説明

船外機用エンジン

【課題】オイルが外部に流出することなくオイルフィルタを交換することができる船外機用エンジンを提供することを課題とする。
【解決手段】メインギャラリ56には、オイルフィルタ57より下方位置に、通孔66を介してクランク室44へつながる連通路67が設けられている。連通路67は手動で開閉操作することができるドレーンバルブ68で塞がれている。また、メインギャラリ56には、オイルフィルタ57より上方位置に、外部から空気を入れることができる空気導入路71が設けられている。空気導入路71は手動で開閉操作することができるエアベントボルト72で塞がれている。
【効果】オイルフィルタを取り外してもオイルが外部に流出しない。結果、オイルフィルタ交換の作業性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルフィルタを備える船外機用エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機には、エンジンオイルを濾過するオイルフィルタが備えられている(例えば、特許文献1(図2)参照。)。
この特許文献1の技術を図面に基づいて以下に説明する。
図8に示すように、船外機100では、クランク軸が縦向きとされた縦型エンジン101のオイルパン102に貯留されているオイルがオイルポンプで汲み上げられ、オイルフィルタ103で濾過される。濾過されたオイルは、シリンダブロック104内に図上下方向に配置されたオイル通路としてのメインギャラリを経て、クランクシャフトの上下の軸受部に供給される。オイルフィルタ103で濾過されたオイルは、エンジン101の要部を適切に潤滑することができる。
【0003】
オイルフィルタ103は定期的又は一定時間使用後に交換される。船外機で、通常に行われているオイルフィルタ交換の手順を次図で説明する。
図9に示すように、オイルフィルタ103を外し、新しいオイルフィルタ103を取り付ける。なお、オイルフィルタ103は、メインギャラリ105の高さ方向中間位置になるようにシリンダブロック104に配置されている。オイルフィルタ103を取り外すと、メインギャラリ105に溜まっているオイルのうち、オイルフィルタ103より上方のオイルが、フィルタ取付口106から矢印(1)のように外部に流出する虞がある。作業者は、漏れたオイルを拭き取る必要があり、作業が繁雑になる。そのため、オイルが外部に流出することなくオイルフィルタを交換することができる船外機用エンジンが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−343226公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、オイルが外部に流出することなくオイルフィルタを交換することができる船外機用エンジンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、クランク室の下に配置されているオイルパンのオイルをオイルポンプで汲み上げ、このオイルをオイルフィルタで濾過し、縦向きのオイル通路を介して上及び下へ流すことでエンジンの要部へ供給するようにした船外機用エンジンにおいて、
前記オイル通路には、前記オイルフィルタより下方位置に、前記クランク室へつながる連通路が設けられ、この連通路は手動で開閉操作することができるドレーンバルブで塞がれていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、オイル通路には、オイルフィルタより上方位置に、外部から空気を入れることができる空気導入路が設けられ、この空気導入路は手動で開閉操作することができるエアベントボルトで塞がれていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明では、ドレーンバルブは、先端に連通路を閉鎖するテーパ部を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明では、ドレーンバルブは、テーパ部より先端側に、連通路の流路面積より小さな断面積の小断面積部を備え、この小断面積部を連通路へ挿入する様にしたことを特徴とする
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、オイル通路には、オイルフィルタより下方位置に、クランク室へつながる連通路が設けられ、この連通路は手動で開閉操作することができるドレーンバルブで塞がれている。ドレーンバルブを開けることで、オイル通路に溜まっているオイルがクランク室に流れ落ちる。オイル通路内には、オイルフィルタより上方にオイルがなくなるので、オイルフィルタを取り外してもオイルが外部に流出しない。結果、オイルフィルタ交換の作業性を向上することができる。
加えて、エンジン内のオイル量は減少せず、オイルを補充する必要がないので、作業工数の低減を図ることができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、オイル通路には、オイルフィルタより上方位置に、外部から空気を入れることができる空気導入路が設けられ、手動で開閉操作することができるエアベントボルトで塞がれている。エアベンドボルトを開けるとオイル通路に空気が導入される。オイル通路に空気が導入されると、オイルの流下速度が大幅に高まる。この結果、オイルフィルタを直ぐに外すことができ、全体の作業時間を短縮することができる。
【0012】
請求項3に係る発明では、ドレーンバルブは、先端に連通路を閉鎖するテーパ部を備えている。ドレーンバルブのテーパ部を受けるシリンダブロック側のテーパの加工が容易であるので、加工費のコストダウンを図ることができる。
【0013】
請求項4に係る発明では、ドレーンバルブは、テーパ部より先端側に、連通路の流路面積より小さな断面積の小断面積部を備え、この小断面積部を連通路へ挿入する様にした。小断面積部を連通路に挿入した状態でオイルをクランク室へ流し落とすことができ、再びドレーンバルブを閉めることが容易になるので、作業工数を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】船外機の全体を示す側面図であり、右舷側の側面図であって、内部機構の主なものを破線で示した図である。
【図2】オイルフィルタの取付位置を拡大して右舷側から見た部分断面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図3の4−4線断面図である。
【図5】ドレーンバルブの斜視図である。
【図6】オイルを流し落とすまでの作用を説明する図である。
【図7】オイルフィルタを交換するまでの作用を説明する図である。
【図8】従来の技術に係るオイルフィルタの取付位置を説明する図である。
【図9】従来の技術に係るオイルフィルタを交換するまでの作用を説明するである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0016】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、船外機10は、図右側の矢印Frで示した方向を前方とし、図左側の矢印Rrで示した方向を後方とし、上部に船外機用エンジン11を備えている。この船外機用エンジン11の詳細は後述するが、シリンダ、ピストンが横向きで、クランクシャフト、カムシャフトが縦向きの縦型エンジンである。
【0017】
船外機10は、船外機用エンジン11の上部を覆う上側エンジンカバー12と、このエンジンカバー12の下方に設けられている下側エンジンカバー13と、このエンジンカバー13の下方に設けられているエクステンションカバー14と、このエクステンションカバー14の下方に設けられているギヤケース15とから外観が構成される。
【0018】
下側エンジンカバー13の前側には、船体に船外機10を取り付けるスターンブラケット16が設けられている。
船外機用エンジン11の前方にはエンジン吸気口に空気(新気)を導入する吸気サイレンサ17が配置され、吸気サイレンサ17の後方にはエンジンの点火制御、燃料噴射装置の制御を行う電装品18が配置されている。
【0019】
破線で示すクランクシャフト21は、下部にフライホイール22を備える。このクランクシャフト21の下端に連結される駆動軸23は、下側エンジンカバー13及びエクステンションケース14の内側を通り、ギヤケース15内の動力伝達機構24に連結されている。
【0020】
動力伝達機構24は、駆動軸23の動力を前から後向きに配置された水平な被動軸25に伝える。被動軸25はギヤケース15の後方から突き出し、後端部にはプロペラ26が固着されている。一対のドグクラッチで切り換えることで、プロペラの正回転、逆回転を切り換え、前進又は後進の推進力を得る。
【0021】
上側エンジンカバー12は、下側エンジンカバー13に後側のヒンジ27と前側の止め具28により取り付けられている。
なお、太い破線矢印は潤滑油の全体の潤滑油路を示すが、詳細は後述する。
【0022】
次に船外機用エンジン11の構成を断面図に基づいて詳しく説明する。
図2に示されるように、船外機用エンジン11は、後方に設けられているシリンダヘッドカバー31と、中間部に設けられているシリンダヘッド32及びシリンダブロック33と、前方に設けられているクランクケース34とを備える。
【0023】
シリンダヘッド32は、内頂部に燃焼室35を備えている。シリンダブロック33は、複数のシリンダ36を備え、これらのシリンダ36内に摺動自在にピストン37が設けられている。これらのピストン37にコンロッド38を介してクランクシャフト21が回転自在に接続されている。
なお、符号41は吸気弁、符号42は排気弁、符号43は点火プラグを示す。
【0024】
クランクケース34の内側に構成されるクランク室44の下にオイルパン45が配置され、クランク室44内のオイルがオイルパン45に流れ落ちる構造になっている。
エンジン11の下部には、マウントケース46が配置され、このマウントケース46でエンジンを支持し、マウントケース46の下面に結合するオイルケース内にオイルパン45が設けられている。
【0025】
クランクシャフト21は、軸受47に回転自在に支持されている。クランクシャフト21の上端部には、発電機構51及びリコイルスタータ52が接続されている。
また、カムシャフト53は、シリンダヘッド32の軸受54に回転自在に支持されている。カムシャフト53の下端部には、オイルポンプ55が接続されており、カムシャフト53の回転力で作動する。
【0026】
シリンダブロック33の近傍にオイル通路としてのメインギャラリ56が配置されている。メインギャラリ56の中間にオイルフィルタ57が設けられている。
船外機用エンジン11の動作時に、オイルパン45のオイルは、オイルポンプ55で汲み上げられオイルフィルタ57で濾過されて、縦向きのメインギャラリ56を介して上及び下へ流される。船外機用エンジン11を停止させると、オイルポンプ55も停止するが、メインギャラリ56内にはオイルが残る。
【0027】
図1に戻って、潤滑油路を太い破線矢印に基づいて説明する。
オイルパン45のオイルは、オイルパン45内に収容したストレーナ58から油路61を介してオイルポンプ55で汲み上げられる。汲み上げられたオイルは、オイルポンプ55から油路62を通りシリンダブロック33の側面に設けられているオイルフィルタ57で濾過される。濾過されたオイルは、オイル通路としてのメインギャラリ56を介して上及び下へ分岐して流される。
【0028】
メインギャラリ56のオイルは、エンジンの要部としてのクランクシャフト21の軸受47等に供給される。また、メインギャラリ56から分岐した分岐油路63に送られたオイルは、スプール弁64及び油路65を介してエンジンの要部としてのカムシャフト53の軸受54等に供給される。
【0029】
次にメインギャラリ56の下部構造を、図2の3−3線断面図である図3と、図2の4−4線断面図である図4に基づいて順に説明する。
図3に示されるように、オイルポンプ(図2、符号55)から送り出されたオイルは、油路62介してオイルフィルタ57に入り、濾過される。濾過されたオイルは、オイル通路としてのメインギャラリ56に出て、矢印のように上及び下へ流れ、クランクシャフト(図2、符号21)、分岐油路63等へ送られる。
【0030】
メインギャラリ56には、オイルフィルタ57より下方位置に、通孔66を介してクランク室44へつながる連通路67が設けられている。連通路67は手動で開閉操作することができるドレーンバルブ68で塞がれている。
【0031】
また、メインギャラリ56には、オイルフィルタ57より上方位置に、外部から空気を入れることができる空気導入路71が設けられている。空気導入路71は手動で開閉操作することができるエアベントボルト72で塞がれている。
【0032】
図4に示されるように、ドレーンバルブ68は、先端に連通路67を閉鎖するテーパ部73と、このテーパ部73より先端側にドレーンバルブ68を連通路67に固定するねじ部74と、後方にオイル漏れを防ぐOリング75と、を備えている。ねじ部74を締め付けることでテーパ部73が弁座76に当たり、連通路67を塞ぐことができる。
【0033】
図5に示されるように、ドレーンバルブ68は、テーパ部73より先端側に、連通路(図4、符号66)の流路面積より小さな断面積の小断面積部77を備えている。また、ドレーンバルブ68は、後端部に、締め付け工具を引っ掛ける溝部78を備えている。結果、ドライバーを使用し手動で簡単にドレーンバルブ68の開閉操作をすることができる。
【0034】
以上の述べた船外機用エンジンの作用を次に述べる。
図6(a)に示されるように、メインギャラリ56内のオイルは、オイルフィルタ57より高い位置まで入っている。ここで、ドレーンバルブ68を、矢印(2)のように開ける。次に、エアベントボルト72を、矢印(3)のように開け、空気導入路71を介して外部から空気をメインギャラリ56に入れる。
【0035】
すると、(b)に示すように、ドレーンバルブ68と連通路67との間に隙間が生じ、メインギャラリ56内のオイルが連通路67を介してクランク室44に流れ落ちる。
また、オイルフィルタ57の交換作業終了後にドレーンバルブを閉じる際、小断面積部77のねじ部74が、連通路67のめねじ部79に引っ掛かっているので、ドレーンバルブ68の先端が見えなくても簡単にドレーンバルブ68を閉じることができる。
なお、ドレーンバルブ68を開ける際、小断面積部77を連通路67から抜いてもかまわない。
【0036】
図7(a)において、メインギャラリ56内のオイルがオイルフィルタ57の位置より低くなるまで、矢印(5)のように、オイルをクランク室44に流れ落とす。そして、オイルフィルタ57を、矢印(6)のように取り外す。このとき、オイルが外部に漏れることはない。
【0037】
(b)に示すように、再び、ドレーンバルブ68及びエアベントボルト72を閉じ、新しいオイルフィルタ57を取り付ける。オイルが外部に流出しておらず、オイルを足す必要がないので、作業工数の低減を図ることができる。
【0038】
尚、本発明に係る船外機用エンジンは、実施の形態では縦型のエンジンに適用したが、いわゆる横型のエンジンにも適用可能であり、オイル通路の中間位置にオイルフィルタが取り付けられているエンジンであれば、他の船外機用エンジンに適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の船外機用エンジンは、船外機に好適である。
【符号の説明】
【0040】
10…船外機、11…船外機用エンジン、36…エンジンの要部(シリンダ)、44…クランク室、45…オイルパン、47、54…エンジンの要部(軸受)、55…オイルポンプ、56…オイル通路(メインギャラリ)、57…オイルフィルタ、66…通孔、67…連通路、68…ドレーンバルブ、71…空気導入路、72…エアベントボルト、73…テーパ部、77…小断面積部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室の下に配置されているオイルパンのオイルをオイルポンプで汲み上げ、このオイルをオイルフィルタで濾過し、縦向きのオイル通路を介して上及び下へ流すことでエンジンの要部へ供給するようにした船外機用エンジンにおいて、
前記オイル通路には、前記オイルフィルタより下方位置に、前記クランク室へつながる連通路が設けられ、この連通路は手動で開閉操作することができるドレーンバルブで塞がれていることを特徴とする船外機用エンジン。
【請求項2】
前記オイル通路には、前記オイルフィルタより上方位置に、外部から空気を入れることができる空気導入路が設けられ、この空気導入路は手動で開閉操作することができるエアベントボルトで塞がれていることを特徴とする請求項1記載の船外機用エンジン。
【請求項3】
前記ドレーンバルブは、先端に前記連通路を閉鎖するテーパ部を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の船外機用エンジン。
【請求項4】
前記ドレーンバルブは、前記テーパ部より先端側に、前記連通路の流路面積より小さな断面積の小断面積部を備え、この小断面積部を前記連通路へ挿入する様にしたことを特徴とする請求項3記載の船外機用エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−249010(P2010−249010A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99140(P2009−99140)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】