説明

荷電粒子線成形用アパーチャ、及び荷電粒子線露光装置

【課題】 本願の目的は、ゲッタポンプを用いて荷電粒子源周辺を排気する構成において、荷電粒子源駆動中の排気性能の低下を抑制する。
【解決手段】 荷電粒子線の成形を行うアパーチャであって、前記アパーチャは表面に非蒸発型ゲッタポンプを有し、前記非蒸発型ゲッタポンプが前記荷電粒子線の照射を受ける位置に設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム等の荷電粒子線を用いた装置に使用される電子光学系の技術分野に属し、特に露光装置に用いられる電子光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの生産において、電子ビーム露光技術は、0.1μm以下の微細パターン露光を可能とするリソグラフィの有力候補である。電子ビーム露光技術が現在抱える大きな課題であるスループットの向上のため、マスクを用いずに複数本の電子ビームで同時に被露光物にパターンを描画する、いわゆるマルチビームシステムの提案がなされている。
【0003】
マルチビームシステムでは、高出力の電子源または電子源群から照射された電子ビームを1次元または2次元のアレイ状に配列した電子光学系に導入し複数本の電子ビームを得る。ビームの成形には開口をアレイ状に配列したアパーチャ(絞り)が用いられる。
【0004】
電子ビーム露光装置は気体分子の電離や電極等部材への付着、放電等を回避するためその電子源および電子光学系を真空チャンバ内に配置し、内部を真空に保って使用する。特に電子源(荷電粒子源)は、熱による放出部の蒸発やイオン化した雰囲気ガスのイオン衝撃などによってその寿命を劣化させてしまうため、電子源周辺は高い真空度を要求する。
【0005】
電子源周辺の真空度を向上させるため、チャンバ全体とは別の排気装置を電子源近傍に設置する技術が知られている。例えば排気装置として、ゲッタポンプを装置内壁に配置し排気する技術が知られている。ゲッタには、大きく分けて「蒸発型ゲッタ」と「非蒸発型ゲッタ(Non−Evaporable Getter:以降NEGと呼ぶことがある。)」の2種類がある。
【0006】
蒸発型ゲッタは、真空中で容器内面に蒸着した金属膜をそのままポンプとして利用する(蒸発型ゲッタポンプ)ものである。蒸発型ゲッタの代表的な材料としてはバリウム(Ba)がある。
【0007】
一方、非蒸発型ゲッタは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V
)などの金属、またはそれらを主成分とする合金から成り、容器内壁面等に蒸着やスパッタ等によって形成される。非蒸発型ゲッタは、真空中または不活性ガス等の雰囲気下で加熱されることで、その表面に吸着された気体(例えば水素、酸素、窒素等)が内部へ拡散し、最表面に清浄な金属面が露出する。これにより、真空中の残留ガスが非蒸発型ゲッタに吸着する(非蒸発型ゲッタポンプ)。この加熱プロセスは「活性化」と呼ばれる。どちらの形式のゲッタも溜めこみ式のポンプであり、ガスを吸着するにつれてその排気性能が低下するという特徴を持っている。
【0008】
前記ゲッタポンプとして蒸発型ゲッタを用いる技術として特許文献1のような技術が知られている。蒸発型ゲッタは、排気性能が低下した際にゲッタとなる材料を再度蒸発させて、新たな金属膜を排気性能が低下した金属膜上に形成することで排気性能を回復することができる。しかし、蒸発型ゲッタポンプは、ゲッタ金属の蒸発時に当該ゲッタ金属粒子等がチャンバ内に飛散し、一定の期間空間中に存在する(浮遊する)ことによって、電子線と衝突して電子線の進行を阻害する、課電流資源を汚染する、被露光物を汚染する場合がある等の問題がある。
【0009】
また、前記ゲッタポンプとして非蒸発型ゲッタを用いる技術として特許文献2のような技術がある。非蒸発型ゲッタポンプは、排気性能が低下した際にゲッタを加熱し、活性化することで排気性能を回復することができる。しかし、従来の非蒸発型ゲッタは一般に焼結体が用いられているため、加熱方法(活性化方法)によっては発塵を伴う場合があった。例えば電子線照射等の荷電粒子線により、加熱を行うと、発塵が伴う場合があるため、電子線照射により焼結体からなる非活性型ゲッタを発塵を伴わないで活性化することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−214480号公報
【特許文献2】特開2010−10125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願の目的は、ゲッタポンプを用いて荷電粒子源周辺を排気する構成において、荷電粒子源周辺を汚染することなく、簡易な構成で荷電粒子源駆動中の排気性能の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
荷電粒子線の成形を行うアパーチャであって、前記アパーチャは表面に非蒸発型ゲッタを含み、前記非蒸発型ゲッタは前記アパーチャの前記荷電粒子線の照射を受ける位置に設置されることを特徴とする。
【0013】
また、荷電粒子線発生手段と、前記荷電粒子線の成形を行うアパーチャと、前記荷電粒子線を被露光物に照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系を排気するための排気手段と、前記荷電粒子線発生手段の周辺を排気する補助真空ポンプと、を備えた荷電粒子線露光装置において、前記補助真空ポンプは非蒸発型ゲッタを含み、前記非蒸発型ゲッタは前記アパーチャの表面であって、前記荷電粒子線の照射を受ける位置に設置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非蒸発型ゲッタによって構成されるゲッタ(ゲッタポンプ)は荷電粒子線(荷電粒子ビーム)の照射を受け、そのエネルギーによって活性状態を保つ。そのため、排気能力の劣化を抑制することができる。さらに室温状態よりも高い排気性能を持つ活性状態を維持することができるため、長期間荷電粒子源周辺の真空度を高く保つことができる。また、電子線が照射される位置にゲッタが配置されているため、高真空度が必要な荷電粒子源までのコンダクタンスが小さく、荷電粒子源周辺が良好な真空に保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アパーチャ概略図
【図2】ゲッタ形成工程
【図3】電子線露光装置概略図1
【図4】電子線露光装置概略図2−真空形成部
【図5】結晶性とHO排気特性の関係
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例により、本願の実施の形態について説明するが、本発明はこれらの記載によって何ら限定されるものではない。
【0017】
本発明において、荷電粒子光学系とは、荷電粒子源で発生した荷電粒子線を被露光物に照射するまでの構成全体を意味する。また補助真空ポンプとは、荷電粒子線発生手段の周辺を排気する真空ポンプであって、ゲッタポンプを意味する。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
図1〜3を用いて、本発明のアパーチャの実施例1を説明する。
【0019】
図1(a)は本発明のアパーチャの上面図である。荷電粒子線のうち一部はアパーチャ001により遮られ、一部はアパーチャに設けられた貫通孔002を通過して被露光物へと照射される。このようなアパーチャを1つ又は複数組み合わせて、荷電粒子線の経路上に配置することにより、前記アパーチャの貫通孔を通過した荷電粒子線は所定の数に分割され、及び/又は所定の形状に成形される。
【0020】
図1(b)は図1(a)内A−A‘で示される断面における断面図である。アパーチャ003の荷電粒子線(荷電粒子ビーム)が照射される側の面にゲッタ004を配置している。アパーチャ003、ゲッタ004は共に荷電粒子線を透過する貫通孔002を有している。
【0021】
図1中では、アパーチャは2次元状に配列された複数の断面形状が円形状の貫通孔を有しているが、1次元状配列であってもよい。また複数でなく1つの貫通孔であってもよいし、貫通孔の断面の形状は図1のような円形状でなく、多角形状や他の任意の形状の空孔であっても良い。
【0022】
図2は本発明のアパーチャに補助真空ポンプとして機能するゲッタを設ける工程を示すアパーチャの断面図である。
【0023】
また図1(b)中ではアパーチャ003の荷電粒子線が照射される側の面の貫通孔002が形成された領域以外の領域の全面にとゲッタ004が配置されている形態を示している。しかし、本発明はこのような形態に限定されるものではなく必ずしもアパーチャ003の荷電粒子線が照射される側の面の貫通孔002が、形成されていない領域の全面にゲッタ004が配置される必要はない。例えば、アパーチャ003に形成された貫通孔002の内径の精度としてより高い精度を要求する場合には、ゲッタ004を配置する領域(位置)を調整する必要がある。また、アパーチャの荷電粒子線が照射される面に対して所定の角度をもって荷電粒子線(荷電粒子ビーム)が入射する際等に、入射経路上のアパーチャの開口幅(開口径)を所定の幅で確保する必要がある場合には、ゲッタ004を配置する領域(位置)を調整する必要がある。具体的には、図2(c)に示すように、アパーチャ003の荷電粒子線が照射される側の面の貫通孔002が形成された領域及び貫通孔の周辺の領域を除いた領域にゲッタ004を配置する。荷電粒子線の軌道上にゲッタが存在しないようにゲッタに設けられた貫通孔の内径をアパーチャの貫通孔の内径より大きくなるように構成するとよい。このとき、ゲッタの貫通孔の内径とアパーチャの貫通孔の内径との大きさの差はゲッタの膜厚と同等かその数倍程度あれば十分である。またこのような構成とした場合、ゲッタの貫通孔の大きさを大きくした分、ゲッタの面積は小さくなるが、ゲッタ全体の面積に対して減少した面積は十分小さいため補助真空ポンプであるゲッタポンプとしての排気能力は大きく低下することはない。本発明のゲッタを備えたアパーチャによって荷電粒子線発生手段周辺の真空度を高めることができる。
【0024】
また、その他の構成として、必要に応じてアパーチャの貫通孔の内壁にも非蒸発型ゲッタを形成(配置)しても良い。このような構成とすることによりゲッタポンプの排気能力を相対的に高めることができる。
【0025】
本発明の非蒸発型ゲッタは比表面積の大きな所定の金属材料からなる金属膜および金属積層膜を用いることができる。ただし、非蒸発型ゲッタとして広く用いられている焼結体型の非蒸発型ゲッタは、荷電粒子照射による発塵の恐れがあるため本発明の非蒸発型ゲッタとしては適さない。
【0026】
また本発明において、ゲッタ(ゲッタ層)はアパーチャ上に少なくとも1層設ければ良いが、2層以上の多層構成としても良い。1層目のゲッタの排気能力が、熱処理等による活性化によっても回復しなくなった場合に、当該1層目のゲッタ上に2層目の新規なゲッタを形成することもできる。
【0027】
ゲッタの成膜方法としては、プラズマ溶射法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、抵抗加熱蒸着法など任意の成膜方法を用いることができる。
【0028】
以下に、本実施形態の具体的な材料、寸法例を示す。
【0029】
本実施例のアパーチャ003は単結晶Siによって構成されている。アパーチャ003に用いる材料としては、熱伝導性を高めるためにSi、Cu、W、Moなどの金属を用いることが好ましい。ゲッタ004に用いる金属材料としてはTi、Zr、Vやその合金を用いるのが好ましい。本実施例では、非蒸発型ゲッタ材料としてTiを用いている。
【0030】
以下に図2を用いて本実施形態の具体的な製造方法例を示す。アパーチャ003は単結晶シリコン基板にフォトリソグラフィと深堀ドライエッチングを用いて貫通孔を形成する。シリコン基板の厚さは525μm、貫通孔の内径は18μmである。次に、アパーチャ003上にゲッタ004をリフトオフパターニングを用いて以下の手順で形成する。先ず、前記貫通孔を形成したシリコン基板にポジレジストを塗布し、貫通孔付近をマスクして露光、現像すると、図2(a)に示すように空孔がレジスト007で充填される。このとき、貫通孔内部だけでなく、貫通孔の周辺部にもレジストを残存させることによって、貫通孔の内径よりも大きい内径を有する貫通孔をゲッタ(ゲッタ層)に形成することができる。続いて、図2(b)に示すように、前記レジストをパターニングしたアパーチャにTiをゲッタ層として成膜する。成膜法としてはスパッタリング法を用いた。膜厚は900nmである。成膜条件を表1に示す。最後に、レジスト層を剥離すると図2(c)のようにゲッタ層008がリフトオフパターニングされる。以上の工程によって、本発明の荷電粒子線の照射を受ける位置にゲッタを持つアパーチャを作製することができる。また、図2においては、レジスト層を1層とする構成を示しているが、必要に応じて複数層のレジストを積層してパターニング加工することもできる。 レジスト層を複数層形成する際に、レジストを形成する領域をレジスト層毎に異ならせることで、積層したレジストの断面形状をテーパ状又は階段状に形成することができる。例えばレジストの断面形状をギャクテーパ状に形成することにより、ゲッタ層をリフトオフする際にバリ等の発生を抑制することができるためより好適である。
【0031】
(実施例2)
図3、4を用いて本発明の第2の実施例である荷電粒子線露光装置を説明する。
【0032】
図3は本発明の第1の実施例と同じ構成のアパーチャを用いたマルチ荷電粒子線露光装置の構成を示す図である。本実施形態は個別に投影系をもついわゆるマルチカラム式である。
【0033】
荷電粒子源108からアノード電極110によって引き出された放射荷電粒子線は、クロスオーバー調整光学系111によって照射光学系クロスオーバー112を形成する。
【0034】
ここで荷電粒子源108としてはLaB6やBaO/W(ディスペンサーカソード)などのいわゆる熱電子型の電子源が用いられる。
【0035】
クロスオーバー調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、1段目・2段目共に静電レンズは3枚の電極からなり、中間電極に負の電圧を印加し上下電極は接地する、いわゆるアインツェル型の静電レンズである。
【0036】
照射光学系クロスオーバー112から広域に放射された荷電粒子線は、コリメータレンズ115によって平行ビーム(荷電粒子ビーム)となり、アパーチャ117へと照射される。
【0037】
アパーチャ117には実施例1で示した製造方法で作製したアパーチャを用いた。前述のようにアパーチャ117には荷電粒子線が照射されるため、ゲッタが活性化され、ゲッタポンプの排気能力は良好な状態で維持されるため、荷電粒子源108周辺の真空度を高く保つことができる。またこのとき、荷電粒子線が照射されたゲッタからの発塵も発生しないため、周囲を汚染することはなく雰囲気は清浄に保たれる。
【0038】
アパーチャ117によって分割されたマルチ荷電粒子線118は、集束レンズアレイ119によって個別に集束され、ブランカーアレイ122上に結像される。
【0039】
ここで集束レンズアレイ119は3枚の多孔電極からなる静電レンズアレイであり、3枚の電極のうち中間の電極のみ負の電圧を印加し上下電極は接地する、いわゆるアインツェル型の静電レンズアレイである。
【0040】
またアパーチャ117はNA(収束半角)を規定する役割も持たせるため、集束レンズアレイ119の瞳面位置(集束レンズアレイの前側焦点面位置)に置かれている。
【0041】
ブランカーアレイ122は個別の偏向電極を持ったデバイスで、描画パターン発生回路102、ビットマップ変換回路103、ブランキング指令回路107によって生成されるブランキング信号に基づき、描画パターンに応じて個別に荷電粒子線のon/offを行う。
【0042】
荷電粒子線がonの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極には電圧を印加せず、荷電粒子線がoffの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極に電圧を印加してマルチ荷電粒子線を偏向する。ブランカーアレイ122によって偏向されたマルチ荷電粒子線125は後段にあるストップアパーチャ123によって遮断され、荷電粒子線がoffの状態となる。
【0043】
本実施例においてブランカーアレイは2段で構成されており、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャ123と同じ構造の、第2ブランカーアレイ127および第2ストップアパーチャ128が後段に配置されている。
【0044】
ブランカーアレイ122を通ったマルチ荷電粒子線は第2集束レンズアレイ126によって第2ブランカーアレイ127上に結像される。さらにマルチ荷電粒子線は第3・第4集束レンズによって集束されてウエハー133上に結像される。ここで、第2集束レンズアレイ126・第3集束レンズアレイ130・第4集束レンズアレイ132は集束レンズアレイ119同様に、アインツェル型の静電レンズアレイである。
【0045】
第4集束レンズアレイ132は対物レンズとなっており、その縮小率は100倍程度に設定される。これにより、ブランカーアレイ122の中間結像面上の荷電粒子線121(スポット径がFWHMで2μm)が、ウエハー133面上で100分の1に縮小され、FWHMで20nm程度のマルチ荷電粒子線が試料(被露光物)であるウエハー上に結像される。ここでFWHMとは、半値全幅 (full width at half maximum)を意味する。
【0046】
ウエハー上のマルチ荷電粒子線のスキャンは偏向器131で行うことができる。偏向器131は対向電極によって形成されており、x、y方向について2段の偏向を行うために4段の対向電極で構成される(図中では簡単のため2段偏向器を1ユニットとして表記している)。偏向器131は偏向信号発生回路104の信号に従って駆動される。
【0047】
パターン描画中はウエハー133はX方向にステージ134によって連続的に移動する。またレーザー測長機による実時間での測長結果を基準としてウエハー面上の荷電粒子線135が偏向器131によってY方向に偏向される。ブランカーアレイ122及び第二ブランカーアレイ127は描画パターンに応じて荷電粒子線のon/offを個別に行う。これにより、ウエハ133面上に所望のパターンを高速に描画することができる。
【0048】
以上の構成のうち、制御回路を除く電子光学系は図4に示すようにチャンバ136内に設置されており、チャンバ136内部はターボ分子ポンプ137にて排気されている。チャンバ内の圧力は圧力計A138と圧力計B139で測定している。
【0049】
アパーチャ117として、通常の表面にゲッタを配置しないアパーチャを用いた場合のチャンバ内圧力は、圧力計A、圧力計Bともに1×10−3 [Pa]を示した。アパーチャ117として実施の形態1にて示した製造方法にて作製したアパーチャを用いた場合のチャンバ内圧力は、圧力計Aが1×10−3[Pa]、圧力計Bが5×10−5 [Pa]を示した。
【0050】
本実施の形態で荷電粒子源の寿命評価を行ったところ、本願のアパーチャを用いた場合荷電粒子源の劣化が抑制されていることが確認された。
【0051】
本実施例ではアパーチャ117に実施例1に示した方法で作製したアパーチャを用いた場合を例に示したが、他の荷電粒子照射を受ける部材にゲッタを配置しても同様の効果が期待できる。例えば、ストップアパーチャ123、128の荷電粒子照射を受ける部分にゲッタを配置してもよい。
【0052】
(実施例3)
図5を用いて本発明の第3の実施例であるアパーチャの最表面部に多結晶金属堆積膜を持つゲッタを有する構成を説明する。
【0053】
本実施形態の説明をする前に、非蒸発型ゲッタの排気能力と非蒸発型ゲッタの結晶性の関係について説明する。
【0054】
活性化された非蒸発型ゲッタはその最表面に活性な金属層を持ち、飛来した気体分子と化学結合し吸着することで排気を行う。非蒸発型ゲッタの排気能力は気体分子を吸着する表面積が大きいほど吸着量が増加するため、その比表面積が大きい程、アパーチャの単位面積当たりに形成したゲッタの排気能力が大きくなる。
【0055】
結晶性が高く結晶子サイズが大きい、いわゆる緻密な金属層の場合には、その緻密さ故に充填率(密度)が大きくなり比表面積が小さくなる。また、結晶性が低く結晶子サイズの極めて小さい、いわゆるアモルファスな金属層の場合には、構造体を作らないが故に層としての充填率(密度)が高く、この場合もまた、比表面積が小さくなる。
【0056】
これに対して、前者二つの中間にあたる結晶性、結晶子サイズを持つ金属層の場合には、金属層は適度な多結晶構造を有する。多結晶構造の金属層はその微細結晶構造の積み重なりにより、充填率が低く空孔の多い層構造となる(適当な空隙率を有する)。そのため、比表面積が大きくなり非蒸発型ゲッタとして用いた場合にその排気能力が大きくなる。
【0057】
結晶性の異なる非蒸発型ゲッタを作製し、結晶性と排気能力との関係を測定した。測定に用いた結晶性が高く緻密なゲッタA、多結晶膜であるゲッタB、結晶性が低くアモルファス構造を有するゲッタCを以下の手順で形成した。
【0058】
先ず、平板ガラス状に凹凸の大きなTi膜ゲッタをスパッタリングによって成膜する。続けて成膜条件を変えて結晶性を変えたZrをスパッタリング成膜によって形成する。成膜条件を表2に示す。Zrの下層としてTi膜ゲッタを用いたのは、凹凸を作ることで排気能力を高め、測定を容易にするためである。
【0059】
測定した結晶性と活性化直後のHO排気速度との関係を図5に示す。結晶性の尺度としては結晶子サイズを用いている。結晶子サイズはXRD(X線回折)のピークの半値幅からScherrerの式「D=Kλ/βcosθ」を用いて換算した。測定に用いた結晶面の方向は[100]面であり、Dは結晶子サイズの平均値、KはScherrer定数、λはX線の波長、βはXRD測定におけるピークの半値幅、θはXRD測定におけるピークの回折角である。ここでは、XRD測定に対して、PANalytical社製X’Pert PRO MRDを用いた。本明細書において、測定に用いたX線の波長λは1.5Åである。また、Scherrer定数K=0.9、ピーク回折角θ=35°の値を用いた。
【0060】
排気速度指標としてHOガスを選択したのは、装置内においても脱ガスを回避することが非常に難しく、高い排気能を求められるガス種であるからである。
【0061】
図5より、結晶子サイズの小さい領域および結晶子サイズの大きい領域で排気速度が小さくなり、非蒸発型ゲッタとして適切な結晶子サイズがあることがわかる。実用上は図5のグラフの半値幅を非蒸発型ゲッタとして有効に機能する領域であると規定することができ、図5からその有効な数値範囲は5nm以上15nm以下と見積もることができる。ここでまた測定装置に依存する係数等を考慮に入れると、Scherrer定数Kは0.9±0.3程度の幅を持ちうる。よって本発明においては、装置起因の誤差を考慮に入れて、非蒸発型ゲッタとして有効に機能する結晶子サイズは3nm以上20nm以下と規定できる。また金属多結晶では方向によって結晶子サイズが異なって見える場合があるため、平均として上記の結晶子サイズ範囲に入っていれば、層の全体構造には大きな影響は与えず、非蒸発型ゲッタの特性を損なうことがないため好ましい。
【0062】
また、本実施例では[100]面を用いて結晶子サイズを特定したが、任意の軸方向に関する結晶子サイズであっても、特定の軸方向に関する結晶子サイズであっても非蒸発型ゲッタの特性を損なわない。
【0063】
(実施例4)
実施例4は、実施例2として説明した荷電粒子線露光装置において、アパーチャ117の非蒸発型ゲッタとして実施例3にて成膜方法を示した試料Bと同様の多結晶ZrとTiの積層膜を用いた場合について説明する。
【0064】
この時、チャンバ内圧力は、圧力計Aが1×10−3 [Pa]、圧力計Bが1×10−5 [Pa]を示した。以上の結果から非蒸発型ゲッタの最表面層を多結晶膜としたことにより、荷電粒子源周辺の真空度の向上が確認できる。荷電粒子源の寿命測定を行ったところ、実施例2の場合よりも劣化が抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0065】
001、003 アパーチャ
002 貫通孔
004 ゲッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線の成形を行うアパーチャであって、前記アパーチャは非蒸発型ゲッタを含み、前記非蒸発型ゲッタは前記アパーチャの前記荷電粒子線の照射を受ける位置に設置されることを特徴とするアパーチャ。
【請求項2】
前記非蒸発型ゲッタが少なくとも1層の金属堆積膜を含み、前記金属堆積膜が多結晶構造を有し、その結晶子サイズが3nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアパーチャ。
【請求項3】
荷電粒子線発生手段と、前記荷電粒子線の成形を行うアパーチャと、前記荷電粒子線を被露光物に照射する荷電粒子光学系と、前記荷電粒子光学系を排気するための排気手段と、前記荷電粒子線発生手段の周辺を排気する補助真空ポンプと、を備えた荷電粒子線露光装置において、
前記補助真空ポンプは非蒸発型ゲッタを含み、前記非蒸発型ゲッタは前記アパーチャの表面であって、前記荷電粒子線の照射を受ける位置に設置されることを特徴とする荷電粒子線露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−45562(P2013−45562A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181579(P2011−181579)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】