説明

芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法

【課題】芳香族ポリカーボネート樹脂をペレット化する方法において、特に長期にわたり大量生産した場合に、芳香族ポリカーボネート樹脂を一時保存する金属製タンクの腐食を抑えることにより、黄変色の少ないポリカーボネート樹脂ペレットおよび成形品を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体をスクリュー押出機にて溶融混練してペレット化する方法において、該押出機に供給する芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を貯蔵する金属製タンクに不活性ガスを導入し、1〜100μmの大きさの金属腐食性異物量が1000個/100g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に供給し、溶融混練することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体をペレット化する方法に関する。さらに詳しくは、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を一時貯蔵した金属製タンクに不活性ガスを導入することにより、金属腐食性異物量及び水分を低減した芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に供給し、高品質な芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットを提供する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、剛性等多くの優れた特徴を持ち、光学部品、自動車、電気電子機器、建材等広く使用されている。芳香族ポリカーボネート樹脂は射出成形、圧縮成形、押出成形、回転成形、ブロー成形等さまざまな方法で溶融成形されるが、成形時のハンドリング等からペレット化され使用されるのが一般的である。一方芳香族ポリカーボネート樹脂は粉粒体で生産される場合が多く、更に高機能化するための添加剤と溶融混練する場合も多い。
【0003】
芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融混練は押出機で行われる。押出機に供給される芳香族ポリカーボネート樹脂は、必要に応じて添加剤等と予備混練され、一時的に金属製タンクに貯蔵される。金属製タンクは、芳香族ポリカーボネート樹脂の持ち込む腐食性物質や添加剤等の影響により腐食され、特に長期使用による細かな傷等がある場合には腐食が促進される。腐食が進行すると、金属製タンク表面より金属腐食性異物が混入し、芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの品質を著しく低下させ、ひどい場合には製品価値をなくすといった大きな問題に発展する。
【0004】
特許文献1や特許文献2のように、芳香族ポリカーボネート樹脂を不活性なガスを供給しながら溶融混練することは公知である。しかしながら何れの技術においても、不活性ガスを使用する目的は、溶融状態のポリカーボネート樹脂が酸化されるのを防ぐことである。また、特許文献3では押出機の鋼材に関する記載があるが、これも溶融した芳香族ポリカーボネート樹脂の腐食性を問題にしたものであり、押出機に供給するための芳香族ポリカーボネート樹脂を一時的に貯蔵する金属タンクを長期で使用する場合に、芳香族ポリカーボネート樹脂が溶融していない常温での腐食性問題解決を提供するには至っていない。
【0005】
上述した金属製タンクにおける問題は、近年芳香族ポリカーボネート樹脂の生産量が増大し、大型の金属製タンクで大量に貯蔵、供給を頻繁に繰り返し、またポリカーボネート樹脂の生産実績が長期にわたる現在になって初めて顕著化した問題である。
【0006】
【特許文献1】特開平08−132437号公報
【特許文献2】特開2003−127135号公報
【特許文献3】特開2005−219262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂をペレット化する方法において、特に長期にわたり大量生産した場合に、芳香族ポリカーボネート樹脂を一時保存する金属製タンクの腐食を抑えることにより、黄変色の少ないポリカーボネート樹脂ペレットおよび成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、長期にわたり大量生産した場合でも、芳香族ポリカーボネート樹脂を一時保存する金属製タンクに不活性ガスを導入することにより、タンク内の酸素濃度及び水分量を調整することによって、押出機に供給する芳香族ポリカーボネート樹脂に混入する金属腐食性異物量を低減でき、品質の安定した色相の良好なポリカーボネート樹脂ペレット及び成形品を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
1.芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体をスクリュー押出機にて溶融混練してペレット化する方法において、該押出機に供給する芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を貯蔵する金属製タンクに不活性ガスを導入し、1〜100μmの大きさの金属腐食性異物量が1000個/100g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に供給し、溶融混練することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
2.芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を貯蔵する金属製タンクの材質が、防錆金属合金である前項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
3.防錆金属合金がFe、Al、Cu、Ni、Ti、Co、Cr、Mo、WおよびMnからなる群より選ばれた少なくとも2種の金属成分が主成分である前項2記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
4.防錆金属合金がステンレス鋼である前項2記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
5.ステンレス鋼に含まれるCr量が15%以上30%未満である前項4記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
6.芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体と接触する金属製タンクの表面が、コーティングまたはメッキ処理されている前項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
7.芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体と接触する金属製タンクの表面が、表面粗さ0.5μm以下である前項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
8.金属製タンク雰囲気中の酸素濃度が10%未満である前項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
9.金属製タンク雰囲気中の相対湿度が35%以下であり、芳香族ポリカーボネート粉粒体の水分率が600ppm以下である前項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
10.金属製タンクが、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に定量的に供給する設備に連結されている前項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、および
11.前項1記載の製造方法で得られたペレットから形成された成形品、
が提供される。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、単に「ポリカーボネート」と称することがある)は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであり、反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法及び環状カーボネート化合物の開環重合法等を挙げることができる。
【0011】
当該二価フェノールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称“ビスフェノールA”)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらの中でも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、特にビスフェノールA(以下“BPA”と略称することがある)が好ましい。
【0012】
本発明では、ビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の二価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ−トを使用することが可能である。
例えば、二価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ−ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。
【0013】
当該カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル又はハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート又は二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0014】
このような二価フェノールとカーボネート前駆体とから界面重合法によってポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。また、ポリカーボネートは3官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネートであってもよい。ここで使用される3官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。
【0015】
また、ポリカーボネートは、芳香族もしくは脂肪族(脂環式を含む)の2官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート、2官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート並びにかかる2官能性カルボン酸及び2官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。また、得られたポリカーボネートの2種以上をブレンドした混合物でも差し支えない。
【0016】
ポリカーボネートの重合反応において、界面重縮合法による反応は、通常、二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤及び有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物又はピリジン等のアミン化合物が好ましく用いられる。有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられる。また、反応促進のために、トリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の3級アミン、4級アンモニウム化合物、4級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0017】
また、かかる重合反応においては、通常、末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類としては、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール等の単官能フェノール類を用いるのが好ましい。
【0018】
界面重縮合法により得られたポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液は、通常水洗浄が施される。この水洗工程は、好ましくはイオン交換水等の電気伝導度10μS/cm以下、より好ましくは1μS/cm以下の水により行われ、前記有機溶媒溶液と水とを混合、攪拌した後、静置してあるいは遠心分離機等を用いて、有機溶媒溶液相と水相とを分液させ、有機溶媒溶液相を取り出すことを繰り返し行い、水溶性不純物を除去する。高純度な水で洗浄を行うことにより、効率的に水溶性不純物が除去され、得られるポリカーボネート樹脂の色相は良好なものとなる。
【0019】
また、上述のポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液は、触媒等の不純物を除去するために酸洗浄やアルカリ洗浄を行うことも好ましい。
また、上記有機溶媒溶液は不溶性不純物である異物を除去することが好ましく行われる。この異物を除去する方法は、濾過する方法あるいは遠心分離機で処理する方法が好ましく採用される。
前記水洗浄が施された有機溶媒溶液は、次いで、溶媒を除去してポリカーボネート樹脂の粉粒体を得る操作が行われる。
【0020】
ポリカーボネート樹脂粉粒体を得る方法(造粒工程)としては、操作や後処理が簡便なことから、ポリカーボネート粉粒体および温水(65〜90℃程度)が存在する造粒装置中で、攪拌しながらポリカーボネートの有機溶媒溶液を連続的に供給して、かかる溶媒を蒸発させることにより、スラリーを製造する方法が使用される。当該造粒装置としては攪拌槽やニーダーなどの混合機が使用される。生成されたスラリーは、造粒装置の上部または下部から連続的に排出される。
【0021】
排出されたスラリーは、次いで熱水処理を行うこともできる。熱水処理工程は、かかるスラリーを90〜100℃の熱水の入った熱水処理容器に供給するか、または供給した後に蒸気の吹き込みなどにより水温を90〜100℃にすることによって、スラリーに含まれる有機溶媒を除去するものである。
【0022】
造粒工程で排出されたスラリーまたは熱水処理後のスラリーは、好ましくは濾過、遠心分離等によって水および有機溶媒を除去し、次いで乾燥されて、ポリカーボネート樹脂粉粒体(パウダー状やフレーク状)を得ることができる。
【0023】
乾燥機としては、伝導加熱方式でも熱風加熱方式でもよく、ポリカーボネート樹脂粉粒体が静置、移送されても攪拌されてもよい。なかでも、伝導加熱方式でポリカーボネート樹脂粉粒体が攪拌される溝形または円筒乾燥機が好ましく、溝形乾燥機が特に好ましい。乾燥温度は130℃〜150℃の範囲が好ましく採用される。
【0024】
溶融エステル交換法による反応は、通常、二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコール又はフェノールを留出せしめる方法により行われる。反応温度は、生成するアルコール又はフェノールの沸点等により異なるが、殆どの場合は120〜350℃の範囲内である。反応後期には反応系を1.33×10〜13.3Pa程度に減圧して、生成されるアルコール又はフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は、通常、1〜4時間程度である。
【0025】
上記カーボネートエステルとしては、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素原子数1〜4のアルキル基等のエステルが挙げられ、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0026】
溶融エステル交換法により得られた溶融ポリカーボネート樹脂は、溶融押出機により、ペレット化することができる。かかるペレットも本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体として使用することができる。
【0027】
本発明のポリカーボネート樹脂粉粒体の粘度平均分子量としては、1.0×10未満であると強度等が低下し、5.0×10を超えると成形加工特性が低下するようになるので、1.0×10〜5.0×10の範囲が好ましく、1.2×10〜3.0×10の範囲がより好ましく、1.5×10〜2.8×10の範囲がさらに好ましい。この場合、成形性等が維持される範囲内で、粘度平均分子量が上記範囲外であるポリカーボネートを混合することも可能である。例えば、粘度平均分子量が5.0×10を超える高分子量のポリカーボネート成分を配合することも可能である。
【0028】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0029】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂粉粒体の粘度平均分子量を測定する場合は、次の要領で行うことができる。すなわち、ポリカーボネート樹脂粉粒体をその20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計を用いて求め、上式によりその粘度平均分子量Mを算出する。
【0030】
本発明で使用するスクリュー押出機とは、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で、第一供給口より金属製タンクに一時保存したポリカーボネート樹脂粉粒体のみを供給し、添加剤をあらかじめV型ブレンダー等にて混合し、サイドフィードする方法に代表されるが、これに限定されるものではない。添加剤とポリカーボネート樹脂粉粒体を混合したものを、金属製タンクに一時保存し供給する方法、金属製タンクを複数個使用し、順番に供給していく方法、若しくは複数個のタンクで同時に一定割合で供給していく方法などが上げられる。また、必要に応じて液体の添加剤を注入する方法、水または有機溶媒を注入し、ロングベント部でポリカーボネート樹脂中の不純物、低分子量物などとともに共沸させる方法も有効である。
【0031】
スクリューは同方向二軸スクリューがもっとも一般的であるが、単軸若しくは3軸以上のものも使用可能である。また押出機のシリンダ及びスクリューの材質は特に制限はないがステライト、ハステロイ、コルモノイ等の耐腐食性、耐摩耗性に優れた金属を使用することが好ましい。耐腐食性、耐摩耗性の高い材質を使用した場合、シリンダやスクリュー表面が侵され難く、色相等が向上し易くなり好ましい。
【0032】
本発明に使用される金属製タンクに導入する不活性ガスは、窒素、アルゴン、二酸化炭素等が挙げられるが、中でも入手が容易である窒素が好ましく用いられる。用いる不活性ガスは液体の状態で、当該業者より入手したものを使用することができ、貯蔵、気化させた後使用する。液化ガスを気化させて使用することにより、不活性ガス中の水分率は100ppm以下、好ましくは10ppm以下、もっとも好ましくは1ppm以下としたものを使用する。同様の方法で酸素濃度は1%以下、好ましくは0.1%以下、もっとも好ましくは0.01%以下とする。
【0033】
金属製タンクに不活性ガスを導入することにより、タンク中の酸素濃度は10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満である。一方、タンク中の不活性ガス濃度は50%以上とする。
【0034】
金属製タンク中の相対湿度は35%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下である。タンク中の温度は40℃以下、好ましくは10〜35℃、より好ましくは23〜28℃とする。タンク中の相対湿度が上昇すると、金属腐食性異物量が増加し好ましくない。温度は特に限定するものではないが、高すぎる場合には、湿度の上昇につながり易く、低すぎる場合は結露等の障害が発生する場合がある。
【0035】
本発明で低減する1〜100μmの大きさの金属腐食性異物量は、ポリカーボネート樹脂粉粒体100g中1000個以下であり、好ましくは500個以下、より好ましくは100個以下、特に好ましくは30個以下である。低減することにより品質は向上するが、0個にすることは現実的ではない。金属腐食性異物量は、ポリカーボネート樹脂粉粒体100gを塩化メチレンに溶解させてドープを作成し、該ドープを目開き1μmのフィルターに通過させてドープ中の異物を捕集し、XMA測定器付き走査型電子顕微鏡にて異物の元素及び大きさを測定し、金属腐食性異物量の個数を定量する。
【0036】
金属製タンクの材質は、防錆金属合金であることが好ましい。防錆金属合金としてFe、Al、Cu、Ni、Ti、Co、Cr、Mo、WおよびMnからなる群より選ばれた少なくとも2種の金属成分が主成分である合金が好ましく、特に流通量や入手の容易さ、コスト面からステンレス鋼が好ましい。
【0037】
ステンレス鋼としては、Cr量が15%以上30%未満のものが好ましく、更に好ましくは18%以上28%未満、もっとも好ましくは23%以上26%未満である。ステンレス鋼としてはフェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系およびオーステナイト・フェライト系が好ましく、特にオーステナイト系およびオーステナイト・フェライト系が好ましい。JISのSUS旧記号ではSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS315JI、SUS321、SUS301S、SUS329JI、SUS329J4L等が挙げられ、もっとも好ましいものとしてSUS316Lがあげられる。
【0038】
金属製タンク表面は、コーティングまたはメッキ等で処理されていることが好ましい。好適なものとして炭化チタン、窒化チタン等のチタンコーティング、硬質クロムメッキまたはニッケルメッキが上げられる。
【0039】
芳香族ポリカーボネート樹脂と接触する金属製タンクの表面の表面粗さは、0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、もっとも好ましくは0.1μm以下である。表面粗さの測定は、JIS B0601−1994に従い、万能表面形状測定機(SURFCOM 3B.E−MD−S10A:東京精密(株)製)にて触針径2μm、触針圧0.07gの条件により行い、測定長10mm、測定速度0.15mm/s、測定倍率10Kにて平均表面粗さ(Ra)を算出する。
【0040】
本発明のポリカーボネート樹脂粉粒体には、本発明の目的を損なわない範囲で、離型剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、帯電防止剤、難燃剤、熱線遮蔽剤、蛍光染料(蛍光増白剤含む)、顔料、光拡散剤、強化充填剤、他の樹脂やエラストマー等を配合することができる。
【0041】
離型剤としては、その90重量%以上がアルコールと脂肪酸のエステルからなるものが好ましい。アルコールと脂肪酸のエステルとしては、具体的には一価アルコールと脂肪酸のエステルおよび/または多価アルコールと脂肪酸との部分エステルあるいは全エステルが挙げられる。前記一価アルコールと脂肪酸のエステルとは、炭素原子数1〜20の一価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸とのエステルが好ましい。また、多価アルコールと脂肪酸との部分エステルあるいは全エステルとは、炭素原子数1〜25の多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。
【0042】
具体的に一価アルコールと飽和脂肪酸とエステルとしては、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート等があげられ、ステアリルステアレートが好ましい。
【0043】
具体的に多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ベヘニン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等のジペンタエリスルトールの全エステルまたは部分エステル等が挙げられる。
【0044】
これらのエステルのなかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸トリグリセリドとステアリルステアレートの混合物が好ましく用いられる。
離型剤中の前記エステルの量は、離型剤を100重量%とした時、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましい。
【0045】
ポリカーボネート樹脂粉粒体中の離型剤の含有量としては、ポリカーボネート樹脂粉粒体100重量部に対して0.005〜2.0重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.6重量部の範囲がより好ましく、0.02〜0.5重量部の範囲がさらに好ましい。
熱安定剤としては、リン系熱安定剤、硫黄系熱安定剤およびヒンダードフェノール系熱安定剤が挙げられる。
【0046】
リン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。
【0047】
なかでも、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトが使用され、特に好ましくはテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが使用される。
ポリカーボネート樹脂粉粒体中のリン系熱安定剤の含有量としては、ポリカーボネート樹脂粉粒体100重量部に対して0.001〜0.2重量部が好ましい。
【0048】
硫黄系熱安定剤としては、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3、3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3、3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3、3’−チオジプロピオネート等が挙げられ、なかでもペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ジラウリル−3、3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3、3’−チオジプロピオネートが好ましい。特に好ましくはペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)である。該チオエーテル系化合物は住友化学工業(株)からスミライザーTP−D(商品名)およびスミライザーTPM(商品名)等として市販されており、容易に利用できる。
ポリカーボネート樹脂粉粒体中の硫黄系熱安定剤の含有量としては、ポリカーボネート樹脂粉粒体100重量部に対して0.001〜0.2重量部が好ましい。
【0049】
ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートおよび3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられ、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが特に好ましく用いられる。
ポリカーボネート樹脂粉粒体中のヒンダードフェノール系熱安定剤の含有量としては、ポリカーボネート樹脂粉粒体100重量部に対して0.001〜0.1重量部が好ましい。
【0050】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系からなる群より選ばれた少なくとも1種の紫外線吸収剤が好ましい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ルが挙げられ、これらを単独あるいは2種以上の混合物で用いることができる。
【0051】
好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ルであり、より好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]である。
【0052】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンソフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0053】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−(4,6−ビス(2.4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(オクチル)オキシ]−フェノール等が挙げられる。
【0054】
環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては、2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(1,5−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−メチル−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−ニトロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2−クロロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが例示される。なかでも2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好適であり、特に2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好適である。かかる化合物は竹本油脂(株)からCEi−P(商品名)として市販されており、容易に利用できる。
【0055】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、1,3−ビス−[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3−ビス−[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。
【0056】
当該紫外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂粉粒体100重量部に対して好ましくは0.01〜3.0重量部であり、より好ましくは0.02〜1.0重量部であり、さらに好ましくは0.05〜0.8重量部である。かかる配合量の範囲であれば、用途に応じ、ポリカーボネート樹脂成形品に十分な耐候性を付与することが可能である。
【0057】
ブルーイング剤としては、バイエル社のマクロレックスバイオレットB及びマクロレックスブルーRR並びにクラリアント社のポリシンスレンブル−RLS等が挙げられる。ブルーイング剤は、ポリカーボネート樹脂粉粒体の黄色味を消すために有効である。特に耐候性を付与したポリカーボネート樹脂粉粒体の場合は、一定量の紫外線吸収剤が配合されているため「紫外線吸収剤の作用や色」によってポリカーボネート樹脂成形品が黄色味を帯びやすい現実があり、特にシートやレンズに自然な透明感を付与するためにはブルーイング剤の配合は非常に有効である。
ブルーイング剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂粉粒体に対して好ましくは0.05〜1.5ppmであり、より好ましくは0.1〜1.2ppmである。
【0058】
本発明のポリカーボネート樹脂ペレットは、好ましくは280℃〜360℃の温度で溶融し、射出成形法、圧縮成形法、押出圧縮成形法、回転成形法、ブロー成形法、シート押出し法等の通常知られている方法により溶融成形されて色相の良好な成形品に加工される。
【0059】
当該成形品としては、特にポリカーボネート樹脂の持つ透明性を生かした成形品が有用である。具体的には、自動車のヘットランプ、テールランプ、ルームランプ等のランプカバー、スピードメーターや窓ガラス、風防、サンルーフ、光学記録媒体、液晶テレビ等モニターの前面板、拡散板、位相差フィルム、メガネレンズ、保護メガネ、カメラレンズ等である。特に光学記録媒体やレンズ類は高品質を要求される用途であり、本発明の有効性が顕著である。これらの成形方法として、特に射出圧縮成形、押出圧縮成形が有効である。
【発明の効果】
【0060】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂をペレット化する工程において、特に大量生産を長期にわたり行う場合、品質の安定したポリカーボネート樹脂ペレットを提供し、特に高品質を要求されるメガネレンズ等を提供する場合に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
本発明者が現在最良と考える発明の形態は、上記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明する。尚、実施例中の部は重量部であり、%は特に断らないかぎり重量%を示す。評価は下記の方法で行った。
【0063】
(1)粘度平均分子量
塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂粉粒体0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めた。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]×c (但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4×M0.83 (M=粘度平均分子量)
c=0.7
【0064】
(2)水分率
カールフィッシャー水分計:ダイアインスツルメンツ社製CA−100、水分気化装置VA−100にて気化温度200℃、10分間加熱し水分率を測定した。ポリカーボネート樹脂粉粒体は2g使用した。
【0065】
(3)金属腐食性異物量
ポリカーボネート樹脂粉体100gを使用しジクロロメタン10lに溶解させ、1μmのシルクスクリーンを通過させた後、シルクスクリーン上に捕集された異物をXMAにて分析し、1〜100μmの大きさの、タンクに使用した金属成分および酸素原子、又はタンクに使用した金属成分および塩素原子がXMAで検出された金属腐食性異物をカウントした。
【0066】
(4)色相(YI値)
ペレットを成形機(日本製綱所製J85−ELIII)にて300℃で成形し、5mm厚みの角板を得た。5mmt角板のYI値をバリアン社製Cary5Eにて測定した。YI値が大きいほど成形板の黄色味が強いことを示す。
【0067】
(5)金属製タンクの表面の表面粗さ
JIS B0601−1994に従い、万能表面形状測定機(SURFCOM 3B.E−MD−S10A:東京精密(株)製)にて触針径2μm、触針圧0.07gの条件により行い、測定長10mm、測定速度0.15mm/s、測定倍率10Kにて平均表面粗さ(Ra)を算出した。
【0068】
[実施例1および比較例1]
実施例1
ポリカーボネート樹脂粉体(帝人化成製パンライトL−1250WP;粘度平均分子量は23900、水分率は400ppm〜550ppm)と添加剤(理研ビタミン製リケマールSK−900A(離型剤)0.25%、ケミプロ化成製ケミソーブ79(紫外線吸収剤)0.33%、クラリアントジャパン製P−EPQ(リン系熱安定剤)160ppm、バイエル社製バイオレットB(ブルーイング剤)0.6ppm)とを予めブレンダーにて混合し、押出機供給用のポリカーボネート樹脂粉粒体を得た。
【0069】
押出機の供給部にSUS304製貯蔵タンク(容量3600l;表面粗さ0.10μm)を設置し、該貯蔵タンクに該ポリカーボネート樹脂粉粒体を貯蔵した後、計量器により1500kg/hrにて該ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に供給した。
【0070】
押出機としては、日本製綱所製2軸押出機TEX160XC−10.5W−Vを使用し、ニーディング部温度285℃、ベント部温度260℃、フィルター部温度310℃、ダイス部温度315℃に設定しポリカーボネート樹脂粉粒体を押出した。
【0071】
押出機回転数を105回転/分として運転を実施し、貯蔵タンクにはポリカーボネート樹脂粉粒体を最初に1800kg供給し、その後800kg以下になった時点にて1000kg供給し、運転中は貯蔵タンクの中のポリカーボネート樹脂粉体量が800kgから1800kgになるようにした。
【0072】
実験前の貯蔵タンクは酸洗浄を行い、内部に錆などが発生していないことを確認した。実験開始前にタンク底部より乾燥した窒素ガスを供給し、タンク底部及び上部の相対湿度を10%以下、酸素濃度1%未満とした後に実験を開始した。実験中は常に貯蔵タンク底部から3l/分の乾燥した窒素ガスを供給した。実験を開始してから1時間後、1日後、1週間後のタンクから押出機へ供給されたポリカーボネート樹脂粉粒体をサンプリングし、金属腐食性異物量を測定した。
【0073】
一方、押出機にて溶融混練されたポリカーボネート樹脂は、押出機ダイ部よりストランドとして取り出し、ウォーターバスにて冷却後、カッターにてペレット化した。実験開始後1時間、1日後、1週間後にペレット化されたペレットを120℃、にて4時間乾燥後、成形機(日本製綱所製J85−ELIII)にて300℃で成形し、5mm厚みの角板を得た。この角板のYI値を測定した。
【0074】
比較例1
1週間後貯蔵タンクへのポリカーボネート樹脂粉粒体の供給を停止し、貯蔵タンクの中を観察したところ、タンク内面に錆等の発生は確認されなかった。再度貯蔵タンクの中を酸洗浄し、タンク下部からの乾燥した窒素ガスの供給を行わないで実験を再開した。再開した後1時間後、一日後、一週間後のポリカーボネート樹脂粉粒体中の金属腐食性異物量及びペレットから成形した5mm厚みの角板のYI値を測定し、再立上げ後の結果を比較例1とする。実験後、貯蔵タンクの内部を確認したところ、一部タンク溶接部分で錆の発生が確認された。
実施例1および比較例1の評価結果を表1に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
[実施例2および比較例2]
金属製貯蔵タンクをSUS304製からSS400製(表面粗さ0.09μm)に代えた以外は実施例1および比較例1と同様の実験を行った。乾燥窒素供給を行ったものを実施例2、乾燥窒素供給を行わなかったものを比較例2とした。実施例2の後での貯蔵タンク確認では錆等の発生は見られなかったが、比較例2の後の貯蔵タンクには内部上面及び溶接部分に錆発生が確認された。評価結果を表2に示した。
【0077】
【表2】

【0078】
[実施例3および比較例3]
金属製貯蔵タンクをSUS304製からSUS316L製(表面粗さ0.10μm)に代えた以外は実施例1および比較例1と同様の実験を行った。乾燥窒素供給を行ったものを実施例3、乾燥窒素供給を行わなかったものを比較例3とした。実施例3の後での貯蔵タンク確認では錆等の発生は見られず、比較例3の後の貯蔵タンク内部にも錆は確認されなかった。評価結果を表3に示した。
【0079】
【表3】

【0080】
[実施例4および比較例4]
貯蔵タンクの底部から供給する乾燥した窒素ガスの供給量を0.5l/分としたこと以外は実施例1および比較例1と同様の実験を行った。実験開始時のタンク底部及び上部の相対湿度は13%、酸素濃度1%未満であった。乾燥窒素供給を行ったものを実施例4、乾燥窒素供給を行わなかったものを比較例4とした。実施例4の後での貯蔵タンク確認では錆等の発生は見られなかったが、比較例4の後の貯蔵タンクには溶接部分とタンク上面に錆が確認された。評価結果を表4に示した。
【0081】
【表4】

【0082】
[実施例5および比較例5]
貯蔵タンクの内部をメッキしたこと(タンクの表面粗さ0.02μm)以外は実施例4および比較例4と同様の実験を行った。乾燥窒素供給を行ったものを実施例5、乾燥窒素供給を行わなかったものを比較例5とした。実施例5の後での貯蔵タンク確認では錆等の発生は見られなかったが、比較例5の後の貯蔵タンクには溶接部にて若干変色が確認された。評価結果を表5に示した。
【0083】
【表5】

【0084】
上記の結果から、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体をペレット化する方法において、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を一時貯蔵した金属製タンクに不活性ガスを導入することにより、金属腐食性異物量及び水分を低減した芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に供給することにより、製品にした場合でも良好な色相を呈する高品質な芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットを提供できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体をスクリュー押出機にて溶融混練してペレット化する方法において、該押出機に供給する芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を貯蔵する金属製タンクに不活性ガスを導入し、1〜100μmの大きさの金属腐食性異物量が1000個/100g以下の芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に供給し、溶融混練することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を貯蔵する金属製タンクの材質が、防錆金属合金である請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
防錆金属合金がFe、Al、Cu、Ni、Ti、Co、Cr、Mo、WおよびMnからなる群より選ばれた少なくとも2種の金属成分が主成分である請求項2記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項4】
防錆金属合金がステンレス鋼である請求項2記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項5】
ステンレス鋼に含まれるCr量が15%以上30%未満である請求項4記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項6】
芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体と接触する金属製タンクの表面が、コーティングまたはメッキ処理されている請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項7】
芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体と接触する金属製タンクの表面が、表面粗さ0.5μm以下である請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項8】
金属製タンク雰囲気中の酸素濃度が10%未満である請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項9】
金属製タンク雰囲気中の相対湿度が35%以下であり、芳香族ポリカーボネート粉粒体の水分率が600ppm以下である請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項10】
金属製タンクが、芳香族ポリカーボネート樹脂粉粒体を押出機に定量的に供給する設備に連結されている請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項11】
請求項1記載の製造方法で得られたペレットから形成された成形品。

【公開番号】特開2009−119826(P2009−119826A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299249(P2007−299249)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】