説明

自転車用内装変速ハブ及び自転車

【課題】入力要素又は出力要素の切り換えによる変速待ちや変速ショックを抑制する。
【解決手段】ハブ胴16の内部には入力側遊星歯車列20と出力側遊星歯車列18とが配設されている。駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34にのみ入力され、ハブ胴16へ伝達される動力は出力側のキャリア26からのみ出力される。入力側のリングギヤ36と出力側のリングギヤ28とは連結部38により一体的に回転する。入力側のサンギヤ30をハブ軸12に対して固定又は解放することにより動力伝達経路を切り換えるブレーキ40が設けられている。入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とを接続するワンウェイクラッチ42が設けられており、ワンウェイクラッチ42は、入力側のサンギヤ30の回転数が出力側のキャリア26の回転数より遅い場合は切断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動部材からの動力を複数の動力伝達経路に切り換えてハブ胴に伝達する自転車用内装変速ハブ、及びこの自転車用内装変速ハブを備えた自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自転車用内装変速ハブとして、遊星歯車機構を用いたものが知られている。このような自転車用内装変速ハブは、例えば、増減速仕様で多段化する場合、遊星歯車列を2列以上持ち、変速の一部を以下の(1)と(2)の組み合わせで行う構成が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
(1)駆動力の入力要素をキャリアとする場合とリングギヤとする場合とに切り換える切り換え装置を有する。
【0004】
(2)ハブ体への出力要素をキャリアからの場合とリングリヤからの場合とに切り換える切り換え装置を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3184230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、変速を上記(1)と(2)の組み合わせで行う構成では、自転車のペダルを踏んでいるときの変速も含め大トルクの要素を移し換える必要がある。例えば、キャリアに入力していた動力を変速操作でリングギヤに切り換えると、100%の伝達力を移し換えることになるので、変速装置にかかる負荷が大きくなる。このため、変速が上手くいかないと変速待ちが生じ、また、大トルクの要素の移し換えとなるため、変速ショックが生じる場合がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、入力要素又は出力要素の切り換えによる変速待ちや変速ショックを抑制することができる自転車用内装変速ハブ及び自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る自転車用内装変速ハブは、自転車本体に固定されたハブ軸に回転可能に取り付けられた駆動部材と、前記ハブ軸に回転可能に取り付けられ、車輪に回転力を伝えるハブ胴と、前記ハブ胴の内部に設けられ、前記駆動部材からの動力を前記ハブ胴に伝達する遊星歯車機構と、を備える自転車用内装変速ハブであって、前記遊星歯車機構は、前記ハブ軸に外挿される入力側のサンギヤと、前記サンギヤの周囲に配置され前記サンギヤに噛合する複数のピニオンギヤと、前記複数のピニオンギヤを支持する入力側のキャリアと、前記複数のピニオンギヤに噛合する入力側のリングギヤと、を備え、前記駆動部材からの動力が伝達される入力側遊星歯車機構と、前記ハブ軸に外挿される出力側のサンギヤと、前記サンギヤの周囲に配置され前記サンギヤに噛合する複数のピニオンギヤと、前記複数のピニオンギヤを支持する出力側のキャリアと、前記複数のピニオンギヤに噛合する出力側のリングギヤと、を備え、前記ハブ胴へ出力する動力が伝達される出力側遊星歯車機構と、を有し、前記駆動部材からの動力が伝達される前記入力側遊星歯車機構の入力要素を前記入力側のキャリア又は前記入力側のリングギヤに固定すると共に、前記ハブ胴へ出力する動力が伝達される前記出力側遊星歯車機構の出力要素を前記出力側のキャリア又は前記出力側のリングギヤに固定し、前記入力側のリングギヤと前記出力側のリングギヤが一体的に回転するように構成され、前記入力側のサンギヤと前記出力側のキャリアとを接続又は前記入力側のキャリアと前記出力側のサンギヤとを接続するクラッチと、前記入力側遊星歯車機構から前記出力側遊星歯車機構に伝達される動力の伝達経路を複数の動力伝達経路に切り換える動力切り換え手段と、を有している。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、入力側遊星歯車機構の入力要素が固定されており、駆動部材からの動力は入力側のキャリア又は入力側のリングギヤに直接的もしくは間接的に伝達される。入力側のリングギヤと出力側のリングギヤは一体的に回転するように構成されており、入力側のリングギヤの動力は出力側のリングギヤを介して伝達される。また、出力側遊星歯車機構の出力要素が固定されており、出力側のリングギヤに伝達された動力は出力側のキャリア又は出力側のリングギヤを介してハブ胴に直接的もしくは間接的に伝達される。さらに、入力側のサンギヤと出力側のキャリアとを接続又は入力側のキャリアと出力側のサンギヤとを接続するクラッチが設けられている。入力側遊星歯車機構から出力側遊星歯車機構に動力を伝達する複数の動力伝達経路は、動力切り換え手段によって切り換えられる。
【0010】
これによって、例えば、動力切り換え手段により動力の伝達を、「入力側のリングギヤから出力側のリングギヤに伝達される経路の構成」か、「入力側のリングギヤから出力側のリングギヤに伝達される経路と、入力側のサンギヤからクラッチを介して出力側のキャリアに伝達される経路(又は入力側のキャリアからクラッチを介して出力側のサンギヤに伝達される経路)にて動力を分流する構成」に切り換えることができる。
【0011】
このような構成により、入力要素、出力要素を固定した遊星歯車機構で多段化することができ、大トルクの要素を移し換える必要がない。例えば、キャリアに入力していた動力を変速操作でリングギヤに切り換えると、100%の伝達力を移し換えることになるので、変速時の負荷が大きくなるが、本発明では、入力要素、出力要素が固定されているので、変速時の負荷が小さく、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自転車用内装変速ハブにおいて、前記動力切り換え手段は、前記入力側のサンギヤ又は前記出力側のサンギヤの前記ハブ軸への固定及び解放の組み合わせにより複数の動力伝達経路を切り換えるものとする。
【0013】
請求項2に記載の発明では、入力側のサンギヤ又は出力側のサンギヤのハブ軸への固定及び解放の組み合わせにより、動力伝達経路を切り換えるため、入力側のサンギヤ又は出力側のサンギヤの制御のみで変速を行うことができる。入出力要素が固定されていることにより、サンギヤの回転方向を一方向とし、サンギヤを固定するための制御の方向を一方向のみで構成することができる(サンギヤが複数ある場合に全てのサンギヤが同一方向の回転である必要はない。各サンギヤの回転方向が変速によって変わらないことを意味する。)。このため、サンギヤを固定するときに正逆両方向の制御を行う場合に比べると、構成を簡略化することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の自転車用内装変速ハブにおいて、前記駆動部材からの動力は前記入力側のキャリアにのみ入力されると共に、前記ハブ胴へ伝達される動力は前記出力側のキャリアからのみ出力されるものとする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、駆動部材からの動力は入力側のキャリアにのみ入力されると共に、ハブ胴へ伝達される動力は出力側のキャリアからのみ出力される。これによって、例えば、入力側のサンギヤと出力側のキャリアをクラッチで接続する構成とすることにより、入力要素、出力要素を固定した増減速仕様の遊星歯車機構を実現することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の自転車用内装変速ハブにおいて、前記出力側遊星歯車機構を構成する前記複数のピニオンギヤは、歯数の異なるギヤが一体として設けられた段付きピニオンギヤであり、前記段付きピニオンギヤのそれぞれの歯に噛合する出力側のサンギヤが設けられ、前記出力側のリングギヤには前記段付きピニオンギヤの一列が噛合している。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、出力側遊星歯車機構には、段付きピニオンギヤのそれぞれの歯に噛合する出力側のサンギヤが設けられており、出力側のリングギヤには段付きピニオンギヤの一列が噛合している。これによって、入力要素、出力要素を固定した遊星歯車機構で更なる多段化を実現することができる。また、段付きピニオンギヤを用いて変速する場合は、サンギヤの反力が何れかの変速段に集中する可能性があるが、動力の伝達経路の分流を適切に行うことで、このような集中を抑制することができる。また、制御するサンギヤのトルクが大きい場合は、変速操作時にペタリングの踏力を弱める等の必要があるが、本発明では制御するサンギヤのトルクを小さくすることができるため、高負荷時の変速性能が向上し、気持ち良い変速を実現することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の自転車用内装変速ハブにおいて、前記入力側遊星歯車機構を構成する前記複数のピニオンギヤは、歯数の異なるギヤが一体として設けられた段付きピニオンギヤであり、前記段付きピニオンギヤのそれぞれの歯に噛合する入力側のサンギヤが設けられ、前記入力側のリングギヤには前記段付きピニオンギヤの一列が噛合している。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、入力側遊星歯車機構には、段付きピニオンギヤのそれぞれの歯に噛合する入力側のサンギヤが設けられており、入力側のリングギヤには段付きピニオンギヤの一列が噛合している。これによって、入力要素、出力要素を固定した遊星歯車機構で更なる多段化を実現することができる。また、段付きピニオンギヤを用いて変速する場合は、サンギヤの反力が何れかの変速段に集中する可能性があるが、動力の伝達経路の分流を適切に行うことで、このような集中を抑制することができる。また、制御するサンギヤのトルクが大きい場合は、変速操作時にペタリングの踏力を弱める等の必要があるが、本発明では制御するサンギヤのトルクを小さくすることができるため、高負荷時の変速性能が向上し、気持ち良い変速を実現することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明に係る自転車は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の自転車用内装変速ハブを有することを特徴としている。
【0021】
請求項6に記載の発明に係る自転車は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の自転車用内装変速ハブを有しているので、入力要素、出力要素を固定した遊星歯車機構とすることができ、大トルクの要素を移し換える必要がなく、変速ショックを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、入力要素、出力要素を固定した遊星歯車機構とすることができ、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態である自転車用内装変速ハブの1段位の状態を示す構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態である自転車用内装変速ハブの2段位の状態を示す構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態である自転車用内装変速ハブを示すブロック図である。
【図4】自転車用内装変速ハブの1段位におけるトルクフロー図である。
【図5】自転車用内装変速ハブの2段位におけるトルクフロー図である。
【図6】自転車用内装変速ハブの各段位における作動別変速比を示す共線図である。
【図7】本発明の第2実施形態である自転車用内装変速ハブを示す構成図である。
【図8】本発明の第2実施形態である自転車用内装変速ハブを示すブロック図である。
【図9】自転車用内装変速ハブの1段位におけるトルクフロー図である。
【図10】自転車用内装変速ハブの2段位におけるトルクフロー図である。
【図11】自転車用内装変速ハブの3段位におけるトルクフロー図である。
【図12】自転車用内装変速ハブの4段位におけるトルクフロー図である。
【図13】自転車用内装変速ハブの各段位における作動別変速比を示す共線図である。
【図14】本発明の第3実施形態である自転車用内装変速ハブを示す構成図である。
【図15】本発明の第3実施形態である自転車用内装変速ハブを示すブロック図である。
【図16】自転車用内装変速ハブの1段位におけるトルクフロー図である。
【図17】自転車用内装変速ハブの2段位におけるトルクフロー図である。
【図18】自転車用内装変速ハブの3段位におけるトルクフロー図である。
【図19】自転車用内装変速ハブの各段位における作動別変速比を示す共線図である。
【図20】本発明の第4実施形態である自転車用内装変速ハブを示すブロック図である。
【図21】自転車用内装変速ハブの1段位におけるトルクフロー図である。
【図22】自転車用内装変速ハブの2段位におけるトルクフロー図である。
【図23】自転車用内装変速ハブの各段位における作動別変速比を示す共線図である。
【図24】本発明の第5実施形態である自転車用内装変速ハブを示すブロック図である。
【図25】自転車用内装変速ハブの1段位におけるトルクフロー図である。
【図26】自転車用内装変速ハブの2段位におけるトルクフロー図である。
【図27】自転車用内装変速ハブの各段位における作動別変速比を示す共線図である。
【図28】本発明の第6実施形態である自転車用内装変速ハブを示すブロック図である。
【図29】自転車用内装変速ハブの1段位におけるトルクフロー図である。
【図30】自転車用内装変速ハブの2段位におけるトルクフロー図である。
【図31】自転車用内装変速ハブの各段位における作動別変速比を示す共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1〜図6を用いて、本発明の第1実施形態である自転車用内装変速ハブについて説明する。
【0025】
図1には、第1実施形態である自転車用内装変速ハブの模式的な構成図が示されている。また、図3には、自転車用内装変速ハブのブロック図が示されている。なお、図1及び図3等では、自転車用内装変速ハブはハブ軸に対して対称構造であるため、図中下部側を省略している。
【0026】
図1に示されるように、自転車用内装変速ハブ10は、自転車本体としてのフレーム(図示省略)に固定されるハブ軸12と、ハブ軸12に回転可能に取り付けられた駆動部材14と、ハブ軸12の周囲に配置されてハブ軸12に回転可能に取り付けられたハブ胴16と、を備えている。駆動部材14はチェーンホイール14Aを備えており、チェーンホイール14Aに巻き掛けられたチェーン(図示省略)により駆動される。ハブ胴16の内部には、駆動部材14からハブ胴16に至る動力伝達系に出力側遊星歯車機構としての出力側遊星歯車列18と、入力側遊星歯車機構としての入力側遊星歯車列20とが配設されている。
【0027】
図1及び図3に示されるように、出力側遊星歯車列18は、ハブ軸12に外挿される出力側のサンギヤ22(S1)と、このサンギヤ22に噛合する複数のピニオンギヤ24(P1)と、複数のピニオンギヤ24を回転可能に支持する出力側のキャリア26(C1)と、複数のピニオンギヤ24に噛合する出力側のリングギヤ28(R1)と、を備えている。
【0028】
入力側遊星歯車列20は、ハブ軸12に外挿される入力側のサンギヤ30(S2)と、このサンギヤ30に噛合する複数のピニオンギヤ32(P2)と、複数のピニオンギヤ32を回転可能に支持する入力側のキャリア34(C2)と、複数のピニオンギヤ32に噛合する入力側のリングギヤ36(R2)と、を備えている。キャリア34は駆動部材14と連結されており、駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34にのみ入力されるように構成されている。
【0029】
入力側のリングギヤ36と出力側のリングギヤ28とは連結部38により一体的に形成されており、入力側のリングギヤ36と出力側のリングギヤ28とが一体的に回転する構成となっている。
【0030】
また、自転車用内装変速ハブ10は、入力側のサンギヤ30をハブ軸12に対して固定又は解放することにより動力伝達経路を切り換える動力切り換え手段としてのブレーキ40を備えている。図示を省略するが、ブレーキ40は、自転車のハンドルに設けられた変速レバーと操作ワイヤで接続されており、変速レバーの操作によりブレーキ40を動作させ、入力側のサンギヤ30をハブ軸12に対して固定又は解放するように構成されている。本実施形態では、駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34のみに入力されるように構成されているので、入力側のサンギヤ30は一定方向に回転するように設定されており、入力側のサンギヤ30を固定するための制御方向を一方向のみで構成することができる。また、出力側のサンギヤ22はハブ軸12に常時固定されている。
【0031】
さらに、自転車用内装変速ハブ10は、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とを接続するワンウェイクラッチ42を備えている。このワンウェイクラッチ42は、入力側のサンギヤ30の回転数が出力側のキャリア26の回転数より遅い場合は切断されるように構成されている。
【0032】
また、ハブ胴16の内周面と出力側のキャリア26との間にはラチェット44が設けられており、ハブ胴16の内周面のラチェット歯にキャリア26側のラチェット爪が係合するように構成され、ハブ胴16へ伝達される動力は出力側のキャリア26からのみ出力されるように構成されている。
【0033】
この自転車用内装変速ハブ10は、低速と高速の2段変速を行えるようにした内装変速ハブであり、自転車のハンドルに設けられた変速レバー(図示省略)の操作により、低速の1段位(1st)と高速の2段位(2nd)に切り換えられるように構成されている。表1には、各変速段位におけるブレーキ40及びワンウェイクラッチ42の接続状態が示されている。
【0034】
【表1】

【0035】
ワンウェイクラッチ42(OWC2)は、入力側のサンギヤ30の回転が出力側のキャリア26の回転よりも遅い場合は切断される構成であり、表1に示すようにブレーキ40(B2)の固定、解放を制御すればよい。
【0036】
図1、図4及び表1に示されるように、低速の1段位(1st)ではブレーキ40の動作により入力側のサンギヤ30がハブ軸12から解放され、入力側のサンギヤ30が回転可能となるように設定されている。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で接続されており(ロック状態)、入力側のサンギヤ30の動力が出力側のキャリア26に伝達される構成となっている。
【0037】
図2、図5及び表1に示されるように、高速の2段位(2nd)ではブレーキ40の動作により入力側のサンギヤ30がハブ軸12に固定され、サンギヤ30が回転しないように設定されている。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で切断される(フリー状態)。
【0038】
次に、自転車用内装変速ハブ10の動力伝達経路の切り換え、入力側のサンギヤ30の制御及び自転車用内装変速ハブ10の動作について説明する。
【0039】
図1、図4及び表1に示されるように、1段位(1st)ではブレーキ40の動作により入力側のサンギヤ30がハブ軸12から解放され、入力側のサンギヤ30が回転可能となる。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で接続されている(ロック状態)。
【0040】
駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に一定方向に回転する。このとき、出力側のサンギヤ22が固定されているため、キャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32を介して入力側のサンギヤ30が回転すると共に、入力側のサンギヤ30とワンウェイクラッチ42を介して接続された出力側のキャリア26が回転し、キャリア26に支持された複数のピニオンギヤ24が公転する。これと同時に、入力側のキャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32を介して入力側のリングギヤ36が回転し、入力側のリングギヤ36の回転により出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。その際、入力側のサンギヤ30及び出力側のキャリア26と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28は、一定の速度差を保った状態で回転する(図6参照)。
【0041】
すなわち、入力側のキャリア34に入力された動力の伝達経路は、入力側のサンギヤ30から出力側のキャリア26に伝達される経路と、入力側のリングギヤ36と一体的に回転する出力側のリングギヤ28を介して出力側のキャリア26に伝達される経路とに分流される。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達され、ハブ胴16が回転する。
【0042】
図2、図5及び表1に示されるように、2段位(2nd)では、ブレーキ40の動作により入力側のサンギヤ30がハブ軸12に固定され、サンギヤ30が回転しない。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で切断される。駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に一定方向に回転する。サンギヤ30が固定されているため、キャリア34に支持された複数のピニオンギヤ32が公転し、複数のピニオンギヤ32に噛合する入力側のリングギヤ36が回転する。入力側のリングギヤ36の回転により出力側のリングギヤ28は一体的に回転する。出力側のサンギヤ22は常時固定されているため、出力側のリングギヤ28に噛合する複数のピニオンギヤ24が公転し、出力側のキャリア26が回転する。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達され、ハブ胴16が回転する。
【0043】
図6には、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18の作動別変速比を共線図法により作図した図が示されている。サンギヤ22(S1)の歯数をZS1、リングギヤ28(R1)の歯数をZR1とし、α1=ZS1/ZR1とおく。図6では、横軸にサンギヤ22(S1)、キャリア26(C1)、リングギヤ28(R1)を配置して間隔を1:α1とする。縦軸は回転速度を示す。横軸の0より上方はプラスで正転を表す。同様に、サンギヤ30(S2)の歯数をZS2、リングギヤ36(R2)の歯数をZR2とし、α2=ZS2/ZR2とおく。図6では、横軸にサンギヤ30(S2)、キャリア34(C2)、リングギヤ36(R2)を配置して間隔を1:α2とする。その際、リングギヤ28(R1)とリングギヤ36(R2)は一体的に回転するため、横軸の同じ位置となる。また、サンギヤ30(S2)とキャリア26(C1)はワンウェイクラッチ42で接続されるため、横軸の同じ位置となる。
【0044】
2段位(2nd)では、駆動部材14からの動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の入力側のサンギヤ30(S2)をゼロとし、この2点を直線50で結ぶ。この直線50をキャリア34(C2)からの動力伝達経路にしたがって入力側のリングギヤ36(R2)に延長し、この直線50の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)の縦軸の大きさがリングギヤ36(R2)の回転速度となる。入力側のリングギヤ36(R2)と出力側のリングギヤ28(R1)とは一体的に回転するため、出力側のリングギヤ28(R1)の回転速度も同じである。固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、これと出力側のリングギヤ28(R1)の回転速度の2点を直線52で結ぶ。ハブ胴16へ動力が出力されるキャリア26(C1)の縦軸の大きさAが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して増速となる。
【0045】
1段位(1st)では、駆動部材14からの動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、この2点を直線54で結ぶ。キャリア34(C2)からの動力は入力側のサンギヤ30(S2)とワンウェイクラッチ42で接続された出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、入力側のサンギヤ30(S2)の縦軸の大きさがサンギヤ30(S2)の回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさBが出力回転の大きさとなる。また、キャリア34(C2)からの動力は入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、直線54の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさBが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して減速となる。
【0046】
このような自転車用内装変速ハブ10では、入力要素、出力要素を固定した入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18を構成することができ、大トルクの要素を移し換える必要がなく、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。
【0047】
また、入力側のサンギヤ30を固定するための制御の方向を一方向のみで構成することができ、サンギヤを固定するときに正逆両方向の制御を行う場合に比べて、構成を簡略化できる。また、入力側のキャリア34にのみ入力し、出力側のキャリア26のみから出力すると共に、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とをワンウェイクラッチ42で接続することにより、入力要素、出力要素を固定した増減速仕様を実現することができる。なお、分流時には減速となり、それ以外の時は各歯数の設定により減速、等速、増速に設定することができる(第1実施形態では減速仕様)。
【0048】
次に、図7〜図13を用いて、本発明の第2実施形態である自転車用内装変速ハブについて説明する。なお、第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0049】
図7及び図8に示されるように、自転車用内装変速ハブ60は、ハブ胴16の内部に、出力側の遊星歯車機構としての出力側遊星歯車列62と、入力側の遊星歯車機構としての入力側遊星歯車列20と、を備えている。出力側遊星歯車列62に設けられたキャリア26には、複数の段付きピニオンギヤ64が支持されている。段付きピニオンギヤ64は、歯数が異なる小径のギヤ64A(P1a)と大径のギヤ64B(P1b)が一体として設けられたものであり、入力側遊星歯車列20の側に小径のギヤ64Aが配置されている。また、出力側遊星歯車列62には、段付きピニオンギヤ64のそれぞれのギヤ64A、64Bに噛合する2つのサンギヤ66(S1a)、68(S1b)が設けられている。
【0050】
自転車用内装変速ハブ60は、サンギヤ66、68をハブ軸12に対して固定又は解放することにより動力伝達経路を切り換える動力切り換え手段としてのブレーキ70(B1a)、ブレーキ72(B1b)をそれぞれ備えている。
【0051】
この自転車用内装変速ハブ60は、低速から高速までの4段変速を行えるようにした内装変速ハブであり、自転車に設けられた図示しない変速レバーの操作により、低速から高速まで1段位(1st)、2段位(2nd)、3段位(3rd)、4段位(4th)に切り換えられるように構成されている。
【0052】
表2には、各変速段位におけるブレーキ40、70、72及びワンウェイクラッチ42の接続状態が示されている。
【0053】
【表2】

【0054】
ワンウェイクラッチ42(OWC2)は、入力側のサンギヤ30の回転が出力側のキャリア26の回転よりも遅い場合は切断される構成であり、表2に示すようにブレーキ40、70、72の固定、解放を制御すればよい。
【0055】
次に、自転車用内装変速ハブ60の動力伝達経路の切り換え、サンギヤ30、66、68の制御及び自転車用内装変速ハブ60の動作について説明する。
【0056】
図9及び表2に示されるように、1段位(1st)ではブレーキ70の動作により出力側のサンギヤ66がハブ軸12に固定される。また、入力側のサンギヤ30を固定するブレーキ40と出力側のサンギヤ68を固定するブレーキ72がそれぞれ解放される。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で接続されている(ロック状態)。
【0057】
駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に回転する。このとき、出力側のサンギヤ66が固定されているため、キャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32を介して入力側のサンギヤ30が回転すると共に、入力側のサンギヤ30とワンウェイクラッチ42を介して接続された出力側のキャリア26が回転し、キャリア26に支持された複数の段付きピニオンギヤ64が公転する。これと同時に、入力側のキャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32を介して入力側のリングギヤ36と出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。その際、入力側のサンギヤ30及び出力側のキャリア26と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28は、一定の速度差を保った状態で回転する(図13参照)。
【0058】
すなわち、入力側のキャリア34に入力された動力の伝達経路は、入力側のサンギヤ30から出力側のキャリア26に伝達される経路と、入力側のリングギヤ36と一体的に回転する出力側のリングギヤ28を介して出力側のキャリア26に伝達される経路とに分流される。動力伝達経路が分流されることにより、遊星機構の各要素が反力を分担し、反力の集中を抑制することができる。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達される。
【0059】
図10及び表2に示されるように、2段位(2nd)ではブレーキ72の動作により出力側のサンギヤ68がハブ軸12に固定され、サンギヤ68が回転しない。また、サンギヤ30を固定するブレーキ40とサンギヤ66を固定するブレーキ70は解放される。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で接続されている(ロック状態)。
【0060】
駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に回転する。このとき、出力側のサンギヤ68が固定されているため、キャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32を介して入力側のサンギヤ30が回転すると共に、入力側のサンギヤ30とワンウェイクラッチ42を介して接続された出力側のキャリア26が回転し、キャリア26に支持された複数の段付きピニオンギヤ64が公転する。これと同時に、入力側のキャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32を介して入力側のリングギヤ36と出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。その際、入力側のサンギヤ30、出力側のキャリア26と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28は、一定の速度差を保った状態で回転する(図13参照)。
【0061】
すなわち、入力側のキャリア34に入力された動力の伝達経路は、入力側のサンギヤ30から出力側のキャリア26に伝達される経路と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28を介して出力側のキャリア26に伝達される経路とに分流される。動力伝達経路が分流されることにより、遊星機構の各要素が反力を分担し、反力の集中を抑制することができる。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達される。
【0062】
図11及び表2に示されるように、3段位(3rd)ではブレーキ40、70の動作によりサンギヤ30とサンギヤ66がハブ軸12に固定され、サンギヤ30とサンギヤ66が回転しない。また、サンギヤ68を固定するブレーキ72は解放される。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で切断される(フリー状態)。駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に回転する。そして、キャリア34に支持された複数のピニオンギヤ32が公転し、複数のピニオンギヤ32に噛合する入力側のリングギヤ36が出力側のリングギヤ28と一体的に回転する。サンギヤ66は固定されているため、出力側のリングギヤ28に噛合する複数の段付きピニオンギヤ64が公転し、出力側のキャリア26が回転する。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達される。
【0063】
図12及び表2に示されるように、4段位(4th)ではブレーキ40、72の動作により入力側のサンギヤ30と出力側のサンギヤ68がハブ軸12に固定され、サンギヤ30とサンギヤ68が回転しない。また、サンギヤ66を固定するブレーキ70は解放される。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で切断される(フリー状態)。駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に回転する。そして、キャリア34に支持された複数のピニオンギヤ32が公転し、複数のピニオンギヤ32に噛合する入力側のリングギヤ36が出力側のリングギヤ28と一体的に回転する。出力側のサンギヤ68は固定されているため、出力側のリングギヤ28に噛合する複数の段付きピニオンギヤ64が公転し、出力側のキャリア26が回転する。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達される。
【0064】
図13には、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列62の作動別変速比を共線図法により作図した図が示されている。前述した図6と同様に、サンギヤ66(S1a)とリングギヤ28(R1)の歯数の比、サンギヤ68(S1b)とリングギヤ28(R1)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ66(S1a)、サンギヤ68(S1b)、キャリア26(C1)、リングギヤ28(R1)を配置する。同様に、サンギヤ30(S2)とリングギヤ36(R2)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ30(S2)、キャリア34(C2)、リングギヤ36(R2)を配置する。
【0065】
4段位(4th)では、駆動部材14からの動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の入力側のサンギヤ30(S2)をゼロとし、この2点を直線80で結ぶ。この直線80をキャリア34(C2)からの動力伝達経路にしたがって入力側のリングギヤ36(R2)と出力側のリングギヤ28(R1)に延長し、この直線80の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)と出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となる。固定要素の出力側のサンギヤ68(S1b)をゼロとし、これと出力側のリングギヤ28(R1)の回転速度の2点を直線82で結ぶ。ハブ胴16へ動力が出力されるキャリア26(C1)の縦軸の大きさCが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して大幅な増速となる。
【0066】
3段位(3rd)では、同様に固定要素の出力側のサンギヤ66(S1a)をゼロとし、これと出力側のリングギヤ28(R1)の回転速度の2点を直線84で結ぶ。ハブ胴16へ動力が出力されるキャリア26(C1)の縦軸の大きさDが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して増速となる。
【0067】
2段位(2nd)では、駆動部材14からの動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の出力側のサンギヤ68(S1b)をゼロとし、この2点を直線86で結ぶ。キャリア34(C2)からの動力は入力側のサンギヤ30(S2)に伝達され、サンギヤ30(S2)とワンウェイクラッチ42で接続された出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、入力側のサンギヤ30(S2)の縦軸の大きさがサンギヤ30(S2)の回転速度となり、キャリア26(C1)の縦軸の大きさEが出力回転の大きさとなる。また、キャリア34(C2)からの動力は入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、直線86の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさEが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して減速となる。
【0068】
1段位(1st)では、同様に動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の出力側のサンギヤ66(S1a)をゼロとし、この2点を直線88で結ぶ。キャリア34(C2)からの動力は入力側のサンギヤ30(S2)と、サンギヤ30(S2)とワンウェイクラッチ42で接続された出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、入力側のサンギヤ30(S2)の縦軸の大きさがサンギヤ30(S2)の回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさFが出力回転の大きさとなる。また、キャリア34(C2)からの動力は入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、直線88の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)と出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさFが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して大幅な減速となる。
【0069】
このような自転車用内装変速ハブ60では、入力要素、出力要素を固定した構成とすることができ、大トルクの要素を移し換える必要がなく、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。また、サンギヤ30、66、68を固定するための制御の方向を一方向のみで構成することができ、正逆両方向の制御を行う場合に比べてサンギヤ30、66、68を固定、解放する制御が容易であり、構成を簡略化できる。
【0070】
さらに、段付きピニオンギヤ64を用いることで、更なる多段化を実現でき、入力要素、出力要素を固定した増減速仕様を実現することができる。なお、分流時には減速となり、それ以外の時は各歯数の設定により、減速、等速、増速に設定することができる(第2実施形態では増速仕様)。段付きピニオンギヤを用いて変速する場合は、サンギヤの反力が何れかの変速段に集中する可能性があるが、上述のように動力の伝達経路の分流を適切に行うことで、このような集中する抑制することができる。また、制御するサンギヤのトルクが大きい場合は、変速操作時にペタリングの踏力を弱める等の必要があるが、本実施形態では制御するサンギヤ66、68のトルクを小さくすることができるため、高負荷時の変速性能が向上し、気持ち良い変速を実現することができる。
【0071】
次に、図14〜図19を用いて、本発明の第3実施形態である自転車用内装変速ハブについて説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0072】
図14及び図15に示されるように、自転車用内装変速ハブ100は、ハブ胴16の内部に、出力側の遊星歯車機構としての出力側遊星歯車列18と、入力側の遊星歯車機構としての入力側遊星歯車列102と、を備えている。入力側遊星歯車列102に設けられたキャリア34には、複数の段付きピニオンギヤ104が支持されている。複数の段付きピニオンギヤ104は、歯数が異なる小径のギヤ104A(P2a)と大径のギヤ104B(P2b)が一体として設けられたものであり、出力側遊星歯車列18の側に小径のギヤ104Aが配置されている。また、入力側遊星歯車列102には、段付きピニオンギヤ104のそれぞれのギヤ104A、104Bに噛合する2つのサンギヤ106(S2a)、108(S2b)が設けられている。
【0073】
また、自転車用内装変速ハブ100は、サンギヤ106、108をハブ軸12に対して固定又は解放することにより動力伝達経路を切り換える動力切り換え手段としてのブレーキ110(B2a)、ブレーキ112(B2b)をそれぞれ備えている。サンギヤ22はハブ軸12に常時固定されている。ワンウェイクラッチ42は、入力側のサンギヤ106と出力側のキャリア26とを接続又は切断するように構成されている。
【0074】
この自転車用内装変速ハブ10は、低速から高速までの3段変速を行えるようにした内装変速ハブであり、自転車に設けられた図示しない変速レバーの操作により、低速から高速まで1段位(1st)、2段位(2nd)、3段位(3rd)に切り換えられるように構成されている。
【0075】
表3には、各変速段位におけるブレーキ110、112及びワンウェイクラッチ42の接続状態が示されている。
【0076】
【表3】

【0077】
ワンウェイクラッチ42(OWC)は、入力側のサンギヤ106の回転が出力側のキャリア26の回転よりも遅い場合は切断される構成であり、表3に示すようにブレーキ110、112の固定、解放を制御すればよい。
【0078】
次に、自転車用内装変速ハブ100の動力伝達経路の切り換え、サンギヤ106、108の制御及び自転車用内装変速ハブ100の動作について説明する。
【0079】
図16及び表3に示されるように、1段位(1st)ではサンギヤ106を固定するブレーキ110とサンギヤ108を固定するブレーキ112がそれぞれ解放される。この状態では、入力側のサンギヤ106と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で接続されている(ロック状態)。
【0080】
駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に回転する。このとき、出力側のサンギヤ22が固定されているため、キャリア34の回転により複数の段付きピニオンギヤ104を介して入力側のサンギヤ106が回転すると共に、サンギヤ106とワンウェイクラッチ42を介して接続された出力側のキャリア26が回転し、キャリア26に支持された複数のピニオンギヤ24が公転する。これと同時に、入力側のキャリア34の回転により複数の段付きピニオンギヤ104を介して入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28が回転する。その際、入力側のサンギヤ106及び出力側のキャリア26と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28は、一定の速度差を保った状態で回転する(図19参照)。
【0081】
すなわち、入力側のキャリア34に入力された動力の伝達経路は、入力側のサンギヤ106から出力側のキャリア26に伝達される経路と、入力側のリングギヤ36と一体的に回転する出力側のリングギヤ28を介して出力側のキャリア26に伝達される経路とに分流される。動力伝達経路が分流されることにより、遊星機構の各要素が反力を分担し、反力の集中を抑制することができる。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達される。
【0082】
図17及び表3に示されるように、2段位(2nd)では、ブレーキ112が作動してサンギヤ108がハブ軸12に固定され、サンギヤ108が回転しない。また、サンギヤ106を固定するブレーキ110は解放される。この状態では、入力側のサンギヤ106と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で切断される(フリー状態)。駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に回転する。入力側のキャリア34が回転すると、複数の段付きピニオンギヤ104が公転し、ギヤ104Aに噛合する入力側のリングギヤ36が出力側のリングギヤ28と一体的に回転する。さらに出力側のリングギヤ28に噛合する複数のピニオンギヤ24が公転し、出力側のキャリア26が回転することにより、ハブ胴16へ動力が伝達される。
【0083】
図18及び表3に示されるように、3段位(3rd)ではブレーキ110の動作によりサンギヤ106がハブ軸12に固定され、サンギヤ106が回転しない。また、サンギヤ108を固定するブレーキ112は解放される。この状態では、入力側のサンギヤ106と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で切断される(フリー状態)。駆動部材14からの動力は入力側のキャリア34に入力され、キャリア34がハブ軸12を中心に回転する。そして、キャリア34に支持された複数の段付きピニオンギヤ104が公転し、ギヤ104Aに噛合する入力側のリングギヤ36が出力側のリングギヤ28と一体的に回転する。サンギヤ22は固定されているため、出力側のリングギヤ28に噛合する複数のピニオンギヤ24が公転し、出力側のキャリア26が回転する。そして、出力側のキャリア26からラチェット44を介してハブ胴16へ動力が伝達される。
【0084】
図19には、入力側遊星歯車列102及び出力側遊星歯車列18の作動別変速比を共線図法により作図した図が示されている。前述した図6と同様に、サンギヤ22(S1)とリングギヤ28(R1)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ22(S1)、キャリア26(C1)、リングギヤ28(R1)を配置する。同様に、サンギヤ106(S2a)とリングギヤ36(R2)の歯数の比、サンギヤ108(S2b)とリングギヤ36(R2)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ108(S2b)、サンギヤ106(S2a)、キャリア34(C2)、リングギヤ36(R2)を配置する。
【0085】
3段位(3rd)では、動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の入力側のサンギヤ106(S2a)をゼロとし、この2点を直線120で結ぶ。この直線120の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)と出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となる。固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、これと出力側のリングギヤ28(R1)の回転速度の2点を直線122で結ぶ。動力が出力されるキャリア26(C1)の縦軸の大きさGが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して大幅な増速となる。
【0086】
2段位(2nd)では、同様にキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の入力側のサンギヤ108(S2b)をゼロとし、この2点を直線124で結ぶ。同様に固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、これと出力側のリングギヤ28(R1)の回転速度の2点を直線126で結ぶ。動力が出力されるキャリア26(C1)の縦軸の大きさHが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して増速となる。
【0087】
1段位(1st)では、動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、この2点を直線128で結ぶ。キャリア34(C2)からの動力は入力側のサンギヤ106(S2a)に伝達され、サンギヤ106(S2a)とワンウェイクラッチ42で接続された出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、サンギヤ106(S2a)の縦軸の大きさがその回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさIが出力回転の大きさとなる。また、キャリア34(C2)からの動力は入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、直線128の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)と出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさIが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して減速となる。
【0088】
このような自転車用内装変速ハブ100では、入力要素、出力要素を固定した構成とすることができ、大トルクの要素を移し換える必要がなく、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。また、サンギヤ106、108を固定するための制御の方向を一方向のみで構成することができ、正逆両方向の制御を行う場合に比べてサンギヤ106、108を固定、解放する制御が容易であり、構成を簡略化できる。
【0089】
さらに、段付きピニオンギヤ104を用いることで、多段化を実現でき、入力要素、出力要素を固定した増減速仕様を実現することができる。段付きピニオンギヤを用いて変速する場合は、サンギヤの反力が何れかの変速段に集中する可能性があるが、上述のように動力の伝達経路の分流を適切に行うことで、このような集中する抑制することができる。また、制御するサンギヤのトルクが大きい場合は、変速操作時にペタリングの踏力を弱める等の必要があるが、本実施形態では制御するサンギヤ106、108のトルクを小さくすることができるため、高負荷時の変速性能が向上し、気持ち良い変速を実現することができる。
【0090】
次に、図20〜図23を用いて、本発明の第4実施形態である自転車用内装変速ハブについて説明する。なお、第1実施形態〜第3実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0091】
図20に示されるように、自転車用内装変速ハブ140は、第1実施形態と同様に入力側遊星歯車列20と出力側遊星歯車列18とを備えている。出力側遊星歯車列18には、出力側のサンギヤ22をハブ軸12に対して固定又は解放することにより動力伝達経路を切り換える動力切り換え手段としてのブレーキ142(B1)が設けられている。入力側のサンギヤ30はハブ軸12に対して固定されている。
【0092】
また、自転車用内装変速ハブ140は、入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とを接続又は切断するクラッチ144(C(S1/C2))を備えている。クラッチ144は、第1実施形態で用いられたワンウェイクラッチではなく、オン・オフ操作により入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とを接続・切断する構成である。
【0093】
この自転車用内装変速ハブ140は、低速と高速の2段変速を行えるようにした内装変速ハブであり、自転車に設けられた図示しない変速レバーの操作により、1段位(1st)、2段位(2nd)に切り換えるように構成されている。表4には、各変速段位におけるブレーキ142及びクラッチ144の接続状態が示されている。
【0094】
【表4】

【0095】
次に、自転車用内装変速ハブ140の動力伝達経路の切り換え、サンギヤ22の制御及び自転車用内装変速ハブ140の動作について説明する。
【0096】
図21及び表4に示されるように、1段位(1st)ではブレーキ142の動作により出力側のサンギヤ22がハブ軸12に固定される。また、この状態では、クラッチ144がオフ状態とされ、入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とが切断されている(フリー状態)。
【0097】
駆動部材14(図1参照)からの動力は入力側のキャリア34に入力される。そして、キャリア34に支持された複数のピニオンギヤ32(図1参照)を介して入力側のリングギヤ36が回転し、入力側のリングギヤ36の回転により出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。さらに、出力側のリングギヤ28に噛合する複数のピニオンギヤ24(図1参照)を介して出力側のキャリア26が回転し、ハブ胴16(図1参照)へ動力が伝達される。
【0098】
図22及び表4に示されるように、2段位(2nd)では、出力側のサンギヤ22を固定するブレーキ142が解放される。この状態では、クラッチ144がオン状態とされ、入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とが接続されている(ロック状態)。
【0099】
駆動部材14(図1参照)からの動力は入力側のキャリア34に入力される。キャリア34の回転により、キャリア34とクラッチ144を介して接続された出力側のサンギヤ22が回転し、出力側のサンギヤ22と噛合する複数のピニオンギヤ24(図1参照)を介して出力側のキャリア26が回転する。これと同時に、入力側のキャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32(図1参照)を介して入力側のリングギヤ36が回転し、出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。その際、入力側のキャリア34及び出力側のサンギヤ22と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28は、一定の速度差を保った状態で回転する(図23参照)。
【0100】
すなわち、入力側のキャリア34に入力された動力の伝達経路は、出力側のサンギヤ22を介して出力側のキャリア26に伝達される経路と、入力側のリングギヤ36と一体的に回転する出力側のリングギヤ28を介して出力側のキャリア26に伝達される経路とに分流される。動力伝達経路が分流されることにより、遊星機構の各要素が反力を分担し、反力の集中を抑制することができる。そして、出力側のキャリア26からハブ胴16(図1参照)へ動力が伝達される。
【0101】
図23には、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18の作動別変速比を共線図法により作図した図が示されている。前述した図6と同様に、サンギヤ30(S2)とリングギヤ36(R2)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ6サンギヤ30(S2)、キャリア34(C2)、リングギヤ36(R2)を配置すると共に、サンギヤ22(S1)とリングギヤ28(R1)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ22(S1)、キャリア26(C1)、リングギヤ28(R1)を配置する。また、サンギヤ22(S1)とキャリア34(C2)はクラッチ144で接続されるため、横軸の同じ位置となる。
【0102】
2段位(2nd)では、動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の入力側のサンギヤ30(S2)をゼロとし、この2点を直線150で結ぶ。キャリア34(C2)からの動力は入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、直線150の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさJが出力回転の大きさとなる。また、キャリア34(C2)からの動力はキャリア34(C2)とクラッチ144で接続された出力側のサンギヤ22(S1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、出力側のサンギヤ22(S1)の縦軸の大きさがその回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさJが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して増速となる。
【0103】
1段位(1st)では、固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、これと出力側のリングギヤ28(R1)の回転速度の2点を直線152で結ぶ。動力は出力側のリングギヤ28(R1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、動力が出力されるキャリア26(C1)の縦軸の大きさKが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して減速となる。
【0104】
このような自転車用内装変速ハブ140では、入力要素、出力要素を固定した入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18を構成することができ、大トルクの要素を移し換える必要がなく、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。また、出力側のサンギヤ22を固定するための制御の方向を一方向のみで構成することができ、サンギヤを固定するときに正逆両方向の制御を行う場合に比べて、構成を簡略化できる。また、入力側のキャリア34にのみ入力し、出力側のキャリア26のみから出力すると共に、入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とをクラッチ144で接続することにより、入力要素、出力要素を固定した増減速仕様を実現することができる。なお、分流時には増速となり、それ以外の時は各歯数の設定により減速、等速、増速に設定することができる(第4実施形態では減速仕様)。
【0105】
なお、自転車用内装変速ハブ140において、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18の少なくとも一方に段付きピニオンギヤを設けることにより、更なる多段化を実現でき、入力要素、出力要素を固定した増減速仕様を実現することができる。
【0106】
次に、図24〜図27を用いて、本発明の第5実施形態である自転車用内装変速ハブについて説明する。なお、第1実施形態〜第4実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0107】
図24に示されるように、自転車用内装変速ハブ160は、第1実施形態と同様に入力側遊星歯車列20と出力側遊星歯車列18とを備えており、入力側のサンギヤ30、出力側のサンギヤ22をハブ軸12に対して固定又は解放することにより動力伝達経路を切り換える動力切り換え手段としてのブレーキ162(B2)、ブレーキ142(B1)が設けられている。
【0108】
自転車用内装変速ハブ160は、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26を接続又は切断するワンウェイクラッチ42(OWC)を備えている。ワンウェイクラッチ42は第1実施形態と同じ構成である。また、自転車用内装変速ハブ160は、駆動部材14(図1参照)からの動力は入力側のキャリア34のみに入力され、出力側のリングギヤ28のみからハブ胴16(図1参照)へ動力が出力されるように構成されている。
【0109】
この自転車用内装変速ハブ160は、低速と高速の2段変速を行えるようにした内装変速ハブであり、図示しない変速レバーの操作により、1段位(1st)、2段位(2nd)に切り換えるように構成されている。表5には、各変速段位におけるブレーキ142、162及びワンウェイクラッチ42の接続状態が示されている。
【0110】
【表5】

【0111】
次に、自転車用内装変速ハブ160の動力伝達経路の切り換え、サンギヤ22、30の制御及び自転車用内装変速ハブ160の動作について説明する。
【0112】
図25及び表5に示されるように、1段位(1st)ではブレーキ142、162の動作により出力側のサンギヤ22がハブ軸12に固定され、入力側のサンギヤ30がハブ軸12から解放される。また、この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42で接続されている(ロック状態)。
【0113】
駆動部材14(図1参照)からの動力が入力側のキャリア34に入力されると、入力側のキャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32(図1参照)を介して入力側のリングギヤ36と出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。これと同時に、入力側のキャリア34の回転により複数のピニオンギヤ32(図1参照)を介して入力側のサンギヤ30が回転し、サンギヤ30とワンウェイクラッチ42を介して接続された出力側のキャリア26が回転する。さらに複数のピニオンギヤ24(図1参照)を介して出力側のリングギヤ28に動力が伝達される。その際、入力側のサンギヤ30及び出力側のキャリア26と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28は、一定の速度差を保った状態で回転する(図27参照)。
【0114】
すなわち、入力側のキャリア34に入力された動力の伝達経路は、入力側のリングギヤ36と一体的に回転する出力側のリングギヤ28に伝達される経路と、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26を介して出力側のリングギヤ28に伝達される経路とに分流される。動力伝達経路が分流されることにより、遊星機構の各要素が反力を分担し、反力の集中を抑制することができる。そして、出力側のリングギヤ28からハブ胴16(図1参照)へ動力が伝達される。
【0115】
図26及び表5に示されるように、2段位(2nd)では、ブレーキ142、162の動作により入力側のサンギヤ30がハブ軸12に固定され、出力側のサンギヤ22がハブ軸12から解放される。この状態では、入力側のサンギヤ30と出力側のキャリア26とがワンウェイクラッチ42により切断されている(フリー状態)。
【0116】
駆動部材14(図1参照)からの動力が入力側のキャリア34に入力されると、複数のピニオンギヤ32(図1参照)を介して入力側のリングギヤ36が回転し、出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。そして、出力側のリングギヤ28からハブ胴16(図1参照)へ動力が伝達される。
【0117】
図27には、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18の作動別変速比を共線図法により作図した図が示されている。前述した図6と同様に、サンギヤ22(S1)とリングギヤ28(R1)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ22(S1)、キャリア26(C1)、リングギヤ28(R1)を配置すると共に、サンギヤ30(S2)とリングギヤ36(R2)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ30(S2)、キャリア(C2)、リングギヤ36(R2)を配置する。また、サンギヤ30(S2)とキャリア26(C1)はワンウェイクラッチ42で接続されるため、横軸の同じ位置となる。
【0118】
2段位(2nd)では、動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の入力側のサンギヤ30(S2)をゼロとし、この2点を直線170で結ぶ。キャリア34(C2)からの動力は入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)に伝達されるため、直線170の延長線上の入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさLが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して大幅な増速となる。
【0119】
1段位(1st)では、動力が入力されるキャリア34(C2)の回転を1とし、固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、この2点を直線172で結ぶ。キャリア34(C2)からの動力は入力側のリングギヤ36(R2)及び出力側のリングギヤ28(R1)に伝達されるため、直線172の延長線上の出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさMが出力回転の大きさとなる。また、キャリア34(C2)からの動力はサンギヤ30(S2)とワンウェイクラッチ42で接続された出力側のキャリア26(C1)を介して出力側のリングギヤ28(R1)に伝達されるため、サンギヤ30(S2)と出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさがそれらの回転速度となり、出力側のリングギヤ28(R1)の縦軸の大きさMが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して増速となる。
【0120】
このような自転車用内装変速ハブ160では、入力要素、出力要素を固定した入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18を構成することができ、大トルクの要素を移し換える必要がなく、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。また、サンギヤ22、30を固定するための制御の方向を一方向のみで構成することができ、サンギヤを固定するときに正逆両方向の制御を行う場合に比べて、構成を簡略化できる。なお、分流時およびそれ以外のときも増速となる。
【0121】
なお、自転車用内装変速ハブ160において、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18の少なくとも一方に段付きピニオンギヤを設けることにより、更なる多段化を実現できる。
【0122】
次に、図28〜図31を用いて、本発明の第6実施形態である自転車用内装変速ハブについて説明する。なお、第1実施形態〜第5実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0123】
図28に示されるように、自転車用内装変速ハブ180は、第1実施形態と同様に入力側遊星歯車列20と出力側遊星歯車列18とを備えており、入力側のサンギヤ30、出力側のサンギヤ22をハブ軸12に対して固定又は解放することにより動力伝達経路を切り換える動力切り換え手段としてのブレーキ162(B2)、ブレーキ142(B1)が設けられている。
【0124】
自転車用内装変速ハブ180は、入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とを接続又は切断するクラッチ144を備えている。また、自転車用内装変速ハブ180は、駆動部材14(図1参照)からの動力は入力側のリングギヤ36のみに入力され、出力側のキャリア26のみからハブ胴16(図1参照)へ動力が出力されるように構成されている。
【0125】
この自転車用内装変速ハブ180は、低速と高速の2段変速を行えるようにした内装変速ハブであり、図示しない変速レバーの操作により、1段位(1st)、2段位(2nd)に切り換えるように構成されている。表6には、各変速段位におけるブレーキ142、162及びクラッチ144の接続状態が示されている。
【0126】
【表6】

【0127】
次に、自転車用内装変速ハブ180の動力伝達経路の切り換え、サンギヤ22、30の制御及び自転車用内装変速ハブ180の動作について説明する。
【0128】
図29及び表6に示されるように、1段位(1st)ではブレーキ142、162の動作により出力側のサンギヤ22がハブ軸12に固定され、入力側のサンギヤ30がハブ軸12から解放される。また、クラッチ144はオフ状態とされ、入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とが切断されている(フリー状態)。
【0129】
駆動部材14(図1参照)からの動力が入力側のリングギヤ36に入力されると、出力側のリングギヤ28が一体的に回転する。さらに、出力側のリングギヤ28に噛合する複数のピニオンギヤ24(図1参照)を介して出力側のキャリア26が回転し、ハブ胴16(図1参照)へ動力が伝達される。
【0130】
図30及び表6に示されるように、2段位(2nd)では、ブレーキ142、162の動作により入力側のサンギヤ30がハブ軸12に固定され、出力側のサンギヤ22がハブ軸12から解放される。また、クラッチ144はオン状態とされ、入力側のキャリア34と出力側のサンギヤ22とが接続されている(ロック状態)。
【0131】
駆動部材14(図1参照)からの動力が入力側のリングギヤ36に入力されると、複数のピニオンギヤ32(図1参照)を介して入力側のキャリア34が回転し、キャリア34とクラッチ144を介して接続された出力側のサンギヤ22が回転し、複数のピニオンギヤ24(図1参照)を介して出力側のキャリア26が回転する。これと同時に、入力側のリングギヤ36の回転により出力側のリングギヤ28が一体的に回転し、複数のピニオンギヤ24(図1参照)を介して出力側のキャリア26に動力が伝達される。その際、入力側のキャリア34及び出力側のサンギヤ22と、入力側のリングギヤ36及び出力側のリングギヤ28は、一定の速度差を保った状態で回転する(図31参照)。
【0132】
すなわち、入力側のリングギヤ36に入力された動力の伝達経路は、入力側のキャリア34から出力側のサンギヤ22を介して出力側のキャリア26に伝達される経路と、出力側のリングギヤ28を介して出力側のキャリア26に伝達される経路とに分流される。動力伝達経路が分流されることにより、遊星機構の各要素が反力を分担し、反力の集中を抑制することができる。そして、出力側のキャリア26からハブ胴16(図1参照)へ動力が伝達される。
【0133】
図31には、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18の作動別変速比を共線図法により作図した図が示されている。前述した図6と同様に、サンギヤ30(S2)とリングギヤ36(R2)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ30(S2)、キャリア(C2)、リングギヤ36(R2)を配置すると共に、サンギヤ22(S1)とリングギヤ28(R1)の歯数の比に基づき、横軸にサンギヤ22(S1)、キャリア26(C1)、リングギヤ28(R1)を配置する。また、キャリア34(C2)とサンギヤ22(S1)はクラッチ144で接続されるため、横軸の同じ位置となる。
【0134】
2段位(2nd)では、動力が入力されるリングギヤ36(R2)の回転を1とし、固定要素の入力側のサンギヤ30(S2)をゼロとし、この2点を直線190で結ぶ。この直線190の出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさNが出力回転の大きさとなる。また、リングギヤ36(R2)からの動力はキャリア34(C2)から出力側のサンギヤ22(S1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、キャリア34(C2)とサンギヤ22(S1)の縦軸の大きさがこれらの回転速度となり、出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさNが出力回転の大きさとなる。これは入力に対して減速となる。
【0135】
1段位(1st)では、動力が入力されるリングギヤ36(R2)の回転を1とし、固定要素の出力側のサンギヤ22(S1)をゼロとし、この2点を直線192で結ぶ。リングギヤ36(R2)からの動力は出力側のリングギヤ28(R1)を介して出力側のキャリア26(C1)に伝達されるため、直線192の出力側のキャリア26(C1)の縦軸の大きさOが出力回転の大きさとなる。これは入力に対し大幅な減速となる。
【0136】
このような自転車用内装変速ハブ180では、入力要素、出力要素を固定した入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18を構成することができ、大トルクの要素を移し換える必要がなく、変速待ちや変速ショックを抑制することができる。また、サンギヤ22、30を固定するための制御の方向を一方向のみで構成することができ、サンギヤを固定するときに正逆両方向の制御を行う場合に比べて、構成を簡略化できる。なお、分流時およびそれ以外のときも減速となる。
【0137】
なお、自転車用内装変速ハブ180において、入力側遊星歯車列20及び出力側遊星歯車列18の少なくとも一方に段付きピニオンギヤを設けることにより、更なる多段化を実現できる。
【0138】
なお、上記第1実施形態〜第6実施形態に記載の自転車用内装変速ハブの作動別変速比は、図示した共線図に限定されるものではなく、サンギヤ、リングギヤ、ピニオンギヤの歯数を適宜に変更することができる。
【符号の説明】
【0139】
10 自転車用内装変速ハブ
12 ハブ軸
14 駆動部材
16 ハブ胴
18 出力側遊星歯車列(出力側遊星歯車機構)
20 入力側遊星歯車列(出力側遊星歯車機構)
22 出力側のサンギヤ
24 ピニオンギヤ
26 出力側のキャリア
28 出力側のリングギヤ
30 入力側のサンギヤ
32 ピニオンギヤ
34 入力側のキャリア
36 入力側のリングギヤ
40 ブレーキ(動力切り換え手段)
42 ワンウェイクラッチ(クラッチ)
60 自転車用内装変速ハブ
62 出力側遊星歯車列(出力側遊星歯車機構)
64 段付きピニオンギヤ
66 出力側のサンギヤ
68 出力側のサンギヤ
70 ブレーキ(動力切り換え手段)
72 ブレーキ(動力切り換え手段)
100 自転車用内装変速ハブ
102 入力側遊星歯車列(入力側遊星歯車機構)
104 段付きピニオンギヤ
106 入力側のサンギヤ
108 入力側のサンギヤ
110 ブレーキ(動力切り換え手段)
112 ブレーキ(動力切り換え手段)
140 自転車用内装変速ハブ
142 ブレーキ(動力切り換え手段)
144 クラッチ
160 自転車用内装変速ハブ
162 ブレーキ(動力切り換え手段)
180 自転車用内装変速ハブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車本体に固定されたハブ軸に回転可能に取り付けられた駆動部材と、
前記ハブ軸に回転可能に取り付けられ、車輪に回転力を伝えるハブ胴と、
前記ハブ胴の内部に設けられ、前記駆動部材からの動力を前記ハブ胴に伝達する遊星歯車機構と、を備える自転車用内装変速ハブであって、
前記遊星歯車機構は、
前記ハブ軸に外挿される入力側のサンギヤと、前記サンギヤの周囲に配置され前記サンギヤに噛合する複数のピニオンギヤと、前記複数のピニオンギヤを支持する入力側のキャリアと、前記複数のピニオンギヤに噛合する入力側のリングギヤと、を備え、前記駆動部材からの動力が伝達される入力側遊星歯車機構と、
前記ハブ軸に外挿される出力側のサンギヤと、前記サンギヤの周囲に配置され前記サンギヤに噛合する複数のピニオンギヤと、前記複数のピニオンギヤを支持する出力側のキャリアと、前記複数のピニオンギヤに噛合する出力側のリングギヤと、を備え、前記ハブ胴へ出力する動力が伝達される出力側遊星歯車機構と、を有し、
前記駆動部材からの動力が伝達される前記入力側遊星歯車機構の入力要素を前記入力側のキャリア又は前記入力側のリングギヤに固定すると共に、前記ハブ胴へ出力する動力が伝達される前記出力側遊星歯車機構の出力要素を前記出力側のキャリア又は前記出力側のリングギヤに固定し、
前記入力側のリングギヤと前記出力側のリングギヤが一体的に回転するように構成され、
前記入力側のサンギヤと前記出力側のキャリアとを接続又は前記入力側のキャリアと前記出力側のサンギヤとを接続するクラッチと、
前記入力側遊星歯車機構から前記出力側遊星歯車機構に伝達される動力の伝達経路を複数の動力伝達経路に切り換える動力切り換え手段と、
を有する自転車用内装変速ハブ。
【請求項2】
前記動力切り換え手段は、前記入力側のサンギヤ又は前記出力側のサンギヤの前記ハブ軸への固定及び解放の組み合わせにより動力伝達経路を切り換える請求項1に記載の自転車用内装変速ハブ。
【請求項3】
前記駆動部材からの動力は前記入力側のキャリアにのみ入力されると共に、前記ハブ胴へ伝達される動力は前記出力側のキャリアからのみ出力される請求項1又は請求項2に記載の自転車用内装変速ハブ。
【請求項4】
前記出力側遊星歯車機構を構成する前記複数のピニオンギヤは、歯数の異なるギヤが一体として設けられた段付きピニオンギヤであり、
前記段付きピニオンギヤのそれぞれの歯に噛合する出力側のサンギヤが設けられ、
前記出力側のリングギヤには前記段付きピニオンギヤの一列が噛合する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の自転車用内装変速ハブ。
【請求項5】
前記入力側遊星歯車機構を構成する前記複数のピニオンギヤは、歯数の異なるギヤが一体として設けられた段付きピニオンギヤであり、
前記段付きピニオンギヤのそれぞれの歯に噛合する入力側のサンギヤが設けられ、
前記入力側のリングギヤには前記段付きピニオンギヤの一列が噛合する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の自転車用内装変速ハブ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の自転車用内装変速ハブを有することを特徴とする自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2010−188956(P2010−188956A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37811(P2009−37811)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000112978)ブリヂストンサイクル株式会社 (78)
【Fターム(参考)】