説明

色素増感型太陽電池の負極電極およびその製造方法

【課題】簡易な製造工程によって製造コストを抑えつつ、透明導電膜と多孔質層との剥離を確実に抑制することが可能な色素増感型太陽電池の負極構造およびその製造方法を提供する。
【解決手段】発明の負極電極(半導体電極)10は、基板11と、この基板11の一面11aに成膜された透明導電膜12と、多孔質層13とを備えている。透明導電膜12の一面12aには、ガラス粒子14が散在している。このガラス粒子14は、少なくとも透明導電膜12の一面12a側と多孔質層13との界面に沿って、複数、それぞれ独立して散在するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、色素増感型太陽電池を構成する負極電極、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、太陽光などの光エネルギーを有効に利用する手段の1つとして、光エネルギーを電気エネルギーに直接変換する太陽電池が広く用いられている。この太陽電池は、シリコンの多結晶、または単結晶を用いたシリコン型太陽電池が良く知られており、すでに住宅用の電力供給用から電卓等の微弱電力用電源として利用されている。
【0003】
しかしながら、こうしたシリコン型太陽電池の製造にあたって必須となるシリコンの単結晶や多結晶、あるいはアモルファスシリコンを製造するためには、シリコン高純度化でのプロセスや高温での溶融プロセスを必要とするために多大なエネルギーを消費する。このため、シリコン型太陽電池を製造するために費やしたエネルギー量の総和が、この太陽電池の発電可能期間に発電できる総発電エネルギー量よりも大きいという危惧が出ている。
【0004】
こうした、シリコン型太陽電池の課題を解決する太陽電池として、近年、色素増感型太陽電池が注目されている。色素増感型太陽電池は、スイスのミカエル・グレツェルらがその基礎となる構造を開発したもので、光電変換効率が高く、かつ、シリコン型太陽電池のように単結晶シリコンなどの製造に多大なエネルギーを消費する材料が必要ではないため、太陽電池を作製するためのエネルギーも桁違いに少なく、且つ低コストで量産が可能なものであり、その普及が期待されるものである。
【0005】
このような色素増感型太陽電池は、周知のように、互いに対面した正極電極及び負極電極と、この両電極の間に充填された電解液とから概略構成されている。色素増感型太陽電池は、例えば以下の作製方法によって得られる。即ち、透明導電膜を形成したガラス基板に下地膜を形成し、この下地膜に、例えば酸化チタンからなる多孔質層を形成し、この多孔質層に色素を吸着させる。そして、色素の吸着後に逆電子移動防止のために、カルボン酸や有機金属塩等で処理を行い、色素増感型太陽電池の負極に用いる。一方、正極は、透明導電膜を形成したガラス基板にPt膜を形成する。このPt膜の形成は、例えば、Ptの蒸着や、Ptを含む塩を熱分解する方法、あるいは電解メッキ等で形成している。このようにして得られた正極と負極とを、例えばアイオノマー樹脂を用いて熱融着させ、最後に電解液を充填することによって色素増感型太陽電池が得られる。
【0006】
ところで、こうした色素増感型太陽電池の特性、特に出力特性にばらつきを生じさせる原因の1つとして、負極電極を構成する多孔質層、例えば酸化チタン膜が、ガラス基板に形成された透明導電膜から剥離しやすいということがあった。酸化チタン膜が透明導電膜から一部でも剥離してしまうと、導電性が低下し、十分な出力特性が得られないという課題があった。
【0007】
特に微小な剥離の発生が、ガラス基板の透明導電膜と多孔質層との間に生じると、色素から半導体電極に注入される電子が伝導体における励起寿命内に透明導電膜に移動することが難しくなり、十分な電流が取れないことや電圧低下の原因になる。また、剥離面積が大きいと、半導体の多孔質層が電極として機能しなくなり、著しい電流密度の低下を生じてしまう。
【0008】
そこで、色素増感太陽電池を構成するガラス基板にラフネスを形成し、接触面積を増やすことで透明導電膜と多孔質層との剥離を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、こうした方法では、多孔質層を形成するために酸化チタンペーストを塗布して焼成する際に、焼結収縮に起因したストレスによって、透明導電膜と多孔質層との剥離が促進されてしまい、十分に剥離を抑止することが困難であった。
【0009】
また、ガラス基板に形成された透明導電膜に、柱状の酸化亜鉛や酸化チタンを形成し、この上に酸化チタンからなる多孔質層を積層することによって、透明導電膜と多孔質層との剥離を抑制する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。こうした方法では、ガラス基板の上の透明導電膜と多孔質層との導電性が向上し、透明導電膜と多孔質層との剥離を抑制するのに一定の効果が確認されている。しかしながら、透明導電膜に柱状の酸化亜鉛や酸化チタンを形成するためには、スパッタリング装置や反応蒸着、CVDといった精密な成膜プロセスを導入する必要があり、こうした製造工程を負極電極の製造に適用する場合、製造コストの大幅な増加と生産性の低下をもたらすという点で、実用的には様々な課題があった。
【特許文献1】特開2007−42494号公報
【特許文献2】特開2007−87854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡易な製造工程によって製造コストを抑えつつ、透明導電膜と多孔質層との剥離を確実に抑制することが可能な色素増感型太陽電池の負極構造およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、本発明においては、ガラス基板と、該ガラス基板の一面に、順に重ねて配される透明導電膜と多孔質層とを少なくとも備えた色素増感型太陽電池の負極電極であって、前記透明導電膜と前記多孔質層との間で、ガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させたことを特徴とする色素増感型太陽電池の負極電極が提供される。
【0012】
前記ガラス粒子の一群は、前記透明導電膜に接していればよい。また、前記ガラス粒子の残りの一群は、前記透明導電膜に接することなく、前記多孔質層内に配されていればよい。
【0013】
前記ガラス粒子と前記透明導電膜との接触面積の総和は、前記透明導電膜の一面における表面積に対して、0.1%以上、13%以下を占めることが好ましい。前記ガラス粒子は、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。前記ガラス粒子は前記多孔質層に対して0.1重量%以上、10重量%以下の範囲になるように形成されることが好ましい。
【0014】
前記ガラス粒子を構成するガラスは、Zn濃度が10重量%以下であることが好ましい。前記ガラス粒子を構成するガラスは、軟化点が700℃以下であることが好ましい。前記ガラス粒子は、前記透明導電膜の一面から鉛直方向に向かって少なくとも0.26μm以上突出していることが好ましい。
【0015】
また、本発明においては、ガラス基板の一面側に透明導電膜を形成する工程と、前記透明導電膜の一面側にガラス粒子を複数、それぞれ孤立して散在させる工程と、前記ガラス粒子を覆うように半導体ペーストを塗布して焼成し、前記透明導電膜の一面側に多孔質層を形成する工程とを備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池の負極電極の製造方法が提供される。
【0016】
さらに、本発明においては、ガラス基板の一面側に透明導電膜を形成する工程と、該透明導電膜の一面側にガラス粒子を含む半導体ペーストを塗布して焼成し、該透明導電膜の一面側にガラス粒子が複数、それぞれ孤立して散在した多孔質層を形成する工程とを備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池の負極電極の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の色素増感型太陽電池の負極電極によれば、透明導電膜と前記多孔質層との間で、複数、それぞれ独立して散在させたガラス粒子は、透明導電膜から多孔質層が剥離することを防止する。即ち、従来のように、透明導電膜と多孔質層とが平滑な面どうしで接している構造では、透明導電膜から多孔質層が剥離して、導通不良を生じさせやすい。
【0018】
ところが、本発明のように、透明導電膜にガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させることで、底面が透明導電膜12に結合したガラス粒子が、透明導電膜から多数突出した状態となる。そして、こうしたガラス粒子が多孔質層の一部に食い込み、透明導電膜と多孔質層との接触面積を実質的に増加させる。これによって、多孔質層は透明導電膜の側、即ち基板に繋ぎ留められ、多孔質層に収縮などが生じても、基板から剥離してしまうことを効果的に防止することが可能になる。
【0019】
多孔質層の透明導電膜からの剥離防止した、本発明の負極電極を色素増感型太陽電池に用いることによって、微小な剥離の発生による導電性の低下、出力特性の劣化、また、大規模な剥離による多孔質層の電極として機能不全といった不具合を確実に防止し、長期間にわたって安定した出力特性を維持した発電が可能になる。
【0020】
また、本発明の色素増感型太陽電池の負極電極の製造方法によれば、多孔質層と透明電極膜との間に、ガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させ、多孔質層と基板とを強固に結び付けて多孔質層の剥離を確実に防止した色素増感型太陽電池の負極電極を得ることができる。
【0021】
そして、多孔質層と基板とを強固に結び付けるガラス粒子の形成にあたって、ガラス粒子を含むペーストを塗布したり、ガラス粒子をスプレー法、グラビア印刷法、ブレード法、転写法等によって散在させるだけでよいので、例えば、スパッタリング装置や反応蒸着、CVDといった精密な成膜プロセスが必要ない。よって、基板から多孔質層が剥離することを防止した負極電極を、簡易な工程でローコストに製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る色素増感型太陽電池の負極電極の一実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
(負極電極)
図1は、本発明の色素増感型太陽電池の負極電極の実施形態を模式的に示したものである。図1(a)は、本発明の負極電極10の断面図を模式的に示した図であり、図1(b)は、透明導電膜12上にガラス粒子14を配した状態を模式的に示した斜視図である。また、図1(b)のN−N断面図に、多孔質層を配したものが、図1(a)に該当する。
本発明の負極電極10は、ガラス基板(以下、基板と称する)11の一面に透明電極膜12と多孔質層13とを重ねて順に配し、ガラス粒子14が、透明導電膜12と多孔質層13との間に複数、それぞれ独立して散在しており、一部のガラス粒子14aは透明導電膜12に接している。また、多孔質層13中には、透明導電膜12に接しない状態で配しているガラス粒子14bがある。以下、これら負極電極10を構成する各部を説明する。
【0024】
[基板]
基板11は、光を透過させる透明基板が用いられ、ガラス基板が好適である。ガラス基板の材質としては、例えば、ソーダライムガラス系の材料よりなり、Si,Ca,Na,K,Mg,Alの酸化物を主成分に含んだものより構成される。より具体的には、ソーダガラスとしては、SiOを70〜73%前後含有し、Na,Kの酸化物が10〜15%程度、CaOが7〜12%程度含有されていればよい。こうしたガラス基板は、軟化温度が720〜730℃、線膨張率として85〜90×10−7/℃前後のものである
【0025】
[透明導電膜]
透明導電膜12は、ITO、FTOなどからなるシート抵抗が1〜100Ω程度、好ましくは30Ω以下の厚さ100nm以上の透明な導電体からなる。これにより、基板11の一面11a側が導電性を有する透明な基板11が形成される。
【0026】
[多孔質層]
【0027】
多孔質層13は、微粒子、例えば粒子径が3〜20nm程度のアナターゼ型結晶構造をもつ多孔質層構造の酸化チタン層であればよい。また、例えば、直径が30〜200nm、長さが0.5〜20μm程度の針状結晶の酸化チタンと、例えば、直径が5〜400nm程度の粒状結晶の酸化チタンとが混在する多孔質層であってもよい。更には、例えば、直径が20〜400nmの粒状結晶を成すアナターゼ型酸化チタンであってもよい。こうした多孔質層13は、例えば、厚みが0.1〜10μmになるように形成されていれば良い。
【0028】
[ガラス粒子]
ガラス粒子14のうちの一群14aは、少なくとも透明導電膜12の一面12a側と多孔質層13との界面に沿って、複数、それぞれ独立して散在するように形成されている。加えて、ガラス粒子14の残りの一群14bは、多孔質層13の中に散在するように形成されていても良い。
【0029】
例えば、図1に示した負極電極11においては、ガラス粒子14は透明導電膜12の一面12a側と多孔質層13との界面に沿って、複数、それぞれ独立して散在するように形成されるものと、多孔質層13の中に散在するように形成されるものとが混在している。
【0030】
また一方で、図2(a),図2(b)に示した負極電極11においては、ガラス粒子14は透明導電膜12の一面12a側と多孔質層13との界面に沿って、複数、それぞれ独立して散在するものだけで構成されている。これら、図1に示す負極電極と、図2に示す負極電極とは製造方法が異なっており、これらそれぞれの製造方法は後ほど詳述する。
【0031】
このような、透明導電膜12の一面12aに複数、それぞれ独立して散在するように形成されたガラス粒子14は、透明導電膜12から多孔質層13が剥離することを防止する。即ち、従来のように、透明導電膜と多孔質層とが平滑な面どうしで接している構造では、透明導電膜から多孔質層が剥離して、導通不良を生じさせやすい。
【0032】
ところが、本発明のように、透明導電膜12の一面12aにガラス粒子14を複数、それぞれ独立して散在させることで、底面が透明導電膜12に結合したガラス粒子14が、透明導電膜12の一面12aから多数突出した状態となる。そして、こうしたガラス粒子14が多孔質層13の一部に食い込み、透明導電膜12と多孔質層13との接触面積を実質的に増加させる。これによって、多孔質層13は透明導電膜12の側、即ち基板11に繋ぎ留められ、多孔質層13に収縮などが生じても、基板11から剥離してしまうことを効果的に防止することが可能になる。
【0033】
多孔質層13の透明導電膜12からの剥離防止した、本発明の負極電極を色素増感型太陽電池に用いることによって、微小な剥離の発生による導電性の低下、出力特性の劣化、また、大規模な剥離による多孔質層の電極として機能不全といった不具合を確実に防止し、長期間にわたって安定した出力特性を維持した発電が可能になる。
【0034】
ガラス粒子14を構成する材料としては、低融点ガラスが好ましい。低融点ガラスとしては、例えば、軟化点が700℃以下、平均粒径が0.5μm以上10μm以下の粒子状ガラスが好ましい。こうした、低融点の粒子状ガラスの一部分が透明導電膜12と融着し、他の部分が多孔質層に食い込んで融着することにより、多孔質層13と透明導電膜12との結合性を高める役割を果たす。
【0035】
このようなガラス粒子14が透明導電膜を形成した基板上に接触している面積が多いと、抵抗が増大してしまい、逆に接触面積が少なすぎると、剥離を防止する作用が低下する。従って、ガラス粒子14と透明導電膜12との接触面積の総和は、透明導電膜12の一面12aにおける表面積に対して、24%以下、好ましくは0.1%以上、13%以下を占めることが好ましい。
【0036】
また、ガラス粒子14を構成する低融点ガラスの屈折率を変えて、ガラスの基板11から透過してくる光を、基板11とガラス粒子14との融着部において、またはガラス粒子14と多孔質層13との接触界面において光を散乱させて、多孔質層における光吸収性能を上げることができる。こうした観点から、ガラス粒子14の平均粒径としては0.1μm以上のものが妥当である。
【0037】
ガラス粒子14の線膨張率は、接着するガラス製の基板11との差の絶対値が20×10−7/℃以下であることが、剥離の抑制において望ましい。使用するガラス成分としては、例えばSiO−Bi−MO系、またはB−Bi−MO系、SiO−CaO−Na(K)O−MO系、P−MgO−MO系(但し、Mは一種以上の金属元素を示す)などがあり、基本的にはSiO骨格、B骨格、P骨格に、融点の制御及び化学的な安定性のために他の金属酸化物が含有されたものである。
【0038】
各ガラス系の主成分であるB、P、Bi、SiOに加えられるアルカリ金属等は、融点を下げるものである。熱膨張率の制御には、例えば酸化物フィラーとしてアルミナ,チタニア,ジルコン,シリカ,コーディエライト,ムライト,β−ユークリプタイト,スポジューメン,アノーサイト,セルシアン,フォルステライト及びチタン酸アルミニウムなどが挙げられる。本発明が対象とする基板を構成するガラスとしては、例えばソーダライムガラス、石英ガラスやホウ酸ガラス、鉛ガラス等が挙げられ、特にガラスの種類や組成に限定されるものではない。
【0039】
ガラス粒子14を構成する低融点ガラスの成分として、Znの含有量が多いと電解液に溶出し、色素増感型太陽電池の特性を低下させるため、Znの濃度は10重量%以下にすることが望ましい。
【0040】
多孔質層13と透明導電膜12との間に、ガラス粒子14を複数、それぞれ独立して散在させるために用いる低融点ガラスのペーストとしては、ガラス粉の粒径は100μm以下が好ましい。特に、粒径が大きいとボイドを生じやすいため、望ましくは10μm以下が良い。ペーストの副成分である樹脂や溶媒は、例えば、500〜600℃程度までに完全に燃焼され、残物が残らないようなものがよく、例えば通常のポリビニルアルコールやポリエチレングリコール、エチルセルロース(EC)、アクリル樹脂等が挙げられる。ペーストの粘度としては、測定条件20℃、20rpmで1〜100Pa・sであればよい。
【0041】
(色素増感型太陽電池)
上述したような構成の本発明の負極電極を用いた、色素増感型太陽電池の一例を以下に説明する。図3に示すように、色素増感型太陽電池30は、上述したような負極電極10、即ち、透明導電膜12と多孔質層13との界面に沿って、ガラス粒子14を複数、それぞれ独立して散在させ、多孔質層13と基板11とが強固に結び付けられた負極電極10を用いたもので、この多孔質層13に増感用の色素を吸着させて使用する。また、この負極電極10に対向して、白金22をガラス基板21に担持させた正極電極20を配し、封止材32によって負極電極10と正極電極20とを周縁部で封止する。この後、負極電極10と正極電極20との間に電解液31を満たし、色素増感型太陽電池30が形成される。
【0042】
多孔質層13に吸着させる色素としては、例えばルテニウムビピリジン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポリフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素などが挙げられる。
【0043】
色素の吸着方法としては、例えば、負極電極10を色素が溶解された溶液(色素吸着用溶液)に浸漬する方法が挙げられる。色素を溶解させる溶剤としては、色素を溶解するものであればよく、具体的には、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類が挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0044】
溶液中の色素濃度は、使用する色素および溶剤の種類により適宜調整することができるが、吸着機能を向上させるためにはできるだけ高濃度である方が好ましいが、高濃度であると多孔質層の表面に過剰に吸着した層が形成されるので、低濃度が好ましく3×10−4モル/リットル以上であればよい。
【0045】
電解液31を構成する酸化還元対としては、I3−/I系の電解質、Br3−/Br系の電解質などのレドックス電解質等が挙げられるが、酸化還元対を構成する酸化体がI3−であり、かつ、前記酸化還元対を構成する還元体がIであるI3−/I系の電解質が好ましく、LiI、NaI、KI、CsI、CaIなどの金属ヨウ化物、およびテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩などのヨウ化物と、Iとの組み合わせが挙げられる。このような電解液31において、特にヨウ素系レドックス溶液からなる電解質が用いられる場合には、正極20は白金又は導電性炭素材料からなること、及び触媒粒子が白金又は導電性炭素材料からなることが好ましい。
【0046】
電解液31を構成する溶剤としては、例えば、
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物,3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物,
ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物,
エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのエーテル類,
メタノール、エタノールなどのアルコール類,
エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類,
アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物,
ジメチルスルフォキシド、スルフォランなど非プロトン極性物質
などが好ましく挙げられる。
【0047】
電解液31の濃度は、電解質や溶剤の種類などにより適宜設定すればよく、例えば、0.01〜1.5モル/リットル、好ましくは0.01〜0.7モル/リットルである。具体的な電解液の一例としては、リチウムアイオダイド0.06モル/リットル、ヨウ素0.06モル/リットル、ターシャルブチルピリジン0.3モル/リットルの濃度となるようにそれぞれをアセトニトリルに溶解させたものが挙げられる。
【0048】
色素増感型太陽電池30の形成方法としては、負極電極10と、白金を担持させた正極電極20とを対面させ、アイオノマー等の有機材料を用いてこれら負極電極10と正極電極20とを熱融着させて封止部32を形成し、更に外周部をガスバリヤー性のある材料で封止する方法などが挙げられる。
【0049】
以上のように、本発明の負極電極10を用いた色素増感型太陽電池30によれば、多孔質層13と、透明電極膜12との間に、ガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させ、多孔質層13と基板11とを強固に結び付けることによって、多孔質層13の剥離を確実に防止し、高い光電変換効率の高性能な色素増感型太陽電池を実現することが可能になる。
【0050】
(負極電極の製造方法1)
図4は、色素増感型太陽電池の負極電極の製造方法を段階的に示した断面図である。本発明の負極電極の製造にあたっては、まず、図4(a)に示すように、基板41を用意する。基板41は、ガラス基板、例えば、ソーダライムガラス系の材料よりなり、Si,Ca,Na,K,Mg,Alの酸化物を主成分に含んだものより構成される。より具体的には、ソーダガラスとしては、SiOを70〜73%前後含有し、Na,Kの酸化物が10〜15%程度、CaOが7〜12%程度含有されていればよい。こうしたガラス基板は、軟化温度が720〜730℃、線膨張率として85〜90×10−7/℃前後のものである
【0051】
次に、図4(b)に示すように、このような基板41の一面41aに透明導電膜42を成膜する。透明導電膜42は、例えば、ITO、FTOなどからなるシート抵抗が1〜100Ω程度、好ましくは30Ω以下の厚さ100nm以上の透明な導電体であればよい。
【0052】
そして、図4(c)に示すように、透明導電膜42の一面42aに低融点ガラスからなるガラス粒子を含むペーストを塗布して乾燥させるか、または低融点ガラスからなるガラス粒子(ガラス粉)をスプレー法、グラビア印刷法、ブレード法、転写法等により透明導電膜42の一面42a上に定着させる。これにより、図5に示すように、透明導電膜42の一面42aには、ガラス粒子43が複数、それぞれ独立して散在して定着された状態となる。
【0053】
その後、図4(d)に示すように、ガラス粒子43が複数、それぞれ独立して散在した透明導電膜42を覆うように、多孔質層44を形成する。多孔質層44は、例えば、粒子径が3〜20nm程度のアナターゼ型結晶構造をもつ多孔質層構造の酸化チタン層であればよい。
【0054】
以上のような工程によって、多孔質層44と透明電極膜42との間に、ガラス粒子43を複数、それぞれ独立して散在させ、多孔質層44と基板41とを強固に結び付けて多孔質層44の剥離を確実に防止した色素増感型太陽電池の負極電極40を得ることができる。
【0055】
そして、上述したような本発明の負極電極の製造方法によれば、多孔質層44と基板41とを強固に結び付けるガラス粒子43の形成にあたって、ガラス粒子を含むペーストを塗布したり、ガラス粒子をスプレー法、グラビア印刷法、ブレード法、転写法等によって散在させるだけでよいので、例えば、スパッタリング装置や反応蒸着、CVDといった精密な成膜プロセスが必要ない。よって、基板から多孔質層が剥離することを防止した負極電極を、簡易な工程でローコストに製造することが可能になる。
【0056】
(負極電極の製造方法2)
図6は、負極電極の製造方法の別な一例を段階的に示した断面図である。本発明の負極電極の製造にあたっては、まず、図6(a)に示すように、基板51を用意する。基板51は、ガラス基板、例えば、ソーダライムガラス系の材料よりなり、軟化温度が720〜730℃、線膨張率として85〜90×10−7/℃前後のものである
【0057】
次に、図6(b)に示すように、このような基板51の一面51aに透明導電膜52を成膜する。透明導電膜52は、例えば、ITO、FTOなどからなるシート抵抗が1〜100Ω程度、好ましくは30Ω以下の厚さ100nm以上の透明な導電体であればよい。
【0058】
そして、低融点ガラスからなるガラス粒子と、多孔質層を構成するための半導体材料とを含んだ混合ペーストを作成し、図6(c)に示すように、透明導電膜52の一面52aに、この混合ペーストを塗布してペースト層53を形成する。
その後、図6(d)に示すように、ペースト層53を焼成し、ガラス粒子54を含む多孔質層55を形成する。こうした工程を経て製造された負極電極50は、透明導電膜52と多孔質層55との間に、ガラス粒子54が複数、それぞれ独立して散在するとともに、多孔質層55内にもガラス粒子54が散在した状態となる。これによって、多孔質層55と基板51とを強固に結び付けて多孔質層55の剥離を確実に防止した色素増感型太陽電池の負極電極60を得ることができる。
【0059】
そして、上述したような本発明の負極電極の製造方法によれば、多孔質層55と基板51とを強固に結び付けるガラス粒子54の形成にあたって、ガラス粒子と、多孔質層を構成するための半導体材料とを含んだ混合ペーストを塗布した後、焼成するだけでよいので、例えば、スパッタリング装置や反応蒸着、CVDといった精密な成膜プロセスが必要ない。よって、基板から多孔質層が剥離することを防止した負極電極を、簡易な工程でローコストに製造することが可能になる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の負極電極およびこれを用いた色素増感型太陽電池の効果を検証した実施例を列記する。
【0061】
「実施例1」
図2に示したような、透明導電膜の一面にガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させた負極電極について、多孔質層の剥離の状態を検討した。基板であるガラス板はセントラル硝子製の建材ガラス(ソーダライムガラス:厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板の熱膨張率は89×10−7/℃であった。この上にITOからなる透明導電膜を形成した(シート抵抗値が17Ω)。この上に低融点ガラス粉(ガラス粒子)を表面に隙間ができるように塗布し、窒素雰囲気中にて550℃,30分の処理を行った。用いた低融点ガラスは、平均粒径7μmのB−Bi系低融点ガラスである。軟化点は515℃であり、また比抵抗は10Ωcm以上であった。低融点ガラスの熱膨張率の制御には酸化チタンや酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等を添加して行った。
【0062】
こうして作成した試料1〜9の負極電極について、顕微鏡にて撮影し、画像解析により融着面積を計算した。次に境化学製の酸化チタン粉をペースト化したものを用いて全面に塗布し、120℃で乾燥後、500℃にて焼成して厚み30ミクロンの酸化チタン膜からなる多孔質層を形成した。この後、ガラス背面からの光学顕微鏡による観察を行い、画像解析により多孔質層の剥離状態の評価を行った。この画像解析の結果から、低融点ガラス(ガラス粒子)と透明導電膜との融着面積と、酸化チタン膜(多孔質層)の剥離面積との関係を測定した。こうした結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示す結果によれば、低融点ガラス(ガラス粒子)と透明電極膜との融着面積(総和)が大きいほど、酸化チタン膜(多孔質層)の剥離の抑制効果が大きいことが確認された。なお、表1における融着面積率は、透明導電膜の表面面積に対して低融点ガラスが融着している面積の占める割合を百分率で示し、剥離面積率は表面面積に対して剥離している部分の面積の占める割合を百分率で示したものである。
【0065】
次に、上述した作成した試料1〜9の負極電極をそれぞれ用いて、試料10〜18の色素増感型太陽電池を作製した。色素増感型太陽電池を作製にあたっては、負極電極は取り出し電極のために、周囲は幅1cmで集電体の銀電極のみとした。正極電極は負極電極と同じサイズのガラス基板にITO膜を形成し、スパッタリング法によりPtを300nm成膜し、ドリルにより1mmΦの径の穴を角の位置の2箇所に形成した。この後、正極電極に、負極電極と同様に集電体を銀で形成した。
【0066】
次に、負極電極の多孔質層に対して、ルテニウム錯体系の色素ルテニウム535(SOLARONIX 製品名: ルテニウム535)を濃度5×10-4モル/リットルにした溶液に浸漬して8時間保持した。次に無水エタノールに浸漬して過剰の色素を取り除き、100℃にて乾燥した。そして、正極電極、負極電極を対面させ、周縁部に厚み60μmのアイオノマー樹脂を幅3mmで付着させ、100gf/cmの荷重を掛けた状態において、120℃にて正極電極と負極電極とを熱融着させた。
【0067】
こうした作製したセルにLiIとI2とを溶かしたアセトニトリル電解液を、注入口より入れて、セル全体に均一になるように注入した。こうして作成した色素増感型太陽電池の試料10〜18を用いて、光電変換特性を調べた。なお、試料10〜18に用いた負極電極は、上述した試料1〜9の負極電極に順にそれぞれ対応する。
【0068】
電池特性評価試験は、ソーラーシミュレータ(山下電装製、商品名;「YSS−100A型」)を用い、AMフィルター(AM1.5)を通したキセノンランプ光源からの疑似太陽光の照射条件を、100mW/cmとする(いわゆる「1Sun」の照射条件)測定条件の下で行った。こうした光電変換効率の測定結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示す結果から、負極電極における融着面積率が多くなると、光電変換効率が下がることが確認された。光電変換効率の観点から見た場合、融着面積率は多くても13%であり、望ましくは6パーセント以下であることが分かった。剥離面積率との関係を踏まえると、融着面積率が少なくとも0.12%以上から13%以下であることが好ましいことが確認された。
【0071】
「実施例2」
実施例2では、負極電極のガラス粒子の塗布条件を同一にして、軟化点の異なる複数種のガラス粒子を用いて、それぞれの融着面積率を測定し、更に実施例1と同様に酸化チタンからなる多孔質層を形成して、試料20〜26の負極電極を得た。そして、それぞれの試料の剥離面積率の評価を行った。ガラス粒子の軟化点はアルミナとシリカの添加量を変えることによって制御した。塗布条件は実施例1において融着面積率が5.8%となる条件で行った。これら試料20〜26の負極電極における剥離面積率を測定した結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3に示す結果によれば、ガラス粒子に用いる低融点ガラスは、軟化点が最高でも720℃以下であることが好ましく、より好ましくは620℃以下であることが確認された。
【0074】
「実施例3」
実施例1において、B−Bi系低融点ガラスの組成で、酸化亜鉛を添加したZnO−B−Biの低融点ガラスを作製し、ZnOの重量%を変えて軟化点を600℃以下に制御しながら、色素増感型太陽電池セルを作製した。そして、Znの重量%と色素増感型太陽電池の2000時間後の光電変換効率を調べた。これら試料27〜32の色素増感型太陽電池の光電変換効率を測定した結果を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4に示す結果によれば、Znは重量%で最大でも8.4%以下が好ましく、より好ましくは5.2%以下であることが分かった。なお、表4においては、2000時間後の変換効率に対して耐久試験を実施する前の初期値を用いて規格化した数値を記載した。耐久試験条件はキセノンランプを用いて100mW/cmとする(いわゆる「1Sun」の照射条件)条件の下で室温にて実施した。
【0077】
「実施例4」
実施例4では、ガラス基板に対して、低融点ガラスからなるガラス粒子の融着のさせ方を変えることによる多孔質層の剥離の抑制効果を調べた。基板であるガラス板はセントラル硝子製の建材ガラス(ソーダライムガラス:厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板の熱膨張率は89×10−7/℃であった。この上にITOからなる透明導電膜を形成した(シート抵抗値が10Ω)。この上に低融点ガラス粉(ガラス粒子)を表面に隙間ができるように塗布し、窒素雰囲気中にて550℃,30分の処理を行った。この時、熱処理後の融着率が10%程度になるように作製した。用いた低融点ガラスは、平均粒径2μmのSnO−B−Bi系低融点ガラスである。軟化点は535℃であった。低融点ガラスの熱膨張率の制御には酸化チタンや酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等を添加して行った。
【0078】
こうして作成した負極電極について、顕微鏡にて撮影し、画像解析により融着面積を計算した。次に酸化チタン粉(Degussa社製 製品名:p25)に100μのシリカ粒子を5重量%混ぜてペースト化したものを用いて全面に塗布し120℃で乾燥後、500℃にて焼成して厚み30ミクロンの酸化チタン膜からなる多孔質層を形成した。この後、ガラス基板の背面側から光学顕微鏡による観察を行い、画像解析により剥離領域の評価を行った。次に、この負極電極を用いて、実施例1と同様に色素増感型太陽電池を作成し、本発明例1の色素増感型太陽電池としての特性を評価した。一方、低融点ガラスからなるガラス粒子を塗布しない状態で、同じ組成の酸化チタンペーストを用いて同様な条件で作製した負極電極を用いて、従来の比較例1の色素増感型太陽電池を作製した。
【0079】
この実施例4においては、本発明例1および比較例1の試料をそれぞれ20個ずつ作製して、その中で良い特性のものを10個選択して平均値を求めた。また光電変換効率に関しては、平均値よりも光電変換効率が20%小さいものの数を全数の20個で割り、特性の悪いものの量を不良率として百分率で示した。こうした実施例4の結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表5に示す結果によれば、低融点ガラスからなるガラス粒子を透明導電膜に塗して熱処理により融着させたものに、酸化チタンからなる多孔質層を形成した負極電極(本発明例1)は、ガラス粒子を用いないで作製した負極電極(比較例1)よりも、多孔質層の剥離が抑制され、不良率(歩留まり)も大幅に良いことが分かった。
【0082】
「実施例5」
実施例5では、図1に示したような、透明導電膜の一面にガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させ、更に多孔質層にもガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させた負極電極について、多孔質層の剥離の状態を検討した。基板であるガラス板はセントラル硝子製の建材ガラス(ソーダライムガラス:厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板の熱膨張率は89×10−7/℃であった。この上にITOからなる透明導電膜を形成した(シート抵抗値が10Ω)。この上に酸化チタン粉(Degussa社製 製品名:p25)に平均粒径10μmの低融点ガラス粒子を所定量に加えて混合、分散させペースト化した混合ペーストを用いて、透明導電膜の一面に塗布し、120℃で乾燥後、500℃にて焼成して、厚み30μmの酸化チタン膜からなる多孔質層を形成した。この多孔質層は、透明導電膜との界面にガラス粒子が複数、それぞれ独立して散在し、かつ、多孔質層の内部にもガラス粒子が散在している構造である。
【0083】
ガラス粒子を構成する低融点ガラスは、SnO−B−Bi系低融点ガラスを用いた。軟化点は565℃であった。低融点ガラスの熱膨張率の制御には酸化チタンや酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等を添加し、基板の線膨張率の差の絶対値が30×10−7/℃以内になるようにした。こうして作成した試料33〜41の負極電極について、基板背面から光学顕微鏡による観察を行い、画像解析により、多孔質層の剥離部分の評価を行った。なお、試料33は、酸化チタンペーストにガラス粒子を混合しない、従来の比較例である。こうした結果を表6に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
表6に示す結果によれば、ガラス添加量が多いほど酸化チタン膜(多孔質層)の剥離の抑制効果が大きいことが確認された。なお、表6における剥離面積率は表面面積に対して剥離している部分の面積の占める割合を百分率で示したものである。
【0086】
次に、上述した作成した試料33〜41の負極電極をそれぞれ用いて、実施例1と同様の工程で、試料42〜50の色素増感型太陽電池を作製した。こうして作成した色素増感型太陽電池の試料42〜50を用いて、光電変換特性を調べた。なお、試料42〜50に用いた負極電極は、上述した試料33〜41の負極電極に順にそれぞれ対応する。光電変換効率の測定結果を表7に示す。
【0087】
【表7】

【0088】
表7に示す結果から、低融点ガラスからなるガラス粒子を多孔質層に散在させた負極電極を用いた色素増感型太陽電池は、低融点ガラスを混ぜないものよりも多孔質層の剥離が抑制される効果により、光電変換効率が著しく改善されることが分かった。この際、低融点ガラス成分が多過ぎると、剥離は抑制されるが太陽電池特性が劣化する。このため、ガラス粒子の配合量としては0.1〜10重量%が望ましいことが分かった。
【0089】
「実施例6」
実施例6では、実施例5において添加する低融点ガラスの量を固定して、低融点ガラスの粒子サイズを変えて作製した色素増感型太陽電池の特性を検証した。基板であるガラス板はセントラル硝子製の建材ガラス(ソーダライムガラス:厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板の熱膨張率は89×10−7/℃であった。この上にITOからなる透明導電膜を形成した(シート抵抗値が10Ω)。この上に酸化チタン粉(Degussa社製 製品名:p25)に平均粒径が異なる低融点ガラス粒子を5重量%で固定して加えて混合、分散させペースト化した混合ペーストを用いて、透明導電膜の一面に塗布し、120℃で乾燥後、500℃にて焼成して、厚み30μmの酸化チタン膜からなる多孔質層を形成した。この多孔質層は、透明導電膜との界面にガラス粒子が複数、それぞれ独立して散在し、かつ、多孔質層の内部にもガラス粒子が散在している構造である。
【0090】
ガラス粒子を構成する低融点ガラスは、SnO−B−Bi系低融点ガラスを用いた。軟化点は565℃であった。低融点ガラスの熱膨張率の制御には酸化チタンや酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等を添加し、基板の線膨張率の差の絶対値が30×10−7/℃以内になるようにした。こうして作成した試料51〜57の負極電極について、基板背面から光学顕微鏡による観察を行い、画像解析により、多孔質層の剥離部分の評価を行った。こうした結果を表8に示す。
【0091】
【表8】

【0092】
次に、上述した作成した試料51〜57の負極電極をそれぞれ用いて、実施例1と同様の工程で、試料58〜64の色素増感型太陽電池を作製した。こうして作成した色素増感型太陽電池の試料58〜64を用いて、光電変換特性を調べた。なお、試料58〜64に用いた負極電極は、上述した試料51〜57の負極電極に順にそれぞれ対応する。光電変換効率の測定結果を表9に示す。
【0093】
【表9】

【0094】
表9に示す結果から、酸化チタンペーストに混合する低融点ガラスの粉の平均粒径が小さいと、光電変換効率が低下することが分かった。よって、低融点ガラス粉の平均粒径として、少なくとも0.49以上のガラス粒子を混ぜたペーストを用いて多孔質層を形成するのが好ましいことが分かった。
【0095】
「実施例7」
実施例7では、シート抵抗値として10ΩのITO透明導電膜を形成したガラス製の基板の上に、実施例6における低融点ガラスの平均粒径の異なるものを用いて熱融着させる際に、融着面積率がほぼ5%になるようにして塗布と焼成を行った。ガラス粒子としては、ZnO−B−Bi系低融点ガラスを用いた。軟化点は635℃であった。低融点ガラスの熱膨張率の制御には酸化チタンや酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等を添加し、基板の線膨張率の差の絶対値が30×10−7/℃以内になるようにした。
【0096】
基板であるガラス板はセントラル硝子製の建材ガラス(ソーダライムガラス:厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板の熱膨張率は89×10−7/℃であった。この低融点ガラスからなるガラス粒子の突起高さを、触針法にて評価して平均値を求めた。次に、この上に酸化チタンペースト(SOLARONIX 製品名:Nanoxide HT)に針状酸化チタン粉(石原産業製 品名: FTL−100)を5重量%添加したものを全面に塗布し、120℃で乾燥後、500℃にて焼成して厚み18μmの酸化チタンからなる多孔質層を形成した。こうして作成した試料65〜71の負極電極について、基板背面から光学顕微鏡による観察を行い、画像解析により、多孔質層の剥離部分の評価を行った。こうした結果を表10に示す。
【0097】
【表10】

【0098】
次に、上述した作成した試料65〜71の負極電極をそれぞれ用いて、実施例1と同様の工程で、試料72〜78の色素増感型太陽電池を作製した。こうして作成した色素増感型太陽電池の試料72〜78を用いて、光電変換特性を調べた。なお、試料72〜78に用いた負極電極は、上述した試料65〜71の負極電極に順にそれぞれ対応する。光電変換効率の測定結果を表11に示す。
【0099】
【表11】

【0100】
表11に示す結果から、ガラス粒子を構成する低融点ガラスの粉の平均の突起高さが低いと、多孔質層の剥離が生じやすいことが分かった。低融点ガラス粉の平均突起高さとして0.21μm以上となるようにすれば好ましいことが分かった。
【0101】
「実施例8」
実施例8では、シート抵抗値として10ΩのITO透明導電膜を形成したガラスからなる基板の上に、比抵抗の異なる低融点ガラスを用いて、それぞれの低融点ガラスの粉を用いて熱融着させる際に、融着面積率がほぼ20%になるようにして塗布と焼成を行った。低融点ガラスとしては、平均粒径が約10μmのZnO−B−Bi系低融点ガラスに、伝導性付与のために平均粒径が約1μmのAg粉を0.1から20重量%混ぜ込み、熱処理後に粉砕したものを用いた。この混合材料の平均粒径は12μmであった。
基板であるガラス板はセントラル硝子製の建材ガラス(ソーダライムガラス:厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板の熱膨張率は89×10−7/℃であった。この上にに酸化チタン粉(Degussa社製 製品名:p25)に針状酸化チタン粉(石原産業製 品名: FTL−100)を5重量%添加したものを全面に塗布し、120℃で乾燥後、500℃にて焼成して厚み18μmの酸化チタンからなる多孔質層を形成した。こうして作成した試料79〜85の負極電極について、基板背面から光学顕微鏡による観察を行い、画像解析により、多孔質層の剥離部分の評価を行った。こうした結果を表12に示す。
【0102】
【表12】

【0103】
次に、上述した作成した試料79〜85の負極電極をそれぞれ用いて、実施例1と同様の工程で、試料86〜92の色素増感型太陽電池を作製した。こうして作成した色素増感型太陽電池の試料86〜92を用いて、光電変換特性を調べた。なお、試料86〜92に用いた負極電極は、上述した試料79〜85の負極電極に順にそれぞれ対応する。光電変換効率の測定結果を表13に示す。
【0104】
【表13】

【0105】
表13に示す結果から、透明導電膜に比抵抗の小さい低融点ガラスを熱融着させて酸化チタンの多孔質層を形成したものでは、色素増感型太陽電池の変換効率が改善されることが分かった。特に、比抵抗は最大でも5.2×10Ωcm以下が好ましいことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池の負極電極を示す断面図である。
【図2】本発明の色素増感型太陽電池の負極電極を示す断面図である。
【図3】本発明の負極電極を用いた色素増感型太陽電池を示す断面図である。
【図4】本発明の負極電極の製造方法の一例を示した断面図である。
【図5】透明導電膜上のガラス粒子の様子を示す模式図である。
【図6】本発明の負極電極の製造方法の別な一例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0107】
10 負極電極、11 基板(ガラス基板)、12 透明導電膜、13 多孔質層、14 ガラス粒子(低融点ガラス粉)、30 色素増感型太陽電池。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、該ガラス基板の一面に、順に重ねて配される透明導電膜と多孔質層とを少なくとも備えた色素増感型太陽電池の負極電極であって、
前記透明導電膜と前記多孔質層との間で、ガラス粒子を複数、それぞれ独立して散在させたことを特徴とする色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項2】
前記ガラス粒子の一群は、前記透明導電膜に接していることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項3】
前記ガラス粒子の残りの一群は、前記透明導電膜に接することなく、前記多孔質層内に配されることを特徴とする請求項2記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項4】
前記ガラス粒子と前記透明導電膜との接触面積の総和は、前記透明導電膜の一面における表面積に対して、0.1%以上、13%以下を占めることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項5】
前記ガラス粒子は、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項6】
前記ガラス粒子は前記多孔質層に対して0.1重量%以上、10重量%以下の範囲になるように形成されることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項7】
前記ガラス粒子を構成するガラスは、Zn濃度が10重量%以下であることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項8】
前記ガラス粒子を構成するガラスは、軟化点が700℃以下であることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項9】
前記ガラス粒子は、前記透明導電膜の一面から鉛直方向に向かって少なくとも0.26μm以上突出していることを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の色素増感型太陽電池の負極電極。
【請求項10】
ガラス基板の一面側に透明導電膜を形成する工程と、前記透明導電膜の一面側にガラス粒子を複数、それぞれ孤立して散在させる工程と、前記ガラス粒子を覆うように半導体ペーストを塗布して焼成し、前記透明導電膜の一面側に多孔質層を形成する工程とを備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池の負極電極の製造方法。
【請求項11】
ガラス基板の一面側に透明導電膜を形成する工程と、該透明導電膜の一面側にガラス粒子を含む半導体ペーストを塗布して焼成し、該透明導電膜の一面側にガラス粒子が複数、それぞれ孤立して散在した多孔質層を形成する工程とを備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池の負極電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−99407(P2009−99407A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270429(P2007−270429)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】