説明

色素増感型太陽電池

【課題】実用レベルの優れたエネルギー変換効率を有し、かつ安定した発電が可能な色素増感型太陽電池を提供すること。
【解決手段】色素増感型太陽電池10は、半導体電極2及びその受光面F2上に配置された透明電極1を有する光電極WEと、対極CEとを有しており、半導体電極2と対極とが電解質Eを介して対向配置された色素増感型太陽電池であり、透明電極1の受光面F1の法線方向から半導体電極2の受光面F2に入射する光の入射角θが30〜80°となるように、半導体電極2の受光面が形成されており、半導体電極2の受光面F2が透明電極1と半導体電極2との界面であることを特徴とする色素増感型太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化やエネルギー問題に対する関心の高まりとともに太陽電池の様々な開発が進められている。その太陽電池の中でも、色素増感型太陽電池の実用化を実現するためには、そのエネルギー変換効率(光電変換効率)を少なくともアモルファスシリコン太陽電池と同等の水準にまで向上させる必要がある。
【0003】
例えば、大きさが1m×1m程度の色素増感型太陽電池モジュールに対しては、約8%以上のエネルギー変換効率が要求される。そのため、このような規模の色素増感型太陽電池モジュールの構成単位となっている色素増感型太陽電池(以下、単に「セル」という)には、各セルを互いに結合させるために各セル間に形成される額縁部分に起因する受光面積の損失や、集電効率を向上させるために設けられる櫛形電極に起因する受光面積の損失を考慮して約8%を超えるエネルギー変換効率が要求される。例えば、大きさが10cm×10cm程度のセルを用いて上記のエネルギー変換効率の値を有するモジュールを構成する場合、各セルには約10%以上のエネルギー変換効率が要求される。
【0004】
色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率は、入射光強度I[mWcm−2]、開放電圧Voc[V]、短絡電流密度Isc[mAcm−2]、曲線因子F.F.(Fill Facter)を用いて下記式(1)で表される。
エネルギー変換効率=(Voc×Isc×F.F.)/I…(1)
【0005】
上記(1)式から明らかなように、エネルギー変換効率を向上させるためには、Voc、Isc及びF.F.を向上させればよいが、これらを改善することは容易でない。そのため、半導体電極における入射光の利用率(量子効率)を向上させることによりエネルギー変換効率を向上させるための様々な試みが行われている。
【0006】
例えば、色素を含有する半導体電極の厚み大きくすることにより入射光の光路を長くして入射光の利用率を向上させることができる。しかし、半導体電極の厚みを大きくすると半導体電極の電気抵抗の増大、電極内におけるキャリアの消失量の増大、電極内のナノ細孔中に存在する電解液中のイオン拡散抵抗が増大してしまい、エネルギー変換効率がかえって低下してしまう。そこで、半導体電極の厚みを小さくした条件(15μm以下)のもとで半導体電極における入射光の利用率を向上させるための試みが行われている。
【0007】
例えば、半導体電極内に粒径の大きな半導体粒子と小さな半導体粒子を混在させて半導体電極に入射する入射光を散乱させることにより、その利用率を向上させることを意図した色素増感型太陽電池が提案されている。また、特許2664194号公報には、多結晶性金属酸化物半導体からなる厚さが20μm程度の半導体電極を用い、その表面の表面粗さ係数(roughness factor)を20より大きくすると共にその表面に色素を含有させることにより、約12%という高いエネルギー変換効率値を達成可能な色素増感型太陽電池が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、半導体電極内に粒径の大きな半導体粒子と小さな半導体粒子を混在させた上記従来の色素増感型太陽電池においては、大きな半導体結晶粒子による光散乱の結果、大きな半導体粒子がない場合に比べて半導体電極内を通過する光路長は長くなり光の利用率は増加するが、あくまで散乱現象を利用しているため、一部はどうしても半導体電極を通過してしまうという問題があった。また、大きな半導体結晶粒子が多くなると、色素が吸着する半導体表面の総表面積が減って光吸収率が減少し、光電変換効率の低下につながってしまうという問題があった。
【0009】
また、特許2664194号公報に記載の色素増感型太陽電池は、透明導電膜上に別に集電線を設けておらず、光を吸収して励起された色素から金属酸化物半導体に注入された電子は透明導電膜によってのみ捕集され電力として取り出される。しかし、透明導電膜の導電性の限界により電池の面積が1cm×1cmよりも広くなった場合、抵抗損失が大きくなり形状因子を低下させて変換効率を低下させてしまう。従って、電池の面積が1cm×1cmよりも広くなった場合、Agなどの集電線を一定間隔に設けて抵抗損失を低減する必要がある。だだし、この場合、新たに電解液による集電線の腐食の問題が生じ、集電線の保護のための保護層の設置と同時に、電解液を集電電極を腐食しにくい成分構成に変更する必要がある。このような集電電極及び保護層の設置は電池の光電変換有効面積を減らす。また、電解液成分の変更は現状では変換効率の低下につながる。
【0010】
更に、10cm×10cmの面積を有する太陽電池を複数組み合わせてより大きな面積の太陽電池パネルを構成する場合、配線の取り出しや外装上の問題により、互いに隣接して配置されている各10cm×10cmの面積を有する太陽電池毎に光電変換に寄与しない額縁部分が形成されるので、光電変換のための有効面積は更に減少する。更に、上記の太陽電池パネルを複数組み合わせて太陽電池モジュールを構成する場合には、太陽電池パネルの間にも上記の額縁部分が形成されるので光電変換のための有効面積の損失は更に増大する。このようなことから、特許2664194号公報の技術を用いても、色素増感型太陽電池では実用レベルの変換効率の達成は非常に困難であるという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、実用レベルの優れたエネルギー変換効率を有し、かつ安定した発電が可能な色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、光を半導体電極に入射させるときに、電極面(受光面)の法線方向から入射させること(以下、「垂直入射」という)がエネルギー変換効率を向上させる上で有効であるということが当業者の一般的な認識であったにもかかわらず、色素増感型太陽電池においては、光を電極面の法線方向に対して30〜80°の入射角で入射させる(以下、「斜め入射」という)と、垂直入射させる場合に比較して入射光利用率が向上し、単位有効面積当たりの発電量が向上することを見出した。
【0013】
例えば、受光面の発電に寄与する部分の面積が50mmであり、厚みが20μmであるTiO半導体電極を厚みが1.1mmのガラス基板上に形成した構成の光電極と、ヨウ素系レドックス溶液からなる電解質と、上記のガラス基板と同様の形状と大きさを有するフッ素ドープSnOコートガラス基板にPt薄膜(膜厚;3nm)を蒸着させた構成の対極CEとを有する色素増感型太陽電池100(図6に示す色素増感型太陽電池UCと同様構成を有する)について、そのエネルギー変換効率の光入射角依存性を測定した結果、図14のグラフに示す結果が得られた。なお、図14中の縦軸に示すηとは、後述の「実効的なエネルギー変換効率」を示す。図14に示す結果から明らかなように、光を電極面の法線方向に対して30〜80°の入射角で斜め入射させると、エネルギー変換効率が向上することが確認された。
【0014】
更に、この色素増感型太陽電池100について、光を約45°の入射角で入射させた場合と法線方向から入射させた場合の電流電圧特性及びηを測定した結果を図15(a)及び(b)に示す。図15(a)は色素増感型太陽電池100の電極面の法線方向に対して光を約45°の入射角で入射させた場合の電流電圧特性及びエネルギー変換効率を示すグラフであり、図15(b)は色素増感型太陽電池100の電極面の法線方向から入射させた場合の電流電圧特性及びエネルギー変換効率を示すグラフである。ここで、測定条件は、図15(a)の電池特性の測定及び図15(b)電池特性の測定のどちらの場合も半導体電極の受光面における照射強度;4.2mW/cm、測定温度;27.8℃とした。そして、図15(a)の電池特性の測定の場合、得られたエネルギー変換効率の最大値は4.3140%(短絡電流Isc;0.3030mA、開放端電圧Voc;0.6024V、曲線因子F.F.;0.7289)であった。一方、図15(b)の電池特性の測定の場合、得られたエネルギー変換効率の最大値は3.7080%(短絡電流Isc;0.2427mA、開放端電圧Voc;0.5880V、曲線因子F.F.;0.8875)であった。
【0015】
そして、本発明者等は、上記のことが色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールのエネルギー変換効率の向上を図る上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0016】
すなわち、本発明の色素増感型太陽電池は、半導体電極及びその受光面上に配置された透明電極を有する光電極と、対極とを有しており、半導体電極と対極とが電解質を介して対向配置された色素増感型太陽電池であって、透明電極の受光面の法線方向から半導体電極の受光面に入射する光の入射角が30〜80°となるように、半導体電極の受光面が形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
このように、透明電極の受光面の法線方向から入射する光の進行方向を規準にし、透明電極の受光面に対して半導体電極の受光面を傾斜させて半導体電極の電極面に光を斜め入射させる構成とすることにより、半導体電極の厚みを薄くしても十分に長い光路を半導体電極内に確保することができる。
【0018】
すなわち、半導体電極の厚みを薄くした場合における、(1)半導体電極内における色素の光励起と半導体への電子注入を、電気抵抗が小さくキャリアの損失量の少ない透明電極近傍の領域において効率よく行なえること、(2)光励起され半導体への電子注入を果した後の色素に対してI/I等の酸化還元種が作用する色素還元反応を、イオン拡散抵抗の小さな電解質近傍の領域において効率よく行なえること、という利点を損なうことなく半導体電極内に十分に長い光路を半導体電極内に確保することができるので、入射光の利用率を向上させ、ひいては半導体電極の単位有効面積当たりのエネルギー変換効率を向上させることができる。具体的には、垂直入射を行なう従来の色素増感型太陽電池に比較して斜め入射を行なう本発明の色素増感型太陽電池は、半導体電極の単位有効面積当たりのエネルギー変換効率を5〜50%向上させることができる。
【0019】
上記の結果は、Si太陽電池等通常の固体pn接合太陽電池に対して光を斜めに入射させたときには得ることのできない色素増感型太陽電池の特徴である。
【0020】
なお、本発明において「半導体電極の有効面積」とは、半導体電極の受光面の実際の面積をSとし、透明電極の受光面の法線方向から半導体電極の受光面に入射する光の入射角をθとすると、Scosθで表される面積を示す。すなわち、透明電極の受光面或いは色素増感型太陽電池が設置される設置面に対して半導体電極の受光面が傾斜角θを有して傾斜している場合、半導体電極の有効面積は、実際の面積Sの正射影の面積を示す。また、本発明においては、「半導体電極の単位有効面積当たりのエネルギー変換効率」を「実効的なエネルギー変換効率」として以下の説明に記述する。
【0021】
ここで、半導体電極の受光面に入射する光の入射角が透明電極の受光面の法線方向から測って30°未満であると、光の斜め入射によるメリットは少なく、受光面に入射光を垂直に入射させる場合と比べた単位面積当たりの光のエネルギーの減少と相殺し、「実効的なエネルギー変換効率」の向上は望めない。一方、半導体電極の受光面に入射する光の入射角が透明電極の受光面の法線方向から測って80°を超えると、以下の2つの理由により「実効的なエネルギー変換効率」の向上は望めない。すなわち、その一つの理由は、透明電極の受光面と半導体電極の受光面とが平行である場合においては、上記の入射角が80°を超えると透明電極の表面における反射が顕著になり、光が半導体電極に到達しにくくなることである。そして、もう一つの理由は透明電極には光が垂直に入射し、かつ、半導体電極には入射角が80°を超える角度で入射する場合には透明電極と半導体電極との界面での反射損失や、散乱損失が大きくなることである。そして、上記と同様の観点から透明電極の受光面の法線方向から半導体電極の受光面に入射する光の入射角は、40〜75°であることがより好ましく、50〜70°であることが更に好ましい。
【0022】
更に、本発明の色素増感型太陽電池の半導体電極の厚みは、5〜30μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましく、8〜13μmであることが更に好ましい。半導体電極の厚みが5μm未満となると、色素吸着量が少なくなり光を有効に吸収できなくなる傾向が大きくなる。一方、半導体電極の厚みが30μmを超えると、電気抵抗が大きくなり半導体に注入されたキャリアの損失量が多くなるとともに、イオン拡散抵抗が増大して、光励起されて半導体への電子注入を果した後の色素に対するIからの電子注入によってIの対極への搬出が阻害され、電池の出力特性が低下する傾向が大きくなる。
【0023】
また、本発明の色素増感型太陽電池は、半導体電極及びその受光面上に配置された透明電極を有する光電極と、対極とを有しており、半導体電極と対極とが電解質を介して対向配置された色素増感型太陽電池であって、透明電極には、当該透明電極内を進行して半導体電極の受光面に入射する光の入射角が30〜80°となるように、外部から透明電極の受光面に入射する光の進行方向を変化させるライトガイド手段が形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
このように、電池の外部から透明電極の受光面に入射する光の進行方向を変化させるライトガイド手段を当該透明電極の上部に設けて、透明電極の受光面に垂直入射してくる光を半導体電極の受光面に斜め入射させる構成とすることにより、先に述べた色素増感型太陽電池と同様に、半導体電極の厚みを薄くしても十分に長い光路を半導体電極内に確保することができる。そのため、入射光の利用率を向上させ、ひいては実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明の色素増感型太陽電池において、上記のようにライトガイド手段を設ける構成を有する電池の場合、上記の透明電極の受光面又は半導体電極の受光面を形成する際の基準となる「外部から透明電極の受光面に入射する光の進行方向」とは、透明電極の受光面がフラットな場合には、透明電極の受光面の法線方向を示し(例えば、後述の図4に示す面F1及び面F2を参照)、一方、透明電極の受光面がフラットでなく半導体電極の受光面がフラットな場合には、半導体電極の受光面の法線方向を示す(例えば、後述の図3に示す面F1及び面F2を参照)。更に、透明電極の受光面及び半導体電極の受光面が共にフラットでない場合には、透明電極又は半導体電極の内部にフラットな仮想的な面を仮想受光面として設け、この仮想的な受光面の法線方向を外部から入射する光の進行方向とし、これを基準として実際の透明電極の受光面又は半導体電極の受光面を設計するものとする。
【0026】
更に、この場合には、ライトガイド手段から半導体電極の電極面に入射する光の入射角をより精密にかつ容易に制御するすることが可能となる。その結果、半導体電極内部に複数の集電電極(櫛形電極)が配置されている場合、これを回避するように半導体電極に侵入する入射光の進行方向を調節することができ、集電電極(櫛形電極)に起因する実効的なエネルギー変換効率の低下を招くことなく実験室レベルの規模の試験セルを実用的な規模のセルにスケールアップすることが容易に可能となる。
【0027】
ただし、本発明の色素増感型太陽電池において、上記のようにライトガイド手段を設ける構成を有しており、かつ、半導体電極の受光面がフラットな場合には、前述の「半導体電極の有効面積」は実際の面積Sに一致する。従って、本発明において、このような構成の太陽電池の場合の「実効的なエネルギー変換効率」はScosθではなくS当たりのエネルギー変換効率を示す。
【0028】
なお、上記のような場合にも、透明電極の受光面の法線方向或いは半導体電極の受光面の法線方向から半導体電極の受光面に入射する光の入射角は40〜75°であることがより好ましく、50〜70°であることが更に好ましい。また、この場合の半導体電極の厚みも、5〜30μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましく、8〜13μmであることが更に好ましい。
【0029】
また、本発明の色素増感型太陽電池は、半導体電極及びその受光面上に配置された透明電極を有する光電極と、対極とを有しており、半導体電極と対極とが電解質を介して対向配置された色素増感型太陽電池であって、半導体電極の受光面には、複数の集電電極が設けられており、透明電極内を進行して半導体電極の受光面に入射する光の入射角が30〜80°となるように、半導体電極の受光面が形成されており、かつ、前記光が半導体電極の受光面の集電電極の形成されていない領域に選択的に照射されるように透明電極の受光面が形成されていることを特徴とする。
【0030】
なお、上記の色素増感型太陽電池においても、上記の透明電極の受光面又は半導体電極の受光面を形成する際の基準となる「外部から透明電極の受光面に入射する光の進行方向」は、透明電極の受光面がフラットな場合には、透明電極の受光面の法線方向を示し、一方、透明電極の受光面がフラットでなく半導体電極の受光面がフラットな場合には、半導体電極の受光面の法線方向を示す。更に、透明電極の受光面及び半導体電極の受光面が共にフラットでない場合には、透明電極又は半導体電極の内部にフラットな仮想的な面を仮想受光面として設け、この仮想的な受光面の法線方向を外部から入射する光の進行方向とし、これを基準として実際の透明電極の受光面又は半導体電極の受光面を設計するものとする(後述の図9に示す仮想受光面FP1を参照)。
【0031】
上記の条件を満たすように、半導体電極の受光面と、透明電極の受光面とをそれぞれ形成することにより、半導体電極の電極面に入射する光の入射角をより精密にかつ容易に制御することが可能となる。その結果、半導体電極内部に複数の集電電極(櫛形電極)が配置されていても、これを回避するように半導体電極に侵入する入射光の進行方向を調節することができ、集電電極(櫛形電極)に起因する実効的なエネルギー変換効率の低下を招くことなく実験室レベルの規模の試験セルを実用的な規模のセルにスケールアップすることが容易に可能となる。
【0032】
なお、上記のような場合にも、半導体電極の受光面に入射する光の入射角は40〜75°であることがより好ましく、50〜70°であることが更に好ましい。また、この場合の半導体電極の厚みも、5〜30μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましく、8〜13μmであることが更に好ましい。
【0033】
更に、本発明の色素増感型太陽電池モジュールは、半導体電極及びその受光面上に配置された透明電極を有する光電極と、対極とを有しており、半導体電極と対極とが電解質を介して対向配置された色素増感型太陽電池が基台上に複数配置された色素増感型太陽電池モジュールであって、基台の設置面の法線方向から各色素増感型太陽電池に入射する光の入射角が30〜80°となるように、各色素増感型太陽電池が配置されていることを特徴とする。
【0034】
このように、基台の設置面の法線方向からモジュールを構成する各色素増感型太陽電池に入射する光の進行方向を規準にし、各色素増感型太陽電池を傾斜させてそれぞれの半導体電極の電極面に光を斜め入射させる構成とすることにより、先に述べた色素増感型太陽電池と同様に、半導体電極の厚みを薄くしても十分に長い光路を半導体電極内に確保することができる。そのため、各色素増感型太陽電池の入射光の利用率を向上させることができ、ひいてはモジュール全体としてのエネルギー変換効率を向上させることができる。そして、この場合、色素増感型太陽電池は構造的に安定なものを作製して使用することができるので、モジュール全体として高い実効的なエネルギー変換効率の発電を安定して行なうことが可能となる。
【0035】
更に、この場合には、一つの色素増感型太陽電池の半導体電極の受光面において反射する光を、他の色素増感型太陽電池の半導体電極の受光面に斜め入射させることも可能であるので、モジュール全体としての大きな反射防止効果を得ることが可能となる。
【0036】
なお、この場合にも、基台の設置面の法線方向から各色素増感型太陽電池に入射する光の入射角は40〜75°であることがより好ましく、50〜70°であることが更に好ましい。また、半導体電極の厚みも、5〜30μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましく、8〜13μmであることが更に好ましい。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、本発明の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールによれば、厚みの薄い半導体電極を用いても十分な入射光利用率を確実に確保することができ、スケールアップやモジュール化する場合にも受光面積の低下による入射光利用率低下を十分に低減することが容易にできる。従って、アモルファスシリコン太陽電池に匹敵する優れたエネルギー変換効率を有し、かつ安定した発電が可能な色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0039】
[第一実施形態]
図1は、本発明の色素増感型太陽電池の第一実施形態を示す模式断面図である。図1に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池10は、主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に配置された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーSにより光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。この色素増感型太陽電池10は、透明電極1を透過して半導体電極2に照射される光L10によって半導体電極2内において電子を発生させる。そして、半導体電極2内において発生した電子は、透明電極1に集められて外部に取り出される。
【0040】
ここで、図1に示すように、色素増感型太陽電池10の光電極WEにおいては、透明電極1の受光面F1の法線方向から入射する光L10の進行方向を規準にした場合に、透明電極1の受光面F1の法線方向から半導体電極の受光面F2に入射する光L10の入射角θが30〜80°となるように、半導体電極2が形成されている。すなわち、半導体電極2をその断面方向からみた場合の電極の層の形状が鋸歯状になるように形成されている。また、透明電極1の半導体電極2との接触面もこの半導体電極2の形状に合わせての鋸歯状に溝が形成されている。これにより、外部から入射する光L10は受光面F2に斜め入射することになる。そして、半導体電極2の厚みを薄くしても十分に長い光路を半導体電極内に確保することができるようになる。そのため、入射光の利用率を向上させ、実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。例えば、光起電力の入射角依存性からθ=45°のときには同面積の従来型の色素増感型太陽電池と比較して約1.2倍のエネルギー変換効率が得られる。また、θ=70°のときには同じ実行面積の従来型の色素増感型太陽電池と比較して約1.5倍のエネルギー変換効率が得られる。
【0041】
なお、図1に示す色素増感型太陽電池10においては、対極CEについても電解質Eに接触する側の面F3を半導体電極2の形状に合わせての鋸歯状に溝が形成されている。これにより、図1において、鋸歯状の凹凸の周期は数ミリ程度であり、光電極WEと対極CEとの間隔は50〜100μm程度である。従って、図1の色素増感型太陽電池10は縦方向(光L10の進行方向)に引き伸ばして強調的に描かれている。実際には半導体電極2の形状に合わせて対極CEの面F3を鋸歯状にすることにより、対極CEと光電極WEは電解質Eの層を挟んで平行に配置することになり、その間に均一な平行電場を生ずることができる。もし、この対極CEの電解質E側の面F3の形状がフラットであると、光電極側では電界は凸部に集中してしまい、安定した動作ができない。
【0042】
透明電極1の構成は特に限定されるものではなく、通常の色素増感型太陽電池に搭載される透明電極を使用できる。例えば、ガラス基板等の透明基板(図示せず)の半導体電極側に光を透過させるいわゆる透明導電膜(図2参照)をコートしたものを使用でき、例えば、フッ素ドープSnOコートガラス、ITOコートガラス、ZnO:Alコートガラス等が使用される。また、半導体電極2の構成材料となる半導体は特に限定されるものではなく、酸化物半導体、硫化物半導体等を使用することができる。酸化物半導体としては、例えば、TiO,ZnO,SnO,Nb,In,WO,ZrO,La,Ta,SrTiO,BaTiO等を用いることができる。硫化物半導体としては、例えば、CdS等を用いることができる。また、上記の半導体の他に、Si,GaAs等も用いることができる。また、半導体電極2内に含有させる色素は特に限定されるものではなく、例えば、ルテニウム錯体、金属フタロシアニン等を用いることができる。
【0043】
また、対極CEの構成材料は特に限定されるものではない。例えば、上記の透明電極1と同様の透明導電膜上にPt等の金属薄膜電極を形成し、金属薄膜電極を電解質Eの側に向けて配置させるものであってもよい。更に、電解質Eの組成も光励起され半導体への電子注入を果した後の色素を還元するための酸化還元種を含んでいれば特に限定されないが、I/I等の酸化還元種を含むヨウ素系レドックス溶液が好ましく用いられる。また、スペーサーSの構成材料は特に限定されるものではなく、例えば、シリカビーズ等を用いることができる。
【0044】
次に、図1の色素増感型太陽電池10の製造方法について説明する。図2で、図1の色素増感型太陽電池10の光電極WEの製造工程の一例を示す。先ず、透明電極1は、ガラス基板等の基板4上に先に述べたフッ素ドープSnO等の透明導電膜3をスプレーコートする等の公知の方法を用いて形成することができる。このとき、基板4の透明導電膜3を形成する側の面F4の形状は、完成後の半導体電極2の受光面F2へ入射する光の入射角θの値に合わせて断面が鋸歯状となるように形成する。基板4の面をこのような形状とする方法は特に限定されず、例えば、基板4を鋳込むことにより形成する際に使用する型の形状を合わせておいてもよく、略直方体状に形成した基板の一面を上記の形状にカットしてもよい。
【0045】
次に、図2に示すように、透明電極1の透明導電膜3上にTiO等の半導体Vsを膜状に蒸着させることにより半導体電極2を形成する。透明導電膜3上に半導体を膜状に蒸着させる方法は公知の方法を用いることができる。例えば、電子ビーム蒸着、抵抗加熱蒸着、スパッタ蒸着、クラスタイオンビーム蒸着等の物理蒸着法を用いてもよく、酸素等の反応性ガス中で金属等を蒸発させ、反応生成物を透明導電膜3上に堆積させる反応蒸着法を用いてもよい。更に、反応ガスの流れを制御する等してCVD等の化学蒸着法を用いることもできる。
【0046】
なお、このとき、基板4の透明導電膜3を形成する側の面F4の法線方向に対する蒸着粒子の入射角θvsは、30°〜80°であることが好ましく、先に述べた入射角θと同じ値であることがより好ましい。これにより、面F4の透明導電膜3上に形成する半導体の電極層(蒸着膜)は、蒸着した半導体粒子が受光面F4の法線方向に対して15〜40°の傾きを有する柱状の集合体が複数隣接した構造を有するように形成される。この柱状構造を有する半導体の電極層は、当該受光面F4の法線方向から蒸着粒子を蒸着させて形成した場合の半導体の電極層に比べて表面積が大きく、色素の含有量を増大させることができるので、電池出力及びエネルギー変換効率を向上させることができる。蒸着粒子の入射角θvsが30°未満であると、蒸着における自己遮蔽効果が顕著でなくなるため明確な柱状構造が形成されにくい傾向となる。一方、蒸着粒子の入射角θvsが80°を超えると、膜が非常に疎な構造になり、機械強度が低下して使えなくなるおそれがある。
【0047】
また、蒸着粒子の入射角θvsを30〜80°に調節する方法は特に限定されず、例えば、蒸着装置内において、蒸着粒子の進行方向に対して基板4を予め所定の角度に傾けて設置してもよく、蒸着粒子供給源に対して基板4を高速で相対移動させるようにしてもよく、更には、2つの蒸着粒子の供給源を設けて、面F4に対する蒸着粒子の入射方向を2方向として同時に蒸着させてもよい。また、蒸着時に、蒸着粒子の入射方向に垂直な面方向に基板或いは蒸着粒子の供給源を徐々に移動して半導体粒子を螺旋状に蒸着させ、その比表面積をより大きくしてもよい。
【0048】
次に、透明導電膜3上に半導体電極2となる半導体蒸着膜を形成した後、必要に応じてこの半導体蒸着膜に所定の温度条件のもとで熱処理を加え、相転移させてもよい。これにより、例えば、半導体蒸着膜がアモルファス相の状態で形成された場合、これを結晶化させ、アナターゼ相にすることができる。その結果、結晶化による明瞭なバンド構造の形成、半導体の結晶粒成長及びそれに伴った結晶粒間の結合性向上等により、色素から半導体への電子の注入効率が向上されるか、或いは半導体蒸着膜内における電子の移動が容易となり、エネルギー変換効率を更に向上させることができる。更に、上記の熱処理を非酸化性雰囲気において行なうと、酸素欠陥量の多い半導体蒸着膜とすることができ、半導体蒸着膜の電気伝導度が高くなりエネルギー変換効率を更に向上させることができる。
【0049】
次に、この半導体蒸着膜中に浸着法等の公知の方法により色素を含有させ、半導体電極2を完成させる。なお、このとき、色素の他に必要に応じて、銀等の金属やアルミナ等の金属酸化物を蒸着膜中に含有させてもよい。このようにして光電極WEを作製した後は、公知の方法により対極CEを作製し、これと光電極WEと、スペーサーSを図1に示すように組み上げて、内部に電解質Eを充填し、色素増感型太陽電池10を完成させる。
【0050】
[第二実施形態]
以下、図3を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池の第二実施形態について説明する。なお、上述した第一実施形態に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図3は、本発明の色素増感型太陽電池の第二実施形態を示す模式断面図である。
【0051】
図3に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池11は主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に配置された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーSにより光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。この色素増感型太陽電池11は、透明電極1の受光面の側に設けられている光導波層5(ライトガイド手段)以外は、従来の色素増感型太陽電池と同様の構成を有している。
【0052】
光導波層5は、半導体電極2の受光面F2の法線方向から当該半導体電極2の受光面F2に入射する光L11の入射角θが30〜80°となるように、光L11の進行方向を変化させる機能を有している。この光導波層5は、Agを表面にメッキした直径1mm程度の複数のガラスファイバー52から構成されている。そして、各ガラスファイバー52は、透明電極1の受光面F1上に配置される際に、半導体電極2の受光面F2の法線方向に対して傾斜(傾斜角θ5)するように配置される。このとき、この各ガラスファイバー52の受光面F2の法線方向に対する傾斜角θ5は、半導体電極2の受光面F2に斜め入射させる光L11の入射角θと一致するように調整されている。そして、光導波層5に対して透明電極1の受光面F1の法線方向から入射する光L11は、光導波層5の各ガラスファイバー52に入射すると同時にその進行方向を変化させられ、半導体電極2の受光面F2に入射する際の入射角が30〜80°となるように調節されことになる。これにより、この色素増感型太陽電池11も、図1に示した色素増感型太陽電池10と同様に入射光の利用率を向上させ、実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。光導波層5を構成する各ガラスファイバー52は、例えば、公知の方法により表面にAgをメッキした後、これをバンドルして固定し、先に述べた傾斜角となるように斜めに輪切りにして作製することができる。なお、この光導波層5は、透明電極1の受光面F1上に設けられる保護ガラスを兼ねるものであってもよい。また、光導波層5に希土類元素を添加し、紫外光に対する蛍光性を持たせてもよい。更に、光導波層5の他に保護ガラス(図示せず)を別途設けてもよく、この場合には、透明電極1の受光面F1上ではなく、光導波層5上に設ける。
【0053】
[第三実施形態]
以下、図4を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池の第三実施形態について説明する。なお、上述した第一実施形態に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図4は、本発明の色素増感型太陽電池の第三実施形態を示す模式断面図である。
【0054】
図4に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池12は、主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に配置された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーS(図示せず)により光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。
【0055】
この色素増感型太陽電池12は、図3に示した色素増感型太陽電池11と異なる形状の光導波層5(ライトガイド手段)を透明電極1の受光面の側に備えていることと、色素増感型太陽電池の単セルが実用的な規模にスケールアップされた際に半導体電極2の受光面F2側に備えられる櫛形電極(集電電極)22が設けられていること以外は、図3に示した色素増感型太陽電池11と同様の構成を有している。
【0056】
図4に示すようにこの色素増感型太陽電池12の光導波層5は、透明電極1の受光面F1の側の面に平行に並ぶ複数の溝(断面が略台形)を形成し、この溝の間に形成される断面が略三角柱状の複数の凸部53を形成したものである。そして、各凸部53は光導波層5内を進行する光の進行方向を変化させる反射面F5を有する。
【0057】
光導波層5は、上記の複数の凸部53の先端が透明電極1の受光面F1に接触するようにして透明電極1上に配置される。その結果、光導波層5には透明電極1の受光面F1に対して所定の傾斜角を有する受光面F5が形成される。この反射面F5は、透明電極1の受光面F1に対する傾斜角がθ3である下部の部分領域に形成される反射面R1と透明電極1の受光面F1に対する傾斜角がθ4(>θ3)である上部の部分領域に形成される反射面R2とから構成されている。
【0058】
また、この色素増感型太陽電池12の場合、上記の光導波層5の形状に基因し、光導波層5と透明電極1との間には、断面が略台形状の空間6が形成されている。この空間6は、全反射の観点から、真空状態或いは空気等のガスが充填されていることが好ましいが、屈折率が光導波層5の屈折率の86.6%以下の条件を満たすのであれば、例えば、有機材料等が充填されていてもよい。
【0059】
なお、図4に示す空間6の断面が台形の上底部分に対応する光導波層5の面F55は、加工上の理由から設けられるものであり、この部分の面積は小さい程好ましい。従って、理想的には光導波層5と透明電極1との間に形成される空間6はその断面が略三角形状であることが更に好ましい。
【0060】
そして、図4に示すように、光導波層5の反射面F5に対して透明電極1の受光面F1の法線方向から入射する光L12は、上記の下部の部分領域に形成される反射面R1と上部の部分領域に形成される反射面R2との傾斜角の違いにより、櫛形電極22を避けつつ半導体電極2の受光面F2に対して入射角θが30〜80°となるようにその進行方向を調節されることになる。なお、この色素増感型太陽電池12においては、半導体電極2の受光面F2に入射する光の入射角θは一様でないため、図4においては、入射角θのうちの一例である入射角θ1を示す。
【0061】
これにより、この色素増感型太陽電池12は、セルを実用的な規模(例えば、100×100mm)にスケールアップしても従来の色素増感型太陽電池に発生していた櫛形電極22に起因するエネルギー変換効率の低下を招くことがなく、図1に示した色素増感型太陽電池10、図3に示した色素増感型太陽電池11と同様に入射光の利用率を向上させ、実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。
【0062】
なお、図4に示した空間6の部位の屈折率は光導波層5の屈折率の86.6%以下であることが好ましい。また、透明電極1の屈折率は図4に示した空間6の部位の屈折率よりも大きいことが好ましい。
【0063】
[第四実施形態]
以下、図5を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池の第四実施形態について説明する。なお、上述した第一実施形態に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図5は、本発明の色素増感型太陽電池の第四実施形態を示す模式断面図である。
【0064】
図5に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池14は、主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に配置された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーSにより光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。
【0065】
この色素増感型太陽電池14は、図3に示した色素増感型太陽電池11と異なる構造を有する透明電極1(ライトガイド手段)を備えていることと、光導波層5を備えていないこと以外は、図3に示した色素増感型太陽電池11と同様の構成を有している。
【0066】
図5に示すように、この色素増感型太陽電池14のライトガイド手段は、透明電極1内に形成されている複数の反射部120である。また、各反射部120は、透明電極1内を進行する光L14の進行方向を変化させる反射面F120から形成されている。そして、この各反射部120の内部は、断面が略三角形の空間122である。この空間122は、全反射の観点から、真空状態或いは空気等のガスが充填されていることが好ましいが、屈折率が透明電極1の屈折率の86.6%以下の条件を満たすのであれば、例えば、有機材料等が充填されていてもよい。
【0067】
そして、各反射部120の反射面F120は、半導体電極2の受光面F2に入射する光の入射角θが30〜80°となるように、半導体電極2の受光面F2の法線方向に対して所定の傾斜(傾斜角θ120)を有して形成されている。これにより、この色素増感型太陽電池14も、前述の色素増感型太陽電池10、色素増感型太陽電池11及び色素増感型太陽電池12と同様に入射光の利用率を向上させ、実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。なお、図5に示した空間122の部位の屈折率は透明電極1の屈折率の86.6%以下であることが必要である。
【0068】
[第五実施形態]以下、図6を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池の第五実施形態について説明する。なお、上述した第一実施形態に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図6は、本発明の色素増感型太陽電池の第五実施形態を示す模式断面図である。
【0069】
図6に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池15は、主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に配置された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーSにより光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。
【0070】
この色素増感型太陽電池15は、図3に示した色素増感型太陽電池11と異なる構造を有する透明電極1(ライトガイド手段)を備えていることと、光導波層5を備えていないこと以外は、図3に示した色素増感型太陽電池11と同様の構成を有している。
【0071】
図6に示すように、この色素増感型太陽電池15のライトガイド手段は、透明電極1の受光面F1上に形成されている複数の凸部140である。この各凸部140は、半導体電極2の受光面F2の法線方向から入射する光L15の進行方向を変化させる反射面F140を有している。
【0072】
そして、各凸部140の反射面F140は、半導体電極2の受光面F2に入射する光の入射角θが30〜80°となるように、半導体電極2の受光面F2の法線方向に対して所定の傾斜(傾斜角θ140)を有して形成されている。これにより、この色素増感型太陽電池15も、前述の色素増感型太陽電池10、色素増感型太陽電池11、色素増感型太陽電池12及び色素増感型太陽電池14と同様に入射光の利用率を向上させ、実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。なお、色素増感型太陽電池15において、透明電極1の屈折率は空気よりも大きく半導体電極2よりも小さいことが必要である。
【0073】
[第六実施形態]以下、図7及び図8を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池の第六実施形態について説明する。なお、上述した第一実施形態に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図7は、本発明の色素増感型太陽電池の第五実施形態を示す模式断面図である。また、図8は、図7に示す領域Rの拡大図である。
【0074】
図7及び図8に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池16は、主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に配置された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーSにより光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。
【0075】
この色素増感型太陽電池16は、図3に示した色素増感型太陽電池11と異なる構造を有する透明電極1(ライトガイド手段)を備えていることと、光導波層5を備えていないこと以外は、図3に示した色素増感型太陽電池11と同様の構成を有している。
【0076】
図7及び図8に示すように、この色素増感型太陽電池16のライトガイド手段は、透明電極1の受光面F1上に形成されている複数の回折縞160である。この回折縞160は、透明電極1の屈折率よりも高い屈折率を有する透明物質から構成されており、半導体電極2の受光面F2に入射する光の入射角が30〜80°となるように、半導体電極2の受光面F2の法線方向から入射する光L16を所定の角度で回折させる。上記の透明電極1の屈折率よりも高い屈折率を有する透明物質としては、例えば、Ta等が挙げられる。なお、図7に示すように、この色素増感型太陽電池16の場合、各回折縞160により回折された光L16の0次回折光L160以外の回折光が、半導体電極2の受光面F2に対して30〜80°の入射角で入射する。例えば、図7においては、半導体電極2の受光面F2の法線方向から入射する光L16の1次回折光L161と2次回折光L162とが半導体電極2の受光面F2に対して30〜80°の範囲の入射角θ161及びθ162でそれぞれ入射している状態を示している。
【0077】
これにより、この色素増感型太陽電池16も、前述の色素増感型太陽電池10、色素増感型太陽電池11、色素増感型太陽電池12、色素増感型太陽電池14及び色素増感型太陽電池15と同様に入射光の利用率を向上させ、実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。なお、色素増感型太陽電池16において、回折縞160の構成材料となる透明物質としては、屈折率が2.0以上の物質が好ましい。
【0078】
[第七実施形態]以下、図9を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池の第七実施形態について説明する。なお、上述した第一実施形態に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図9は、本発明の色素増感型太陽電池の第七実施形態を示す模式断面図である。
【0079】
図9に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池17は、主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に配置された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーSにより光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。
【0080】
この色素増感型太陽電池17は、図1に示した色素増感型太陽電池10と異なる形状の透明電極1を備えていることと、色素増感型太陽電池の単セルが実用的な規模にスケールアップされた際に半導体電極2の受光面F2側に備えられる櫛形電極(集電電極)22が設けられていること以外は、図1に示した色素増感型太陽電池10と同様の構成を有している。
【0081】
図9に示すように、この色素増感型太陽電池17は、透明電極1内を進行して半導体電極2の受光面F2に入射する光の入射角θが30〜80°となるように、半導体電極2の受光面F2が形成されており、かつ、光が半導体電極2の受光面F2の集電電極22の形成されていない領域に選択的に照射されるように透明電極1の受光面F1が形成されている。
【0082】
すなわち、図1に示した色素増感型太陽電池17の半導体電極2と同様に、図9に示す半導体電極2は、断面方向からみた場合の電極の層の形状が鋸歯状になるように形成されている。また、図1に示した色素増感型太陽電池17の透明電極1と同様に、図9に示す透明電極1の半導体電極2との接触面も半導体電極2の形状に合わせての鋸歯状に溝が形成されている。そして、図9に示す透明電極1の受光面F1は、複数の凸レンズ状の凸部170を有している。各凸部170の曲率半径は、光が半導体電極2の受光面F2の集電電極22の形成されていない領域に選択的に照射されるように設定されている。
【0083】
なお、この色素増感型太陽電池17の場合、透明電極1の受光面F1及び半導体電極2の受光面F2が共にフラットでないので、透明電極1又は半導体電極2の内部にフラットな仮想的な面を仮想受光面FP1として設け、この仮想受光面FP1の法線方向を外部から入射する光の進行方向とし、これを基準として実際の透明電極1の受光面F1又は半導体電極2の受光面F2が設計されている。なおこの場合には、透明電極1の内部に仮想受光面FP1を設けた場合を示している。
【0084】
これにより、この色素増感型太陽電池17も、前述の色素増感型太陽電池10、色素増感型太陽電池11、色素増感型太陽電池12及び色素増感型太陽電池14と同様に入射光の利用率を向上させ、実効的なエネルギー変換効率を向上させることができる。なお、色素増感型太陽電池17において、透明電極1の屈折率は1.4以上であることが好ましい。
【0085】
[色素増感型太陽電池モジュールの実施形態]
以下、図10及び図11を参照しながら本発明の色素増感型太陽電池モジュールの好適な一実施形態について説明する。なお、上述した本発明の色素増感型太陽電池の実施形態に関して説明した要素と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図10は、本発明の色素増感型太陽電池モジュールの好適な一実施形態を示す模式断面図であり、図11は、図10に示す色素増感型太陽電池モジュールを構成している色素増感型太陽電池の模式断面図である。
【0086】
図10に示すように、本実施形態の色素増感型太陽電池モジュール13は、主として複数の色素増感型太陽電池UCと、複数の色素増感型太陽電池UCを設置するための基台7と、スペーサーSと、強化ガラス板9から構成されている。また、図11に示すように、各色素増感型太陽電池UCは従来と同様の構造を有しており、主として厚みが5〜30μmである半導体電極2とその受光面F2上に形成された透明電極1とを有する光電極WEと、対極CEと、スペーサーSにより光電極WEと対極CEとの間に形成される間隙に充填された電解質Eとから構成されている。
【0087】
各色素増感型太陽電池UCは、その受光面FUCに対して基台7の設置面F7の法線方向から入射する光の入射角θが30〜80°となるように基台7上に配置されている。これにより、各色素増感型太陽電池UCの入射光の利用率が向上するので、モジュール全体としての実効的なエネルギー変換効率を従来の色素増感型太陽電池モジュールに対して向上させることができる。更に、この場合には、一つの色素増感型太陽電池UCの半導体電極2の受光面F2において反射する光を、他の色素増感型太陽電池UCの半導体電極2の受光面F2に斜め入射させるように調節ことも可能であるので、モジュール全体としての大きな反射防止効果を得ることが可能となる。
【0088】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0089】
例えば、上記の本発明の実施形態の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールにおいては、太陽光を光源とする場合について説明したが、本発明の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールはこれに限定されるものではなく、例えば、光源として紫外光を用いてもよい。この場合には、半導体電極などに紫外光に対する蛍光性を高める添加物を付与するなどしてよい。例えば、実施例2の色素増感型太陽電池11においては光導波層5内に希土類元素を添加するなどの処理を施してもよい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールについて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールの構成要素について、前述の実施形態と同一または相当する部分には同一符号を付して説明する。
【0091】
なお、以下に示す実施例及び比較例の色素増感型太陽電池の中で、図3に示した光導波層5(ライトガイド手段)を設けた構成を有しており、かつ、半導体電極2の受光面F2がフラットな構成を有するものについては、前述したように、「実効的なエネルギー変換効率」はScosθではなくS当たりのエネルギー変換効率を示す。したがって、表1のScosθの欄には「−」と記載する。
【0092】
(実施例1)
図1に示した色素増感型太陽電池10と同様の構成を有する50×50mmのスケールの色素増感型太陽電池を以下に説明するようにして作製した。
【0093】
先ず、透明電極1の基板4として上記の半導体電極2の層の鋸歯部分の形状と同様の鋸歯状の面を有するガラス基板を鋳込むことにより作製した。次に、このガラス基板に透明導電膜3としてフッ素ドープSnOを膜厚が800nmとなるようにスプレーコートし、更に、これに熱処理を500℃の条件の下で行った。
【0094】
次に、この透明電極1の鋸歯状の面に対して、先に色素増感型太陽電池10の説明において述べた方向からTiOを電子ビーム蒸着法により蒸着し、受光面F2の実際の面積;140×48mm、層厚;7μm、層の鋸歯部分の一辺の長さ;5mm、鋸歯部分の傾斜角度θs;70°(受光面F2への光の入射角θ;70°)の半導体電極2を作製した。なお、蒸着装置は、日本真空技術社製のEBV−6D型高真空蒸着装置を使用した。また、蒸着源としては、高純度純度化学研究所製のTiO(ルチル,純度;99.99%)を用いた。蒸着条件は、蒸着面の実効的な大きさ;47.9×48.0mm、蒸着速度;1.4nm/s、基板温度;205℃、蒸着開始前の蒸着装置の容器内の真空度;1×10−3Pa、蒸着時の蒸着装置の容器内の真空度;1×10−3Paとした。
【0095】
次に、蒸着装置の容器内の温度を60℃から10℃/minの昇温速度で400℃にまで昇温し、この温度で30分間保持し、透明電極1上に成膜されたTiOの半導体電極2に対してアニール処理を行なった。これにより、透明電極1上に成膜されたTiOのアモルファス相をアナターゼ相に結晶化させた。なお、成膜されたTiOのアモルファス相が上記のアニール処理によりアナターゼ相に結晶化することは、X線回折により予め確認した。
【0096】
次に、以下のようにして作製したTiOの半導体電極2の表面に色素を吸着させた。先ず、マグネシウムエトキシドで脱水した無水エタノールを溶媒としてこれにルテニウム錯体[cis−Di(thiocyanato)−N,N'−bis(2,2'−bipyridyl−4,4'dicarboxylic acid)−ruthenium(II)]を、その濃度が2.85×10−4mol/Lとなるように溶解し、ルテニウム錯体溶液を調製した。次いで、この溶液に半導体電極2を24時間浸漬した。これにより、半導体電極2に色素となるルテニウム錯体が約1.0×10−7mol/cm吸着した。次に、開放電圧Vocを向上させるために、ルテニウム錯体吸着後の半導体電極2をアセトニトリル溶液に15分浸漬した後、25℃に保持した窒素気流中において乾燥させ、光電極WEを完成させた。
【0097】
一方、対極CEは、透明電極1と同様の形状と大きさを有するフッ素ドープSnOコートガラス基板にPt薄膜(膜厚;3nm)を蒸着させた電極を用いた。また、電解質Eとしては、炭酸エチレン;21.14gとアセトニトリル;4.0mLとの混合溶液に、ヨウ化テトラ−n−プロピルアンモニウム(Tetra−n−propylammonium Iodie);3.13gと、ヨウ素;0.18gを溶解させたヨウ素系レドックス溶液を調製した。更に、半導体電極2の大きさに合わせた形状を有するデュポン社製のスペーサーS(商品名:「ハイミラン」)を準備し、図1に示すように、光電極WEと対極CEとスペーサーSを介して対向させ、内部に上記の電解質Eを充填して色素増感型太陽電池を完成させた。
【0098】
(実施例2)
鋸歯部分の傾斜角度θs;45°(受光面F2への光の入射角θ;45°)の半導体電極2を作製した以外は、実施例1と同様の色素増感型太陽電池を実施例1と同様の製法により作製した。
【0099】
(実施例3)
鋸歯部分の傾斜角度θs;30°(受光面F2への光の入射角θ;30°)の半導体電極2を作製した以外は、実施例1と同様の色素増感型太陽電池を実施例1と同様の製法により作製した。
【0100】
(比較例1)
光電極WEと対極CEの形状が図11に示した従来の色素増感型太陽電池と同様(受光面F2への光の入射角θ;0°)である以外は、実施例1と同様の色素増感型太陽電池を実施例1と同様の製法により作製した。
【0101】
(比較例2)
鋸歯部分の傾斜角度θs;20°(受光面F2への光の入射角θ;20°)の半導体電極2を作製した以外は、実施例1と同様の色素増感型太陽電池を実施例1と同様の製法により作製した。
【0102】
(実施例4)
図3に示した構成を有し、実施例1と同様の大きさを有する色素増感型太陽電池(受光面F2の実際の面積S;48×48mm、層厚;7μm)を作製した。この色素増感型太陽電池は、透明電極1の受光面F1上に設けられる光導波層5(透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;70°、受光面F2への光の入射角θ;70°)以外の構成要素は、光電極WEと対極CEの形状が図11に示した従来の色素増感型太陽電池と同様であり、実施例1と同様の製法により作製した。
【0103】
光導波層5を構成する複数のガラスファイバーとしては、直径1mmのガラスファイバーを用いた。このガラスファイバーの表面にAgをメッキして、これをバンドルして固定した後に、上記の傾斜角θに合わせて斜めに輪切りにし、長さ5mmとした。このようにして作製した複数のガラスファイバーをガラス接着剤により透明電極1の受光面に配置した。
【0104】
(実施例5)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;45°、受光面F2への光の入射角θ;45°とした光導波層5を作製した以外は、実施例4と同様の色素増感型太陽電池を実施例4と同様の製法により作製した。
【0105】
(実施例6)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;30°、受光面F2への光の入射角θ;30°とした光導波層5を作製した以外は、実施例4と同様の色素増感型太陽電池を実施例4と同様の製法により作製した。
【0106】
(実施例7)
光導波層5に希土類元素(サマリウム)を0.2mol%添加し、紫外光に対する蛍光性を向上させた以外は、実施例4と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を実施例4と同様の製法により作製した。
【0107】
(比較例3)
比較例1の色素増感型太陽電池の透明電極1の受光面F1付近に希土類元素(サマリウム)を0.2mol%添加し、紫外光に対する蛍光性を向上させた以外は、比較例1と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を実施例1と同様の製法により作製した。
【0108】
(実施例8)
市販のTiO粒子(平均粒径;30nm)とスクリーン印刷用に調合したペーストを、スクリーン印刷機を用いてスクリーン印刷した後、400℃の温度条件のもとで、30分の熱処理を行なうことにより、透明電極1上に膜厚が20μm、受光面の実際の面積S;73.47mmの半導体電極を用いた以外は、実施例4と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を作製した。
【0109】
(実施例9)
市販のTiO粒子(平均粒径;30nm)とスクリーン印刷用に調合したペーストを、スクリーン印刷機を用いてスクリーン印刷した後、400℃の温度条件のもとで、30分の熱処理を行なうことにより、透明電極1上に膜厚が20μm、受光面の実際の面積S;73.47mmの半導体電極を用いた以外は、実施例5と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を作製した。
【0110】
(実施例10)
市販のTiO粒子(平均粒径;30nm)とスクリーン印刷用に調合したペーストを、スクリーン印刷機を用いてスクリーン印刷した後、400℃の温度条件のもとで、30分の熱処理を行なうことにより、透明電極1上に膜厚が20μm、受光面の実際の面積S;73.47mmの半導体電極を用いた以外は、実施例6と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を作製した。
【0111】
(比較例4)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;0°、受光面F2への光の入射角θ;0°とした光導波層5を作製した以外は、実施例8と同様の色素増感型太陽電池を実施例8と同様の製法により作製した。
【0112】
(比較例5)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;20°、受光面F2への光の入射角θ;20°とした光導波層5を作製した以外は、実施例9と同様の色素増感型太陽電池を実施例9と同様の製法により作製した。
【0113】
(比較例6)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;85°、受光面F2への光の入射角θ;85°とした光導波層5を作製した以外は、実施例10と同様の色素増感型太陽電池を実施例10と同様の製法により作製した。
【0114】
(実施例11)
市販の2種類のTiO粒子(平均粒径;200nm,25nm)をテープキャストすることにより透明電極1上に膜厚が10μm、受光面の実際の面積S;71.1mmの半導体電極を用いた以外は、実施例4と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を実施例4と同様の製法により作製した。
【0115】
なお、上記のTiO粒子のテープキャストは以下の手順に従って行った。すなわち、先ず、TiO粒子の粉末をイオン交換水及びキレート剤と共にアルミナ乳鉢中で混練した。次に、アルミナ乳鉢中にイオン交換水と界面活性剤とを加えて撹拌することにより混合し、TiO粒子を含有するスラリーを調製した。次に、透明電極1上に10mmの間隔をあけてスコッチテープを貼った。次に、このテープの間に形成された溝にスラリーを滴下した。次に、ガラス棒を使用してのばすことにより、滴下したスラリーをテープの間に形成された溝の全域に展開した。次に、このスラリーを室温で約1日乾燥させた後、透明電極1上のスコッチテープを除去した。次に、空気気流中、450℃、30分の条件のもとでこのスラリーに熱処理を行った。
【0116】
(実施例12)
オートクレーブ法で合成した2種類のTiO粒子(平均粒径;220nm,30nm)を実施例11と同様にしてテープキャストすることにより透明電極1上に膜厚が10μm、受光面の実際の面積S;71.1mmの半導体電極を用いた以外は、実施例5と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を実施例5と同様の製法により作製した。
【0117】
(実施例13)
オートクレーブ法で合成した2種類のTiO粒子(平均粒径;220nm,30nm)を実施例11と同様にしてテープキャストすることにより透明電極1上に膜厚が10μm、受光面の実際の面積S;71.1mmの半導体電極を用いた以外は、実施例6と同様の構成を有する色素増感型太陽電池を実施例6と同様の製法により作製した。
【0118】
(比較例7)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;0°、受光面F2への光の入射角θ;0°とした光導波層5を作製した以外は、実施例11と同様の色素増感型太陽電池を実施例11と同様の製法により作製した。
【0119】
(比較例8)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;20°、受光面F2への光の入射角θ;20°とした光導波層5を作製した以外は、実施例12と同様の色素増感型太陽電池を実施例12と同様の製法により作製した。
【0120】
(比較例9)
透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ5;85°、受光面F2への光の入射角θ;85°とした光導波層5を作製した以外は、実施例13と同様の色素増感型太陽電池を実施例13と同様の製法により作製した。
【0121】
(実施例14)
図10に示した構成を有する色素増感型太陽電池モジュールを作製した。この色素増感型太陽電池モジュールは、図11に示した構成を有し、かつ実施例1の色素増感型太陽電池と同様の大きさを有する色素増感型太陽電池UC(受光面F2の実際の面積;48×48mm、層厚;7μm、基台7の設置面F7の法線方向から各色素増感型太陽電池UCに入射する光の入射角;70°)を290個用いて作製した。
【0122】
各色素増感型太陽電池UCは、図10の正面からみたときの左右方向に29枚、奥行き方向に10枚となるように基台7上に配置した。また、基台7の外縁部にはテフロン(登録商標)製のスペーサーSを配置し、基台7上に配置した各色素増感型太陽電池UCの受光面側には、各色素増感型太陽電池UCを全体を覆う旭硝子社製の強化ガラス板9を配置した。
【0123】
(実施例15)
基台7の設置面F7の法線方向から各色素増感型太陽電池UCに入射する光の入射角を45°とした以外は実施例14と同様の構成を有する色素増感型太陽電池モジュールを作製した。
【0124】
(実施例16)
基台7の設置面F7の法線方向から各色素増感型太陽電池UCに入射する光の入射角を30°とした以外は実施例14と同様の構成を有する色素増感型太陽電池モジュールを作製した。
【0125】
(比較例10)
基台7の設置面F7の法線方向から各色素増感型太陽電池UCに入射する光の入射角を0°とした以外は実施例14と同様の構成を有する色素増感型太陽電池モジュール、すなわち従来の構造の色素増感型太陽電池モジュールを作製した。
【0126】
(比較例11)
基台7の設置面F7の法線方向から各色素増感型太陽電池UCに入射する光の入射角を20°とした以外は実施例14と同様の構成を有する色素増感型太陽電池モジュールを作製した。
【0127】
(比較例12)
基台7の設置面F7の法線方向から各色素増感型太陽電池UCに入射する光の入射角を85°とした以外は実施例14と同様の構成を有する色素増感型太陽電池モジュールを作製した。
【0128】
[電池特性試験]
実施例1〜実施例16、比較例1〜比較例12の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池のモジュールの実効的なエネルギー変換効率ηを測定した。電池特性試験は、ソーラーシミュレータ(ワコム電創社製、WXS−85)を用いて較正した大型ソーラーシミュレータを用い、1000W/mの疑似太陽光を照射し、I−Vテスターを用いて電流−電圧特性を測定し、開放電圧、短絡電流、及び実効的なエネルギー変換効率を求めた。その結果を表1に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜実施例16の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池のモジュールの実効的なエネルギー変換効率ηは、それぞれに対応する比較例1〜比較例12の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池のモジュールの実効的なエネルギー変換効率ηよりも高い値を示した。例えば、比較例1の色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率に比較して、実施例1の色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率は25%向上し、実施例5の色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率は20%向上した。
【0131】
更に、比較例10の色素増感型太陽電池モジュールの実効的なエネルギー変換効率ηに比較して実施例15の色素増感型太陽電池の実効的なエネルギー変換効率ηは20%向上し、実施例14の色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率は25%向上した。
【0132】
これらの結果から明らかな通り、本発明の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールが、太陽電池のエネルギー変換効率の向上を図る上で極めて有効であることが確認された。なお、色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率の絶対値は、本発明の構成とは独立に、電解液の組成や、色素の種類によって変化するが、その場合でも本発明は常にその場合の現状のエネルギー変換効率を向上させることができる。すなわち、本発明の色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールによれば、普遍的なエネルギー変換効率の向上効果を得ることができる。
【0133】
(実施例17)
図12(a)〜(c)に示す形状の光導波層5aを備えること以外は図4に示した色素増感型太陽電池12と同様の構成を有する100×100mmのスケールの色素増感型太陽電池(受光面F2の実際の面積S;96×96mm、厚み;22mm)を実施例1と同様の手順により作製した。
【0134】
なお、図12(a)はこの色素増感型太陽電池に備えられる光導波層5aの別の断面図であり、図12(b)は図12(a)に示す光導波層5aを光電極WEの側からみた場合の正面図であり、図12(c)は図12(a)に示す光導波層5aの部分領域PR1の拡大図である。
【0135】
図12(a)〜(c)に示す光導波層5a(幅W5a;100mm,奥行きY;100mm,厚み;4mm)には、先に述べたように透明電極1の受光面F1に対して所定の傾斜角を有する反射面F5aを形成し、この場合、透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ3は59°±0.5°とし、下部の部分領域に形成される反射面R1と透明電極1の受光面F1に対する傾斜角θ4は63°±0.5°とした。
【0136】
この光導波層5aは、色素増感型太陽電池を構成するガラス(透明電極1)の厚みが1.1mm、その屈折率が1.52であり、櫛形電極22の幅が0.5mm、各櫛形電極22間距離が12mmの構成の場合に対して、櫛形電極22に起因する光量の遮蔽損失が無いように設計したものである。
【0137】
図13に、この光導波層5aに垂直入射光を入射させた場合の光線追跡の結果を図13(a)に光導波層5aの断面図で示す。なお、図13(b)は(a)に示すコート層の部分領域PR2の拡大図である。また、先に述べた電池特性試験と同様にしてこの色素増感型太陽電池の実効的なエネルギー変換効率を求めたところ、6.2%であった。
【0138】
(比較例13)
図12に示した光導波層5aを備えていないこと以外は上記の実施例17の色素増感型太陽電池と同様の構成を有する従来の色素増感型太陽電池を作製し、そのエネルギー変換効率を求めたところ、5.1%であった。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池の第一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】図1の色素増感型太陽電池の光電極の製造工程の一例を示す工程図である。
【図3】本発明の色素増感型太陽電池の第二実施形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明の色素増感型太陽電池の第三実施形態を示す模式断面図である。
【図5】本発明の色素増感型太陽電池の第四実施形態を示す模式断面図である。
【図6】本発明の色素増感型太陽電池の第五実施形態を示す模式断面図である。
【図7】本発明の色素増感型太陽電池の第六実施形態を示す模式断面図である。
【図8】図7に示した領域Rの部分の模式拡大断面図である。
【図9】本発明の色素増感型太陽電池の第七実施形態を示す模式断面図である。
【図10】本発明の色素増感型太陽電池モジュールの好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【図11】図10に示す色素増感型太陽電池モジュールを構成している色素増感型太陽電池の模式断面図である。
【図12】(a)は図4に示した色素増感型太陽電池に備えられるコート層の別の実施形態を示す断面図であり、(b)は(a)に示すコート層を光電極の側からみた場合の正面図であり、(c)は(a)に示すコート層の部分領域PR1の拡大図である。
【図13】(a)は図12に示すコート層に垂直入射光を入射させた場合の光線追跡結果を示す断面図であり、(b)は(a)に示すコート層の部分領域PR2の拡大図である。
【図14】色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率の光入射角依存性を示すグラフである。
【図15】(a)は図14に示した色素増感型太陽電池の電極面の法線方向に対して光を約45°の入射角で入射させた場合の電流電圧特性及びエネルギー変換効率を示すグラフであり、(b)は図14に示した色素増感型太陽電池の電極面の法線方向から入射させた場合の電流電圧特性及びエネルギー変換効率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0140】
1…透明電極、2…半導体電極、3…透明導電膜、4…基板、5…コート層、6…空間、7…基台、9…強化ガラス板、10,11,12,14,15,16,17…色素増感型太陽電池、13…色素増感型太陽電池モジュール、22…櫛形電極(集電電極)、52…ガラスファイバー、53…凸部、100…色素増感型太陽電池、120…反射部、122…空間、140…凸部、160…回折縞、170…凸部、CE…対極、E…電解質、F1,F2,F3…受光面、F5,F5a…反射面、F7…設置面、FUC…受光面、F55…光導波層5の面、F120,F140…反射面、FP1…仮想受光面、L10,L11,L12,L14,L15,L16,L17…光、L161,L162…回折光、PR1,PR2…光導波層5aの部分領域、R1,R2…反射面F5又はF5aの部分領域に形成される反射面、S…スペーサー、UC…色素増感型太陽電池、WE…光電極、θ,θ1,θ161,θ162…入射角、θ3,θ4,θ120,θ140…傾斜角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体電極及びその受光面上に配置された透明電極を有する光電極と、対極とを有しており、前記半導体電極と前記対極とが電解質を介して対向配置された色素増感型太陽電池であって、
前記透明電極の受光面の法線方向から前記半導体電極の前記受光面に入射する光の入射角が30〜80°となるように、前記半導体電極の前記受光面が形成されており、
前記半導体電極の前記受光面が前記透明電極と前記半導体電極との界面であることを特徴とする色素増感型太陽電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−9948(P2009−9948A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221784(P2008−221784)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【分割の表示】特願2001−55110(P2001−55110)の分割
【原出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】