説明

良性及び悪性の腫瘍疾患を処置するためのジソラゾール及びその誘導体を含有している医薬

本発明の対象は、医薬として、好ましくは腫瘍疾患の処置に、特に他の活性成分に対する薬物耐性の場合及び転移性癌腫の場合に使用される一般式Iのジソラゾール(disorazole)である。その可能な使用は腫瘍疾患に限定されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
今後数年間、腫瘍症及び腫瘍に関連した死亡事例の劇的な増大が世界的に予測される。2001年には世界中で約1000万人ががんを患っており、かつ600万を超える人がこの疾患で死んだ。腫瘍の発生は、植物界、動物界及びヒトにおける高等生物の根本的な疾患である。発がんの一般的に認められている多段階モデルは、個々の細胞中の多数の突然変異の蓄積の結果としてこれがその増殖及び分化挙動において、良性の中間期を経て、転移を伴う悪性期に最終的に到達するように変性されることを想定している。がん又は腫瘍という用語は、200を上回る多様な個々の疾患を有する臨床上の病像を隠匿する。腫瘍症は良性又は悪性の様式で進行しうる。最も重要な腫瘍は肺、胸、胃、子宮頚部、前立腺、頭及び首、大腸及び小腸、肝臓及び血液系の腫瘍である。経過、予後及び治療の挙動に関して大きな差異が存在する。認められている事例の90%超が中実腫瘍に関するものであり、これらは特に憎悪期においてか又は転移の際に困難を伴い処置可能であるか又は処置不可能である。がんコントロールの三本柱は依然として外科的除去、照射及び化学療法である。大きな進歩にもかかわらず、生存期間の顕著な延長又は実のところ広がった中実腫瘍の完全な治癒をもたらす医薬を開発することはまだ不可能であった。それゆえがんのコントロールのための新規の医薬を発明することに意義がある。
【0002】
本発明は、ジソラゾール(disorazole)−ジソラゾールA1を除く−及びジソラゾールの誘導体に、及び特に、ヒト及び哺乳動物における良性及び悪性の腫瘍の処置のための、医薬としてのそれらの使用に関する。
【0003】
意外なことに、ジソラゾールE1及びD1が特に、多様なヒト腫瘍細胞系に関して傑出した細胞毒性作用を有することが見出された。ナノモル濃度及びピコモル濃度で、とりわけ、卵巣癌腫、前立腺癌腫、膠芽腫、肺癌腫及び乳がん細胞の分裂が阻害される。ジソラゾールE1及びD1の作用はこの場合に細胞周期依存性であり、ナノモル濃度でさえ細胞周期はG2/M期で維持され、かつがん細胞はアポトーシスへ押しやられる。さらに、特許の保護が請求されたジソラゾールの抗増殖性作用が、とりわけ、チューブリン重合の有効な阻害に基づくことを示すことが可能であった。ジソラゾールE1は特にまたパクリタクセル−及びビンデシン−耐性の細胞系に対して高度に活性である。ジソラゾールE1が生物学的作用に関連して高度に効力があり、ひいてはがんのコントロールのための医薬における活性化合物としての使用が可能であることを示すことが発明性に富んで可能であった。
【0004】
このことは特に重要である、それというのもジソラゾールA1は細胞増殖抑止剤としての使用に適していないからである(G. Hoefle, annual report 1999/2000 of the Gesellschaft fuer Biotechnologische Forschung [Association for Biotechnological Research] GBF, p.103)。
【0005】
例えば、NCI−H460腫瘍異種移植片担持ヌードマウスを用いる−しかしそれらに限定されるものではない−治療実験において、しかしながら、静脈内投与されたジソラゾールE1について、体重減少を生じない用量でさえ腫瘍成長又はことによると死亡率でさえ著しい低下を観察することは可能であった。
【0006】
天然物は薬剤学的リサーチにおける新規の先導する構造のための重要なソースであり、かつ一部の場合に新規の医薬の開発にも直接に適している(Y.−Z. Shu, J. Nat. Prod., 1998, 61, 1053−1071)。多くの天然物が強い細胞毒性作用を有することは公知である(V. J. Ram, S. Kumari, DNP, 2001, 14(8), 465−482)。
【0007】
ジソラゾールからなる群の天然物が菌株Sorangium cellulosum So ce12の細菌から単離されることは公知である(R. Jansen, H. Irschik, H. Reichenbach, V. Wray, G. Hoefle, Liebigs Ann. Chem., 1994, (8), 759−773)。合計で29個のジソラゾールが単離され、かつ物理化学的に特性決定されている。ジソラゾールA1については細胞モデルにおける抗増殖性作用を有することが報告されていた(H. Irschik, R. Jansen, K. Gerth, G. Hoefle, H. Reichenbach, J. Antibiot. 1995, 48(1), 31−35; Y. A. Elnakady, Dissertation, Brunswick Technical University, 2001)。しかしながら腫瘍症の処置のための使用は開示も示唆もされていなかった。他のジソラゾールの生物学的調査は実施されていなかった。
【0008】
本発明による化合物は、それらに限定されることなく、ヒト及び動物における良性及び悪性の腫瘍症又は他の抗増殖性障害を処置するための医薬としての使用に適している。原則的には本発明による化合物は、細胞の制御されない及び迅速な分裂に基づいており、それにより病的状態を引き起こす全ての障害のコントロールに適している。本発明による化合物は個々の物質としてか、又は別の細胞毒性物質、例えばシスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、イホスファミド、シクロホスファミド、5−FU、メトトレキセートと組み合わされて、特にシグナル伝達の阻害剤、例えばハーセプチン、グリベック又はイレッサと組み合わされて使用されることができるが、それらに限定されるものではない。
【0009】
ジソラゾールの合成及び半合成の類似体もまた抗増殖性作用を有する。分子形状の特異的修飾により、重要な性質、例えば生物学的な阻害作用、安定性及び生物物理学的性質は調節されることができる。このようにして出発化合物の治療学的に価値のある誘導体が得られることができる。誘導体化の別のねらいは、可能性のある有毒な副作用を和らげることにある。
【0010】
本発明による化合物は液体薬剤形として投与されることができる。これはその都度溶液又は懸濁液の形で適しているようにして実施される。
【0011】
本発明による化合物は適している投与形で、好ましくは動脈中へ、注射として動脈内に;静脈中へ、注射又は注入として静脈内に;皮膚内中、注射として皮内に;皮膚下に、注射として皮下に;筋肉中へ、注射として筋肉内に;腹腔中へ、注射又は注入として腹腔内に、投与されることができる。
【0012】
本発明による一般式Iの化合物が少なくとも1つの不斉中心を有する場合には、それらは、それらのラセミ化合物の形で、純粋な鏡像体及び/又はジアステレオマーの形で又はこれらの鏡像体及び/又はジアステレオマーの混合物の形で、すなわち物質で及びこれらの化合物の薬剤学的に認容性の塩として存在していてよい。混合物は立体異性体の任意の所望の混合比で存在していてよい。
【0013】
可能な場合には本発明による化合物中の二重結合のそれぞれの配置は、互いに独立してその都度E又はZであってよい。
【0014】
可能な場合には本発明による化合物は、互変異性体の形で存在していてよい。
【0015】
一実施態様によれば、本発明は一般式I:
【0016】
【化1】

[式中、互いに独立して、
R1は次のものである:
(i)水素
(ii)OR4
(iii)C5′への二重結合の要素
R2、R3及びR4は次のものである:
(i)水素
(ii)非置換又は置換の(C〜C)−アルキル、
(iii)1つ又はそれ以上のフッ素原子により置換された(C〜C)−アルキル、好ましくはトリフルオロメチル基、
(iv)非置換又は置換の(C〜C)−アルキル−(C〜C14)−アリール、非置換又は置換の(C〜C)−アルキルヘテロアリール、
(v)(C〜C)−アルコキシカルボニル、(C〜C)−アルキルアミノカルボニル、(C〜C)−アルキルアミノチオカルボニル、(C〜C)−アルキルカルボニル又は(C〜C)−アルコキシカルボニル−(C〜C)−アルキル、
その際にF、Cl、Br、I、CN、NH、NH−(C〜C20)−アルキル、NH−(C〜C12)−シクロアルキル、OH、O−(C〜C20)−アルキルによるアルキル基の置換が単独にか又は、同じか又は異なる原子上で、同じか又は異なる置換基により多重に行われてよく、かつF、Cl、Br、I、CN、NH、NH−(C〜C20)−アルキル、OH、O−(C〜C20)−アルキル及び/又は1〜5個のへテロ原子、好ましくは窒素、酸素、硫黄を有する(C〜C)−ヘテロシクリルによるアリール基の置換が単独にか又は、同じか又は異なる原子上で、同じか又は異なる置換基により多重に行われてよく、
かつ
X、Yは次のものである:その都度個々に互いに独立してか又は一緒に、酸素、硫黄、2つのビシナルなヒドロキシル基、2つのビシナルなメトキシ基、二重結合の要素]で示される化合物に関するものであり、
但し、R1がメトキシであり、R2、R3が水素であり、Xが酸素であり、かつYが二重結合の要素である化合物を除く。
【0017】
本発明の意味の範囲内の表現“アリール”は、芳香族炭化水素、とりわけフェニル類、ナフチル類及びアントラセニル類を意味する。前記基はまたさらに飽和、(部分的に)不飽和又は芳香族の環系に縮合されていてもよい。
【0018】
表現“ヘテロアリール”は少なくとも1個、場合によりまた2、3、4又は5個のへテロ原子を有する5−、6−又は7−員の環式芳香族基を表し、その際にへテロ原子は同じか又は異なる。ヘテロ環は二環又は多環の系の要素であってもよい。好ましいへテロ原子は窒素、酸素及び硫黄である。ヘテロアリール基がピロリル、フリル、チエニル、チアゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、ピラゾリル、イミダゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インドリジニル、キノリニル、イソキノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、カルバゾリル、フェナジニル、フェノチアジニル、アクリジニルの群から選択されることが好ましい。
【0019】
一般式Iによる最も好ましい化合物は次の選択に出会うものである:
(1)ジソラゾール(Disorazole)E1
【0020】
【化2】

(2)ジソラゾールD1
【0021】
【化3】

(3)ジソラゾールA1は明白に本発明の主題ではない。
【0022】
【化4】

【0023】
一般式Ia、Ib及びIcのジソラゾールの本発明の合成及び半合成の類似体は図式1により製造可能である:
【0024】
【化5】

【0025】
図式1
一般式Iのジソラゾールは常用の方法でR2、R3及びR4上で水素を置換することにより式Ia、Ib及びIcによる本発明の誘導体へ変換されることができる。
【0026】
例えば、R2、R3及びR4=アルキル又はアルキルアリールである式Icによる置換ジソラゾールが製造されるべきである場合には、一般式Iの適切なジソラゾールは、適切なアルキル化ハロゲン化物又はアルキルアリールハロゲン化物及び適している塩基、好ましくはトリエチルアミン、ピリジン、アルコキシド、水素化ナトリウム又は炭酸カリウムと、適している溶剤、例えばジクロロメタン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、NN−ジメチルホルムアミド中で0〜100℃で反応される(J. Org. Chem. 1971, 36, 284−294)。
【0027】
例えば、R2、R3及びR4=カルバメート、チオカルバメートである式Ibによる置換ジソラゾールが製造されるべきである場合には、一般式Iの適切なジソラゾールは、適切なイソシアナート又はイソチオシアナートと、適している塩基、好ましくはトリエチルアミン、ピリジン、水素化ナトリウム、アルコキシド、水中のNaOH又は炭酸カリウムの存在で及び適している溶剤、例えばジクロロメタン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、NN−ジメチルホルムアミド又は溶剤混合物、例えばジオキサン−水又はTHF−水混合物中で0〜100℃の温度で反応されることができる(DE2040175、Rocz. Chem. 1972, 46, 717; Tetrahedron Lett. 1993, 34, 3745)。
【0028】
あるいは、R2、R3及びR4=アルキルカルボニル又はアルコキシカルボニルである式Iaによる置換ジソラゾールが製造されるべきである場合には、一般式Iの適切なジソラゾールは、適切なアルキルカルボニルクロリド、アルキルカルボン酸無水物又はクロロホルメートと、適している塩基、好ましくはトリエチルアミン、ピリジン、水素化ナトリウム、アルコキシド、水中のNaOH又は炭酸カリウム及び適している溶剤、例えばジクロロメタン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、NN−ジメチルホルムアミド又は溶剤混合物、例えばジオキサン−水又はTHF−水混合物の存在で0〜100℃の温度で反応されることができる(J.Org. Chem. 1957, 22, 1551; Synth.Commun. 1997,27,2777; J.Org. Chem. 1959, 24, 774)。
【0029】
本発明は以下の例を用いてより詳細に説明されるが、それらに限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
使用可能性
例1
ジソラゾール、例えば、ジソラゾールE1は、悪性の腫瘍症、例えば乳がん、肺がん、卵巣がん、皮膚がん、前立腺がん、結腸がん、腎細胞がん、肝がん、膵臓がん及び脳のがんを処置するためのすぐ使用できる医薬における活性化合物として好ましい。
【0031】
好ましい投与形において、活性化合物は、注射ボトル中に当業者に公知の付形剤と一緒に凍結乾燥物として存在し、かつ使用前に生理的食塩水を用いて溶解され、ついで注射バッグ中で希釈され、かつ患者にカニューレを用いて静脈中へ投与される。用量は、腫瘍症のステージ及び患者の健康状態に応じて、1m当たり活性化合物0.1mg〜100mgである。注入期間は疾患の他覚的な診断基準に依存する。
【0032】
例2
炎症性疾患を処置するためのすぐ使用できる医薬における活性化合物としてのジソラゾール、例えば、ジソラゾールE1の使用。これらの疾患は、例えば、炎症性の気道疾患、例えば気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、湿疹、アレルギー性脈管炎、好酸球により媒介される炎症、例えば好酸球性肺炎(eosinophilic pneumonia)及びPIE症候群(好酸球増多性肺浸潤症候群)、じんま疹、潰瘍性大腸炎、クローン病及び増殖性皮膚疾患、例えば乾癬及び角化症を含む。
【0033】
例3
免疫疾患及び自己免疫疾患を処置するための免疫調節剤作用を有しているすぐ使用できる医薬における活性化合物としてのジソラゾール、例えば、ジソラゾールE1の使用。そのような疾患は、例えば、関節の炎症、例えば関節炎及び慢性関節リウマチ及び他の関節炎性疾患、例えばリウマチ様脊椎炎及び骨関節炎を含んでいてよい。使用のさらなる可能性は、敗血症、敗血症性ショック、グラム陰性敗血症、トキシックショック症候群、呼吸窮迫症候群、喘息及び他の慢性肺疾患、骨吸収疾患又は移植拒絶反応又は他の自己免疫疾患、例えばエリテマトーデス、多発性硬化症、糸球体腎炎及びブドウ膜炎、インシュリン依存性真性糖尿病及び慢性脱髄に苦しむ患者の処置である。
【0034】
例4
感染、例えばウイルス感染及び寄生虫感染を治療するため、例えばマラリア、感染関連性の発熱、感染関連性の筋肉痛、HIV感染(AIDS)及び悪液質を治療するために使用されることができるすぐ使用できる医薬における活性化合物としてのジソラゾール、例えば、ジソラゾールE1の使用。
【0035】
製造
本発明による化合物の投与のためには、非経口の、経皮の、局所の、吸入の及び鼻内の製剤が好ましくは適している。製剤の製造、充填及び密封は常用の抗菌及び無菌の条件下で実施される。
【0036】
本発明による少なくとも1つの成分に加えて、薬剤学的な形は、使用される薬剤学的な形に応じて、場合により付形剤、例えば、とりわけ、溶剤、溶液促進剤、可溶化剤、乳化剤、湿潤剤、消泡剤、ゲル−形成性薬剤、増粘剤、緩衝液、塩−形成性薬剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、矯味矯臭剤を含有する。使用されるべき付形剤及びその量の選択は選択される薬剤学的な形に依存し、かつ当業者に公知の処方に適合される。
【0037】
本発明による医薬は適している投与形で皮膚に、外表皮に(epicutaneously)溶液、懸濁剤、乳剤、フォーム、軟膏剤、パスタ剤又はパッチとして;鼻粘膜を経て、鼻に滴剤、軟膏剤又はスプレーとして;気管支及び肺胞の上皮を経て、肺に又は吸入によりエーロゾル又は吸入剤として;結膜を経て、結膜に点眼剤、眼軟膏剤、眼錠剤、ラメラ又は洗眼液として;動脈中へ、動脈内に注射として;静脈中へ、静脈内に注射又は注入として、静脈傍に注射又は注入として;皮膚中へ、皮内に注射又はインプラントとして;皮膚の下に、皮下に注射又はインプラントとして;筋肉中へ、筋肉内に注射又はインプラントとして;腹腔中へ、腹腔内に注射又は注入として、投与されることができる。
【0038】
腫瘍治療において本発明による一般式Iの化合物は、個々の物質としてか又はさらなる細胞毒性物質、例えば、パクリタクセル、ドセタクセル、ビンクリスチン、ビンデシン、シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、イホスファミド、シクロホスファミド、5−FU、メトトレキセートと組み合わされて又は免疫調節剤又は抗体と組み合わされて及び特にシグナル伝達の阻害剤、例えば、ハーセプチン、グリベック又はイレッサと組み合わされて使用されることができる。
【0039】
例5
ジソラゾール、例えば、ジソラゾールE1の非経口投与のための製剤は、別個の用量単位形、例えば、アンプル又はバイアルで存在していてよい。好ましくは、活性化合物の溶液、好ましくは水溶液及び特に等張性溶液又は選択的に懸濁液が使用される。これらの注射形は、すぐ使用できる製剤として入手可能にされることができるか又は使用直前にのみ活性化合物、例えば凍結乾燥物を、適当な場合にはさらなる固体の担持剤と、所望の溶剤又は懸濁剤と混合することにより調製される。
【0040】
例6
ジソラゾール、例えば、ジソラゾールE1の鼻内投与のための製剤は、水性又は油性の溶液としてか又は水性又は油性の懸濁液として存在していてよい。これらはまた、適している溶剤又は懸濁剤を用いて使用前に調製される凍結乾燥物として存在していてもよい。
【0041】
本発明による化合物の生物学的作用
例7 多様な腫瘍細胞への抗増殖性作用
本発明による化合物を、樹立腫瘍細胞系についての増殖試験においてそれらの抗増殖性活性について調べた(D.A. Scuderio他 Cancer Res. 1988, 48, 4827−4833)。使用した試験は、細胞性デヒドロゲナーゼ活性を決定し、かつ細胞活力及び間接的に細胞数の決定を可能にする。例として使用される細胞系は、ヒトの頚部の癌腫細胞系KB/HeLa(ATCC CCL17)、卵巣の腺癌細胞系SKOV−3(ATCC HTB77)、ヒトの膠芽腫細胞系SF−268(NCI 503138)、肺癌腫細胞系NCI−H460(NCI 503473)及びヒトの結腸腺癌細胞系RKOP27である。
【0042】
記載された化合物並びに参考化合物の細胞毒性活性又は成長阻害活性は第1表に示されている。結果は本発明による物質によって、選択された腫瘍細胞系の増殖の極めて効力のある阻害を示す。
【0043】
【表1】

第1表:ヒトの腫瘍細胞系についてのXTT細胞毒性試験における本発明による物質による増殖の阻害
【0044】
例8 MDR腫瘍細胞系への抗増殖性作用
さらなるキャラクタリゼーションのために、本発明による物質を多剤耐性の細胞系(MDR)に対して耐性のない野生型細胞系と比較して調べた。
【0045】
調べた細胞系は急性骨髄性白血病細胞系LT12及び耐性系LT12/mdrである。さらに、ネズミのP388細胞系(メチルコラントレン誘発リンパ球様の新生物)及びドキソルビシン耐性のP388を試験系として使用した。
【0046】
結果は以下に第2表に要約された形で示されている:
【0047】
【表2】

第2表:耐性のない及び耐性の腫瘍細胞系に関してのXTT増殖試験におけるジソラゾールE1及び参考物質の阻害作用。
【0048】
ジソラゾールE1は試験された全ての細胞系への極めて効力のある阻害作用を示すのに対し、古典的なチューブリン阻害剤、例えばパクリタクセル又はビンクリスチンの場合に大いに減少した作用及びMDR1細胞系への交差耐性が検出されうる。
【0049】
例9 チューブリンの重合の阻害
物質を、ウシのβ−チューブリンの重合の阻害についての試験管内試験において試験した(D.M. Bollag他 Cancer Res. 1995, 55, 2325−2333)。この試験において、重合及び解重合のサイクルにより精製されたチューブリンを使用し、かつGTPの添加及び加温により重合させる。30%関連タンパク質(MAPs)を有するβ−チューブリンの重合の阻害のEC50値は第3表に示されている。
【0050】
【表3】

第3表:30% MAPsを有するβ−チューブリンの重合の阻害
【0051】
結果は、ジソラゾールE1及びD1が低濃度でチューブリン重合を阻害することを示している。
【0052】
例10 細胞周期分析
細胞周期は1つの細胞世代から次までの細胞の発生を含む。
休止期(G0)及び前合成(presynthetic)期(G1)の間に細胞は倍数染色体のセット(2c)を有する。合成期(S)においてDNAの量は複製により増大される。S期は、前分裂(premitotic)期(G2M)に達することにより終了し、その際に細胞は複製された染色体補体(4c)及び倍加したDNA含量を有する。次の、一時的な有糸分裂期(M)において2つの娘細胞への複製された染色体の均質な分裂が起こり、これはついでその都度再び二倍体DNA含量を示し、かつG01期にあるので、細胞周期が新規に開始しうる。
【0053】
細胞周期分析のために、KB/HeLa細胞を、異なる濃度(0.1〜1000nM)の試験物質で37℃で24時間処理した。
【0054】
参考物質又は選択された試験物質での処理後の細胞周期のG2/M期において停止された細胞の百分率の割合は以下に第4表に示されている。結果は、特殊分析ソフトウエア(ModFitTM)を用いて評価した。
【0055】
【表4】

第4表:細胞の50%がG2/M期において停止される濃度。
【0056】
本発明による化合物は参考化合物に比較して最も高い活性を有する。特に、ジソラゾールE1は極端に低い濃度でG2/M期における細胞周期を阻害する。
【0057】
例11 生体内の結果
本発明による化合物の生体内活性を、ヒト及びネズミの異種移植モデルに関して試験した。
NCI−H460腫瘍異種移植片担持ヌードマウスを用いる治療実験において、静脈内に投与されるジソラゾールE1が、著しい体重減少又はことによると死亡率ですらを生じなかった用量ででさえ腫瘍成長の著しい減少を生じさせることが可能であった。
【0058】
図1はNCI−H460腫瘍異種移植におけるジソラゾールE1での生体内処置実験の結果を示す。
【0059】
例12 AMES試験
可能性のある副作用を推定するために、ジソラゾールE1を、3つの濃度(2.5;5及び10μM)で細菌:ネズミチフス菌の突然変異株TA98及びTA100に対する彷徨アッセイにおける変異原性について調べた。変異原性調査をさらにラット肝臓酵素S9の存在で実施した。
【0060】
結果は、以下に第5表に集められている:
【0061】
【表5】

第5表:変異原性についてのジソラゾールE1の調査
【0062】
ジソラゾールE1は、前記の濃度で記載されたアッセイ条件下で何の影響も示さず、故にAMES試験−不活性である。
【0063】
例13 タンパク質生合成及び非増殖性細胞への影響
可能性のある副作用潜在性を推定するために、増殖性細胞及びタンパク質生合成へのジソラゾールE1の影響を調べた(第6表)。
【0064】
【表6】

第6表:非増殖性細胞及びタンパク質生合成へのジソラゾールE1の影響
【0065】
第6表の結果は、ジソラゾールE1がタンパク質生合成にも非増殖性細胞の生存にも負に作用しないことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】NCI−H460腫瘍異種移植におけるジソラゾールE1での生体内処置実験の結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
【化1】

[式中、互いに独立して、
R1は次のものである:
(i)水素
(ii)OR4
(iii)C5′への二重結合の要素、
R2、R3及びR4は次のものである:
(i)水素
(ii)非置換又は置換の(C〜C)−アルキル、
(iii)1つ又はそれ以上のフッ素原子により置換された(C〜C)−アルキル、好ましくはトリフルオロメチル基、
(iv)非置換又は置換の(C〜C)−アルキル−(C〜C14)−アリール、非置換又は置換の(C〜C)−アルキルヘテロアリール、
(v)(C〜C)−アルコキシカルボニル、(C〜C)−アルキルアミノカルボニル (C〜C)−アルキルアミノ−チオカルボニル、(C〜C)−アルキルカルボニル又は(C〜C)−アルコキシカルボニル−(C〜C)−アルキル、
その際にF、Cl、Br、I、CN、NH、NH−(C〜C20)−アルキル、NH−(C〜C12)−シクロアルキル、OH、O−(C〜C20)−アルキルによるアルキル基の置換が単独にか又は、同じか又は異なる原子上で、同じか又は異なる置換基により多重に行われてよく、かつF、Cl、Br、I、CN、NH、NH−(C〜C20)−アルキル、OH、O−(C〜C20)−アルキル及び/又は1〜5個のへテロ原子、好ましくは窒素、酸素、硫黄を有する(C〜C)−ヘテロシクリルによるアリール基の置換が単独にか又は、同じか又は異なる原子上で、同じか又は異なる置換基により多重に行われてよく、
かつ
X、Yは次のものである:その都度個々に互いに独立してか又は一緒に、酸素、硫黄、2つのビシナルなヒドロキシル基、2つのビシナルなメトキシ基、二重結合の要素]で示される少なくとも1つのジソラゾール(disorazole)誘導体、
但し、R1がメトキシであり、R2、R3が水素であり、Xが酸素であり、かつYが二重結合の要素である化合物を除く、
前記誘導体の互変異性体、E/Z異性体、ジアステレオマー及び鏡像体を含めた立体異性体及びその生理学的に許容可能な塩を含有している医薬。
【請求項2】
ジソラゾール誘導体及び薬剤学的に利用可能な担持剤及び/又は希釈剤及び付形剤を、溶液、懸濁剤、乳剤、フォーム、軟膏剤、パスタ剤、パッチ又は投与用のインプラントの形で含有している、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
ヒト又は動物における良性又は悪性の腫瘍症を処置するための医薬を製造するための、一般式I
【化2】

[式中、互いに独立して、
R1は次のものである:
(i)水素
(ii)OR4
(iii)C5′への二重結合の要素、
R2、R3及びR4は次のものである:
(i)水素
(ii)非置換又は置換の(C〜C)−アルキル、
(iii)1つ又はそれ以上のフッ素原子により置換された(C〜C)−アルキル、好ましくはトリフルオロメチル基、
(iv)非置換又は置換の(C〜C)−アルキル−(C〜C14)−アリール、非置換又は置換の(C〜C)−アルキルヘテロアリール、
(v)(C〜C)−アルコキシカルボニル、(C〜C)−アルキルアミノカルボニル (C〜C)−アルキルアミノ−チオカルボニル、(C〜C)−アルキルカルボニル又は(C〜C)−アルコキシカルボニル−(C〜C)−アルキル、
その際にF、Cl、Br、I、CN、NH、NH−(C〜C20)−アルキル、NH−(C〜C12)−シクロアルキル、OH、O−(C〜C20)−アルキルによるアルキル基の置換が単独にか又は、同じか又は異なる原子上で、同じか又は異なる置換基により多重に行われてよく、かつF、Cl、Br、I、CN、NH、NH−(C〜C20)−アルキル、OH、O−(C〜C20)−アルキル及び/又は1〜5個のへテロ原子、好ましくは窒素、酸素、硫黄を有する(C〜C)−ヘテロシクリルによるアリール基の置換が単独にか又は、同じか又は異なる原子上で、同じか又は異なる置換基により多重に行われてよく、
かつ
X、Yは次のものである:その都度個々に互いに独立してか又は一緒に、酸素、硫黄、2つのビシナルなヒドロキシル基、2つのビシナルなメトキシ基、二重結合の要素]で示されるジソラゾール誘導体、
但し、R1がメトキシであり、R2、R3が水素であり、Xが酸素であり、かつYが二重結合の要素である化合物を除く、
前記誘導体の互変異性体、E/Z異性体、ジアステレオマー及び鏡像体を含めた立体異性体及びそれらの生理学的に許容可能な塩の使用。
【請求項4】
単独でか又は細胞毒性物質及び/又はシグナル伝達の阻害剤と組み合わされた、腫瘍症を処置するための請求項3記載の一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。
【請求項5】
内在性細胞の迅速でかつ制御されていない増殖に基づくヒト又は動物における疾患を処置するための医薬を製造するための一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。
【請求項6】
免疫調節作用に応答する疾患、例えば乾癬、動脈硬化症、関節炎、角化症、多発性硬化症及びがんを処置するための医薬を製造するための一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。
【請求項7】
感染性疾患、例えば悪液質、マラリア、AIDS及び感染関連性の発熱及び痛みを処置するための医薬を製造するための一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。
【請求項8】
炎症性及びアレルギー性の疾患、好酸球により媒介される炎症又は増殖性疾患、例えば気道疾患、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹及びクローン病を処置するための医薬を製造するための一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。
【請求項9】
ヒト又は動物における良性又は悪性の腫瘍症を処置するための医薬を製造するための、請求項3記載の、R1及びR2が水素であり、R3がメチルであり、かつX及びYが酸素である一般式Iのジソラゾール誘導体E1の使用。
【請求項10】
ヒトにおける乳がん、卵巣がん、肺がん、皮膚がん、前立腺がん、腎臓がん、肝がん、膵臓がん、大腸がん及び脳のがんを処置するための医薬を製造するための請求項9記載の一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。
【請求項11】
他の抗腫瘍剤と組み合わされた、ヒト又は動物における良性又は悪性の腫瘍症を処置するための医薬を製造するための請求項9又は10記載の一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。
【請求項12】
パクリタクセル、ドセタクセル、ビンクリスチン、ビンデシン、シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、イホスファミド、シクロホスファミド、5−FU、メトトレキセートと組み合わされた又は免疫調節剤又は抗体と組み合わされた、及び特にシグナル伝達の阻害剤、例えばハーセプチン、グリベック又はイレッサ等と組み合わされた、ヒト又は動物における良性又は悪性の腫瘍症を処置するための医薬を製造するための請求項9から11までのいずれか1項記載の一般式Iのジソラゾール誘導体の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−500398(P2006−500398A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535140(P2004−535140)
【出願日】平成15年8月22日(2003.8.22)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009329
【国際公開番号】WO2004/024149
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(503300502)ツェンタリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (25)
【Fターム(参考)】