説明

自己復元ダンパーユニット

【課題】構造物に設置することにより、地震時の耐震性能を向上する。
【解決手段】下側のはり11、下側のはり11に対して向かい合わせかつ平行に離された位置に設置される上側のはり12、下側のはり11の左端と上側のはり12の左端との間に設置される左側の柱21、下側のはり11の右端と上側のはり12の右端との間に設置される右側の柱22、地震エネルギーの吸収のために下側のはり11、上側のはり12、左側の柱21、右側の柱22により構成されるフレームに設置されるエネルギー吸収装置、左側の柱21の上部近傍で上側のはり12と上端を結合し、左側の柱21の下部近傍で下側のはり11と下端を結合する棒材31、および右側の柱22の上部近傍で上側のはり12と上端を結合し、右側の柱22の下部近傍で下側のはり11と下端を結合する棒材32、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己復元能力を有するユニット化されたダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明では、梁と柱からなる骨組構造にダンパーユニットを設置し、ダンパーユニットに加わるせん断力に対して減衰効果を発揮することで構造物の耐震性能を向上させる。
【0003】
本発明と設置方法が類似するものとして、せん断パネル型ダンパーをブレース材の接合部に配置した特許文献1が挙げられる。特許文献1では、2本の柱により支持されるはりの中央部にせん断パネル型ダンパーを設置し、逆V型に配置される一組のブレースの片端を柱中央部にピン結合し、他端をダンパーに結合した制震構造が提案されている。
【0004】
特許文献2ではせん断パネル型ダンパーを取り付けジグ等を含めてユニット化することで、設計の自由度および施工性の向上を図っている。
【0005】
しかしながら、ダンパーも含め構造部材が塑性化すると地震後も残留変位が構造物に生ずるため、損傷したダンパーを交換する等、構造物を原位置へ復帰させる作業が必要となる。
【0006】
特許文献3では、都市部の高速道路などの高架橋に適用する骨組み構造が提案されており、その構造は2本の橋脚とこれらに支持されるはり、プレストレスを導入したPC鋼棒、および軸降伏型ダンパーにより構成される。それぞれの柱に対してはりは半剛結接合となっており、PC鋼棒はそれぞれの柱内部を垂直に貫通する。軸降伏型ダンパーははりと柱の接合部およびそれぞれの柱基部に設置される。自己復元能力はプレストレスを与えられたPC鋼棒により骨組みに導入される。従って地震後に骨組み構造を原位置に復帰させる作業は不要である。
【0007】
しかしながら、橋脚にPC鋼棒を貫通させるなど大規模な機構が必要であり、既設橋脚に対して施工することは困難である。そのため、この構造の適用は新設橋脚に限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−227126、橋梁、及び橋梁の耐震強度補強方法、三菱重工業株式会社
【特許文献2】特開2008−303686、せん断パネル型ダンパーと構造物へのせん断パネル型ダンパー取付け構造、株式会社横河ブリッジホールディングス
【特許文献3】特開2008-297720、鋼橋梁を対象とした無損傷自己復元型免震・制震機構、後藤芳顯
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
a) 特許文献1、特許文献2のダンパーのみを設置する構造では、極大地震時により生じた塑性変形は地震後にも残留する。そのため、構造物全体に残留変位が生じるため、損傷したダンパーを置き換える等、原位置へ復帰させる作業が必要となる。
【0010】
b) 特許文献3は自己復元能力を有する制震機構であるが、構造本体にPC鋼棒を貫通させるなど大規模な機構が必要であり、橋梁全体と一体的に設計する必要がある。そのため、設計の自由度および施工の簡便性に劣る。
【0011】
c) 構造的制約から、エネルギー吸収部材として特許文献2ではせん断パネル型ダンパー、特許文献1、特許文献3では軸降伏型ダンパーを用いる必要がある。
【0012】
本発明は上記点に鑑みて、構造物に設置することにより、地震時の耐震性能の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、構造物に設置し地震エネルギーの吸収を行う自己復元ダンパーユニットであって、
下側のはり、
下側のはりに対して向かい合わせかつ平行に離された位置に設置される上側のはり、
下側のはりの左端と上側のはりの左端との間に設置される左側の柱、
下側のはりの右端と上側のはりの右端との間に設置される右側の柱、
地震エネルギーの吸収のために下側のはり、上側のはり、左側の柱、右側の柱により構成されるフレームに設置されるエネルギー吸収装置、
左側の柱の上部近傍で上側のはりと上端を結合し、左側の柱の下部近傍で下側のはりと下端を結合する棒材、および
右側の柱の上部近傍で上側のはりと上端を結合し、右側の柱の下部近傍で下側のはりと下端を結合する棒材、
を備えることを特徴とする自己復元ダンパーユニット。
【0014】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、左側の柱は、左側の棒材により導入される圧縮力により上側のはりおよび下側のはりと半剛結接合され、
右側の柱は、右側の棒材により導入される圧縮力により上側のはりおよび下側のはりと半剛結接合されていることを特徴とする自己復元ダンパーユニット。
【0015】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の自己復ダンパーユニットにおいて、左側の棒材は、左側の柱内部に挿入され、
右側の棒材は、右側の柱内部に挿入されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項2に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、左側の一組の棒材は、エネルギー吸収装置の挙動を妨げないように左側の柱から等しい距離を離した位置に設置され、
右側の一組の棒材は、エネルギー吸収装置の挙動を妨げないように右側の柱から等しい距離を離した位置に設置されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明では、請求項2に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、左側の柱の上端、左側の柱の下端、右側の柱の上端、右側の柱の下端は凸曲面を有し、
上側のはり上の左上接触部、下側のはり上の左下接触部、上側のはり上の右上接触部、下側のはり上の右下接触部は凹曲面を有することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、凸曲面の形状は基本的に半径R1の半球の一部であり、
凹曲面の形状は基本的に半径R2の半球の一部であり、
半径R2は前記半径R1よりも大きいことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明では、請求項5に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、凸曲面は半径R3の円柱の側面であり、
凹曲面は半径R4の円柱の側面であり、
半径R4は半径R3よりも大きいことを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明では、請求項2に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、左側の柱の上端部、左側の柱の下端部、右側の柱の上端部、および右側の柱の下端部は平面であり、
上側のはり上の左上接触部、下側のはり上の左下接触部、上側のはり上の右上接触部、および下側のはり上の右下接触部は側面にテーパーを付与した矩形の凹面を有していることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明では、請求項1に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、エネルギー吸収装置は、第1の軸降伏型ダンパーおよび第2の軸降伏型ダンパーにより構成され、
第1軸降伏型ダンパーの片端は、上側のはりまたは左側の柱のいずれかに結合され、
第1軸降伏型ダンパーの他端は、下側のはりまたは右側の柱のいずれかに結合され、
第2軸降伏型ダンパーの片端は、上側のはりまたは右側の柱のいずれかに結合され、
第2軸降伏型ダンパーの他端は、下側のはりまたは左側の柱のいずれかに結合されていることを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の発明では、請求項1に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、エネルギー吸収装置は、地震力によりせん断変形する前記フレームにより外周を固定され、フレームのせん断変形に伴い変形するせん断パネルを含むことを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明では、請求項10に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、せん断パネルの形状は、フレームの内側部分により規定される矩形から4つの角部を切り落とした平面であることを特徴とする。
【0024】
請求項12に記載の発明では、請求項2に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、左側の柱は凸曲面の形状を有する上端部および下端部を含み、
右側の柱は凸曲面の形状を有する上端部および下端部を含み、
下側のはりは、左端の上面に凹曲面の形状を有する左側の柱と接触する左下の接触部と右端の上面に凹曲面の形状を有し、右側の柱と接触する右下の接触部を含み、
上側のはりは、左端の下面に凹曲面の形状を有する左側の柱と接触する左上の接触部と右端の下面に凹曲面の形状を有し、左側の柱と接触する右上の接触部を含むことを特徴とする。
【0025】
請求項13に記載の発明では、請求項12に記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、左側の柱の前記上端における前記凸曲面は基本的に半径r1の半球の一部であり、
左側の柱の前記下端における凸曲面は基本的に半径r2の半球の一部であり、
右側の柱の前記下端における凸曲面は基本的に半径r3の半球の一部であり、
右側の柱の前記下端における凸曲面は基本的に半径r4の半球の一部であり、
上側のはり上の前記左上の接触部の凹曲面の形状は半径r1よりも大きな半径を有する半球の一部であり、
下側のはり上の左下の接触部の凹曲面の形状は半径r2よりも大きな半径を有する半球の一部であり、
上側のはり上の右上の接触部の凹曲面の形状は半径r3よりも大きな半径を有する半球の一部であり、
下側のはり上の右下の接触部の凹曲面の形状は半径r4よりも大きな半径を有する半球の一部であることを特徴とする。
【0026】
請求項14に記載の発明では、請求項1ないし13のいずれか1つに記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、構造物との接合部は、左側の柱および右側の柱に設けられていることを特徴とする。
【0027】
請求項15に記載の発明では、請求項1ないし14のいずれか1つに記載の自己復元ダンパーユニットにおいて、棒材はPC鋼棒であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は第1の実施形態による自己復元型ダンパーユニットをアーチ橋に適用した場合の設置例を示す概略図である。
【図2】図2は図1に示す自己復元型ダンパーユニットの正面図である。
【図3】図3は図2に示す上側のはりの平面図である。
【図4】図4は図2に示す下側のはりの平面図である。
【図5】図5は図2に示す自己復元型ダンパーユニットの初期状態における正面図である。
【図6】図6は図2に示す自己復元型ダンパーユニットに対して、せん断力が作用したときの正面図である。
【図7】図7は図2に示す自己復元型ダンパーユニットに対して、図6とは逆方向のせん断力が作用したときの正面図である。
【図8】図8は自己復元型ダンパーユニットの第2の実施形態を示す正面図である。
【図9】図9は図8に示す下側のはりとせん断パネル部を示す断面図である。
【図10】図10は図8に示す自己復元型ダンパーユニットの初期状態における正面図である。
【図11】図11は図10に示す自己復元型ダンパーユニットに対して、せん断力が作用したときの正面図である。
【図12】図12は図10に示す自己復元型ダンパーユニットに対して、図11とは逆方向のせん断力が作用したときの正面図である。
【図13】図13は図2に示す下側のはりの透視図である。
【図14】図14は図2に示す下側のはり部に改良1を加えた場合の透視図である。
【図15】図15は図2に示す左側の柱部に改良1を加えた場合の透視図である。
【図16】図16は図2に示す下側のはり部に改良2を加えた場合の透視図である。
【図17】図17は図2に示す左側の柱部に改良2を加えた場合の透視図である。
【図18】図18は、はりと柱部に図16および図17の改良を加えた場合の挙動示す透視図である。
【図19】図19は図2に示す軸降伏型ダンパーとフレームとの結合方法を改良した場合の正面図である。
【図20】図20は図2に示す軸降伏型ダンパーとフレームとの結合方法を改良した場合の正面図である。
【図21】図21は図3に示すPC鋼棒の配置に関して改良した場合の平面図である。
【図22】図22は図4に示すPC鋼棒の配置に関して改良した場合の平面図である。
【図23】図23はナットを改良した場合の実施形態を表す図である。
【図24】図24は本発明をトラス橋に適用した場合の設置例を示す図である。
【図25】図25は橋梁の梁と柱からなる空間全域に自己復元型ダンパーユニットを設置した例を示す図である。
【図26】図26は本発明の第3実施形態における内部構造を示したものである。
【図27】図27は本発明の第3実施形態における地震時の動作機構を示したものである。
【図28】図28は本発明をトラス橋に適用した場合の設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
まず、実施形態の概要を説明する。上記課題a)の地震後の残留変形が生じることを抑制することを目的として、特許文献3と同様の機構をダンパーユニット内に導入することにより、自己復元能力を付与する。
【0030】
上記課題b)の大規模機構に起因する困難を排除するため、橋梁本体にて実現していた自己復元機構をダンパーユニット内のみで完結させる。すなわち、特許文献3ではPC鋼棒や軸降伏型ダンパーを橋梁本体へ個別に取り付けていたが、本発明ではダンパーユニットの外周フレームにPC鋼棒やダンパーを固定しダンパーユニットと一体化する。これにより、自己復元能力をダンパーユニット自身が持つことが可能となる。
【0031】
従来技術では上記課題c)のエネルギー吸収部材に用いるダンパー形状に制約があるが、本発明ではダンパーユニット内に収まる範囲でエネルギー吸収部材を自由に配置できる構造とした。これにより、種々のダンパーをエネルギー吸収部材として用いることが可能となる。とくに、地震時の繰り返し載荷に対してエネルギー吸収部材が劣化しないよう設計をすることにより、メンテナンスフリーな免震・制震構造を実現できる。
【0032】
図1は設置例としてアーチ橋に第1実施形態であるダンパーユニット10(以降、“第1ダンパーユニット10”と呼ぶこととする)を取り付けた構造について示したものである。
【0033】
第1ダンパーユニット10は部材1、2および3の間に配置される。第1ダンパーユニット10の上部は部材2、3と結合される。地震力はアーチ部材1、2および3を介して第1ダンパーユニット10に伝達される。第1ダンパーユニット10が用いられていない従来の橋梁では、橋梁部材2と3は橋梁部材1に直接剛結されることに留意されたい。
【0034】
図2、3および4に示すように、第1ダンパーユニット10は下側のはり11、上側のはり12、左側の柱21、右側の柱22、左側のPC鋼棒31(棒材)、右側のPC鋼棒32(棒材)、軸降伏型ダンパー41、42により構成される。下側のはり11、上側のはり12、左側の柱21、右側の柱22により半剛結のフレームを構成する。
【0035】
下側のはり11は、基本的には直方体の形状を有する。本例では、下側のはり11は厚板により構成される中空の箱型断面としている。下側のはり11は十分な強度と剛性を有する。下側のはり11の形状は中実の直方体でもよい。下側のはり11は鋼以外の材料でもよい。
【0036】
下側のはり11は、下面部11LSで橋梁部材と接し、橋梁部材と結合する。下側のはり11の両端にはフランジ11aを付与することができる。フランジ11aはボルトを通すためのボルト孔Hを有する。下側のはり11はボルト孔Hでボルトとナットにより橋梁部材と結合することができる。下側の柱11はボルトやナット以外の方法で橋梁部材と剛結してもよい。
【0037】
図2、4に示すように、下側のはり11は左下の接触部11bと右下の接触部11cを有する。
【0038】
左下の接触部11bは下側のはり11の左側に配置される。左下の接触部11bは下側のはり11の上面11US上に配置される。左下の接触部11bは凹曲面を有する。具体的には、左下の接触部11bの凹曲面の形状は半球の1部である。
【0039】
右下の接触部11bは下側のはり11の左側(下側のはり11の左端近傍)に配置される。右下の接触部11bは下側のはり11の上面11US上に配置される。左下の接触部11bは凹曲面を有する。具体的には、左下の接触部11bの凹曲面の形状は半球の1部である。
【0040】
さらに、下側のはり11は左下の接合部11dと右下の接合部11eを有する。
【0041】
左下の接合部11dは下側のはり11の左側の下面11LSに配置される。左下の接合部11dは形状が直方体の凹面を有する。貫通孔Haは左下の接触部11bと左下の接合部11dの間に配置される。
【0042】
右下の接合部11eは下側のはり11の右側の下面11LSに配置される。左下の接合部11eは右下の接合部11dと同じ形状の凹面を有する。貫通孔Hbは右下の接触部11cと右下の接合部11eの間に配置される。
【0043】
さらに、下側のはり11は左下にブラケット部11fと右側にブラケット部11gを有する。
【0044】
左側のブラケット部11fは下側のはり11の左側(左下の接触部11bの近傍)に配置される。図4に示すように、左側のブラケット部11fは下側のはり11の後方の側面11RRから内部の方向に向かう突起である。左側のブラケット部11fは下側のはり11の後方の側面11RRに平行な平面部を有する。この平面部はピン結合のための孔を有する。
【0045】
右側のブラケット部11gは下側のはり11の右側(右下の接触部11cの近傍)に配置される。図4に示すように、右側のブラケット部11gは、はり11の後方の側面11RRと平行に位置する下側のはり11の前方の側面11FR上に配置される突起である。右側のブラケット部11gは左側のブラケット部11fと同一形状である。右側のブラケット部11gは下側のはり11の内部に向かう突起であり、前方の側面11FRと平行な平面部を有する。この平面部はピン結合のための孔を有する。
【0046】
上側のはり12は、直方体の形状を有する。上側のはり12の大きさは概ね下側のはり11と同程度の大きさである。上側のはり12は下側のはり11と距離をおき、向かい合わせかつ平行に配置される。
【0047】
本例では、上側のはり12は厚板により構成される中空の箱型断面としている。上側のはり12は十分な強度と剛性を有する。上側のはり12の形状は中実の直方体でもよい。上側のはり12は鋼以外の材料でもよい。
【0048】
板12aは上側のはり12の上面12USで結合される。板12aは複数のボルト孔を有する。前記のとおり、上側のはり12は板12aにより橋梁部材とボルトとナットを用いて結合される。
【0049】
図2および3に示すように、上側のはり12は左上の接触部12bと右上の接触部12cを有する。
【0050】
左上の接触部12bは上側のはり12の左側(上側のはり12の左端近傍)に配置される。左下の接触部11bは凹曲面を有し、上側のはり12の下面12LS上に配置される。具体的には、左下の接触部11bの凹曲面の形状は半球の1部である。本例では、左上の接触部12bの形状は左下の接触部11bと同一の形状としている。
【0051】
右上の接触部12cは上側のはり12の右側(上側のはりの右端近傍)に配置される。右上の接触部12cは左上の接触部12bと同じ凹曲面を有する。すなわち、右上の接触部12cの形状は半球の一部である。右上の接触部12cは上側のはり12の下面12LS上に配置される。本例では、右上の接触部12cの形状は左下の接触部11cと同一の形状としている。右上の接触部12cは左下の接触部11cと向かい合わせになるように配置される。
【0052】
上記のとおり、左下の接触部11b、右下の接触部11c、左上の接触部12bおよび右上の接触部12cは全て同一の形状である。便宜上、それぞれの接触部の半径を“半径R2“と呼ぶこととする。
【0053】
上側のはり12は左側のブラケット部12dおよび右側のブラケット部12eを有する。
【0054】
左側のブラケット部12dは上側のはり12の左側(左上の接触部12b近傍)に配置される。図3に示すように、左側のブラケット12dは上側のはり12の前方の側面12FRから上側のはり12の内側に向かう突起である。左側のブラケット部12dは前方の側面12FRと平行な平面部を有する。
【0055】
右側のブラケット部12eは上側のはり12の右側(右上の接触部12c近傍)に配置される。右側のブラケット部12eは左側のブラケット12eが配置される上側のはりの前方の側面12FRと向かい合わせかつ平行に配置される12RR上に配置される突起である。右側のブラケット部12eは左側のブラケット部12dと同一の形状である。右側のブラケット部12eは上側のはり12の内側に向かう突起であり、後方の側面12RRと平行な平面部を有する。この平面部はピン結合のための孔を有する。
【0056】
左側の柱21は円柱である。左側の柱21は中実断面で、左側の柱21の軸線に沿った貫通孔Heを有する。本例では、左側の柱21は鋼製である。左側の柱21は十分な剛性と強度を有する。左側の柱21は鋼以外の材料でもよい。
【0057】
左側の柱21は上下のはり12および11を支持するために、下側のはり11と上側のはり12の左端の間に設置される。詳細は後述するが、左側の柱21は上側のはり12と下側のはり11にPC鋼棒31により導入される圧縮力により半剛結接合される。
【0058】
左側の柱21の上端部21aは凸曲面の形状を有する。具体的には、上端部21aは基本的には半径r1の半球の一部である。半径r1は上側のはり12上に位置する左上接触部12bの半径よりも小さい。初期状態において、上端部21aは上側のはり12上の左上接触部12bと同軸上で接触する。
【0059】
左側の柱21の下端部21bは凸曲面の形状を有する。具体的には、下端部21bは基本的には半径r2の半球の一部である。半径r2は下側のはり11上に位置する左下接触部11bの半径よりも小さい。本例では、下端部21bは上端部21aと同一の形状である(r1=r2)。初期状態において、下端部21bは下側のはり11上の左下接触部11bと同軸上で接触する。
【0060】
右側の柱22は左側の柱21と同一である。すなわち、右側の柱22は左側の柱21と同じ円柱の形状を有する。右側の柱22は中実断面で、右側の柱22の軸線に沿った貫通孔Hfを有する。本例では、右側の柱22は鋼製である。右側の柱22は十分な剛性と強度を有する。右側の柱22は鋼以外の材料でもよい。
【0061】
右側の柱22は上下のはり12および11を支持するために、下側のはり11と上側のはり12の右端の間に設置される。詳細は後述するが、右側の柱22は上側のはり12と下側のはり11にPC鋼棒32により導入される圧縮力により半剛結接合される。
【0062】
右側の柱22の上端部22aは凸曲面の形状を有する。具体的には、上端部22aは基本的には半径r3の半球の一部である。半径r3は上側のはり12上に位置する右上接触部12cの半径よりも小さい。上端部22aは上端部21aと同一の形状である。初期状態において、上端部22aは上側のはり12上の右上接触部12cと同軸上で接触する。
【0063】
右側の柱22の下端部22bは凸曲面の形状を有する。具体的には、下端部22bは基本的には半径r4の半球の一部である。半径r4は下側のはり11上に位置する右下接触部11cの半径よりも小さい。下端部22bは上端部22aと同一の形状である(r3=r4)。また、下端部22bは、下端部21bと同一である。初期状態において、下端部22bは下側のはり11上の左下接触部11cと同軸上で接触する。
【0064】
上述のとおり、上端部21a、下端部21b、上端部22a、および下端部22bは同一の形状である。従って、半径r1、r2、r3およびr4はそれぞれ等しい。便宜上、r1、r2、r3およびr4は半径R1と呼ぶこととする。先述の半径R2は変形R1よりも大きい。
【0065】
左側のPC鋼棒31は左側の柱21を左側の柱21の軸線に沿って貫通する。すなわち、左側のPC鋼棒31は左側の柱21の貫通孔Heの中を貫通する(PC鋼棒31は左側の柱21の内部に挿入される)。左側のPC鋼棒31と左側の柱21の貫通孔Heとの隙間はPC鋼棒31の動きを妨げないように十分確保する。左側のPC鋼棒31は下側のはり11を貫通する。すなわち、左側のPC鋼棒31は下側のはり11の貫通孔Haを貫通する。さらに、左側のPC鋼棒31は上側のはり12を貫通する。すなわち、左側のPC鋼棒31は上側のはり12の貫通孔Hcを貫通する。左側のPC鋼棒31と貫通孔Haおよび左側のPC鋼棒31と貫通孔Hcとの隙間はPC鋼棒31の動きを妨げないように十分確保する。すなわち、PC鋼棒31は貫通孔HaおよびHcの内面とは接触しない。
【0066】
図2に示すように、左側のPC鋼棒31の上端部31aは上側のはり12の上面12US上に突出する。上端部31aにはねじ切り加工を施し、ナットN1により締結する。
【0067】
図2に示すように、左側のPC鋼棒31の下端部31bは左下の結合部11dに突出する。下端部31bにはねじ切り加工を施し、ナットN2により締結する。
【0068】
ナットN1とナットN2を締め付けることにより、右側のPC鋼棒31に引張り力を導入する。従って、左側のPC鋼棒31により導入される圧縮力によって、柱21は上側のはり12と下側のはり11と半剛結接合する。
【0069】
左側のPC鋼棒32は右側の柱22を右側の柱22の軸線に沿って貫通する。すなわち、右側のPC鋼棒32は右側の柱22の貫通孔Hfの中を貫通する(PC鋼棒32は右側の柱22の内部に挿入される)。右側のPC鋼棒32と右側の柱22の貫通孔Hfとの隙間はPC鋼棒32の動きを妨げないように十分確保する。右側のPC鋼棒32は下側のはり11を貫通する。すなわち、右側のPC鋼棒32は下側のはり11の貫通孔Hbを貫通する。さらに、右側のPC鋼棒32は上側のはり12を貫通する。すなわち、右側のPC鋼棒32は上側のはり12の貫通孔Hdを貫通する。左側のPC鋼棒31と貫通孔Hbおよび左側のPC鋼棒31と貫通孔Hdとの隙間はPC鋼棒31の動きを妨げないように十分確保する。すなわち、PC鋼棒31は貫通孔HbおよびHdの内面とは接触しない。
【0070】
図2に示すように、右側のPC鋼棒32の上端部32aは上側のはり12の上面12US上に突出する。上端部32aにはねじ切り加工を施し、ナットN3により締結する。
【0071】
図2に示すように、左側のPC鋼棒32の下端部32bは左下の結合部11eに突出する。下端部32bにはねじ切り加工を施し、ナットN4により締結する。
【0072】
ナットN3とナットN4を締め付けることにより、右側のPC鋼棒32に引張り力を導入する。従って、右側のPC鋼棒32により導入される圧縮力によって、柱22は上側のはり12と下側のはり11と半剛結接合する。
【0073】
軸降伏型ダンパー41の上端は上側のはり12の左側ブラケット部12dにピン結合する。軸降伏型ダンパー41の下端は下側のはり11の右側ブラケット部11gにピン結合する。
【0074】
軸降伏型ダンパー42は軸降伏型ダンパー41と同一である。軸降伏型ダンパー42の上端は上側のはり12の右側ブラケット部12eにピン結合する。軸降伏型ダンパー42の下端は下側のはり11の左側ブラケット部11fにピン結合する。
【0075】
従って、軸降伏型ダンパー41は基本的に外周フレームの一組の対角を結合する配置となる。軸降伏型ダンパー42は基本的にフレームの一組の対角を結合する配置となる。
【0076】
すなわち、下側のはり11、上側のはり12、左側の柱21および右側の柱22により構成されるフレームに配置される軸降伏型ダンパー41と軸降伏型ダンパー42はフレームに作用する地震エネルギーを吸収するための機構を構成する。
【0077】
次に、図5、6および7をもとに、ダンパーユニット10の機構について述べる。
【0078】
地震が作用しない常時においては、図5に示すように、ダンパーユニット10は初期の形状を維持する。
【0079】
地震時にはダンパーユニット10に結合する橋梁部材を介して地震力がダンパーユニット10に作用する。
【0080】
橋梁部材を介して、上側のはり12およびに力F1が左方向に作用し、下側のはり11に力F2が右方向に作用した状態を図6に示す。
【0081】
左側のPC鋼棒31により導入される圧縮力により、左側の柱21は上側のはり12および下側のはり11に部分的に接触する。しかしながら、左側の柱21と上側のはり12との間の半剛結接合および左側の柱21と下側のはり11との間の半剛結接合により、左側の柱21は上側のはり12と下側のはり11に対して回転移動が可能である。
【0082】
さらに、上述のとおり、半径r1は左上の接触部12bよりも小さく、半径r2は左下の接触部11bよりも小さい(図2参照)。従って、左側の柱21は下側のはり11と上側のはり12に対して接触しつつ、スムーズに回転する。
【0083】
同様に、右側のPC鋼棒32により導入される圧縮力により、右側の柱22は上側のはり12と下側のはり11に対して部分的に接触する。しかしながら、右側の柱22と上側のはり12との間の半剛結および右側の柱22と下側のはり11との間の半剛結接合により、左側の柱21は上側のはり12と下側のはり11に対して回転移動が可能である。
【0084】
さらに、上述のとおり、半径r3は右上の接触部12cよりも小さく、半径r4は右下の接触部11cよりも小さい(図2参照)。従って、右側の柱22は下側のはり11と上側のはり12に対して接触しつつ、スムーズに回転する。
【0085】
従って、図6に示すように、相対回転と離間がはりと柱の間で生じた場合、軸降伏型ダンパー41は圧縮変形し、軸降伏型ダンパー42は引張り変形する。これらの軸降伏型ダンパー41および42の塑性変形によりエネルギー吸収が生じる。
【0086】
これと同時に、左側のPC鋼棒31と右側のPC鋼棒32には引張り変形が生ずる。しかしながら、あらかじめ導入されたプレストレスによりPC鋼棒自身には収縮する内力が発生する。この力により、地震後にはPC鋼棒の長さが最も短くなる原位置に復帰する。
【0087】
図5に示すように、上記のPC鋼棒の作用により、地震時に生じた軸降伏型ダンパー41および42残留変形を解消し、ダンパーユニットとしての自己復元機構を実現する。従って骨組み構造の原位置への復帰やダンパーユニット10を交換する等の地震後の復旧作業は不要である。いわば、ダンパーユニット10は極大地震に対してメンテナンスフリーであると言える。
【0088】
共役のせん断力F3およびF4がそれぞれのはりにF1およびF2と反対方向に作用した状態を図7に示す。この場合、ダンパーユニット10は図6に示したものと同様の挙動を示す。
【0089】
すなわち、軸降伏型ダンパー42には圧縮側の塑性変形、軸降伏型ダンパー41には引張側の塑性変形が生じ、大きなエネルギー吸収が行われる。
【0090】
これと同時に、左右のPC鋼棒31および32は図6に示したものと同様な挙動を示す。以上のようにダンパーユニット10は自己復元特性とエネルギー吸収特性の両方をあわせ持つことになる。
(第2実施形態)
図8に本発明の第2実施形態として、自己復元ダンパーユニット50(以降、“ダンパーユニット50“と呼ぶこととする)を示す。ダンパーユニット50はダンパーユニット10と同様にアーチ橋BRやその他の構造物に適用することができる。
【0091】
ダンパーユニット50はダンパーユニット10におけるエネルギー吸収装置としての軸降伏型ダンパー41および42の設置箇所にせん断パネル60を配置する点のみが異なる。
【0092】
せん断パネル60は基本的に長方形である。より具体的には、せん断パネル60はフレームの内側部分により規定される長方形の板である。せん断パネルの4つの頂点は切り取る。これらの切り取られる部分61−64の形状は基本的に四半円弧であるが、三角形など他の形状でも良い。
【0093】
せん断パネル60はフレーム内に配置され、フレームのせん断挙動に伴い変形する。より具体的には、図9に示すように、2つの接合部品11hは下側のはり11の上面11USに剛結し、せん断パネル60は2つの接合部品11hにはさまれ、下側のはり11に2つの接合部品を貫通するボルトとナットにより結合される。これと同様にせん断パネル60は上側のはり12、左側の柱21、右側の柱22に結合される。せん断パネル60は上記とは異なる方法により下側のはり11、上側のはり12、左側の柱21、右側の柱22に結合してもよい。
【0094】
図10、11、および12に示すように、ダンパーユニット50はダンパーユニット10と同様の挙動を示す。従って、エネルギー吸収装置として機能するせん断パネル60により地震エネルギーは吸収される。
【0095】
さらに、フレームがせん断力により変形した場合に、左側のPC鋼棒31および右側のPC鋼棒32はこれらの長さが最も短くなる初期の配置に戻る。結果として、せん断パネル60の残留変形は解消される。すなわち、ダンパーユニット50は自己復元特性を示す。従って、ダンパーユニット50の修復や交換などのメンテナンスは不要である。
【0096】
せん断パネル60は切り取り部分61−64によりスムーズに変形することができる。これは地震力によってフレームが変形した際にフレームがせん断パネルの変形を抑制しないためである。
【0097】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、発明の範囲から逸脱しない範囲で適切な形態に修正することが可能である。
【0098】
例えば、図13に示すように、上記の実施形態において、左下の接触部11b、右下の接触部11c、左上の接触部12b、右上の接触部12cは半球の一部としての凹曲面である。しかしながら、図14に示すように、左下の接触部11b、右下の接触部11c、左上の接触部12b、右上の接触部12cは半径R4円柱の一部としての凹曲面としてもよい。
【0099】
この場合、図15に示すように、左側の柱21の下端部21bおよび上端部21a、右側の柱22の下端部22bおよび上端部22aは半径R3の円柱状の形状を有する(R3<R4)。本形状においてもまた、左右の柱21および22はスムーズに回転できる。
【0100】
さらに、図16に示すように、左下の接触部11b、右下の接触部11c、左上の接触部12b、右上の接触部12c は矩形の形状を有する凹面でもよい。この場合、図17に示すように、左側の柱21の下端部21bおよび上端部21a、右側の柱22の下端部22bおよび上端部22aは平面部を有する。すなわち、左下の接触部11b、右下の接触部11c、左上の接触部12b、右上の接触部12cが矩形の凹面の場合には、左右の柱21および22の形状は直方体である。
【0101】
上記の形状においては、図18に示すように、地震時に生ずるフレームのせん断変形に伴い、柱21(又は柱22)の浮き上がり量Dが増加する。従ってPC鋼棒31(又はPC鋼棒32)にはより効果的に伸びが生じ、圧縮力が増大する。これによりダンパーユニットの自己復元特性が高められる。このとき、接触部において柱の回転を妨げないように、凹面の側面にはテーパーを付与する。
【0102】
さらに、図19および20に示すように、軸降伏型ダンパー41の端部をそれぞれ左側の柱21と右側の柱22にピン結合してもよい。同様に、軸降伏型ダンパー42の端部を左側の柱21と右側の柱22にピン結合してもよい。各軸降伏型ダンパーの片端を柱、もう片端をはりとピン結合しても良い。
【0103】
さらに、軸降伏型ダンパー41、42およびせん断パネル60のすべてを本ダンパーユニットに設置してもよい。
【0104】
さらに、図21、22に示すように、一組のPC鋼棒101a、101bをPC鋼棒31のかわりに用いてもよい。PC鋼棒101aおよび101bは上下のはり12、11と結合する。PC鋼棒101aおよび101bはダンパー(41、42、60)の挙動を妨げないように、左側の柱21からそれぞれ等しい距離に離して設置する。
【0105】
特に、この修正ではPC鋼棒101aおよび101bは左側の柱21に関して対称となる位置に配置し、左側の柱21の内部には設置しない。フレームの初期状態において、PC鋼棒101aおよび101bの中心を通る直線SL1は、左側の柱21と右側の柱22の中心軸を通る直線SL2と直交する。
【0106】
PC鋼棒101aは上側のはり12の孔を通り、ねじ切り加工を施した101aの上端部においてナットN1aにより上側のはり12に締結される。同様に、PC鋼棒101aは下側のはり11の孔を通り、ねじ切り加工を施した101aの下端部においてナットN2aにより下側のはり11に締結される。もう一方のPC鋼棒101bについてもPC鋼棒101aと同様の方法で上側のはり12および下側のはり11と締結される。
【0107】
従って、PC鋼棒101aおよび101bによって導入される圧縮力により、左側の柱21は上側のはり12および下側のはり11と半剛結となる。
【0108】
同様に、図21、22に示すように、PC鋼棒102aおよび102bは右側のPC鋼棒32の代わりに用いてもよい。PC鋼棒102aおよび102bは上下のはり12、11と結合する。PC鋼棒102aおよび102bはダンパー(41、42、60)の挙動を妨げないように、右側の柱22からそれぞれ等しい距離に離して設置する。
【0109】
PC鋼棒102aおよび102bは右側の柱22に関して対称となる位置に配置し、右側の柱の内部には設置しない。フレームの初期状態において、PC鋼棒102aおよび102bの中心を通る直線SL3は、 SL2と直交する。PC鋼棒102a、102bはPC鋼棒101aと同様の方法で上下のはり12、11と締結する。
【0110】
従って、PC鋼棒102aおよび102bによって導入される圧縮力により、右側の柱22は上側のはり12および下側のはり11と半剛結となる。
【0111】
さらに、図23に示すように、ナットN1、N2、N3、N4、N1a、N1b、N2a、N2b、N3a、N3b、N4a、N4bの代わりに座面が半球のナットNxをかわりに用いても良い。この場合には、PC鋼棒31、32、101a、101b、102aおよび102bがよりスムーズに伸縮変形できる。
【0112】
さらに、図23に示すように、本ダンパーはトラス橋にも適用することができる。
【0113】
さらに、図1や図24に示す例のように、接合部に用いるだけでなく、図25に示すように骨組み構造内部の空間全体に設置することも可能である。この場合、接合部に用いたものと比べ、より大きな自己復元能力とエネルギー吸収を行うことができる。
(第3実施形態)
本ダンパーは、図1や図24に示す例のように接合部に用いるだけでなく、図25に示すように骨組み構造内部の空間全体に設置することも可能である。この場合、接合部に用いたものと比べ、より大きな自己復元能力とエネルギー吸収を行うことができる。
【0114】
図25は設置例として、アーチ橋にダンパーユニットを取り付けた構造について示したものである。図25の設置例では、ダンパーユニットは、橋梁本体(構造物)である左右の柱部材2a、2bと上下の梁部材3a、3bで囲まれた空間内に設置され、接合部4、5において柱部材2aと、接合部6において柱部材2bと接合される。接合部4、5は、左右の部材21、22に設けられている。
【0115】
図26はダンパーユニットの実施形態の内部構造を示したものである。本構造は、外周フレーム部(部材11、12、21、22)、PC鋼棒(部材31、32)、エネルギー吸収部材(部材41、42)により構成される。まず、外周フレームは十分な剛性と強度を有する部材により構成される。左右の部材21、22は上下の部材11、12に挟まれる形で配置されており、部材11、12の両端で接触している。この各部材の接触部である外周フレームの隅角部では部材同士は剛結されておらず、PC鋼棒31、32の圧縮力により固定される半剛結構造となっている。次に、PC鋼棒31、32はそれぞれ左右の外周フレーム部材21、22を貫通しており、その両端は上下の外周フレーム部材11、12に締結される。また、PC鋼棒31、32にはあらかじめプレストレスが導入されており、これにより外周フレームの隅角部が半剛結構造となる。最後に、エネルギー吸収部材41、42は外周フレームを結ぶようフレームの内側に配置され、その両端は外周フレーム部材11、12あるいは21、22に固定される。エネルギー吸収部材には、座屈拘束ブレース(BRB)等の従来の各種制震ダンパーを用いることが可能である。
【0116】
図27は、地震時の動作機構を模式的に示したものである。図27(a)では、図25に示した橋梁本体の柱部材2a、2bより、左側のフレーム部材21には軸線に沿った下方向への力、右側のフレーム部材22には軸線に沿った上方向への力が作用した状態を示す。外周フレームの隅角部では離間が生じ、半剛結構造により相対回転が許容されるため、ダンパーユニットには図27に示すようにせん断変形が生じる。それにより、エネルギー吸収部材41には引張力、部材42には圧縮力が作用する。このように伝達された地震力によりエネルギー吸収部材41、42が塑性変形することにより地震エネルギーが吸収され制震効果が現れる。一方、PC鋼棒31、32は、あらかじめ導入されたプレストレスによりPC鋼棒自身には収縮する内力が発生する。この力により、地震後にはPC鋼棒の長さが最も短くなる原位置に復帰する。この作用により、地震時に生じたエネルギー吸収部材31、32の残留変形を解消し、ダンパーユニットとしての自己復元機構を実現する。なお、図27(b)は図27(a)と逆方向に地震力が作用した場合の動作機構の模式図であり、図27(a)と同様の動作機構となる。したがって、本ダンパーユニットは地震力による繰り返し載荷に対して制震能力を発揮する。
【0117】
本実施形態によると、骨組構造の柱と梁に囲まれる空間全域に大型のダンパーユニットを設置することで、大きな自己復元能力とエネルギー吸収を実現できる。
【0118】
また、橋梁本体(構造物)との接合部4、5および6が左右の部材21、22に設けられているので、図27のように地震時にせん断変形に伴って生ずる柱部とはり部の接触部における浮き上がりにより上下の部材11、12間の距離が拡がっても、構造物へ与える悪影響はない。このため、本ダンパーユニットをアーチ橋のような大きな構造物に良好に適用できる。
(第4実施形態)
図28は、ダンパーユニットをトラス橋に設置した一例である。
(他の実施形態)
なお、本発明のダンパーユニットは、一般に種々の形式の骨組構造に設置可能である。
【0119】
また、エネルギー吸収部材には種々の履歴型ダンパーが使用可能である。例えば、軸降伏型ダンパーを外周フレームの対角を結ぶように配置したものや、せん断パネル型ダンパーを配置するものが挙げられる。
【0120】
また、PC鋼棒31、32の代わりに種々の棒材を使用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置し地震エネルギーの吸収を行う自己復元ダンパーユニットであって、
下側のはり、
前記下側のはりに対して向かい合わせかつ平行に離された位置に設置される上側のはり、
前記下側のはりの左端と前記上側のはりの左端との間に設置される左側の柱、
前記下側のはりの右端と前記上側のはりの右端との間に設置される右側の柱、
地震エネルギーの吸収のために前記下側のはり、前記上側のはり、前記左側の柱、前記右側の柱により構成されるフレームに設置されるエネルギー吸収装置、
前記左側の柱の上部近傍で前記上側のはりと上端を結合し、前記左側の柱の下部近傍で前記下側のはりと下端を結合する棒材、および
前記右側の柱の上部近傍で前記上側のはりと上端を結合し、前記右側の柱の下部近傍で前記下側のはりと下端を結合する棒材、
を備えることを特徴とする自己復元ダンパーユニット。
【請求項2】
前記左側の柱は、前記左側の棒材により導入される圧縮力により前記上側のはりおよび前記下側のはりと半剛結接合され、
前記右側の柱は、前記右側の棒材により導入される圧縮力により前記上側のはりおよび前記下側のはりと半剛結接合されていることを特徴とする請求項1に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項3】
前記左側の棒材は、前記左側の柱内部に挿入され、
前記右側の棒材は、前記右側の柱内部に挿入されていることを特徴とする請求項2に記載の自己復ダンパーユニット。
【請求項4】
前記左側の一組の棒材は、前記エネルギー吸収装置の挙動を妨げないように前記左側の柱から等しい距離を離した位置に設置され、
前記右側の一組の棒材は、前記エネルギー吸収装置の挙動を妨げないように前記右側の柱から等しい距離を離した位置に設置されていることを特徴とする請求項2に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項5】
前記左側の柱の上端、前記左側の柱の下端、前記右側の柱の上端、前記右側の柱の下端は凸曲面を有し、
前記上側のはり上の左上接触部、前記下側のはり上の左下接触部、前記上側のはり上の右上接触部、前記下側のはり上の右下接触部は凹曲面を有することを特徴とする請求項2に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項6】
前記凸曲面の形状は基本的に半径R1の半球の一部であり、
前記凹曲面の形状は基本的に半径R2の半球の一部であり、
前記半径R2は前記半径R1よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項7】
前記凸曲面は半径R3の円柱の側面であり、
前記凹曲面は半径R4の円柱の側面であり、
前記半径R4は前記半径R3よりも大きいことを特徴とする請求項5に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項8】
前記左側の柱の上端部、前記左側の柱の下端部、前記右側の柱の上端部、および前記右側の柱の下端部は平面であり、
前記上側のはり上の左上接触部、前記下側のはり上の左下接触部、前記上側のはり上の右上接触部、および前記下側のはり上の右下接触部は側面にテーパーを付与した矩形の凹面を有していることを特徴とする請求項2に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項9】
前記エネルギー吸収装置は、第1の軸降伏型ダンパーおよび第2の軸降伏型ダンパーにより構成され、
前記第1軸降伏型ダンパーの片端は、前記上側のはりまたは前記左側の柱のいずれかに結合され、
前記第1軸降伏型ダンパーの他端は、前記下側のはりまたは前記右側の柱のいずれかに結合され、
前記第2軸降伏型ダンパーの片端は、前記上側のはりまたは前記右側の柱のいずれかに結合され、
前記第2軸降伏型ダンパーの他端は、前記下側のはりまたは前記左側の柱のいずれかに結合されていることを特徴とする請求項1に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項10】
前記エネルギー吸収装置は、地震力によりせん断変形する前記フレームにより外周を固定され、前記フレームのせん断変形に伴い変形するせん断パネルを含むことを特徴とする請求項1に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項11】
前記せん断パネルの形状は、前記フレームの内側部分により規定される矩形から4つの角部を切り落とした平面であることを特徴とする請求項10に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項12】
前記左側の柱は凸曲面の形状を有する上端部および下端部を含み、
前記右側の柱は凸曲面の形状を有する上端部および下端部を含み、
前記下側のはりは、前記左端の上面に凹曲面の形状を有する前記左側の柱と接触する左下の接触部と前記右端の上面に凹曲面の形状を有し、前記右側の柱と接触する右下の接触部を含み、
前記上側のはりは、前記左端の下面に凹曲面の形状を有する前記左側の柱と接触する左上の接触部と前記右端の下面に凹曲面の形状を有し、前記左側の柱と接触する右上の接触部を含むことを特徴とする請求項2に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項13】
前記左側の柱の前記上端における前記凸曲面は基本的に半径r1の半球の一部であり、
前記左側の柱の前記下端における前記凸曲面は基本的に半径r2の半球の一部であり、
前記右側の柱の前記下端における前記凸曲面は基本的に半径r3の半球の一部であり、
前記右側の柱の前記下端における前記凸曲面は基本的に半径r4の半球の一部であり、
前記上側のはり上の前記左上の接触部の凹曲面の形状は半径r1よりも大きな半径を有する半球の一部であり、
前記下側のはり上の前記左下の接触部の凹曲面の形状は半径r2よりも大きな半径を有する半球の一部であり、
前記上側のはり上の前記右上の接触部の凹曲面の形状は半径r3よりも大きな半径を有する半球の一部であり、
前記下側のはり上の前記右下の接触部の凹曲面の形状は半径r4よりも大きな半径を有する半球の一部であることを特徴とする請求項12に記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項14】
前記構造物との接合部は、前記左側の柱および前記右側の柱に設けられていることを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1つに記載の自己復元ダンパーユニット。
【請求項15】
前記棒材はPC鋼棒であることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1つに記載の自己復元ダンパーユニット。

【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−214391(P2011−214391A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62309(P2011−62309)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】