤滑性に関する要求がなされてきている。加えて、このような高速化や高性能化に伴い、転がり軸受の軌道面には高荷重が周期的に加わることとなり、それによる剥離防止も重要課題となっている。
【0011】
本発明はこの事情を鑑み、潤滑性能はもちろんのこと、耐剥離性能を備え、長期間の使用を可能にする燃料電池システム内のコンプレッサー等に提供できる転がり軸受用グリースを用いた自動車電装補機用転がり軸受及び自動車電装補機を提供することを目的とする。
【0012】
特開平9−169989号公報では、剥離は軸受の共振等による負荷の増加と外輪が変形することによって発生する曲げ応力との相乗作用によって起こり、グリースによる軸受剥離寿命の延長は、転動体と軌道面に十分保持されたグリース膜がダンピング効果を示し、その結果共振時の振動レベルや最大転動体荷重が軽減されることによるものと考察し、さらにそのグリース膜のダンピング効果を増大させることで、はくり防止効果を向上させることができることとしている。
【0013】
そして、本発明者等は、鋭意研究したところ、グリース膜の形成能力を大きくし、衝撃荷重に対するダンピング効果を増大させるためには、油膜形成能力に優れた基油を使用すればよく、そのための手段として、基油に低蒸発性で潤滑性に優れるイオン性液体を使用することが効果的であるとの結果を得、前記目的を達成し得ることの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記のような知見に基づきなされたものであり、下記発明を提供するものである。
【0015】
1.基油にイオン性液体を使用したグリースを封入したことを特徴とする自動車電装補機用転がり軸受。
【0016】
2.前記イオン性流体が、脂肪族アミン系、脂環式アミン系、イミダゾリウム系、及びピリジン系からなる群より選択されるカチオンを含むイオン性液体である、前記1記載の自動車電装補機用転がり軸受。
【0017】
3.前記グリース組成物が、更に、増ちょう剤を含む、前記1又は2記載の自動車電装補機用転がり軸受。
【0018】
4.前記増ちょう剤が、金属石けん系化合物またはウレア化合物である、前記3記載の自動車電装補機用転がり軸受。
【0019】
5.前記1〜4の何れかに記載の自動車電装補機用転がり軸受を備える自動車電装補機。
【0020】
6.前記自動車電装補機が、コンプレッサーである、前記5記載の自動車電装補機。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、潤滑性能、耐剥離性能を備え、長期間の使用を可能にするグリースを封入した自動車電装補機用転がり軸受、及び主として燃料電池システム内のコンプレッサー等として提供できる自動車電装補機が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の自動車電装補機用転がり軸受に用いられるイオン性液体は、その種類に制限されるものではないが、例えば、脂肪族アミン系、脂環式アミン系、イミダゾリウム系、ピリジン系等のカチオン(下記式に示す)を含むものを挙げることができる。これらは低粘度にも関わらず蒸発量が少なく、耐熱性にすぐれているため、好適に使用できる。
【0023】
【化1】

【0024】
上記各式中、Rはアルキル基またはアルコキシ基を示す。同一分子中に含まれる複数のRは同一でも異なっていてもよい。カチオンの対イオンであるアニオン(X-)としては、例えば、BF4-,PF6-,[(CF3SO22N]-,Cl-,Br- 等を挙げることができる。
【0025】
上記Rが示すアルキル基またはアルコキシ基におけるアルキル基部分の炭素数が多く分子量が大きい程、動粘度が大きくなる。40℃動粘度は、およそ12mm2/s〜260mm2/s程度のものが知られる。このため、上記のイオン性液体を単独又は組合せることによって、適切な粘度の基油を得ることができる。
【0026】
また、融点が−45℃以下のイオン性液体も実在し、潤滑油としてのグリース組成物の使用範囲を十分満たしている。
【0027】
更に、本発明のグリース組成物においては、その各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。
【0028】
特に本発明の主用途に挙げられる自動車電装補機用軸受では良好な防錆性が要求されている。良好な防錆性を得るために、本発明においては防錆剤を用いることが好ましい。
【0029】
防錆剤としては、亜硝酸ナトリウム等の環境負荷物質は使用せず、カルボン酸及びカルボン酸塩、エステル系、アミン系が好適に使用される。具体的に、カルボン酸及びカルボン酸塩として、モノカルボン酸ではステアリン酸など、ジカルボン酸ではアルキルまたはアルケニルコハク酸及びその誘導体、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸のカルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉛などの金属塩が使用でき、特に、アルケニルコハク酸、ナフテン酸亜鉛が好適に使用される。エステル系として多価アルコールのカルボン酸部分エステルではソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタエリスリットモノオレエートやコハク酸ハーフエステルなどが挙げられ、特にソルビタンモノオレエート、コハク酸ハーフエステルが好適に使用される。アミン系としてアミン誘導体ではアルコキシフェニルアミン、二塩基性カルボン酸の部分アミド等が好ましく使用される。
【0030】
その他の添加剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛などの酸化防止剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤、脂肪酸、動植物油などの油性向上剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤など、グリースで使用される添加剤を単独又は2種以上混合して用いることができる。なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。これらの添加剤についても、基油に用いられているものと同一の配合とすれば、グリースと油が混合した際も、親和性が上がり好適であるといえる。
【0031】
また本発明には増ちょう剤を用いることもでき、該増ちょう剤は、ゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li,Na等からなる金属石けん、Li,Na,Ba,Ca等から選択される複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、PTFE、ウレア化合物、ウレア、ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、グリースの耐熱性やコストを考慮すると、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。このウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物としては、具体的にはジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましい。さらに好ましくは、以下の一般式(2)〜(4)に示すようなジウレア化合物を配合することが望ましい。
【0032】
【化2】

【0033】
ここで、図面を示して、本発明の自動車電装補機用転がり軸受を具体的に説明する。
図2は、本発明に係る自動車電装補機用転がり軸受の一実施形態を示す断面図である。
本実施形態の自動車電装補機用転がり軸受は、図2に示すように、内輪12、外輪10、転動体13、及び保持器14からなる。内輪12、外輪10、転動体13は、SUJ2、ステンレス等の鋼材もしくはセラミックから形成される。保持器14は、鋼材、黄銅などの合金材、もしくは樹脂材から形成される。
【0034】
本発明の自動車電装補機用転がり軸受は、コンプレッサー、好ましくは燃料電池コンプレッサー等の自動車電装補機に好適に適用できる。そして、かかる自動車電装補機は、燃料電池システム等に好適に用いられる。
【0035】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜他の変更形態とすることができることは言うまでもない。
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により、本発明が制約されるものではない。
【0037】
供試試料及び結果を表1,2に示した。実施例では基油にイオン性液体を、比較例では一般産業で使用されている潤滑油を用いた。
【0038】
1.四球試験
ASTMに起点された試験装置を用いて四球試験法によって行った。即ち、3つの試験球(玉軸受用鋼球,SUJ2 1/2”)を互いに接するように正三角形状に配置して固定し、その中心に形成された窪みの上にもう1つの試験球を載置し、これを回転させることで摩擦試験を行う。荷重は100kgfで、温度は100℃にて行った。
【0039】
潤滑方法は本発明の通り、試験前にグリースを球に塗布し試験を行った。試験に用いたグリースは増ちょう剤量が15%で、ちょう度を250前後に調製した。
試験に用いた潤滑油は40℃での動粘度が30cSt程度のものを用い、グリースの場合は増ちょう剤量が15%で、ちょう度を250前後に調製した。
【0040】
試験はモータに過負荷がかかった時を焼付きとし,この焼付き時間を測定した.焼付き時間は比較例1の焼付き時間を1とし、他はこれに対する比の形(焼付き寿命比)で表した。
【0041】
2.軸受剥離寿命試験
特開平9−169989号公報と同様の方法により、微粒子が耐剥離に及ぼす影響を調べた。接触ゴムシール付き密封深溝玉軸受(内径φ35mm,外径φ55mm,幅13mm,プラスチック保持器付き)に試験グリース組成物を0.9g封入し、外輪回転速度1000rpm〜6000rpmの繰り返し、軸受温度160℃、ラジアル荷重120kgfの条件で軸受を連続回転させ、軸受内輪転走面に剥離が生じ、振動が増大して停止するまでの時間を測定し寿命とした。寿命時間は3回の平均とした。
【0042】
3.軸受剥離寿命試験(水入り)
燃料電池は水が発生する機構を備えているため、水が混入することが考えられ、このような場合にも潤滑性を落とさず、長期間運転することが必要である。そこで、2.の試験を行った各グリースに水を5%ずつ混入させて、剥離寿命試験を行った。試験方法や寿命時間の表記に関しては、2.と同様に行った。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、潤滑性能、耐剥離性能を備え、長期間の使用を可能にするグリースを封入した自動車電装補機用転がり軸受、及び主として燃料電池システム内のコンプレッサー等として提供できる自動車電装補機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】固体高分子型燃料電池の内部構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る自動車電装補機用転がり軸受の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10・・・外輪、12・・・内輪、13・・・転動体、14・・・保持器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油にイオン性液体を使用したグリースを封入したことを特徴とする自動車電装補機用転がり軸受。
【請求項2】
前記イオン性流体が、脂肪族アミン系、脂環式アミン系、イミダゾリウム系、及びピリジン系からなる群より選択されるカチオンを含むイオン性液体である、請求項1記載の自動車電装補機用転がり軸受。
【請求項3】
前記グリース組成物が、更に、増ちょう剤を含む、請求項1又は2記載の自動車電装補機用転がり軸受。
【請求項4】
前記増ちょう剤が、金属石けん系化合物またはウレア化合物である、請求項3記載の自動車電装補機用転がり軸受。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の自動車電装補機用転がり軸受を備える自動車電装補機。
【請求項6】
前記自動車電装補機が、コンプレッサーである、請求項5記載の自動車電装補機。


【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−211220(P2007−211220A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35768(P2006−35768)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】