説明

荷電粒子癌治療システムと併用する荷電粒子ビーム抽出方法及び装置

本発明は、癌腫瘍の荷電粒子照射と併用する荷電粒子ビーム抽出方法及び装置を有する。そのシステムは、高周波空洞システムを使用して荷電粒子の流れのベータトロン振動を誘導する。荷電粒子の流れの十分な振幅変調によって、荷電粒子の流れは箔などの部材を叩く。箔は荷電粒子の流れのエネルギーを低下させ、シンクロトロン130内の荷電粒子の流れの曲率半径が十分に小さくし、エネルギーが低下した荷電粒子の流れを最初の荷電粒子の流れから物理的に分離することができる。次に、物理的に分離された荷電粒子の流れは、供給される磁場及び偏向器の使用によって、シンクロトロン130から取り除かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には強力な癌の治療に関する。さらに詳しくは、本発明は、癌腫瘍の放射治療と併用する荷電粒子ビーム抽出方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(癌)
腫瘍は異常な組織のかたまりである。腫瘍には良性のもの又は悪性のものがある。良性の腫瘍は局部的に成長するが、体の他の部分に広がることはない。良性の腫瘍は、広がるときに正常な組織を押しのけたり、取って代わったりするので、問題を引き起こす。良性の腫瘍は、頭蓋骨などの限られた場所では危険である。悪性の腫瘍は、体の他の領域を浸食する能力がある。転移とは、癌が正常な組織を浸食することであり、且つ離れた組織に広がることである。
【0003】
(癌の治療)
癌の治療には、小源照射治療、磁石X線治療、陽子治療を含め、種々の形態の照射治療がある。
【0004】
陽子治療は、通常、ビーム発生器、加速器、及び、患者の体の腫瘍に陽子を配送する複数の治療室に加速された陽子を移動させるビーム搬送システムを備えている。陽子治療は、粒子加速器で加速された陽子などのエネルギー値の高いイオン化粒子を目標の腫瘍に向けることによって機能する。これらの粒子は、細胞のDNAを破壊し、ついには細胞を死滅させる。癌細胞は、急速な分裂及び破壊されたDNAを回復する能力が低下しているので、癌細胞のDNAは攻撃を特に受けやすい。
【0005】
陽子は、その比較的大きなサイズのために、組織の中では容易には散乱せず、横方向の分散は極めてわずかである。したがって、陽子ビームは、周辺組織に対して大きな横方向の破壊を及ぼさずに、腫瘍の形状にフォーカスされた状態を維持する。所定のエネルギーのすべての陽子は、ブラッグ・ピーク(Bragg peak)によって定まるある飛程(体内距離)を持っており、組織に対する配送線量比は粒子の飛程のまさに最後の数ミリの範囲で最大になる。浸透する深さは粒子のエネルギーに依存し、その深さは陽子加速器によって粒子が加速された速度に直接関係する。陽子の速度は、加速器の最大速度に調節することができる。したがって、腫瘍が位置している組織の非常に深いところに達する陽子ビームによって、細胞の破壊にフォーカスを合わせることができる。ブラッグ・ピークの前に位置している組織はある程度低下した照射線量を受けるが、ブラッド・ピークの後に位置している組織は照射を受けない。
【0006】
(シンクロトロン)
K. Hiramoto等に対して1989年9月26日に付与された特許文献1「Accelerator System(加速システム)」には、放射線同位体生成ユニット又はシンクロトロンのいずれかにおける予備加速器によって加速されたイオン・ビームを導入するための選択磁石を備えた加速システムが記載されている。
【0007】
K. Hiramoto等に対して1998年8月4日に付与された特許文献2「Circular Accelerator, Method of Injection of Charged Particle Thereof, and Apparatus for Injection of Charged Thereof(円形加速器、その荷電粒子の入射方法及び入射装置)」及びK. Hiramoto等に対して1997年2月4日に付与された特許文献3「Circular Accelerator, Method of Injection of Charged Particle Thereof, and Apparatus for Injection of Charged Thereof(円形加速器、その荷電粒子の入射方法及び入射装置)」の双方には、入射ビームがダクトの幾何学的な中心に合う高さ及び幅を持つ真空ダクトの中に多くの荷電粒子を入射する方法及び装置が記載されている。
【0008】
(加速器/シンクロトロン)
H. Tanaka等に対して2007年8月21日に付与された特許文献4「Charged Particle Accelerator(荷電粒子加速器)」には、第1の加速期間及びその後の第2の加速期間に印加される固定の電場によって2つの期間の加速処理を有し、コンパクトでハイパワーの荷電粒子加速を実現する荷電粒子加速器が記載されている。
【0009】
T. Haberer等に対して2004年1月27日に付与された特許文献5「Ion Beam Therapy System and Method for Operating the System(イオン・ビーム治療システム及びそのシステムの操作方法)」には、イオン・ビーム治療システム及びそのシステムの稼働方法が記載されている。そのイオン・ビーム・システムは、エッジ・フォーカス効果から生じる平行スキャン・モードの結果を得る最後の偏向磁石の前に、垂直偏向システム及び水平偏向システムが配置された移動保持台(ガントリー)を使用する。
【0010】
V. Kulish等に対して2002年8月13日に付与された特許文献6「Inductional Undulative EH-Accelerator(誘導波動のEH加速器)」には、荷電粒子ビームの加速のための誘導波動のEH加速装置が記載されている。その装置は電磁波動システムで構成され、その電磁波用駆動システムは、約100kHzから10GHzまでの範囲の周波数で動作する高周波発振器の形態で作られている。
【0011】
K. Saito等に対して1999年6月29日に付与された特許文献7「Radio-Frequency Accelerating System and Ring Type Accelerator Provided with the Same(高周波加速システム及びそのシステムを用いたリングタイプ加速器)」には、磁気コア群に結合されたループ・アンテナ及びループ・アンテナに接続されたインピーダンス調整手段を有する高周波加速システムが記載されている。そのインピーダンス調整手段には比較的低い電圧が供給されるので、小型構造の調整手段を実現している。
【0012】
J. Hirota等に対して1997年8月26日に付与された特許文献8「Ion Beam Accelerating Device Having Separately Excited Magnetic Cores (分離して励磁された磁気コアを有するイオン・ビーム加速装置)」には、複数の高周波磁場誘導ユニット及び磁気コアを有するイオン・ビーム加速装置が記載されている。
【0013】
J. Hirota等に対して1992年12月1日に付与された特許文献9「Acceleration Device for Charged Particles (荷電粒子の加速装置)」には、結合定数及び又は再調整を制御するために組み合わされた高周波電力源及び制御の下に動作するループ導体を備え、粒子に対して電力をより効率的に送信できる加速空洞が記載されている。
【0014】
(磁石形状)
M. Tadokoro 等に対して2002年4月2日に付与された特許文献10「Electromagnetic and Magnetic Field Generating Apparatus(磁石及び磁場発生装置)」、M. Tadokoro 等に対して2001年5月22日に付与された特許文献11「Electromagnetic and Magnetic Field Generating Apparatus(磁石及び磁場発生装置)」の各々には、一対の磁極、戻りヨーク、及び励磁コイルが記載されている。一対の磁極の各々の内部に有する複数のエア・ギャップ空間によって、磁場強度を増加している。
【0015】
(抽出)
T. Nakanishi等に対して2006年10月17日に付与された特許文献12「Charged-Particle Beam Accelerator, Particle Beam Radiation Therapy System Using the Charged-Particle Accelerator, and Method of Operating the Particle Beam Radiation Therapy System(荷電粒子ビーム加速器、その荷電粒子ビーム加速器を用いた粒子ビーム照射治療システム、及びその粒子ビーム照射治療システムの稼働方法)」には、安定した共鳴の領域内の荷電粒子ビームのベータトロン振動の振幅を増加するRF−KOユニット、及び、安定した共鳴の領域を変化させる抽出用4極磁石を備えた荷電粒子ビーム加速器が記載されている。RF−KOユニットは、周回ビーム線量が安定した共鳴の領域の限界を超えない周波数範囲内で稼働され、抽出用4極磁石は、ビーム抽出が必要な時間に稼働される。
【0016】
T. Haberer等に対して2006年8月15日に付与された特許文献13「Method and Device for Controlling a Beam Extraction Raster Scan Irradiation Device for Heavy Ions or Protons(重イオン又は陽子のビーム抽出ラスター・スキャン照射装置を制御する方法及び装置)」には、すべての加速周期におけるビーム・エネルギー、ビーム・フォーカス、及びビーム強度の観点から、ビーム抽出照射を制御する方法が記載されている。
【0017】
K. Hiramoto等に対して2002年10月29日に付与された特許文献14「Accelerator and Medical System and Operating Method of the Same(加速器及び医療システム、及びその稼働方法)」には、荷電粒子ビームの周回を形成するための偏向磁石及び4極磁石を有する周期型加速器、ベータトロン振動の安定した共鳴限界を生成するための多極磁石、並びに、高周波の電磁場をビームに与えて安定限界の外にビームを移動する高周波電源が記載されている。高周波電源は、時間に対する瞬間周波数が変化し、且つ、時間に対する瞬間周波数の平均値が異なる複数の交流(AC)信号の加算信号を生成する。システムは、電極を介してビームに加算信号を供給する。
【0018】
K. Hiramoto等に対して2000年7月11日に付与された特許文献15「Synchrotron Type Accelerator and Medical Treatment System Employing the Same(シンクロトロン型加速器及びそれを使用した医療システム)」及びK. Hiramoto等に対して1999年12月28日に付与された特許文献16「Synchrotron Type Accelerator and Medical Treatment System Employing the Same(シンクロトロン型加速器及びそれを使用した医療システム)」には、高周波の電磁場を周回している荷電粒子ビームに供給するため、及び、粒子ビームのベータトロン振動の振幅を安定した共鳴限界を超えるレベルまで増加するための周回軌道上に設けられた高周波供給ユニットを備えたシンクロトロン型加速器が記載されている。さらに、ビーム放出のために、発散用4極磁石が、(1)第1の偏向器に対しては下流に、(2)偏向磁石に対しては上流に、(3)偏向磁石に対しては下流に、及び(4)第2の偏向器に対しては上流に、配置されている。
【0019】
K. Hiramoto等に対して1994年11月8日に付与された特許文献17「Circular Accelerator and Method and Apparatus for Extracting Charged-Particle Beam in Circular Accelerator(円形加速器及びその円形加速器における荷電粒子ビームの抽出方法及び入射装置)」には、(1)ベータトロン振動共鳴の効果によってビーム変位を向上するため、(2)安定した共鳴限界内で最初のベータトロン振動を有する粒子のベータトロン振動を向上するため、及び(3)共鳴安定限界を超えることで、安定した共鳴限界を超える粒子を抽出するために、荷電粒子ビームを抽出する円形加速器が記載されている。
【0020】
K. Hiramoto等に対して1994年2月8日に付与された特許文献18「Method of Extracting Charged Particles from Accelerator, and Accelerator Capable Carrying Out the Method, by Shifting Particle Obit(加速器から荷電粒子を抽出する方法、及び、粒子軌道を変位することによって、その方法を実行することができる加速器)」には、荷電粒子を抽出する方法が記載されている。偏向磁石及び6極の要素よりも多い多極の要素を有する磁石によって維持されている荷電粒子の均衡な軌道は、荷電粒子の周回軌道一周あたりの振動数(チューン)を変更する磁石とは異なる方法で、加速器の構成要素によって変位される。
【0021】
(ビーム・エネルギー/強度)
M. Yanagisawa 等に対して2008年4月8日に付与された特許文献19「Charged Particle Therapy System, Range Modulation Wheel Device, and Method of Installing Range Modulation Wheel Device(荷電粒子線治療システム、飛程補償装置、及び飛程補償装置を導入する方法)」及びM. Yanagisawa 等に対して2008年5月30日に付与された特許文献20「Charged Particle Therapy System, Range Modulation Wheel Device, and Method of Installing Range Modulation Wheel Device(荷電粒子線治療システム、飛程補償装置、及び飛程補償装置を導入する方法)」の双方には、飛程補償体を有する粒子線治療システムが記載されている。イオン・ビームが飛程補償体を通過して、飛程補償体の複数の段階的な厚さに対応する複数のエネルギーレベルを得る結果になる。
【0022】
M. Yanagisawa 等に対して2007年11月20日に付与された特許文献21「Particle Beam Irradiation System and Method of Adjusting Irradiation Apparatus(粒子ビーム照射システム及び照射装置の調整方法)」、M. Yanagisawa 等に対して2006年7月4日に付与された特許文献22「Particle Beam Irradiation System and Method of Adjusting Irradiation Apparatus(粒子ビーム照射システム及び照射装置の調整方法)」、M. Yanagisawa 等に対して2006年4月11日に付与された特許文献23「Particle Beam Irradiation System and Method of Adjusting Irradiation Apparatus(粒子ビーム照射システム及び照射装置の調整方法)」、及びM. Yanagisawa 等に対して2004年8月17日に付与された特許文献24「Particle Beam Irradiation System and Method of Adjusting Irradiation Apparatus(粒子ビーム照射システム及び照射装置の調整方法)」のすべてには、散乱装置、飛程調整装置、ピーク拡散装置が記載されている。散乱装置及び飛程調整装置は互いに組み合わされて、ビーム軸に沿って移動される。拡散装置は軸に沿って独立に移動され、イオン・ビーム散乱の度合いを調整する。組み合わせることによって、装置は、低下した組織に対する照射線量分布の均一性の度合いを向上させる。
【0023】
A. Sliski等に対して2007年4月24日に付与された特許文献25「Programmable Particle Scatter for Radiation Therapy Beam Formation(照射治療ビーム形成のためのプログラマブル粒子散乱)」には、所定の方法において散乱角度及びビーム飛程を補償するために、粒子ビームの中に配置する液体のプログラム可能な経路長が記載されている。荷電粒子ビーム散乱部/飛程補償部は、粒子ビーム経路内において対面する壁を有する液体貯蔵部、及び、プログラム可能な制御部の制御の下に液体貯蔵部の壁の間の距離を調整する駆動部を備えて、組織内の所定の深さに所定の拡散ブラッド・ピークを形成する。ビームの散乱及び補償は、腫瘍の治療の期間に連続的且つ動的に調整されて、目標になっている所定の3次元の体に線量を堆積する。
【0024】
M. Tadokoro 等に対して2007年7月24日に付与された特許文献26及び2006年12月26日に付与された特許文献27「Particle Therapy System(粒子線治療システム)」の各々には、照射の使用期間中に荷電粒子ビームのエネルギーを測定可能な粒子線治療システムが記載されている。そのシステムは、ビームが間を通過する一対のコリメータ、エネルギー検出器、及び検出器に取り付けられた信号処理ユニットを備えている。
【0025】
G. Kraft等に対して2005年5月10日に付与された特許文献28「Ion Beam Scanner System and Operating Method(イオン・ビーム・スキャン・システム及び稼働方法)」には、スキャンされる目標の体に対する機械的位置合わせシステムを有すると共に、目標の体の要素の深度ずれスキャンが得られるリニアモータによるイオン・ビームの深度調整及びエネルギー吸収手段の横の変位を可能にするイオン・ビーム・スキャン・システムが記載されている。
【0026】
G. Hartmann等に対して2004年5月18日に付与された特許文献29「Method for Operating an Ion Beam Therapy System by Monitoring the Distribution of the Radiation Dose(照射線量の分布を監視することによってイオン・ビーム治療システムを稼働させる方法)」には、格子スキャナーを備え、治療焦点(アイソセンタ)周辺の領域に照射し且つスキャンするイオン・ビーム治療システムの稼働方法が記載されている。アイソセンタの領域の変化する位置において、格子スキャナー装置の深度線量分布及び横方向線量分布の両方とも、測定され且つ評価される。
【0027】
Y. Jongen 等に対して2004年4月6日に付与された特許文献30「Method for Treating a Target Volume with a Particle Beam and Device Implementing Same(粒子ビームによって目標の体を治療する方法及びそれを実施する装置)」には、目標の部位に向けて照射される細いスポットを粒子ビームから生成する方法において、そのスポットの走査速度及び粒子ビームの強度が同時に変化されることが記載されている。
【0028】
G. Kraft等に対して2004年3月23日に付与された特許文献31「Device for Irradiating a Tumor Tissue(腫瘍組織を照射する装置)」には、腫瘍組織を照射する方法及び装置が記載され、その照射においては、イオン・ビームの方向及びイオン・ビームの飛程を共に調整する陽子ビームの深度切換のために、陽子ビーム経路においてイオン制動装置を電磁的に駆動している。
【0029】
K. Matsuda等に対して2003年9月9日に付与された特許文献32「Charged Particle Beam Irradiation Apparatus(荷電粒子ビーム照射装置)」には、複数のフィルタ素子の各々のイオン・ビームの通過位置の違いによって生じるエネルギーが異なる3つのイオン・ビーム成分を有する拡大装置を介して、イオン・ビームがブラッグ・ピークを通過することによって、ブラッグ・ピークの深さ方向における幅を増大する荷電粒子ビーム照射装置が記載されている。
【0030】
H. Stelzer 等に対して2002年8月20日に付与された特許文献33「Ionization Chamber for Ion Beams and Method for Monitoring the Intensity of an Ion Beam(イオン・ビームに対するイオン化容器及びイオン・ビーム強度を監視する方法)」には、イオン・ビームに対するイオン化容器及びイオン・ビーム強度を監視する方法が記載されている。イオン化容器は、容器筐体、ビーム入口窓、ビーム出口窓、ビーム出口窓、及び計数ガスで満たされた容器体を有する。
【0031】
H. Akiyama 等に対して2002年8月13日に付与された特許文献34「Charged-Particle Beam Irradiation Method and System(荷電粒子ビーム照射方法及びシステム)」及びH. Akiyama 等に対して2001年7月24日に付与された特許文献35「Charged-Particle Beam Irradiation Method and System(荷電粒子ビーム照射方法及びシステム)」には共に、粒子のエネルギーを変更する変更部及び荷電粒子ビームの強度を制御する制御部を有する荷電粒子ビーム照射システムが記載されている。
【0032】
Y. Pu等に対して2000年3月7日に付与された特許文献36「Charged Particle Beam Irradiation Apparatus and Method of Irradiation with Charged-Particle Beam(荷電粒子ビーム照射装置及び荷電粒子ビームを用いた照射方法)」には、(1)ある長さの円筒部品、及び(2)回転軸のまわりの円周方向において、照射ビームのエネルギー低下を決定す壁厚の配分を有するエネルギー低下部を備えた荷電粒子ビーム照射装置が記載されている。
【0033】
(線量)
K. Matsuda等に対して2007年11月27日に付与された特許文献37「Particle Beam Irradiation System(粒子ビーム照射システム)」には、照射装置からのイオン・ビームの出力を停止する停止信号を使用して、照射目標物における均一な線量分布を保証する粒子ビーム照射システムが記載されている。
【0034】
H. Sakamoto等に対して2006年5月30日に付与された特許文献38「Radiation Treatment Plan Making System and Method(照射治療計画作成システム及び方法)」には、1つの被爆領域を複数の被爆領域に分割し、照射治療条件を計画するために照射シミュレーションを使用して所望の領域に対する平坦な照射被爆を得る照射被爆システムが記載されている。
【0035】
G. Hartmann等に対して2004年9月28日に付与された特許文献39「Method For Verifying the Calculated Radiation Dose of an Ion Beam Therapy System(イオン・ビーム治療システムの計算された照射線量を検証する方法)」には、人体模型を備え、計算された照射線量と人体模型との間の不一致を検証するイオン・ビーム治療システムの計算された照射線量を検証する方法が記載されている。
【0036】
H. Brand等に対して2003年9月2日に付与された特許文献40「Method for Monitoring the Irradiation Control of an Ion Beam Therapy System(イオン・ビーム治療システムの照射制御を監視する方法)」には、イオン・ビーム治療システムの計算された照射制御ユニットをチェックする方法が記載され、その中で、スキャンするデータセット、制御コンピュータのパラメータ、測定センサのパラメータ、及びスキャナー磁石の望ましい電流値が永続的に記憶される。
【0037】
T. Kan 等に対して2001年3月27日に付与された特許文献41「Water Phantom Type Dose Distribution Determining Apparatus(水の人体模型タイプの線量分散決定装置)」には、密閉されて縁まで水で満たされた水槽、及び、その中に挿入されて、照射治療の前に照射の実際の線量分布を決定するのに使用されるセンサを備えた水の人体模型タイプの線量分散装置が記載されている。
【0038】
(呼吸)
K. Matsuda等に対して1996年7月23日に付与された特許文献42「Radioactive Beam Irradiation Method and Apparatus Taking Movement of the Irradiation Area Into Consideration(照射領域の移動を考慮した放射性のビーム照射方法及び装置)」には、呼吸及び心臓の鼓動などの身体的作用のために患部の位置が変化した場合であっても、照射が可能な方法及び装置が記載されている。最初に、患者の患部の位置変化及び身体的作用が同時に測定されて、それらの間の関係が関数として定義される。照射治療は、その関数に応じて実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】米国特許第4,870,287号明細書
【特許文献2】米国特許第5,789,875号明細書
【特許文献3】米国特許第5,600,213号明細書
【特許文献4】米国特許第7,259,529号明細書
【特許文献5】米国特許第6,683,318号明細書
【特許文献6】米国特許第6,433,494号明細書
【特許文献7】米国特許第5,917,293号明細書
【特許文献8】米国特許第5,661,366号明細書
【特許文献9】米国特許第5,168,241号明細書
【特許文献10】米国特許第6,365,894号明細書
【特許文献11】米国特許第6,236,043号明細書
【特許文献12】米国特許第7,122,978号明細書
【特許文献13】米国特許第7,091,478号明細書
【特許文献14】米国特許第6,472,834号明細書
【特許文献15】米国特許第6,087,670号明細書
【特許文献16】米国特許第6,008,499号明細書
【特許文献17】米国特許第5,363,008号明細書
【特許文献18】米国特許第5,285,166号明細書
【特許文献19】米国特許第7,355,189号明細書
【特許文献20】米国特許第7,053,389号明細書
【特許文献21】米国特許第7,297,967号明細書
【特許文献22】米国特許第7,071,479号明細書
【特許文献23】米国特許第7,026,636号明細書
【特許文献24】米国特許第6,777,700号明細書
【特許文献25】米国特許第7,208,748号明細書
【特許文献26】米国特許第7,247,869号明細書
【特許文献27】米国特許第7,154,108号明細書
【特許文献28】米国特許第6,891,177号明細書
【特許文献29】米国特許第6,736,831号明細書
【特許文献30】米国特許第6,717,162号明細書
【特許文献31】米国特許第6,710,362号明細書
【特許文献32】米国特許第6,617,598号明細書
【特許文献33】米国特許第6,437,513号明細書
【特許文献34】米国特許第6,433,349号明細書
【特許文献35】米国特許第6,265,837号明細書
【特許文献36】米国特許第6,034,377号明細書
【特許文献37】米国特許第7,372,053号明細書
【特許文献38】米国特許第7,054,801号明細書
【特許文献39】米国特許第6,799,068号明細書
【特許文献40】米国特許第6,614,038号明細書
【特許文献41】米国特許第6,207,952号明細書
【特許文献42】米国特許第5,538,494号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
体内における癌腫瘍の粒子線治療の技術分野においては、荷電粒子治療システムのシンクロトロンから荷電粒子を効率的に抽出することが求められている。また、その技術分野においては、特定のエネルギー、時間、及び又は強度で荷電粒子を抽出して、周辺の患者の正常組織への破壊を最小限にして、効率的に、精密に、及び又は正確に、無痛で、強力な癌腫瘍の生体内の治療をするための荷電粒子ビームを実現することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明は、癌腫瘍に対する荷電粒子ビームの照射治療と併用する荷電粒子ビームの抽出方法及び装置を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】粒子線治療システムのサブシステムの接続を示す図である。
【図2】シンクロトロンを示す図である。
【図3】シンクロトロン内の偏向磁石を示す図である。
【図4】粒子ビーム抽出システムを示す図である。
【図5】粒子ビームの強度制御システムを示す図である。
【図6】ビーム加速を明示する図である。
【図7】ビーム強度を明示する図である。
【図8】(A)は患者の腫瘍の荷電粒子治療を示す図であり、(B)は荷電粒子ビームの3次元スキャンを示す図である。
【図9】呼吸に合わせた腫瘍照射を示す図である。
【図10】変化する呼吸速度に同期した荷電粒子の配送を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、癌腫瘍に対する荷電粒子ビームの照射治療と併用する荷電粒子ビームの抽出方法及び装置を構成する。
【0044】
体内組織の腫瘍に対する陽子の正確且つ精密な配送は、荷電粒子線治療において重要である。この実施形態において、シンクロトロンからの荷電粒子ビームの抽出は、荷電粒子の癌腫瘍治療システムの一部として説明する。実施形態のシステムは、高周波(RF)空洞システムを使用して荷電粒子の流れをベータトロン振動に誘導する。荷電粒子の流れの十分な振幅変調は、荷電粒子の流れによって箔などの部材を叩くことを引き起こす。箔は荷電粒子の流れのエネルギーを低下させ、シンクロトロンにおける荷電粒子の流れの曲率半径を十分小さくするので、低下したエネルギーの荷電粒子の流れを最初の荷電粒子の流れから物理的に分離することが可能になる。次に、物理的に分離された荷電粒子の流れは、供給される磁場及び偏向器の使用によってシステムから取り出される。抽出システムについてはさらに後で説明する。
【0045】
(荷電粒子ビーム治療)
この明細書を通じて、陽子ビーム、水素イオン・ビーム、又はカーボン・イオン・ビームなどの、荷電粒子線治療について説明する。この実施形態では、陽子ビームを用いる荷電粒子線治療について説明する。しかしながら、陽子ビームの観点から教示し説明する態様は、陽子ビームの態様に限定されるものではなく、荷電粒子ビーム・システムを説明するためのものである。任意の荷電粒子ビーム・システムも、この実施形態に記載された技術に等しく応用することができる。
【0046】
図1には、荷電粒子ビーム・システム100が示されている。荷電粒子ビーム・システムは、好ましくは、主制御部110、入射システム120、(1)加速器システム132及び(2)抽出システム134を通常有するシンクロトロン130、スキャン/目標/配送システム140、患者インターフェース・モジュール150、表示システム160、及び又は、画像システム170のうち任意のものを有するいくつかのサブシステムを備えている。
【0047】
一実施形態においては、1つ以上のサブシステムがクライアントに収容されている。クライアントは、例えば、パーソナル・コンピュータ、デジタル媒体プレーヤ、パーソナル・デジタル・アシスタント、その他のクライアント装置として動作するために構成されたコンピュータ・プラットホームである。クライアントは、例えば、マウス、キーボード、表示装置、その他のいくつかの外部又は内部の入力装置に接続されるプロセッサを備えている。プロセッサはまた、情報を表示するコンピュータ・モニタ等の出力装置に接続されている。一実施形態においては、主制御部110がプロセッサである。他の実施形態においては、主制御部110は、メモリに格納されてプロセッサによって実行される一組の命令である。
【0048】
クライアントは、コンピュータ読取可能な記憶媒体すなわちメモリを有する。メモリは、コンピュータ読取可能な命令を記憶する電子記憶媒体、光記憶媒体、磁気記憶媒体、若しくは他の記憶媒体、又は、コンピュータ読取可能な命令を有するプロセッサに接続できる送信装置、例えば、タッチ・センサ入力装置と併用されるプロセッサを備えているが、これらに限定されるものではない。適切な媒体の他の実施例には、例えば、フラッシュ・メモリ、CD−ROM、読取専用メモリ(ROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、特定用途向け集積回路(ASIC)、DVD、磁気ディスク、メモリ・チップその他が含まれる。プロセッサは、メモリに記憶された一組の読取可能なプログラム・コードの命令を実行する。その命令は、例えば、C、C++、C#、Visual Basic、Java(登録商標)、及びJavaScriptを含む任意のコンピュータ・プログラミング言語からのコードを有することができる。
【0049】
荷電粒子ビーム・システム100を使用する方法の一実施例を提供する。主制御部110は、1つ以上のサブシステムを制御して、陽子を患者の患部に正確に且つ精密に配送する。例えば、主制御部110は、体及び又は腫瘍の位置などの画像を画像システム170から取得する。また、主制御部110は、位置情報及び又はタイミング情報を患者インターフェース・システム・モジュール150から取得する。次に、主制御部110は、入射システム120を任意に制御してシンクロトロン130の中に陽子を入射する。シンクロトロンは、通常、少なくとも加速システム132及び抽出システム134を有する。主制御部110は、好ましくは、例えば、陽子ビームの速度、軌道、及びタイミングを制御することにより、加速システム内の陽子ビームを制御する。次に、主制御部は、抽出システム134によって加速器からの陽子ビームの抽出を制御する。例えば、制御部は、抽出されたビームのタイミング、エネルギー、及び又は強度を制御する。また、制御部110は、好ましくは、スキャン/目標/配送システム140によって、陽子ビームの目標を患者インターフェース・モジュール150にするように制御する。患者インターフェース・モジュール150の1つ以上の要素は、好ましくは、主制御部110によって制御される。さらに、表示システム160の表示要素は、好ましくは、主制御部110を介して制御される。表示スクリーン等の表示要素は、通常、一人以上のオペレータ及び又は一人以上の患者に対して提供される。一実施形態においては、主制御部110は、陽子が最適な治療方法で患者に配送されるように、すべてのシステムからの陽子ビームの配送のタイミングを測る。
【0050】
この実施形態において、主制御部110は、荷電粒子ビーム・システム100を制御する単一のシステム、荷電粒子ビーム・システム100を制御する複数のサブシステムを制御する単一のシステム、又は、荷電粒子ビーム・システム100の1つ若しくは複数のサブシステムを制御する複数の個々の制御部を指す。
【0051】
(シンクロトロン)
この実施形態において、シンクロトロンという用語は、周回経路において荷電粒子ビームを維持するシステムを指すのに使用される。しかしながら、サイクロトロンは、そのエネルギー、強度、及び抽出制御の固有の限界にもかかわらず、シンクロトロンの代わりに使用される。さらに、この実施形態では、荷電粒子ビームは、シンクロトロンの中央点の周りに周回経路に沿って周回するビームと称される。あるいは周回経路は軌道経路と称されるが、軌道路は完全な円又は楕円を指すものではなく、それはむしろ中央点又は中央領域の周囲の陽子の循環を指すものである。
【0052】
図2は、荷電粒子ビーム・システム100の1つのバージョンの実施例を説明する図である。構成要素の番号、位置、及び記載されたタイプは、説明をするためのものであり、何らこれらに限定されるものではない。図に示された実施形態において、入射システム210又はイオン源又は荷電粒子ビーム源は、陽子を発生する。陽子は、シンクロトロンの中に延びて、そこを通って、そこから出る真空管の中に配送される。発生された陽子は、最初の経路262に沿って配送される。4極磁石又は入射用4極磁石などのフォーカス用磁石230は、陽子ビーム経路をフォーカスするのに使用される。4極磁石は、フォーカス磁石である。入射用偏向磁石232は、陽子ビームをシンクロトロン130の平面の方向に偏向する。初期のエネルギーを持つフォーカスされた陽子は、入射用磁石240の中に誘導され、その入射用磁石240は、好ましくは、入射用ラムバーソン磁石である。通常、最初のビーム経路262は、シンクロトロン130の周回面から外れた上側の軸に沿っている。入射用偏向磁石232及び入射用磁石240は組み合わされて、陽子をシンクロトロン130の中に移動する。主偏向磁石又は双極磁石又は周回用磁石250は、陽子を周回ビーム経路264に沿って向きを変えるのに使用される。双極磁石は偏向磁石である。主偏向磁石250は、最初のビーム経路262を周回ビーム経路264の中に偏向する。この実施例においては、主偏向磁石250又は周回用磁石は、4個の磁石の4組として表され、周回ビーム経路264を安定した周回ビーム経路に維持する。しかしながら、任意の数の磁石又は任意の組の磁石が、周回プロセスにおいて単一の軌道の周りに陽子を移動するために任意に使用されてもよい。陽子は、加速器270の中を通り抜ける。加速器は、周回ビーム経路264の中で陽子を加速する。陽子が加速されるときには、磁石によって供給される磁場が増加される。特に、加速器によって達成される陽子の速度は、主偏向磁石250又は周回用磁石の磁場に同期してシンクロトロンの中央点又は中央領域280のまわりで陽子の安定した周回を維持する。周回経路又は軌道の中に陽子を維持する間、加速器270/主偏向磁石250が連携して時分割で使用され、陽子を加速及び又は減速する。予備加速器/偏向器システム290の抽出要素は、ランバーソン抽出磁石292と組み合わせて使用されて、シンクロトロン130内において周回ビーム経路264から陽子を離反させる。偏向器要素の一例がランバーソン磁石である。通常、偏向器は、陽子を周回面から例えばその上方の周回面から外れた軸に移動する。抽出された陽子は、好ましくは、配送路268に沿った4極磁石などの抽出用偏向磁石237及び抽出用フォーカス磁石235を用いて、スキャン/目標/配送システム140の中に導かれ及び又はフォーカスされる。スキャン・システム又は目標システムの2つの要素は、通常、垂直制御部などの第1の軸制御部142、及び水平制御部などの第2の軸制御部144を有する。一実施形態において、第1の軸制御部142は、陽子ビーム268の垂直又はy軸の約100mmをスキャンすることが可能であり、第2の軸制御部144は、陽子ビーム268の水平又はx軸の約700mmをスキャンすることが可能である。ノズル・システムは、陽子ビームの像を作るのに使用され、及び又は、シンクロトロンの低圧ビーム経路と大気圧との間の真空障壁として使用される。制御された陽子は、患者インターフェース・モジュール150及び患者の腫瘍に配送される。上記に掲げたすべての要素は任意のものであり、種々の置き換え及び組合せにおいても使用することができる。上記に掲げた要素についてはさらに後で説明する。
【0053】
(イオン・ビーム発生システム)
イオン・ビーム発生システムは、水素陰イオンすなわちHビームなどの陰イオン・ビームを発生し、好ましくは、その陰イオン・ビームをフォーカスし、その陰イオン・ビームを陽子又はHビームなどの陽イオン・ビームに変換し、その陽イオン・ビームをシンクロトロン130の中に照射する。イオン・ビーム経路の陽子は、好ましくは、軽度の真空のもとにある。
【0054】
この実施形態において、シンクロトロンは、周回経路において荷電粒子ビームを維持するシステムを指すのに使用される。さらに、この実施形態では、荷電粒子ビームは、シンクロトロンの中央点の周りに周回経路に沿って周回するビームと称される。あるいは周回経路は軌道経路と称されるが、軌道路は完全な円又は楕円を指すものではなく、それはむしろ中央点又は中央領域280の周囲の陽子の循環を指すものである。
【0055】
(周回システム)
シンクロトロン130は、直線部及びイオン・ビームの方向転換部を備えることが好ましい。したがって、陽子の周回経路は、シンクロトロンの中の円というよりも、むしろ角が丸い多角形である。
【0056】
一実施形態においては、シンクロトロン130は、加速器システムと同じものを意味することもあり、4個の直線部及び4個の方向転換部を有する。直線部の実施例は、予備加速器240、加速器270、抽出システム290、及び偏向器292を備えている。4個の直線部に加えてイオン・ビーム方向転換部があり、それは磁石部又は方向変換部を意味することもある。例えば、方向転換部は、約2、4、6、又は8個の一組の偏向磁石である。方向転換部についてはさらに後で説明する。
【0057】
図2を参照して、シンクロトロンの例について説明する。この実施例においては、最初の陽子ビーム経路に沿って配送された陽子は、周回ビーム経路の中で予備加速器240によって予備加速されて、加速後は偏向器292を介してビーム搬送路268に抽出される。この実施例においては、シンクロトロン130は、4個の直線部910及び4個の曲げ部又は方向転換部を備え、4個の方向転換部の各々は、1つ以上の磁石を使用して陽子ビームを約90度偏向する。さらに後で説明するように、方向変更部の間隔を小さくできること及び陽子ビームを効率的に偏向できることで、より短い直線部が実現する。直線部を短くすることで、シンクロトロンの周回経路内にフォーカス4極磁石を使用せずに、シンクロトロンの設計をすることができる。周回陽子ビーム経路からフォーカス4極磁石を取り除く結果、さらに小型の設計ができる。この実施例においては、図示されたシンクロトロンは、周回経路内にフォーカス4極磁石を使用しているシステムが8メートルの直径及び大きな断面直径を持っているのに対して、約5メートルの直径を持っている。
【0058】
入射用磁石240及び予備加速器/偏向器システム290の間の第1の方向転換部について追加して説明する。追加説明の方向転換部は、(1)予備加速器/偏向器システム290からラムバーソン抽出磁石292に、(2)ラムバーソン抽出磁石292から加速器270に、及び(3)加速器270から入射用磁石240に、至るものである。方向転換部の各々は、約2、4、6、8、10、又は12個の磁石のように多数の磁石を有することが好ましい。この実施例において、第1の方向転換部における4個の偏向磁石又は周回磁石250は、鍵の原理を示すために使用され、各方向転換部における磁石の使用個数は同じである。
【0059】
(偏向磁石のフォーカス形状)
図3には、単一の磁石250の断面が示されている。方向転換部は、ギャップ310を有し、その中を陽子が周回する。磁石アセンブリは、第1の磁石320及び第2の磁石330を有する。コイルによって誘発された磁場は、ギャップ310を横断して第1の磁石320と第2の磁石330との間に延びる。戻りの磁場は、第1のヨーク322及び第2のヨーク332の中を延びる。磁場は、第1の巻線コイル350及び第2の巻線コイル360を用いて生成される。空気ギャップなどの分離用又は収束用ギャップ340は、鉄基材のヨークをギャップ310から分離する。ギャップ310は、ギャップ310にわたって均一な磁場を発生させるために、ほぼ平らになっている。図に示すように、第1の磁石320は、好ましくは、鉄基材の最初の断面距離370を有する。磁場の輪郭は磁石320、330及びヨーク322、332によって第1の断面距離又は領域374から第2の断面距離又は領域376に至る形状になっている。例えば、第1の断面距離は約15cmであり、第2の断面距離は約10cmである。第2の例においては、第2の断面距離は、第1の断面距離の70%よりも小さい。これらの例において、コアは、第2の断面距離372に向かって角度θで小さくなっている。上述したように、磁石の磁場は、分離ギャップ340に対向して鉄基材のコア内に偏在している。断面距離は、最初の断面距離370から最後の断面距離372に向かって小さくなっているので、磁場は収束する。角度θのために、長い距離370から短い距離372に向かって進んで行く磁場が増幅される。磁場の収束は、最初の断面370における最初の磁場ベクトルの密度から最後の断面372における磁場ベクトルの収束された密度に向かう表現によって示されている。磁場の収束は、偏向磁石の形状で決まるので、巻線コイル350、360の数をより少なくすることが要求され、巻線コイル350、360に対する電力供給も小さくすることが要求される。
【0060】
(偏向磁石の補正コイル)
図3において、1つ以上の偏向磁石の強度を補正するのに使用される追加の補正コイル380、390が示されている。補正コイル380、390は、巻線コイル350、360を補うものである。補正コイルの電力供給は、巻線コイルの電力供給と比較すると、それに必要な電力のほんの何分の1、例えば、巻線コイル350、360で使用される電力の約1、2、3、5、7、又は10%で、約1又は2%で動作が可能であることが好ましい。補正コイル380、390に供給される動作電力が小さくなればなるほど、補正コイルをさらに正確及び又は精密に制御することが可能になる。補正コイル380、390は、偏向磁石250における不具合を調整するのに使用される。分離した補正コイルは、各偏向磁石に対して任意に使用されて、各偏向磁石に対する磁場の個々の偏向ができるので、各偏向磁石の製造における品質要求を容易に叶えることができる。
【0061】
巻線コイルは、好ましくは、1、2、又は4個の偏向磁石250をカバーする。1つ以上の高精度の磁場センサがシンクロトロン内に配置されて、陽子ビーム経路において又はその近傍で磁場を測定するのに使用される。例えば、磁場センサは、ギャップ310において若しくはその近傍、又は磁気コア若しくはヨークにおいて若しくはその近傍など、偏向磁石の間及び又は偏向磁石の中に任意に配置される。センサは、補正コイルに対するフィードバック・システムの一部であり、主制御部によって任意に駆動する。このように、システムは、好ましくは、磁石に供給される電流を安定化するというよりむしろ、シンクロトロンの要素における磁場を適切に安定化する。磁場の安定化によって、シンクロトロンは新たなエネルギーレベルに迅速に到達できる。このことにより、システムは、オペレータ又はアルゴリズムによって、シンクロトロンの各パルス及び又は患者の各呼吸によって選択されたエネルギーレベルを制御する。
【0062】
(偏向磁石の面取りされたエッジ)
単一の偏向磁石の両端は、面取りがされていることが好ましい。偏向磁石250のエッジを面取りすることで陽子をフォーカスする。多数の偏向磁石は、シンクロトロン130において各々がエッジ・フォーカス効果を有する多数の偏向磁石エッジを実現する。例えば、4個の磁石がシンクロトロンの方向転換部の中に使用された場合には、単一の偏向磁石において、1個の磁石に対して2つのエッジにより、8個のエッジ・フォーカス効果面が可能になる。8個のフォーカス面は、より小さな断面ビームサイズをもたらす。このことは、より小さなギャップの使用を可能にする。各方向転換部が4個の偏向磁石を有し、且つ、各偏向磁石が2つのエッジを有する偏向磁石を4個備えたシンクロトロンにおいては、シンクロトロン130の周回経路の中の陽子の各軌道に対して、合計32のフォーカス・エッジが存在する。同様に、2、6、又は8個の磁石が所定の方向転換部に使用され、又は、2、3、5、若しくは6個の磁石が使用された場合には、エッジ・フォーカス面の数は、次の式3に応じて拡大又は縮小する。
TFE=NTS*(M/NTS)*(FE/M) (1)
ここで、TFEはフォーカス・エッジの数、NTSは方向転換部の数、Mは磁石の数、FEはフォーカス・エッジの数である。もちろん、すべての磁石が面取りされる必要はなく、いくつかの磁石は1つのエッジだけを任意に面取りをしてもよい。
【0063】
この実施形態に記載されたシステムの種々の実施形態において、シンクロトロンは以下の任意の組合せを備えている。
・4つの方向転換部を有するシンクロトロンにおける荷電粒子ビームの90度の偏向ごとに少なくとも4個、好ましくは6、8、10個、以上のエッジのフォーカス・エッジ、
・シンクロトロンにおける荷電粒子ビームの軌道ごとに少なくとも約16個、好ましくは24、32個、以上のエッジのフォーカス・エッジ、
・少なくとも4個、好ましくは8個のエッジのフォーカス・エッジを各方向転換部が有する4個だけの方向転換部、
・同数の直線部及び方向転換部、
・きっかり4個の方向転換部、
・方向転換部ごとに少なくとも4個のエッジのフォーカス・エッジ、
・4極磁石を有しないシンクロトロンの周回経路、
・丸い角の多角形の構造、
・60メートル未満の円周、
・60メートル未満の円周及び32個のフォーカス・エッジ面、及び
・シンクロトロンの各周回経路においてフォーカス・エッジのエッジを有する4極磁石からなる約8、16、24、又は32個の4極磁石を持たない構造。
【0064】
(陽子ビームの抽出)
図4には、シンクロトロン130からの陽子抽出処理の一実施例が示されている。明確にするために、図4では、図2に示した偏向磁石などの要素を取り除くことで、時間の関数としての陽子ビーム経路の表現を非常に明確にすることができる。一般的には、陽子を遅くすることにより、シンクロトロン130から陽子が抽出される。上述したように、陽子は周回経路264の中で最初に加速されて、複数の偏向磁石250によりその加速された陽子が維持される。周回経路は、この実施形態では最初の中心のビームライン264と呼ばれる。陽子は、シンクロトロン280の中心のまわりを繰り返し周回する。陽子経路は、RF空洞システム410の中で向きを変える。抽出を開始するために、RF空洞システムにおいて、第1の羽根412及び第2の羽根414にわたってRF磁場が供給される。第1の羽根412及び第2の羽根414は、この実施形態では第1の対の羽根と呼ばれる。
【0065】
陽子抽出処理においては、第1の対の羽根にわたってRF電圧が供給され、そこでは第1の対の羽根の第1の羽根412は周回陽子ビーム経路264の一方の側にあり、第1の対の羽根の第2の羽根414は周回陽子ビーム経路264の反対側にある。供給されたRF磁場は、周回する荷電粒子ビームに対してエネルギーを与える。供給されたRF磁場は、軌道又は周回ビーム経路をわずかに変更して、最初の中心のビームライン264から周回ビーム経路265にする。RF空洞システムの中で陽子が第2の経路に移動すると、RF磁場は、最初のビームラインからはずれた陽子をさらに移動する。例えば、最初のビームラインが円形の経路であるとすると、変更されたビームラインはわずかに楕円形の経路になる。供給されるRF磁場はタイミングを合わせて、シンクロトロン加速器の中で周回する陽子の所定の軌道を内側又は外側に移動させる。陽子の各軌道は、最初の周回ビーム経路264と比べて少しずつさらに外れた軸になっている。RF空洞システムを通る陽子の連続する通過は、RF磁場を通る陽子ビームの連続する各通過に伴って、RF磁場の方向及び又は強度を変更することによって、最初の中心のビームライン264から次第に移動を強いられる。
【0066】
RF電圧は、1回の回転に対してシンクロトロンのまわりを周回する1つの陽子の周期にほぼ等しい周波数で周波数変調されるか、又は、シンクロトロンのまわりを周回する1つの陽子の周期の積分乗算器よりも高い周波数で周波数変調される。供給されたRF周波数変調電圧は、ベータトロン振動を励起する。例えば、その振動は陽子の正弦波の動きになっている。RF空洞システム内の所定の陽子ビームに対するRF磁場タイミングの処理は、陽子が最初の中心ビームライン264からさらにほぼ1マイクロメートル離れて動く連続する各通過で数千倍繰り返される。説明を明確にするために、RF磁場を通る陽子の所定の軌道の連続する各経路と共にほぼ1000回変化するビーム経路が、変更されたビーム経路265として図示されている。
【0067】
正弦波のベータトロンの十分な振幅があるので、変更された周回ビーム経路265は、箔又は箔のシートなどの部材430に接触する。箔は、軽量の材料、例えば、ベリリウム、水素化リチウム、カーボン・シート、又は低い核電荷の物質であることが好ましい。低い核電荷の物質は、実質的には6個又はそれより少ない個数の陽子を持つ原子で構成された物質である。箔は、好ましくは、約10乃至150ミクロンの厚さであり、さらに好ましくは、30乃至100ミクロンの厚さであり、さらにいっそう好ましくは、40乃至60ミクロンの厚さである。一実施例では、箔は、約50ミクロンの厚さのベリリウムである。陽子が箔の中を通り抜けると、陽子のエネルギーが失われ、陽子の速度が低下される。後述するように、通常、電流も発生される。低速度で動く陽子は、最初の中央ビームライン264又は変更された周回経路265のいずれかと比べて、小さくなった曲率半径266でシンクロトロン内を移動する。小さくなった曲率半径266の路についても、ここでは、より小さい直径の軌道を有する経路又は低エネルギーの陽子を有する経路という。小さくなった曲率半径266は、通常、変更された陽子ビーム経路265に沿った陽子の最後の通過の曲率半径よりも約2ミリメートル小さい。
【0068】
部材430の厚さは、曲率半径における変化が、例えば、陽子の最後の通過路265又は最初の曲率半径264よりも約1/2、1、2、3、又は4mm小さく形成されるように任意に調整される。より小さな曲率半径で動く陽子は、第2の対の羽根414、416の間を移動する。第2の対の羽根414、416も、一対の抽出羽根と称される。第1の場合においては、第2の対の羽根は、第1の対の羽根とは物理的に別個のもの及び又は分離したものになっている。第2の場合においては、第1の対の羽根の1つが第2の対の羽根の要素にもなっている。例えば、第2の対の羽根は、RF空洞410内の第2の羽根414及び第3の羽根416である。ここで、約0.5、1、2、3、4、又は5kVなどの高電圧のDC信号が第2の対の羽根の両端に印加されると、ラムバーソン抽出磁石などの抽出磁石292によって、陽子をシンクロトロンの外の輸送路268に導く。
【0069】
<実施例I>
第1の実施例において、陽子は、速度が遅くなった陽子が箔に衝突することによってシンクロトロンから抽出される。最初は、ある陽子経路、例えば、1つの金属素材がシンクロトロンにおける周回陽子経路の第1の側面上にあり、第2の金属素材が陽子経路に対して反対側にある2つの金属素材にわたってRF信号が供給される。RF電圧が2つの金属素材の両端に供給される。供給されるRF電圧は変調又は周波数変調されて、陽子の経路に振動を誘導する。その振動は陽子ビームの陽子を箔に向かわせる。この場合、箔は約50ミクロンの厚さのベリリウム材である。箔の電子は陽子の速度を遅くする結果、ビーム経路は、サイクロトロンにおいて繰り返し周回する陽子よりも小さい平均直径を有することになる。小さい平均直径のビーム経路を持つ陽子は、高いDC電界を横断し、その電界は、シンクロトロンの外に陽子を導くか、又はシンクロトロンの外に陽子を導くラムバーソン磁石の中に陽子を導く。
【0070】
<実施例II>
図4には、シンクロトロン130の一例が示されている。一組の磁石は、シンクロトロンの第1の曲率半径を有する反復周回経路264において陽子を制御する。第1の経路における陽子は、AC高周波電圧が印加される2つの金属プレートからなる第1の対の金属プレート412、414の間を横切る。そのAC電圧は、いくつかの陽子に振動を引き起こし、それらの陽子は、陽子の速度を低下させる箔の部材430を通過する。遅い速度で移動する陽子は、小さい曲率半径の経路266で周回する。小さい曲率半径を持つ陽子は、それから、第2の対の金属プレート414、416の間の高い電圧の電場のようにDCの電場の間を通過し、その電場は新たな経路に陽子を導く。新たな経路266は、ラムバーソン磁石の磁場などの別の磁場を任意に横切り、その磁場はシンクロトロンから離れるように陽子を導く。
【0071】
一般に、抽出処理においては、シンクロトロンの中を周回している陽子を獲得して、獲得した陽子が箔を通過するときにその速度を低下させる。周回している陽子は、その周回している陽子のエネルギーと偏向磁石によって供給される磁場とに関連づけられた曲率半径を有する。陽子が箔を通過してエネルギーが減少する結果、第1の曲率半径よりも小さい第2の曲率半径を生じる。したがって、陽子は、周回している陽子ビーム経路に関係するシンクロトロンの中心に抽出される。小さい曲率半径において箔を通過した後の速度が遅い陽子は、第2のプレート及び第3のプレートの間への電場の供給、並びに、ラムバーソン偏向器などの偏向器の使用によって、シンクロトロンから排出される。
【0072】
(強度の制御)
図5において、通常、陽子ビームにおける陽子が部材430を叩くと、電子が放出される。その結果生じた電流は、任意に測定され、主制御部110又は強度制御部のサブシステム540に送られる。その電流は、周回ビーム経路の強度の測定として使用され、且つ、RF空洞システムを制御するのに使用される。一具体例においては、閾値を超えた電流が計測されたときは、RF空洞内のRF磁場変調が終了又は起動停止がなされて、陽子ビーム抽出の十分な周期を確立する。この処理は繰り返されて、シンクロトロン加速器からの陽子ビーム抽出を多く繰り返すことができる。他の具体例においては、その電流は、抽出された陽子ビームの強度を制御するフィードバック制御として使用される。
【0073】
図5において、上述したように、フィードバック・ループが抽出システムに追加される。陽子ビーム内の陽子が部材430を叩くと、電子が放出されて電流が発生する。発生した電流は、電圧に変換されて、イオン・ビーム強度監視システムの要素として、又は、ビーム強度制御のためのイオン・ビーム・フィードバック・ループの要素として用いられる。その電圧は、任意に測定されて、主制御部110又は制御部のサブシステム410に任意に送られる。特に、荷電粒子ビーム経路内の陽子が部材430を通過すると、いくつかの陽子はほんの何分の1のエネルギー、例えば、約10分の1の割合のエネルギーを失って、その結果2次電子が発生する。すなわち、荷電粒子ビーム内の陽子は、部材430を通過するときに2次放出を生じるに十分なエネルギーの電子を与えることで、いくつかの電子を放出する。発生した電子の流れは、目標の部材430を通過する陽子の数に比例する電流又は信号を発生する。発生した電流は、電圧に変換されて増幅されることが好ましい。発生した信号は、測定された強度信号と呼ばれる。
【0074】
陽子が部材430を通過した結果得られた増幅された信号又は測定された強度信号は、抽出された陽子の強度を制御するのに使用されることが好ましい。例えば、測定された強度信号は、腫瘍面560の照射においてあらかじめ設定される目標信号と比較される。測定された強度信号と予定された目標信号との間の差分が計算される。その差分がRF発生器に対する制御として使用される。したがって、陽子が部材430を通過した結果生じて測定された電流の流れは、RF発生器において、ベータトロン振動を受け且つ部材430に衝突する陽子の数の増加又は減少を制御するのに使用される。したがって、部材430の電圧のうち差し引いて算出された電圧は、軌道経路の測定として使用され、且つ、RF空洞システムを制御するためのフィードバック制御として使用される。あるいは、他の実施例として、測定された強度信号はフィードバック制御には使用されず、抽出された陽子の強度の監視としてだけ使用される。
【0075】
上述したように、陽子が部材430に衝突することは、シンクロトロン130から陽子を抽出する中での工程である。したがって、測定された強度信号は、抽出される単位時間に対する陽子の数を変化するのに使用され、陽子ビームの強度と呼ばれる。このため、陽子ビームの強度は、アルゴリズム制御に従うことになる。さらに、陽子ビームの強度は、シンクロトロン130における陽子の速度から分離して制御される。したがって、抽出された陽子の強度及び抽出された陽子のエネルギーは独立して変化する。
【0076】
例えば、陽子はシンクロトロン130の中で最初は平衡状態の軌道で移動する。RF磁場は、ベータトロン振動の中に陽子を励起するのに使用される。1つの場合では、陽子の軌道の周波数は約10MHzである。一実施例においては、約1ミリ秒間において又は約10,000回の軌道の後において、最初の陽子が目標の部材430の外側のエッジを叩く。その特定の周波数は、軌道の周期に依存している。陽子が部材430を叩くと、陽子は箔によって電子を放出て電流を生成する。その電流は電圧に変換されて増幅され、測定された強度信号を取得できる。測定された強度信号は、供給されるRFの大きさ、RFの周波数、又はRF磁場を制御するためのフィードバック入力として使用される。好ましくは、測定された強度信号は、目標信号と比較され、測定された強度信号と目標信号との差分の測定値は、抽出の工程で陽子の強度を制御するための抽出システムにおいてRF空洞システム510に供給されるRF磁場を調整するのに使用される。繰り返して言及すると、陽子が部材430を叩くことによって及び又は陽子が部材430を通過することによって発生する信号は、RF磁場変調への入力として使用される。RF変調の大きさを増加するほど、その結果、陽子が箔又は部材430を叩くのが次第に遅くなる。RFを増加することによって、より多くの陽子が箔の中に放出され、その結果、シンクロトロン130から抽出される陽子の強度又は単位時間当たりの陽子の数が増加する。
【0077】
他の実施例において、シンクロトロン130の外部の検出器550は、シンクロトロンから抽出された陽子の束を測定するのに使用され、外部の検出器からの信号は、RF空洞システム510におけるRF磁場又はRF変調を変更するのに使用される。ここで、外部の検出器は外部信号を発生し、その信号は、前の段落において説明した測定された強度信号と同じ方法によって使用される。特に、測定された強度信号は、フィードバック強度制御部540における照射面560からの所望の信号と比較され、上述したように、抽出処理における第1のプレート412及び第2のプレート414の間のRF磁場を調整する。
【0078】
さらに他の実施例において、陽子が部材を通過すること又は部材を叩くことで生じる部材430からの電流が閾値を超えたことが測定されたときは、RF空洞システム内のRF磁場変調は、終了又は起動停止がなされて、陽子ビーム抽出の十分な周期が確立される。この処理は繰り返されて、シンクロトロン加速器からの陽子ビーム抽出を多く繰り返すことができる。
【0079】
さらにまた他の実施例において、抽出された陽子ビームの強度変調は、主制御部110によって制御される。主制御部110は、荷電粒子ビームの抽出のタイミング及び抽出された陽子ビームのエネルギーを任意に及び又は補足的に制御する。
【0080】
システムの利点には、多次元のスキャン・システムが含まれる。特に、システムは、(1)抽出された陽子のエネルギー、及び(2)抽出された陽子の強度に、独立性を持たせることができる。すなわち、抽出された陽子のエネルギーは、エネルギー制御システムによって制御され、抽出された陽子の強度は、強度制御システムによって制御される。エネルギー制御システム及び強度制御システムは、任意に且つ独立して制御される。好ましくは、主制御部110は、エネルギー制御システムを制御し、また、主制御部は、強度制御システムを同時に制御して、制御されたエネルギー及び制御された強度が独立して変化する中で、制御されたエネルギー及び制御された強度によって抽出される陽子ビームが得られる。このように、腫瘍をたたく照射スポットは、
・時間
・エネルギー
・強度
・患者に対する陽子ビームの水平方向の移動を表すx軸の位置、
・患者に対する陽子ビームの垂直方向の移動を表すy軸の位置
の独立した制御下におかれる。さらに、患者は、同じ時間における陽子ビームの変換軸に対して任意に且つ独立して回転される。
【0081】
(タイミング)
さらに、本発明の他の実施形態において、主制御部110は、抽出のタイミングを制御する。例えば、抽出は、患者の呼吸に同期する。具体的には、患者の内部の器官、骨、及び体の構造が再現できる位置又は再現できる相対的な位置にある時に陽子ビームが発生されるので、患者の呼吸が底の時に抽出が実行される。体内組織の腫瘍に対する陽子の正確且つ精密な配送は、荷電粒子ビーム治療において重要である。正確且つ精密な配送を複雑にするのは、体の自然な動きである。体の動きは多様なレベルを引き起こし、(1)歩行などの一般的な患者の動き、(2)立位、座位、又は横臥の位置のバリエーション、及び(3)器官などの体内部位の相対的な動きを、含んでいる。これらの動きのすべては、同時に変化する。したがって、陽子ビームの抽出のタイミングをとる方法は、患者の腫瘍に対して配送される陽子ビームの目標、精密さ、及び又は正確さを向上させるという結果になる。
【0082】
(陽子のエネルギー及び強度の制御)
図6及び図7には、陽子配送システムにおける陽子エネルギー及び強度性能が示されている。図6には、330MeVの最大エネルギーまでのビーム加速が示されている。さらに、1つの周期における変化に富んだ陽子ビームの加速及び減速が示されている。特に、最初の1秒から4秒までの第1の周期においては、ビームは、100MeVに加速され、50MeVに減速され、再び150MeVに加速されている。5秒に始まる次の周期においては、陽子エネルギーは、330MeVに急激に増加されて、そこで1秒間そのエネルギーが維持される。その維持されたエネルギーはX線断層写真を実行するために必要である。図7を参照すると、対応するビーム強度は、シンクロトロンの加速器の動作の連続する2つの周期を提供する。ほぼ1秒半から3秒半までの目盛りにおいて、ビームはある照射ポイントに向けられている。必要な線量値が照射されると、抽出は中断され、ビームは次の照射ポイントに移動されて、抽出処理は5秒半から7秒半までの目盛りに再開される。図6及び図7を組み合わせることにより、エネルギー及び強度の独立した制御を示すことになる。図6及び図7は本質的なものである。リアルタイムの動作においては、上述の処理の各々が、表示された割合の10倍で任意に実行される。
【0083】
(陽子ビームの位置制御)
図8には、ビーム配送及び腫瘍体積スキャンのシステムが示されている。現在、世界照射線治療界では、ペンシル・ビーム・スキャン・システムを用いて、線量磁場形成の方法を使用している。これと極めて対照的に、図8は、スポット・スキャン・システム又は腫瘍体積スキャン・システムを示している。腫瘍体積スキャン・システムにおいては、安価で精密なスキャン・システムを用いて、輸送及び分配という観点から陽子ビーム268が制御される。そのスキャン・システムは能動的なシステムであり、そのシステムでは、直径が約0.5、1、2、又は3ミリメートルの腫瘍820のスポット焦点の中にビームがフォーカスされる。陽子ビームの供給エネルギーを同時に変更する期間に、焦点は2つの軸に沿って一時的な位置269に平行移動され、そのことが焦点の第3の範囲を効果的に変化させる。例えば、図8(A)に示すように、スポットは水平に平行移動され、垂直軸に沿って下に移動され、次に、再び水平に移動される。この実施例においては、電流が使用されて、少なくとも1つの磁石を有する垂直スキャン・システムを制御する。供給された電流は、垂直スキャン・システムの磁場を変更して、陽子ビームの垂直な偏向を制御する。同様に、水平スキャン磁石システムは、陽子ビームの水平な偏向を制御する。各軸に沿った平行移動の程度は制御されて、所定の深さの腫瘍断面に一致する。その深さは、陽子ビームのエネルギーを変化することによって制御される。例えば、陽子ビームのエネルギーは、新たに浸透する深さを限定するように減少され、水平軸及び垂直軸に沿ってスキャン処理が繰り返され、腫瘍の新たな断面領域をカバーする。
【0084】
システムは制御の5個の軸、すなわち、x軸、y軸、エネルギー、強度、及び時間を有する。フィードバック電流及び副制御部540によって実現される強度制御は、強度制御の5番目の軸を提供する。5個の軸を組み合わせることにより、癌腫瘍の全体にわたってスキャン又は陽子ビームの焦点の移動が可能になる。各スポットにおける時間及び各スポットに対する体内への方向が制御されて、分散されたエネルギーが腫瘍の外側を叩く間に、癌全体の各部分に所望の照射線量をもたらす。
【0085】
フォーカスされたビーム・スポットの面の大きさは、好ましくは、約0.5、1、又は2ミリメートルの直径に厳しく制御されるが、あるいは数センチメートルの直径に制御される。好ましい設計制御により、2つの方向、すなわち、(1)約100mmの垂直振幅及び200Hzまでの周波数、並びに(2)約700mmの水平振幅及び1Hzまでの周波数で、スキャンすることが可能になる。スキャン磁石システムを変更することによって、各軸においてもっと大きな振幅又はもっと小さな振幅も可能である。
【0086】
図8Bには、ビーム・エネルギーによって制御されてz軸に沿った、水平移動がx軸に沿った、垂直方向がy軸に沿った陽子が示されている。z軸に沿って組織の中に移動する陽子の距離は、この実施例においては、陽子の運動エネルギーによって制御される。この座標システムは、決まったものではなく例示に過ぎない。陽子ビームの実際の制御は、2つのスキャン磁石システムを用いて3次元の空間の中で、陽子ビームの運動エネルギーを制御することによって制御される。
【0087】
(呼吸制御)
体内組織の腫瘍に対する陽子の正確且つ精密な配送は、荷電粒子ビーム治療において重要である。正確且つ精密な配送を複雑にするのは、体の自然な動きである。体の1つの姿勢又は動きは患者の呼吸に関係し、患者の呼吸は体全体の動き、特に患者の胸の空洞の動きを招く。その動きは、器官などの体内の部位の動きを時間の関数としてもたらす結果になる。したがって、荷電粒子治療の至近距離及び又はその時間内において、体の要素の位置を判断する方法が必要である。この実施形態において、荷電粒子治療と併用する患者の呼吸の監視及び又は制御の方法及び装置について説明する。特に、癌腫瘍に対する多軸荷電粒子又は陽子ビームの放射治療と併用する患者の呼吸の監視及び又は制御の方法及び装置について説明する。例えば、呼吸監視システムは、温度センサ及び又は力センサを使用して、呼吸の周期の中の患者の位置を測定し、あるいはさらに、患者に配送されるフィードバック信号の制御と組み合わせて、吸入及び吐息が必要であることを患者に通知する。呼吸制御は、腫瘍に対する荷電粒子の配送に時間を合わせるという結果をもたらし、腫瘍治療の正確さ、精密さ、及び効率を高める。
【0088】
図9を参照して、患者の呼吸900に基づく腫瘍に対する陽子配送のタイミングについて説明する。一実施例においては、患者が位置決めされて910、治療対象の呼吸のリズムパターンが測定された920後は、例えば、表示モニタを介して、信号が治療対象に任意に送られて、呼吸の周波数をさらに正確に制御する930。例えば、表示画面が治療対象の前に配置されて、メッセージ又は信号が表示画面に送信されて、呼吸を止める時及び呼吸する時を治療対象に指示する。通常、呼吸制御モジュールは、上述したように、1つ以上の呼吸センサからの入力を使用する。例えば、その入力は、次の呼吸の吐息がいつ完了するかを測定するのに使用される。呼吸の底において、制御モジュールは、例えば、モニタ上で、音声信号を介して、デジタル化され且つ自動的に発生された音声指令、又は、可視制御信号を介して、呼吸止め信号を患者に提示する。好ましくは、表示モニタは治療対象の前に配置され、表示モニタは呼吸の指令を治療対象に表示する。通常、治療対象は、約0.5、1、2、3、5、又は10秒などの短い時間の間、呼吸を止めることを指示される。呼吸が止められる時間は、好ましくは、腫瘍に対する陽子ビームの配送時間に同期しており、その時間は約0.5、1、2又は3秒である。呼吸の底において陽子を配送することが好ましいとはいえ、陽子は呼吸の周期の任意の点、例えば、最大吸入時に配送されてもよい。呼吸の頂点、又は、呼吸制御モジュールによって患者が息を深く吸い込んで、呼吸を止めることを指示された時の配送は、胸の空洞が最大になって、且つ、ある腫瘍にとって腫瘍と周辺の組織との間の距離が最大であるか、又は増加した体積の結果として周辺の組織が持ち上げられた呼吸の頂点において任意に実行してもよい。したがって、周辺の組織を叩く陽子は最小になる。呼吸を止めることを要求する指示に対して、それを実行する作業を治療対象に気付かせるために、表示画面は、3、2、1秒のカウントダウンなどにより、治療対象に対して呼吸を止めることを要求する時を告げるようにしてもよい。
【0089】
(呼吸センサ)
温度呼吸監視システムの第1の実施例について説明する。温度呼吸監視システムにおいては、センサは、患者の鼻及び又は口のそばに配置される。陽子線治療に用いる温度センサ・システムの部品による立体的な構造からの妨害を避けるために、温度呼吸監視システムは、好ましくは、胴体又は脚の腫瘍を治療する場合など、頭又は首には位置していない腫瘍を治療する場合に使用される。温度呼吸監視システムにおいては、第1の温度抵抗が使用されて、患者の呼吸の周期及び又は患者の呼吸の周期内の位置を監視する。好ましくは、第1の温度抵抗は患者の鼻のそばに配置され、その結果、鼻を通って第1の温度抵抗に吐く患者の息が、第1の温度抵抗を暖めて、吐息を表示する。好ましくは、第2の温度抵抗が環境温度センサとして動作する。第2の温度抵抗は、好ましくは、患者の呼吸路から外れた位置ではあるが、第1の温度抵抗と同じ環境の部屋に配置される。これらの温度抵抗からの電流など、センサによって発生された信号は、好ましくは、電圧に変換されて、主制御部110又は主制御部の副制御部に送信される。第2の温度抵抗は、好ましくは、第1の温度抵抗の信号の一部である環境温度の変動を調整するのに使用され、例えば、2つの温度抵抗の数値の間の差分を計算することによって、患者の呼吸の周期のより正確な読取を取得できる。
【0090】
温度呼吸監視システムの第2の実施例について説明する。力呼吸監視システムにおいては、胴体のそばにセンサが配置される。陽子線治療に用いる力センサ・システムの部品による立体的な構造からの妨害を避けるために、力呼吸監視システムは、好ましくは、頭、首、又は脚に位置している腫瘍を治療する場合に使用される。力呼吸監視システムにおいては、ベルト又はストラップが、患者の各呼吸の周期と共に拡張又は収縮する患者の胴体の範囲の近傍に配置される。ベルトは、患者の胸のまわりにぴったりと合まって、且つ、伸縮可能であることが好ましい。力測定器はベルトに取り付けられて、患者の呼吸のパターンを検知する。力測定器にかけられる力は、呼吸の周期の間隔と相関関係がある。力測定器からの信号は、好ましくは、主制御部110又は主制御部の副制御部に送信される。
【0091】
(呼吸と同期した陽子線治療)
一実施例においては、陽子線治療及び好ましくは、多磁場陽子治療は、呼吸フィードバック・センサの使用を介した患者の呼吸と調和し及び同期して、上述したように、患者の呼吸を監視し及び制御するのに使用される。荷電粒子治療は、好ましくは、部分的に固定され再現可能な位置における患者に対して実行され、荷電粒子ビームの入射、加速、抽出、及び又は目標の方法及び装置の制御によって、腫瘍に対する陽子が患者の呼吸に合わせて配送される。患者の呼吸に同期すると、患者の呼吸周期の期間における体の構成要素の動きに関係する位置の曖昧さを解消するので、陽子配送精度を高めることができる。
【0092】
第2の実施形態においては、X線システムが、陽子治療ビームによって見られる方向と同じ方向における患者のX線画像を得るために使用され、X線システム及び陽子治療ビームの双方が患者の呼吸に同期する。同期したシステムは、陰イオン源、シンクロトロン、及び又は、患者の呼吸に合わせたX線を提供する目標の方法及び装置と併用することが好ましい。そのシステムにおいては、粒子線治療の照射の直前及び又は同時にX線が収集されて、患者位置に対して目標及び制御がなされた配送を保証することにより、陽子ビーム位置確認システムを用いて、患者の正常な組織の周囲に対する破壊を最小にしつつ、強力な癌腫瘍の効率的な、精密な、及び又は正確な治療を得ることができる。
【0093】
図9において、陽子配送制御アルゴリズムは、対象が呼吸を止めている呼吸の頂点又は底など、各呼吸の所定の期間内に、腫瘍に対する陽子の配送に同期させるのに使用される。陽子配送制御アルゴリズムは、好ましくは、呼吸制御モジュールと統合される。このため、陽子配送制御アルゴリズムは、患者が呼吸をしている時、呼吸の周期における患者の現在位置、及び又は患者が呼吸を止めている時を認識する。患者の呼吸の監視920又は患者の呼吸の制御930に基づいて、陽子配送制御アルゴリズム又は主制御部110は、陽子配送のタイミングを制御する。例えば、主制御部110は、いつ陽子をシンクロトロンの中に入射するか940及び又は予備加速するか、どのように陽子を加速するか950、上述したように、いつ高周波信号を供給して発振を誘導するか、及び、上述したように、いつ直流電圧を供給してシンクロトロンから陽子を抽出するか960を、制御する。したがって、患者の呼吸周期における既知の又は制御されたポイントで腫瘍が照射され970、これにより、腫瘍に対する陽子配送の精密さ及び正確さを高めることができる。通常、陽子配送制御アルゴリズムは、治療対象が呼吸を止めることを指示される前に、又は、陽子配送時間のために選択された呼吸の周期における特定された期間の前に、陽子の予備加速及びそれに続くRF誘導発振を初期化する。この方法において、陽子配送制御アルゴリズムは、上述したように、第2の一対のプレートに高い直流電圧を同時に又はほぼ同時に配送することによって、選択された呼吸の周期の期間に陽子を配送することができる。その結果、シンクロトロンからの陽子の抽出ができると共に、それに続く患者に対する陽子の配送を選択された時点にすることができる。シンクロトロンにおける陽子の加速の期間は一定であるか又は陽子ビームの所望のエネルギーレベルに対して周知であるので、陽子配送制御アルゴリズムは、患者の呼吸の周期又は所望の呼吸の周期に対して整合する交流RF信号を設定するのに使用される。
【0094】
図10は、フィードバック・ループを用いて磁場制御を明確にして、配送時間及び又は陽子パルス配送の間隔を変更する一実施例である。ある1つ場合においては、呼吸センサは、患者の呼吸の周期を感知する。呼吸センサは、通常、患者インターフェース・モジュール150を介して、及び又は、主制御部110若しくはその副制御部を介して、磁場制御部のアルゴリズムに情報を送信する。アルゴリズムは、患者が呼吸の周期において、呼吸の底などの特異なポイントになるときを予測及び又は測定する。磁場センサは、磁場制御部への入力として使用され、シンクロトロン130の第1の偏向磁石240内などの所定の磁場に対する磁気電力供給を制御する。したがって、制御フィードバック・ループは、選択されたエネルギーレベルをシンクロトロンにダイヤルするのに使用され、また、呼吸が底の時などの選択された時点の時間内に、所望のエネルギーレベルで陽子を配信するのに使用される。呼吸周期において選択されたポイントは、呼吸周期のどの位置でも及び又は呼吸周期のどの期間でも任意である。図10に示すように、選択された時間間隔は、呼吸の頂点であり、約0.1、0.5、又は1秒の期間になっている。特に、主制御部110は、シンクロトロンの中への水素の入射、陰イオン1020の形成を制御し、陰イオン源からの陰イオンの抽出を制御し、シンクロトロン130の中への陽子の入射940を制御し、及び又は、抽出960と組み合わせた方法で加速を制御950し、呼吸周期の選択されたポイントにおいて腫瘍に対して陽子268を配送する970。上述したように、陽子ビームの強度もこの段階で主制御部110によって選択可能になり、制御可能になる。磁場制御部からのフィードバック制御は、主偏向磁石250の1つ若しくは双方、又は主偏向磁石250内の補正コイル380、390に対して任意に電力供給を行う。供給する電流を小さくすることによって、補正コイル380、390は、新たに選択された加速周波数又は対応する荷電粒子のエネルギーレベルに対して迅速に調整できる。特に、磁場制御部は、患者の呼吸周期に連動している主偏向磁石又は補正コイルに対して供給される磁場を変更する。このシステムは、電流が一定の値に安定化され、且つ、固定した周期の10又は20サイクル/秒のように、1つの周期でシンクロトロンがパルスを配送するようなシステムとは、全く対照的である。補正コイルと組み合わせた磁場のフィードバックの設計により、抽出の周期を患者の呼吸の変化速度に整合することが好ましい。その整合においては、第1の呼吸周期1010のPは、第2の呼吸周期1015のPとは異なる。
【0095】
この実施形態においては、ある好適な実施形態を参照して本発明を説明したが、当業者は、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、この明細書において上記した実施形態に置き換えることができる他の応用例を容易に想到するであろう。したがって、本発明は、本願に添付された特許請求の範囲によってのみ限定されることになる。
【0096】
(関連出願の相互参照)
本出願は、
米国仮特許出願61/055,395(2008年5月22日出願)、
米国仮特許出願61/137,574(2008年8月1日出願)、
米国仮特許出願61/192,245(2008年9月17日出願)、
米国仮特許出願61/055,409(2008年5月22日出願)、
米国仮特許出願61/203,308(2008年12月22日出願)、
米国仮特許出願61/188,407(2008年8月11日出願)、
米国仮特許出願61/209,529(2009年3月9日出願)、
米国仮特許出願61/188,406(2008年8月11日出願)、
米国仮特許出願61/189,815(2008年8月25日出願)、
米国仮特許出願61/208,182(2009年2月23日出願)、
米国仮特許出願61/201,731(2008年12月15日出願)、
米国仮特許出願61/208,971(2009年3月3日出願)、
米国仮特許出願61/205,362(2009年1月12日出願)、
米国仮特許出願61/134,717(2008年7月14日出願)、
米国仮特許出願61/134,707(2008年7月14日出願)、
米国仮特許出願61/201,732(2008年12月15日出願)、
米国仮特許出願61/198,509(2008年11月7日出願)、
米国仮特許出願61/134,718(2008年7月14日出願)、
米国仮特許出願61/190,613(2008年9月2日出願)、
米国仮特許出願61/191,043(2008年9月8日出願)、
米国仮特許出願61/192,237(2008年9月17日出願)、
米国仮特許出願61/201,728(2008年12月15日出願)、
米国仮特許出願61/190,546(2008年9月2日出願)、
米国仮特許出願61/189,017(2008年8月15日出願)、
米国仮特許出願61/198,248(2008年11月5日出願)、
米国仮特許出願61/198,508(2008年11月7日出願)、
米国仮特許出願61/197,971(2008年11月3日出願)、
米国仮特許出願61/199,405(2008年11月17日出願)、
米国仮特許出願61/199,403(2008年11月17日出願)、
米国仮特許出願61/199,404(2008年11月17日出願)、
の利益を主張し、及び
PCT特許出願PCT/RU2009/00015「Multi-Field Charged Particle Cancer Therapy Method and Apparatus:マルチフィールド荷電粒子の癌治療の方法及び装置(2009年3月4日出願)」
について優先権を主張する。
これらのすべては、これらの開示内容を引用することにより、その全部がこの出願に組み込まれている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心を有するシンクロトロンから周回中の荷電粒子ビームを抽出する抽出装置であって、
抽出部材と、
一対の抽出羽根の両端にわたって印加される少なくとも1kVの直流電圧と、
偏向器と、を備え、
周回中の荷電粒子ビームが前記抽出部材を通過することによって低下したエネルギーの荷電粒子ビームを生じ、
低下したエネルギーの荷電粒子ビームが前記一対の抽出羽根の間を通過し、
前記直流電圧が低下したエネルギーの荷電粒子ビームを前記偏向器によって転送し、
前記偏向器が抽出された荷電粒子ビームを出力する、構成とした
ことを特徴とする抽出装置。
【請求項2】
前記抽出部材は、基本的には6個以下の陽子を含む原子を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項3】
前記偏向器は、ラムバーソン磁石を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の抽出装置。
【請求項4】
前記抽出部材は、
ベリリウム、
水素化リチウム、及び
カーボン、のいずれかを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項5】
前記抽出部材は、厚さが約30乃至100マイクロメーターの箔を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の抽出装置。
【請求項6】
羽根を有する一対のベータトロン振動器をさらに備え、周回中の荷電粒子ビームは、抽出期間において、羽根を有する前記一対のベータトロン振動器を横断する構成とした
ことを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項7】
前記抽出部材は、厚さが約150マイクロメーターより薄い箔を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項8】
羽根を有する一対のベータトロン振動器にわたって印加される高周波電圧が、周回中の荷電粒子ビームに対してベータトロン振動を誘導する構成とした
ことを特徴とする請求項7に記載の抽出装置。
【請求項9】
前記シンクロトロンの前記中心及び前記一対の抽出羽根の間の第1の距離は、前記シンクロトロンの前記中心及び羽根を有する前記一対のベータトロン振動器の間の第2の距離より小さい距離である抽出装置であって、
周回中の荷電粒子ビームは、前記ベータトロン振動器の羽根を通過する曲率半径を有し、
前記抽出部材を通過したことによって生じた低下したエネルギーの荷電粒子ビームは、前記抽出羽根を通過する曲率半径を有する、構成とした
ことを特徴とする請求項8に記載の抽出装置。
【請求項10】
呼吸信号を発生する患者呼吸監視部をさらに備え、荷電粒子ビームの抽出のタイミングが前記呼吸信号に同期する構成とした
ことを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項11】
主制御部をさらに備え、前記主制御部が、
(1)荷電粒子の入射のタイミング、
(2)荷電粒子の加速のタイミング、及び
(3)前記呼吸信号に同期した前記高周波電圧のタイミング、
をすべて制御する構成とした
ことを特徴とする請求項10に記載の抽出装置。
【請求項12】
前記一対のベータトロン振動器の羽根の内側の羽根が、前記一対のベータトロン振動器の羽根の外側の羽根と共用部分を有する
ことを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項13】
抽出された荷電粒子ビームの強度をフィードバック制御によって制御する強度制御部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項14】
周回中の荷電粒子ビームが前記抽出部材を通過することによって生じる誘導電流が、前記強度制御部に対するフィードバック入力を含む構成とした
ことを特徴とする請求項13に記載の抽出装置。
【請求項15】
呼吸信号を生成する呼吸監視部をさらに備え、抽出された荷電粒子ビームは、前記呼吸信号を用いて患者の呼吸に合わせて同期される構成とした
ことを特徴とする請求項9に記載の抽出装置。
【請求項16】
抽出された荷電粒子ビームの強度をフィードバック制御によって制御する強度制御部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項17】
周回中の荷電粒子ビームが前記抽出部材を通過することによって誘導電流が発生し、前記誘導電流が前記強度制御部へのフィードバック入力を含む構成とした
ことを特徴とする請求項16に記載の抽出装置。
【請求項18】
前記強度制御部は、周回中の荷電粒子ビームに対するベータトロン振動を含む高周波を変更する構成とした
ことを特徴とする請求項16に記載の抽出装置。
【請求項19】
少なくとも1つの方向転換磁石をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項20】
前記方向転換磁石が第1の磁石を収束する磁場を備える抽出装置であって、前記第1の磁石は、
周回中の荷電粒子ビームが中を通って周回するギャップと、
前記ギャップに接触しない第1の断面直径と、
前記ギャップに近接する第2の断面直径であって、前記第2の断面直径が、前記第1の断面直径の70パーセントより小さく、前記第1の断面直径を通過する磁場が、前記前記ギャップと交差する前に、前記第2の断面直径に収束する、構成とした
ことを特徴とする請求項19に記載の抽出装置。
【請求項21】
中心を有するシンクロトロンから周回中の荷電粒子ビームを抽出する抽出方法であって、
抽出部材の中に周回中の荷電粒子ビームを送出して、前記抽出部材が低下したエネルギーの荷電粒子ビームを発生する工程と、
第1の一対の羽根にわたって少なくとも500Vを印加する工程と、
低下したエネルギーの荷電粒子ビームを前記第1の一対の羽根の間に通過させる工程と、を有する抽出方法であって、
前記第1の一対の羽根が、低下したエネルギーの荷電粒子ビームを偏向器に転送する工程と、
前記偏向器が、抽出された荷電粒子ビームを出力する工程と、を有する
ことを特徴とする抽出方法。
【請求項22】
前記抽出部材は、基本的には6個以下の陽子を含む原子を有する工程によって構成される
ことを特徴とする請求項21に記載の抽出方法。
【請求項23】
前記抽出部材は、
ベリリウム、
水素化リチウム、及び
カーボン、のいずれかを有する工程によって構成される
ことを特徴とする請求項21に記載の抽出方法。
【請求項24】
前記抽出部材は、厚さが約40乃至60ミクロンの箔を有する工程によって構成される
ことを特徴とする請求項23に記載の抽出方法。
【請求項25】
第2の一対の羽根を用いてベータトロン振動を誘導する工程をさらに有し、周回中の荷電粒子ビームが、前記転送する工程の前に、前記第2の一対の羽根の間を通過する工程を有する
ことを特徴とする請求項21に記載の抽出方法。
【請求項26】
前記抽出部材は、厚さが100ミクロンより薄い箔を有する工程によって構成される
ことを特徴とする請求項21に記載の抽出方法。
【請求項27】
周回中の荷電粒子ビームの周回経路を変更するために、第2の一対の羽根にわたって高周波電圧を印可する工程をさらに有する
ことを特徴とする請求項26に記載の抽出方法。
【請求項28】
前記シンクロトロンの前記中心及び前記第1の一対の羽根の間の第1の距離が、前記シンクロトロンの前記中心及び前記第2の一対の羽根の間の第2の距離より小さい距離である場合の抽出方法であって、
周回中の荷電粒子ビームが、前記第2の一対の羽根を通過する第2の曲率半径を有し、
前記抽出部材の中に転送されたことによって生じた低下したエネルギーの荷電粒子ビームが、前記第1の一対の羽根を通過する第1の曲率半径を有し、
前記低下したエネルギーの荷電粒子ビームが、前記周回中の荷電粒子ビームの内側の直径内で前記シンクロトロンから出る、ように構成する工程を有する
ことを特徴とする請求項26に記載の抽出方法。
【請求項29】
フィードバック制御を用いた強度制御部によって、抽出された荷電粒子ビームの強度を制御する工程をさらに有する
ことを特徴とする請求項28に記載の抽出方法。
【請求項30】
周回中の荷電粒子ビームが前記抽出部材を通過することによって誘導電流が発生し、前記誘導電流が、前記強度制御の工程に対するフィードバック入力を有する
ことを特徴とする請求項29に記載の抽出方法。
【請求項31】
フィードバック制御を用いた強度制御部によって、抽出された荷電粒子ビームの強度を制御する工程をさらに有する
ことを特徴とする請求項21に記載の抽出方法。
【請求項32】
周回中の荷電粒子ビームが前記抽出部材を通過することによって誘導電流が発生し、前記誘導電流が、前記強度制御の工程に対するフィードバック入力を有する
ことを特徴とする請求項31に記載の抽出方法。
【請求項33】
前記強度制御部は、周回中の荷電粒子ビームの変更された軌道を誘導する印加される高周波の期間を変更する工程を有する
ことを特徴とする請求項32に記載の抽出方法。
【請求項34】
シンクロトロンから周回中の荷電粒子ビームを抽出する抽出方法であって、
抽出部材の中に周回中の荷電粒子ビームを送出して、前記抽出部材が低下したエネルギーの荷電粒子ビームを発生する工程と、
一対の抽出羽根にわたって少なくとも500Vの電場を印加する工程と、
低下したエネルギーの荷電粒子ビームを前記一対の抽出羽根の間に通過させる工程と、を有する抽出方法であって、
前記電場が、抽出された荷電粒子ビームとして低下したエネルギーの荷電粒子ビームを転送する工程を有する
ことを特徴とする抽出方法。
【請求項35】
前記送出する工程を患者の呼吸信号に同期させる工程をさらに有する
ことを特徴とする請求項34に記載の抽出方法。
【請求項36】
前記転送する工程の前に、周回中の荷電粒子ビームに対してベータトロン振動を誘導する工程をさらに有する抽出方法であって、
前記誘導する工程が、周回中の荷電粒子ビームの選択されたエネルギーレベルにおいて発生し、
ベータトロン振動が、前記送出する工程が低下したエネルギーの荷電粒子ビームを生じるまで、周回中の荷電粒子ビームの平均曲率半径を小さくし、
前記選択されたエネルギーレベルにおける前記誘導する工程が、抽出された荷電粒子ビームの制御されたエネルギーを生じる、ように構成する工程を有する
ことを特徴とする請求項34に記載の抽出方法。
【請求項37】
強度制御部によって、抽出された荷電粒子ビームの制御されたエネルギーの強度を制御する工程をさらに有する
ことを特徴とする請求項36に記載の抽出方法。
【請求項38】
前記制御する工程は、
前記強度制御部に対してフィードバック信号を入力し、前記送出する工程が、周回中の荷電粒子ビームが前記抽出部材を叩く処理の中で放出された電子を生じ、放出された電子が前記フィードバック信号に変換される工程と、
前記フィードバック信号を照射設定強度と比較する工程と、
前記フィードバック信号が前記照射設定強度とほぼ等しくなるまで、前記強度制御部によってベータトロン振動を調整する工程と、を有する抽出方法であって、
抽出された荷電粒子ビームの制御されたエネルギーが独立して強度制御される
ことを特徴とする請求項37に記載の抽出方法。
【請求項39】
(1)選択されたエネルギーになるまで荷電粒子ビームを加速した後、及び(2)前記抽出部材の中に周回中の荷電粒子ビームを送出する工程の前に、周回中の荷電粒子ビームの中心から外側に向かう移動に変化を誘導する工程と、
荷電粒子ビームが前記抽出部材を送出することによって生じた電子の流れを用いて、前記抽出された荷電粒子ビームの強度を制御する工程と、をさらに有する
ことを特徴とする請求項34に記載の抽出方法。
【請求項40】
前記抽出された荷電粒子ビームのエネルギー制御は、前記抽出された荷電粒子ビームの強度を制御とは独立しているように構成する工程を有する
ことを特徴とする請求項39に記載の抽出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−523169(P2011−523169A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510456(P2011−510456)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際出願番号】PCT/RU2009/000252
【国際公開番号】WO2009/142550
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510308920)
【Fターム(参考)】