説明

芳香環系重合体及び低誘電材料

隣合う芳香環骨格が互いの立体障害により同一平面上に位置する立体配座を取り得ない、式(1)で表わされる芳香環系重合体。


(式中、X,Yは、同一でも異なってもよく、2価の、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、A,Bは、同一でも異なってもよく、単結合又は芳香族基を含むことのできる置換基であり、nは、5〜100万の整数である。)
この芳香環系重合体は、誘電率が低く、耐熱性、強度に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電気・電子分野における低誘電材料、耐熱材料又は高強度材料として有用な、新規な芳香環系重合体に関する。特に、本発明は、半導体の層間絶縁膜材料に関する。
【背景技術】
低誘電材料は、電機・電子部品における材料として、帯電や抵抗値上昇等の問題を解消するために、広く用いられている。低誘電材料は、発熱を伴う部分や応力が集中する部分に用いられたり、薄膜として使用されることが多いため、低誘電率と共に、耐熱性向上、強度向上等も同時に求められている。特に、低誘電材料は半導体の層間絶縁膜材料として有用であり、低誘電率、高耐熱性、高強度、経済性を具備した材料の開発が活発に行われている。
低誘電材料の主な用途である半導体の層間絶縁膜材料としては、現在シロキサン系化合物が中心に用いられている。シロキサン系化合物は主にケイ素、酸素から構成されている。分子の双極子モーメントが大きいほど誘電率は高くなるため、非共有電子対を多く有するシロキサン系化合物等は低誘電材料として不利である。しかし、今までは誘電率の要求値がk=4〜3程度であったため、強度、シリコンウエハに対する密着性のバランスから、シロキサン系化合物が用いられていた。
近年、半導体高性能化の要求から半導体回路幅の微細化が求められており、誘電率をさらに低くすることが必要になってきた。その際には半導体チップ全体の強度や物理的ストレス等による絶縁破壊の問題も深刻になるため、薄膜としての強度も維持する必要がある。低誘電率化の観点からシロキサン系化合物は、無機シロキサン系化合物から有機シロキサン系化合物に、さらにコントロールされたナノメートルレベルの空孔の導入と技術が進展してきた。
しかし、さらなる低誘電率化に対応するには空孔の導入量を増やすと強度の低下を招くことが問題になる。そこで有機系ポリマー等の新規材料が提案されてきたが、絶縁性、低誘電率と高強度に加えて、特に、半導体製造時にかかる熱負荷に耐える高耐熱性を具備する材料は見当たらない。また、ボラジン−ケイ素系高分子のような有機/無機重合体も提案されているが、低誘電率、高強度、高耐熱性を具備するが、重合に必要なプラチナ触媒を除去する工程がないため、残留プラチナ原子により生じる絶縁破壊や低安定性の点で問題が残っている(例えば、特開2002−359240号公報参照。)。
このように、従来公知の層間絶縁膜材料に見られる低誘電率化のためにはナノメートルレベルの空孔導入量を増加する手法が取られているが、空孔導入量の増加は強度低下を引き起こす。即ち、強度低下を伴わず誘電率を低下させるのには限界がある。
また、上記の化合物は、表面保護膜としての用途もあるが、熱架橋性材料として用いるため、所望の性能を発揮するためには、高温での熱処理が必要となる。そのため、熱処理による装置等のダメージ防止や経済性の観点から熱処理が不要な材料が求められている。
本発明は、従来公知の低誘電材料を用いる層間絶縁膜材料への空孔導入量の増加により生ずる種々の問題点を解消し、空孔導入を必要としない層間絶縁膜材料として優れた低誘電材料を提供することを目的とする。
現状のナノメートルレベルの空孔導入手法では強度低下せずに誘電率を低下させるのには限界があるため、オングストロームレベルの空孔を導入する必要があり、それは原子レベルのサイズの空孔、即ち、分子間自由体積を増加させることに他ならない。そのような材料の具体的な構造を考案し、本発明を完成させた。
さらに、本発明は、熱架橋を必要としないで高い耐熱性を発揮できる耐熱材料を提供することを目的とする。
また、本発明は、熱架橋を必要としないで高い強度を発揮できる高強度材料を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明によれば、以下の芳香環系重合体等を提供できる。
[1]主鎖に芳香環が連なる芳香環系重合体であって、最安定構造において、芳香環の双極子モーメントが打消し合って、双極子モーメントが1デバイ以下、及び/又は、密度が1.50g/cm以下である芳香環系重合体。
[2]隣合う芳香環骨格が互いの立体障害により同一平面上に位置する立体配座を取り得ない、式(1)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、X,Yは、同一でも異なってもよく、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、
A,Bは、同一でも異なってもよく、単結合、−(CR−、−(SiR−、−(OSiRO)−、−(SiRO1.5−、−(GeR−、−(SnR−、−BR−、−AlR−、−NR−、−PR−、−AsR−、−SbR−、−O−、−S−、−Se−、−Te−、−CO−、−COO−、−OO−、−NHCO−、−(N=C)−、アセチリデン基、エチリデン基、ボラジレン基、置換又は非置換の炭素数6〜50の芳香族基、置換又は非置換の炭素数4〜50の含ヘテロ原子芳香族基から選ばれる二官能性置換基、又はこれらの置換基が1種以上組み合わさって形成される置換基であり、
Rは、同一でも異なってもよく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20の芳香族基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、エポキシ基含有基、シリル基含有基、シロキシ基含有基、フッ素含有基、ボラジル基又はこれらの置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基であり、
mは1〜50の整数であり、
nは、5〜100万の整数である。)
[3]隣合う芳香環骨格が互いの立体障害により同一平面上に位置する立体配座を取り得ない、式(2)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、X,Yは、同一でも異なってもよく、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、
A’は、同一でも異なってもよく、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ホウ素のいずれか、又はこれらのいずれかを含む置換基を介してX,Yと結合する、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、
Rは、同一でも異なってもよく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20の芳香族基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、エポキシ基含有基、シリル基含有基、シロキシ基含有基、フッ素含有基、又はこれらの置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基であり、
nは、5〜100万の整数である。)
[4]式(3)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、R,nは、式(1)と同じであり、aは、同一でも異なってもよく、0〜6の整数である。)
[5]式(4)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、R,nは、式(1)と同じであり、aは、同一でも異なってもよく、0〜6の整数であり、bは、同一でも異なってもよく、0〜5の整数である。)
[6]双極子モーメントが1デバイ以下、及び/又は、密度が1.20g/cm以下である[2]〜[5]のいずれかに記載の芳香環系重合体。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる低誘電材料。
[8][7]記載の低誘電材料からなる半導体用層間絶縁膜材料。
[9][1]〜[6]のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる耐熱材料。
[10]ガラス転移温度が250℃以上で、溶融温度又は熱分解開始温度のいずれか低い温度が300℃以上である[9]記載の耐熱材料。
[11][1]〜[6]のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる高強度材料。
[12]ハードネスが0.3GPa以上、及び/又はモジュラスが3GPa以上である[11]記載の高強度材料。
[13][1]〜[6]のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる薄膜。
[14][13]に記載の薄膜を含む半導体装置。
[15][13]に記載の薄膜を含む画像表示装置。
[16][13]に記載の薄膜を含む電子回路装置。
[17][13]に記載の薄膜からなる表面保護膜。
[18][1]〜[6]のいずれかに記載の芳香環系重合体を有機溶媒に溶解させた塗料。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の半導体装置の一実施形態を示す図である。
図2は、製造例1で得られた2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチルのH−NMRのチャート図である。
図3は、製造例1で得られた2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチルの13C−NMRのチャート図である。
図4は、製造例2で得られたジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミンのH−NMRのチャート図である。
図5は、製造例2で得られたジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミンのC−NMRのチャート図である。
図6は、実施例1で得られたポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)のH−NMRのチャート図である。
図7は、実施例1で得られたポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)の13C−NMRのチャート図である。
図8は、実施例2で得られたポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)のH−NMRのチャート図である。
図9は、実施例2で得られたポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)の13C−NMRのチャート図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、主鎖に芳香環が連なる芳香環系重合体であって、最安定構造において、芳香環の双極子モーメントが打消し合って、双極子モーメントが1デバイ以下、及び/又は、密度が1.50g/cm以下である芳香環系重合体である。
芳香環は、同一又は異なってもよく、さらに、置換又は非置換の、ナフタレン環又はベンゼン環等の、単環又は複環式芳香族基である。
最安定構造とは、半経験的軌道法プログラムパッケージMOPAC97のAM1法で構造最適化を行って得られた構造を意味する。
双極子モーメントは、上記の最安定構造から、理論計算により求めることができる。
この重合体において、主鎖にある多数の芳香環は、芳香環の双極子モーメントの向きが一致しないため、双極子モーメントが打ち消しあい、その結果、重合体全体の双極子モーメントが1デバイ以下となる。好ましくは0.7デバイ以下である。
双極子モーメントの値は、芳香環、さらに芳香環おける置換基の種類、置換位置、置換数により調整できる。
例えば、分子中に含まれる非共有電子対の濃度を低くすることにより調整できる。ただし、低すぎると、一般に加工性が悪くなるので、好ましくは0.01デバイ以上とする。
密度は、該重合体を2nm以上の細孔が存在しない薄膜として、斜入射X線反射率法により測定できる。
本発明の重合体は、芳香環構造の立体反発とねじれ構造より幾何学的に大きい分子間自由体積を有する。
密度は、双極子モーメントと同様に、芳香環、さらに芳香環における置換基の種類、置換位置、置換数により、好ましくは1.50g/cm以下、より好ましくは1.20g/cm以下の範囲で調整できる。
このような重合体では、芳香環構造の立体反発により主鎖がねじれ、これにより低誘電性がもたらされる。即ち、多数の芳香環の双極子モーメントがランダム化により打ち消し合い、大きい分子間自由体積が生じる。
また、本発明は、隣合う芳香環骨格が互いの立体障害により同一平面上に位置する立体配座を取り得ない、式(1)で表わされる芳香環系重合体である。

(式中、X,Yは、同一でも異なってもよく、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、
A,Bは、同一でも異なってもよく、単結合、−(CR−、−(SiR−、−(OSiRO)−、−(SiRO1.5−、−(GeR−、−(SnR−、−BR−、−AlR−、−NR−、−PR−、−AsR−、−SbR−、−O−、−S−、−Se−、−Te−、−CO−、−COO−、−OO−、−NHCO−、−(N=C)−、アセチリデン基、エチリデン基、ボラジレン基、置換又は非置換の炭素数6〜50の芳香族基、置換又は非置換の炭素数4〜50の含ヘテロ原子芳香族基から選ばれる二官能性置換基、又はこれらの置換基が1種以上組み合わさって形成される置換基であり、
Rは、同一でも異なってもよく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20の芳香族基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、エポキシ基含有基、シリル基含有基、シロキシ基含有基、フッ素含有基、ボラジル基又はこれらの置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基であり、
mは1〜50の整数であり、
nは、5〜100万の整数である。)
この芳香環系重合体は、半経験的軌道法プログラムMOPAC97のAM1法で求めた最安定構造において隣合う芳香環骨格が同一平面上に配座しない。そのため、芳香環骨格の双極子モーメントが打ち消し合い、大きい分子間自由体積が生じる。その結果、この芳香環系重合体は、低い誘電率を有すると考えられる。
尚、芳香環骨格は、X,A,Y,Bに含まれる芳香環骨格である。
好ましい芳香環系重合体として、以下の重合体が挙げられる。


(式(5)〜(10)中、A,R,nは式(1)と同じである。
式(5)中、aは、同一でも異なってもよく、0〜6の整数である。
式(6)中、cは、同一でも異なってもよく、0〜3の整数である。
式(7)中、dは、同一でも異なってもよく、0〜2の整数である。
式(8),(9)中、eは、同一でも異なってもよく、0〜8の整数である。
式(10)中、fは、同一でも異なってもよく、0〜8の整数である。)


(式(11)〜(14)中、A,R,nは式(1)と同じである。lは、同一でも異なってもよく、0〜5の整数である。gは、同一でも異なってもよく、g=l×6+8の関係を満たす0〜38の整数である。)
式(11)〜(14)において、lが1〜5の整数の場合、縮環状に結合するシクロヘキサン環又はノルボルネン環構造の置換位置が異なる任意の異性体も含む。
X,Yの好ましい芳香族基は、ナフタレン環又はベンゼン環である。
Aは、好ましくは、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ホウ素のいずれか、又はこれらのいずれかを含む置換基を介してX,Yと結合する、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、より好ましくは、酸素、窒素、硫黄のいずれか、又は酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ホウ素のいずれかを介してX,Yと結合する、Rで置換されてもよいビナフチレン環、ベンゼン環、又はビフェニル環である。
Bは、好ましくは、単結合である。
nは、好ましくは、5〜10万、特に好ましくは、nは5〜5000の整数である。
上記式(1)における、Rは、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基等の炭素数1〜20のアルキル基;ビニル基、イソプロペニル基、アリル基等の炭素数1〜20のアルケニル基;エチニル基等の炭素数1〜20のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンスレニル基等の炭素数6〜20の芳香族基;トリル基、クミル基等の炭素数1〜20のアルキル基で置換された炭素数6〜20の芳香族基;メトキシ基、エトキシ基、アダマンチルオキシ基、ビアダマンチルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基等の炭素数1〜20のアルケニルオキシ基、フェノキシ基;メチルチオ基、アダマンチルチオ基等の炭素数1〜20のアルキルチオ基、ビニルチオ基等の炭素数1〜20のアルケニルチオ基、フェニルチオ基;アセトキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等のエステル基;エポキシ基、エポキシメチル基等の炭素数1〜20のアルキルエポキシ基;シリル基、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基、トリフェニルシリル基;シロキシ基、トリメチルシロキシ基、tert−ブチルジメチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基;フッ素、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜20のフッ素化アルキル基、ヘキサフルオロイソプロペニル基等の炭素数1〜20のフッ素化アルケニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメトキシ基等の炭素数1〜20のフッ素化アルコキシ基、ヘキサフルオロイソプロペノキシ基等の炭素数1〜20のフッ素化アルケニルオキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基;p−トリフルオロメチルフェニル基、p−トリフルオロメチルフェノキシ基、ビニルアダマンチル基、ビニルアダマンチルオキシ基、ビニルビアダマンチルオキシ基等の上記の置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基が例示される。
好ましくは、Rは、メチル基、エチル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ドデシル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基;ビニル基、イソプロペニル基、アリル基、エチニル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンスレニル基、トリル基、クミル基;メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、アダマンチルオキシ基、ビアダマンチルオキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基;アダマンチルチオ基、ビニルチオ基;アクリロキシ基、メタクリロキシ基;エポキシ基、エポキシメチル基;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基;トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基;フッ素、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基である。
特に好ましくは、Rは、メチル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基;ビニル基、イソプロペニル基、アリル基、エチニル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンスレニル基;メトキシ基、フェノキシ基、アダマンチルオキシ基、ビアダマンチルオキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基;アダマンチルチオ基、ビニルチオ基;アクリロキシ基、メタクリロキシ基;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基;トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基;フッ素、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基である。
以下、式(1)の芳香環系重合体を具体的に説明するが、以下の式におけるR,nの好適例は上記と同じである。
式(1)の芳香環系重合体の例として、式(3)で表わされる芳香環系重合体が挙げられる。

(式中、R,nは式(1)と同じである。aは、同一でも異なってもよく、0〜6の整数である。)
尚、上記式に示されるように、各ナフタレン環の結合位置、Rの置換位置は特に限定されない。aは、各ナフタレン環におけるRの数であるが、各ナフタレン環において、それぞれ0〜6の整数である。)
好ましくは、aは0〜4、より好ましくは、0〜1の整数である。
式(3)の重合体のうち、好ましい例として、式(15)で表される芳香環系重合体が例示される。

(式中、R、a、nは式(3)と同じである。)
上記の式(1)の芳香環系重合体の他の例として、式(4)で表わされる芳香環系重合体が挙げられる。

(式中、R、a、nは式(1)と同じであり、bは、同一でも異なってもよく、それぞれ0〜5の整数である。)
尚、上記式に示されるように、2つのナフタレン環とベンゼン環の結合位置、Rの置換位置は特に限定されない。aは、各ナフタレン環におけるRの数であり、各ナフタレン環において、それぞれ0〜6の整数である。bは、ベンゼン環におけるRの数であり、0〜5の整数である。
式(4)の重合体のうち、好ましい例として、式(16)で表されるジナフチルアミン系重合体が例示される。

(式中、R、a、b、nは式(4)と同じである。)
次に、上記の芳香環系重合体の製造方法について説明する。
式(1)の芳香環系重合体は、式(17)で表されるモノマーを重合して製造できる。好ましくは、酸化重合である。

(式中、X、A、Y、Bは、式(1)と同じである。)
式(3)の芳香環系重合体は、式(18)で表されるモノマーを重合して合成できる。好ましくは、酸化重合である。

(式中、R、aは式(3)と同じである。)
また、式(15)の芳香環系重合体を合成するには、式(19)で表されるモノマーを重合させる。

(式中、R、aは式(15)と同じである。)
上記モノマーの酸化重合法としては特に限定されないが、一般的に公知である、窒素ガス雰囲気下において塩化第二鉄の懸濁液中で実施する方法、トリフルオロ酢酸中、酸化バナジル化合物を触媒として、トリフルオロ酢酸無水物中を脱水剤として用い、酸素ガスを導入する方法等がある。
式(18)のモノマーは、式(20)で表されるビナフチル類から選択される一種類又は二種類以上、及び、式(21)で表されるナフタレン類から選択される一種類又は二種類以上の原料を用いて、脱水反応、ウィリアムソン(Williamson)反応、ウルマン(Ullmann)反応、ミツノブ(Mitsunobu)反応等の従来公知の反応により合成することができる。

(式中、R、aは式(18)と同じである。Wは、水酸基、臭素、塩素、ヨウ素等のエーテル合成反応において活性な置換基である。)

(式中、R、aは式(18)と同じである。Qは、水酸基、臭素、塩素、ヨウ素等のエーテル合成反応において活性な置換基である。)
ただし、式(20)のWと、式(21)のQの少なくとも一方は、水酸基である。
式(19)のモノマーは、式(22)で表される1,1’−ビナフチル類から選択される一種類又は二種類以上、及び、式(23)で表されるナフタレン類から選択される一種類又は二種類以上の原料を用いて、同様に合成することができる。

(式中、R、aは式(19)と同じである。Wは、水酸基、臭素、塩素、ヨウ素等のエーテル合成反応において活性な置換基である。)

(式中、R、aは式(19)と同じである。Qは、水酸基、臭素、塩素、ヨウ素等のエーテル合成反応において活性な置換基である。)
ただし、式(22)のWと、式(23)のQの少なくとも一方は、水酸基である。
式(22)に示される2位及び2’位にWが結合する1,1’−ビナフチル類の例として、具体的には、2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ジクロロ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ジブロモ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ジヨード−1,1’−ビナフチル、及び、これらにRをa個有する1,1’−ビナフチル類等が挙げられる。
式(23)に示される1位にQが結合するナフタレン類の例として、具体的には、1−ナフトール、1−クロロナフタレン、1−ブロモナフタレン、1−ヨードナフタレン、及び、これらにRをa個有するナフタレン類等が挙げられる。
式(20)〜(23)のモノマーは市販の製品として入手又は公知の方法で製造できる。
式(4)のジナフチルアミン系重合体は、式(24)で表されるモノマーを重合して合成できる。好ましくは、上述したような酸化重合である。

(式中、R、a、bは式(4)と同じである。)
また、式(16)のジナフチルアミン系重合体を合成するには、式(25)で表されるモノマーを重合させる。

(式中、R、a、bは式(16)と同じである。)
式(24)のモノマーは、式(26)で表されるフェニルアミン類から選択される一種類又は二種類以上、及び式(27)で表されるナフタレン類から選択される一種類又は二種類以上の原料を用いて、パラジウム化合物、ニッケル化合物、銅化合物、ルテニウム化合物などから選ばれる触媒、及び/又は、塩基の存在下によるアミン化合物のアリール化反応などの従来公知の反応により合成することができる。

(式中、R、bは式(24)と同じである。)

(式中、R、aは式(24)と同じである。Qは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、水酸基、有機ホウ素基等のアミンのアリール化反応において活性な置換基である。)
式(25)のモノマーは、式(26)で表されるフェニルアミン類から選択される一種類又は二種類以上、及び式(28)で表されるナフタレン類から選択される一種類又は二種類以上の原料を用いて、同様に合成することができる。

(式中、R、aは式(25)と同じである。Qはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素水酸基、有機ホウ素基等のアミンのアリール化反応において活性な置換基である。)
式(26)に示されるフェニルアミン類の例として、4−メチルフェニルアミン、3,5−ジメチルフェニルアミン、4−アダマンチルフェニルアミン、4−アダマンチルオキシフェニルアミン、4−ビアダマンチルフェニルアミン、4−ビアダマンチルオキシフェニルアミン、フェニルアミン等が挙げられる。
式(28)に示される1位にQが結合するナフタレン類の例として、1−ナフトール、1−クロロナフタレン、1−ブロモナフタレン、1−ヨードナフタレン、及び、これらにRをa個有するナフタレン類等が挙げられる。
式(26)〜(28)のモノマーは市販の製品として入手又は公知の方法で製造できる。
本発明の芳香環系重合体の双極子モーメントと密度は、芳香環、置換基Rの種類、置換位置、置換数により変化するが、好ましくは双極子モーメントが1デバイ以下、密度が1.50g/cm以下である。
本発明の芳香環系重合体は、誘電率が低いため、様々な電気・電子部品の低誘電材料、特に半導体装置等に用いられる半導体用層間絶縁膜材料として使用できる。
特に、式(3)の芳香環系重合体は、2つのナフタレン環にエーテル結合で挟まれた、ビナフチル基が嵩高く、立体障害により自由回転し難い。同様に、式(4)の芳香環系重合体は、2つのナフタレン環に挟まれた置換ベンゼン環が嵩高く、立体障害により自由回転し難い。さらに、主鎖に連なるナフタレン環がそれぞれ異なる向きに配置しているため、分子軌道法で測定した双極子モーメントが互いに打ち消しあい、特定の双極子モーメントが形成されずらく、そのため誘電率が低くなると考えられる。
上記の本発明の芳香環系重合体の誘電率は、芳香環、置換基Rの種類、置換位置、置換数により、kの値として、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.7以下、さらに好ましくは2.5以下である。置換基を有しない場合でも、芳香環構造の立体反発による主鎖のねじれにより、双極子モーメントがランダム化し打ち消し合うため分子全体としての双極子モーメントが低くなり、さらに、芳香環構造の立体反発とねじれ構造より幾何学的に大きい分子間自由体積を具備するため、ポリフェニレン等の通常のポリアリーレンよりも低誘電率を示す。芳香環構造の立体反発と双極子モーメントは、置換基Rの種類、置換位置、置換数により適宜調整できる。
半導体製造におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料には、誘電率、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等の特性が必要とされる。これらの特性は、用いる多層配線の階層やデザインノードにより変化するため、具体的な値については一概に定義ができない。一般に誘電率等は低く、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等は高くなることが望ましく、本発明の芳香環系重合体はこれらの性質を具備する。
本発明の芳香環系重合体は、上述したように、誘電率が低いため、半導体装置の層間絶縁膜として好適に利用できるが、耐熱性が高い等他の特性にも優れるため、半導体装置、さらに、画像表示装置、電子回路装置等において、他の部材としても用いることができる。
また、本発明で用いる芳香環系重合体は、耐熱性が高いため、様々な電気・電子部品の耐熱材料として使用できる。
本発明の耐熱材料を用いれば、ULSI等半導体を始めとする様々な物品において、熱処理をしなくても耐熱性が付与される。この結果、性能や信頼性を飛躍的に向上させることが可能となる。本発明で用いる芳香環系重合体は、以下の分子構造を有するため、耐熱性が高いと考えられる。
(1)熱によるラジカル生成が起き難いか、生成しても安定して存在し異性化反応等が起き難い芳香環構造
(2)主鎖において、分子内、分子間のラジカルカップリングが進行し難い立体構造
(3)各分子構造が比較的剛直である上、さらに芳香環構造の芳香環π電子静電的相互作用とジグザグ構造に基づく分子間相互作用が強く、熱による分子パッキング状態の変化が起こり難い構造
耐熱性の評価方法は、示差走査熱量計(DSC)、示差熱熱重量同時測定装置(Tg/DTA)等一般的な熱物性評価により行える。評価用サンプルの形状は薄膜の状態でも、その前駆体である粉体やブロック状であっても、評価方法の際に用いる装置の制限の範囲内で適宜選択できる。耐熱温度としては以上の方法により求められたガラス転位温度、及び溶融温度又は熱分解開始温度のうちいずれか低い温度の2種類の温度により規定される。
ガラス転位温度は、式(1)の主鎖構造であるX,Y,A,B及び置換基Rの種類、置換位置、置換数や分子量、分子量分布等により変化するが、好ましくは250℃以上の範囲、より好ましくは300℃以上の範囲である。溶融温度又は熱分解開始温度のうちいずれか低い温度は、置換基Rの種類、置換位置、置換数により変化するが、好ましくは300℃以上の範囲、より好ましくは400℃以上の範囲である。本発明で用いる重合体はポリアリーレンの一種であることから、熱によるラジカル発生を原因とする分解が極めて少なく高耐熱性である。
また、本発明で用いる芳香環系重合体は、様々な電気・電子部品の高強度材料として使用できる。
本発明の高強度材料を用いれば、ULSI等半導体を始めとする様々な物品において、熱処理をしなくても高強度が付与される。この結果、性能や信頼性を飛躍的に向上させることが可能となる。本発明で用いる芳香環系重合体は、以下の分子構造を有するため、強度が高いと考えられる。
(1)式(1)におけるX,Y部の芳香環構造と、A,B部の結合安定性のため各分子構造が剛直である。
(2)式(1)におけるX,Y部の芳香環π電子静電的相互作用と、主鎖のねじれ構造に基づく分子間の相互作用(主に物理的引っ掛り)が強い。
本発明の材料の強度は、式(1)の主鎖構造であるX,Y,A,B及び置換基Rの種類、置換位置、置換数や分子量、分子量分布等により変化するが、ナノインデンテーション法によるハードネス(硬度)が好ましくは0.3GPa以上30GPa以下、及び/又はモジュラスが3GPa以上300GPa以下である。より好ましくは、0.4GPa以上25GPa以下、及び/又はモジュラスが4GPa以上250GPa以下である。
尚、モジュラスの定義は評価例5に記載の通りである。
本発明の芳香環系重合体は、洗浄、イオン交換樹脂処理、再沈殿、再結晶、精密濾過、乾燥等の精製により、例えば、Fe3+、Cl、Na、Ca2+等のイオン性不純物、反応溶媒、後処理溶媒、水分等を除去することにより、その誘電率、耐熱性又は強度が向上する。
さらに、通常芳香環系重合体は剛直であることに由来して溶媒不溶であるが、本発明で用いる芳香環系重合体は式(1)におけるA,Bの存在により剛直性が適度に低下するため可溶であり、アモルファス性であるため薄膜化が可能である。従って、耐熱性薄膜として、半導体装置、画像表示装置、電子回路装置、表面保護膜等に使用できる。
薄膜の形成方法としては、スピンコート法、キャスト法、バーコート法等の薄膜形成方法が好適に使用できる。薄膜形成条件は、置換基Rの種類、置換位置、置換数等により、溶媒に対する溶解度や、溶液粘度が異なるため、適宜設定する。溶液をこれらの方法により所望の表面に塗布した後、常圧下において溶媒の沸点を上回る温度で加熱、又は減圧下や乾燥ガス気流下において溶媒の沸点以下で加熱して溶媒を除去することにより、簡便に薄膜を形成できる。熱架橋材料において必要な溶媒除去後の高温下熱処理は必要ない。しかし、さらに、強度を上げる場合やその他の特性を調整する場合は、従来公知の架橋剤等の添加剤を適宜添加してもよい。
本発明の芳香環系重合体からなる薄膜は、薄膜化後の高温での重合(熱キュア)が不要な上、化学構造も単純で安価な原料より製造できるため、経済的である上、熱硬化させるために必要な触媒や架橋剤を必要としないため、これらの残留がなく好適に使用できる。
膜厚は、用途により異なるが、好ましくは20nm〜10μmである。エリプソメータ等による光学的膜厚測定、触針式膜厚測定器やAFM等による機械的膜厚測定が可能である。
また、本発明の芳香環系重合体を、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル系、アニソール等のエーテル系、NMP、DMF等のアミド系、ニトロベンゼン、トルエン等の芳香族系、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系、DMSO等の有機溶媒に溶解させた塗料は、塗装面やプラスチック製品の表面に塗布して表面保護膜として使用できる。例えば、この塗料を塗装面やプラスチック製品の表面に塗布した後、有機溶媒を蒸発させると、塗装面保護膜又はプラスチックハードコート膜が形成できる。
本発明の芳香環系重合体は、その優れた特性により、上記の用途の他、繊維や成形品等、様々な分野で好適に使用できる。例えば、シート、チューブ、フィルム、繊維、積層物、コーティング材、各種容器として使用したり、各種部品、例えば、機械部品、自動車部品(バンパー、フェンダー、エプロン、フードパネル、フェイシア、ローカーパネル、ロッカパネルレインフォース、フロアパネル、リアクオーターパネル、ドアパネル、ドアサポート、ルーフトップ、トランクリッド、フュェルリッド等の外装部品、インストルメントパネル、コンソールボックス、グローブボックス、シフトノブ、ピラーガーニッシュ、ドアトリム、ハンドル、アームレスト、ウインドルーバ、ヘッドレスト、シートベルト、シート等の内装部品、ディストリビュータキャップ、エアクリーナー、ラジエータタンク、バッテリーケース、ラジエータシュラウド、ウオッシャータンク、クーリングファン、ヒータケース等のエンジンルーム内部品、ミーラーボディー、ホイールカバー、トランクマット、ガソリンタンク等)、二輪車用部品(カウリング材、マフラーカバー、レグシールド等)、電気・電子部品(ハウジング、シャーシー、コネクター、プリント基板、プーリー、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、カメラ部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品等)等、の部品に使用できる。また、各種レンズ、プリズム、光ファイバー、光ディスク、液晶パネル等の各種光学機器用素材として有用である。
実施形態1
図1に、本発明の芳香環系重合体からなる層間絶縁膜を含む半導体装置の一実施形態を示す。
この図に示すような半導体装置の一種である超大規模集積回路(ULSI)多層配線構造は、シリコンウエハ10、トランジスタ20、多層配線30、パッシベーション膜40を含む。多層配線30を多層化することにより、高集積化となる。多層配線30は、ハードマスク及び/又はバリヤメタル32を結合するCu配線34と、Cu配線34間にある層間絶縁膜36からなる。層間絶縁膜36は、本発明の芳香環系重合体から構成されている。
この回路では、層間絶縁膜36を構成する芳香環系重合体の誘電率か低いため、配線加工サイズ(Cu配線34の間隔)が狭くなってもCu配線34間に電荷が寄生し難く配線遅延時間及び/又は消費電力を小さく抑えることができる。
また、層間絶縁膜36を構成する芳香環系重合体の耐熱性が高いため微細加工、例えば、光リソグラフィー、エッチング、Cu配線形成、蒸着、スパッタリング等高温化にさらされるプロセスを経て半導体装置を製作する際に、熱による破壊、サイズ変動、ガス発生、変質等の問題を回避できる。
さらに、層間絶縁膜36を構成する芳香環系重合体の強度が高いため、微細加工、例えば、光リソグラフィー、エッチング、Cu配線形成、CMP(化学的機械的研磨)、蒸着、スパッタリング等により半導体装置を製作する際に、破壊、破損、剥がれ、めくれ等の問題を回避できる。
【実施例】
本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。また、製造例、実施例で使用した触媒、試薬は、市販の製品、又は公知文献記載の方法に従い調製したものである。
尚、実施例における双極子モーメントと密度は、上記の方法により求めた。
製造例1
[芳香環系重合体用モノマーの合成]
トルエン(10ミリリットル)が入った容量50ミリリットルのフラスコに、2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル(1.15g、4ミリモル)を加えて溶解させた後、キノリン(10ミリリットル)を添加した。この溶液に炭酸カリウム(1.38g、10ミリモル)を加えた懸濁液をオイルバス中で150℃に加熱攪拌し、トルエンを留去するとともに系内に微量含まれる水を共沸除去した。室温に到達するまで放冷した後、銅粉末(0.026g、0.4ミリモル)と1−ブロモナフタレン(1.12ミリリットル、8ミリモル)を追加し、オイルバス中で200℃48時間加熱攪拌した。室温に到達するまで放冷した後、塩化メチレン(20ミリリットル)を添加し、希塩酸(1N)で洗浄、次いでNaOH水溶液(3%)で洗浄した。塩化メチレンを減圧留去することにより得られた固形物にTHF(5ミリリットル)を添加することにより溶解させた後、メタノールを過剰量添加することにより再沈殿させ、濾過することにより粗生成物を得た。この粗生成物を塩化メチレン(2ミリリットル)に溶解させた後、シリカゲルカラムによるクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=1:2)により精製した。さらにシクロヘキサンを用いた再結晶により2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチルを得た(1.12g、収率52%)。構造はH−NMR(図2)及び13C−NMR(図3)により確認した。
製造例2
[ジナフチルアミン系重合体用モノマーの合成]
冷却管、セプタムラバーを装着した200ml二口フラスコに、p−トルイジン1.6g(15mmol)、1−ブロモナフタレン6.83g(33mmol)、Pd(dba)0.34g(0.33mmol)、t−BuONa4.44g(46.2mmol)、攪拌子を加え、窒素置換を行った。十分に置換し終えたところで、蒸留トルエン100mlを、シリンジを用いて加えた。次いで、P(t−Bu)0.357ml(1.32mmol)をシリンジを用いて加え、80℃で6時間加熱攪拌を行った。TLCにより原料の消費を確認し、析出物のろ別を行った。ろ液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl)にて精製、続いてメタノール/2−プロパノールから再結晶を行い、ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン(DNTA)を白色固体で得た。収率は88%(4.76g)であった。構造はH−NMR(図4)及び13C−NMR(図5)により確認した。
【実施例1】
[芳香環系重合体の合成]
ニトロベンゼン(2.8ミリリットル)が入った容量20ミリリットルのフラスコに、製造例1で合成した2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル(0.48g、0.9ミリモル)を完全に溶解させた後、無水塩化第二鉄(0.49g、3ミリモル)を添加した。この懸濁液を室温下にて攪拌し、24時間反応させた。この重合溶液を酸性メタノールに投入することにより塩化第二鉄を含む鉄化合物を溶解させるとともに重合物を沈殿させた。この重合物を濾過し減圧乾燥した後、クロロホルム(5ミリリットル)に溶解させ均一溶液とした。この均一溶液をアセトン(20ミリリットル)に投入、濾過、減圧乾燥させることによりポリ(2,2’−ジナフチルオキシ1,1’−ビナフチル)を得た(0.45g、収率94%)。構造はH−NMR(図6)及び13C−NMR(図7)により確認し、GPC(ポリスチレン換算、移動相としてクロロホルムを使用)により分子量を測定した(Mn=9500、Mw=28000)。
尚、AM1法より計算した結果、最安定構造において隣合うナフタレン基が同一平面上に無いことが確認できた。
双極子モーメントは、0.1デバイであり、密度は、1.13g/cmであった。
【実施例2】
[芳香環系重合体の精製]
実施例1と同様に合成したポリ(2,2’−ジナフチルオキシ1,1’−ビナフチル)の一部(0.34g)を、クロロホルム(100ミリリットル)に溶解し、事前にクロロホルムにより置換処理を行ったイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライトEG−4−HG)を容積として50ミリリットル投入し、室温下、8時間攪拌した。濾過によりイオン交換樹脂を除去した後、減圧濃縮しメタノールに投入した。沈殿した固体を濾過により回収し減圧乾燥することにより、イオン交換樹脂により処理したポリ(2,2’−ジナフチルオキシ1,1’−ビナフチル)(0.31g、回収率91%)を得た。
【実施例3】
[ジナフチルアミン系重合体の合成]
30mlナス型フラスコに、製造例2で得たDNTA0.178g(0.5mmol)、ニトロベンゼン1mlを測り取り、脱気を行った。十分に脱気を行ったところで、FeCl0.202g(1.25mmol)を素早く加え、24時間室温で攪拌した。24時間後、酸性メタノール(1/10=HCl/MeOH)100mlに投じ固体を析出させた。析出した固体を炉別し、THFに溶解させアンモニア水に投じ攪拌した。30分攪拌したところで固体を炉別し、クロロホルムに溶解させた。これを、メタノール100mlに投じ攪拌、析出した固体をろ別減圧乾燥させ、ポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)を黄土色粉末で得た。収率は83%(0.146g)であった。構造はH−NMR(図8)及び13C−NMR(図9)により確認し、GPC(ポリスチレン換算、移動相としてクロロホルムを使用)により分子量を測定した(Mn=13200,Mw/Mn=5.3)。
尚、AM1法により計算した結果、最安定構造において隣合うナフタレン環とベンゼン環が同一平面上に無いことが確認できた。
双極子モーメントは、0.4デバイであり、密度は、1.10g/cmであった。
【実施例4】
[ジナフチルアミン系重合体の精製]
実施例3と同様に合成したポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)の一部(0.10g)を、テトラヒドロフラン(100ミリリットル)に溶解した。この溶液を、事前にテトラヒドロフランにより置換処理を行ったイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト15J−HG・DRY)を容積として100ミリリットル充填したカラム管に、通過させることにより処理した。減圧濃縮後、メタノールに投入し、沈殿した固体を濾過により回収し減圧乾燥することにより、イオン交換樹脂により処理したポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)(0.09g、回収率90%)を得た。
評価例1
[層間絶縁膜としての評価]
実施例1で合成したポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)を用い濃度15wt%のニトロベンゼン溶液を作成した。これを、スピンコーターを用いて3000rpm、20秒間回転させ、シリコンウエハ上に塗布し粘着性の薄膜を形成した。この粘着性薄膜が形成したシリコンウエハを150℃にて5分加熱することにより均一な表面形状の非粘着性薄膜を形成させた。この膜厚は触針式膜厚測定器により0.44μmと計測された。
誘電率を水銀プローブ法により複数の部位を測定したところ比誘電率kは2.4〜2.6であった。熱重量分析により5%重量減少温度は500℃であった。ナノインテンデーション法によりハードネスは0.4GPa、モジュラスは6.8−6.6GPaであった。
以上の操作中、シリコンウエハからの膜の剥離は全く観測されず、基板密着性についても問題がなかった。以上の結果から半導体用層間絶縁膜材料として好適に使用できることが証明された。
評価例2
[層間絶縁膜としての評価]
実施例3で合成したポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)を用いて評価例1と同様に、非粘着性薄膜を形成させた。この膜厚は触針式膜厚測定器により0.54μmと計測された。
誘電率を水銀プローブ法により複数の部位を測定したところ比誘電率kは2.5〜2.7であった。熱重量分析により1%重量減少温度は448℃であった。ナノインテンデーション法によりハードネスは0.5GPa、モジュラスは6.6GPaであった。
以上の操作中、シリコンウェハからの膜の剥離は全く観測されず、基板密着性についても問題がなかった。以上の結果から半導体用層間絶縁膜材料として好適に使用できることが証明された。
評価例3
[耐熱性評価]
実施例1と同様に合成したポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)の粉体を用い、窒素気流中、示差走査熱量計(DSC)及び示差熱熱重量同時測定装置(Tg/DTA)(セイコーインスツルメンツ株式会社製EXSTAR6000)により、DSCは5℃/分、Tg/DTAは10℃/分の昇温条件により分析した。その結果、ガラス転位温度(T)、1%重量減少温度(Td1)、及び5%重量減少温度(Td5)を測定した。Tは301℃、Td1は418℃、Td5は520℃であった。以上の結果から高耐熱材料として好適に使用できることが証明された。
評価例4
[耐熱性評価]
評価例3において、ポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)の代わりに、実施例3と同様に合成したポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)を用いた以外は評価例3と同様に実施した。その結果、Tgは観測されず、Td1は448℃、Td5は538℃であった。以上の結果から高耐熱材料として好適に使用できることが証明された。
比較例1
評価例3において、ポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)の代わりに、市販のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキシド)(アルドリッチ社製)を用いた以外は評価例3と同様に実施した。その結果、Tgは211℃に観測され、268℃で融解が開始して、それ以上の温度では粘調性液体となった。以上の結果から高耐熱材料としては不充分なものであることが証明された。
評価例5
[強度評価]
実施例2で得られたポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)を用い、濃度15wt%のニトロベンゼン溶液を作成した。これを、スピンコーターを用いて3000rpm、20秒間回転させ、シリコンウェハ上に塗布し粘着性の薄膜を形成した。この粘着性性薄膜が形成したシリコンウェハを150℃にて5分加熱することにより均一な表面形状の非粘着性薄膜を形成させた。この膜厚は触針式膜厚測定器により0.44μmと計測された。この薄膜をナノインデンテーション法により測定したところハードネスは0.42GPa、モジュラスは9.8GPaであった。測定装置はトリボスコープシステム(Triboscope system)(商品名)(ヒシトロン社(Hysitron Inc.)製)であり、使用圧子(タイヤモンド)は三角錐形であった。モジュラスEr(複合弾性率)は以下の式から求めた。
1/Er={(1−νs)/Es}+{(1−νi)/Ei}
(式中、Esは試料のヤング率、νsは試料のポアソン比、Eiは圧子のヤング率、νiは圧子のポアソン比である)
以上の操作中、シリコンウェハからの膜の剥離は全く観測されず、基板密着性についても問題がなかった。以上の結果から高強度薄膜材料として好適に使用できることが証明された。
また、実施例1で得られたポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)についても同様に測定したところ、膜厚0.47μmで、ハードネス0.4GPa、モジュラス6.8GPaであった。
評価例6
[強度評価]
評価例5において、ポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)の代わりに、実施例4で得られたポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)を用いた以外は評価例5と同様に実施した。膜厚は触針式膜厚測定器により0.18μmと計測された。この薄膜をナノインデンテーション法により測定したところハードネスは0.49GPa、モジュラスは8.0GPaであった。
以上の操作中、シリコンウェハからの膜の剥離は全く観測されず、基板密着性についても問題がなかった。以上の結果から高強度薄膜材料として好適に使用できることが証明された。
また、実施例3で得られたポリ(ジ−(1−ナフチル)−4−トルイルアミン)についても同様に測定したところ、膜厚0.54μmで、ハードネス0.5GPa、モジュラス6.6GPaであった。
比較例2
評価例5において、ポリ(2,2’−ジナフチルオキシ−1,1’−ビナフチル)の代わりに、市販のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキシド)(アルドリッチ社製)を用いた以外は評価例5と同様に実施した。その結果、膜厚は触針式膜厚測定器により0.38μmと計測された。この薄膜をナノインデンテーション法により測定したところハードネスは0.16GPa、モジュラスは3.5GPaであった。以上の操作中、シリコンウェハからの膜の剥離が見られたことから基板密着性も含めて、高強度薄膜材料としては不充分なものであることが証明された。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、新規な芳香環系重合体と、優れた低誘電材料を提供できる。
また、本発明の芳香環系重合体からなる低誘電材料は、空孔導入をすることなしに層間絶縁膜材料として使用でき、ULSI等半導体の性能を飛躍的に向上させることができる。
本発明によれば、熱架橋を必要としないで高い耐熱性を発揮できる耐熱材料を提供できる。
本発明によれば、熱架橋を必要としないで高い強度を発揮できる高強度材料を提供できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖に芳香環が連なる芳香環系重合体であって、最安定構造において、芳香環の双極子モーメントが打消し合って、双極子モーメントが1デバイ以下、及び/又は、密度が1.50g/cm以下である芳香環系重合体。
【請求項2】
隣合う芳香環骨格が互いの立体障害により同一平面上に位置する立体配座を取り得ない、式(1)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、X,Yは、同一でも異なってもよく、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、
A,Bは、同一でも異なってもよく、単結合、−(CR−、−(SiR−、−(OSiRO)−、−(SiRO1.5−、−(GeR−、−(SnR−、−BR−、−AlR−、−NR−、−PR−、−AsR−、−SbR−、−O−、−S−、−Se−、−Te−、−CO−、−COO−、−OO−、−NHCO−、−(N=C)−、アセチリデン基、エチリデン基、ボラジレン基、置換又は非置換の炭素数6〜50の芳香族基、置換又は非置換の炭素数4〜50の含ヘテロ原子芳香族基から選ばれる二官能性置換基、又はこれらの置換基が1種以上組み合わさって形成される置換基であり、
Rは、同一でも異なってもよく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20の芳香族基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、エポキシ基含有基、シリル基含有基、シロキシ基含有基、フッ素含有基、ボラジル基又はこれらの置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基であり、
mは1〜50の整数であり、
nは、5〜100万の整数である。)
【請求項3】
隣合う芳香環骨格が互いの立体障害により同一平面上に位置する立体配座を取り得ない、式(2)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、X,Yは、同一でも異なってもよく、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、
A’は、同一でも異なってもよく、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ホウ素のいずれか、又はこれらのいずれかを含む置換基を介してX,Yと結合する、Rで置換されてもよい単環又は複環式芳香族基であり、
Rは、同一でも異なってもよく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20の芳香族基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、エポキシ基含有基、シリル基含有基、シロキシ基含有基、フッ素含有基、又はこれらの置換基が2種以上組み合わさって形成される置換基であり、
nは、5〜100万の整数である。)
【請求項4】
式(3)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、R,nは、式(1)と同じであり、aは、同一でも異なってもよく、0〜6の整数である。)
【請求項5】
式(4)で表わされる芳香環系重合体。

(式中、R,nは、式(1)と同じであり、aは、同一でも異なってもよく、0〜6の整数であり、bは、同一でも異なってもよく、0〜5の整数である。)
【請求項6】
双極子モーメントが1デバイ以下、及び/又は、密度が1.20g/cm以下である請求の範囲第2項〜第5項のいずれかに記載の芳香環系重合体。
【請求項7】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる低誘電材料。
【請求項8】
請求の範囲第7項記載の低誘電材料からなる半導体用層間絶縁膜材料。
【請求項9】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる耐熱材料。
【請求項10】
ガラス転移温度が250℃以上で、溶融温度又は熱分解開始温度のいずれか低い温度が300℃以上である請求の範囲第9項記載の耐熱材料。
【請求項11】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる高強度材料。
【請求項12】
ハードネスが0.3GPa以上、及び/又はモジュラスが3GPa以上である請求の範囲第11項記載の高強度材料。
【請求項13】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の芳香環系重合体からなる薄膜。
【請求項14】
請求の範囲第13項に記載の薄膜を含む半導体装置。
【請求項15】
請求の範囲第13項に記載の薄膜を含む画像表示装置。
【請求項16】
請求の範囲第13項に記載の薄膜を含む電子回路装置。
【請求項17】
請求の範囲第13項に記載の薄膜からなる表面保護膜。
【請求項18】
請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の芳香環系重合体を有機溶媒に溶解させた塗料。

【国際公開番号】WO2004/083278
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513576(P2005−513576)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009723
【国際出願日】平成15年7月31日(2003.7.31)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】