説明

荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法及び荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法

【目的】 高精度なビーム強度分布を取得すると共に、高精度なビーム分解能を取得することを目的とする。
【構成】 本発明は、Si基板20上に形成されたドットマーク10を用いて、ドットマーク10幅寸法より小さいビームサイズの電子ビーム200を走査してドットマーク10の手前からドットマーク10上へと移動するように照射する照射工程(S102)と、電子ビーム200の照射によりドットマーク10から反射した反射電子12を計測する計測工程(S104)と、計測工程の結果に基づいて、電子ビーム200のビーム強度分布を演算するビーム強度分布演算工程(S106)と、を備えたことを特徴とする。本発明によれば、高精度なビーム強度分布とビーム分解能を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法及び荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法に係り、例えば、電子ビームを可変成形させながら試料に照射して描画する描画装置に用いる電子ビームのビーム強度分布とビーム分解能の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図11は、従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線描画装置(EB(Electron beam)描画装置)における第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式という。
【0004】
ここで、試料340に照射される電子線330のビーム強度分布の測定は、一般的には以下のように行われる。すなわち、電子線330を走査して、ナイフエッジをスキャンする。そして、その信号をナイフエッジの後方に位置するファラデーカップ等で受けて測定する。(例えば、特許文献1参照)。また、試料340に照射される電子線330のビーム強度分布は、電子線330を走査して、電子線330のビームサイズに比べ十分小さなドットパターンに電子線330を照射する。そして、ドットパターンからの反射電子を計測することで測定する手法がある(例えば、特許文献2参照)。そして、これらによって得られた電子線330のビーム強度分布から電子線330のビーム分解能を得ることができる。そして、かかるビーム分解能は、定義次第であるが、最大ビーム強度の10%となる位置から90%となる位置までの幅(長さ)、或いは、最大ビーム強度の20%となる位置から80%となる位置までの幅(長さ)等で定義される。また、強度分布誤差関数で近似し、そのパラメータをもって、分解能と定義することもできる。
【特許文献1】特開2004−71990号公報
【特許文献2】特開平4−242919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した電子線330のビームサイズに比べ十分小さなドットパターンに電子線330を照射してビーム強度分布を取得する手法では、ドットパターンのサイズが電子線330のビームサイズに比べ十分小さいため、精度の高いビームプロファイルの検出が可能となる。
しかしながら、近年のLSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきているため、それにあわせてビームの分解能も小さくなってきている。このため、ビームの分解能に比べ十分小さいドットパターンの製作は困難になっている。また、たとえ、製作できたとしても、十分な信号(コントラスト)が得られない。その結果、ビームサイズに比べ小さなドットパターンでありながらビームプロファイル上の所定の測定点を検出するほどにはドットパターンが十分小さくないため、ビームプロファイル上の測定点以外も含む広い範囲でビームがドットパターンに当たってしまうことになる。そのため、測定点以外も含む広い範囲の反射電子が飛び出す結果となり、ビームプロファイルが所謂だれてしまい、高精度なビーム強度分布を取得することができないといった問題があった。その結果、高精度なビーム分解能を取得することもできないといった問題があった。
【0006】
他方、ナイフエッジをスキャンさせてビーム強度分布を取得する手法では、ナイフエッジ部品を機械加工により製作するため、エッジ部分の直線性の精度を高くすることが困難である。その結果、精度の高いビームプロファイルの検出ができず、高精度なビーム強度分布を取得することができないといった問題があった。さらには、ビーム強度を高精度に測定するには、成形されたビームのエッジとナイフエッジ部品のエッジとの平行度を十分高くする必要があるが、ナイフエッジ部品を高精度に設置することは難しい。その結果、高精度なビーム分解能を取得することもできないといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる問題点を克服し、高精度なビーム強度分布を取得すると共に、高精度なビーム分解能を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法は、
試料上に形成された幅寸法が0.4μm以下のドットパターンを用いて、ドットパターン幅寸法より小さいビームサイズの荷電粒子ビームを走査してドットパターンの手前からドットパターン上へと移動するように照射する照射工程と、
荷電粒子ビームの照射によりドットパターンから反射した反射電子を計測する計測工程と、
計測工程の結果に基づいて、荷電粒子ビームのビーム強度分布を演算するビーム強度分布演算工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
ドットパターンは、半導体製造プロセスにより作製することができる。その結果、機械加工されるナイフエッジ部品に比べて高精度なエッジの直線性を得ることができる。また、ビームサイズを小さくすることによって、ビームとドットパターンエッジの平行度のずれの影響を小さくできる。また、ドットパターンはプロセスにより製作するので、大量に安価に製作できる。これは、コンタミネーションにより、エッジ精度が劣化しても、おなじチップ上に配置した別のドットマークを使用すれば、また、もとの精度が得られるという利点もある。
【0010】
また、本発明の一態様の荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法は、
試料上に形成された幅寸法が0.4μm以下のドットパターンを用いて、ドットパターン幅寸法より小さいビームサイズの荷電粒子ビームを走査してドットパターンの手前からドットパターン上へと移動するように照射する照射工程と、
荷電粒子ビームの照射によりドットパターンから反射した反射電子を計測する計測工程と、
計測工程の結果に基づいて、荷電粒子ビームのビーム強度分布を演算するビーム強度分布演算工程と、
荷電粒子ビームのビーム強度分布から所定の式に基づいてビーム分解能を演算するビーム分解能演算工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
上述した荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法によって、得られた荷電粒子ビームのビーム強度分布から後述する所定の式に基づいてビーム分解能を演算によって求めることができる。
【0012】
或いは、本発明の他の態様の荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法は、
試料上に形成された幅寸法が0.4μm以下のドットパターンを用いて、ドットパターン幅寸法より小さいビームサイズの荷電粒子ビームを走査してドットパターンの手前からドットパターン上へと移動するように照射する照射工程と、
荷電粒子ビームの照射によりドットパターンから反射した反射電子を計測する計測工程と、
計測工程の結果に基づいて、荷電粒子ビームのビーム強度分布を演算するビーム強度分布演算工程と、
荷電粒子ビームのビーム強度分布からビーム分解能を測定するビーム分解能測定工程と、
を備える構成にしても好適である。
【0013】
すなわち、上述した荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法によって、得られた荷電粒子ビームのビーム強度分布から演算によってビーム分解能を求める代わりに、ビーム強度分布から測定しても好適である。
【0014】
また、本発明における照射工程において、荷電粒子ビームのビームサイズをビーム強度分布における最大ビーム強度の50%の位置を結ぶ長さとし、ビーム分解能をビーム強度分布における最大ビーム強度の10%の位置と90%の位置とを結ぶ長さとする場合、荷電粒子ビームのビームサイズは、ドットパターンの幅寸法からビーム分解能の2.2倍を引いた値より小さい値となる荷電粒子ビームを照射することを特徴とする。
【0015】
荷電粒子ビームのビームサイズをドットパターンの幅寸法からビーム分解能の2.2倍を引いた値より小さい値とすることで、ビーム強度がほぼゼロになる範囲を1つのビームとした場合に、1つのビームがドットパターン内に納まるようにすることができる。
【0016】
さらに、本発明における照射工程において、荷電粒子ビームのビームサイズをビーム強度分布における最大ビーム強度の50%の位置を結ぶ長さとし、ビーム分解能を前記ビーム強度分布における最大ビーム強度の10%の位置と90%の位置とを結ぶ長さとする場合、荷電粒子ビームのビームサイズがビーム分解能の2.6倍以上となるように荷電粒子ビームを照射することを特徴とする。
【0017】
ビームサイズをビーム分解能の2.6倍以上とすることで、ビームプロファイル上にビーム強度が100%となる位置を有する荷電粒子ビームにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、機械加工されるナイフエッジ部品に比べて高精度なエッジの直線性を得ることができるので、ナイフエッジをスキャンさせてビーム強度分布を取得する手法に比べ、高精度なビーム強度分布を得ることができる。さらに、ビームサイズを小さくすることにより、ビームとドットパターンエッジとの並行度のずれの影響を小さくできる。その結果、高精度なビーム分解能を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における電子ビームのビーム分解能測定方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図1において、電子ビームのビーム強度分布測定方法は、照射工程(S102)、反射電子計測工程(S104)、ビーム強度分布演算工程(S106)という一連の工程を実施する。そして、電子ビームのビーム分解能測定方法は、ビーム強度分布測定方法の各工程に加えて、ビーム分解能演算工程(S108)という一連の工程を実施する。
【0020】
図2は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図2において、描画装置100は、描画部150を構成する電子鏡筒102、XYステージ105、電子銃201、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、偏向器212、検出器218を備え、制御部160として、制御コンピュータ(CPU)310、インターフェース回路320、メモリ312、増幅器326、A/D変換器328を備えている。
そして、電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、偏向器212、検出器218が配置されている。図1では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分以外については記載を省略している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。
【0021】
電子銃201から出た荷電粒子ビームの一例となる電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1のアパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。かかる第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像の位置は、偏向器205によって制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。そして、第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、偏向器212により偏向され、移動可能に配置されたXYステージ105上の試料101の所望する位置に照射される。また、ビーム強度等はファラデーカップ209に電子ビーム200を照射して測定することができる。偏向器212は、インターフェース回路320を介して制御コンピュータ310によって制御される。制御コンピュータ310により演算された結果等の出入力データは、メモリ312に格納される。
【0022】
試料101上の電子ビーム200の位置を移動する場合、或いは照射時間に達した場合、試料101上の不必要な領域に電子ビーム200が照射されないようにするため、図示していないブランキング偏向器で電子ビーム200を偏向すると共に図示していないブランキングアパーチャで電子ビーム200をカットし、電子ビーム200が試料101面上に到達しないようにする。このようにして電子ビームがショットされる。
【0023】
かかる描画装置100を用いて、描画装置100で照射される電子ビームのビーム強度分布ならびにビーム分解能を測定する。以下、ビーム強度分布ならびにビーム分解能を測定する手法について説明する。また、以下の各工程における各動作及び演算処理は、制御コンピュータ310によって制御される。
【0024】
まず、試料の一例となるシリコン(Si)基板20をXYステージ105上に配置する。そして、電子ビーム200がSi基板20を照射するようにXYステージ105を移動させて調整しておく。
S(ステップ)102において、照射工程として、Si基板20上に形成されたドットパターンの一例となる例えば四角形のドットマーク10を用いて、ドットマーク10の幅寸法より小さいビームサイズの電子ビーム200を走査してドットマーク10の手前からドットマーク10上へと移動するように照射する。
【0025】
図3は、電子ビームの走査の仕方を説明するための概念図である。
Si基板20には、ドットパターンの一例となる例えば四角形のドットマーク10が形成されている。そして、ドットマーク10の外周のあるエッジと直交する方向から成形された電子ビーム200をドットマーク10に向かって走査する。
ドットマーク10は、Si基板20の材料として使用されるSiよりも反射率の大きい材料を用いる。例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、金(Au)、白金(Pt)等の重金属を用いると好適である。ドットマーク10は、半導体製造プロセスにて製造することができるので、機械加工するナイフエッジ部品に比べ、パターン形状を精度よく形成することができる。その結果、エッジの直線性とラフネス等を機械加工するナイフエッジ部品に比べ向上させることができる。そして、半導体製造プロセスにて製造することができるので、ナイフエッジに比べ大量に安く生産することができる。ドットマーク10は、例えば、描画装置100のキャリブレーション用のマークを用いると好適である。よって、Si基板20は、描画装置100のキャリブレーション用の基板を用いると好適である。
【0026】
S104において、反射電子計測工程として、電子ビーム200の照射によりドットマーク10から反射した反射電子を計測する。
図4は、反射電子を計測する様子を説明するための概念図である。
例えば四角形に成形された電子ビーム200をドットマーク10に向かって走査していき、電子ビーム200がドットマーク10に当たると電子ビーム200の照射によりドットマーク10から反射電子12が飛び出す。そして、飛び出した反射電子12を検出器218で検出する。検出器218で検出された信号は、増幅器326で増幅され、A/D変換器328でデジタル情報に変換され、制御コンピュータ310に送られる。
【0027】
S106において、ビーム強度分布演算工程として、A/D変換器328での検出結果から電子ビーム200のビーム強度Iを演算する。
図5は、反射電子の検出結果の一例を示す図である。
図5では、縦軸をビーム強度Iに変換している。そして、横軸は、ビーム位置を示している。1つの電子ビームの端がドットマーク10に当たるとその強度に比例した反射電子12が検出される。そして、電子ビーム200の移動に伴い、ビーム強度が上昇していく。図5では、ビームプロファイルの立ち上り区間を「α」、ビーム強度が100%のトップ位置(ビームが平らな部分)に達している間の区間を「β」、ビームプロファイルの立ち下がり区間を「γ」として示している。
【0028】
図6は、ビーム強度分布の一例を示す図である。
図5で示したビーム強度Iを微分演算し、その絶対値をとることで、図6に示すビーム強度分布を得ることができる。
ここで、かかるビーム強度分布を示すビームプロファイルb(x)は、式1で示す誤差関数で表現することができる。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、Aは、ビーム強度を示す係数を示し、最大ビーム強度は2×Aとなる。そして、xとxは、ビーム強度がA、すなわち最大ビーム強度の1/2となる位置を示す。そして、ビームサイズは、ビーム強度が最大ビーム強度の1/2、言い換えればAの範囲と定義する。よって、ここでのビームプロファイルb(x)の場合、x−xがビームサイズとなる。そして、b(x)で表されるビームのビーム分解能は、定義次第であるが、一般的には、最大ビーム強度の10%となる位置から90%となる位置までの幅(長さ)、或いは、最大ビーム強度の20%となる位置から80%となる位置までの幅(長さ)で定義されることが多い。
【0031】
S108において、ビーム分解能演算工程として、電子ビーム200のビーム強度分布から上述した式1に基づいてビーム分解能を演算する。
図6に示すようなビーム強度分布が得られると、最大ビーム強度の1/2(50%)となるAと最大ビーム強度の1/2(50%)となる位置xとxが得られる。よって、式1に基づいて、値σを得ることができる。ここで、ビーム分解能を最大ビーム強度の10%となる位置xから90%となる位置xまでの幅(長さ)で定義する場合、ビーム分解能(x−x)は、1.8σと表すことができる。ビーム分解能の定義を変える場合でも、値σに適当な係数を乗じて見積もることができる。よって、ここでは、1.8σを演算することでビーム分解能を得ることができる。
【0032】
ここで、Si基板20のSiからの反射電子とドットマーク10からの反射電子とのコントラストを大きくした方が正確なビームプロファイルを得やすい。コントラストを大きくするためには電子ビーム200のビームサイズを大きくした方が有利である。しかし、本実施の形態では、できるだけ電子ビーム200のビームサイズを小さくする。
【0033】
図7は、電子ビームのエッジとドットマークのエッジとの平行度について説明するための図である。
図8は、電子ビームのエッジとドットマークのエッジとの平行度による誤差の影響について説明するための図である。
図7に示すように、成形された電子ビーム200を走査する場合、電子ビームのエッジとドットマークのエッジとを平行に保つことが望ましい。平行に保つことができないと検出器218で検出される反射電子12の数が変動してしまい、正確なビーム強度分布を得ることができなくなる。図8に示すように、平行でない状態で電子ビーム200がドットマーク10に重なっていくと、上方から見た場合に、重なる面積が変動し正確なビーム強度を計測できない。ここで、電子ビーム200のビームサイズをLとすると、角度θだけずれていた場合、Δx=L・sinθで表すことができる。よって、電子ビーム200のビームサイズLをより小さくすることで、その分、平行度による誤差の影響を小さくすることができる。
【0034】
ここで、電子ビーム200のビーム強度分布及びビーム分解能を測定するにあたって、電子ビーム200のビームサイズとドットマーク10の幅(サイズ)は、値σ及び必要とされる精度によって範囲が決められる。
図9は、ビームプロファイルの変化の様子の一例を示す図である。
上述した式1で示されるビームプロファイルは、ビームサイズがある値以上の場合には最大ビーム強度が2Aとなるが、ある値より小さくなると最大ビーム強度が2Aに達しなくなる。データ処理の観点からビームサイズは、最大ビーム強度が2Aに達するように設定することが望ましい。x=−kσ、x=kσと定義した場合、図9に示すように、係数kの値によって、電子ビーム200のビームプロファイルが変化する。図9に示すように、最大ビーム強度が2Aに達するのは、k=2.3以上となる。ビームサイズ(x−x)は、2kσとなるので、すなわち、4.6σ以上であることが望ましい。ビーム分解能を最大ビーム強度の10%となる位置xから90%となる位置xまでの幅(x−x=1.8σ)で定義する場合、最大ビーム強度の50%の位置を結ぶ長さとなるビームサイズ(x−x)は、ビーム分解能の2.6倍以上となるように設定することが望ましい。ビームサイズをビーム分解能の2.6倍以上とすることで、ビームプロファイル上にビーム強度が100%となるトップの位置を有する電子ビーム200にすることができる。
【0035】
一方で、ドットマーク10の幅寸法としては、こちらもデータ処理の観点からビーム1個が入る大きさであることが望ましい。かかる場合に、ビーム1個の範囲はビーム強度がほぼゼロになる範囲で構わない。電子ビーム200のビームプロファイルで見た場合、電子ビーム200のビーム位置xから外側に約2σ移動させるとビーム強度がほぼゼロになる。同様に、電子ビーム200のビーム位置xから外側に約2σ移動させるとビーム強度がほぼゼロになる。よって、電子ビーム200のビームサイズは、ドットマーク10の幅寸法から4σを引いた値以下であることが望ましい。ビーム分解能を用いて表すと、電子ビーム200のビームサイズは、ドットマーク10の幅寸法からビーム分解能の2.2倍を引いた値より小さくすることが望ましい。逆に言い換えれば、ドットマーク10としては、幅寸法が、電子ビーム200のビームサイズに4σを加算した値以上のものを用いることが望ましい。電子ビーム200のビームサイズとドットマーク10の幅寸法とがかかる関係になることで、ドットマーク10にビーム強度がほぼゼロになる範囲でのビーム1個が入ることになり、計測する反射電子12の漏れを無くし正確なビーム強度分布及びビーム分解能を測定することができる。また、発明者の実験によれば、所謂ビームプロファイルの“だれ”を考慮したところ、ドットマーク10の幅寸法は、0.4μm以下が望ましいことを見出した。
【0036】
以上のように、ドットパターンを用いることで半導体製造プロセスにより作製することができるので、機械加工されるナイフエッジ部品に比べて高精度なエッジの直線性を得ることができる。そして、ドットパターン幅寸法より小さいビームサイズの荷電粒子ビームを照射することにより、荷電粒子ビームがドットパターン上へ重なり始めた以降のビーム強度を漏れなく検出することができる。その結果、ビームプロファイルが所謂だれてしまうことを防止することができ、高精度なビーム強度分布を得ることができる。よって、高精度なビーム分解能を取得することができる。
【0037】
実施の形態2.
図10は、実施の形態1における電子ビームのビーム分解能測定方法の要部工程の他の一例を示すフローチャート図である。
図10において、電子ビームのビーム強度分布測定方法は、照射工程(S102)、反射電子計測工程(S104)、ビーム強度分布演算工程(S106)という一連の工程を実施する。そして、電子ビームのビーム分解能測定方法は、ビーム強度分布測定方法の各工程に加えて、ビーム分解能測定工程(S110)という一連の工程を実施する。図1とは、ビーム分解能演算工程(S108)がビーム分解能測定工程(S110)に代わった以外は同様である。
【0038】
S110において、ビーム分解能測定工程として、図6に示すビーム強度分布から直接ビーム分解能を測定するようにしても好適である。その他は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
以上のように構成しても実施の形態1と同様に高精度なビーム強度分布及びビーム分解能を測定することができる。
【0040】
また、検出器218は、Si基板20のSiからとドットマーク10からの反射電子12を検出するためS/Nが劣化しやすいが、スキャン回数を増やすことで回避することができる。また、ノイズの乗った波形の排斥手法を工夫することで回避することもできる。
【0041】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0042】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0043】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電子ビーム装置及び荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法及び荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法は、本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施の形態1における電子ビームのビーム分解能測定方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
【図2】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図3】電子ビームの走査の仕方を説明するための概念図である。
【図4】反射電子を計測する様子を説明するための概念図である。
【図5】反射電子の検出結果の一例を示す図である。
【図6】ビーム強度分布の一例を示す図である。
【図7】電子ビームのエッジとドットマークのエッジとの平行度について説明するための図である。
【図8】電子ビームのエッジとドットマークのエッジとの平行度による誤差の影響について説明するための図である。
【図9】ビームプロファイルの変化の様子の一例を示す図である。
【図10】実施の形態1における電子ビームのビーム分解能測定方法の要部工程の他の一例を示すフローチャート図である。
【図11】従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0045】
10 ドットマーク
12 反射電子
20 Si基板
100 描画装置
101,340 試料
102 電子鏡筒
105 XYステージ
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203,410 第1のアパーチャ
204 投影レンズ
205 偏向器
206,420 第2のアパーチャ
207 対物レンズ
212 偏向器
218 検出器
310 制御コンピュータ
312 メモリ
320 インターフェース回路
326 増幅器
328 A/D変換器
330 電子線
411 開口
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上に形成された幅寸法が0.4μm以下のドットパターンを用いて、前記ドットパターン幅寸法より小さいビームサイズの荷電粒子ビームを走査して前記ドットパターンの手前から前記ドットパターン上へと移動するように照射する照射工程と、
前記荷電粒子ビームの照射により前記ドットパターンから反射した反射電子を計測する計測工程と、
前記計測工程の結果に基づいて、前記荷電粒子ビームのビーム強度分布を演算するビーム強度分布演算工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビームのビーム強度分布測定方法。
【請求項2】
試料上に形成された幅寸法が0.4μm以下のドットパターンを用いて、前記ドットパターン幅寸法より小さいビームサイズの荷電粒子ビームを走査して前記ドットパターンの手前から前記ドットパターン上へと移動するように照射する照射工程と、
前記荷電粒子ビームの照射により前記ドットパターンから反射した反射電子を計測する計測工程と、
前記計測工程の結果に基づいて、前記荷電粒子ビームのビーム強度分布を演算するビーム強度分布演算工程と、
前記荷電粒子ビームのビーム強度分布から所定の式に基づいてビーム分解能を演算するビーム分解能演算工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法。
【請求項3】
試料上に形成された幅寸法が0.4μm以下のドットパターンを用いて、前記ドットパターン幅寸法より小さいビームサイズの荷電粒子ビームを走査して前記ドットパターンの手前から前記ドットパターン上へと移動するように照射する照射工程と、
前記荷電粒子ビームの照射により前記ドットパターンから反射した反射電子を計測する計測工程と、
前記計測工程の結果に基づいて、前記荷電粒子ビームのビーム強度分布を演算するビーム強度分布演算工程と、
前記荷電粒子ビームのビーム強度分布からビーム分解能を測定するビーム分解能測定工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法。
【請求項4】
前記照射工程において、前記荷電粒子ビームのビームサイズを前記ビーム強度分布における最大ビーム強度の50%の位置を結ぶ長さとし、前記ビーム分解能を前記ビーム強度分布における最大ビーム強度の10%の位置と90%の位置とを結ぶ長さとする場合、前記荷電粒子ビームのビームサイズは、前記ドットパターンの幅寸法から前記ビーム分解能の2.2倍を引いた値より小さい値となる前記荷電粒子ビームを照射することを特徴とする請求項2又は3記載の荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法。
【請求項5】
前記照射工程において、前記荷電粒子ビームのビームサイズを前記ビーム強度分布における最大ビーム強度の50%の位置を結ぶ長さとし、前記ビーム分解能を前記ビーム強度分布における最大ビーム強度の10%の位置と90%の位置とを結ぶ長さとする場合、前記荷電粒子ビームのビームサイズが前記ビーム分解能の2.6倍以上となるように前記荷電粒子ビームを照射することを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビームのビーム分解能測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−188671(P2007−188671A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3761(P2006−3761)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】