説明

船舶用バラスト水の製造方法及び製造装置

【課題】 船舶が停泊する港湾域の海水中のプランクトン類及び細菌類を共に死滅させる方法以外の方法で効率的に除去する船舶用バラスト水の製造方法及び製造装置を提供すること。
【解決手段】 船舶が停泊する港湾域の海水を孔径2μm以上の濾過膜に通すことにより海水中のプランクトン類を除去するプランクトン類除去工程と、プランクトン類が除去された海水を孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜に通すことにより海水中の細菌類を除去する細菌類除去工程を有し、該細菌類除去工程で得られる膜濾過水をバラスト水として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の航行時における重心安定のために積載する微生物が除去された船舶用バラスト水(以下、単に「バラスト水」とも言う。)の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油タンカー、鉱石運搬船、自動車運搬船等は空荷や積載貨物量が少ない状態で航行する場合がある。その際、船体が浮力により浮き上がり、スクリューや方向舵が水面下に没しなかったり、水面上の船体が風の影響を大きく受けて操縦性が損なわれ航行上極めて危険な状態となる。このため、通常の船舶は航行時の浮力を調整するため、通常載荷重量の30〜40重量%のバラスト水を積載する。
【0003】
例えば、原油タンカーによる輸送は産油国と消費国の往復となり、消費国から産油国への航行では積荷がなく、消費国で船舶内のバラスト水槽に停泊区域の海水等を積載してバラスト水としている。一方、バラスト水を積んだ船舶は産油国の近海、あるいは港湾でバラスト水を排出して、原油を積載している。
【0004】
近年、船舶から排出されるバラスト水により特定海域に本来生息しないプランクトン類や細菌類が持ち込まれ、これに起因して海洋生態系の破壊が生じ、当該水域住民の生活に重大な被害を与えるだけではなく、全世界的な海洋環境の破壊が生じており、深刻な国際問題となっている。このため、バラスト水中のプランクトン類や細菌類除去を目的として、国際的な規模で各種の方法が検討されている。
【0005】
海洋理工学会平成15年度秋季大会講演論文集73−78には、孔径5μmのフィルターを備えた高速濾過装置に海水を通水して得られたバラスト水は、植物プランクトンの除去率が97.6%であり、2003年7月の国際海事機構(IMO)の海洋環境保護委員会(MEPC)で議論されているガイドライン数値を達成することが開示されているものの、プランクトン類以外の細菌類については検討されていない。しかし、孔径5μmのフィルターでは5μm以下の大きさの細菌類である微小生物を除去することができないことは明白である。
【0006】
バラスト水として汲み込まれる海水中のプランクトン類以外の細菌類を除去する方法としては、例えば海水を加熱して細菌類を死滅させる方法(特開2003−181443号公報)、海水に紫外線を照射して細菌類を不活性化させる方法(特表2000−515803号公報、特開平11−265684号公報)、ヨウ素で処理する方法(特表2002−504851号公報)及び次亜塩素酸で処理する方法(特開平04−322788号公報)等が提案されている。
【非特許文献1】海洋理工学会平成15年度秋季大会講演論文集73−78頁
【特許文献1】特開2003−181443号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表2000−515803号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−265684号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特表2002−504851号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平04−322788号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平2003−154360号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、海水を加熱する方法は、加熱エネルギーの調達手段によっては経済的ではなく、また細菌類を完全に死滅させるのが困難である。また、海水に紫外線を照射する方法は、全ての細菌類を死滅又は不活性化させるために要する電力が膨大であり、また高流量の海水を処理するには多数のUV装置を並列に設置しなければない等装置の設置コストを高騰させる。また、海水をヨウ素や次亜塩素酸等の薬剤で処理する方法は、細菌の種類によっては死滅させるのに高濃度の薬剤が必要となり、経済的ではなく、更に排出されるバラスト水中に含まれる残留薬剤の環境への影響に関する問題も発生する。
【0008】
海水中の細菌類を死滅させる方法は、前述の如く、細菌類の死滅に完全を期し難く、また屍骸による汚染が生態系に与える影響も懸念されている。更に死滅せずに残留した少量の細菌類が輸送中に増殖することから、これらの細菌類を完全に除去する方法の開発が切望されている。また、海水を精密濾過膜に通すことで海水中の細菌類を除去する方法も知られているが(特開2003−154360号公報)、この方法で得られる膜濾過水は魚介類の洗浄等に使用されるものであって、船舶のバラスト水に使用するものではない。
【0009】
従って、本発明の目的は、船舶が停泊する港湾域の海水中のプランクトン類及び細菌類を共に死滅させる方法以外の方法で効率的に除去する船舶用バラスト水の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、海水には、プランクトン、魚介類の幼生・卵等のようなサイズが比較的大きなものと、細菌類(バクテリア類)等のようなサイズが比較的小さな微小生物が含まれていること、海水を孔径が2μm以上の濾過膜に通水してプランクトン類を予め除去し、該処理水を更に孔径が1μm以下の濾過膜に通水して細菌類を除去すれば、短い停泊時間内でプランクトン類と細菌類をほぼ完全に除去したバラスト水を製造することができること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、船舶が停泊する港湾域の海水を孔径2μm以上の濾過膜に通すことにより海水中のプランクトン類を除去するプランクトン類除去工程と、プランクトン類が除去された海水を孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜に通すことにより海水中の細菌類を除去する細菌類除去工程を有し、該細菌類除去工程で得られる膜濾過水をバラスト水として用いることを特徴とする船舶用バラスト水の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、前記孔径2μm以上の濾過膜が、金属濾過膜であることを特徴とする前記船舶用バラスト水の製造方法を提供するものである。また、本発明は、前記細菌類濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする前記船舶用バラスト水の製造方法を提供するものである。また、本発明は、逆洗により細菌類濾過膜を洗浄する逆洗工程を更に有することを特徴とする前記船舶用バラスト水の製造方法を提供するものである。また、本発明は、プランクトン類除去工程の前に予め、少なくとも海水中の油分を除去することを特徴とする前記船舶用バラスト水の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、船舶が停泊する港湾域の海水を供給する海水供給手段と、供給された海水中のプランクトン類を除去する孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置と、プランクトン類が除去された海水中の細菌類を除去する孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜を備える濾過装置を有することを特徴とする船舶用バラスト水製造装置を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置の前段に、少なくとも海水中の油分を除去する油分除去装置を設置する前記船舶用バラスト水製造装置を提供するものである。また、本発明は、前記細菌類濾過膜装置に逆洗水を供給する逆洗水供給手段を更に備える前記船舶用バラスト水製造装置を提供するものである。また、本発明は、前記細菌類濾過膜装置が、加圧型中空糸膜装置又は浸漬型中空糸膜装置である前記船舶用バラスト水製造装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バラスト水として使用される海水中のプランクトン類と細菌類を、直列2段に設置された濾過膜で効果的に除去できるので船舶から排出されるバラスト水により特定海域に本来生息しないプランクトン類や細菌類が持ち込まれることはなく、更に海洋環境を破壊することもない。また膜濾過水を、例えばバラスト水貯留槽に貯留しておけば、必要な時に船舶にバラスト水として汲み込める。また、該各工程を船舶上で行う場合、陸上に設置する装置及び設置スペース、並びに陸上作業者が不要となる。また、前段の濾過膜に金属濾過膜を用い、後段の濾過膜に中空糸膜を用いれば、装置全体をコンパクト化でき且つ膜面の洗浄による回復も容易であり、実質的に連続通水が可能となり、短い停泊時間内にバラスト水を船舶に供給することができ、停泊期間を延長させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のバラスト水の製造方法において、船舶が停泊する港湾域の海水としては、特に制限されないが、プランクトン類及び細菌類の他、通常油分が1〜1000ppm含まれ、濁度が1〜100度の海水である。本発明において、プランクトン類としては、大きさが5μm以上のものを言い、通常植物プランクトンと動物プランクトンに分類されるプランクトンの他、魚介類の幼生・卵等も含む意味である。プランクトン類の具体的としては、ミジンコの幼生、北太平洋ヒトデの幼生、アジア昆布の幼生、ゼブラ貝の幼生及び毒性藻類等が例示される。本発明において、細菌類としては、5μm未満の微小生物を言い、例えば大腸菌、コレラ菌、腸球菌等が挙げられる。細菌類は最も小さいもので0.3〜0.5μm程度である。
【0017】
本発明のバラスト水の製造方法のプランクトン類除去工程は、海水を孔径2μm以上、通常2〜20μmの濾過膜(前段濾過膜)に通すことにより海水中のプランクトン類を除去する工程である。孔径2μm以上の濾過膜としては、特に制限されないが、金属濾過膜及び有機濾過膜などが挙げられ、このうち、金属濾過膜が好ましい。有機濾過膜を用いた濾過体としては、例えばポリプロピレン等の糸を巻いたワインドタイプのカートリッジフィルタ、不織布やメンブレンフィルタをプリーツ状に折ったカートリッジフィルタ、径方向に対して所定の角度傾いたスリット状の溝を有するポリプロピレン製のリング状平板を積層して形成されるエレメント体などが挙げられる。このうち、カートリッジタイプのものは通常逆洗が行えないため使い捨てにするため経済的でないだけでなく交換操作が煩雑で特に船舶上の装置には不向きである。また、積層エレメント体はリング状の平板を積み重ねて形成されるスリット状の溝のみの濾過のため、装置体積当たりの濾過面積が小さく装置スペースが大きくなるという欠点を有する。これに対して、金属濾過膜は、強度を高くでき濾過速度を高めることができるため、有機濾過膜と比べて約1/5〜1/10装置のコンパクト化が図れ、更に膜面の洗浄を熱水や蒸気等による簡易な方法でも行える点で好ましい。
【0018】
金属濾過膜の孔径は、公称値で表示されるものであり、例えば公称孔径2.5μm〜20μmのものが好適である。プランクトン類除去工程で用いる濾過膜の孔径の上限値としては、特に制限されないが、余り大き過ぎると、プランクトン類の除去率が低下して、後段の細菌類濾過膜の目詰まりを促進する点で好ましくなく、通常50μmである。
【0019】
金属濾過膜としては、特に制限されないが、ステンレスなどの耐食性金属の金属繊維のフェルトを積層し焼結した不織布フィルター及び網目状シート体の複数枚を積層し固定したメッシュ状フィルター等が挙げられる。このような金属濾過膜を組み込んだ濾過装置は、通常、全量濾過方式のものである。また、濾過液流出管であるパイプ状軸心の周囲に円筒状の金属濾過膜を付設し、金属濾過膜面に近接して高速ジェット流の噴射口を配設した回転濾過装置であれば、連続通水を行いつつ膜面に捕集されたプランクトン類を高速の水流によって頻繁に洗浄できるため、濾過時間が短縮できる点で好ましい。また、本発明のプランクトン類除去工程におけるプランクトン除去率は、特に制限されないが、除去率が高いほど、後段の細菌類濾過膜の目詰まりに悪影響しない点で好ましい。
【0020】
本発明のバラスト水の製造方法の細菌類除去工程は、プランクトン類が除去された海水を孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜(後段濾過膜)に通すことにより海水中の細菌類を除去する工程である。海水を直接、孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜に通すと、プランクトン類及び細菌類を共に除去できるものの、逆洗を頻繁に行う必要があるか、あるいは濾過膜の目が閉塞して早期に回生不能となる恐れがある。これに対して、本発明においては、プランクトン類除去工程において、海水中の2μm以上のプランクトン類やその他の異物が除去されており、細菌類除去工程においては、粗取りされた一次処理水を細菌類濾過膜で処理するため、濾過効率が向上する。濾過細菌類濾過膜としては、中空糸膜、平膜、管状膜等の精密濾過膜(MF)、及び限外濾過膜(UF)が挙げられる。このうち、中空糸膜が、単位体積当りの濾過面積を最も大とすることができる点で好ましい。
【0021】
中空糸膜は、中空糸を多数本並列に並べられて用いるもので、中空構造を有し、更に該中空構造を形成する孔に連通して、膜面の該孔に連通する細孔を多数形成したものであり、外圧式と内圧式とがある。本発明において、細菌類濾過膜として精密濾過膜を用いる場合は、中空糸膜の細孔の径としては、0.01〜0.4μm、好ましくは0.01〜0.3μmである。また、限外濾過膜を用いる場合は、中空糸膜の細孔の径としては、0.002〜0.01μmである。海水中の細菌類の大きさは通常数μm、最小のものでも0.3〜0.5μm程度であり、従って、上記細孔径の中空糸膜を使用すれば、海水中のこれらの細菌類をほぼ完全に除去することができる。また、膜面に付着した細菌類を除去して、その濾過能力を回復するために逆洗を行うが、本逆洗とは別に、濾過中に膜面の外側から気泡でバブルさせて膜面に付着した細菌類を剥離除去する操作ができる点で外圧式中空糸膜を使用することが好ましい。
【0022】
また、中空糸膜は加圧型中空糸膜装置又は浸漬型中空糸膜装置として使用される。加圧型中空糸膜装置を用いる方法は、圧力容器内に装填した中空糸に加圧ポンプで海水を供給して海水中の細菌類を除去する方法である。浸漬型中空糸膜装置を用いる方法は、海水貯槽中に浸漬された該装置の該中空糸の内側を吸引ポンプで吸引して海水中の細菌類を除去する方法である。また、加圧型中空糸膜装置及び浸漬型中空糸膜装置ともに、前述した通り、中空糸膜の下方から微細な気泡を発生させて、中空糸膜に付着した細菌類を適宜剥離させながら、膜の表面を洗浄しつつ濾過を継続することができる。
【0023】
本発明で使用する精密濾過膜の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロースなどが挙げられる。
【0024】
海水を細菌類濾過膜に通す方法としては、特に制限されないが、細菌類濾過膜を組み込んだ細菌類濾過膜装置の2基以上を並列配置することもできる。この場合、一の細菌類濾過膜装置が逆洗工程であっても、他の細菌類濾過膜装置は細菌類除去工程を実施することもでき、多量の膜濾過水を連続して得ることができる。
【0025】
また、本発明のバラスト水の製造方法においては、逆洗により細菌類濾過膜を洗浄する工程を更に有する。細菌類除去工程において、時間が経過するにつれ、膜の目詰まりの原因物質となる細菌類などが細菌類濾過膜に付着して膜の入口と出口で膜差圧が上昇してくる。このため、海水の濾過を停止し、膜濾過水を洗浄水として細菌類濾過膜を逆洗する。逆洗工程を行うことにより、細菌類濾過膜の濾過機能が回復する。そして、逆洗工程を終えると、再度細菌類除去工程に移り、これを繰り返し行うことで、長期間に亘る濾過を可能にする。なお、本発明においては、前段の濾過膜によりプランクトン類及びその他の浮遊物の粗採りが行われるため、後段の細菌類濾過膜の目詰まりが抑制される。このため、逆洗を実施する時間も短くでき、単位時間当たりの処理量を増加させることができる。
【0026】
本発明のバラスト水の製造方法において、プランクトン類除去工程の前に予め、海水中の油分を除去することが、プランクトン類除去工程や細菌類除去工程で用いる濾過膜の目詰まりを防止し、濾過能力の低下を防止することができる点で好ましい。すなわち、海水中の油分も濾過膜で捕捉されるが、プランクトン類や他の濁質と異なり、油分は膜面に付着すると前記のバブリングや逆洗工程では容易に除去することができず、濾過膜を目詰まりさせ、濾過能力の低下の原因となる。
【0027】
海水の油分を除去する方法としては、特に制限されず、公知の油水分離装置(油分除去装置)を用いることができる。油水分離装置は、疎水性吸着材を用いたものが、簡易な方法で且つ高い油分吸着能力を示すので好ましい。疎水性吸着材としては、親油性のポリエチレンやポリプロピレン等の素材で作製された不織布フィルター、粉体物、及び中空糸膜が挙げられる。具体的には、油分吸着材「ダイヤマルス(三菱レイヨン社の商標登録)」を使用すると、極めて効率よく油分を除去することができる。海水の油分の除去工程により、例えば油分0.05〜1.0%の海水は、油分0.0005〜0.002%の海水とすることができる。
【0028】
本発明の船舶用バラスト水の製造方法を陸上で行う場合、該細菌類除去工程で得られる膜濾過水はバラスト水貯留槽に貯留しておくことが、バラスト水貯留槽から停泊中の船舶にバラスト水を高流速で送液することができ、バラスト水の汲み込みのために船舶の停泊期間を延長させることがなくなる。また、本発明の船舶用バラスト水の製造方法を船舶上で行う場合、陸上に設置する装置及び設置スペース、並びに陸上作業者が不要となる。船舶上でバラスト水を製造する場合、主に、船舶が停泊している間にバラスト水を製造し、プランクトン類や細菌類が除去されたバラスト水を船舶内のバラスト水槽に供給し、所定量が積載される。
【0029】
本発明のバラスト水の製造装置は、陸上に設置されても、船舶上に設置されてもよい。陸上設置形態のバラスト水の製造装置としては、例えば船舶が停泊する港湾域の海水を供給する海水供給手段と、供給された海水中のプランクトン類を除去する孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置と、プランクトン類が除去された海水中の細菌類を除去する孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜を備える濾過装置と、細菌類濾過膜装置に逆洗水を供給する逆洗水供給手段と、細菌類濾過膜の膜透過水を溜めるバラスト水貯留槽を備え、好ましくは、孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置の前段に、海水中の油分を除去する油分除去装置や除濁装置を設置する。海水供給手段は、孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置に海水を供給する手段であって、海水ポンプ及び一端の開口が海水中にあり、他端が海水ポンプに接続する海水取水管を備えるものである。バラスト水貯留槽は、その設置数、槽形式等は特に制限されない。また、本発明の製造装置の関連設備としては、バラスト水貯留槽のバラスト水を汲みだす送液ポンプと、該送液ポンプと停泊する船舶のバラスト水槽を接続する送液管などがある。
【0030】
船舶上設置形態のバラスト水の製造装置としては、上記陸上設置形態のバラスト水の製造装置において、バラスト水貯留槽の設置を省略することができること以外は、同様の構成を採ることができる。船舶上に設置されるバラスト水の製造装置の一例を図1の模式図を参照して説明する。バラスト水製造装置1は上流側より、海水供給ポンプ13、孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置2、中空糸膜型細菌類濾過装置3、及び逆洗水貯留槽14をこの順序で設置するものであり、海水供給ポンプ13のサクション側には一端が海水中にある海水取水ホース131を備え、中空糸膜型細菌類濾過装置3と逆洗水貯留槽14間は処理水管7で接続し、逆洗水貯留槽14とバラスト水槽15間は処理水管7aで接続している。また逆洗ポンプ9を設置し、逆洗水貯留槽14内の濾過水を逆洗配管10によって前記精密濾過膜を逆洗できるようにしている。なお、逆洗は空気圧縮機等による空気圧を利用したものであってもよい。濾過装置2及び中空糸膜型細菌類濾過装置3から排出される逆洗排液(不図示)は海水中又は陸上に廃棄される。なお、孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置2の前段に必要に応じて油水分離装置や除濁装置を設置することができる。また、海水取水ホース131を備える海水供給ポンプ13の設置を省略して、船舶船体16に付設される既設の海水供給口を備えるバラスト水供給ポンプ(不図示)を使用してもよい。この場合、既設のバラスト水供給ポンプの下流側に、孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置2、中空糸膜型細菌類濾過装置3及び逆洗水貯留槽14等を設置すればよく、設備費のコストを低減できる。バラスト水製造装置1が設置される船舶としては、バラスト水槽を備えるものであれば、特に制限されない。
【0031】
本発明のバラスト水の製造装置において、孔径2μm以上の濾過膜として、金属フィルターを用いれば、有機濾過膜を用いたものに比べて、強度を高くでき濾過速度を高めることができるため、当該濾過装置及び全体の製造装置のコンパクト化が図れる。また、金属濾過膜の膜面の洗浄による回復も容易であり、実質的に連続通水が可能となり、短い停泊時間内にバラスト水を船舶に供給することができ、停泊期間を延長させることがない。
【0032】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0033】
船舶が停泊する国内のA港湾域の海水(以下「原海水」と言う。)を下記のバラスト水製造装置を用いて下記の運転条件で処理した。原海水、一次処理水及び二次処理水(膜ろ過水)の総プランクトン数及び細菌数を下記測定方法により測定した。また、中空糸膜型細菌類濾過装置3における通水差圧が0.1MPaに到達するまでの通水時間及び逆洗による各濾過装置の差圧回復率をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1中、一次処理水細菌数の「測定不能」は菌数が多く、測定ができなかったものである。なお、原海水は海面から3mの深さから採取したものであり、その濁度は3度、総プランクトン数は5000個以上、細菌数は菌数が多く測定不能であった。
【0034】
(バラスト水製造装置)
図2に示す装置を用いた。バラスト水製造装置20は原海水貯槽31、下記仕様のプランクトン類濾過装置2、下記仕様の中空糸膜型細菌類濾過装置3及び二次処理水貯槽6をこの順序で配置したものである。プランクトン類濾過装置2の内部には金属フィルター28が装填されており、中空糸膜型細菌類濾過装置3の内部には中空糸膜エレメント5が装填されている。原海水貯槽31とプランクトン類濾過装置28とは原海水供給管23で接続し、原海水ポンプ13を設置した。また、プランクトン類濾過装置2と中空糸膜型細菌類濾過装置3は一次処理水供給管27で接続し、中空糸膜型細菌類濾過装置3と処理水貯槽6間は二次処理水管7で接続し、一次処理水供給管27および二次処理水管7には空気圧縮機9aを接続した。なお、中空糸膜型細菌類濾過装置3は空気圧縮機9aにより、一次処理水供給管27介して中空糸膜エレメント5の下方からの空気によるスクラビング、並びに、二次処理水管7を介して処理水側からの空気圧送による処理水逆洗が出来るようにした。また、同様にプランクトン類濾過装置2は一次処理水供給管27を介して処理水側からの空気圧送による処理水逆洗が出来るようにした。なお、バラスト水製造装置20はプランクトン類濾過装置2と中空糸膜型細菌類濾過装置3が直接、一次処理水供給管27で接続されているが、実際の陸上設置形態においては、一次処理水供給管27に一次処理水貯留槽を設置することもできる。
【0035】
(プランクトン類濾過装置)
プランクトン類濾過装置3は分画孔径3μm(公称)のステンレス製で、直径1.4cm、長さ20cm、有効膜面積85cmの金属フィルター(「富士メタルファイバーフィルタ」;富士フィルター工業社製)を2本使用し、処理量1.2m/日の全ろ過通水で海水を処理した。
【0036】
(中空糸膜型細菌類濾過装置)
中空糸膜型細菌類濾過装置3は孔径0.1μmのポリエチレン製で外径0.51mmの中空糸を束ねた、外径5cm、長さ44cm、有効膜面積0.4mの中空糸エレメント(「ステラポア」;三菱レイヨン社製)を使用し、処理量1.2m/日の全ろ過通水で海水を処理した。
【0037】
(運転方法)
原海水をバラスト水製造装置20に1.2m/日の処理量で供給した。処理は原海水ポンプ17によりプランクトン類濾過装置2、中空糸膜型細菌類濾過装置3の順で連続通水にて行った。逆洗は、中空糸膜型細菌類濾過装置3における通水差圧が0.1MPaになった時点で、空気圧縮機9aによりプランクトン類濾過装置2及び中空糸膜型細菌類濾過装置3の処理水配管に0.3MPaの空気圧をかけた状態で各装置の入り口弁(図示せず)を開放させることにより行った。なお、逆洗は中空糸膜型細菌類濾過装置3を行った後、プランクトン類濾過装置2を行った。所定時間の逆洗後、再度、同様の通水処理を行い、濾過装置の差圧により回復率を求めた。なお、中空糸膜型細菌類濾過装置3は、前記の逆洗に先立ち、中空糸エレメントの下方より空気圧縮機9aより空気を圧送し、糸を振動させるスクラビング逆洗を行った。
【0038】
(プランクトン数の測定方法)
試料を採取後、直ちにプランクトン計数板(離合社製)に1ml採り、植物プランクトン数を顕微鏡にて計数した。
【0039】
(細菌数の測定方法)
滅菌済みの0.45μmの孔径のフィルターを有するバクテリア測定キット(商品名アナリシスモニター;ミリポア社製)を使用し、JIS K 0550に準じ培養法により細菌数を測定した。試料は各装置出口直近に設定したサンプリング弁より使い捨ての滅菌済みプラスチック製シリンジにて50ml採取し、測定キットにて計数した。
【実施例2】
【0040】
プランクトン類濾過装置2の金属フィルターの分画孔径を3μmに代えて、分画孔径20μmを用いた以外は実施例1と同様の装置及び運転方法で行った。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0041】
中空糸膜型細菌類濾過装置3の中空糸の孔径0.1μmに代えて、孔径0.22μmを用いた以外は、実施例1と同様の装置及び運転方法で行った。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0042】
中空糸膜型細菌類濾過装置3の中空糸の孔径0.1μmに代えて、孔径0.22μmを用いた以外は、実施例2と同様の装置及び運転方法で行った。その結果を表1に示す。
【実施例5】
【0043】
スクラビング逆洗を省略した以外は、実施例1と同様の装置及び運転方法で行った。その結果を表1に示す。
比較例1
プランクトン類濾過装置2に装填された金属フィルタを取り外し、原海水の一時処理を無処理とした以外は、実施例1と同様の装置及び運転方法で行った。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、実施例1〜5は、一次処理水により植物プランクトンのほとんどを除去できるため、二次処理で使用した中空糸膜型細菌類濾過装置の通水差圧の上昇を、一次処理を行わない比較例1に比べて大きく抑制することができた。また、金属フィルター及び中空糸膜は共に、逆洗などにより短時間で膜面の洗浄回復が容易にできるため、単位時間当たりの処理量が高く、設置スペースが制限される船舶搭載型に有用であり、且つ停泊時間に制限のある大型バラスト船舶において有用であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】船舶上に設置されるバラスト水の製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】実施例1で使用したバラスト水製造装置のフロー図である。
【符号の説明】
【0047】
2 プランクトン類濾過装置
3 中空糸膜型微生物濾過装置
5 中空糸膜モジュール
6 二次処理水貯留槽
7、7a 二次処理水管
9 逆洗ポンプ
9a 空気圧縮機
10 逆洗配管
13、17 原海水供給ポンプ
14 逆洗水貯留槽
15 バラスト水槽
16 船舶船体
1、20 バラスト水製造装置
28 金属フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が停泊する港湾域の海水を孔径2μm以上の濾過膜に通すことにより海水中のプランクトン類を除去するプランクトン類除去工程と、プランクトン類が除去された海水を孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜に通すことにより海水中の細菌類を除去する細菌類除去工程を有し、該細菌類除去工程で得られる膜濾過水をバラスト水として用いることを特徴とする船舶用バラスト水の製造方法。
【請求項2】
前記孔径2μm以上の濾過膜が、金属濾過膜であることを特徴とする請求項1記載の船舶用バラスト水の製造方法。
【請求項3】
前記細菌類濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする請求項1又は2記載の船舶用バラスト水の製造方法。
【請求項4】
逆洗により細菌類濾過膜を洗浄する逆洗工程を更に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の船舶用バラスト水の製造方法。
【請求項5】
プランクトン類除去工程の前に予め、少なくとも海水中の油分を除去することを特徴とする請求項1記載の船舶用バラスト水の製造方法。
【請求項6】
船舶が停泊する港湾域の海水を供給する海水供給手段と、供給された海水中のプランクトン類を除去する孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置と、プランクトン類が除去された海水中の細菌類を除去する孔径1.0μm未満の細菌類濾過膜を備える濾過装置を有することを特徴とする船舶用バラスト水製造装置。
【請求項7】
前記孔径2μm以上の濾過膜を備える濾過装置の前段に、少なくとも海水中の油分を除去する油分除去装置を設置することを特徴とする請求項6記載の船舶用バラスト水製造装置。
【請求項8】
前記細菌類濾過膜装置に逆洗水を供給する逆洗水供給手段を更に備えることを特徴とする請求項6又は7記載の船舶用バラスト水製造装置。
【請求項9】
前記細菌類濾過膜装置が、加圧型中空糸膜装置又は浸漬型中空糸膜装置であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載の船舶用バラスト水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−239530(P2006−239530A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57151(P2005−57151)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】