説明

苗移植機

【課題】
走行車体が左右方向に傾斜すると、苗植装置が圃場面に対して略左右水平姿勢となるようにローリング駆動させ、苗の植付姿勢を安定させる苗移植機を提供する。
【解決手段】
圃場を走行する走行車体2の後部に苗を積載する苗載せ台4と、苗載せ台4の下部に苗載せ台4から苗を取って圃場に植える植付装置5からなる苗植装置6を設け、苗植装置6の傾斜量を検出する傾斜検知部材53を設け、傾斜検知部材53の検知に合わせて苗植装置6を左右方向に回動させるローリング機構Rを設けた苗移植機において、走行車体2に圃場の凹凸に対応して上下回動するローリング機構R2を設け、走行ローリング機構R2に所定量以上の回動を検知する走行ローリング検知部材49L,49Rを設け、走行ローリング検知部材49L,49Rが所定量以上の回動を検知したとき、ローリング機構Rの作動速度を減速させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
走行車体が左右方向に傾斜したときに、苗植装置が圃場面に対して略左右水平姿勢となるようにローリング駆動させ、苗の植付姿勢を一定に維持させる苗移植機。
【背景技術】
【0002】
苗植装置が左右方向に大きく傾斜したことを水平センサで検出した際に、苗植装置をローリング駆動させて左右水平姿勢にする技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−142296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圃場の凹凸等により機体が左右方向に傾斜した際に、苗植装置の植付姿勢を一定に維持するためのローリング機構は、圃場面に凹凸が多い場所においては、走行車体が左右傾斜する度にローリング機構が作動してしまうことがあり、凹凸が比較的大きな場所では移動量の多いローリングを頻繁に行なってしまう。
【0005】
このため、植付爪が圃場面に接近し過ぎて土中に入り込み、苗を深く植え付けてしまい、日照不足や水分過多による生育不良を起こしてしまう問題がある。
そして、植付深さが深すぎると、植付爪が土中に位置する時間が長くなるため、植付爪に泥土が付着して苗を掻き取れなくなってしまい、苗を植え付け損なった場所に作業者が手作業で苗を移植しなければならず、作業者に余分な労力がかかってしまう問題がある。
【0006】
また、植付爪が苗を植え付ける瞬間にローリングが行なわれると、植付爪が圃場面から大きく離間してしまい、掻き取った苗を空中で解放してしまい、風や水流で苗が流されて、苗が無駄になってしまう問題がある。
【0007】
さらに、土中に苗が植えられた場合でも、植付深さが浅くなり、強風や強い水流がかかると流されてしまい、苗が無駄になってしまう問題があると共に、養分を十分得られないことや、根元が安定しないことにより生育不良を起こしてしまう問題がある。
【0008】
本件発明は、上記の問題点の解決を図るためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、圃場を走行する走行車体(2)の後部に苗を積載する苗載せ台(4)と、該苗載せ台(4)の下部に苗載せ台(4)から苗を取って圃場に植え付ける植付装置(5)からなる苗植装置(6)を設け、該苗植装置(6)の傾斜量を検出する傾斜検知部材(53)を設け、該傾斜検知部材(53)の検知に合わせて苗植装置(6)を左右方向に回動させるローリング機構(R)を設けた苗移植機において、前記走行車体(2)に圃場の凹凸に対応して上下回動する走行ローリング機構(R2)を設け、該走行ローリング機構(R2)に所定量以上の回動を検知する走行ローリング検知部材(49L,49R)を設け、該走行ローリング検知部材(49L,49R)が所定量以上の回動を検知したとき、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする苗移植機とした。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記走行ローリング検知部材(49L,49R)が、走行ローリング機構(R2)の所定量以上の回動を所定時間以上連続して検出したとき、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機とした。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記走行ローリング検知部材(49L,49R)が、走行ローリング機構(R2)の所定量以上の回動を所定時間内に所定回数以上検出したとき、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機とした。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記苗植装置(6)が所定位置以上に上昇したことを検知する上昇検知部材(52)を設け、該上昇検知部材(52)が苗植装置(6)の上昇を検知した状態で傾斜検知部材(53)が検知状態となると、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の苗移植機とした。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、走行車体(2)の走行ローリング機構(R2)が走行ローリング検知部材(49L,49R)に接触し、走行車体(2)が左右方向へ大きく傾斜したことを検知した状態で、傾斜検知部材(53)が苗植装置(6)の傾斜を検知すると、苗植装置(6)のローリング機構(R)のローリング作動速度を通常のローリング作動速度よりも低速に減速する制御を行なうことにより、苗植装置(6)が急激に左右どちらか一方へ偏った傾斜姿勢となることを防止できるので、植付装置(5)が土中に入り込んで苗が深く植え付けられることにより、苗が生育不良を起こすことが防止される。
【0014】
そして、土中に植付装置(5)が長時間入り込むことにより、植付装置(5)に泥土が付着して苗を取ることが出来なくなり、苗を植え損なうことを防止できるので、苗の植付作業能率が向上するとともに、作業者が手作業で苗を植える作業が省略され、作業者の労力が軽減される。
【0015】
また、植付装置(5)が圃場面の上方に大きく離間し、植付装置(5)が苗を植え付けられないことや、苗の植付深さが浅くなってしまうことを防止できるので、苗が風や水流によって流されてしまうことが防止され、無駄な苗の使用を抑えられると共に、養分を十分に摂れず生育不良を起こしにくくなるため、苗の生育が安定する。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行ローリング検知部材(49L,49R)が走行ローリング機構(R2)の回動を所定時間以上連続で検知すると、ローリング機構(R)の作動速度を減速させることにより、比較的大きな凹凸がある度にローリング機構(R)が作動し、植付装置(5)が圃場に必要以上に接近することや、必要以上に離間することを防止できるので、苗の植付深さが深くなりすぎることや浅くなりすぎる、あるいは植え付けられなくなることを防止でき、植付精度が向上する。
【0017】
そして、頻繁にローリング機構(R)が作動しないことにより、苗植装置(6)の左右傾斜による機体バランスの偏りが発生しにくくなるので、走行姿勢が安定し、苗の植付が直線状に行なわれ、植付精度が向上する。
【0018】
また、ローリング機構(R)に回動時の負荷が頻繁にかからないため、ローリング機構(R)及び苗植装置(6)の耐久性が向上する。
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行ローリング検知部材(49L,49R)が走行ローリング機構(R2)の回動を所定時間内に所定回数連続で検知すると、ローリング機構(R)の作動速度を減速させることにより、比較的大きな凹凸が連続したときのみローリング機構(R)を作動させ、植付装置(5)と圃場の間隔が広がったり狭まったりすることを防止できるので、苗の植付深さが深くなりすぎることや浅くなりすぎる、あるいは植え付けられなくなることを防止でき、植付精度が向上する。
【0019】
そして、頻繁にローリング機構(R)が作動しないことにより、苗植装置(6)の左右傾斜による機体バランスの偏りが発生しにくくなるので、走行姿勢が安定し、苗の植付が直線状に行なわれ、植付精度が向上する。
【0020】
また、ローリング機構(R)に回動時の負荷が頻繁にかからないため、ローリング機構(R)及び苗植装置(6)の耐久性が向上する。
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、苗植装置(6)を所定高さ以上上昇させて上昇検知部材(52)が検知状態であるときに、苗植装置(6)が左右方向に傾斜して傾斜検知部材(53)が検知状態になると、ローリング機構(R)の作動速度を減速させる制御を行なうことにより、急激な苗植装置(6)の左右傾斜により旋回動作時に機体の左右どちらか一方にバランスが偏ることを防止できるので、旋回動作が円滑に行われ、次の植付条に正確に移動することができる。
【0021】
また、旋回時に左右のバランスが乱れて機体が傾くことがないため、作業の安全性が向上すると共に、作業者が不安を感じることがなく、作業能率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】苗移植機の側面図
【図2】苗移植機の平面図
【図3】苗移植機の苗植装置部の正面図
【図4】苗移植機の車体後輪部の正面図
【図5】苗移植機の苗植ローリング装置部の背面図
【図6】苗移植機の苗植ローリング制御部のブロック図
【図7】苗移植機の苗植ローリング制御部のフローチャート
【図8】苗移植機の苗植ローリング制御部のフローチャート
【図9】代掻ロータを有する苗植装置部の側面図
【図10】代掻ロータ部の平面図
【図11】代掻ロータによる水の流れを示す平面図
【図12】(a)別実施例の代掻ロータを示す側面図、(b)別実施例の代掻ロータの分解正面図、(c)別実施例の代掻ロータの分解平面図
【図13】(a)別実施例の代掻ロータを示す側面図、(b)別実施例の代掻ロータの配置平面図
【図14】(a)別実施例の代掻ロータを示す側面図、(b)別実施例の代掻ロータの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜図3に示すように、苗植機は、左右一対の前輪19,19と後輪1,1とを備えた走行車体2の後部に、平行リンク形態のリフトリンク7を介して、多条(本件実施例では六条)植形態の苗植装置6を連結装着したものである。
【0024】
該苗植装置6は、苗を積載する苗載せ部4を左右方向に複数、本実施例では六つ設け、該苗載せ部4から苗を掻き取り圃場に移植する植付装置5を苗載せ部4と同数、本実施例では六つ設けて構成する。
【0025】
前記走行車体2上には、エンジン8、及びこの上側の運転席9を搭載し、この前側のステアリングポスト10上にはハンドル11や、変速レバー12、苗植操作レバー(フィンガーレバー)13等を設け、サイドフロア14の外側には補給用のマット苗を支持する予備苗枠15を設ける。
【0026】
また、前記車体2の前部には、エンジン8からベルト伝動される油圧無段変速装置16及びミッションケース17を配置し、該ミッションケース17の左右両側部に張り出す前輪伝動ケース18の両端部に前記ハンドル11によって操向される前記前輪19,19を軸装する。さらに、該ミッションケース17から後方の後輪伝動ケース20に亘って左右のドライブシャフト21,21がそれぞれ設けられると共に、PTO軸22が設けられている。
【0027】
前記走行車体2の後端部には、センタピボット23周りに回動して前記後輪1,1を圃場の凹凸に合わせて上下動させる後輪ローリングフレーム23aを設け、そして、該後輪ローリングフレーム23aの上部にリアフレーム24を設けて走行ローリング機構R2を構成する。さらに、該リアフレーム24にリフトリンク7の基部側を連結し、該リアフレーム24の上部には施肥装置25を設ける。
【0028】
また、前記走行車体2とリフトリンク7の間には、油圧回路によって伸縮されるリフトシリンダ26を設け、該リフトシリンダ26の油圧回路における昇降切替弁の切替制御に合わせてリフトシリンダ26が伸縮されることにより、苗植装置6を昇降することができる。
【0029】
前記リフトリンク7の後端部をヒッチリンク27に設け、該ヒッチリンク27から機体後方に向けて設けたローリング軸28周りにローリング回動自在に苗植装置6を装着する。そして、前記PTO軸22から連動される伝動機構を内装した苗植伝動ケース29を設け、該苗植伝動ケース29の後部で且つ左右両側には、不等速回転して上下方向に長い楕円軌道を描いて苗を掻き取る前記植付装置5を設ける。また、該苗植伝動ケース29の下方には、中央部とこの左右両側部とのセンタフロート3C、サイドフロート3L,3Rを配置して、各フロート3C,3L,3Rを圃場面に接触させて、苗植装置6を圃場の凹凸に合わせて上下動させる。
【0030】
また、前記苗植伝動ケース29の上側には、後端下りに傾斜の多条植形態の苗載せ部4を配置し、該苗載せ部4の前側に配置するリードカム軸30の回転により1枚苗マット幅に相当する間隔に亘って左右方向へ往復移動する構成とする。そして、該苗載せ部4の後下端部に、前記植付装置5を構成する苗植付爪33が通過して苗を掻き取る苗取口31を形成した苗取口枠32を設けることにより、該苗取口枠32に苗マットの端部を接触させて受けながら、植付装置5の苗植付爪33が1株分ずつ苗を掻き取る構成としている。
【0031】
前記植付装置5は、苗植伝動ケース29に内装する複数の伝動ギア(図示せず)の連動構成により、苗植付爪33が上下方向に長い略楕円形状の植付軌跡線Dを描く構成とし、上死点位置d1から下降する際に前記苗取口枠32の苗取口31を通過して苗載せ台4の下端部まで移動した苗マットから1株分の苗を掻き取り、下死点位置d2まで下降して保持している苗を土壌面に一定深さに植え付ける。
【0032】
苗植付爪33の移動軌跡が上下方向に長い略楕円軌道であることにより、苗取口枠32と植付装置5との前後距離を短くすることができるので、機体の前後幅が短くなり、コンパクトな構成とすることができる。
【0033】
また、苗植付爪33は苗を圃場に植え付けるときだけ土中に入り込むため苗植付爪33に泥土が付着しにくく、苗植付爪33に泥土が詰まって苗取口31から苗を掻き取れなくなることが防止されるので、植付精度が向上する。
【0034】
前記苗植付爪33は、各フロート3C,3L,3Rの接触により均された圃場面に苗を植え付ける、多条植形態に構成される。
図1〜図5、並びに図6〜図8で示すように、前記苗植装置6の昇降制御は、前記リフトシリンダ26を作動させる油圧回路の昇降制御弁34を制御装置35から出力することによって行う。前記苗植装置6の中央部に配置するセンタフロート3Cの上下揺動によって、車体2の走行する土壌耕耘盤が深いときは、リフトシリンダ26を伸長させて、苗植装置6を上昇し、耕盤が浅いときは逆に下降させて、苗植付装置5による苗植付深さが略一定になるように昇降制御を行う形態としている。
【0035】
また、前記苗植装置6は、苗植伝動ケース29の中央部に左右方向の傾斜、水平状態を検出する水平センサ53を有し、この水平センサ53が苗植装置6の左右方向への傾斜を検出することによって、苗植装置6の左側、または右側への傾斜角度が許容値以上になると、前記制御装置35を介してローリングモータ36を正転または逆転駆動させ、該苗植装置6が圃場面と略左右方向水平姿勢となるようにローリング制御する構成としている。
【0036】
前記ローリングモータ36は、ヒッチリンク27上に設けたブラケットアーム37に取り付け、該ブラケットアーム37に配置のピニオン38とホイルギヤ39を噛合させて、該ホイルギヤ39を所定の角度回動する構成とする。そして、該ホイルギヤ39にピン40を設け、該ピン40をローリングアーム42に形成した長孔41に嵌合させ、該ローリングアーム42の下端部をヒッチリンク27側に設けるアーム軸43に左右方向に回動自在に軸着する。そして、前記ホイルギア39を左(イ)または右(ロ)方向へ回動させると、ローリングアーム42が連動して左右方向に回動する構成とする。
【0037】
前記ローリングアーム42と左右の苗植フレーム44,44を第1引張スプリング45で連結し、該第1引張スプリング45の張圧力をローリングモータ36の回転駆動によって変更することにより、苗植装置6を左右水平姿勢となる中立位置へ復帰するようにローリング制御する形態である。
【0038】
また、前記ブラケットアーム37の上端部と苗載せ台4の左右両側部の間に第2引張スプリング46を設けて、該苗載せ台4の左右往復移動による苗植装置6の左右傾斜を補正して左右水平姿勢となる中立位置へ復帰するように構成している。さらに、前記ブラケットアーム37には前記ホイルギヤ39の回動によってON、OFFするリミットスイッチからなる中立位置センサ47と、ローリングアーム42が左右両側端部に回動すると接触する左右端位置センサ48を設けることにより、ローリング機構Rが構成される。
【0039】
前記後輪ローリングフレーム23aには、後輪ローリングフレーム23aがセンタピボット23周りに一定角度以上回動すると接触する左右の車体傾斜センサ49L,49Rを設け、前記走行車体2が左側へ一定角度以上傾斜回動(ホ)すると左側の車体傾斜センサ49Lが後輪ローリングフレーム23aに押されてONとなり、走行車体2が右側へ一定角度以上傾斜回動(へ)すると、右側の車体傾斜センサ49RがONとなる。該左右の車体傾斜センサ49L,49Rの左右どちらか一方がONになると、制御装置35に信号が伝達され、ローリングモータ36の駆動力を低下させる、あるいは駆動速度を減速させて、苗植装置6の左右方向へのローリング移動速度が低速となる制御を行なう。
【0040】
なお、走行車体2には、機体の左右方向への傾斜状態を検出する車体水平センサ50を設けている。
前記苗植装置6の昇降やローリングを制御する制御装置35は、入力側に設けられたリフトレバー54の操作角をポテンショメータ72で検出することにより、昇降制御弁34を電磁作動させる。該リフトレバー54を固定位置に操作したときは、苗植装置6は昇降しないでその位置に固定されるが、上昇位置、又は下降位置へ操作したことをポテンショメータ72が検出すると、該検出結果に合わせて苗植装置6が昇降され、非作業位置に上昇する、または作業位置まで下降する。
【0041】
さらに、該リフトレバー54を下降位置から自動位置に操作すると、苗植装置6はセンタフロート3の上下動による昇降制御が行われる。
また、前記制御装置35の入力側には苗植操作レバー(フィンガーレバー)13の操作位置を検出するスイッチ56を設け、該苗植操作レバー13を上側へ操作すると、PTOクラッチを切りにして前記PTO軸22で伝動される施肥装置25や、苗植装置6の伝動を停止すると共に、昇降制御弁34を上げ位置へ切替えてこの苗植装置6を上昇する。この苗植操作レバー13を下げ位置へ一回操作すると、前記自動位置になって、センタフロート3の上下動によって昇降制御弁34が切替えられて、苗植装置6が苗植姿勢へ昇降制御される。
【0042】
さらに、もう一回下側へ操作すると、この自動位置の状態でPTOクラッチが入り位置に切替えられて、施肥装置25や苗植装置6が伝動される。以後、この苗植操作レバー13を一回下動操作する毎に、自動位置の状態でこのPTOクラッチを入り、切り位置に切替える。
【0043】
また、前記コントローラ35の入力側には、前記苗植装置6のローリング制御を行わせるための水平センサ53や、走行車体2の左右方向の大きい傾斜角を検出する車体水平センサ50、及び苗植装置6が所定以上に上昇したことを検出する苗植上昇スイッチ52等を設ける。
【0044】
前記車体水平センサ50は、車体2の左傾斜または右傾斜の状態が一定の設定時間にわたって連続して検出されるか、あるいはこの傾斜状態の間欠的検出回数が設定回数以上検出されることによって、ローリング作動変速手段51を介して、苗植ローリング制御の作動速度を通常の制御作動速度よりも低速作動速度へ切替えるものである。
【0045】
そして、前記苗植装置6上昇位置を検出する上昇スイッチ52は、リフトシリンダ26またはリアフレーム24とリフトリンク7の間(リンクスイッチとして)等に設けて、苗植装置6が所定位置以上に上昇するとONとなり、苗植ローリング制御の作動速度を低速域へ切替えるものである。
【0046】
上記構成により、圃場面の凹凸等に合わせて後輪ローリングフレーム23aが左右方向に回動して左右の後輪1,1を上下動させ、走行車体2の走行姿勢を左右水平姿勢となるようにローリングする走行車体2の後部に、圃場面に接触して滑走するフロート3と、収容したマット苗を苗植付部側へ繰出す苗載せ台4と、該苗載せ台4から繰出される苗を分離して前記フロート3による均平跡に植え付ける植付装置5とからなる苗植装置6を装着し、該苗植装置6の左右傾斜の検出に基づいてローリング機構Rを作動させ、苗植装置6を左右方向水平姿勢に制御する苗植ローリング制御の作動速度を、前記走行車体2の所定以上の左右方向の傾斜に基づいて減速する苗植ローリング装置の構成とする。
【0047】
走行車体2が前進すると、苗植装置6のフロート3が圃場面に接触して、植付装置5によって苗載せ部4から分離保持した苗を、前記フロート3が圃場面との接触により均した圃場面に一定深さで植え付ける。そして、圃場の凹凸等により機体が左右傾斜し、該苗植装置6が左右方向に傾斜したことを水平センサと、苗植ローリング制御が行われて、この苗植装置6を左右水平状の姿勢に維持制御しながら、全植条幅にわたって正確な苗植付姿勢を維持して植付ける。
【0048】
また、走行車体2が圃場面の凹凸等によって所定角度以上に左右方向へ傾斜したとき、具体的には後輪ローリングフレーム23aが左右の車体傾斜センサ49L,49Rに接触してONになったときには(ステップS1)、前記苗植ローリング制御の作動速度が通常のローリング制御の作動速度よりも低い速度に自動的に減速される(S3)。
【0049】
これにより、苗植装置6のローリング動作による左右方向への回動移動が低速で行われるため、圃場に比較的大きな凹凸が多く、機体が頻繁に左右方向に傾斜することがあっても、機体が傾く度に苗植装置6が急激に傾斜することを防止できるので、下方に傾斜した側の植付装置5が土中に入り込み植付深さが深くなり過ぎることがなく、苗の生育が安定すると共に、苗植付爪33に泥土が入り込み、苗を掻き取れなくなることが防止され、苗の植付精度が向上する。
【0050】
また、苗植付爪33が圃場に苗を植え付ける瞬間に植付装置5が圃場面から離間し、苗植付爪33が圃場面から上方に離間することを防止できるので、苗が圃場面に植えられずに流されてしまうことが防止され、無駄な苗が発生することが防止される。
【0051】
さらに、苗の植付深さが浅くなり、植え付けられたにもかかわらず水流や風で流されてしまうことを防止できるので、無駄な苗の発生や生育不良が防止される。
これに加えて、圃場に比較的大きな凹凸がある度に苗植装置6がローリングしていると、機体の左右バランスが安定せず、作業者は大きな振動を受けながら作業をしなければならず、作業能率が低下する。さらに、ローリング作動の度にローリング機構Rの構成部材に負荷がかかるため、耐久性が低下してしまう。
【0052】
しかしながら、上記制御構成により、所定角度以上に苗植装置6が傾斜したときにはローリングモータ36の出力低下、または駆動速度の減速によってローリング駆動を低速で行なうことにより、機体のバランスをある程度確保できるので、作業者が不快感を覚えることがなく作業能率が向上すると共に、ローリング機構Rの構成部材にかかる負荷が軽減されるので、耐久性が向上する。
【0053】
あるいは、走行車体2の左右傾斜状態が一定時間以上に亘って連続して検出されるか、または一定回数以上連続して検出されたときに、苗植ローリング制御の作動速度を減速する構成としてもよい。
【0054】
上記の苗植ローリング制御では、車体2の左右方向の傾斜角度が小さいときや、傾斜角度が大きくても検出時間が短かいとき、あるいは傾斜角度の検出頻度が僅かなとき(S2)等には通常の作動速度でローリング制御を行うことができるので、苗植装置6の姿勢が圃場面に対して略水平状態に保たれるため、植付精度が向上する。
【0055】
一方、走行車体2の左右傾斜状態の検出が一定時間以上(一例として、3秒以上)に亘って連続したり(S4)、または一定の受付時間内に設定回数以上に連続して検出(一例として、3秒間に5回以上等)されたときは(S5)、自動的に苗植装置6のローリング機構Rの作動速度を低速に制御することにより、比較的大きな凹凸の多い圃場で植付作業をする際に、大きな凹凸がある度に苗植装置6が左右方向にローリングすることを防止できるので、植付装置(5)と圃場面の距離が大幅に変化することがなく、苗の植付深さが安定して苗の生育が安定すると共に、苗が風や水流に流されたり、生育不良を起こして無駄になることが減少する。
【0056】
大きな凹凸のある度に苗植装置6が左右方向にローリング作動し、植付装置5が圃場面に入り込んだり、苗植付爪33が苗を植え付ける直前に圃場面から離間してしまうよりは、大きな凹凸を一度検知すると低速で苗植装置6をローリング作動させて、苗植付爪33を圃場面に必要以上に近接させないと共に、必要以上に上方に離間させない方が、苗の植付は確実に行なわれる。
【0057】
そして、頻繁に苗植装置6が左右方向にローリング駆動しないため、機体の左右バランスが確保されて作業能率が向上すると共に、ローリング機構Rの構成部材にかかる負荷が軽減され、耐久性が向上する。
【0058】
さらに、走行車体2を基準として、苗植装置6が所定高さ以上に上昇して、リフトシリンダ26またはリアフレーム24とリフトリンク7の間に設けた上昇スイッチ52がONとなると、制御装置35を介して苗植ローリング制御の作動速度を減速する構成としてもよい。
【0059】
苗移植機が畦際で旋回するときには、苗植装置6を非作業位置まで上昇させるため、リフトシリンダ26またはリアフレーム24とリフトリンク7の間に設けた上昇スイッチ52がONとなり(S6)、この状態で水平センサ53が苗植装置6の傾斜を検出して苗植ローリング制御が行われると(S7)、苗植ローリング制御の作動速度が減速されることにより(S8)、苗植装置6は低速で水平姿勢に移動させられる。
【0060】
これにより、旋回動作中の苗移植機が、急激な苗植装置6の左右傾斜によって左右の重量バランスを乱すことが防止されるので、旋回動作が円滑に行われ、次の植付条に正確に移動することができる。
【0061】
また、旋回時に左右のバランスが乱れて機体が傾くことがないため、作業の安全性が向上すると共に、作業者が不安を感じることがなく、作業能率が向上する。
次に、主として図9〜図11に基づいて、前記苗植装置6の各フロート3の前側に代掻ロータ60を装着して、フロート3によって滑走均平する土壌面を予め掻き均して、均平面に滑走し易くするものである。この代掻ロータ60は、センタフロートとサイドフロートの各フロート3の前方位置に対向するようにセンタロータ60を前部に位置させ、サイドロータ60を後部に位させて、ロータフレーム61の前後に軸装したもので、各代掻ロータ60共に、ロータボス63の回転外周面に代掻板62を有した単位幅の単位ロータ64を、ロータ軸65の長さ方向に多数配置して取付け一体的回転するように構成したものである。前記ロータボス63のロータ軸65に対する嵌合軸装部は六角穴嵌合のように角穴嵌合形態として、各ロータボス63共にロータ軸65の長さ方向に沿って移動自在に設定している。これら各単位ロータ64の横幅方向には移動自在の間隔部Aを形成することができ、この中央部の間隔部Aにスプリング66を介装して、単位ロータ64を左右両側部へ常時張圧させている。これによって代掻時に挾雑物を巻込んでも、単位ロータ64を横側へ移動させて取除き易くするものである。
【0062】
次に、主として図12(a)〜(c)に基づいて、前記代掻ロータ60を代掻板62により角筒状の形態に構成し、この内部に板状の整地羽根67aを構成し、これら代掻ロータ60と板状の整地羽根67aをロータ軸65と一体的に回転して、圃場の水を後側へ掻出しながら土壌面を代掻きするものである。代掻ロータ60の外周部に間隔部Bを形成して配置する代掻板62は、ロータ軸65の長さ方向に沿って長い幅に形成されて、この両側部にリム板68を有して、この代掻ロータ60のリム板68を割形として、前記整地羽根を支持させたロータ軸65周りに挾み合わせるようにして組み付ける。翼軸67は中央部にボス69を有して、ロータ軸65に嵌合させて、一体回転する形態である。
【0063】
次に、主として図13(a)〜(c)に基づいて、前記代掻ロータ60の内部に設ける螺旋状の送面を形成した整地羽根67bを、この螺旋状の整地羽根67bの回転によって泥土や水を代掻ロータ軸65の長さ方向へ向けて流動案内することができる。そして、前記サイドロータ3としてセンタロータ3の左右外側部に配置の代掻ロータ3は、駆動回転によって案内される泥水を内側中央部のセンタフロート3側寄りに向けて流動案内するように、整地羽根67の螺曲面を左右対称に形成する。
【0064】
次に、主として図14(a)(b)に基づいて、複数の整地羽根70…を放射方向へ向けて湾曲させて構成し、この外周端に各代掻板62の内側面を固着する。この円弧状に形態される複数の整地羽根70…によって泥水を後方へ掻き流しながら代掻することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 後輪
2 車体
4 苗載せ台
5 植付装置
6 苗植装置
36 ローリングモータ
49L 車体傾斜センサ(走行ローリング検知センサ)
49R 車体傾斜センサ(走行ローリング検知センサ)
52 上昇スイッチ(上昇検知部材)
53 水平センサ(水平検知部材)
R ローリング機構
R2 走行ローリング機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行する走行車体(2)の後部に苗を積載する苗載せ台(4)と、該苗載せ台(4)の下部に苗載せ台(4)から苗を取って圃場に植え付ける植付装置(5)からなる苗植装置(6)を設け、該苗植装置(6)の傾斜量を検出する傾斜検知部材(53)を設け、該傾斜検知部材(53)の検知に合わせて苗植装置(6)を左右方向に回動させるローリング機構(R)を設けた苗移植機において、
前記走行車体(2)に圃場の凹凸に対応して上下回動する走行ローリング機構(R2)を設け、該走行ローリング機構(R2)に所定量以上の回動を検知する走行ローリング検知部材(49L,49R)を設け、該走行ローリング検知部材(49L,49R)が所定量以上の回動を検知したとき、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記走行ローリング検知部材(49L,49R)が、走行ローリング機構(R2)の所定量以上の回動を所定時間以上連続して検出したとき、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記走行ローリング検知部材(49L,49R)が、走行ローリング機構(R2)の所定量以上の回動を所定時間内に所定回数以上検出したとき、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項4】
前記苗植装置(6)が所定位置以上に上昇したことを検知する上昇検知部材(52)を設け、該上昇検知部材(52)が苗植装置(6)の上昇を検知した状態で傾斜検知部材(53)が検知状態となると、前記ローリング機構(R)の作動速度を減速させる構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−19745(P2012−19745A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160809(P2010−160809)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】