説明

舶用エンジン制御システム及び方法

【課題】外乱に応じて回転数指令の補正を行い燃費の向上を図る。
【解決手段】主機12に連結された主軸14の実回転数Nを検出する。回転数指令Nおよび実回転数Nの偏差に対し制御演算部17においてPID演算を施す。PID演算により得られたガバナ指令をガバナ13に出力し、主機12へ供給される燃料量を制御する。更に、ガバナ指令および実回転数Nを制御対象Sのオブザーバ18に入力しプロペラ流入速度変動を推定する。演算部19においてプロペラ流入速度変動に所定ゲインを掛け回転数指令Nに加算し、回転数指令Nを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用エンジンの制御システムに関し、特に舶用エンジンの回転数制御に関する。
【背景技術】
【0002】
舶用エンジン(主機)の制御では、設定された目標回転数と実回転数の差がなくなるようにPID制御が行われる。しかし、荒天時には、プロペラが海面上に露出するプロペラレーシングが発生し、プロペラによる負荷トルクが急激に変化するため通常の天候の下での航行を想定したゲインによるPID制御では、十分な応答性能が得られずオーバースピードによる機関の故障を招く恐れがある。このような問題に対しては、外乱によるプロペラ回転数の変動を予測してPID制御のゲインを変更する構成が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−200131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、燃費の改善と言う観点からは、特許文献1の構成においても、波浪などの外乱による回転数変化に対して依然応答遅れが存在し、無駄な燃料投入を行っている。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、外乱に応じて回転数指令の補正を行い燃費の向上を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の舶用エンジン制御システムは、回転数指令および実回転数から主機の回転数を一定にするガバナ指令を演算する制御演算部と、ガバナ指令と実回転数から外乱による所定の物理量の変動を推定するオブザーバと、所定の物理量の変動に応じて回転数指令を補正する回転数指令補正手段とを備たことを特徴としている。
【0007】
回転数指令補正手段は、例えば所定の物理量の変動に所定のゲインを掛けた値を補正値として回転数指令に加算する。また、このとき補正値の位相を主機および制御演算部の遅れに応じて遅らせて回転数指令に加算することでより適切な回転数指令の補正を行うことができる。
【0008】
所定の物理量の振幅の大きさに応じて上記補正値を修正することで、荒天時における回転数指令を下方修正し、荒天時のプロペラレーシングの発生を防止できる。このとき例えば振幅にゲインを掛けた値を上記補正値から差し引いたものを回転数指令に加算する。上記物理量には、例えばプロペラ流入速度や負荷トルクが含まれる。
【0009】
本発明の船舶は、上記舶用エンジン制御システムを備えたことを特徴としている。
【0010】
本発明の舶用エンジン制御方法は、回転数指令および実回転数から主機の回転数を一定にするガバナ指令を演算し、オブザーバを用いてガバナ指令と実回転数から外乱による所定の物理量の変動を推定し、所定の物理量の変動に応じて回転数指令を補正することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外乱に応じて回転数指令の補正を行い燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態である舶用エンジン制御システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態の演算部の詳細な構成を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である舶用エンジン制御システムの全体の構成を示すブロック図である。
【0014】
本実施形態の舶用エンジン制御システム10は、船体11に設けられた主機12の回転数を制御するもので、主機12へ供給される燃料量はガバナ13によって制御される。ガバナ13は、回転数指令Nと主軸14の実回転数Nに基づき算出されるガバナ制御装置15からのガバナ指令によって制御される。なお、実回転数Nは、主軸14の回転数(角速度)を従来周知の方法で検出することにより求められる。
【0015】
ガバナ制御装置15は、補正演算部16と制御演算部17からなり、補正演算部16は、ガバナ指令と実回転数Nに基づき回転数指令Nに対する補正値(回転数指令補正値)nを演算し、制御演算部17は、回転数指令補正値nにより補正された回転数指令N’と実回転数Nに基づき制御演算を行う。そして制御演算部17からの出力はガバナ指令としてガバナ13へと出力される。なお、回転数指令Nの補正は、回転数指令補正値nを回転数指令Nに加算することで行われ、制御演算部17では、補正回転数指令N’(=N+n)と実回転数Nの偏差e(=N−N+n)に対してPID演算が行われる。
【0016】
補正演算部16は、オブザーバ18と演算部19を備える。オブザーバ18は、船体11、主機12、ガバナ13等を含む制御対象Sの状態観測器であり、ガバナ指令と実回転数Nに基づいて波浪等の外乱に起因する所定の物理量(プロペラ流入速度や負荷トルクなど)の変動を推定する。演算部19は、オブザーバ18によって推定された物理量の変動に基づいて回転数指令補正値nを算出する。
【0017】
次に図2の制御ブロック図を参照して本実施形態における演算部19のより具体的な構成について説明する。
【0018】
回転数指令補正値nは、基本的には推定された物理量(図2の例ではプロペラ流入速度)の変動にゲインKを掛けることで得られる。しかし、実際の主機12や制御演算部(PID)17には応答遅れが存在するので、本実施形態ではこの応答遅れに合わせて補正値の位相を遅延する。すなわち、推定物理量(プロペラ流入速度m/s)の変動に対してブロック20においてゲインKを掛け、回転数(rpm)に対応する補正値を算出し、その後算出された補正値の位相をブロック21において主機12および制御演算部(PID)17の遅れに対応して遅らせる。
【0019】
なお、応答遅れは、主機12や制御演算部(PID)17の特性により決定されるもので、予め実験や計算により求められる。また、例えばプロペラ流入速度の変動は、(プロペラ流入速度)−(船速)で求められる。なお船速Vは、オブザーバ18で算出することも可能であるが、実測値が得られる場合には、実測された船速Vをオブザーバ18に入力し、実回転数N、船速V、ガバナ指令を用いてプロペラ流入速度や、その他の各物理量を算出してもよい。
【0020】
また更に、本実施形態では、荒天時におけるプロペラレーシングによる過回転を防止するとともに燃費を改善するため、波浪状況に応じて回転数指令を自動で抑える構成が採用される。すなわち、本実施形態では、推定物理量(プロペラ流入速度m/s)の変動の振幅が抽出され、この振幅に基づいて、位相が遅延された補正値が更に修正され、回転数指令補正値nとされる。例えば、プロペラ流入速度(m/s)の振幅がブロック22において抽出され、ブロック23では抽出された振幅に所定のゲインLが掛けられる。その後ブロック23からの出力がブロック21からの補正値から引かれて回転数指令補正値nとされる。すなわち、振幅が増大するに従って目標回転数は下げられる。
【0021】
以上のように、本実施形態によれば、オブザーバにより外乱による物理量変動を推定し、これに基づき回転数指令を補正することで、ガバナ指令の変動が抑えられ、応答遅れに起因する燃費の悪化が防止される。特に本実施形態では、外乱に基づく物理量変動を実回転数、ガバナ指令に基づきオブザーバで推定し、これに基づき回転数指令を補正しているので、既存のガバナ制御システムに大幅な変更を加えることなく適用することができる。
【0022】
また、本実施形態では、物理量変動に制御演算部および主機の応答遅れに応じた位相遅れを与えることでより効果的なタイミングでガバナ指令の変動を抑えることができる。
【0023】
また本実施形態では、変動の振幅から海象の状態に合わせて回転数指令を自動的に変更でき(荒天時に回転数を下方修正)、プロペラレーシングによる過回転の発生を防止し燃費の悪化を抑えることができる。なお、振幅の変動に対応するために、振幅抽出ブロックの後にローパスフィルタを設けてもよい。これにより、例えば急にうねりの多い海域に入ったときなどに、数十分オーダーの変動に対して回転数指令を自動修正でき、手動での対応を行うことなく燃費の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0024】
10 舶用エンジン制御システム
11 船体
12 主機
13 ガバナ
14 主軸
15 ガバナ制御装置
16 補正演算部
17 制御演算部(PID演算部)
18 オブザーバ
19 演算部
20 ゲインK演算ブロック
21 位相遅れ演算ブロック
22 振幅抽出ブロック
23 ゲインL演算ブロック
S 制御対象


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転数指令および実回転数から主機の回転数を一定にするガバナ指令を演算する制御演算部と、
前記ガバナ指令と前記実回転数から、外乱による所定の物理量の変動を推定するオブザーバと、
前記所定の物理量の変動に応じて前記回転数指令を補正する回転数指令補正手段と
を備えることを特徴とする舶用エンジン制御システム。
【請求項2】
前記回転数指令補正手段が、前記所定の物理量の変動に所定のゲインを掛けた値を補正値として前記回転数指令に加算することを特徴とする請求項1に記載の舶用エンジン制御システム。
【請求項3】
前記補正値の位相を前記主機および前記制御演算部の遅れに応じて遅らせて前記回転数指令に加算することを特徴とする請求項2に記載の舶用エンジン制御システム。
【請求項4】
前記所定の物理量の変動における振幅の大きさに応じて前記補正値を修正し、荒天時における前記回転数指令を下方修正することを特徴とする請求項2に記載の舶用エンジン制御システム。
【請求項5】
前記振幅にゲインを掛けた値を前記補正値から差し引いて前記回転数指令に加算することを特徴とする請求項4に記載の舶用エンジン制御システム。
【請求項6】
前記物理量が、プロペラ流入速度または負荷トルクを含むことを特徴とする請求項5に記載の舶用エンジン制御システム。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の舶用エンジン制御システムを備えることを特徴とする船舶。
【請求項8】
回転数指令および実回転数から主機の回転数を一定にするガバナ指令を演算し、
オブザーバを用いて前記ガバナ指令と前記実回転数から外乱による所定の物理量の変動を推定し、
前記所定の物理量の変動に応じて前記回転数指令を補正する
ことを特徴とする舶用エンジン制御方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−57523(P2012−57523A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200992(P2010−200992)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】