説明

船舶用減速逆転装置

【課題】PTO軸のメンテナンスを容易に行うことができる船舶用減速逆転装置を提供する。
【解決手段】駆動源からの動力を伝達する歯車ユニットは、駆動源からの動力を受ける前進用入力軸31と、前進用入力軸に固定された前進用入力ギア32と、前進用入力軸と平行に延びる後進用入力軸71と、後進用入力軸に固定され、前進用入力ギアと噛み合う後進用入力ギア72と、出力ギアと、出力ギアに固定される出力軸と、前進用入力軸または後進用入力軸の回転を前記出力ギアに伝達するためのクラッチ機構と、前進用入力軸または後進用入力軸の回転力が伝動されるPTO出力ギア51と、PTO出力ギアに固定されたPTO出力軸50と、を備え、PTO出力ギア及びPTO出力軸は、ハウジングの外部に設けられ、ハウジングの外面には、PTO出力ギアを収納する収納ケース5が取り付けられており、この収納ケースから外部に突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に取り付けられる減速逆転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用の減速逆転装置としては、種々のものが提案されているが、例えば、特許文献1に記載のものがある。この文献に記載の減速逆転装置では、ハウジング内に、入力軸、歯車機構、及び出力軸を設け、この順で駆動源からの動力を出力軸に取り付けられたプロペラに伝達している。さらに、ハウジングには、PTO(Power take-off)軸を配置し、入力軸の回転をPTO軸に伝達するようにしている。PTO軸には、発電機などが連結され、入力軸の回転をPTO軸を介して発電に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−12832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記装置では、PTO軸がハウジング内に配置されているため、PTO軸のメンテナンスを行うには、ハウジングを分解する必要があり、作業性が悪く、労力が大きいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、PTO軸のメンテナンスを容易に行うことができる船舶用減速逆転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る船舶用減速逆転装置は、駆動源からの動力を伝達する歯車ユニットと、前記歯車ユニットを収容するハウジングと、を備え、前記歯車ユニットは、前記駆動源からの動力を受ける前進用入力軸と、前記前進用入力軸に固定された前進用入力ギアと、前記前進用入力軸と平行に延びる後進用入力軸と、前記後進用入力軸に固定され、前記前進用入力ギアと噛み合う後進用入力ギアと、出力ギアと、前記出力ギアに固定される出力軸と、前記出力軸に接続されるプロペラと、前記前進用入力軸または後進用入力軸の回転を前記出力ギアに伝達するためのクラッチ機構と、前記前進用入力軸または後進用入力軸の回転力が伝動されるPTO出力ギアと、前記PTO出力ギアに固定されたPTO出力軸と、を備え、前記PTO出力ギア及びPTO出力軸は、前記ハウジングの外部に設けられ、前記ハウジングの外面には、前記PTO出力ギアを収納する収納ケースが取り付けられており、前記PTO出力軸は、前記収納ケースに回転自在に支持されており、当該収納ケースから外部に突出している。
【0007】
この構成によれば、PTO軸及びPTO出力ギアがハウジングの外部に設けられた収納ケース内に配置されているため、ハウジングを分解することなく、収納ケースを取り外すことで、PTO軸等のメンテナンスを行うことができる。したがって、ハウジングを分解する手間が省け、メンテナンスを容易に行うことができる。また、PTO軸がハウジングの外部にあるため、ハウジング内にPTO軸用の設置スペースや軸受を設ける必要がなく、ハウジングを小型化することができる。さらに、PTO軸を短くすることができ、装置の軽量化が可能になる。
【0008】
例えば、PTO軸への伝動は、前進用入力軸及び後進用入力軸のいずれを用いても可能ではあるが、例えば、前進用入力軸で行う場合には、前進用入力軸を、ハウジングから突出させ、その突出部分にPTO出力ギアに噛み合うPTO駆動ギアを固定し、PTO駆動ギアを、収納ケース内に収納することができる。このようにすると、前進用入力軸とPTO軸との軸間距離を短くすることができ、メンテナンスが容易になるとともに、コストの低減も可能となる。なお、後進用入力軸を上記のように構成することもできる。
【0009】
また、収納ケース内に潤滑油が供給されるように構成し、収納ケースとハウジングとを、この収納ケースからハウジング内へ潤滑油を戻す連通路により連通させることもできる。このようにすると、収納ケース内に配置されている部材,例えば、PTO出力ギア、PTO駆動ギアなどに潤滑油を供給することができる。
【0010】
このとき、前進用入力軸または後進用入力軸の少なくとも一方の内部に、軸方向に延び、油が通過する潤滑油供給路と、当該潤滑油供給路から径方向外方に分岐する少なくとも1つの分岐路と、をそれぞれ形成することができる。そして、分岐路から排出される潤滑油が、収納ケース内に供給されるように構成することができる。分岐路は、複数形成することができるため、ハウジング内の軸受等の部材に対しても潤滑油を供給できるようにすることができる。
【0011】
クラッチ機構は、種々の構成が可能であるが、例えば、前進用入力軸が相対回転可能に挿通されるとともに、出力ギアに噛み合う前進用ピニオンと、ハウジング内に支持され、前進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第1の軸受と、前進用入力ギアと前進用ピニオンとを連結可能な前進用油圧クラッチと、後進用入力軸が相対回転可能に挿通されるとともに、出力ギアに噛み合う後進用ピニオンと、ハウジング内に支持され、後進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第2の軸受と、後進用入力ギアと後進用ピニオンとを連結可能な後進用油圧クラッチと、を設け、前進用ピニオン及び後進用ピニオンがともに上述した出力ギアに噛み合うように構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る船舶用減速逆転装置によれば、PTO軸のメンテナンスを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る船舶用減速逆転装置の断面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】図1の一部拡大図である。
【図6】本実施形態に係る船舶用減速逆転装置の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る船舶用減速逆転装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は減速逆転装置の断面図であり、図2は図1の側面図、図3は図2のA−A線断面図である。なお、本明細書では、船体の船首側を「前」と称し、船尾側を「後」と称することとする。また、「左右方向」または「幅方向」とは、右舷から左舷に向かう方向またはその反対方向を意味する。
【0015】
図1〜図3に示すように、この船舶用減速逆転装置は、船舶本体1の後端部に取り付けられたハウジング2を有しており、このハウジング2内に、プロペラへ動力を伝達する歯車ユニットが配置されている。船舶本体1には図示を省略するエンジン、このエンジンの回転軸に接続されるフライホイール11が収納されている。そして、フライホイール11には、弾性継手12を介して前進用入力軸31が取り付けられており、ハウジング2内に延びている。この前進用入力軸31は、ハウジング2の後端部から後方へ突出しており、この突出部分には、後述するPTO軸50へ動力を伝達するPTO駆動ギア4が取り付けられている。そして、この突出部分及びPTO駆動ギア4は第1油圧ブロック(収納ケース)5によって覆われている。この油圧ブロック5は、ハウジング2の後端面に着脱自在に取り付けられており、後述するように油溜まり83から油圧ポンプ81でくみ上げられた油が、この第1油圧ブロック5を通過して前進用入力軸31の内部に供給されるようになっている。この点については後述する。また、前進用入力軸31は、ハウジング2の前端の壁に取り付けられた軸受311、及び第1油圧ブロック5内に取り付けられた軸受312によって支持されている。
【0016】
図1に示すように、ハウジング2内の上部は、上仕切り壁211によって、前側収納室212と後側収納室213の2つに仕切られている。そして、前進用入力軸31において、前側収納室212に配置される部分には、前進用入力ギア32が固着されており、後側収納室213に配置される部分には、前進用ピニオン33が回転自在に取り付けられている。すなわち、前進用ピニオン33は、前進用入力軸31に対して相対回転可能となっている。そして、この前進用ピニオン33の前端部及び後端部は、上仕切り壁211、及びハウジング2の後端の壁に取り付けられた軸受331,332によって支持されている。また、前進用入力ギア32と前進用ピニオン33との間には、両者を連結する前進用油圧クラッチ34が設けられている。この油圧クラッチ34は、公知の湿式多板クラッチであり、前進用ピニオン33の前端部にスプライン結合されたインナードラム341と、前進用入力ギア32に一体形成されたアウタードラム342とを備えている。そして、インナードラム341に固定された複数枚のクラッチディスクが、アウタードラム342に固定された複数のプレッシャープレートの隙間にそれぞれ配置されており、これらディスクとプレートが油圧ピストンの押圧により密着することで、動力が伝達される。
【0017】
ハウジング2の下方には、前後方向に延びる出力軸6が配置されている。この出力軸6の後端部は、ハウジング2の後端から突出しており、この突出部分にブラケット61を介してプロペラ(図示省略)が取り付けられる。また、この出力軸6は、ハウジング2の前端の壁に設けられたスラスト用軸受62、及びハウジング2の後端の壁に設けられた軸受63によって回転自在に支持されている。そして、出力軸6の後部には、出力ギア64が固着されており、この出力ギア64が前進用ピニオン33と噛み合っている。これにより、エンジンからの動力をプロペラに伝達するようになっている。
【0018】
図2に示すように、ハウジング2は、上下方向に並ぶ3つの部材、つまり、上部ハウジング部材21、中間ハウジング部材22、及び下部ハウジング部材23で構成されている。上述したハウジング上部の上仕切り壁211は、上部ハウジング部材21の内部に取り付けられている。下部ハウジング部材23は、出力軸6の下半分を収容するカップ状に形成されており、底部が潤滑油の油溜まり83になっている。また、下部ハウジング部材23の前端及び後端の壁には、軸受62,63を支持するための円弧状の支持面がそれぞれ形成されている。中間ハウジング部材22は、上部及び下部が開放された枠側に形成されており、下端部は下部ハウジング部材23に固定されるように水平に形成されているが、上端部は、斜めに切り取られるように形成されている。中間ハウジング部材22の上端部を構成する斜めの端縁(A−A線)は、前進用入力軸31の中心及び後述する後進用入力軸71の中心を通るように形成されている。図2に示すように、前進用入力軸31は、ハウジング2の左右方向のほぼ中心に位置するが、後進用入力軸71は、前進用入力軸31の左斜め下側に配置されている。これは、後述するように、後進用入力軸71に取り付けられる後進用ピニオン73が出力ギア64に噛み合うようにするためである。すなわち、前進用入力軸31と後進用入力軸71が、それぞれ出力軸6から等距離にあるようにするためである。一方、PTO軸50は、前進用入力軸31を挟んで、後進用入力軸71とは幅方向に反対側に配置されている。但し、前進用入力軸31とは水平に並んで配置されている。これは、後述するように、PTO軸50はハウジング2内に配置されておらず、ハウジング2の後端部に取り付けられた幅方向に延びる第1油圧ブロック5内に配置されているからである。
【0019】
中間ハウジング部材22について、さらに説明する。中間ハウジング部材22の下端部には、前端及び後端の壁に円弧状の支持面が形成されており、この支持面は、下部ハウジング部材23の支持面とともに、円形の貫通孔を形成する。そして、この貫通孔に軸受62,63が配置される。図3に示すように、中間ハウジング部材22には、幅方向に延びる下仕切り壁221が設けられており、この下仕切り壁221に、前進用ピニオン33及び後進用ピニオン73の前側の軸受331,731が配置される円弧状の支持面が形成されている。この下仕切り壁221は、上述した上仕切り壁211と対応する位置に配置されている。また、中間ハウジング部材22の上端部の後部には、前進用ピニオン33及び後進用ピニオン73の後側の軸受332,732がそれぞれ配置される円弧状の支持面が形成されている。そして、上部ハウジング部材21の上仕切り壁211と、中間ハウジング部材22の下仕切り壁221とは、図4に示すように固定されている。すなわち、両上仕切り壁211,221は、2つの軸受331,731の間と、その側部の3箇所でボルト25によって固定されている。このとき、上部ハウジング部材21の上仕切り壁211は高さがあるので、上部ハウジング部材21には深いボルト穴26が形成されている。
【0020】
続いて、上部ハウジング部材21について説明する。上部ハウジング部材21の下端部は、中間ハウジング部材22と合わさるように、斜めに切りかかれている。そして、前進用ピニオン33及び後進用ピニオン73の軸受331,332,731,732を支持するための円弧状の支持面が、上仕切り壁211の下端部、及び上部ハウジング部材21の後端部にそれぞれ形成されている。また、上部ハウジング部材21には、クラッチ作動油を制御する油圧回路などを内蔵する油圧制御ユニット8が取り付けられている。この油圧制御ユニット8には、油圧回路を構成する前後進切換弁84、緩嵌入弁85,及びリリーフ弁88などが装着されている。
【0021】
次に、後進用の歯車ユニットについて説明する。図3に示すように、後進用の歯車ユニットは、上述した前進用の機構とほぼ同じである。すなわち、ハウジング2の内部には、前進用入力軸31と平行に延びる後進用入力軸71が配置されており、前側収納室212に位置する部分に、後進用入力ギア72が固着されている。この後進用入力ギア72は、前進用入力ギア32と噛み合っており、前進用入力ギア32の回転により、後進用入力ギア72と後進用入力軸71とが一体となって回転する。後進用入力軸71の後端部は、前進用入力軸31と同様にハウジング2から突出しており、この突出部分に、ギアポンプからなる油圧ポンプ81が取り付けてられている。後進用入力軸71の後端部及び油圧ポンプ81は、第2油圧ブロック9により覆われている。また、後進用入力軸71において、後側収納室213に位置する部分には、後進用ピニオン73が回転自在に挿通されており、この後進用ピニオン73の前端部及び後端部は、軸受731,732を介してハウジング2内に支持されている。そして、この後進用ピニオン73は、上述した出力ギア64に噛み合っている。さらに、この後進用ピニオン73と後進用入力ギア72との間には、上述した前進用と同様の油圧クラッチ74が配置されている。
【0022】
次に、PTO(Power take-off)及び第1油圧ブロック5について説明する。上述したように、第1油圧ブロック5には、前進用入力軸31の後端部及びPTO駆動ギア4が収納されているが、さらに、幅方向に延びてPTO駆動ギア4に噛み合うPTO出力ギア51を収納している。そして、このPTO出力ギア51にはPTO軸50が固定されており、第1油圧ブロック5から後方へ突出している。第1油圧ブロック5から後方へ突出したPTO軸50には、その回転を利用して駆動する発電機、ウインチなど、種々の装置を取り付けることができる。また、第1油圧ブロック5の前端部、及び後端部には、PTO駆動ギア4を支持する軸受41,42、及びPTO軸50を支持する軸受52,53がそれぞれ配置されている。さらに、図1に示すように、第1油圧ブロック5の壁の内部には、油圧ポンプ81によりくみ上げられた油の2つ流路、つまり前進用油路8bと潤滑油路8eとが形成されている。作動油は、油圧ポンプ81からケーシング内部の油路及び外部の通路を通って、継手251を介して前進用油路8bに供給される。そして、前進用油路8bは、前進用入力軸31の後端部に形成された開口を介して後述する入力軸31内の作動油供給路313へ連通し、油を供給するようになっている。潤滑油も、油圧ポンプ81により、油圧ブロック81内の潤滑油路8eに供給される。潤滑油路8eは、前進用油路8bよりもさらに後端側から、前進用入力軸31の後端部に形成された開口を介して後述する潤滑油供給路314へ連通しており、ここから油が供給される。また、図示は省略するが、第2油圧ブロック9にも同様の流路が形成されており、後進用入力軸71の内部にも油が供給されるようになっている。
【0023】
次に、この歯車ユニットにおける潤滑油の流れについて、図5を参照しつつ説明する。図5は、前進用入力軸及びその近傍の拡大図である。ここでは、前進用入力軸31を例に説明をするが、同じ構造が後進用入力軸71にも設けられているため、後進用入力軸71については説明を省略する。まず、前進用入力軸31の内部には、軸方向に延びる2本の油路が形成されている。1つは、油圧クラッチ34の作動油が供給される作動油供給路313であり、もう一つは、油圧クラッチ34、前進用ピニオン33の軸受331、332、前進用入力軸31の後側の軸受312に潤滑油を供給する潤滑油供給路314である。潤滑油供給路314には、径方向外方へ延びる5つの分岐路が形成されている。より詳細には、油圧クラッチ34へ延びる第1分岐路3141、前進用ピニオン33の前端部付近に延びる第2分岐路3142、前進用ピニオン33の中間部付近に延びる第3分岐路3143、前進用ピニオン33の後端部付近に延びる第4分岐路3144、及び第1油圧ブロック5内に延びる第5分岐路3145が形成されている。各分岐路3141〜3145は、前進用入力軸31の周方向に沿って複数設けられている。
【0024】
中間ハウジング部材22の下仕切り壁221の上端には、支持面に沿って断面L字型の受け部225が形成されている。この受け部225は、前側収納室212側に取り付けられており、上方から落下する潤滑油が収納室212側に流れるのを防止し、軸受331側に案内するようになっている。同様の構造の受け部215が、上部ハウジング部材21の上仕切り壁211の支持面に沿っても設けられている。したがって、軸受331が配置される支持面の全周に亘って円形の受け部225,215が形成されている。また、油圧クラッチ34のインナードラム341には、第2分岐部3142と対応する位置に貫通孔3411が形成されており、第2分岐部3142から排出された潤滑油は、インナードラム341の貫通孔3411を介して受け部225に流れ落ちるようになっている。
【0025】
前進用ピニオン33の後端側には、隙間をおいて、上述した第1油圧ブロック5及び入力軸31の軸受312が位置されている。第4分岐路3144から排出された潤滑油は、前進用ピニオン33と油圧ブロック5との隙間を通過して前進用ピニオン33の後端側の軸受332に供給される。なお、この潤滑油は、油圧ブロック5によって後方への経路が遮断され、軸受332側に流れるようにされている。また、第5分岐路3145は、第1油圧ブロック5内に潤滑油を供給するようになっており、PTO駆動ギア4の軸受41,42や、PTO軸50の軸受52,53などに潤滑油を供給するようになっている。第1油圧ブロック5内に供給された潤滑油は、油圧ブロック5の内部空間の下方に形成された連通路57を介して、ハウジング2内に流れるようになっている。ハウジング2内では、中間ハウジング部材22の後端壁の内部に形成された流路229を通じて下方に流れ、出力軸6の後方の軸受63を潤滑した後、油溜まり83に戻されるようになっている。連通路57には絞り59が設けられており、第1油圧ブロック5内に貯められた潤滑油の圧力が所定以上になると、絞り59が開放して第1油圧ブロック5からハウジング2内に潤滑油が流れるようになっている。
【0026】
続いて、第3分岐路3143からの潤滑油の供給について説明する。第3分岐路3143は、前進用ピニオン33の軸方向の中央付近に形成されているが、ピニオン33の内周面において、第3分岐路3143と対応する位置には、周方向に延びる凹状の油溜部335が形成されている。そして、この油溜部335には、径方向外方に貫通する連通路336が形成されており、潤滑油をピニオン33の歯底に供給できるようになっている。
【0027】
次に、作動油の供給について、図6を参照しつつ説明する。図6は、本実施形態に係る減速逆転装置の作動油供給回路を示す図である。
【0028】
図6に示すように、油圧ポンプ81によってフィルタ82を介して油溜まり83からくみ上げられた圧油は、油供給路8aを通過し、前後進切換弁84を介して前進用作動油路8bまたは後進用作動油路8cへ送られる。前後進切換弁84にはシフトレバー841が取り付けられており、このシフトレバー841を操作することで前後進切換弁84のスプールが移動し、前進位置、後進位置、及び中立位置に切り換えられる。そして、この圧油により、前進用油圧クラッチ34または後進用油圧クラッチ74が接続され、プロペラに前後いずれかの推進回転力を伝えるようにされている。
【0029】
また、この油圧回路には、前後進切換弁84を切り換えた時に前進用又は後進用油圧クラッチ34,74が急激に接続状態となるのを防止するために緩嵌入弁85が設けられている。そして、緩嵌入弁85は、油供給路8aから分岐した分岐路8d上に設けられており、一種の圧力調整弁となる。また、分岐路8dには、緩嵌入弁85を経た圧油が通過するオイルクーラー87、及びリリーフ弁88が設けられるとともに、オイルクーラー87とリリーフ弁88との間には、各油圧クラッチ34,74で使用された後の潤滑油が通過する潤滑油路8eが接続されている。そして、緩嵌入弁85から潤滑油路8eへと逃がされる油圧はリリーフ弁88により所定の低圧に制限されている。また、潤滑油路8eは、上述したように、前進用入力軸31及び後進用入力軸71の潤滑油供給路314,714へ接続されている。
【0030】
続いて、この油圧回路の動作について説明する。図6に示すように、前後進切換弁84が中立位置にあるときは、緩嵌入弁85の背室へ圧油が供給されない。このとき緩嵌入弁85のスプールは大きく後退していてリリーフ圧の低いリリーフ弁と同じ役目をしている。そして、油圧ポンプ81から供給される圧油の一部が緩嵌入弁85からオイルクーラー87を経て潤滑油路8eへと逃がされている。
【0031】
そして、シフトレバー841を操作して前後進切換弁84を前進または後進位置に切り換えると、前進用作動油路8bまたは後進用作動油路8cに作動油が流れ始める。同時に、作動油が油路を経て緩嵌入弁85の背室へ圧入される。そして、この圧入により緩嵌入弁85のスプールが前進し、リリーフ圧が徐々に高められ、潤滑油路8eが徐々に閉じ、その反射的作用として前進用作動油路8bまたは後進用作動油路8cの作動油圧が徐々に高められる。このように、徐々に油圧を高めることで、クラッチ34,74が急激に接合されるのを防止するようにされている。そして最終的にクラッチ34、74を高い圧力で完全に押圧して動力を完全に伝達するようにされている。
【0032】
次に、上記のように構成された減速逆転装置の動作について説明する。まず、エンジンからの動力は、前進用入力軸31、前進用入力ギア32、後進用入力ギア72、及び後進用入力軸71の順に伝達され、前後進切換弁84が中立位置にある場合でもこれらは回転している。そして、上記のように、シフトレバー841を前進位置に配置すると、前後進切換弁84を介して作動油が前進用油圧クラッチ34に供給され、前進用入力ギア32と前進用ピニオン33とが連結される。これにより、前進用入力軸31からの動力は、前進用ピニオン33を介して出力ギア64に伝達され、プロペラが前進する方向に回転する。同時に、前進用入力軸31の回転が、PTO駆動ギア4、PTO出力ギア51を介してPTO軸50に伝達され、PTO軸50が回転する。これにより、PTO軸50に取り付けられた発電機などの装置が駆動する。このとき、作動油は後進用油圧クラッチ74には供給されないため、後進用ピニオン73には動力は伝達されず、出力ギア64と連れ廻りするだけである。一方、シフトレバー841を後進位置に配置すると、前後進切換弁84を介して作動油が後進用油圧クラッチ74に供給され、後進用入力ギア72と後進用ピニオン73とが連結される。これにより、後進用入力軸71から動力が伝達されて後進用ピニオン73が回転し、プロペラが後進する方向に回転する。このとき、作動油は前進用油圧クラッチ34には供給されないため、前進用ピニオン33には動力は伝達されず、出力ギア64と連れ廻りするだけである。但し、前進用入力軸3は回転し続けるため、PTO軸50はエンジンからの動力が伝達されている限り、回転している。
【0033】
続いて、油の供給について説明する。後進用入力軸71が回転すると、その後端部に取り付けられている油圧ポンプ81も駆動し、油溜まり83から油を吸い上げる。この油は、上述した作動油回路に供給されるほか、各油圧ブロック5、9の流路から各入力軸31,71の潤滑油供給路にも供給される。潤滑油供給路に供給された油は各分岐路を経て、各ピニオン33,73の歯底、軸受、各油圧ブロック5、9などに供給され、潤滑油として作用する。
【0034】
以上のように、本実施形態によれば、PTO軸50及びPTO出力ギア51がハウジング2の外部に設けられた第1油圧ブロック5内に配置されているため、ハウジング2を分解することなく、第1油圧ブロック5をハウジング2から取り外すことで、PTO軸50等のメンテナンスを行うことができる。したがって、ハウジング2を分解する手間が省け、メンテナンスを容易に行うことができる。また、PTO軸50がハウジング2の外部にあるため、ハウジング2の内部にPTO軸50の設置スペース、軸受等を設ける必要がなく、ハウジング2の小型化が可能となる。さらに、PTO軸50を短くすることができ、装置の軽量化も可能になる。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、前進用入力軸31の後端部をハウジング2から突出させて第1油圧ブロック5内に配置することで、PTO軸50を駆動しているが、後進用入力軸71をPTO軸50と同じ油圧ブロック内に配置して、PTO軸50を駆動することもできる。また、上記実施形態では、PTO軸50を第1油圧ブロック5内に配置しているが、収納ケースとして、PTO軸50、PTO出力ギア51、いずれかの入力軸からの伝達用のギア等を収納することができれば、その形態は特には限定されない。
【符号の説明】
【0036】
2 ハウジング
31 前進用入力軸
32 前進用入力ギア
33 前進用ピニオン
34 前進用油圧クラッチ
4 PTO駆動ギア
5 第1油圧ブロック(収納ケース)
50 PTO軸
51 PTO出力ギア
6 出力軸
64 出力ギア
71 後進用入力軸
72 後進用入力ギア
73 後進用ピニオン
74 後進用油圧クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの動力を伝達する歯車ユニットと、
前記歯車ユニットを収容するハウジングと、を備え、
前記歯車ユニットは、
前記駆動源からの動力を受ける前進用入力軸と、
前記前進用入力軸に固定された前進用入力ギアと、
前記前進用入力軸と平行に延びる後進用入力軸と、
前記後進用入力軸に固定され、前記前進用入力ギアと噛み合う後進用入力ギアと、
出力ギアと、
前記出力ギアに固定される出力軸と、
前記出力軸に接続されるプロペラと、
前記前進用入力軸または後進用入力軸の回転を前記出力ギアに伝達するためのクラッチ機構と、
前記前進用入力軸または後進用入力軸の回転力が伝動されるPTO出力ギアと、
前記PTO出力ギアに固定されたPTO軸と、
を備え、
前記PTO出力ギア及びPTO軸は、前記ハウジングの外部に設けられ、
前記ハウジングの外面には、前記PTO出力ギアを収納する収納ケースが取り付けられており、
前記PTO軸は、前記収納ケースに回転自在に支持されており、当該収納ケースから外部に突出している、船舶用減速逆転装置。
【請求項2】
前記前進用入力軸または後進用入力軸は、前記ハウジングから突出し、当該突出部分に前記PTO出力ギアに噛み合うPTO駆動ギアが固定されており、
前記PTO駆動ギアは、前記収納ケース内に収納されている、請求項1に記載の船舶用減速逆転装置。
【請求項3】
前記収納ケース内に潤滑油が供給されるように構成されており、
前記収納ケースとハウジングとは、当該収納ケースからハウジング内へ潤滑油を戻す連通路により連通している、請求項1または2に記載の船舶用減速逆転装置。
【請求項4】
前記前進用入力軸または後進用入力軸の少なくとも一方の内部には、軸方向に延び、油が通過する潤滑油供給路と、当該潤滑油供給路から径方向外方に分岐する少なくとも1つの分岐路と、がそれぞれ形成されており、
前記分岐路から排出される潤滑油が、前記収納ケース内に供給されるように構成されている、請求項3に記載の船舶用減速逆転装置。
【請求項5】
前記クラッチ機構は、
前記前進用入力軸が相対回転可能に挿通されるとともに、前記出力ギアに噛み合う前進用ピニオンと、
前記ハウジング内に支持され、前記前進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第1の軸受と、
前記前進用入力ギアと前進用ピニオンとを連結可能な前進用油圧クラッチと、
前記後進用入力軸が相対回転可能に挿通されるとともに、前記出力ギアに噛み合う後進用ピニオンと、
前記ハウジング内に支持され、前記後進用ピニオンの軸方向の2箇所に取り付けられた一対の第2の軸受と、
前記後進用入力ギアと後進用ピニオンとを連結可能な後進用油圧クラッチと、
を備え、
前記前進用ピニオン及び後進用ピニオンは、ともに前記出力ギアに噛み合っている、請求項1から4のいずれかに記載の船舶用減速逆転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86641(P2012−86641A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233957(P2010−233957)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】