説明

荷電粒子測定装置

【課題】 本発明の課題は、荷電粒子測定の位置有感飛行時間測定における検出効率を飛躍的に向上させる装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明による装置は、静電場を用いて荷電粒子を外部ダイノードに衝突させ、生成した2次電子を不均一磁場で制御してMCPと位置有感型検出器により検出することにより、歪の少ないズーム画像を得ることをおよび、2次電子に変換して検出するために、MCPの感度を向上させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子、イオン等の荷電粒子の位置と飛行時間を検出することにより、荷電粒子のエネルギー分光スペクトルや3次元運動量ベクトル測定(以下3次元計測)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MCP(マイクロチャネルプレート)に位置有感アノードを組み合わせて、荷電粒子の検出時間と検出位置を同時に測定する装置がある。このMCPを用いる装置は、粒子がMCP表面で発生させた2次電子を電子なだれによって増幅し、粒子が衝突した位置を重心として分布する多数の2次電子を各種位置エンコーダーで検出するものである。荷電粒子が空間的に広範囲に分布している場合、これらを検出するためには大口径のMCPが必要になる。一般にMCPの価格はその口径とともに加速度的に高価になり、しかも大口径のものは取り扱いが困難である。またMCPの有感部は表面の約50%であり、多数の粒子の同時計測をする場合の効率が非常に悪い。
【0003】
図1は従来の位置有感検出器を用いた3次元計測装置を示す模式図である。すなわち、静電場を用いて荷電粒子の飛行時間分析をする飛行管と、前記位置有感検出器とを具備した分析装置であり、これを用いて荷電粒子のエネルギーや運動量スペクトル測定を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
口径の小さい検出器を用いた場合は適当なレンズ形を用いてイオンを収束させる必要があるが、軌道が複雑に歪むために3次元の運動量情報を取り出すことは困難である。従って、これまでは飛行管中心軸から大きく外れた粒子の検出を断念するか、非常に高価な大口径の検出器を用いていた。また、多粒子の同時計測において、検出効率が非常に悪いという問題がある。n個の粒子の同時計測を行う場合、MCPの検出効率が約50%であるため、同時検出効率は(0.5)であり、例えばn=5であれば約3%しかない。従って十分な数のイベントを蓄積するためには膨大な測定時間を要した。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、小口径のMCPを用いて大口径のMCPと同等の測定を可能にするとともに、検出器の感度を向上させて測定時間が飛躍的に減少する3次元計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明の3次元計測装置は、MCPと位置有感アノードに外部ダイノードを加え、外部ダイノードで生成した2次電子を不均一磁場により制御することを特徴とする。
【0007】
2次電子を磁場によって制御して位置情報を低歪で縮小、拡大ができることを特徴とする。
【0008】
又、本発明の荷電粒子測定方法は、外部ダイノードで複数の電子を生成させ、MCP単独で使用した装置の感度限界を超えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、直接位置有感検出器で検出する従来の装置に比べて検出効率が飛躍的に増加する。従来非常に高価であった大口径位置有感検出器を用いた装置より安価で且つ高効率である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図2は本発明の一実施形態例に係るイオンの3次元計測(運動量分析)装置を示している。図中、符号1はイオン・電子加速電極を、符号2は外部ダイノードを、符号3はMCPを、符号4は位置有感アノードを、符号5及び6はソレノイドを、それぞれ示している。なお、本明細書では、MCP3及び位置有感アノード4の両者を、位置有感検出器3,4と呼ぶことがある。
【0011】
すなわち、静電場を用いて荷電粒子を引き出すイオン・電子加速電極1と、このイオン・電子加速電極1の両出力側にそれぞれ設けられた外部ダイノード2と、位置有感検出器3,4と、2種類のソレノイド5,6と、を具備して3次元計測装置が構成される。
【0012】
尚、3次元計測のために飛行管内にはイオン・電子加速電極1が等間隔で配置され、均一な電場を構成する。つまり飛行管と垂直方向にはイオンに加速度はかからない。従ってイオンを直接検出器方向に引き出した場合、飛行管と垂直方向のイオンの初期運動量がある大きさを超えると、位置有感検出器3,4で検出することができない。しかしイオンを反対方向に加速し、外部ダイノード2で2次電子に変換した後に検出することにより、外部ダイノード2に衝突したイオンを全て検出することができる。
【0013】
図3は本発明の一実施形態例に係るイオン運動量測定方法を示すブロックダイヤグラムである。すなわち、イオンを均一電場で引き出して加速し、外部ダイノードに衝突させる。ここで生じた2次電子は電場によって反対方向に加速される。外部ソレノイド5により飛行管方向と平行に均一磁場が与えられているため、2次電子は拡散せず、イオンがダイノードに衝突した位置情報を保存して飛行する。これらの電子は位置有感検出器3,4に到達する前に、ソレノイド6によって与えられる不均一磁場により収束される。この収束作用によりダイノードで生成した電子を全てMCP3の有効口径内に導くことができる。位置有感検出器3,4から出力される信号を従来どおり解析することにより、検出時間と位置情報を得る。電子の飛行時間はイオンと比較して無視し得るほど短いので、ここで得られた飛行時間はイオン発生から外部ダイノード2へ衝突までの飛行時間に近似することができる。磁場による収束は歪が小さいので、位置情報を正確に計算して、イオンの運動量測定が終了する。外部ダイノード2は容易に大型化できるため、飛行管に垂直に放出されたイオンも検出することができる。
【0014】
本発明による効果を確認するために、Ar8+の衝突で生成した多価Nイオンの解離断片の運動量を測定する場合について説明する。具体的には、直接位置有感検出器で検出する方法と本発明による外部ダイノードと不均一磁場を用いる方法で、同じエネルギー範囲のイオンを測定し、コインシデンス法により検出効率を比較した。また、位置有感測定には有効径40mmのMCPとバックギャモン型アノードを用いた。同一の位置有感検出器を用い、電圧の極性を反転させて測定方法を切り替えた。
【0015】
図4に測定した結果を示す。図4(a),(b)は、直接位置有感検出器で検出する方法と本発明による外部ダイノードと不均一磁場を用いる方法でそれぞれ測定したものである。N+Nのコインシデンス信号を見ると、図4(a)では検出器の前方と後方にNが同時に放出されたイベントに対応する2つの島が観測されている。島の間に空白があるのは、側方に放出されたイオンが検出できていないことを示す。一方、図4(b)では2つの島は繋がっており、側方に放出されたイオン対が検出されたことがわかる。
【0016】
図5に不均一磁場における電子の軌道を示す。図5(a)ではソレノイド6で発生する磁場はソレノイド5で発生する磁場よりも大きい。この条件下では電子が磁力線に束縛されながら、ほとんど歪無く収束し、縮小画像を与えることがわかる。また図5(b)に示すように、ソレノイド5によって発生する磁場強くすることにより電子ビームが広がり、ほとんど歪の無い拡大画像が得られる。
【0017】
2次電子放出効率はイオンの速度にほぼ比例するため、外部ダイノードの電位を制御することにより感度を上げることができる。このような検出器は従来Even CupやDaly Counterとして知られていたが、従来のものは位置有感検出器としては使えない。
【0018】
以上本発明による外部ダイノードと不均一磁場を用いた装置を使用して、位置有感飛行時間測定が可能であることを明らかにした。大口径のダイノードは同口径のMCPと比較して価格は約500分の1であり、直接位置有感検出器で測定する方法と比較してはるかに容易に高感度測定ができることを示した。
【0019】
なお、本実施形態例では、イオンの3次元計測装置として説明したが、単なる飛行時間測定においてもMCPを用いる場合に同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態例に係るイオンの位置有感飛行時間測定を示す構成説明図である。
【図2】本発明の一実施形態例に係るイオン運動量分析装置である。
【図3】本発明の一実施形態例に係るイオン運動量測定方法を示すブロックダイヤグラムである。
【図4】(a)位置有感検出器で直接検出する従来の方法で測定したN多価イオンの解離によるコインシデンスマップである。(b)本発明による外部ダイノードと不均一磁場を用いる方法で測定したN多価イオンの解離によるコインシデンスマップである。
【図5】不均一磁場における電子の軌道を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 イオン・電子加速電極
2 外部ダイノード
3 MCP(位置有感検出器)
4 位置有感アノード(位置有感検出器)
5 ソレノイド
6 ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部ダイノードとMCP、位置有感型検出器を有し、不均一磁場を用いることにより、荷電粒子の位置有感測定において、歪の少ないズーム画像を得ることを特徴とする高時間分解能測定装置。
【請求項2】
MCP、位置有感型検出器と外部ダイノードを組み合わせ、荷電粒子の位置有感測定において、MCP単独の検出感度を超えることを特徴とする高時間分解能測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−32074(P2006−32074A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208053(P2004−208053)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(504273519)
【出願人】(504273531)
【出願人】(504273575)
【Fターム(参考)】