説明

落書き防止作用を有するコーティング剤及びプラスチック体並びに製造方法

本発明は、一般式(I):RSiX4−n[式中、Rは炭素原子1〜20個を有する基を表し、Xは炭素原子1〜20個を有するアルコキシ基又はハロゲンを表し、かつnは0〜3の整数を表し、その際に異なる基X又はRはその都度同じか又は異なっていてよい]で示される有機ケイ素化合物及び/又はこれらから得ることができる前縮合物[その際に使用されるケイ素化合物の全質量に対してケイ素化合物の少なくとも50質量%が式RSiX(式中、R及びXは前記の意味を表す)により表されることができる]を、NMR分光法により測定されるRSiO1.5に対するRSiO(OH)の信号の比が0.6〜4の範囲内になるまで縮合させてポリシロキサンに変換し、かつこれらのポリシロキサン混合物に式(II):(R′′)Si(R′)(OR)(4−t−u)[式中、R′′はフッ素原子少なくとも3個を有する炭素原子1〜20個を有する基を表し、uは1又は2に等しく、かつtは0又は1に等しく、R及びR′は同じか又は異なり、かつ炭素原子1〜20個を有する基を表す]で示される化合物を添加することにより得ることができる落書き防止作用を有するコーティング剤に関する。さらに本発明は前記コーティング剤を用いて得ることができるコーティングを有するプラスチック体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落書き防止作用(Antigraffiti-Wirkung)を有するコーティング剤(Beschichtungsmittel)及びプラスチック体(Kunststoffkoerper)並びにこれらのプラスチック体の製造方法に関する。
【0002】
例えばガラス室のような構造要素、又は防音壁の権限のない塗りたくり及び吹付けにより、これらは見かけが悪くなり、しばしばもはやこれらの対象物の所有者の嗜好センスに従わない。故に多くの開発の目標は、そのような落書きの塗りたくられたものとのこれらの対象物の濡れを低下させることにある。落書きの付着を低下させるという目標を伴う仕上げ加工は当工業界において公知であり、その際に一般的に表面が疎水化される。
【0003】
表面に疎水性を付与するために、一連の可能性が技術水準から公知である。長期安定な、UV耐性の並びに撥油及び撥水性の表面を達成するために、フッ素化された化合物の使用が記載されている(例えばWO 92/21729)。それらの完全に望まれた表面特性に基づいて、そのようなフッ素化及び過フッ素化された化合物もしくはポリマーはしばしば、僅かに過ぎないかもしくは劣悪な付着特性を有する。これにより多様な基材上への耐久性の施与は高められた費用を伴ってのみ又は劣悪にのみ達成されうる。これらの化合物のさらなる欠点は、それらの不足している透明度及び多くの用途にとって不経済に高いそれらの価格にある。さらにこれらは、例えばポリフルオロエチレンがコーティングされた浅なべ及び深なべの場合に公知であるように、多くの用途にとって不十分な硬さである。
【0004】
表面の疎水化のためのさらなる可能性はシラン化学により与えられている。フッ素化された側鎖を有するそのようなシランは主に、ガラス及びセラミック基材を表面上でフッ素化するために使用される(例えばDE 100 51 182)。
【0005】
これらのフルオロシランは最近、複数の分子層を有するコートとして衛生セラミック上に及びコンクリートブロック疎水化(Betonsteinhydrophobierung)のために使用され、その際に全体として良好な防汚作用及びこれらのフルオロシランの透明度が強調されるべきである。
【0006】
しかしながら不利であるのは、これらがしばしば不十分な耐薬品性及び機械摩耗耐性を示すにすぎないことである。さらに基材への付着の問題も存在する。例えば、フッ素化された側鎖の影響は、基材側の減少された表面エネルギーもまねく。基材に応じてそれにより劣悪な付着が得られるか又は全く付着が得られもしない。また、基材へ向かって並びに表面へ向かってのフッ素化された側鎖の制御されない配向により、コーティングの所望の作用は低下されるか、もしくはこれらは完全に失われる(例えばDieter Stoye, Werner Freitag, Weinheim: WILEY-VCH Verlag GmbH, 1998, 改訂第2版, 28頁)。
【0007】
一連の落書き防止特性を有するコーティングが公知である(例えばEP 0628610A1、EP 0628614A1、EP 0587667B1、DE 19955047A1、DE 100 51 182)。しかしこれらは多様な理由から前記の要求には適していないことが判明している。
【0008】
EP 0628610A1及びEP 0628614A1においてUV硬化塗料が使用される。しかしこれらは、大面積へのそれらの適用において製造コストが高価すぎ(窒素下での硬化)、故に、例えば防音壁の分野における、大きなパネルの用途には適していない。そのうえそのようなコーティングの耐候安定性は要求の厳しい多くの用途にとって不十分である。
【0009】
EP 0587667B1には、非加水分解性フルオロアルキル基を有するシランを含有するコーティング剤が記載されている。この際にまず最初にポリシロキサンは縮合により形成され、その際にフッ素含有シランは、系の含水量が多くとも5質量%である場合にはじめて添加される。
【0010】
これらの縮合物のモル質量は、フッ素含有シランの添加の際に必然的に極めて高く、その際に例は計算上、フッ素含有シランの添加の際に縮合物の無限の分子量となる。高分子量ポリシロキサンの使用の必然性はこの刊行物において明示的に説明されている。好ましくは3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MEMO)縮合物が使用され、これらの縮合物はついで放射線硬化されるか、熱硬化されるか又は放射線−及び熱硬化される。放射線硬化はその際に前記の理由から対象とする用途に適していないことが判明している。熱硬化の際に、全てのC−C二重結合が完全に反応しないという可能性が存在する。これから結果としてしかし低下された耐候安定性が生じる。
【0011】
DE 19955047 A1においては窒素含有化合物が使用される。しかしながら当業者に公知であるように、これらの化合物は屋外暴露において黄変をまねく。
【0012】
DE 100 51 182においては所望の落書き防止効果がナノ粒子の使用により得られる。しかしながら当業者に公知であるように、塗料系中へのナノ粒子の配合の際にしばしばアグロメレートが形成する結果となる。その際に、400nmを上回っており、それゆえ基材の透明度を減少させる粒子が形成される可能性が存在する。
【0013】
故に技術水準のこれらのプラスチック体にとって問題となるのは、それらの僅かな耐引っかき性又はそれらの僅かな耐候性である。環境の影響によりコーティングが時間と共に黄変するので、コーティングされた対象物の美的印象は、もはや課された要求に従わない。さらにコーティングは清浄化措置により摩滅されうるので、落書き防止作用が弱まる。
【0014】
従って、本明細書に示され、かつ論じられた技術水準を考慮して、本発明の課題は、耐引っかき性でかつ耐候安定な落書き防止仕上げ加工を可能にするプラスチック基材用のコーティング剤を示すことであった。
【0015】
本発明のさらなる目標は、基材の性質を不都合に変えない、落書き防止作用を有するコーティング剤を提供することにあった。
【0016】
例えば、落書きの製造に使用されるスプレー塗料(Spraylacke)が、本発明による落書き防止仕上げ加工により、もはやプラスチック体上に付着しないべきであるか又は極めて弱くプラスチック体上に付着するに過ぎないべきであり、その際に吹き付けられた基材は容易に清浄化されることができるべきであるので、例えば水、布きれ、界面活性剤、高圧クリーナー、マイルドな溶剤(清浄化しやすい;“Easy-to-clean”)で十分である。
【0017】
本発明によるコーティング剤により得ることができる落書き防止作用を有するプラスチック体は、透明で、耐引っかき性で、長持ちし、かつ耐候性であるべきである。
【0018】
従って、さらにまた本発明の目標は、より長い期間に亘っても黄変せず、かつそれらの落書き防止作用を失わない、落書き防止作用を有するプラスチック体を提供することであった。
【0019】
さらに、特に単純に製造されることができる、落書き防止作用を有する耐引っかき性のプラスチック体を提供するという課題が本発明の基礎となっていた。例えば、プラスチック体の製造に特に、押出し、射出成形により並びに注型法により得ることができる基材が使用されることができるべきである。
【0020】
従って、さらにまた本発明の課題は、費用がかからずに製造されることができる、落書き防止作用を有するプラスチック体を提供することであった。
【0021】
本発明のさらなる課題は、卓越した機械的性質を示す、落書き防止作用を有する耐引っかき性のプラスチック体を示すことにあった。これらの性質は特に、プラスチック体が衝撃作用に対して高い安定性を有するべきである用途にとって重要である。
【0022】
さらにまた落書き防止作用を有するプラスチック体は特に良好な光学的性質を有するべきである。
【0023】
これらの課題並びに、確かに言葉により挙げられていないが、しかし本明細書に論じられた関連から自明のように誘導されることができるか、又はこれらから必然的にもたらされるさらなる課題は、請求項1に記載されたコーティング剤により解決される。本発明によるコーティング剤の好都合な変更態様は、請求項1を引用する従属請求項において保護下におかれる。
【0024】
プラスチック体に関連して請求項15は前により詳細に説明された課題の解決手段を提供する。
【0025】
製造方法に関連して請求項26は基礎となる課題の解決手段を提供する。
【0026】
一般式(I)
SiX4−n (I)
[式中、Rは炭素原子1〜20個を有する基を表し、Xは炭素原子1〜20個を有するアルコキシ基又はハロゲンを表し、かつnは0〜3の整数を表し、その際に異なる基X又はRはその都度同じか又は異なっていてよい]で示される有機ケイ素化合物及び/又はこれらから得ることができる前縮合物[その際に使用されるケイ素化合物の全質量に対してケイ素化合物の少なくとも50質量%が式RSiX(式中、R及びXは前記の意味を表す)により表されることができる]を、NMR分光法により測定されるRSiO1.5に対するRSiO(OH)の信号の比が1〜4の範囲内になるまで縮合させてポリシロキサンに変換し、かつこれらのポリシロキサン混合物に式(II)
(R′′)Si(R′)(OR)(4−t−u) (II)
[式中、R′′はフッ素原子少なくとも3個を有する炭素原子1〜20個を有する基を表し、uは1又は2に等しく、かつtは0又は1に等しく、R及びR′は同じか又は異なり、かつ炭素原子1〜20個を有する基を表す]で示される化合物を添加することにより、落書き防止作用を有するコーティング剤を提供することに成功し、これらを用いて特に高い耐引っかき性を有するプラスチック体が得られることができる。
【0027】
本発明による措置によりとりわけ、特に次の利点が達成される:
・ 本発明のコーティング剤により、表面上でのかき傷の形成に対して極めて不感受性であるプラスチック体を得ることができる。
・ 本発明によるコーティングが設けられているプラスチック体は、UV照射に対して高い耐性を示す。
・ さらに本発明によりコーティングされたプラスチック体は特に僅かな表面エネルギーを示す。
・ さらにまた本発明のプラスチック体及びコーティング剤は特に費用がかからずに製造されることができる。
・ 本発明の耐引っかき性のプラスチック体は、特定の必要条件に適合されることができる。特に、プラスチック体の大きさ及び形は幅広い範囲内で変えることができ、これにより耐引っかき性又は落書き防止特性は妨げられない。
・ さらに本発明は卓越した光学的性質を有するプラスチック体も提供する。
・ 本発明の耐引っかき性のプラスチック体は良好な機械的性質を有する。
【0028】
本発明のコーティング剤の製造のためには、一般式(I)
SiX4−n (I)
[式中、Rは炭素原子1〜20個を有する基を表し、Xは炭素原子1〜20個を有するアルコキシ基又はハロゲンを表し、かつnは0〜3の整数を表し、その際に異なる基X又はRはその都度同じか又は異なっていてよい]で示される有機ケイ素化合物及び/又はこれらから得ることができる前縮合物がポリシロキサンへ縮合される。
【0029】
“炭素1〜20個を有する基”という表現は炭素原子1〜20個を有する有機化合物の基のことを示している。この基は、炭素原子1〜20個を有するアルキル−、シクロアルキル−、芳香族基、アルケニル基及びアルキニル基、並びに炭素−及び水素原子に加えて特に酸素−、窒素−、硫黄−及びリン原子を有するヘテロ脂肪族及びヘテロ芳香族の基を含んでいる。その際に挙げられた基は分枝鎖状又は非分枝鎖状であってよく、その際に基Rは置換又は非置換であってよい。置換基には、特にハロゲン、炭素1〜20個を有する基、ニトロ−、スルホン酸−、アルコキシ−、シクロアルコキシ−、アルカノイル−、アルコキシカルボニル−、スルホン酸エステル−、スルフィン酸−、スルフィン酸エステル−、チオール−、シアニド−、エポキシ−、(メタ)アクリロイル−、アミノ−及びヒドロキシ基が属する。本発明の範囲内で“ハロゲン”という表現はフッ素−、塩素−、臭素−又はヨウ素原子のことを呼ぶ。
【0030】
好ましいアルキル基にはメチル−、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、1−ブチル−、2−ブチル−、2−メチルプロピル−、t−ブチル−、ペンチル−、2−メチルブチル−、1,1−ジメチルプロピル−、ヘキシル−、ヘプチル−、オクチル−、1,1,3,3−テトラメチルブチル−、ノニル−、1−デシル−、2−デシル−、ウンデシル−、ドデシル−、ペンタデシル−及びエイコシル−基が属する。
【0031】
好ましいシクロアルキル基にはシクロプロピル−、シクロブチル−、シクロペンチル−、シクロヘキシル−、シクロヘプチル−及びシクロオクチル−基が属し、これらは場合により分枝鎖状又は非分枝鎖状のアルキル基で置換されている。
【0032】
好ましいアルケニル基にはビニル−、アリル−、2−メチル−2−プロペン−、2−ブテニル−、2−ペンテニル−、2−デセニル−及び2−エイコセニル−基が属する。
【0033】
好ましいアルキニル基にはエチニル−、プロパルギル−、2−メチル−2−プロピン、2−ブチニル−、2−ペンチニル−及び2−デシニル−基が属する。
【0034】
好ましいアルカノイル基にはホルミル−、アセチル−、プロピオニル−、2−メチルプロピオニル−、ブチリル−、バレロイル−、ピバロイル−、ヘキサノイル−、デカノイル−及びドデカノイル−基が属する。
【0035】
好ましいアルコキシカルボニル基にはメトキシカルボニル−、エトキシカルボニル−、プロポキシカルボニル−、ブトキシカルボニル−、t−ブトキシカルボニル−、ヘキシルオキシカルボニル−、2−メチルヘキシルオキシカルボニル−、デシルオキシカルボニル−又はドデシルオキシカルボニル−基が属する。
【0036】
好ましいアルコキシ基にはメトキシ−、エトキシ−、プロポキシ−、ブトキシ−、t−ブトキシ−、ヘキシルオキシ−、2−メチルヘキシルオキシ−、デシルオキシ−又はドデシルオキシ−基が属する。
【0037】
好ましいシクロアルコキシ基には、炭化水素基が前記の好ましいシクロアルキル基の1つであるシクロアルコキシ基が属する。
【0038】
好ましいヘテロ脂肪族基には、少なくとも1つの炭素−単位がO、S又は基NRにより置換されており、かつRが水素、炭素原子1〜6個を有するアルキル−、炭素原子1〜6個を有するアルコキシ−又はアリール基を表す、前記の好ましいアルキル−及びシクロアルキル基が属する。
【0039】
本発明によれば芳香族基は炭素原子好ましくは6〜14個、特に6〜12個を有する一核又は多核の芳香族化合物の基を呼ぶ。ヘテロ芳香族基は、少なくとも1つのCH−基がNにより置換されている及び/又は少なくとも2つの隣接したCH−基がS、NH又はOにより置換されているアリール基のことを示している。本発明によれば好ましい芳香族又はヘテロ芳香族の基は、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ビスフェノン、ジフェニルスルホン、チオフェン、フラン、ピロール、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピラゾール、1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1,3,4−トリアゾール、2,5−ジフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,5−トリフェニル−1,3,4−トリアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,3,4−テトラゾール、ベンゾ[b]チオフェン、ベンゾ[b]フラン、インドール、ベンゾ[c]チオフェン、ベンゾ[c]フラン、イソインドール、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンズイソキサゾール、ベンズイソチアゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,4,5−トリアジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、1,8−ナフチリジン、1,5−ナフチリジン、1,6−ナフチリジン、1,7−ナフチリジン、フタラジン、ピリドピリミジン、プリン、プテリジン又は4H−キノリジン、ジフェニルエーテル、アントラセン及びフェナントレンから誘導されている。
【0040】
好ましい基Rは、式(III)
−(CHNH−[(CH−NH]H (III)
[式中、m及びnは1〜6の数を表し、かつpは0又は1を表す]、
又は式(IV)
【0041】
【化1】

[式中、qは1〜6の数を表す]、
又は式(V)
【0042】
【化2】

[式中、Rはメチル又は水素を表し、かつrは1〜6の数を表す]
により表されることができる。
【0043】
極めて特に好ましくは基Rはメチル−又はエチル基を表す。
【0044】
炭素原子1〜20個を有するアルコキシ基並びにハロゲンに関する式(I)中の基Xの定義に関連して、前記の定義を指摘することができ、その際にアルコキシ基のアルキル基は好ましくは同様に、前に説明された式(III)、(IV)又は(V)により表されることができる。好ましくは基Xはメトキシ−又はエトキシ基又は臭素−又は塩素原子を表す。
【0045】
これらの化合物は、シロキサン塗料を製造するために、個々にか又は混合物として使用されることができる。
【0046】
ハロゲン又は酸素を介してケイ素に結合したアルコキシ基の数に応じて、鎖又は分枝鎖状シロキサンは式(I)のシラン化合物から加水分解もしくは縮合により形成される。
【0047】
本発明によれば、縮合可能なシランの質量に対して、使用されるシラン化合物の少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも60質量%、特に少なくとも80質量%が、少なくとも3つのアルコキシ基又はハロゲン原子を有する。
【0048】
テトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−イソプロポキシシラン及びテトラ−n−ブトキシシラン類を含んでおり;
トリアルコキシシランは、メチル−トリメトキシシラン、メチル−トリエトキシシラン、エチル−トリメトキシシラン、n−プロピル−トリメトキシシラン、n−プロピル−トリエトキシシラン、イソプロピル−トリエトキシシラン、イソプロピル−トリメトキシシラン、イソプロピル−トリプロポキシシラン、n−ブチル−トリメトキシシラン、n−ブチル−トリエトキシシラン、n−ペンチル−トリメトキシシラン、n−ヘキシル−トリメトキシシラン、n−ヘプチル−トリメトキシシラン、n−オクチル−トリメトキシシラン、ビニル−トリメトキシシラン、ビニル−トリエトキシシラン、シクロヘキシル−トリメトキシシラン、シクロヘキシル−トリエトキシシラン、フェニル−トリメトキシシラン、3−クロロプロピル−トリメトキシシラン、3−クロロプロピル−トリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピル−トリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピル−トリエトキシシラン、3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチル−トリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチル−トリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピル−トリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピル−トリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピル−トリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピル−トリエトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピル−トリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピル−トリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピル−トリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピル−トリエトキシシラン、3−ウレイドプロピル−トリメトキシシラン及び3−ウレイドプロピル−トリエトキシシランを含んでおり;
ジアルコキシシランは、ジメチルジメトキシシラン、ジメチル−ジエトキシシラン、ジエチル−ジメトキシシラン、ジエチル−ジエトキシシラン、ジ−n−プロピル−ジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−イソプロピル−ジメトキシシラン、ジ−イソプロピル−ジエトキシシラン、ジ−n−ブチル−ジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチル−ジメトキシシラン、ジ−n−ペンチル−ジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシル−ジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシル−ジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチル−ジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチル−ジエトキシシラン、ジ−n−オクチル−ジメトキシシラン、ジ−n−オクチル−ジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシル−ジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシル−ジエトキシシラン、ジフェニル−ジメトキシシラン及びジフェニル−ジエトキシシランを含んでいる。
【0049】
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン及びエチルトリエトキシシランが特に好ましい。本発明の特別な態様によれば、これらの特に好ましいアルキルトリアルコキシシランの割合は、使用されるシラン化合物の質量に対して少なくとも80質量%、特に少なくとも90質量%である。
【0050】
本発明に本質的であるのは、前に説明されたシラン化合物がポリシロキサンへ縮合されてから、式(II)によるフッ素含有シランが混合物に添加されることである。式(II)の化合物が添加されるポリシロキサンは、RSiO(OH)−及びRSiO1.5−基を含んでおり、これらの基はRSiO1.5−基については加水分解及び引き続き完全縮合もしくはRSiO(OH)−基については部分縮合により、式(I)による式RSiXの化合物から得られることができる。本発明の成功のためには、NMR分光法により測定されるRSiO1.5に対するRSiO(OH)の信号の比が0.6〜4、好ましくは0.8〜3.5、特に0.9〜3及び特に好ましくは1〜2.5の範囲内であることが本質的である。この比は信号の積分からもたらされる。
【0051】
これらの基の割合はNMR分光法により得られることができ、その際にRSiO1.5−基及びRSiO(OH)−基はF.Brunet、Journal of Non-Crystalline Solids 231 (1998)、58-77に従って割り当てられることができる。シランの加水分解により生じるポリシロキサンの混合物は、29Si−NMR(ゲート付きデカップリング、5sディレイ)を用いて重水素ロックなしでバルクで調べられることができる。
【0052】
前に説明されたシラン化合物は個々にか又は混合物として使用されることができる。さらにまた前縮合物も使用されることができ、その際にNMR分光法により測定される、前縮合物中に含まれているRSiO1.5に対するRSiO(OH)の信号の比は多くとも4である。
【0053】
式(II)の化合物が添加されるポリシロキサンは好ましくは、式(I)の化合物の加水分解から最大限もたらされうる可能なヒドロキシ基の数に対して、17〜30%、特に19〜22質量%の範囲内であるヒドロキシ基含量を有する。
【0054】
式(II)の化合物が添加されるポリシロキサンへの前記のシランもしくは前縮合物の縮合のためには、通常、縮合触媒並びに水がRSiO(OH)−基及びRSiO1.5−基を有するポリシロキサンの形成のために十分な量で添加され、その際にNMR分光法により測定されるRSiO1.5−基に対するRSiO(OH)−基の比は1〜4の範囲内である。
【0055】
硬化触媒として、とりわけ酸、特にブレンステッド酸、並びに塩基が適している。塩基には、特に有機塩基、特に反応媒体中に可溶のアミン、特にアミノ基を有する前記のシラン、例えば3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、及びトリエチルアミン並びに可溶のアルカノールアミン;及び無機塩基、特にアンモニア、アルカリ金属−及びアルカリ土類金属水酸化物、特にNaOH、KOH及びCa(OH)が属する。
【0056】
酸として、例えば無機酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等、又は有機酸、例えばカルボン酸、例えばギ酸及び酢酸、有機スルホン酸等、又は酸性イオン交換体が添加されることができ、その際に加水分解反応のpHは通例2〜4.5、好ましくは3である。
【0057】
本発明の特別な態様によれば、前記のシラン化合物から、有機ケイ素化合物が、加水分解のために十分な量の水、すなわち、加水分解のために用意された基、例えばアルコキシ基1mol当たり水>0.5molで、好ましくは酸触媒作用下に、加水分解されることによって、水含有のコーティング剤が製造される。
【0058】
一般的に、反応相手との結合後に温度上昇が示される。特定の場合に、反応の開始のために外側から熱を、例えば40〜50℃へのバッチの加熱により供給することが必要になりうる。一般的に反応温度が55℃を超えないことが顧慮される。反応期間は通例、相対的に短く、これは通常1時間未満、例えば45minである。
【0059】
縮合反応は、例えば0℃未満の温度への冷却によるか又は適している塩基、例えばアルカリ金属−又はアルカリ土類金属水酸化物でのpH−値の増大により、中断されることができる。
【0060】
さらなる作業のために、水−アルコール混合物及び揮発性の酸の一部が、反応混合物から、例えば蒸留により、分離されることができる。
【0061】
さらにまた、主縮合の中断後に、例えばpH−値の増大により並びにアミドの添加により、シラン前縮合物を0〜50℃、好ましくは10〜40℃の範囲内の温度での貯蔵により前記の重合度へ縮合させることが好都合であることが判明している。貯蔵時間は主縮合の期間に依存している。一般的に反応混合物は1〜25日間、好ましくは5〜17日間貯蔵されてから、式(II)によるフッ素含有シラン化合物が添加されるが、これにより限定が行われるものではない。
【0062】
式(II)の化合物の添加の際に式(I)による化合物の縮合の際に生じる混合物の含水量は一般的に重要でない。一般的にこの値は好ましくは11〜14質量%、特に12質量%〜13質量%の範囲内である。
【0063】
本発明の特別な態様によれば、式(II)の化合物の添加の際に式(I)による化合物の縮合の際に生じる混合物のブルックフィールドによる粘度は4.2〜7.6mPa・sの範囲内であるが、これにより限定が行われるものではない。
【0064】
落書き防止作用は、式(II)
(R′′)Si(R′)(OR)(4−t−u) (II)
[式中、R′′は、フッ素原子少なくとも3個、好ましくは少なくとも5個及び特に好ましくは少なくとも7個を有する炭素原子1〜20個を有する基を表し、uは1又は2に等しく、かつtは0又は1に等しく、R及びR′は同じか又は異なり、かつ炭素原子1〜20個を有する基を表す]で示される化合物の添加により達成される。
【0065】
好ましくは基R′′は、特にフッ素原子3、5、7、9、11、13又は15個を含んでいる、炭素原子1〜20個、好ましくは3〜18個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル基又はシクロアルキル基を表す。この際に、ケイ素原子及びフッ素原子は好ましくは少なくとも3個、特に少なくとも4個の結合を介して離れている。
【0066】
本発明の特別な実施態様によれば、フッ素含有シランとして式(VI)
C(CF(CHSi(R′)(OR)(3−t) (VI)
[式中、rは0〜18の整数を表し、sは0〜2の整数であり、かつtは0又は1に等しく、R及びR′は同じか又は異なり、かつ炭素原子1〜20個を有する基、好ましくは炭素原子1〜10個、特に1〜4個を有する線状又は分枝鎖状のアルキル基を表す]で示される化合物である。
【0067】
式(II)の好ましいフッ素含有シランには、とりわけn−トリフルオロプロピル−トリメトキシシラン、n−トリフルオロプロピル−トリエトキシシラン、イソトリフルオロプロピル−トリエトキシシラン、イソトリフルオロプロピル−トリメトキシシラン、イソヘプタフルオロプロピル−トリプロポキシシラン、n−ヘプタフルオロプロピル−トリエトキシシラン、イソヘプタフルオロプロピル−トリエトキシシラン、イソヘプタフルオロプロピル−トリメトキシシラン、n−ペンタフルオロブチル−トリメトキシシラン、n−ノナペンタフルオロブチル−トリメトキシシラン、n−ペンタフルオロブチル−トリエトキシシラン、n−ノナペンタフルオロブチル−トリエトキシシラン、n−ヘプタフルオロペンチル−トリメトキシシラン、n−ノナヘキシル−トリメトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ペンタデカフルオロノニルトリメトキシシラン及び3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ペンタデカフルオロノニルトリエトキシシランが属する。
【0068】
式(II)の化合物の量は幅広い範囲に亘っていてよく、その際に値は所望の表面エネルギー並びに溶剤量に依存している。一般的に、反応混合物に、フッ素含有シランの添加後の混合物の全質量に対してフッ素含有シラン0.01〜10質量%、特に0.1〜5質量%が添加される。
【0069】
より僅かな量の場合に、表面エネルギーはしばしば十分に低下されることができない。より多い量の使用の場合に、プラスチック基材への硬化されたコーティングの付着はしばしば僅かすぎる。
【0070】
フッ素含有シランの添加の前又は後に、適している有機溶剤、例えばアルコール、例えばエタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、エーテル、例えばジエチルエーテル、ジオキサン、ポリオール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールのエーテル及びエステル並びにこれらの化合物のエーテル及びエステル、炭化水素、例えば芳香族炭化水素、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトンを用いて、混合物の全質量に対して、固体含量を約15〜35質量%に調節されることができる。溶剤としてエタノール及び/又はプロパノール−2及びヘキサノールが特に好ましい。
【0071】
さらに、コーティング剤に、通常、コーティングの基材として準備されたプラスチックを溶解させる(anloesen)ような溶剤を添加することが有利であることが判明している。基材としてのポリメタクリル酸メチル(PMMA)の場合に、例えば、薬剤の全質量に対して、2〜20質量%になる量での溶剤、例えばトルエン、アセトン、テトラヒドロフランの添加が推奨される。含水量は薬剤の全質量に対して、一般的に5〜20質量%に、好ましくは11〜15質量%に調節される。
【0072】
貯蔵性の改善のために、水含有のシロキサン塗料のpH−値は3〜6、好ましくは4.5〜5.5の範囲に調節されることができる。このためには例えば、EP-A-0 073 911に記載されている添加剤、特にプロピオンアミドも添加されることができる。
【0073】
本発明により使用可能なシロキサン塗料は、硬化触媒、例えば亜鉛化合物及び/又は他の金属化合物、例えばコバルト−、銅−又はカルシウム化合物、鉛、特にそれらのオクテン酸塩又はナフテン酸塩の形で、含有していてよい。硬化触媒の割合は、全シロキサン塗料に対して、通例0.1〜2.5質量%、特別に0.2〜2質量%であるが、これにより限定が行われるものではない。例えばナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛等を特に挙げることができる。
【0074】
前記の範囲内の重合度を有するポリシロキサンへのフッ素含有シランの添加後に、シロキサン塗料は、落書き防止作用を有するプラスチック体を得るために、プラスチック基材上に施与され、かつ硬化されることができる。さらに本発明によるコーティング剤はフッ素含有シランの添加後に貯蔵されることができ、その際に貯蔵時間はとりわけ貯蔵条件、例えば温度及び湿度、硬化触媒又は貯蔵性の増大のための添加剤の量並びにフッ素含有シランの添加前のNMRにより測定可能なポリシロキサンの縮合度に依存している。一般的にコーティング剤は少なくとも20日間、好ましくは少なくとも10日間貯蔵されることができる。
【0075】
本発明の目的に適しているプラスチック基材はそれ自体として公知である。そのような基材は、特にポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)、シクロオレフィン系ポリマー(COC)及び/又はポリ(メタ)アクリレートを含んでいる。この際にポリカーボネート、シクロオレフィン系ポリマー及びポリ(メタ)アクリレートが好ましく、その際にポリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0076】
ポリカーボネートは当工業界において公知である。ポリカーボネートは形式的に炭酸及び脂肪族又は芳香族のジヒドロキシ−化合物からなるポリエステルとみなされることができる。これらは重縮合−もしくはエステル交換反応においてジグリコール又はビスフェノールとホスゲンもしくは炭酸ジエステルとの反応により簡単に入手可能である。
【0077】
この際に、ビスフェノールから誘導されるポリカーボネートが好ましい。これらのビスフェノールには特に2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−ブタン(ビスフェノールB)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールC)、2,2′−メチレンジフェノール(ビスフェノールF)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(テトラブロモビスフェノールA)及び2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(テトラメチルビスフェノールA)が属する。
【0078】
通常、そのような芳香族ポリカーボネートは界面重縮合又はエステル交換により製造され、その際に詳細はEncycl. Polym. Sci. Engng. 11, 648-718に示されている。
【0079】
界面重縮合の場合に、ビスフェノールは水性のアルカリ溶液として、不活性有機溶剤、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン又はテトラヒドロフラン中に乳化され、かつ逐次反応においてホスゲンと反応される。触媒としてアミンも、立体障害性ビスフェノールの場合に相間移動触媒も使用される。生じるポリマーは使用された有機溶剤中に可溶である。
【0080】
ビスフェノールの選択に関して、ポリマーの性質は幅広く変えることができる。異なるビスフェノールの同時の使用の際に、多段−重縮合においてブロック−ポリマーも構成されうる。
【0081】
シクロオレフィン系ポリマーは環式オレフィン、特に多環式オレフィンの使用下に得ることができるポリマーである。
【0082】
環式オレフィンは、例えば単環式オレフィン、例えばシクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン並びに炭素原子1〜3個を有するこれらの単環式オレフィンのアルキル誘導体、例えばメチル、エチル又はプロピル、例えばメチルシクロヘキセン又はジメチルシクロヘキセン、並びにこれらの単環式化合物のアクリレート−及び/又はメタクリレート誘導体を含んでいる。さらにまたオレフィン系側鎖を有するシクロアルカン、例えばシクロペンチルメタクリレートも環式オレフィンとして使用されることができる。
【0083】
橋かけされた多環式オレフィン化合物が好ましい。これらの多環式オレフィン化合物は、環中に、これは橋かけされた多環式シクロアルケンが当てはまり、並びに側鎖中に二重結合を有していてよい。これは多環式シクロアルカン化合物のビニル誘導体、アリルオキシカルボキシ誘導体及び(メタ)アクリルオキシ誘導体である。これらの化合物は、さらにアルキル−、アリール−又はアラルキル置換基を有していてよい。
【0084】
例示的な多環式化合物は、これにより限定が行われるものではないが、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(ノルボルネン)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエン(2,5−ノルボルナジエン)、エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(エチルノルボルネン)、エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(エチリデン−2−ノルボルネン)、フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、ビシクロ[4.3.0]ノナ−3,8−ジエン、トリシクロ[4.3.0.12,5]−3−デセン、トリシクロ[4.3.0.12,5]−3,8−デセン−(3,8−ジヒドロジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセン、テトラシクロ[4.4.0.12,5,17,10]−3−ドデセン、エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、メチルオキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5,17,10]−3−ドデセン、エチリデン−9−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5,17,10]−3−ドデセン、ペンタシクロ[4.7.0.12,5,0,03,13,19,12]−3−ペンタデセン、ペンタシクロ[6.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−4−ヘプタデセン、ジメチルヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−4−ヘプタデセン、ビス(アリルオキシカルボキシ)トリシクロ[4.3.0.12,5]−デカン、ビス(メタクリルオキシ)トリシクロ[4.3.0.12,5]−デカン、ビス(アクリルオキシ)トリシクロ[4.3.0.12,5]−デカンである。
【0085】
シクロオレフィン系ポリマーは、前記のシクロオレフィン系化合物、特に多環式炭化水素化合物の少なくとも1つの使用下に製造される。さらにまた、シクロオレフィン系ポリマーの製造の際に、前記のシクロオレフィン系モノマーと共重合されることができる別のオレフィンが使用されることができる。これにはとりわけエチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、メチルペンテン、スチレン及びビニルトルエンが属する。
【0086】
前記のオレフィンの大部分は、特にシクロオレフィン及びポリシクロオレフィンも、商業的に得られることができる。さらにまた、多くの環式及び多環式のオレフィンはディールス−アルダー−付加反応により得られることができる。
【0087】
シクロオレフィン系ポリマーの製造は公知の方法で行われることができ、例えばこのことはとりわけ日本国特許公報11818/1972、43412/1983、1442/1986及び19761/1987及び日本国特許公開公報番号75700/1975、129434/1980、127728/1983、168708/1985、271308/1986、221118/1988及び180976/1990及び欧州特許出願明細書EP-A-0 6 610 851、EP-A-0 6 485 893、EP-A-0 6 407 870及びEP-A-0 6 688 801に示されている。
【0088】
シクロオレフィン系ポリマーは、例えばアルミニウム化合物、バナジウム化合物、タングステン化合物又はホウ素化合物の使用下に触媒として溶剤中で重合されることができる。
【0089】
重合が条件、特に使用される触媒に応じて、開環下に又は二重結合の開裂(Oeffnung)下に行われることができると考えられる。
【0090】
さらにまた、シクロオレフィン系ポリマーをラジカル重合により得ることが可能であり、その際に光又は開始剤がラジカル形成剤として使用される。これには特にシクロオレフィン及び/又はシクロアルカンのアクリロイル誘導体が当てはまる。重合のこの種類は、溶液中で並びにバルクで行われることができる。
【0091】
好ましい別のプラスチック基材は、ポリ(メタ)アクリレートを含んでいる。これらのポリマーは一般的に、(メタ)アクリレートを含有する混合物のラジカル重合により得られる。(メタ)アクリレートという表現はメタクリレート及びアクリレート並びに双方のものからなる混合物を包含する。
【0092】
これらのモノマーは広く公知である。これらにはとりわけ次のものが属する:
飽和アルコールから誘導される(メタ)アクリレート、例えばメチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート;
不飽和アルコールから誘導される(メタ)アクリレート、例えばオレイル(メタ)アクリレート、2−プロピニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート;
アリール(メタ)アクリレート、例えばベンジル(メタ)アクリレート又はフェニル(メタ)アクリレート、その際にアリール基はその都度置換されていないか又は四置換までされていてよい;
シクロアルキル(メタ)アクリレート、例えば3−ビニルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート;
ヒドロキシルアルキル(メタ)アクリレート、例えば3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3,4−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;
グリコールジ(メタ)アクリレート、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、
エーテルアルコールの(メタ)アクリレート、例えばテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビニルオキシエトキシエチル(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリル酸のアミド及びニトリル、例えばN−(3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(ジエチルホスホノ)(メタ)アクリルアミド、1−メタクリロイルアミド−2−メチル−2−プロパノール;
硫黄含有のメタクリレート、例えばエチルスルフィニルエチル(メタ)アクリレート、4−チオシアナトブチル(メタ)アクリレート、エチルスルホニルエチル(メタ)アクリレート、チオシアナトメチル(メタ)アクリレート、メチルスルフィニルメチル(メタ)アクリレート、ビス((メタ)アクリロイルオキシエチル)スルフィド;
多価(メタ)アクリレート、例えばトリメチロイルプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート及びペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート。
【0093】
本発明の好ましい態様によれば、これらの混合物は、モノマーの質量に対して、メチルメタクリレート少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも60質量%及び特に好ましくは少なくとも80質量%を含有する。
【0094】
前に説明された(メタ)アクリレートに加えて、重合すべき組成物はメチルメタクリレート及び前記の(メタ)アクリレートと共重合性である別の不飽和モノマーも有していてよい。
【0095】
これにはとりわけ1−アルケン、例えばヘキセン−1、ヘプテン−1;分枝鎖状アルケン、例えばビニルシクロヘキサン、3,3−ジメチル−1−プロペン、3−メチル−1−ジイソブチレン、4−メチルペンテン−1;
アクリロニトリル;ビニルエステル、例えば酢酸ビニル;
スチレン、側鎖中にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばα−メチルスチレン及びα−エチルスチレン、環上にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばビニルトルエン及びp−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレン及びテトラブロモスチレン;
ヘテロ環式ビニル化合物、例えば2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、3−エチル−4−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、ビニルピリミジン、ビニルピペリジン、9−ビニルカルバゾール、3−ビニルカルバゾール、4−ビニルカルバゾール、1−ビニルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、3−ビニルピロリジン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルブチロラクタム、ビニルオキソラン、ビニルフラン、ビニルチオフェン、ビニルチオラン、ビニルチアゾール類及び水素化ビニルチアゾール類、ビニルオキサゾール類及び水素化ビニルオキサゾール類;
ビニル−及びイソプレニルエーテル;
マレイン酸誘導体、例えば無水マレイン酸、メチルマレイン酸無水物、マレイミド、メチルマレイミド;及び
ジエン、例えばジビニルベンゼンが属する。
【0096】
一般的に、これらのコモノマーは、モノマーの質量に対して、0〜60質量%、好ましくは0〜40質量%及び特に好ましくは0〜20質量%の量で使用され、その際に化合物は個々にか又は混合物として使用されることができる。
【0097】
重合は一般的に公知のラジカル開始剤を用いて開始される。好ましい開始剤にはとりわけ、当工業界において広く公知のアゾ開始剤、例えばAIBN及び1,1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、並びにペルオキシ化合物、例えばメチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、t−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート、ケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、過酸化ジベンゾイル、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル−ペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジクミルペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、2つ又はそれ以上の前記の化合物相互の混合物並びに前記の化合物と、同様にラジカルを形成することができる挙げられていない化合物との混合物が属する。
【0098】
これらの化合物はしばしば、モノマーの質量に対して、0.01〜10質量%、好ましくは0.5〜3質量%の量で使用される。
【0099】
前記のポリマーは個々にか又は混合物として使用されることができる。この際に、例えば分子量又はモノマー組成が異なる、異なるポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート又はシクロオレフィン系ポリマーも使用されることができる。
【0100】
本発明によるプラスチック基材は、例えば前記のポリマーの成形材料から製造されることができる。この際に一般的に熱可塑的な成形法、例えば押出し又は射出成形が使用される。
【0101】
本発明により成形材料としてプラスチック基材の製造に使用すべきホモ−及び/又はコポリマーの分子量Mの質量平均は幅広い範囲内で変えることができ、その際に分子量は通常、成形材料の使用目的及び加工方法に調節される。しかしこれは一般的に20 000〜1 000 000g/mol、好ましくは50 000〜500 000g/mol及び特に好ましくは80 000〜300 000g/molの範囲内であるが、これにより限定が行われるものではない。この大きさは、例えばゲル−浸透−クロマトグラフィーを用いて測定されることができる。
【0102】
さらにプラスチック基材は注型法(Gusskammerverfahren)により製造されることができる。この際に例えば適している(メタ)アクリル混合物は型へ入れられ、かつ重合される。そのような(メタ)アクリル混合物は、一般的に前に説明された(メタ)アクリレート、特にメチルメタクリレートを有する。さらに(メタ)アクリル混合物は、前に説明されたコポリマー並びに、特に粘度の調節のために、ポリマー、特にポリ(メタ)アクリレートを含有していてよい。
【0103】
注型法により製造されるポリマーの分子量Mの質量平均は一般的に、成形材料において使用されるポリマーの分子量よりも高い。これにより一連の公知の利点がもたらされる。一般的に、注型法により製造されるポリマーの分子量の質量平均は500 000〜10 000 000g/molの範囲内であるが、これにより限定が行われるものではない。
【0104】
好ましいプラスチック基材は、Roehm GmbH & Co. KGから商標名(登録商標)Plexiglas GSもしくはXTで商業的に得られることができる。
【0105】
さらにまた、プラスチック基材の製造のために使用すべき成形材料並びにアクリル樹脂は全ての種類の常用の添加剤を含有していてよい。これにはとりわけ帯電防止剤、酸化防止剤、離型剤、防炎加工剤、潤滑剤、染料、流動改善剤(Fliessverbesserungsmittel)、充填剤、光安定剤及び有機リン化合物、例えばホスフィット、ホスホリナン(Phosphorinane)、ホスホラン(Phospholane)又はホスホネート、顔料、耐候安定剤及び可塑剤が属する。しかしながら添加剤の量は使用目的に限定されていない。
【0106】
ポリ(メタ)アクリレートを含んでいる、特に好ましい成形材料は、商標名PLEXIGLAS(登録商標)でDegussa AG社から商業的に入手可能である。シクロオレフィン系ポリマーを含んでいる、好ましい成形材料は、商標名(登録商標)TopasでTiconaから及び(登録商標)ZeonexでNippon Zeonから購入されることができる。ポリカーボネート−成形材料は例えば商標名(登録商標)MakrolonでBayerから又は(登録商標)LexanでGeneral Electricから入手可能である。
【0107】
特に好ましくは、プラスチック基材は、基材の全質量に対して、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート及び/又はシクロオレフィン系ポリマーを少なくとも80質量%、特に少なくとも90質量%含んでいる。特に好ましくはプラスチック基材はポリメタクリル酸メチルからなり、その際にポリメタクリル酸メチルは常用の添加剤を含有していてよい。
【0108】
好ましい実施態様によれば、プラスチック基材は少なくとも10kJ/m、好ましくは少なくとも15kJ/mのISO 179/1による衝撃強さを有していてよい。
【0109】
プラスチック基材の形状並びに大きさは本発明にとって本質的ではない。一般的にしばしば、1mm〜200mm、特に3〜25mmの範囲内の厚さを有する、シート状又はパネル状の基材が使用される。
【0110】
プラスチック基材にコーティングが設けられる前に、これらの基材は付着を改善するために、適している方法により活性化されることができる。このためには例えばプラスチック基材は、化学及び/又は物理的な方法で処理されることができ、その際にそれぞれの方法はプラスチック基材に依存している。
【0111】
プラスチック基材に依存して、シロキサンコーティングの接着強さの改善のために基材上にプライマーコーティングが施与されることができ、その際にプラスチック基材に依存したプライマー層の使用及び種類は、当業者にはシロキサンコーティングの付着の改善のためによく知られている。
【0112】
前に説明されたシロキサン塗料は、公知の各方法を用いてプラスチック基材上に施与されることができる。これにはとりわけ浸漬法、噴霧法、ナイフ塗布、流し塗及びロール−又はローラー塗が属する。
【0113】
こうして施与されたシロキサン塗料は、一般的に相対的に短い時間で、例えば2〜6時間以内、通例約3〜5時間以内で及び比較的低い温度で、例えば70〜110℃で、好ましくは約80℃で卓越して耐引っかき性かつ付着性のコーティングへと硬化されることができる。
【0114】
シロキサンコーティングの層厚は相対的に重要でない。しかし一般的に硬化後のこれらの大きさは1〜50μm、好ましくは1.5〜30μm及び特に好ましくは3〜15μmの範囲内であるが、これにより限定が行われるものではない。層厚は、走査電子顕微鏡(REM)の写真により決定されることができる。
【0115】
耐引っかき性で防汚コーティングが設けられた本発明の成形体は、高い耐引っかき性を示す。好ましくはDIN 52 347 Eによる耐引っかき性試験(加力=5.4N、サイクルの数=100)後のヘーズ−値の増大は多くとも20%、特に好ましくは多くとも15%及び極めて特に好ましくは多くとも11%である。
【0116】
本発明の特別な態様によれば、プラスチック体は透明であり、その際にDIN 5033による透明度τD65/10は少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%である。
【0117】
好ましくはプラスチック体は、少なくとも1000MPa、特に少なくとも1500MPaのISO 527-2による弾性率を有するが、これにより限定が行われるものではない。
【0118】
本発明によるプラスチック体は一般的に風化に対して極めて耐性である。例えばDIN 53387(キセノン灯耐候試験;Xenotest)による耐候性は少なくとも5000時間である。
【0119】
5000時間を上回る長いUV照射後にも、好ましいプラスチック体のDIN 6167(D65/10)による黄色度指数は8に等しいか又はそれ未満、好ましくは5に等しいか又はそれ未満であるが、これにより限定が行われるものではない。
【0120】
硬化されたコーティングは、好ましくはコーティングの全質量に対して、0.005〜20質量%の範囲内、特に0.01〜10質量%の範囲内及び特に好ましくは0.1〜5質量%の範囲内のフッ素含量を有する。本発明の特別な実施態様によれば、プラスチック体のコーティングは、表面のコーティング組成の、元素フッ素、ケイ素、炭素及び酸素の総和に対して、2〜14原子%、特に3〜12原子%の範囲内の、ESCA分光学を用いて表面上で測定されるフッ素含量を示す。好ましくは表面上でのフッ素含量はコーティングのプラスチック基材の方へ向いた側よりも多い。特に好ましくはプラスチック基材に対するもしくは場合によりプライマー層に対する界面でのシロキサンコーティングのフッ素含量は表面上のフッ素含量に対して80%に等しいか又はそれ未満であり、極めて特に好ましくは表面上のフッ素含量に対して60%に等しいか又はそれ未満である。
【0121】
本発明の特別な態様によれば、ESCA分光学を用いて測定される表面上でのコーティングのケイ素含量は、元素フッ素、ケイ素、炭素及び酸素の総和に対して、好ましくは15〜25原子%、特に18〜22原子%の範囲内である。
【0122】
ESCA分光学を用いて測定される表面の炭素含量は、元素フッ素、ケイ素、炭素及び酸素の総和に対して、好ましくは25〜55原子%、特に30〜45原子%の範囲内である。
【0123】
ESCA分光学は公知であり、その際にこの方法は例えばP. Albers他、Journal of Catalysis 176巻、561-568 (1998) SIMS/XPS、"Study on Deactivation and Reactivation of B-MFI Catalysts Used in the Vapour-Phase Beckmann Rearrangement"及びK. Seibold及びP. Albers、GIT Fachz. Lab. 33 (1989) 637-644, 706 - 710、"Oberflaechenanalytik"に記載されている。
【0124】
落書き防止作用はシロキサンコーティングの疎水化により達成される。これは低い表面エネルギーに反映される。本発明の特別な態様によれば、シロキサン層の硬化後の表面エネルギーは、好ましくは多くとも40mN/m、特に多くとも35mN/m及び特に好ましくは多くとも28mN/mであるが、これにより限定が行われるものではない。
【0125】
表面エネルギーは、Ownes-Wendt-Rabel & Kaelbleの方法により測定される。このためにはBusscherによる標準系列を用いる測定系列が実施され、その際に試験液として水[SFT 72.1mN/m]、ホルムアミド[SFT 56.9mN/m]、ジヨードメタン[SFT 50.0mN/m]及びα−ブロモナフタレン[SFT 44.4mN/m]が使用される。測定は20℃で実施される。これらの試験液の表面張力及び極性及び分散割合は公知であり、かつ基材の表面エネルギーの計算のために使用される。
【0126】
さらにまた、シロキサンコーティングの疎水化は、α−ブロモナフタレン又は水小滴がシロキサン表面上に形成する接触角に関して確認されることができる。本発明の特別な態様によれば、耐引っかき性コーティングの硬化後のプラスチック体の表面とのα−ブロモナフタレンの20°での接触角は好ましくは少なくとも50°、特に少なくとも70°及び特に好ましくは少なくとも75°であるが、これにより限定が行われるものではない。
【0127】
水との接触角は20℃で、特別な実施態様によれば好ましくは少なくとも80°、特に少なくとも90°及び特に好ましくは少なくとも100°である。
【0128】
好ましい実施態様によれば、シロキサン表面とのα−ブロモナフタレンの接触角は、多くとも70°、好ましくは多くとも60°である。測定は20℃で実施される。
【0129】
表面エネルギーは、Kruess社、ハンブルクの接触角測定システムG40を用いて測定されることができ、その際に実施は接触角測定システムG40、1993の利用者取扱説明書に記載されている。計算方法に関して、A. W. Neumann, Ueber die Messmethodik zur Bestimmung grenzflaechenenergetischer Groessen, 部I, Zeitschrift fuer Phys. Chem., 41巻, 339-352頁 (1964)、及びA. W. Neumann, Ueber die Messmethodik zur Bestimmung grenzflaechenenergetischer Groessen, 部II, Zeitschrift fuer Phys. Chem., 43巻, 71-83頁 (1964)を指摘することができる。
【0130】
本発明のプラスチック体は、例えば建築分野において、特にガラス室又は温室の製造のため、又は防音壁として利用されることができる。
【0131】
次に、本発明は例及び比較例によってより詳細に説明されるが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0132】
実施例
例1〜4
メチルトリエトキシシラン(MTES)250g、完全脱塩水91.5g及び酢酸12.5gをビーカー中へ入れ、1時間撹拌し、室温で24時間放置した。ついで、プロピオンアミド18.5g、オクテン酸亜鉛1.55g、トルエン14.0g及び10%KOH溶液2.15gを溶液中へ添加した。引き続いて、Dynasilan F8262溶液(10%濃度)の第1表に説明された量を70.h時間〜420時間の同様に第1表に示された時間後にその都度40g(アリコート部分)に添加する。
【0133】
フルオロシラン化合物の添加の際のMeSiOに対するMeSiO(OH)の比をNMR分光法を用いて測定し、その際に信号をF.Brunet、Journal of Non-Crystalline Solids 231 (1998)、58-77に従って割り当てた。信号基T1(ジヒドロキシシロキサン)、T2(ヒドロキシジシロキサン)及びT3(トリシロキサン)は、末端基、鎖中のモノマー単位及び分枝に割り当てられることができ、かつ時間分解測定されることができる。基の割合はNMR−信号の積分によりもたらされる。評価のために速度論を1次と仮定した。
【0134】
得られた混合物を、その都度全部で18日後にPMMA−プラスチック基材上に流し塗りにより施与し、乾燥器中で80℃で5h熱硬化させる。
【0135】
コーティングを、防汚作用の測定のために異なる塗料を用いて吹き付けた。24時間後に、塗料コーティングを高圧クリーナーを用いて80℃で約1分間清浄化する。
【0136】
塗料がコーティングから良好に除去されることができたことが示されている。使用したのは、SchullerEh′klar GmbH、Austriaの黄色のPrisma Color Acryl及び青色のPrisma Color Acryl並びに赤色のPinture Paint Spray、Montana Colors、S.L. Berlinのペイントであった。
【0137】
プレートを、耐引っかき性の測定のためのDIN 52347によるTaber-試験並びにDIN 53151によるクロスカットにかけた。Taber-試験を5.4Nの加力で100サイクルで並びにTeledyne Taber社の摩耗輪“CS10F”を用いて実施した。
【0138】
【表1】

【0139】
例5〜8
例1〜4を本質的に繰り返したが、しかしながらその際に30%−Dynasylan溶液を使用した。得られた結果は第2表に挙げられている。
【0140】
コーティングを、防汚作用の測定のために異なる塗料を用いて吹き付けた。24時間後に、塗料コーティングを高圧クリーナーで80℃で約1分間清浄化する。例1〜4に説明された塗料がコーティングから極めて良好に除去されることができることを示している。
【0141】
【表2】

【0142】
比較例1
例1を本質的に繰り返したが、しかしながらその際にフッ素化合物(Dynasilan F8262溶液(10%濃度)を6.5時間後に既に添加した。フッ素化合物の添加の際のMeSiO(OH)/MeSiO−比は6.22であった。こうして得られたコーティング剤を18日後に施与した。流展は極めて劣悪であり、その際に塗料はプレート上への付着を示さなかった。それに応じてTaber-試験により算出されたデルタ−ヘーズ値は約37%であり、その際に例1に挙げられた塗料は殆ど基材から除去されることができなかった。
【0143】
比較例2
例1を本質的に繰り返したが、しかしながらその際にフッ素化合物(Dynasilan F8262溶液(10%濃度)を1200時間後にはじめて添加した。フッ素化合物の添加の際のMeSiO(OH)/MeSiO−比は0.45であった。こうして得られたコーティング剤をフッ素化合物の添加後に施与した。流展は極めて劣悪であった、その際に塗料はプレート上への付着を示さなかった。それに応じてTaber-試験により算出されたデルタ−ヘーズ値は約37%であり、その際に例1に挙げられた塗料は殆ど基材から除去されることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落書き防止作用を有するコーティング剤であって、
一般式(I)
SiX4−n (I)
[式中、Rは炭素原子1〜20個を有する基を表し、Xは炭素原子1〜20個を有するアルコキシ基又はハロゲンを表し、かつnは0〜3の整数を表し、その際に異なる基X又はRはその都度同じか又は異なっていてよい]で示される有機ケイ素化合物及び/又はこれらから得ることができる前縮合物[その際に使用されるケイ素化合物の全質量に対してケイ素化合物の少なくとも50質量%が式RSiX(式中、R及びXは前記の意味を表す)により表されることができる]を、NMR分光法により測定されるRSiO1.5に対するRSiO(OH)の信号の比が0.6〜4の範囲内になるまで縮合させてポリシロキサンに変換し、かつこれらのポリシロキサン混合物に式(II)
(R′′)Si(R′)(OR)(4−t−u) (II)
[式中、R′′はフッ素原子少なくとも3個を有する炭素原子1〜20個を有する基を表し、uは1又は2に等しく、かつtは0又は1に等しく、R及びR′は同じか又は異なり、かつ炭素原子1〜20個を有する基を表す]で示される化合物を添加することにより得ることができる、落書き防止作用を有するコーティング剤。
【請求項2】
NMR分光法により測定されるRSiO1.5に対するRSiO(OH)の信号の比が、式(II)の化合物が添加されるポリシロキサンの0.8〜3.5の範囲内である、請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
式(II)の化合物の添加の際の式(I)による化合物の縮合の際に生じる混合物の含水量は11〜14質量%の範囲内である、請求項1又は2記載のコーティング剤。
【請求項4】
式(II)の化合物の添加の際の式(I)による化合物の縮合の際に生じる混合物のブルックフィールドによる粘度は4.2〜7.6mPa・sの範囲内である、請求項1から3までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項5】
式(II)の化合物が添加されるポリシロキサンが、式(I)の化合物の加水分解から最大限もたらされうる可能なヒドロキシ基の数に対して、17〜30%の範囲内であるヒドロキシ基含量を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項6】
式(II)の化合物が添加されるポリシロキサンのヒドロキシ基含量が、式(I)の化合物の加水分解から最大限もたらされうる可能なヒドロキシ基の数に対して、19〜22%の範囲内である、請求項5記載のコーティング剤。
【請求項7】
有機ケイ素化合物として、式(I)による有機ケイ素化合物の含量に対して、アルキルトリアルコキシシラン少なくとも80質量%を含有する組成物が使用されている、請求項1から6までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項8】
組成物が、式(I)による有機ケイ素化合物の含量に対して、メチルトリアルコキシシラン少なくとも80質量%を有している、請求項7記載のコーティング剤。
【請求項9】
混合物の全質量に対して、ポリシロキサン−混合物に式(II)の化合物0.01〜10質量%が添加される、請求項1から8までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項10】
式(I)による有機ケイ素化合物の縮合のために酸が使用される、請求項1から9までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項11】
コーティング剤がアミドを含んでいる、請求項1から10までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項12】
コーティング剤が金属化合物を含んでいる、請求項1から11までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項13】
金属化合物が亜鉛、コバルト、銅又はカルシウムを含有している、請求項1から12までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項14】
コーティング剤がアミンを含んでいる、請求項1から13までのいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項記載のコーティング剤をプラスチック基材上に施与し、かつ硬化させることにより得ることができる、落書き防止作用を有するプラスチック体。
【請求項16】
プラスチック基材がシクロオレフィン−コポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート及び/又はポリ(メタ)アクリレートを含んでいる、請求項15記載のプラスチック体。
【請求項17】
プラスチック基材がISO 179/1による少なくとも10kJ/mの衝撃強さを有する、請求項15又は16記載のプラスチック体。
【請求項18】
プラスチック基材が、1mm〜200mmの範囲内の厚さを有する、請求項15から17までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項19】
シロキサンコーティングの層厚が3〜15μmの範囲内である、請求項15から18までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項20】
DIN 52347による耐引っかき性試験の実施の際のプラスチック体のヘーズ値の増大が多くとも15%である、請求項15から19までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項21】
プラスチック体が少なくとも1500MPaのISO 527-2による弾性率を有する、請求項15から20までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項22】
プラスチック体が、少なくとも5000時間のDIN 53 387による耐候性を有する、請求項15から21までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項23】
プラスチック体が、少なくとも70%のDIN 5033による透明度を有する、請求項15から22までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項24】
プラスチック体のコーティングが、元素フッ素、ケイ素、炭素及び酸素の総和に対して、2〜14原子%の範囲内のESCA分光学を用いて表面上で測定されるフッ素含量を有している、請求項15から23までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項25】
プラスチック体の表面エネルギーが多くとも35mN/mを有する、請求項15から24までのいずれか1項記載のプラスチック体。
【請求項26】
プラスチック基材上に請求項1から14までのいずれか1項記載のコーティング剤を施与し、かつ硬化させることを特徴とする、請求項15から25までのいずれか1項記載の落書き防止作用を有するプラスチック体の製造方法。

【公表番号】特表2007−505195(P2007−505195A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529666(P2006−529666)
【出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003157
【国際公開番号】WO2004/101694
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(390009128)レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (293)
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】