船舶バラスト水の処理装置
【課題】船舶の既設のバラスト水系配管に容易に組み込んで、バラスト水中に含まれる水生生物を殺滅することのできる実用的な船舶バラスト水の処理装置の提供。
【解決手段】船舶内に取り込まれたバラスト水を第1のバラストポンプ4によってバラストタンク2に移送するバラスト水系配管から分岐された分岐管131に、プレフィルタユニット132と、オゾン混合装置133と、前記第1のバラストポンプよりも高圧で吐出する第2のバラストポンプ134と、前記第2のバラストポンプ134の二次側に設けられる複数のスリット状の開口を有するスリット板135と、脱気槽136とを設け、前記脱気槽136から排出された脱気後のバラスト水を前記バラスト水系配管に返送するように構成したことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【解決手段】船舶内に取り込まれたバラスト水を第1のバラストポンプ4によってバラストタンク2に移送するバラスト水系配管から分岐された分岐管131に、プレフィルタユニット132と、オゾン混合装置133と、前記第1のバラストポンプよりも高圧で吐出する第2のバラストポンプ134と、前記第2のバラストポンプ134の二次側に設けられる複数のスリット状の開口を有するスリット板135と、脱気槽136とを設け、前記脱気槽136から排出された脱気後のバラスト水を前記バラスト水系配管に返送するように構成したことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶バラスト水の処理装置に関し、詳しくは、船舶の既設のバラスト水系配管に容易に組み込んで、バラスト水中に含まれる水生生物を殺滅することのできる船舶バラスト水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油やコンテナ等を輸送する貨物用船舶には、航行時の船体の安定性を保つためにバラストタンクが設けられている。通常、原油等が積載されていないときには、バラストタンク内をバラスト水で満たし、原油やコンテナ等を積み込む際にバラスト水を排出することにより、船体の浮力を調整し、船体を安定化させている。
【0003】
このようにバラスト水は、船舶の安全な航行のために必要な水であり、通常、荷役を行う港湾の海水が利用される。その量は、世界的にみると年間30〜40億トンと推計されている。
【0004】
ところで、バラスト水中には、それを取水した港湾に生息する水生生物が混入しており、船舶の移動に伴い、これら水生生物が同時に異国に運ばれることになる。
【0005】
従って、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が深刻化している。
【0006】
このような背景の中、国際海事機関(IMO)の外交会議において、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、条約という)が採択され、バラスト水処理装置を用いたバラスト水管理の実施義務が2009年以降の建造船から適用される予定となっている。
【0007】
また、条約によりバラスト水の排出基準は、以下の表1に示すように定められている。
【0008】
【表1】
【0009】
以上のような背景から、上記のような問題を解決できるバラスト水の処理技術の開発が急務となっている。
【0010】
従来、プランクトン等の水生生物を含む水を物理的に処理する手法としては、バラスト水に対してオゾンガスを注入することにより、バラスト水中の水生生物を殺菌あるいは除菌する技術が特許文献1に開示されている。
【0011】
また、水生生物が含まれた水を高圧のポンプによりスリット板に通過させ、水生生物を機械的に破壊して殺滅する技術が特許文献2に開示されている。
【0012】
しかし、いずれにも実際の船舶に如何に搭載してバラスト水を処理するかについての具体的な開示はない。
【特許文献1】特開2004−160437号公報
【特許文献2】特開2003−200156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、船舶の既設のバラスト水系配管に容易に組み込んで、バラスト水中に含まれる水生生物を殺滅することのできる実用的な船舶バラスト水の処理装置を提供することを課題とする。
【0014】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
(請求項1)
船舶内に取り込まれたバラスト水を第1のバラストポンプによってバラストタンクに移送するバラスト水系配管から分岐された分岐管に、
前記バラスト水中から大きな夾雑物を取り除くプレフィルタユニットと、
前記バラスト水中に、オゾン発生器によって生成されたオゾンを混入させるオゾン混合装置と、
前記バラスト水を前記第1のバラストポンプよりも高圧で吐出する第2のバラストポンプと、
前記第2のバラストポンプの二次側に設けられ、前記バラスト水を通過させることにより、該バラスト水中の水生生物を剪断力によって破壊するための複数のスリット状の開口を有するスリット板と、
前記オゾン混合装置によってオゾンが混入されたバラスト水中から未溶解オゾンを脱気するための脱気槽とを設け、
前記脱気槽から排出された脱気後のバラスト水を前記バラスト水系配管に返送するように構成したことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0017】
(請求項2)
前記脱気槽から排出されたバラスト水を前記バラスト水系配管に流入させる管の途中からバラスト水を前記オゾン混合装置の一次側に返送して循環させる返送管を設けると共に、前記スリット板よりも二次側のライン中に所定圧以上の圧力が加わった場合に開弁する安全弁を前記返送管に設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶バラスト水の処理装置。
【0018】
(請求項3)
前記脱気槽によってバラスト水中から分離されたオゾンを分解して大気中に排出する排オゾン分解塔を有することを特徴とする請求項1又は2記載の船舶バラスト水の処理装置。
【0019】
(請求項4)
前記バラスト水系配管中の前記バラストタンク内のバラスト水を排出する排出管に、バラスト水中の臭素酸化物を含むオキシダントを活性炭により除去する除去装置を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の船舶バラスト水の処理装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、船舶の既設のバラスト水系配管に容易に組み込んで、バラスト水中に含まれる水生生物を殺滅することのできる実用的な船舶バラスト水の処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明に係る船舶バラスト水の処理装置が設けられた船舶の主要部の概略を平面視で示す構成図、図2は側面視で示す構成図、図3は図1中のa−a線断面図である。ここでは船舶としてコンテナを積載するコンテナ船を例示している。図中、1は船体、2は船体1の船首付近に配設されたバラストタンク、100はコンテナを収容する荷室、200は機関室である。
【0023】
各バラストタンク2には、船底部付近に設けられたシーチェスト3から、バラストポンプ(第1のバラストポンプ)4の運転によってバラスト水(海水又は淡水)が取り込まれる。バラスト水には、動物プランクトン、植物プランクトン、細菌類などの水生生物が含まれている。バラストポンプ4は、シーチェスト3から船体1内にバラスト水を取り込む取水管5に設けられており、その一次側(バラストポンプ4の手前側)にはストレーナー6が介設されている。
【0024】
このストレーナー6は、バラストポンプ4に流入するバラスト水中の比較的大きな夾雑物を取り除くためのものであり、例えば5〜10mmφ、好ましくは8mmφの穴が、5〜15mmピッチ、好ましくは11mmピッチで開いているものを使用することができる。
【0025】
7は船体1を横断するように配設された排水管であり、両端が船体1の両側部にそれぞれ設けられた排水口8、8’に接続されている。バラストポンプ4の二次側(出口側)の取水管5’は、この排水管7の中途部に接続されている。
【0026】
9はバラスト水を移送する主配管であり、その一端は上記排水管7の中途部に接続されている。その他端には、各バラストタンク2の注水及び排水を行うべく各バラストタンク2内に配設された注排水ノズル10がそれぞれ接続されている。
【0027】
11は各バラストタンク2内のバラスト水を、バラストポンプ4の運転によって船体1外部に排水するために使用するバイパス管であり、主配管9とバラストポンプ4の一次側(入口側)の取水管5との間を接続するように配設されている。
【0028】
なお、符号12a〜12iの構成部品は開閉弁である。
【0029】
かかるバラスト水系配管によって各バラストタンク2にバラスト水を注水する場合、開閉弁12a、12b、12c、12e、12f、12hをそれぞれ開状態、開閉弁12d、12g、12iをそれぞれ閉状態とした後、バラストポンプ4を運転させ、シーチェスト3から取水管5、5’を介してバラスト水を取水する。シーチェスト3から取水管5に流入したバラスト水は、ストレーナー6によって大きなゴミが取り除かれた後、排水管7を通って主配管9に流入する。主配管9に流入したバラスト水は、各バラストタンク2内に設けられた注排水ノズル10から各バラストタンク2内に注水される。
【0030】
また、各バラストタンク2内のバラスト水を排水する場合、今度は、開閉弁12b、12c、12d、12e、12f、12g、12iを開状態、開閉弁12a、12e、12fを閉状態とした後、バラストポンプ4を運転させると、各バラストタンク2内のバラスト水は、注排水ノズル10から主配管9、バイパス管11、取水管5、5’、ストレーナー6、バラストポンプ4を通って排水管7に流入し、船体1の両側部の排水口8、8’から外部に排水される。
【0031】
かかる既設のバラスト水系配管に、本発明に係る船舶バラスト水の処理装置13が設けられる。
【0032】
処理装置13は、以上説明したバラスト水系配管の排水管7の中途部から分岐された分岐管131に、順次、プレフィルタユニット132、オゾン混合装置133、バラストポンプ(第2のバラストポンプ)134、スリット板135及び脱気槽136が介設されている。
【0033】
分岐管131は、排水管7にそれぞれ接続された取水管5’と主配管9との間の排水管7から分岐され、その他端は、脱気槽136から排出されたバラスト水を再び排水管7に返送するべく、上記分岐部分と主配管9との間の排水管7に接続されている。
【0034】
プレフィルタユニット132は、並列に接続された複数のフィルタ132a(図1では4つを示す。)により構成されており、取水管5に設けられたストレーナー6では除去しきれずに処理装置13に取り込まれた夾雑物をバラスト水中から取り除く。特に、バラスト水が後段に設けられたスリット板135のスリット状の開口を通過する際に目詰まりを起こすことがないように、各フィルタ132aのメッシュは、ストレーナー6よりも微細なフィルタが使用され、例えば200〜300μm、好ましくは250μmのメッシュのフィルタが使用される。
【0035】
複数のフィルタ132aは、そのうちのいずれか1つを予備として、残りのフィルタ132aによりバラスト水中から夾雑物を取り除き、その間に予備の1つのフィルタ132aの逆洗を行うことにより目詰まりを解消させるように動作させることが好ましい。複数のフィルタ132aのうちで予備として逆洗するフィルタ132aを定期的に交代することで、長期に亘って目詰まりなく連続運転することができる。
【0036】
オゾン混合装置133は、プレフィルタユニット132を通過したバラスト水に、オゾン発生器133aによって生成されたオゾンを混入させる。オゾン発生器133aには、無声放電型、紫外線照射型等を用いることができ、図2に示すように、船体1内の船尾に配置され、図示しないポンプによって移送管133bを介してオゾン混合装置133に移送されるようになっている。
【0037】
このオゾン混合装置133は、プレフィルタユニット132を通過した後の分岐管131’中を移送されるバラスト水とオゾンもしくはオゾンと酸素の混合気体とを気液混合する気液混合装置(オゾンインジェクター)を用いた例を示しているが、バラスト水中に所定濃度のオゾンを混入させることができるものであれば特に問わない。例えば、スタティックミキサー、ラインミキサーなどの静的混合機を使用することもできる。また、予めバラスト水中に所定の濃度となるようにオゾンもしくはオゾンと酸素の混合気体を混入させたオゾン水を作成しておき、このオゾン水を、プレフィルタユニット132を通過した後の分岐管131’中を移送されるバラスト水に所定の割合となるように混合させることにより、バラスト水に所定濃度のオゾンが混入されるようにしてもよい。
【0038】
このバラスト水中へのオゾンの混入によって、バラスト水中の水生生物の殺菌が行われる。バラスト水中のオゾン濃度は、殺菌効果を発揮する上で、最大で5ppm(gオゾン/m3バラスト水)とすることが好ましい。5ppmを超えるようになると、オゾンによってバラストタンク2等の腐食が懸念されるようになる。より好ましくは0.5〜5ppmの範囲とすることである。
【0039】
分岐管131’中のバラスト水は、バラストポンプ134の運転によって移送される。このバラストポンプ(第2のバラストポンプ)134は、取水管5に介設されたバラストポンプ(第1のバラストポンプ)4の吐出圧力よりも高圧に設定されており、高圧のバラスト水をその二次側に配設されたスリット板135に向けて吐出するようになっている。例えば、第1のバラストポンプ4には、600m3/h、0.25MPaのポンプが使用され、第2のバラストポンプ134には、300m3/h、1.35MPaのポンプが使用される。
【0040】
スリット板135は、オゾン混合装置133によってオゾンが混入されたバラスト水を高圧で通過させることにより、バラスト水中の水生生物を更に剪断力によって破壊する。
【0041】
このスリット板135の詳細を図4〜図8に示す。
【0042】
図4は、分岐管131’内のスリット板135を示す断面図、図5は、図4のb−b線断面図であり、これらに示すように、スリット板135は分岐管131’の内部に、該分岐管131’の流路全体を塞ぐようにして配設されている。
【0043】
スリット板135には複数のスリット状の開口135aが形成されている。開口135aの開口幅は、バラスト水中の水生生物を剪断力によって破壊する効果が充分に発揮され得る幅に設定されるが、好ましくは200μm〜500μmとすることである。
【0044】
分岐管131’内を移送されるバラスト水は、バラストポンプ134によってこのスリット板135に向かって高圧で圧送される。圧送されたバラスト水は乱流状態のままスリット板135のスリット状の開口135aを通過しようとし、この開口135aを通過する際に剪断現象が生じることで、バラスト水中の水生生物を破壊して殺滅する。
【0045】
かかる剪断力による破壊、殺滅効果をより発揮させるために、スリット板135は、バラスト水の流れ方向に対して直交する方向に取り付けることが好ましい。
【0046】
また、スリット板135は、分岐管131’内に密接して取り付けられるが、図示しないが、容易に取り外し可能として洗浄することができるように、フランジ等によって分岐管131’に介設することが好ましい。
【0047】
スリット板135に形成される複数のスリット状の開口135aの形状は、図5に例示するように、細長い長方形状からなるものが好ましい態様として挙げられる。開口135aの本数は特に限定されず、バラスト水の圧力損失、剪断現象の発生状況に応じて適宜設定される。
【0048】
なお、各開口135aは、図5に示すように全て同じ長さに形成してもよいが、図6に示すように、分岐管131’の断面形状に合わせて、中央部の開口135aを長く、端部に行くほど短く形成してもよい。
【0049】
また、各開口135aの形状は直線状に限らず、図7に示すように曲線状でもよい。図7は曲線状の一例である円弧状に配置した態様を示している。
【0050】
更に、分岐管131’内に配設されるスリット板135の枚数は1枚に限らず、複数枚を間隔をおいて配設してもよい。図8は分岐管131内に2枚のスリット板135A、135Bを配設した例を示している。このように複数枚のスリット板135を配設する場合、各スリット板135のそれぞれ開口135aの幅、大きさ、本数、形状を異ならせることが好ましい。これにより、剪断現象をより一層効果的に発揮させることができ、バラスト水中の水生生物の破壊、殺滅効果をより向上させることができる。
【0051】
このようにして、分岐管131’内を移送されるバラスト水中の水生生物は、オゾン混合装置133によるバラスト水中へのオゾン混入及びスリット板135による剪断力によって殺滅される。
【0052】
脱気槽136は、スリット板135を通過したバラスト水中から未溶解オゾンを脱気、分離する。これによって、バラストタンク2等に未溶解オゾン含有のバラスト水が移送されることが防止され、バラストタンク2等の腐食が避けられる。
【0053】
脱気槽136によってバラスト水中から分離されたオゾンを含むガスは、脱気槽136から大気排出される。この排出ラインには、排オゾンを分解するための排オゾン分解塔137を設けておき、この排オゾン分解塔137によって排ガス中のオゾンを分解した後に、船体1のデッキ上から大気中に排出することが好ましい。
【0054】
脱気槽136によって未溶解オゾンを含むガスが脱気、分離されたバラスト水は、再び排水管7に返送される。分岐管131’と排水管7とが接続される2箇所の分岐部分の間には、開閉弁13aが設けられており、この開閉弁13aが閉じられることにより、取水管5から取り込まれたバラスト水が分岐管131側に流入されるようになっている。
【0055】
また、分岐管131’の流入端付近及び流出端付近にも、それぞれ開閉弁13b、13cが設けられ、取水管5、5’から排水管7に移送されたバラスト水を処理装置13に流入させるか否かを切り替えるようになっている。
【0056】
かかる処理装置13によってバラスト水の処理を行う場合、開閉弁12a、12b、12c、12e、12f、12h、13b、13cをそれぞれ開状態、開閉弁12d、12g、12i、13aをそれぞれ閉状態とした後、バラストポンプ4を運転させ、シーチェスト3から取水管5を介してバラスト水を取水する。シーチェスト3から取水管5に流入したバラスト水は、ストレーナー6によって大きなゴミが取り除かれた後、排水管7から分岐管131に流入し、プレフィルタユニット132によって夾雑物が除去された後、オゾン混合装置133によってオゾンが混入され、バラストポンプ134の運転によって高圧でスリット板135に向けて吐出されることによって水生生物が破壊、殺滅される。その後、脱気槽136で未溶解オゾンが脱気、分離されたバラスト水が、再び排水管7に返送され、主配管9を通って各バラストタンク2内に設けられた注排水ノズル10から各バラストタンク2内に注水される。
【0057】
これによって、各バラストタンク2内には、水生生物が殺滅されたバラスト水が貯留されることになる。処理装置13は、排水管7に分岐管131の一端及び131’の一端をそれぞれ接続し、その2箇所の分岐部分の間に開閉弁13aを介設するだけで設置可能であるため、既設のバラスト水系配管に簡単に装備することができる。
【0058】
なお、第1のバラストポンプ4は既設のポンプであり、これはシーチェスト3から取水したバラスト水を各バラストタンク2に移送するに必要十分な吐出圧力を有していればよいため、前述したように、処理装置13内に配設される第2のバラストポンプ134に比べて吐出圧力は小さい。そして、この第1のバラストポンプ4の運転によりバラスト水を各バラストタンク2に移送するために使用される排水管7及び主配管9等の既設のバラスト水系配管は、この第1のバラストポンプ4の吐出圧力に応じた耐圧を有するように設計されている。
【0059】
これに対し、第2のバラストポンプ134は、第1のバラストポンプ4よりも高圧であるため、バラスト水を第2のバラストポンプ134を運転させて処理装置13によって処理する際、第2のバラストポンプ134の高い吐出圧が、第1のバラストポンプ4の吐出圧に応じて比較的低圧に設計されている既設のバラスト水系配管に掛かることになる。このため、処理装置13には、脱気槽136から排出されたバラスト水を既設のバラスト水系配管の排水管7に流入させる管の途中から、バラスト水をオゾン混合装置133の一次側に返送して循環させる返送管138を設けると共に、スリット板135よりも二次側(下流側)のライン131”中に所定圧以上の圧力が加わった場合に開弁する安全弁13dを返送管138に設けておくことが好ましい。
【0060】
これにより、第2のバラストポンプ134の運転中に、何らかの原因によってスリット板135の二次側(下流側)のライン中の圧力が、既設のバラスト水系配管の設計耐圧よりも高くなると、安全弁13dが開弁して、脱気槽136から排出されたバラスト水の一部を返送管138を通してオゾン混合装置133の一次側に返送させて循環させ、既設のバラスト水系配管に設計耐圧を超える高い吐出圧が掛かることを回避することができる。
【0061】
また、これに加えて、処理装置13の分岐管131’、131”は、少なくとも第2のバラストポンプ134とスリット板135とを繋ぐ部位のみが、第2のバラストポンプ134の吐出圧力に応じた高い耐圧を有していれば済み、必ずしも分岐管131の全体の設計耐圧を第2のバラストポンプ134の吐出圧力に応じて高くする必要がなくなる。
【0062】
安全弁13dは、例えばスリット板135の二次側にバラスト水の圧力を計測する図示しない圧力センサを設けておき、その計測値が所定値以上となった場合に開弁動作するように構成しておくことができる。
【0063】
処理装置13には、該処理装置13によって処理されたバラスト水を各バラストタンク2から排水管7の各排水口8、8’から船体1の外部に排出する際にバラスト水中の臭素酸化物を含むオキシダントを活性炭により除去する除去装置139を設けておくことが好ましい。除去装置139により、処理済みバラスト水中に含まれる有害なオキシダント等の酸化性物質(例えば臭素酸化物)を除去できる。
【0064】
図1では、2つの活性炭槽139a、139aが並列に設けられており、それらが排水管7に接続された配管139bに介設されている。配管139bは、排水管7からバラスト水を取り込み、活性炭槽139a、139aを通過させた後、再び排水管7に返送するように設けられている。配管139bの2箇所の接続部分の間には開閉弁13eが設けられており、この開閉弁13eが閉じられることにより、排水管7内を移送されるバラスト水が配管139b側に流入し、除去装置139に移送されるようになっている。
【0065】
この除去装置139において設けられる活性炭槽139aは、何ら2つに限らない。また、除去装置139は、排水管7と主配管9との接続部位を挟んで、各排水口8、8側にそれぞれ配設しておき、活性炭処理済のバラスト水の排水を各排水口8、8’からそれぞれ行えるようにすることがより好ましい。
【0066】
以上説明した実施形態では、オゾン混合装置133をプレフィルタユニット132とバラストポンプ(第2のバラストポンプ)134の間の分岐管131’に介設することで、オゾン混入後のバラスト水をスリット板135に移送するようにしたが、オゾン混合装置133はスリット板135の二次側(排出側)に介設し、スリット板135を通過した後のバラスト水に対してオゾンを混入するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る船舶バラスト水の処理装置が設けられた船舶の主要部の概略を平面視で示す構成図
【図2】本発明に係る船舶バラスト水の処理装置が設けられた船舶の主要部の概略を側面視で示す構成図
【図3】図1中のa−a線断面図
【図4】分岐管内のスリット板を示す断面図
【図5】図4のb−b線断面図
【図6】スリット板の開口の他の態様を示す断面図
【図7】スリット板の開口の更に他の態様を示す断面図
【図8】分岐管内のスリット板の他の態様を示す断面図
【符号の説明】
【0068】
1:船体
2:バラストタンク
3:シーチェスト
4:バラストポンプ(第1のバラストポンプ)
5:取水管
6:ストレーナー
7:排水管
8:排水口
9:主配管
10:注排水ノズル
11:バイパス管
12a〜12i:開閉弁
13:処理装置
13a、13b、13c、13e:開閉弁
13d:安全弁
131:分岐管
132:プレフィルタユニット
132a:フィルタ
133:オゾン混合装置
133a:オゾン発生器
133b:移送管
134:バラストポンプ(第2のバラストポンプ)
135、135A、135B:スリット板
135a:スリット状の開口
136:脱気槽
137:排オゾン分解塔
138:返送管
139:除去装置
139a:活性炭槽
139b:配管
100:荷室
200:機関室
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶バラスト水の処理装置に関し、詳しくは、船舶の既設のバラスト水系配管に容易に組み込んで、バラスト水中に含まれる水生生物を殺滅することのできる船舶バラスト水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油やコンテナ等を輸送する貨物用船舶には、航行時の船体の安定性を保つためにバラストタンクが設けられている。通常、原油等が積載されていないときには、バラストタンク内をバラスト水で満たし、原油やコンテナ等を積み込む際にバラスト水を排出することにより、船体の浮力を調整し、船体を安定化させている。
【0003】
このようにバラスト水は、船舶の安全な航行のために必要な水であり、通常、荷役を行う港湾の海水が利用される。その量は、世界的にみると年間30〜40億トンと推計されている。
【0004】
ところで、バラスト水中には、それを取水した港湾に生息する水生生物が混入しており、船舶の移動に伴い、これら水生生物が同時に異国に運ばれることになる。
【0005】
従って、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が深刻化している。
【0006】
このような背景の中、国際海事機関(IMO)の外交会議において、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、条約という)が採択され、バラスト水処理装置を用いたバラスト水管理の実施義務が2009年以降の建造船から適用される予定となっている。
【0007】
また、条約によりバラスト水の排出基準は、以下の表1に示すように定められている。
【0008】
【表1】
【0009】
以上のような背景から、上記のような問題を解決できるバラスト水の処理技術の開発が急務となっている。
【0010】
従来、プランクトン等の水生生物を含む水を物理的に処理する手法としては、バラスト水に対してオゾンガスを注入することにより、バラスト水中の水生生物を殺菌あるいは除菌する技術が特許文献1に開示されている。
【0011】
また、水生生物が含まれた水を高圧のポンプによりスリット板に通過させ、水生生物を機械的に破壊して殺滅する技術が特許文献2に開示されている。
【0012】
しかし、いずれにも実際の船舶に如何に搭載してバラスト水を処理するかについての具体的な開示はない。
【特許文献1】特開2004−160437号公報
【特許文献2】特開2003−200156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、船舶の既設のバラスト水系配管に容易に組み込んで、バラスト水中に含まれる水生生物を殺滅することのできる実用的な船舶バラスト水の処理装置を提供することを課題とする。
【0014】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
(請求項1)
船舶内に取り込まれたバラスト水を第1のバラストポンプによってバラストタンクに移送するバラスト水系配管から分岐された分岐管に、
前記バラスト水中から大きな夾雑物を取り除くプレフィルタユニットと、
前記バラスト水中に、オゾン発生器によって生成されたオゾンを混入させるオゾン混合装置と、
前記バラスト水を前記第1のバラストポンプよりも高圧で吐出する第2のバラストポンプと、
前記第2のバラストポンプの二次側に設けられ、前記バラスト水を通過させることにより、該バラスト水中の水生生物を剪断力によって破壊するための複数のスリット状の開口を有するスリット板と、
前記オゾン混合装置によってオゾンが混入されたバラスト水中から未溶解オゾンを脱気するための脱気槽とを設け、
前記脱気槽から排出された脱気後のバラスト水を前記バラスト水系配管に返送するように構成したことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0017】
(請求項2)
前記脱気槽から排出されたバラスト水を前記バラスト水系配管に流入させる管の途中からバラスト水を前記オゾン混合装置の一次側に返送して循環させる返送管を設けると共に、前記スリット板よりも二次側のライン中に所定圧以上の圧力が加わった場合に開弁する安全弁を前記返送管に設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶バラスト水の処理装置。
【0018】
(請求項3)
前記脱気槽によってバラスト水中から分離されたオゾンを分解して大気中に排出する排オゾン分解塔を有することを特徴とする請求項1又は2記載の船舶バラスト水の処理装置。
【0019】
(請求項4)
前記バラスト水系配管中の前記バラストタンク内のバラスト水を排出する排出管に、バラスト水中の臭素酸化物を含むオキシダントを活性炭により除去する除去装置を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の船舶バラスト水の処理装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、船舶の既設のバラスト水系配管に容易に組み込んで、バラスト水中に含まれる水生生物を殺滅することのできる実用的な船舶バラスト水の処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明に係る船舶バラスト水の処理装置が設けられた船舶の主要部の概略を平面視で示す構成図、図2は側面視で示す構成図、図3は図1中のa−a線断面図である。ここでは船舶としてコンテナを積載するコンテナ船を例示している。図中、1は船体、2は船体1の船首付近に配設されたバラストタンク、100はコンテナを収容する荷室、200は機関室である。
【0023】
各バラストタンク2には、船底部付近に設けられたシーチェスト3から、バラストポンプ(第1のバラストポンプ)4の運転によってバラスト水(海水又は淡水)が取り込まれる。バラスト水には、動物プランクトン、植物プランクトン、細菌類などの水生生物が含まれている。バラストポンプ4は、シーチェスト3から船体1内にバラスト水を取り込む取水管5に設けられており、その一次側(バラストポンプ4の手前側)にはストレーナー6が介設されている。
【0024】
このストレーナー6は、バラストポンプ4に流入するバラスト水中の比較的大きな夾雑物を取り除くためのものであり、例えば5〜10mmφ、好ましくは8mmφの穴が、5〜15mmピッチ、好ましくは11mmピッチで開いているものを使用することができる。
【0025】
7は船体1を横断するように配設された排水管であり、両端が船体1の両側部にそれぞれ設けられた排水口8、8’に接続されている。バラストポンプ4の二次側(出口側)の取水管5’は、この排水管7の中途部に接続されている。
【0026】
9はバラスト水を移送する主配管であり、その一端は上記排水管7の中途部に接続されている。その他端には、各バラストタンク2の注水及び排水を行うべく各バラストタンク2内に配設された注排水ノズル10がそれぞれ接続されている。
【0027】
11は各バラストタンク2内のバラスト水を、バラストポンプ4の運転によって船体1外部に排水するために使用するバイパス管であり、主配管9とバラストポンプ4の一次側(入口側)の取水管5との間を接続するように配設されている。
【0028】
なお、符号12a〜12iの構成部品は開閉弁である。
【0029】
かかるバラスト水系配管によって各バラストタンク2にバラスト水を注水する場合、開閉弁12a、12b、12c、12e、12f、12hをそれぞれ開状態、開閉弁12d、12g、12iをそれぞれ閉状態とした後、バラストポンプ4を運転させ、シーチェスト3から取水管5、5’を介してバラスト水を取水する。シーチェスト3から取水管5に流入したバラスト水は、ストレーナー6によって大きなゴミが取り除かれた後、排水管7を通って主配管9に流入する。主配管9に流入したバラスト水は、各バラストタンク2内に設けられた注排水ノズル10から各バラストタンク2内に注水される。
【0030】
また、各バラストタンク2内のバラスト水を排水する場合、今度は、開閉弁12b、12c、12d、12e、12f、12g、12iを開状態、開閉弁12a、12e、12fを閉状態とした後、バラストポンプ4を運転させると、各バラストタンク2内のバラスト水は、注排水ノズル10から主配管9、バイパス管11、取水管5、5’、ストレーナー6、バラストポンプ4を通って排水管7に流入し、船体1の両側部の排水口8、8’から外部に排水される。
【0031】
かかる既設のバラスト水系配管に、本発明に係る船舶バラスト水の処理装置13が設けられる。
【0032】
処理装置13は、以上説明したバラスト水系配管の排水管7の中途部から分岐された分岐管131に、順次、プレフィルタユニット132、オゾン混合装置133、バラストポンプ(第2のバラストポンプ)134、スリット板135及び脱気槽136が介設されている。
【0033】
分岐管131は、排水管7にそれぞれ接続された取水管5’と主配管9との間の排水管7から分岐され、その他端は、脱気槽136から排出されたバラスト水を再び排水管7に返送するべく、上記分岐部分と主配管9との間の排水管7に接続されている。
【0034】
プレフィルタユニット132は、並列に接続された複数のフィルタ132a(図1では4つを示す。)により構成されており、取水管5に設けられたストレーナー6では除去しきれずに処理装置13に取り込まれた夾雑物をバラスト水中から取り除く。特に、バラスト水が後段に設けられたスリット板135のスリット状の開口を通過する際に目詰まりを起こすことがないように、各フィルタ132aのメッシュは、ストレーナー6よりも微細なフィルタが使用され、例えば200〜300μm、好ましくは250μmのメッシュのフィルタが使用される。
【0035】
複数のフィルタ132aは、そのうちのいずれか1つを予備として、残りのフィルタ132aによりバラスト水中から夾雑物を取り除き、その間に予備の1つのフィルタ132aの逆洗を行うことにより目詰まりを解消させるように動作させることが好ましい。複数のフィルタ132aのうちで予備として逆洗するフィルタ132aを定期的に交代することで、長期に亘って目詰まりなく連続運転することができる。
【0036】
オゾン混合装置133は、プレフィルタユニット132を通過したバラスト水に、オゾン発生器133aによって生成されたオゾンを混入させる。オゾン発生器133aには、無声放電型、紫外線照射型等を用いることができ、図2に示すように、船体1内の船尾に配置され、図示しないポンプによって移送管133bを介してオゾン混合装置133に移送されるようになっている。
【0037】
このオゾン混合装置133は、プレフィルタユニット132を通過した後の分岐管131’中を移送されるバラスト水とオゾンもしくはオゾンと酸素の混合気体とを気液混合する気液混合装置(オゾンインジェクター)を用いた例を示しているが、バラスト水中に所定濃度のオゾンを混入させることができるものであれば特に問わない。例えば、スタティックミキサー、ラインミキサーなどの静的混合機を使用することもできる。また、予めバラスト水中に所定の濃度となるようにオゾンもしくはオゾンと酸素の混合気体を混入させたオゾン水を作成しておき、このオゾン水を、プレフィルタユニット132を通過した後の分岐管131’中を移送されるバラスト水に所定の割合となるように混合させることにより、バラスト水に所定濃度のオゾンが混入されるようにしてもよい。
【0038】
このバラスト水中へのオゾンの混入によって、バラスト水中の水生生物の殺菌が行われる。バラスト水中のオゾン濃度は、殺菌効果を発揮する上で、最大で5ppm(gオゾン/m3バラスト水)とすることが好ましい。5ppmを超えるようになると、オゾンによってバラストタンク2等の腐食が懸念されるようになる。より好ましくは0.5〜5ppmの範囲とすることである。
【0039】
分岐管131’中のバラスト水は、バラストポンプ134の運転によって移送される。このバラストポンプ(第2のバラストポンプ)134は、取水管5に介設されたバラストポンプ(第1のバラストポンプ)4の吐出圧力よりも高圧に設定されており、高圧のバラスト水をその二次側に配設されたスリット板135に向けて吐出するようになっている。例えば、第1のバラストポンプ4には、600m3/h、0.25MPaのポンプが使用され、第2のバラストポンプ134には、300m3/h、1.35MPaのポンプが使用される。
【0040】
スリット板135は、オゾン混合装置133によってオゾンが混入されたバラスト水を高圧で通過させることにより、バラスト水中の水生生物を更に剪断力によって破壊する。
【0041】
このスリット板135の詳細を図4〜図8に示す。
【0042】
図4は、分岐管131’内のスリット板135を示す断面図、図5は、図4のb−b線断面図であり、これらに示すように、スリット板135は分岐管131’の内部に、該分岐管131’の流路全体を塞ぐようにして配設されている。
【0043】
スリット板135には複数のスリット状の開口135aが形成されている。開口135aの開口幅は、バラスト水中の水生生物を剪断力によって破壊する効果が充分に発揮され得る幅に設定されるが、好ましくは200μm〜500μmとすることである。
【0044】
分岐管131’内を移送されるバラスト水は、バラストポンプ134によってこのスリット板135に向かって高圧で圧送される。圧送されたバラスト水は乱流状態のままスリット板135のスリット状の開口135aを通過しようとし、この開口135aを通過する際に剪断現象が生じることで、バラスト水中の水生生物を破壊して殺滅する。
【0045】
かかる剪断力による破壊、殺滅効果をより発揮させるために、スリット板135は、バラスト水の流れ方向に対して直交する方向に取り付けることが好ましい。
【0046】
また、スリット板135は、分岐管131’内に密接して取り付けられるが、図示しないが、容易に取り外し可能として洗浄することができるように、フランジ等によって分岐管131’に介設することが好ましい。
【0047】
スリット板135に形成される複数のスリット状の開口135aの形状は、図5に例示するように、細長い長方形状からなるものが好ましい態様として挙げられる。開口135aの本数は特に限定されず、バラスト水の圧力損失、剪断現象の発生状況に応じて適宜設定される。
【0048】
なお、各開口135aは、図5に示すように全て同じ長さに形成してもよいが、図6に示すように、分岐管131’の断面形状に合わせて、中央部の開口135aを長く、端部に行くほど短く形成してもよい。
【0049】
また、各開口135aの形状は直線状に限らず、図7に示すように曲線状でもよい。図7は曲線状の一例である円弧状に配置した態様を示している。
【0050】
更に、分岐管131’内に配設されるスリット板135の枚数は1枚に限らず、複数枚を間隔をおいて配設してもよい。図8は分岐管131内に2枚のスリット板135A、135Bを配設した例を示している。このように複数枚のスリット板135を配設する場合、各スリット板135のそれぞれ開口135aの幅、大きさ、本数、形状を異ならせることが好ましい。これにより、剪断現象をより一層効果的に発揮させることができ、バラスト水中の水生生物の破壊、殺滅効果をより向上させることができる。
【0051】
このようにして、分岐管131’内を移送されるバラスト水中の水生生物は、オゾン混合装置133によるバラスト水中へのオゾン混入及びスリット板135による剪断力によって殺滅される。
【0052】
脱気槽136は、スリット板135を通過したバラスト水中から未溶解オゾンを脱気、分離する。これによって、バラストタンク2等に未溶解オゾン含有のバラスト水が移送されることが防止され、バラストタンク2等の腐食が避けられる。
【0053】
脱気槽136によってバラスト水中から分離されたオゾンを含むガスは、脱気槽136から大気排出される。この排出ラインには、排オゾンを分解するための排オゾン分解塔137を設けておき、この排オゾン分解塔137によって排ガス中のオゾンを分解した後に、船体1のデッキ上から大気中に排出することが好ましい。
【0054】
脱気槽136によって未溶解オゾンを含むガスが脱気、分離されたバラスト水は、再び排水管7に返送される。分岐管131’と排水管7とが接続される2箇所の分岐部分の間には、開閉弁13aが設けられており、この開閉弁13aが閉じられることにより、取水管5から取り込まれたバラスト水が分岐管131側に流入されるようになっている。
【0055】
また、分岐管131’の流入端付近及び流出端付近にも、それぞれ開閉弁13b、13cが設けられ、取水管5、5’から排水管7に移送されたバラスト水を処理装置13に流入させるか否かを切り替えるようになっている。
【0056】
かかる処理装置13によってバラスト水の処理を行う場合、開閉弁12a、12b、12c、12e、12f、12h、13b、13cをそれぞれ開状態、開閉弁12d、12g、12i、13aをそれぞれ閉状態とした後、バラストポンプ4を運転させ、シーチェスト3から取水管5を介してバラスト水を取水する。シーチェスト3から取水管5に流入したバラスト水は、ストレーナー6によって大きなゴミが取り除かれた後、排水管7から分岐管131に流入し、プレフィルタユニット132によって夾雑物が除去された後、オゾン混合装置133によってオゾンが混入され、バラストポンプ134の運転によって高圧でスリット板135に向けて吐出されることによって水生生物が破壊、殺滅される。その後、脱気槽136で未溶解オゾンが脱気、分離されたバラスト水が、再び排水管7に返送され、主配管9を通って各バラストタンク2内に設けられた注排水ノズル10から各バラストタンク2内に注水される。
【0057】
これによって、各バラストタンク2内には、水生生物が殺滅されたバラスト水が貯留されることになる。処理装置13は、排水管7に分岐管131の一端及び131’の一端をそれぞれ接続し、その2箇所の分岐部分の間に開閉弁13aを介設するだけで設置可能であるため、既設のバラスト水系配管に簡単に装備することができる。
【0058】
なお、第1のバラストポンプ4は既設のポンプであり、これはシーチェスト3から取水したバラスト水を各バラストタンク2に移送するに必要十分な吐出圧力を有していればよいため、前述したように、処理装置13内に配設される第2のバラストポンプ134に比べて吐出圧力は小さい。そして、この第1のバラストポンプ4の運転によりバラスト水を各バラストタンク2に移送するために使用される排水管7及び主配管9等の既設のバラスト水系配管は、この第1のバラストポンプ4の吐出圧力に応じた耐圧を有するように設計されている。
【0059】
これに対し、第2のバラストポンプ134は、第1のバラストポンプ4よりも高圧であるため、バラスト水を第2のバラストポンプ134を運転させて処理装置13によって処理する際、第2のバラストポンプ134の高い吐出圧が、第1のバラストポンプ4の吐出圧に応じて比較的低圧に設計されている既設のバラスト水系配管に掛かることになる。このため、処理装置13には、脱気槽136から排出されたバラスト水を既設のバラスト水系配管の排水管7に流入させる管の途中から、バラスト水をオゾン混合装置133の一次側に返送して循環させる返送管138を設けると共に、スリット板135よりも二次側(下流側)のライン131”中に所定圧以上の圧力が加わった場合に開弁する安全弁13dを返送管138に設けておくことが好ましい。
【0060】
これにより、第2のバラストポンプ134の運転中に、何らかの原因によってスリット板135の二次側(下流側)のライン中の圧力が、既設のバラスト水系配管の設計耐圧よりも高くなると、安全弁13dが開弁して、脱気槽136から排出されたバラスト水の一部を返送管138を通してオゾン混合装置133の一次側に返送させて循環させ、既設のバラスト水系配管に設計耐圧を超える高い吐出圧が掛かることを回避することができる。
【0061】
また、これに加えて、処理装置13の分岐管131’、131”は、少なくとも第2のバラストポンプ134とスリット板135とを繋ぐ部位のみが、第2のバラストポンプ134の吐出圧力に応じた高い耐圧を有していれば済み、必ずしも分岐管131の全体の設計耐圧を第2のバラストポンプ134の吐出圧力に応じて高くする必要がなくなる。
【0062】
安全弁13dは、例えばスリット板135の二次側にバラスト水の圧力を計測する図示しない圧力センサを設けておき、その計測値が所定値以上となった場合に開弁動作するように構成しておくことができる。
【0063】
処理装置13には、該処理装置13によって処理されたバラスト水を各バラストタンク2から排水管7の各排水口8、8’から船体1の外部に排出する際にバラスト水中の臭素酸化物を含むオキシダントを活性炭により除去する除去装置139を設けておくことが好ましい。除去装置139により、処理済みバラスト水中に含まれる有害なオキシダント等の酸化性物質(例えば臭素酸化物)を除去できる。
【0064】
図1では、2つの活性炭槽139a、139aが並列に設けられており、それらが排水管7に接続された配管139bに介設されている。配管139bは、排水管7からバラスト水を取り込み、活性炭槽139a、139aを通過させた後、再び排水管7に返送するように設けられている。配管139bの2箇所の接続部分の間には開閉弁13eが設けられており、この開閉弁13eが閉じられることにより、排水管7内を移送されるバラスト水が配管139b側に流入し、除去装置139に移送されるようになっている。
【0065】
この除去装置139において設けられる活性炭槽139aは、何ら2つに限らない。また、除去装置139は、排水管7と主配管9との接続部位を挟んで、各排水口8、8側にそれぞれ配設しておき、活性炭処理済のバラスト水の排水を各排水口8、8’からそれぞれ行えるようにすることがより好ましい。
【0066】
以上説明した実施形態では、オゾン混合装置133をプレフィルタユニット132とバラストポンプ(第2のバラストポンプ)134の間の分岐管131’に介設することで、オゾン混入後のバラスト水をスリット板135に移送するようにしたが、オゾン混合装置133はスリット板135の二次側(排出側)に介設し、スリット板135を通過した後のバラスト水に対してオゾンを混入するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る船舶バラスト水の処理装置が設けられた船舶の主要部の概略を平面視で示す構成図
【図2】本発明に係る船舶バラスト水の処理装置が設けられた船舶の主要部の概略を側面視で示す構成図
【図3】図1中のa−a線断面図
【図4】分岐管内のスリット板を示す断面図
【図5】図4のb−b線断面図
【図6】スリット板の開口の他の態様を示す断面図
【図7】スリット板の開口の更に他の態様を示す断面図
【図8】分岐管内のスリット板の他の態様を示す断面図
【符号の説明】
【0068】
1:船体
2:バラストタンク
3:シーチェスト
4:バラストポンプ(第1のバラストポンプ)
5:取水管
6:ストレーナー
7:排水管
8:排水口
9:主配管
10:注排水ノズル
11:バイパス管
12a〜12i:開閉弁
13:処理装置
13a、13b、13c、13e:開閉弁
13d:安全弁
131:分岐管
132:プレフィルタユニット
132a:フィルタ
133:オゾン混合装置
133a:オゾン発生器
133b:移送管
134:バラストポンプ(第2のバラストポンプ)
135、135A、135B:スリット板
135a:スリット状の開口
136:脱気槽
137:排オゾン分解塔
138:返送管
139:除去装置
139a:活性炭槽
139b:配管
100:荷室
200:機関室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶内に取り込まれたバラスト水を第1のバラストポンプによってバラストタンクに移送するバラスト水系配管から分岐された分岐管に、
前記バラスト水中から大きな夾雑物を取り除くプレフィルタユニットと、
前記バラスト水中に、オゾン発生器によって生成されたオゾンを混入させるオゾン混合装置と、
前記バラスト水を前記第1のバラストポンプよりも高圧で吐出する第2のバラストポンプと、
前記第2のバラストポンプの二次側に設けられ、前記バラスト水を通過させることにより、該バラスト水中の水生生物を剪断力によって破壊するための複数のスリット状の開口を有するスリット板と、
前記オゾン混合装置によってオゾンが混入されたバラスト水中から未溶解オゾンを脱気するための脱気槽とを設け、
前記脱気槽から排出された脱気後のバラスト水を前記バラスト水系配管に返送するように構成したことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項2】
前記脱気槽から排出されたバラスト水を前記バラスト水系配管に流入させる管の途中からバラスト水を前記オゾン混合装置の一次側に返送して循環させる返送管を設けると共に、前記スリット板よりも二次側のライン中に所定圧以上の圧力が加わった場合に開弁する安全弁を前記返送管に設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶バラスト水の処理装置。
【請求項3】
前記脱気槽によってバラスト水中から分離されたオゾンを分解して大気中に排出する排オゾン分解塔を有することを特徴とする請求項1又は2記載の船舶バラスト水の処理装置。
【請求項4】
前記バラスト水系配管中の前記バラストタンク内のバラスト水を排出する排出管に、バラスト水中の臭素酸化物を含むオキシダントを活性炭により除去する除去装置を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の船舶バラスト水の処理装置。
【請求項1】
船舶内に取り込まれたバラスト水を第1のバラストポンプによってバラストタンクに移送するバラスト水系配管から分岐された分岐管に、
前記バラスト水中から大きな夾雑物を取り除くプレフィルタユニットと、
前記バラスト水中に、オゾン発生器によって生成されたオゾンを混入させるオゾン混合装置と、
前記バラスト水を前記第1のバラストポンプよりも高圧で吐出する第2のバラストポンプと、
前記第2のバラストポンプの二次側に設けられ、前記バラスト水を通過させることにより、該バラスト水中の水生生物を剪断力によって破壊するための複数のスリット状の開口を有するスリット板と、
前記オゾン混合装置によってオゾンが混入されたバラスト水中から未溶解オゾンを脱気するための脱気槽とを設け、
前記脱気槽から排出された脱気後のバラスト水を前記バラスト水系配管に返送するように構成したことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項2】
前記脱気槽から排出されたバラスト水を前記バラスト水系配管に流入させる管の途中からバラスト水を前記オゾン混合装置の一次側に返送して循環させる返送管を設けると共に、前記スリット板よりも二次側のライン中に所定圧以上の圧力が加わった場合に開弁する安全弁を前記返送管に設けたことを特徴とする請求項1記載の船舶バラスト水の処理装置。
【請求項3】
前記脱気槽によってバラスト水中から分離されたオゾンを分解して大気中に排出する排オゾン分解塔を有することを特徴とする請求項1又は2記載の船舶バラスト水の処理装置。
【請求項4】
前記バラスト水系配管中の前記バラストタンク内のバラスト水を排出する排出管に、バラスト水中の臭素酸化物を含むオキシダントを活性炭により除去する除去装置を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の船舶バラスト水の処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2008−86892(P2008−86892A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269705(P2006−269705)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(505062307)社団法人日本海難防止協会 (3)
【出願人】(500512162)株式会社エム・オー・マリンコンサルティング (3)
【出願人】(591037362)株式会社海洋開発技術研究所 (7)
【出願人】(591084296)株式会社シンコー (5)
【出願人】(505062318)株式会社水圏科学コンサルタント (7)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(505062307)社団法人日本海難防止協会 (3)
【出願人】(500512162)株式会社エム・オー・マリンコンサルティング (3)
【出願人】(591037362)株式会社海洋開発技術研究所 (7)
【出願人】(591084296)株式会社シンコー (5)
【出願人】(505062318)株式会社水圏科学コンサルタント (7)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【Fターム(参考)】
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