説明

航空燃料油基材の製造方法および航空燃料油組成物

【課題】航空燃料油基材収率が高く、低温性能に優れた動植物油由来の航空燃料油基材の製造方法を提供する。
【解決手段】水素の存在下、異なる脂肪酸組成を有する2種類以上の動植物油脂の混合物、及び含硫黄炭化水素化合物を含有する原料油を水素化処理する第一の工程と、第一の工程で得られた水素化処理油を水素の存在下、水素化異性化処理する第二の工程とを含み、前記動植物油脂の混合物において、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の合計量が50〜70質量%であり、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ脂肪酸組成合計量を100としたときの炭素数11、炭素数13、炭素数15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の割合が10〜60であることを特徴とする航空燃料油基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空燃料油基材の製造方法および航空燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の防止対策としてバイオマスのもつエネルギーの有効利用に注目が集まっている。その中でも植物由来のバイオマスエネルギーは、植物の成長過程で光合成により大気中の二酸化炭素から固定化された炭素を有効利用できるため、ライフサイクルの観点からすると大気中の二酸化炭素の増加につながらない、所謂カーボンニュートラルという性質を持つ。
航空機燃料の分野においても、バイオマス由来の燃料油を利用できれば二酸化炭素の排出量削減に有効な役割を果たすと考えられる。動植物油を利用した燃料油としては、一般的には脂肪酸メチルエステル油(Fatty Acid Methyl Ester の頭文字から「FAME」と略称される。)が知られている。FAMEは動植物油の一般的な構造であるトリグリセリドを、アルカリ触媒等の作用によりメタノールとエステル交換反応に供することで製造される。
しかしながら、FAMEを製造するプロセスにおいては、下記特許文献1に記載されている通り、副生するグリセリンの処理が必要であり、また生成油の洗浄などにコストやエネルギーを要する等の問題が指摘されている。
また、FAMEは1分子中に2つの酸素原子を有することから、燃料としては極めて高い酸素含有量となり、従来の石油由来のディーゼル燃料に配合して使用する場合においてもなお、この酸素分がエンジン材質に与える悪影響が懸念されるとの問題もある。
そこで、動植物に由来する含酸素炭化水素化合物を含む原料油を水素化触媒の存在下に水素化脱酸素処理して、実質的に酸素を含まない炭化水素からなる燃料油を製造する方法が検討されている(例えば、特許文献1および2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−171670号公報
【特許文献2】特開2007−308563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の製造方法の場合、以下の点で改善の余地がある。
すなわち、動植物油に含まれる脂肪酸はその動植物固有の炭素数を有しているため、原料とする動植物油に含まれる脂肪酸の炭素数に偏りがある。そして、脂肪酸の炭素数に偏りのある動植物油を原料油として水素化処理を行った場合、得られる航空燃料油基材も偏った炭素数を有することとなる。偏った炭素数を有する航空燃料油基材は、基材単独で用いた場合でも、連続的な炭素数分布を有する石油由来の航空燃料油基材と混合して用いた場合でも、従来の連続的な炭素数分布を有する航空燃料油基材と比較して析出点が高く、航空燃料油の低温性能を悪化させる懸念がある。
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、航空燃料油基材収率が高く、低温性能に優れた動植物油由来の航空燃料油基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、水素の存在下、異なる脂肪酸組成を有する2種類以上の動植物油脂の混合物、及び含硫黄炭化水素化合物を含有する原料油を水素化処理する第一の工程と、第一の工程で得られた水素化処理油を水素の存在下、水素化異性化処理する第二の工程とを含み、前記動植物油脂の混合物において、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の合計量が50〜70質量%であり、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ脂肪酸組成合計量を100としたときの炭素数11、炭素数13、炭素数15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の割合が10〜60であることを特徴とする航空燃料油基材の製造方法に関する。
【0006】
また本発明は、前記第一の工程が、水素の存在下、異なる脂肪酸組成を有する2種類以上の動植物油脂の混合物、及び含硫黄炭化水素化合物を含有する原料油を、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒を用い、水素圧力2〜13MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素/油比150〜1500NL/L、反応温度150〜480℃の条件下で前記原料油を水素化処理し、得られた被処理物から水素、硫化水素、二酸化炭素及び水を除去して水素化処理油を得る工程を含むことを特徴とする前記記載の航空燃料油基材の製造方法に関する。
【0007】
また本発明は、前記第二の工程が、前記第一の工程で得られた水素化処理油を、さらに、水素存在下、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウム及びゼオライトから選ばれる物質より構成される多孔性無機酸化物からなる担体に周期表第8族の元素から選ばれる金属を担持してなる触媒を用いて、水素圧力2〜10MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素/油比100〜1500NL/L、反応温度250〜330℃の条件下で水素化異性化処理する工程であることを特徴とする前記記載の航空燃料油基材の製造方法に関する。
【0008】
さらに本発明は、前記の製造方法で製造された航空燃料油基材を含有する航空燃料油組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、異なる脂肪酸組成を持つ2種類以上の動植物油脂の混合物を原料として用い、基材収率が高く、低温性能に優れた動植物油由来の航空燃料油基材の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の航空燃料油基材の製造方法においては、異なる脂肪酸組成を有する2種類以上の動植物油脂の混合物、及び含硫黄炭化水素化合物を原料油として用いる。
【0011】
動植物油脂とは、動物油および/または植物油に由来する油脂であり、動物油としては、牛脂、牛乳脂質(バター)、豚脂、羊脂、鯨油、魚油、肝油等が挙げられ、植物油としては、ココヤシ、パームヤシ、オリーブ、べにばな、菜種(菜の花)、米ぬか、ひまわり、綿実、とうもろこし、大豆、ヤトロファ、ごま、アマニ、藻類等の種子部及びその他の部分、特定の微細藻類が生産する油脂類または炭化水素等が挙げられる。特定の微細藻類とは、体内の栄養分の一部を炭化水素または油脂の形に変換する性質を有する藻類を意味し、例えば、クロレラ、イカダモ、スピルリナ、ユーグレナ、ボツリオコッカスブラウニー、シュードコリシスチスエリプソイディアを挙げることが出来る。クロレラ、イカダモ、スピルリナ、ユーグレナは油脂類を、ボツリオコッカスブラウニー、シュードコリシスチスエリプソイディアは炭化水素を生産することが知られている。本発明では、これらの動植物油脂から選ばれる2種類以上の混合物を用いる。
【0012】
これらの動植物油脂は、主に脂肪酸トリグリセリドであり、これらの脂肪酸トリグリセリドを構成する脂肪酸の代表的例としては、飽和脂肪酸と称する分子構造中に不飽和結合を有しない脂肪酸である酪酸(CCOOH)、カプロン酸(C11COOH)、カプリル酸(C15COOH)、カプリン酸(C19COOH)、ラウリン酸(C1123COOH)、ミリスチン酸(C1327COOH)、パルミチン酸(C1531COOH)、ステアリン酸(C1735COOH)、及び不飽和結合を1つもしくは複数有する不飽和脂肪酸であるオレイン酸(C1733COOH)、リノール酸(C1731COOH)、リノレン酸(C1729COOH)、リシノレン酸(C1732(OH)COOH)等が挙げられる。
【0013】
動植物油脂は、各動植物固有の脂肪酸組成を有しており、例えばパーム油は主にパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸からなり、ココナッツ油は主にラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸からなる。
したがって、単一の動植物油脂を水素化処理して得られる炭化水素は偏った炭素数分布になり好ましくない。そこで、本発明では炭素数分布の偏りを小さくするため、2種類以上の動植物油脂を混合し、その混合物において、全脂肪酸組成に対する炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の合計量が50〜70質量%であり、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ脂肪酸組成合計量を100としたときの炭素数11、炭素数13、炭素数15の脂肪酸炭素鎖を持つ各々の脂肪酸組成の割合を10〜60とすることが重要である。
炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の合計量が50質量%未満の場合は航空燃料油基材となる留分が少なくなるため好ましくなく、70質量%を超えると混合物中の脂肪酸の炭素数分布の偏りが大きくなり好ましくない。
また、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ脂肪酸組成合計量を100としたときの炭素数11、炭素数13、炭素数15の脂肪酸炭素鎖を持つ各々の脂肪酸組成の割合が10〜60の範囲外になると、混合物中の脂肪酸の炭素数分布の偏りが大きくなり好ましくない。
【0014】
なお、脂肪酸組成とは、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定)(1991)「2.4.20.2-91脂肪酸メチルエステルの調整方法(三フッ化ホウ素-メタノール法)」に準じて調製したメチルエステルを、水素炎イオン化検出器(FID)を備えた昇温ガスクロマトグラフを用い、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定)(1993)「2.4.21.3-77脂肪酸組成(FID昇温ガスロマトグラフ法)」に準じて求められる値であり、油脂を構成する各脂肪酸基の構成比率(質量%)を指す。
【0015】
原料油中の含硫黄炭化水素化合物は、水素化処理における脱酸素活性を向上させる役割を担っている。含硫黄炭化水素化合物としては、特に制限されないが、具体的には、スルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド、チオール、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン及びこれらの誘導体などが挙げられる。原料油に含まれる含硫黄炭化水素化合物は単一の化合物であってもよく、あるいは2種以上の混合物であってもよい。さらに、含硫黄炭化水素化合物として、硫黄分を含有する石油系炭化水素留分を用いることもできる。
【0016】
硫黄分を含有する石油系炭化水素留分としては、一般的な石油精製工程で得られる留分を用いることができる。例えば、常圧蒸留装置や減圧蒸留装置から得られる灯軽油留分、あるいは、水素化脱硫装置、水素化分解装置、残油直接脱硫装置、流動接触分解装置などから得られる灯軽油留分を使用してもよい。なお、上記の各装置から得られる留分は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
含硫黄炭化水素化合物の含有量は、動植物油に由来する含酸素炭化水素化合物に対して硫黄原子換算として1〜50質量ppmであり、好ましくは5〜30質量ppm、より好ましくは10〜20質量ppmである。硫黄原子換算として含有量が1質量ppm未満であると、脱酸素活性を安定的に維持することが困難となる傾向にある。他方、50質量ppmを超えると、水素化処理工程で排出される軽質ガス中の硫黄濃度が増加するのに加え、被処理油又は炭化水素油に含まれる硫黄分含有量が増加する傾向にある。なお、本発明における硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」又はASTM−5453に記載の方法に準拠して測定される硫黄分の質量含有量を意味する。
【0018】
本発明にかかる第一の工程の水素化処理においては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒が用いられる。
本発明で用いられる触媒の担体としては、上述のようにアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上を含んで構成される多孔性無機酸化物が用いられる。かかる多孔性無機酸化物としては、脱酸素活性及び脱硫活性を一層向上できる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上であることが必要であり、好ましくはアルミニウムと他の元素とを含む無機酸化物(酸化アルミニウムと他の酸化物との複合酸化物)である。
【0019】
多孔性無機酸化物が構成元素としてアルミニウムを含有する場合、アルミニウムの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、アルミナ換算で、好ましくは1〜97質量%、より好ましくは10〜97質量%、更に好ましくは20〜95質量%である。アルミニウムの含有量がアルミナ換算で1質量%未満であると、担体酸性質などの物性が好適でなく、十分な脱酸素活性及び脱硫活性が発揮されない傾向にある。他方、アルミニウムの含有量がアルミナ換算で97質量%を超えると、触媒表面積が不十分となり、活性が低下する傾向にある。
【0020】
アルミニウム以外の担体構成元素である、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムを担体に導入する方法は特に制限されず、これらの元素を含有する溶液などを原料として用いればよい。例えば、ケイ素については、ケイ素、水ガラス、シリカゾルなど、ホウ素についてはホウ酸など、リンについては、リン酸やリン酸のアルカリ金属塩など、チタンについては硫化チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウムや各種アルコキサイド塩などを用いることができる。
さらに、多孔性無機酸化物は、構成元素としてリンを含有することが好ましい。リンの含有量は、多孔性無機酸化物全量を基準として、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜7質量%、更に好ましくは2〜6質量%である。リンの含有量が0.1質量%未満の場合には十分な脱酸素活性及び脱硫活性が発揮されない傾向にあり、また、10質量%を超えると過度の分解が進行して目的とする炭化水素油の収率が低下する恐れがある。
【0021】
上記の酸化アルミニウム以外の担体構成成分の原料は、担体の焼成より前の工程において添加することが好ましい。例えば、アルミニウム水溶液に予め上記原料を添加した後、これらの構成成分を含む水酸化アルミニウムゲルを調製してもよく、調合した水酸化アルミニウムゲルに対して上記原料を添加してもよい。あるいは、市販の酸化アルミニウム中間体やベーマイトパウダーに水もしくは酸性水溶液を添加して混練する工程において上記原料を添加してもよいが、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で共存させることがより好ましい。酸化アルミニウム以外の担体構成成分の効果発現機構は必ずしも解明されたわけではないが、アルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推察され、このことが担体表面積の増加や活性金属との相互作用を生じることにより、活性に影響を及ぼしていると考えられる。
【0022】
担体としての上記多孔性無機酸化物には、周期表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属が担持される。これらの金属の中でも、コバルト、モリブデン、ニッケル及びタングステンから選ばれる2種以上の金属を組み合わせて用いることが好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、コバルト−モリブデン、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステンが挙げられる。これらのうち、ニッケル−モリブデン、ニッケル−コバルト−モリブデン及びニッケル−タングステンの組み合せがより好ましい。水素化処理に際しては、これらの金属を硫化物の状態に転換して使用する。
【0023】
触媒質量を基準とする活性金属の含有量としては、タングステン及びモリブデンの合計担持量の範囲は、酸化物換算で12〜35質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。タングステン及びモリブデンの合計担持量が12質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、35質量%を超えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。コバルト及びニッケルの合計担持量の範囲は、酸化物換算で1.0〜15質量%が好ましく、1.5〜12質量%がより好ましい。コバルト及びニッケルの合計担持量が1.0質量%未満であると、十分な助触媒効果が得られず、活性が低下する傾向がある。他方、15質量%を超えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0024】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の脱硫触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0025】
本発明において、使用する水素化処理触媒の種類数は特に限定されない。例えば、一種類の触媒を単独で使用してもよく、活性金属種や担体構成成分の異なる触媒を複数使用してもよい。異なる触媒を複数使用する場合の好適な組み合せとしては、例えば、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−モリブデンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−タングステンを含有する触媒の後段にニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒、ニッケル−コバルト−モリブデンを含有する触媒の後段にコバルト−モリブデンを含有する触媒を用いることが挙げられる。これらの組み合せの前段及び/又は後段にニッケル−モリブデン触媒を更に組み合せてもよい。
【0026】
担体成分が異なる複数の触媒を組み合せる場合には、例えば、担体の総質量を基準として酸化アルミニウムの含有量が30質量%以上であり且つ80質量%未満の触媒の後段に、酸化アルミニウムの含有量が80〜99質量%の範囲にある触媒を用いればよい。
本発明において用いられる各触媒は一般的な水素化脱硫触媒と同様の方法で予備硫化した後に用いることができる。例えば、本発明の工程で得られた水素化処理油又は水素化異性化処理油に含硫黄炭化水素化合物を添加したものを用いて、水素加圧条件下、200℃以上の熱を所定の手順に従って与える。これにより、触媒上の活性金属が硫化された状態となり活性を発揮する。含硫黄炭化水素化合物としては、特に制限されないが、具体的には、スルフィド、ジスルフィド、ポリスルフィド、チオール、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン及びこれらの誘導体などが挙げられる。これらの含硫黄炭化水素化合物は単一の化合物であってもよく、あるいは2種以上の混合物であってもよい。さらに、硫黄分を含有する石油系炭化水素留分を直接用いてもよい。
予備硫化は水素化処理と同一の反応器で行ってもかまわないし、また予め硫化処理を施された触媒や、含硫黄、含酸素あるいは含窒素有機溶剤による活性化処理を施された触媒を使用することもできる。
【0027】
さらに、水素化処理触媒以外に、必要に応じて原料油に随伴して流入するスケール分をトラップしたり触媒床の区切り部分で水素化処理触媒を支持したりする目的でガード触媒、脱金属触媒、不活性充填物を用いてもよい。なお、これらは単独又は組み合せて用いることができる。
【0028】
本発明で用いられる上記触媒の窒素吸着BET法による細孔容積は、0.30〜0.85ml/gであることが好ましく、0.45〜0.80ml/gであることがより好ましい。当該細孔容積が0.30ml/gに満たない場合は担持される金属の分散性が不十分となり、活性点が減少する懸念がある。また、当該細孔容積が0.85ml/gを超えると、触媒強度が不十分となり、使用中に触媒が粉化、破砕するおそれがある。
また、触媒の平均細孔直径は、5〜11nmであることが好ましく、6〜9nmであることがより好ましい。平均細孔直径が5nm未満であると、反応基質が細孔内に十分に拡散せず、反応性が低下するおそれがある。また、平均細孔直径が11nmを超えると、細孔表面積が低下し、活性が不十分となるおそれがある。
さらに、上記触媒においては、有効な触媒細孔を維持し、十分な活性を発揮させるために、全細孔容積に占める細孔直径3nm以下の細孔に由来する細孔容積の割合が35容量%以下であることが好ましい。
【0029】
また、水素の存在下で上記の原料油と触媒とを接触させる際の水素圧力は2MPa以上13MPa以下であることが必要であり、好ましくは3〜10MPaである。水素圧力が13MPaを超えると圧縮機等の過大な設備投資を要する恐れがあり好ましくない。一方、水素圧力2MPa未満では、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。
【0030】
水素化処理における、液空間速度(LHSV)は0.1〜3.0h−1が好ましく、0.7〜2.5h−1がさらに好ましい。液空間速度は高いほど脱炭酸反応の選択性は向上するが、反応性も低下する傾向にあることから3.0h−1を超えることは適切でない。他方、液空間速度を低くすることは触媒量の増加すなわち反応器の大型化を引き起こすものであることから0.1h−1以上とするのが現実的である。
【0031】
水素化処理における水素油比(水素/油比)150〜1500NL/Lの範囲であることが好ましく、200〜1200NL/Lの範囲であることがより好ましく、250〜1000NL/Lの範囲であることが特に好ましい。水素油比が上記上限を超える場合には上記水素圧力における脱炭酸反応の比率の増加効果を阻害し、また上記下限を下回る場合には十分な水素化反応が進行しないおそれがある。
水素化処理における反応温度は150〜480℃の範囲であることが好ましく、200〜380℃の範囲であることがより好ましく、250〜365℃の範囲であることが特に好ましい。反応温度が150℃より低い場合には、十分な水素化反応が進行せず、480℃より高い場合には、過度の分解や原料油の重合、その他の副反応が進行するおそれがある。
【0032】
反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は原料油に対して向流又は並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独又は複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
反応器内で水素化処理された被処理油は気液分離工程や精留工程等を経て所定の留分を含有する水素化処理油に分画される。
【0033】
原料油に含まれている酸素分や硫黄分の反応に伴って、水、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素など副生物が発生する可能性があるため、複数の反応器の間や生成物回収工程に気液分離設備やその他の副生ガス除去装置を設置して、これらの副生物を除去することが必要である。副生物を除去する装置としては、高圧セパレータ等を好ましく挙げることができる。
【0034】
副生物を除去した後の流出油は、必要に応じて精留塔で複数留分に分留してもよい。例えば、ガス、ナフサ留分等の軽質留分、灯油、ジェット、軽油留分等の中間留分、残さ留分等の重質留分に分留してもよい。この場合、軽質留分と中間留分とのカット温度は100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましく、140〜160℃がさらに好ましい。また、中間留分と重質留分とのカット温度は300〜400℃が好ましく、300〜380℃がより好ましく、300〜360℃がさらに好ましい。また、生成するこのような軽質炭化水素留分の一部を水蒸気改質装置において改質することにより水素を製造することができる。このようにして製造された水素は、水蒸気改質に用いた原料がバイオマス由来炭化水素であることから、カーボンニュートラルという特徴を有しており、環境への負荷を低減することができる。
【0035】
水素ガスは加熱炉を通過前もしくは通過後の原料油に随伴させて最初の反応器の入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、反応器内の温度を制御するとともに、反応器内全体にわたって水素圧力を維持する目的で触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい。このようにして導入される水素を一般にクエンチ水素と呼ぶ。原料油に随伴して導入する水素ガスに対するクエンチ水素の割合は、10〜60容量%であることが好ましく、15〜50容量%であることがより好ましい。クエンチ水素の割合が10容量未満であると後段の反応部位での反応が十分に進行しない傾向があり、クエンチ水素の割合が60容積%を超えると反応器入口付近での反応が十分に進行しない傾向がある。
【0036】
本発明にかかる第二の工程の水素化異性化処理工程においては、前記第一の工程で得られる、水素、硫化水素、二酸化炭素及び水を分離した後の水素化処理油を、水素存在下、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウム及びゼオライトから選ばれる物質より構成される多孔性無機酸化物からなる担体に周期表第8族の元素から選ばれる金属を担持してなる触媒を用いて、水素圧力3〜10MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素/油比100〜1500NL/L、反応温度250〜330℃の条件下で水素化異性化処理を行なう。
【0037】
水素化異性化触媒は、水素化異性化活性を有するものであれば特に制限されないが、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウム及びゼオライトから選ばれる物質より構成される多孔性無機酸化物、並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期表第8族の元素から選ばれる1種以上の金属元素を含有する触媒が好ましく用いられる。
【0038】
水素化異性化触媒の担体としては、水素化異性化活性を一層向上できる点から、アルミニウムと他の元素とを含む無機酸化物(酸化アルミニウムと他の酸化物との複合酸化物)が好ましい。
多孔性無機酸化物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタンのうち少なくとも二種類以上の元素を含んで構成されていることがより好ましい。多孔性無機酸化物は、非結晶性、結晶性のいずれの形態でもよく、ゼオライトを用いることもできる。ゼオライトを用いる場合には、国際ゼオライト学会が定める構造コードのうち、FAU、BEA、MOR、MFI、MEL、MWW、TON、AEL、MTTなどの結晶構造を有するゼオライトを用いることが好ましい。
【0039】
水素化異性化触媒に担持する金属としては、周期表第8族の元素から選ばれる1種以上の金属であることが好ましく、このうち、Pt、Pd、Ru、Rh、Au、Ir、Ni、Coから選ばれる1種以上の金属であることがより好ましく、Pt、Rd、Ru、Niであることが特に好ましい。なお、これらの活性金属は、2種類以上の金属を組み合わせてもよく、例えば、Pt−Pd、Pt−Ru、Pt−Rh、Pt−Au、Pt−Irなどの組み合わせが挙げられる。
【0040】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の水素化触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。これらの金属は、硝酸塩、硫酸塩、あるいは錯塩の形態の金属源を水溶液あるいは適当な有機溶剤に溶解し、含浸溶液として使用することができる。
【0041】
また、水素化異性化の反応帯域入口においては、水素化異性化の原料油に含まれる硫黄分含有量が1質量ppm以下であることが好ましく、0.5質量ppm以下であることがより好ましい。硫黄分含有量が1質量ppmを超えると第1の工程における水素化異性化の進行が妨げられる恐れがある。加えて、同様の理由で、水素化異性化の原料油と共に導入される水素を含む反応ガスについても硫黄分濃度が十分に低いことが必要であり、1容量ppm以下であることが好ましく、0.5容量ppm以下であることがより好ましい。
【0042】
水素化異性化工程における反応条件としては、好ましくは、水素圧力2〜10MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h−1、水素油比(水素/油比)100〜1500NL/L、反応温度が250〜330℃であり、より好ましくは、水素圧力2.5〜8MPa、液空間速度0.2〜2.5h−1、水素油比200〜1200NL/L、反応温度が260〜320℃であり、さらに好ましくは、水素圧力3〜7MPa、空間速度0.2〜2.0h−1、水素油比250〜1000NL/L、反応温度が270〜310℃である。これらの条件はいずれも触媒の反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり触媒活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向にある。反応温度が下限値より低い場合には、十分な水素化異性化反応が進行せず、上限値より高い場合には、過度の分解あるいは他の副反応が進行するおそれがある。
【0043】
水素化異性化工程において、水素化異性化の原料油(第一の工程で得られた水素化処理油)と共に反応帯域に導入される水素ガスは、所定の反応温度まで昇温するための加熱炉の上流もしくは下流において原料油に随伴させて反応帯域入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、反応帯域内の温度を制御するとともに、反応帯域全体にわたって水素圧力を維持する目的で、触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい(クエンチ水素)。または、生成油、未反応油、反応中間油などのいずれかまたは複数組み合わせて、一部を反応帯域入口や触媒床の間、複数の反応器の間などから導入してもよい。これにより反応温度を制御し、反応温度上昇による過度の分解反応や反応暴走を回避することができる。
【0044】
第二の工程を経て得られる水素化異性化処理後の生成油(水素化異性化処理油)から、沸点範囲140〜300℃の留分を分留することにより、本発明の航空燃料油基材を得ることができる。
【0045】
水素化異性化処理後の生成油は、本発明の航空燃料油基材を取得するために、必要に応じて精留塔で複数留分に分留する。例えば、ガス、ナフサ留分等の軽質留分、灯油、ジェット、軽油留分等の中間留分、残さ留分等の重質留分に分留してもよい。この場合、軽質留分と中間留分とのカット温度は100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましく、140〜160℃がさらに好ましい。また、中間留分と重質留分とのカット温度は300〜400℃が好ましく、300〜380℃がより好ましく、300〜360℃がさらに好ましい。このうち、本発明の航空燃料油基材は沸点範囲が140〜300℃の留分であることが好ましい。また、生成するこのような軽質炭化水素留分の一部を水蒸気改質装置において改質することにより水素を製造することができる。このようにして製造された水素は、水蒸気改質に用いた原料がバイオマス由来炭化水素であることから、カーボンニュートラルという特徴を有しており、環境への負荷を低減することができる。
【0046】
本発明の方法において、異なる脂肪酸組成を有する動植物油脂の混合物を原料として製造された航空燃料油基材は、基材収率、低温性能に優れている。
【0047】
本発明の航空燃料油組成物は、上記製造方法で製造された航空燃料油基材を含有してなる。
本発明の航空燃料油組成物は、上記本発明の製造方法で得られる航空燃料油基材単独で構成しても良いし、また他の航空燃料油基材、例えば原油等を精製して得られる航空燃料油基材と混合して航空燃料油組成物としてもよい。
原油等を精製して得られる航空燃料油基材としては、一般的な石油精製工程で得られる航空燃料油留分、水素と一酸化炭素から構成される合成ガスを原料とし、フィッシャー・トロプシュ反応などを経由して得られる合成燃料油基材等が挙げられる。この合成燃料油基材は芳香族分をほとんど含有せず、飽和炭化水素を主成分とし、煙点が高いことが特徴である。なお、合成ガスの製造方法としては公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0048】
本発明の航空燃料油組成物は、従来航空燃料油に添加されている各種添加剤の1種以上を更に含有することができる。かかる添加剤としては、酸化防止剤、静電気防止剤、金属不活性化剤、氷結防止剤などが挙げられる。
【0049】
酸化防止剤としては、航空燃料油中のガムの発生を抑止するために、24.0mg/lを超えない範囲で、N,N−ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、2,6−ジターシャリーブチルフェノール75%以上とターシャリー及びトリターシャリーブチルフェノール25%以下の混合物、2,4−ジメチル−6−ターシャリーブチルフェノール72%以上とモノメチル及びジメチルターシャリーブチルフェノール28%以下の混合物、2,4−ジメチル−6−ターシャリーブチルフェノール55%以上とターシャリー及びジターシャリーブチルフェノール45%以下の混合物、2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェノールなどを加えることができる。
【0050】
静電気防止剤としては、航空燃料油が高速で燃料配管系内部を流れる時に配管内壁との摩擦によって生じる静電気の蓄積を防止し、電気伝導度を高めるために、3.0mg/lを超えない範囲で、オクテル社製のSTADIS450などを加えることができる。
【0051】
金属不活性化剤としては、航空燃料油に含有する遊離金属成分が反応して燃料が不安定とならないようにするために、5.7mg/lを超えない範囲で、N,N−ジサリシリデン−1,2−プロパンジアミンなどを加えることができる。
【0052】
氷結防止剤としては、航空燃料油に含まれている微量の水が凍結して配管を塞ぐのを防止するために、0.1〜0.15容量%の範囲でエチレングリコールモノメチルエーテルなどを加えることができる。
【0053】
本発明の航空燃料油組成物は、本発明を逸脱しない範囲で、さらに帯電防止剤、腐食抑制剤および殺菌剤等の任意の添加剤を適宜配合することができる。
【0054】
本発明の航空燃料油組成物は、好ましくは、JIS K2209「航空タービン燃料油」の規格値を満足するものである。
【0055】
本発明の航空燃料油組成物の15℃における密度は、燃料消費率の観点から、775kg/m以上であることが好ましく、780kg/m以上であることがより好ましい。一方、燃焼性の観点から、839kg/m以下であることが好ましく、830kg/m以下であることがより好ましく、820kg/m以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう15℃における密度とは、JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」で測定される値を意味する。
【0056】
本発明の航空燃料油組成物の蒸留性状は、10容量%留出温度が、蒸発特性の観点から204℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。終点は燃焼特性(燃え切り性)の観点から300℃以下であることが好ましく、290℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう蒸留性状とは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」で測定される値を意味する。
【0057】
本発明の航空燃料油組成物の実在ガム分は、燃料導入系統等での析出物生成による不具合防止の観点から、7mg/100ml以下であることが好ましく、5mg/100ml以下であることがより好ましく、3mg/100ml以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう実在ガム分とは、JIS K2261「ガソリン及び航空燃料油実在ガム試験方法」で測定される値を意味する。
【0058】
本発明の航空燃料油組成物の真発熱量は、燃料消費率の観点から、42.8MJ/kg以上であることが好ましく、45MJ/kg以上であることがより好ましい。なお、ここでいう真発熱量とは、JIS K2279「原油及び燃料油発熱量試験方法」で測定される値を意味する。
【0059】
本発明の航空燃料油組成物の動粘度は、燃料配管の流動性や均一な燃料噴射実現の観点から−20℃における動粘度が8mm/s以下であることが好ましく、7mm/s以下であることがより好ましく、5mm/s以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう動粘度とは、JIS K2283「原油及び石油製品の動粘度試験方法」で測定される値を意味する。
【0060】
本発明の航空燃料油組成物の銅板腐食は、燃料タンクや配管の腐食性の観点から、1以下であることが好ましい。ここでいう銅板腐食とは、JIS K2513「石油製品−銅板腐食試験方法」で測定される値を意味する。
【0061】
本発明の航空燃料油組成物の芳香族分は、燃焼性(煤発生防止)の観点から25容量%以下であることが好ましく、20容量%であることがより好ましい。ここでいう芳香族分とは、JIS K2536「燃料油炭化水素成分試験方法(けい光指示薬吸着法)」で測定される値を意味する。
【0062】
本発明の航空燃料油組成物の煙点は、燃焼性(煤発生防止)の観点から25mm以上であることが好ましく、27mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることが更に好ましい。なお、ここでいう煙点とは、JIS K2537「燃料油煙点試験方法」で測定される値を意味する。
【0063】
本発明の航空燃料油組成物の硫黄分は、腐食性の観点から、0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。また、同様の腐食性の観点より、メルカプタン硫黄分は、0.003質量%以下であることが好ましく、0.002質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう硫黄分とは、JIS K2541「原油及び石油製品硫黄分試験方法」で測定された値、メルカプタン硫黄分は、JIS K2276「メルカプタン硫黄分試験方法(電位差滴定法)」で測定された値を意味する。
【0064】
本発明の航空燃料油組成物の引火点は、安全性の観点から38℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、45℃以上であることが更に好ましい。なお、ここでいう引火点とは、JIS K2265「原油及び石油製品‐引火点試験方法‐タグ密閉式引火点試験方法」で求めた値を意味する。
【0065】
本発明の航空燃料油組成物の全酸価は、腐食性の観点から0.1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.08mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.05mgKOH/g以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう全酸価とは、JIS K2276「全酸価試験方法」で測定される値を意味する。
【0066】
本発明の航空燃料油組成物の析出点は、飛行時の低温暴露下での燃料凍結による燃料供給低下を防ぐ観点から、−47℃以下であることが好ましく、−48℃以下であることがより好ましく、−50℃以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう析出点とは、JIS K2276「析出点試験方法」により測定された値を意味する。
【0067】
本発明の航空燃料油組成物の熱安定度は、高温暴露時の析出物生成による燃料フィルター閉塞防止等の観点から、A法における圧力差10.1kPa以下、予熱管堆積物評価値3未満、B法における圧力差3.3kPa以下、予熱管堆積物評価値3未満であることが好ましい。なお、ここでいう熱安定度とは、JIS K2276「熱安定度試験方法A法、B法」により測定された値を意味する。
【0068】
本発明の航空燃料油組成物の水溶解度は、低温暴露時における溶解水の析出によるトラブル防止のため、分離状態2以下、界面状態1b以下であることが好ましい。なお、ここでいう水溶解度とは、JIS K2276「水溶解度試験方法」により測定された値を意味する。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
(触媒の調製)
<触媒A>
濃度5質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液3000gに水ガラス3号18.0gを加え、65℃に保温した容器に入れた。他方、65℃に保温した別の容器において濃度2.5質量%の硫酸アルミニウム水溶液3000gにリン酸(濃度85%)6.0gを加えた溶液を調製し、これに前述のアルミン酸ナトリウムを含む水溶液を滴下した。混合溶液のpHが7.0になる時点を終点とし、得られたスラリー状の生成物をフィルターに通して濾取し、ケーキ状のスラリーを得た。
ケーキ状のスラリーを還流冷却器を取り付けた容器に移し、蒸留水150mlと27%アンモニア水溶液10gを加え、75℃で20時間加熱攪拌した。該スラリーを混練装置に入れ、80℃以上に加熱し水分を除去しながら混練し、粘土状の混練物を得た。得られた混練物を押出し成形機によって直径1.5mmシリンダーの形状に押し出し、110℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、成形担体を得た。
得られた成形担体50gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレータ−で脱気しながら三酸化モリブデン17.3g、硝酸ニッケル(II)6水和物13.2g、リン酸(濃度85%)3.9g及びリンゴ酸4.0gを含む含浸溶液をフラスコ内に注入した。含浸した試料は120℃で1時間乾燥した後、550℃で焼成し、触媒Aを得た。調製した触媒Aの物性を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
<触媒B>
シリカ−アルミナ比(質量比)が70:30であるシリカアルミナ担体50gをナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで脱気しながらテトラアンミン白金(II)クロライド水溶液をフラスコ内に注入した。含浸した試料は110℃で乾燥した後、350℃で焼成し、触媒Bを得た。触媒Bにおける白金の担持量は、触媒全量を基準として0.5質量%であった。
【0073】
(実施例1)
触媒A(100ml)を充填した第一の反応管(内径20mm)を固定床流通式反応装置に取り付けた。第一の反応管の後段に高圧セパレータを接続し、高圧セパレータからの流出油が流出する先に触媒B(50mL)を充填した第二の反応管(内径20mm)を接続した。その後、触媒Aに対しては、ジメチルジサルファイドを加えた直留軽油(硫黄分3質量%)を用いて触媒層平均温度300℃、水素分圧6MPa、液空間速度1h−1、水素/油比200NL/Lの条件下で、4時間触媒の予備硫化を行い、触媒Bに対しては、触媒層平均温度320℃、水素圧力5MPa、水素ガス量83ml/minの条件下で6時間、還元処理を行った。
【0074】
予備硫化ならびに還元処理後、パーム油40質量%、パーム核油60質量%を混合した混合油(混合油の脂肪酸組成は表2に示す。)に、混合油に対する硫黄分含有量(硫黄原子換算)が10質量ppmになるようにジメチルサルファイドを添加して被処理油の調整を行った。その後、被処理油を用いて水素化精製および異性化処理を行った。水素化精製の条件は、反応温度(触媒層平均温度)を300℃、水素圧力を5MPa、液空間速度を0.5h−1、水素/油比を500NL/Lとした。水素化処理後の処理油を高圧セパレータに導入し、処理油から水素、硫化水素、二酸化炭素および水の除去を行った。高圧セパレータから得られた流出油は第二の反応管にて、反応温度(触媒層平均温度)を300℃、水素圧力を3MPa、液空間速度を1h−1、水素/油比を500NL/Lとして水素化異性化処理を行った。水素化異性化処理後の油は、さらに精留塔に導かれ、沸点範囲140℃未満の軽質留分、140〜300℃の中間留分、300℃を超える重質留分に分留した。140〜300℃の留分を航空燃料油基材1とした。航空燃料油基材1の収率、及び析出点を表3に示す。
なお、航空燃料油基材の収率とは、原料油を水素化処理及び水素化異性化処理して得られた水素化異性化処理油の全量に対する140〜300℃の留分の質量割合のことを意味し、析出点とは、JIS K2276「石油製品−航空燃料油試験方法−析出点試験方法」により測定された値を意味する。
【0075】
(実施例2)
パーム油45質量%、大豆油15質量%、ココナッツ油40質量%の混合油を用いたこと以外は実施例1と同様にして処理を行って航空燃料油基材2を得た。得られた航空燃料油基材2の収率、及び析出点を表3に示す。
【0076】
(実施例3)
大豆油30質量%、パーム核油50質量%、ココナッツ油20質量%の混合油を用い、表3に示す処理条件で処理したこと以外は実施例1と同様にして航空燃料油基材3を得た。得られた航空燃料油基材3の収率、及び析出点を表3に示す。
【0077】
(比較例1)
パーム油100質量%を用い、表3に示す処理条件で処理したこと以外は実施例1と同様にして比較航空燃料油基材1を得た。得られた比較航空燃料油基材1の収率、及び析出点を表3に示す。
【0078】
(比較例2)
大豆油100質量%を用い、表3に示す処理条件で処理したこと以外は実施例1と同様にして比較航空燃料油基材1を得た。得られた比較航空燃料油基材2の収率、及び析出点を表3に示す。
【0079】
【表2】

【表3】

【0080】
表3に示したとおり、実施例1〜3では、比較例1、2と較べると、基材収率が高く、析出点の低く低温性能に優れた航空燃料油基材が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、基材収率が高く、低温性能に優れた動植物油由来の航空燃料油基材の製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の存在下、異なる脂肪酸組成を有する2種類以上の動植物油脂の混合物、及び含硫黄炭化水素化合物を含有する原料油を水素化処理する第一の工程と、第一の工程で得られた水素化処理油を水素の存在下、水素化異性化処理する第二の工程とを含み、前記動植物油脂の混合物において、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の合計量が50〜70質量%であり、炭素数9〜15の脂肪酸炭素鎖を持つ脂肪酸組成合計量を100としたときの炭素数11、炭素数13、炭素数15の脂肪酸炭素鎖を持つ各脂肪酸組成の割合が10〜60であることを特徴とする航空燃料油基材の製造方法。
【請求項2】
前記第一の工程が、水素の存在下、異なる脂肪酸組成を有する2種類以上の動植物油脂の混合物、及び含硫黄炭化水素化合物を含有する原料油を、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物並びに該多孔性無機酸化物に担持された周期表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒を用い、水素圧力2〜13MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素/油比150〜1500NL/L、反応温度150〜480℃の条件下で前記原料油を水素化処理し、得られた被処理物から水素、硫化水素、二酸化炭素及び水を除去して水素化処理油を得る工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の航空燃料油基材の製造方法。
【請求項3】
前記第二の工程が、前記第一の工程で得られた水素化処理油を、さらに、水素存在下、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン、マグネシウム及びゼオライトから選ばれる物質より構成される多孔性無機酸化物からなる担体に周期表第8族の元素から選ばれる金属を担持してなる触媒を用いて、水素圧力2〜10MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素/油比100〜1500NL/L、反応温度250〜330℃の条件下で水素化異性化処理する工程であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の航空燃料油基材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの製造方法で製造された航空燃料油基材を含有する航空燃料油組成物。

【公開番号】特開2011−52082(P2011−52082A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201023(P2009−201023)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】