説明

蒸気タービンのシール構造、およびその制御方法

【課題】回転部と固定部の間のシール性能を向上できるとともに、フィンの破損を防止し、さらにアブレイダブル材が快削されて、増加したクリアランスからの蒸気の漏れ量増加を防止できるシール構造とその制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】シール基板25側の快削性スペーサ28とロータ18側のシールフィン24が対向するように構成されるシール構造であって、シール基板25は、ロータ18の軸方向に移動可能に備わっている。蒸気タービン3の負荷が増大すると、受圧ヘッド30はロータ18の蒸気の負荷圧軸方向に移動し、受圧ヘッド30と接続されるシール基板25が、蒸気の負荷圧軸方向に移動する。移動後のシールフィン24位置に対抗する位置にある快削性スペーサ28は未接触状態が保たれているため、シールフィン24と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小状態になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ等が発生する蒸気でタービン(蒸気タービン)を回転して発電する発電プラントの場合、蒸気タービンは蒸気の流れの上流側から、高圧タービン,中圧タービン、及び低圧タービンを備え、低圧タービンを回転させた蒸気は、排気室を経由して復水器に導入され、復水器で凝縮されて給水となり蒸気発生器に還流する。
【0003】
このような発電プラントを構成する蒸気タービンは、ケーシングの内側に固定される静翼が、ロータと一体に回転する動翼と動翼の間に配置され、静翼と動翼とからなる段落が形成される。
【0004】
ケーシングの内部に導入された蒸気は、蒸気タービンのケーシングの内部を流れ、静翼と、ケーシングに回転自在に支持されるロータに固定される動翼との間を交互に通りながら膨張し、ロータを回転させる。ロータの最も下流に備わる動翼、すなわち最終段の動翼を通過した蒸気は、ケーシングの外に排気されるように構成される。
【0005】
より詳細には、静翼はケーシングの内側に設置されるダイアフラム内に固定されることが多く、動翼はロータ外面上に設置固定されてロータと一体に回転する構造となる。保守容易性の観点からケーシングとダイアフラムは上下二分割とする構造が多く用いられる。
【0006】
このような蒸気タービンにおいては、蒸気が動翼を回転させることでロータを回転させることから、蒸気を効率よく使用するために、例えば静翼を含有してケーシング内に保持されるダイアフラムとロータとの間や、動翼先端とケーシングとの間など、固定部と回転部との間のクリアランスからの蒸気の漏れをできるだけ少なくするように、固定部と回転部の間のシール性能を向上することが要求される。
【0007】
しかしながら、シール性能向上のために、回転部と固定部の間のクリアランスが小さくなるようにすると、シールフィンとロータが接触し、フィンが破損するという問題が生じ易くなる。これにより蒸気の漏れが増加するという問題が生じる。
【0008】
回転部と固定部との間でフィンが接触する原因としては、ケーシングやダイアフラムなどの熱変形が考えられている。運転時にケーシングの上下の保温状態が異なるため温度差が生じ下側に対し上側の方がより大きく伸び猫背とよばれる熱曲げ変形が生じることは良く知られている。これにより、ロータ(回転部)に対してケーシング(固定部)位置が相対的に上昇し、フィンが接触する一因となる。
【0009】
ダイアフラムの半径方向に温度差を生じ内周温度が外周温度より高くなることにより、ダイアフラム外周より内周が伸びる。この熱伸びによりダイアフラムは曲げ変形を起こし、下側のダイアフラム内周面位置は外周分割面の端部位置に対し相対的に上昇する。下側のダイアフラムは外周分割面の端部がケーシング内側に固定されており、下側のダイアフラム内周位置はケーシング位置に対し相対的に上昇する。結局ロータ(回転部)に対してダイアフラム(固定部)が相対的に上昇し、フィンが接触する一因となる。
【0010】
近年の蒸気タービン運転では立ち上げ時間の短縮化が要求されており、従来より短時間で蒸気温度を高め、流量を増やすことが行われるようになってきている。特にこの場合にはダイアフラムの半径方向に温度差が発生しやすく熱変形が起こりやすくなる。
【0011】
この熱変形によりロータ(回転部)に対してケーシング(固定部)位置が相対的に上昇し、フィンが接触する一因となる。
【0012】
かかる問題に対応するため、従来、ロータなどの回転部とダイアフラムなどの固定部との間に、フィン(シールフィン)を有するラビリンスシール装置を備え、さらにフィンと対向する位置に切削性に優れる快削性金属による部材(アブレイダブル材)を用いたシール装置の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示される技術によると、フィンとアブレイダブル材とが接触しても、フィンによってアブレイダブル材が切削されるため、フィンの損傷を防止し、蒸気の漏れ増加量を少なくできるなどの効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−228013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、シール性能向上のために、回転部と固定部との間のクリアランスが極力小さくなるようにフィンとアブレイダブル材を配置すると、フィンとアブレイダブル材の接触が多くなってアブレイダブル材が快削されるため、快削された分のクリアランスが増加する。快削によりクリアランスが増加するため、増加したクリアランスからの蒸気の漏れ量が増加することとなる。上記特許文献1では、アブレイダブル材が快削されることにより増加したクリアランスからの蒸気の漏れ量の増加については考慮されていない。
【0015】
また、フィンとアブレイダブル材の接触を防止するため、フィンとアブレイダブル材の間のクリアランスを大きくすると、回転部と固定部の間のクリアランスが大きくなり蒸気の漏れが大きくなるため、蒸気タービンのタービン効率の向上が望めなくなる。そこで、本発明は、さらにアブレイダブル材が快削されて、増加したクリアランスからの蒸気の漏れ量増加を防止でき、シール性能を向上することができ、蒸気タービンのタービン効率を向上できるシール構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明は蒸気タービンの回転部と固定部の両方またはいずれか一方にシールフィンを備え、シールフィンと対向する回転部または固定部に快削性金属を用いたスペーサを備えるシール構造であって、固定部に備えられたシールフィンまたはスペーサは駆動装置により回転部に対してロータ軸方向に移動可能なシール装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、アブレイダブル材が快削されてもクリアランスの増加が無く、クリアランスからの蒸気漏れ量増加を防止し、シール性能を向上でき、蒸気タービンのタービン効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る蒸気タービンを備える発電プラントの概略系統図である。
【図2】本実施形態に係る蒸気タービンの一部拡大図である。
【図3】図2のラビリンスシール拡大図である。
【図4】図3に示した本実施形態の効果を説明する図である。
【図5】その他のラビリンスシール拡大図である。
【図6】図5に示した本実施形態の効果を説明する図である。
【図7】その他のラビリンスシール拡大図である。
【図8】動翼の先端を示す概略図である。
【図9】駆動用蒸気を高圧蒸気供給源から与圧室に流入して受圧ヘッドを移動するラビリンスシール装置の一構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本実施形態に係る蒸気タービンを備える発電プラントの一例を示す概略系統図である。図1に示すように、発電プラント1は、ボイラ2と、蒸気タービン3(高圧タービン11,中圧タービン12、及び低圧タービン13),発電機4,復水器5などを備えている。そして、低圧タービン13のロータ6は発電機4の駆動軸7に連結され、低圧タービン13の回転によって発電機4が駆動され発電される構成である。
【0021】
ボイラ2は蒸気発生器であって、再熱器8が収納されており、配管9を介して高圧タービン11の入口側に接続されている。高圧タービン11の出口側は配管10を介してボイラ2の再熱器8に接続される。再熱器8は配管14を介して中圧タービン12の入口側に接続され、中圧タービン12の出口側は配管47を介して低圧タービン13の入口側に接続されている。
【0022】
配管9と配管14には調節弁Bが備わり、それぞれ、高圧タービン11及び中圧タービン12に流入する蒸気Stの量を制御するための制御弁として機能する。これらの調節弁Bは、制御装置15によって制御され、高圧タービン11及び中圧タービン12に流入する蒸気Stの量が制御される。
【0023】
ボイラ2で発生した蒸気Stは、高圧タービン11,中圧タービン12を介して低圧タービン13に流入し、低圧タービン13に備わるロータ6を回転させる。ロータ6を回転して低圧タービン13から排気された蒸気Stは、排気室48を介して復水器5で凝縮されて水(給水)となった後、給水加熱器16に送り込まれて、給水加熱器16で加熱され、更に他の給水加熱器や高圧給水ポンプなどを経由して蒸気発生器であるボイラ2に再度導入される。
【0024】
図2に示すように、蒸気タービン3には、ロータ18の外周に沿った方向に固定される複数の動翼17,17,・・・が、軸方向に複数列配置されている。
【0025】
さらに、ロータ18及び動翼17を内包するケーシング19と、ケーシング19にノズルダイヤフラム外輪20を介して固定される複数の静翼21,21,・・・が備わる。そして、静翼21と動翼17は、ロータ18の軸方向に交互に配置され、段落が形成される。ロータ18は、周方向に回転する。
【0026】
ボイラ2で発生した蒸気Stは蒸気タービン3のケーシング19の内部に流入すると、減圧及び膨張しながら静翼21と動翼17の間を交互に通るように流通し、ロータ18を回転させる。
【0027】
そして、ロータ18の最も下流に備わる動翼17、すなわち最終段の動翼17を通過した蒸気Stはケーシング19の外部に排気されるように構成される。
【0028】
このように構成される蒸気タービン3においては、ケーシング19の内部を流通する蒸気Stで効率よくロータ18を回転するため、回転部であるロータ18及び動翼17と、固定部であるケーシング19及び静翼21の間のシール性能を向上し、回転部と固定部の間のクリアランスから漏れる蒸気St(漏れ蒸気)の量を抑制することが要求される。
【0029】
例えば、ロータ18の回転に対する回転抵抗を軽減するために、静翼21の先端に備わるノズルダイヤフラム内輪22とロータ18の間にクリアランスを設ける場合があるが、このクリアランスは静翼21に流入する蒸気Stの漏れ蒸気の原因となる。
【0030】
そして、漏れ蒸気となる蒸気Stは、ロータ18の回転に寄与しないことから、漏れ蒸気の量が多くなると、蒸気タービン3のタービン効率が低下することになる。したがって、蒸気タービン3のタービン効率を向上するためには、漏れ蒸気の量を少なくすることが好適である。
【0031】
このため、ノズルダイヤフラム内輪22とロータ18の間に、ラビリンスシール装置23などのシール装置を組み込んでロータ18と静翼21の間のクリアランスを小さくする構成が一般的である。この構成によってロータ18と静翼21の間のシール性能を向上し、漏れ蒸気の量を少なくできる。
【0032】
図3に示すように、本実施形態に係るハイロー型のラビリンスシール装置23のロータ18側には、固定した複数のシールフィン24・・・が備わっている。
【0033】
ノズルダイヤフラム内輪22のシール基板25には、ロータ18の軸方向に並んで周方向に形成される複数のハイ部26,ロー部27を所定間隔で設けている。
【0034】
そして、シール基板25側のハイ部26、ロー部27とロータ18側のシールフィン24を、ロータ18の軸方向に向き合うように配置する。
【0035】
このように、複数のシールフィン24・・・が備わるラビリンスシール装置23が構成される。
【0036】
従来、シール基板25側のハイ部26,ロー部27、及びロータ18側のシールフィン24は非接触に構成される。この構成によって、シールフィン24とシール基板25の間には微小なクリアランスが生じ、ロータ18の回転に対する回転抵抗が軽減される。
【0037】
しかしながら、これらのクリアランスを通過する蒸気Stは、ロータ18の回転に寄与することなく漏れ蒸気となる。そして、漏れ蒸気によって蒸気漏洩損失が発生し、蒸気タービン3のタービン効率が低下する。
【0038】
そこで、本実施形態においては、ロータ18側のシールフィン24とシール基板25の間に、快削性金属からなる快削性スペーサ28(スペーサ)が取り付けられる。
【0039】
さらに、快削性スペーサ28が備わるシール基板25が、ロータ18の軸方向に移動可能に備わることを特徴とする。
【0040】
この構成によって、固定部である静翼21(図2参照)に備わる快削性スペーサ28は、回転部であるロータ18に対して軸方向に移動可能となる。
【0041】
なお、シール基板25に、快削性スペーサ28を取り付ける方法は限定されるものではなく、例えばロウ付けなどによって固定すればよい。
【0042】
本実施形態に係る快削性スペーサ28を形成する快削性金属は、切削性に優れている素材(アブレイダブル材)であり、例えば、シール基板25側の快削性スペーサ28とロータ18側のシールフィン24の先端とが接触した状態(接触状態)でロータ18が回転した場合、例えば、図4に示すように快削性スペーサ28が削られてシールフィン24は損傷しない。
【0043】
ここで、本実施例の理解を容易にするため、従来の技術及びその問題点を図面を用いて説明する。
【0044】
シールフィン24に対向する位置に、例えばアブレイダブル材など切削性に優れた素材からなるスペーサを備える従来技術では、図4(a)に示すように快削性スペーサ28とシールフィン24との接触により、快削性スペーサ28が削られシールフィン24上に初期設定より大きなクリアランスを生じることとなる。このように接触によりクリアランスが増大した場合には、このクリアランスの増加分に応じてシール部に蒸気の漏れ量が増加するため、漏れ量の増加により蒸気タービンのタービン効率が低下するという問題が発生する。
【0045】
すなわち、以下のような問題を生じる。タービン組み立て時の(1)初期の状態に対して、蒸気を少量蒸気タービン内に流入させると、ダイアフラムの熱変形,ケーシング熱変形やロータ熱伸びなどにより快削性スペーサ28とシールフィン24が(2)接触を開始し、時間経過して熱的に安定した後に(3)接触終了し、(4)定常負荷位置に至るという快削性スペーサ28とシールフィン24との接触のプロセスが想定される。熱的に安定した状態になり定常運転を実施すべく高温・高圧の蒸気Stを蒸気タービン内に流入させて安定的な発電を実施することが可能となる。この場合の隙間は図4(a)に示すようにタービン組み立て時の(1)初期の状態の隙間に対して著しく増加することとなる。
【0046】
これにより、定常運転時のシールの漏れ量が増加し、タービン効率が低下するという問題が発生することとなる。
【0047】
以上が、従来技術の問題点である。再度、本実施形態の説明に戻る。
【0048】
本実施形態においては、快削性スペーサ28は、回転部であるロータ18に対して軸方向に移動可能に構成されている。例えば、図4(b)に示すように、熱的に安定した状態になり接触終了後に定常運転を実施すべく高温・高圧の蒸気Stを蒸気タービン内に流入させた場合、快削性スペーサ28は、回転部であるロータ18に対して軸方向に移動する。移動後のシールフィン24位置に対向する位置にある快削性スペーサ28は未接触状態が保たれているため、シールフィン24上のクリアランスは初期状態の隙間に対して同等となる。すなわち、例え快削性スペーサ28の表面が接触により快削されても、定常運転時のシールの隙間を初期状態の隙間と同等とすることが可能になるため、漏れ量の増加は無くなりタービン効率を高いまま保つことが可能となる。
【0049】
このようにロータ18側のシールフィン24とシール基板25の間に、快削性スペーサ28(スペーサ)が取り付けられ、快削性スペーサ28が備わるシール基板25が、ロータ18の軸方向に移動可能に備わることで、シールフィン24と快削性スペーサ28が接触する場合であっても、定常運転時のシールの漏れ量が増加し、タービン効率が低下する問題が発生する事態にならない。したがって、快削性スペーサ28の表面が接触に快削されても、漏れ量の増加は無くなりタービン効率を高いまま保つことが可能となるという優れた効果を奏する。
【0050】
さらに、本実施形態に係るシール基板25は、ロータ18に対してロータ軸方向に移動可能に備わっている。図3に示すように、ノズルダイヤフラム内輪22には、中空の与圧室29が形成され、与圧室29内には、ロータ18に対してロータ軸方向に往復動する受圧ヘッド30が備わっている。受圧ヘッド30は、戻りバネ31(付勢手段)で弾性支持され、戻りバネ31によって、蒸気圧の押し込み方向と逆方向に、相当の付勢力で付勢されている。
【0051】
与圧室29は、蒸気通路46によってノズルダイヤフラム内輪22の外側と連通し、ノズルダイヤフラム内輪22の外側を流通する蒸気Stが与圧室29に流入するように構成される。そして、蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30に作用したとき、受圧ヘッド30は蒸気圧力により押し込まれロータ軸方向に移動するように構成される。
【0052】
受圧ヘッド30には内周側先端部にシール基板25が取り付けられる。さらに受圧ヘッド30にはガイド32が備わっている。ガイド32は、ノズルダイヤフラム内輪22の内部に突出するガイド受け33と接触し、受圧ヘッド30とシール基板25で受ける蒸気圧のモーメントにより、受圧ヘッド30とシール基板25が回転し不安定な姿勢となることを防ぎ、ロータ軸方向にスムーズに往復動することを可能とする。
【0053】
ガイド32は、例えば受圧ヘッド30と一体に形成すればよい。また、受圧ヘッド30シール基板25を取り付ける方法は限定するものではなく、例えば、図示しないスクリューでシール基板25を受圧ヘッド30に固定すればよい。
【0054】
そして、受圧ヘッド30,ガイド32、及びシール基板25を含んで可動部が構成される。
【0055】
そして、受圧ヘッド30が、戻りバネ31の付勢力で蒸気圧の押し込み方向と逆側の位置で支持されているとき、シール基板25は蒸気圧の押し込み方向と逆側の位置に移動した状態にある。
【0056】
本実施形態におけるラビリンスシール装置23は、シール基板25に加え、与圧室29,蒸気通路46,受圧ヘッド30,ガイド32、及び戻りバネ31を含んで構成される。
【0057】
そして、ラビリンスシール装置23,シール基板25側の快削性スペーサ28を含んだシール構造が蒸気タービン3に組み込まれることになる。
【0058】
ボイラ2で発生する蒸気Stが蒸気タービン3に流入すると、蒸気Stが静翼21と動翼17の間を通るときに、蒸気Stの一部が蒸気通路46を流通して与圧室29に流入する。
【0059】
与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30を移動させる力(押圧力)が、戻りバネ31の付勢力より小さければ、戻りバネ31は、受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆側の位置で支持している。
【0060】
例えば、蒸気タービン3(図1参照)に接続される負荷が増大して、蒸気タービン3を流通する蒸気Stの圧力が高くなると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力も高くなる。そして、蒸気Stの圧力による受圧ヘッド30をロータ18の軸方向に移動させる押圧力が、戻りバネ31の付勢力以上になると、受圧ヘッド30は蒸気Stの圧力でロータ18の軸方向に移動し、受圧ヘッド30と接続されるシール基板25が、蒸気圧の押圧軸方向に移動する。
【0061】
受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、ロータ18側シールフィン24上にシール基板25側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面を対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン24と快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。
そして、シールフィン24と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小となり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
【0062】
なお、蒸気タービン3内を流通する蒸気Stは、上流から下流に向って膨張して減圧することから、蒸気Stの流れの下流ほど、静翼21のラビリンスシール装置23に備わる戻りバネ31の付勢力を弱くする構成であってもよい。
【0063】
そして、このように構成されるシール構造が組み込まれた蒸気タービン3は、蒸気Stの圧力が低い立ち上げ時には、シール基板25側の快削性スペーサ28がロータ18側のシールフィン24に対し蒸気圧の押し込み方向と逆方向位置になる。
【0064】
したがって、立ち上げ時の熱的不安定状態においてはシール基板25側の快削性スペーサ28がロータ18側のシールフィン24に対し蒸気圧の押し込み方向と逆方向の位置となり、この位置において、熱変形によりシールフィン24と快削性スペーサ28が接触することがある。
【0065】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン24に損傷は生じない。
【0066】
蒸気タービン3の負荷が増大して蒸気Stの圧力が高くなると、快削性スペーサ28が蒸気圧の押圧軸方向の停止位置まで移動しシールフィン24と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小状態になって、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
したがって、蒸気タービン3のタービン効率が向上する。
【0067】
蒸気タービン3の負荷を利用する方法として、ラビリンスシール装置を構成するシール基板を周方向に分割し、ロータに対し半径方向に移動可能な構成とすることも考えられる。すなわち、立ち上げ時の熱的不安定状態においては、バネの付勢力を用いてシール基板をロータから半径方向に離反する位置へ押し付け、蒸気タービン3の負荷が増大して蒸気Stの圧力が高くなると蒸気圧の押圧によりシール基板はロータと近接する位置へ移動するように構成する。これにより、立ち上げ時の熱的不安定状態においてはシール基板をロータから離反させてロータとの接触を防止し、蒸気Stの圧力が高まると基板はロータと近接し、シール隙間からの漏れ量を少なくすることができる。
【0068】
しかし、この構成の場合には、シール基板が半径方向に大きく離反するとシール基板の周方向分割面が大きく開き、多量の蒸気が漏れ、十分な蒸気押圧が得られなくなるという問題を生じ、シール基板の半径方向の移動量をあまり大きくできない。
【0069】
前述したケーシングやダイアフラムなどの熱変形では変形量が大きくなる場合があり、この場合にはロータとの接触を生じ、フィンと対向する位置に快削性スペーサを設置していれば快削性スペーサは快削されてしまう。このため、蒸気Stの圧力が高まりシール基板がロータと近接する位置へ移動してもフィン対向位置の快削性スペーサには快削凹みが生じており、フィン先端部の隙間は結局大きくなり、漏れ量を少なくできなくなる。
【0070】
本発明の場合には受圧ヘッド30とシール基板25の軸方向の移動量に特に問題制限は存在しないため、ロータとケーシング間の伸び差が大きく1cm以上あるような場合でも容易に対応できる。
【0071】
上記快削性スペーサ28として通気性金属を用いた快削性スペーサ28とすることもできる。通気性金属は、多孔質金属の空間部(ポア)が連結した構造で、内部を気体(蒸気St)が通気できる金属素材である。通気性金属は、切削性に優れている素材であるため、快削性スペーサ28を構成できる。通気性金属を用いた快削性スペーサ28を用いることにより、シールフィン24の破損の防止できるのみならず、シールフィン24と快削性スペーサ28の接触により生じる接触発熱を除去でき、接触発熱による熱変形を防止できる。
【0072】
以上、ラビリンスシール装置23に快削性スペーサ28を取り付ける一構成例、及び、ラビリンスシール装置23を構成するシール基板25が、ロータ18に対し軸方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム内輪側22に備えられる一構成例について説明したが、本発明の構成は、これに限定されるものではない。
【実施例2】
【0073】
例えば、ラビリンスシール装置23には、図3に示す形状のほか、図5に示すハイロー型のラビリンスシール装置もある。そして、図5に示すハイロー型のラビリンスシール装置にも本発明を適用できる。
【0074】
図5に示す本実施形態においては、シール基板25側のシールフィン34とロータ18のハイ部35,ロー部36上間に、快削性金属からなる快削性スペーサ28(スペーサ)が取り付けられる。
【0075】
さらに、シールフィン34が備わるシール基板25が、ロータ軸方向に移動可能に備わることを特徴とする。
【0076】
本実施形態に係る快削性スペーサ28を形成する快削性金属は、切削性に優れている素材(アブレイダブル材)であり、例えば、シール基板25側のシールフィン34の先端とロータ18側の快削性スペーサ28とが接触した状態でロータ18が回転した場合、例えば、図6に示すように快削性スペーサ28が削られてシールフィン34は損傷しない。
【0077】
ここで、本実施例の理解を容易にするため、従来の技術及びその問題点を図面を用いて説明する。
【0078】
シールフィン34に対向する位置に、例えばアブレイダブル材など切削性に優れた素材からなるスペーサを備える従来の技術では、図6(a)に示すように快削性スペーサ28とシールフィン34との接触により、快削性スペーサ28が削られシールフィン34上に初期設定より大きなクリアランスを生じることとなる。このクリアランスの増加分に応じてシール部に蒸気の漏れ量が増加するため、漏れ量の増加により蒸気タービンのタービン効率が低下するという問題が発生する。
【0079】
前述したように、以下のような問題を生じる。タービン組み立て時の(1)初期の状態に対して、蒸気を少量蒸気タービン内に流入させると、ダイアフラムの熱変形、ケーシング熱変形やロータ熱伸びなどにより快削性スペーサ28とシールフィン34が(2)接触を開始し、時間経過して熱的に安定した後に(3)接触終了し、(4)定常負荷位置に至るという快削性スペーサ28とシールフィン34との接触のプロセスが想定される。熱的に安定した状態になり定常運転を実施すべく高温・高圧の蒸気Stを蒸気タービン内に流入させて安定的な発電を実施することが可能となる。この場合の隙間は図4(a)に示すようにタービン組み立て時の(1)初期の状態の隙間に対して著しく増加することとなる。
【0080】
これにより、定常運転時のシールの漏れ量が増加し、タービン効率が低下するという問題が発生することとなる。以上が、従来技術の問題点である。再度、本実施形態の説明に戻る。
【0081】
本実施形態においては、シールフィン34は、ロータ18に対して軸方向に移動可能に構成されている。例えば、図6(b)に示すように、熱的に安定した状態になり接触終了後に定常運転を実施すべく高温・高圧の蒸気Stを蒸気タービン内に流入させた場合シールフィン34は、回転部であるロータ18上の快削性スペーサ28に対して軸方向に移動する。移動後のシールフィン34位置に対向する位置にある快削性スペーサ28は未接触状態が保たれているため、シールフィン34上のクリアランスは初期状態の隙間に対して同等となる。すなわち、例え快削性スペーサ28の表面が接触により快削されても、定常運転時のシールの隙間を初期状態の隙間と同等とすることが可能になるため、漏れ量の増加は無くなりタービン効率を高いまま保つことが可能となる。
【0082】
このようにシールフィン34が備わるシール基板25が、ロータ18の軸方向に移動可能に備わることで、シールフィン34と快削性スペーサ28が接触する場合であっても、定常運転時のシールの漏れ量が増加し、タービン効率が低下する問題が発生する事態にならない。したがって、快削性スペーサ28の表面が接触に快削されても、漏れ量の増加は無くなりタービン効率を高いまま保つことが可能となるという優れた効果を奏する。
【0083】
さらに、本実施形態に係るシール基板25は、ロータ18に対して軸方向に移動可能に備わっている。図5に示すように、ノズルダイヤフラム内輪22には、中空の与圧室29が形成され、与圧室29内には、ロータ18に対してロータ軸方向に往復動する受圧ヘッド30が備わっている。受圧ヘッド30は、戻りバネ31で弾性支持され、蒸気圧の押し込み方向と逆方向に、相当の付勢力で付勢されている。
【0084】
与圧室29は、蒸気通路46によってノズルダイヤフラム内輪側22の外側と連通し、ノズルダイヤフラム内輪側22の外側を流通する蒸気Stが与圧室29に流入するように構成される。そして、蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30に作用したとき、受圧ヘッド30は蒸気圧力により押し込まれロータ軸方向に移動するように構成される。
【0085】
受圧ヘッド30には先端部にシール基板25が取り付けられる。さらに受圧ヘッド30にはガイド32が備わっている。ガイド32は、ノズルダイヤフラム内輪側22の内部に突出するガイド受け33と接触し、受圧ヘッド30とシール基板25で受ける蒸気圧のモーメントにより、受圧ヘッド30とシール基板25が回転し不安定な姿勢となることを防ぎ、ロータ軸方向にスムーズに往復動することを可能とする。
【0086】
そして、受圧ヘッド30,ガイド32、及びシール基板25を含んで可動部が構成される。
【0087】
そして、受圧ヘッド30が、戻りバネ31の付勢力で蒸気圧の押し込み方向と逆側の位置で支持されているとき、シール基板25は蒸気圧の押し込み方向と逆側の位置に移動した状態にある。
【0088】
本実施形態におけるラビリンスシール装置23は、シール基板25に加え、与圧室29,蒸気通路46,受圧ヘッド30,ガイド32、及び戻りバネ31を含んで構成される。
【0089】
そして、ラビリンスシール装置23,ロータ18側の快削性スペーサ28を含んだシール構造が蒸気タービン3に組み込まれることになる。
【0090】
ボイラ2で発生する蒸気Stが蒸気タービン3に流入すると、蒸気Stが静翼21と動翼17の間を通るときに、蒸気Stの一部が蒸気通路46を流通して与圧室29に流入する。
【0091】
与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30を移動させる力(押圧力)が、戻りバネ31の付勢力より小さければ、戻りバネ31は、受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆側の位置で支持している。
【0092】
例えば、蒸気タービン3に接続される負荷が増大して、蒸気タービン3を流通する蒸気Stの圧力が高くなると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力も高くなる。そして、蒸気Stの圧力による受圧ヘッド30をロータ18の軸方向に移動させる押圧力が、戻りバネ31の付勢力以上になると、受圧ヘッド30は蒸気Stの圧力でロータ18の軸方向に移動し、受圧ヘッド30と接続されるシール基板25が、蒸気圧の押圧軸方向に移動する。
【0093】
受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、シール基板25側シールフィン34上にロータ18側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面を対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン34と快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。
そして、シールフィン34と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小となり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
【0094】
なお、蒸気タービン3内を流通する蒸気Stは、上流から下流に向って膨張して減圧することから、蒸気Stの流れの下流ほど、静翼21のラビリンスシール装置23に備わる戻りバネ31の付勢力を弱くする構成であってもよい。
【0095】
そして、このように構成されるシール構造が組み込まれた蒸気タービン3は、蒸気Stの圧力が低い立ち上げ時には、シール基板25側のシールフィン34がロータ18側の快削性スペーサ28に対し蒸気圧の押し込み方向と逆方向位置になる。
【0096】
したがって、立ち上げ時の熱的不安定状態においてはシール基板25側のシールフィン34とロータ18側の快削性スペーサ28に対し蒸気圧の押し込み方向と逆方向位置となり、この位置において、熱変形によりシールフィン34と快削性スペーサ28が接触することがある。
【0097】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン34に損傷は生じない。
【0098】
蒸気タービン3の負荷が増大して蒸気Stの圧力が高くなると、シールフィン34が蒸気圧の押圧軸方向の停止位置まで移動しシールフィン34と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小状態になって、静翼21とロータ6の間のシール性能が向上する。したがって、蒸気タービン3のタービン効率が向上する。
【0099】
上記快削性スペーサ28として通気性金属を用いた快削性スペーサ28とすることができる。通気性金属は、切削性に優れている素材であるため、快削性スペーサ28を構成できる。通気性金属を用いた快削性スペーサ28を用いることにより、シールフィン34の破損の防止のみならずできる、シールフィン34と快削性スペーサ28の接触により生じる接触発熱を除去でき、接触発熱による熱変形を防止できる。
【0100】
以上、ロータ18に快削性スペーサ28を取り付ける一構成例、及び、ラビリンスシール装置23を構成するシール基板25が、ロータ18に対し軸方向に移動可能に、ノズルダイヤフラム内輪22に備えられる一構成例について説明したが、本発明の構成は、これに限定されるものではない。
【実施例3】
【0101】
例えば、ラビリンスシール装置23には、図3,図5に示す形状のほか、図7に示すハイロー型のラビリンスシール装置もある。そして、図7に示すハイロー型のラビリンスシール装置にも本発明を適用できる。
【0102】
図7に示すように、本実施形態に係るノズルダイヤフラム内輪22には、複数のシールフィン34・・・を備えたシール基板25が備わっている。
【0103】
シール基板25には、ロータ18の軸方向に並んで周方向に形成される複数の溝37・・・を所定間隔で設け、この複数の溝37・・・のそれぞれにシールフィン34をコーキングして固定する。
【0104】
さらに、ロータ18にもロータ18の軸方向に並んで周方向に形成される複数の溝38・・・を所定間隔で設け、この複数の溝38・・・のそれぞれに、シールフィン24をコーキングして固定する。
【0105】
そして、シール基板25側のシールフィン34とロータ18側のシールフィン24が、ロータ18の軸方向に交互に重なり合うように配置する。
【0106】
このように、複数のシールフィン34・・・が備わるシール基板25を含んでラビリンスシール装置23が構成される。
【0107】
シール基板25側のシールフィン34とロータ18の間、及びロータ18側のシールフィン24とシール基板25の間に、快削性金属からなる快削性スペーサ28(スペーサ)が取り付けられる。
【0108】
さらに、シールフィン34と快削性スペーサ28が備わるシール基板25が、ロータ軸方向に移動可能に備わることを特徴とする。
【0109】
このように構成すれば図3,図5に示した本発明の実施形態にて説明したいずれの効果も得られる。
【0110】
すなわち、本実施形態におけるラビリンスシール装置23は、シール基板25に加え、与圧室29,蒸気通路46,受圧ヘッド30,ガイド32、及び戻りバネ31を含んで構成される。
【0111】
そして、ラビリンスシール装置23,ロータ18側の快削性スペーサ28を含んだシール構造が蒸気タービン3(図1参照)に組み込まれることになる。
【0112】
ボイラ2で発生する蒸気Stが蒸気タービン3に流入すると、蒸気Stが静翼21と動翼17の間を通るときに、蒸気Stの一部が蒸気通路46を流通して与圧室29に流入する。
【0113】
与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30を移動させる力(押圧力)が、戻りバネ31の付勢力より小さければ、戻りバネ31は、受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆側の位置で支持している。
【0114】
例えば、蒸気タービン3に接続される負荷が増大して、蒸気タービン3を流通する蒸気Stの圧力が高くなると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力も高くなる。
【0115】
そして、蒸気Stの圧力が、受圧ヘッド30をロータ18の軸方向に移動させる押圧力が、戻りバネ31の付勢力以上になると、受圧ヘッド30は蒸気Stの圧力でロータ18の軸方向に移動し、受圧ヘッド30と接続されるシール基板25が、蒸気圧の押圧軸方向に移動する。
【0116】
この位置においては熱変形によりシール基板25上のシールフィン34、およびロータ18上のシールフィン24と対向する快削性スペーサ28が接触し得る。
【0117】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン34、およびシールフィン24に損傷は生じない。
【0118】
熱的に安定状態となった後、蒸気タービン3の負荷を増大させるべく、蒸気Stの圧力を高くする。蒸気Stの圧力が高くなり、受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、シール基板25側のシールフィン34上にロータ18側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面、ロータ18側のシールフィン24上にシール基板25側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面を対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン34、およびシールフィン24とそれぞれに対向する快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。そして、シールフィン34と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小となり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
【0119】
上記快削性スペーサ28として通気性金属を用いた快削性スペーサ28とすることができる。通気性金属を用いた快削性スペーサ28を用いることにより、シールフィン34,シールフィン24の破損の防止のみならず、シールフィン34,シールフィン24と快削性スペーサ28の接触により生じる接触発熱を除去でき、接触発熱による熱変形を防止できる。
【実施例4】
【0120】
また、本実施形態は、ノズルダイヤフラム外輪20(図2参照)と動翼17(図2参照)の間に備わるラビリンスシール装置にも適用できる。
【0121】
図8に示すように、シール基板25は、例えば、ハイロー型であって、シール基板25には、動翼17の回転方向、すなわち周方向に沿った形状の複数のハイ部26・・・及びロー部27・・・が、ロータ18の軸方向に並んで形成される。
【0122】
そして、ハイ部26及びロー部27のそれぞれには、周方向に沿った形状に快削性スペーサ28が取り付けられる。
【0123】
固定部であるケーシング19(図2参照)に備わる快削性スペーサ28は、回転部である動翼17に対してロータ軸方向に移動可能に構成する。
【0124】
また、動翼17のカバー39には、シール基板25のハイ部26・・・及びロー部27・・・と対向する位置に、複数のシールフィン40・・・が、周方向に沿って立設して備わっている。
【0125】
ノズルダイヤフラム外輪20には、与圧室29が形成され、与圧室29の内部には、動翼17に対してロータ軸方向に往復動する受圧ヘッド30が備わっている。受圧ヘッド30は、戻りバネ31(付勢手段)で弾性支持され、戻りバネ31によって、蒸気圧の押し込み方向と逆方向に付勢されている。
【0126】
与圧室29は、蒸気通路46によってノズルダイヤフラム外輪20の外側と連通し、ノズルダイヤフラム外輪20の外側を流通する蒸気Stが与圧室29に流入するように構成される。そして、蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30に作用したとき、受圧ヘッド30が蒸気圧力により押し込まれロータ軸方向に移動するように構成される。
【0127】
受圧ヘッド30には先端部にシール基板25が取り付けられる。さらに受圧ヘッド30にはガイド32が備わっている。ガイド32は、ノズルダイヤフラム外輪20の内部に突出するガイド受け41と接触し、受圧ヘッド30とシール基板25で受ける蒸気圧のモーメントにより、受圧ヘッド30とシール基板25が回転し不安定な姿勢となることを防ぎ、ロータ軸方向にスムーズに往復動することを可能とする。
【0128】
ガイド32は、例えば受圧ヘッド30と一体に形成すればよい。また、受圧ヘッド30へシール基板25を取り付ける方法は限定するものではなく、例えば、図示しないスクリューでシール基板25を受圧ヘッド30に固定すればよい。
【0129】
そして、受圧ヘッド30,ガイド32、及びシール基板25を含んで可動部が構成される。
【0130】
また、シール基板25,受圧ヘッド30,ガイド32,戻りバネ31,与圧室29、及び蒸気通路46を含んでラビリンスシール装置23が構成される。
【0131】
そして、蒸気タービン3(図1参照)には、ラビリンスシール装置23と、動翼17側のシールフィン40を含んだシール構造が組み込まれることになる。
【0132】
ラビリンスシール装置23の受圧ヘッド30が、戻りバネ31の付勢力で蒸気圧の押し込み方向と逆方向の位置で支持されているとき、シール基板25は動翼17から蒸気圧の押し込み方向と逆方向の位置に移動した状態にある。
【0133】
ボイラ2(図1参照)で発生した蒸気Stが蒸気タービン3(図1参照)に流入すると、蒸気Stがノズルダイヤフラム外輪20の外部を通るときに、蒸気Stの一部が蒸気通路46を流通して与圧室29に流入する。
【0134】
与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30を蒸気の押圧軸方向に移動させる押圧力が、戻りバネ31の付勢力より小さければ、戻りバネ31は、受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆方向の位置で支持している。
【0135】
そして、受圧ヘッド30が、戻りバネ31の付勢力で蒸気圧の押し込み方向と逆方向の位置で支持されているとき、シール基板25は蒸気圧の押し込み方向と逆方向の位置に移動した状態にあり、互いに対向するシール基板25側の快削性スペーサ28は動翼17のカバー39側のシールフィン40に対し蒸気圧の押し込み方向と逆方向の位置へ移動している。
【0136】
この位置においては熱変形によりシール基板25上の快削性スペーサ28と対向する動翼17のカバー39側のシールフィン40が接触し得る。
【0137】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン40に損傷は生じない。
【0138】
蒸気タービン3(図1参照)に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力も高くなる。そして、蒸気Stの圧力が受圧ヘッド30を蒸気押圧軸方向に移動させる押圧力が、戻りバネ31の付勢力以上になると、受圧ヘッド30は蒸気Stの圧力で軸方向に移動し、受圧ヘッド30と接続されるシール基板25が、蒸気押圧軸方向に移動する。
【0139】
蒸気Stの圧力が高くなり、受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、動翼17のカバー39側のシールフィン40上に、シール基板25側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面と対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、対向するシールフィン40と対向する快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。
【0140】
動翼17のカバー39とシール基板25の間のクリアランスが最小となり、ノズルダイヤフラム外輪20と動翼17の間のシール性能が向上する。
【0141】
これにより蒸気タービンのタービン効率が向上する。
【0142】
また、蒸気タービン3(図1参照)内を流通する蒸気Stは、上流から下流に向って膨張して減圧することから、図3に示すラビリンスシール装置23と同様に、蒸気Stの流れの下流ほど、戻りバネ31の付勢力を弱くする構成としてもよい。
【0143】
なお、図8に示すラビリンスシール装置23は、シール基板25に快削性スペーサ28が取り付けられ、カバー39にシールフィン40が備わる構成となっているが、シール基板25にシールフィンが備わり、カバー39に快削性スペーサが取り付けられる構成であってもよい。
【0144】
または、シール基板25とカバー39の両方にシールフィンが備わる構成であってもよい。この場合、カバー39の、シール基板25側のシールフィンと対向する位置、及びシール基板25の、カバー39側のシールフィンと対向する位置に快削性スペーサを取り付ける構成とすればよい。
【0145】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更が可能である。
【実施例5】
【0146】
また、図7に示すラビリンスシール装置23において、受圧ヘッド30は、蒸気タービン3を流通する蒸気Stの圧力によって駆動する構成であるが、例えば、図9に示すように、高圧蒸気供給源45から与圧室29に流入する受圧ヘッド30を駆動するための高圧の蒸気(駆動用蒸気)の圧力で受圧ヘッド30を蒸気の負荷軸方向に移動させる構成であってもよい。
【0147】
図9に示すラビリンスシール装置23は、与圧室29,受圧ヘッド30、例えば戻りバネ31,シール基板25,弁制御装置42,運転状態検出装置44,高圧蒸気供給源45、及び電磁弁43を含んで構成される。
【0148】
シール基板25は、図7に示すラビリンスシール装置23のシール基板25と同じ構成とする。
【0149】
そして、蒸気タービン3には、ラビリンスシール装置23と、ロータ18側のシールフィン24及び快削性スペーサ28を含んだシール構造が組み込まれることになる。
【0150】
与圧室29には、高圧蒸気供給源45が電磁弁43を介して接続される。さらに、電磁弁43の開閉を制御する弁制御装置42が備わっている。
【0151】
また、弁制御装置42は、蒸気タービン3の運転状態に基づいて電磁弁43の開閉を制御する構成が好適であり、蒸気タービン3の運転状態を検出する運転状態検出装置44が備わっている。
【0152】
この構成によると、弁制御装置42は、受圧ヘッド30、及びシール基板25を含んでなる可動部を、蒸気タービン3の運転状態に基づいて、ロータ18の軸方向に移動させることができる。例えばケーシング熱変形,ダイアフラム熱変形などにより不安定となる運転状態の判別のため蒸気圧力のみならず、蒸気温度,ロータ18の振動などを利用することができる。さらにはケーシング熱変形,ダイアフラム熱変形のみならず、ロータ軸方向熱伸び量からケーシング軸方向熱伸び量を引いた熱伸び差量もまた不安定となる運転状態の判別のため利用することができるようになる。
【0153】
そして、与圧室29,弁制御装置42,高圧蒸気供給源45、及び電磁弁43を含んで駆動装置が構成される。
【0154】
蒸気タービン3の運転状態は、例えば、蒸気タービン3のロータ18の振動や、蒸気タービン3の蒸気温度,蒸気圧力,ロータ軸方向熱伸び量からケーシング軸方向熱伸び量を引いた熱伸び差量によって検出する構成が好適である。以下、検出対象毎に説明する。
【0155】
(第1形態)
蒸気タービン3の運転状態は、例えば、蒸気タービン3のロータ18の振動によって検出することが好適であり、運転状態検出装置44は、蒸気タービン3のロータ18の振動(振動振幅,振動位相もしくはその両方)を検出するロータ振動検出装置になる。
【0156】
ロータ振動検出装置である運転状態検出装置44は、蒸気タービン3のロータ振動(振動振幅,振動位相もしくはその両方)を検出して検出信号に変換し、弁制御装置42に入力する。
【0157】
弁制御装置42は、運転状態検出装置44(ロータ振動検出装置)から入力される検出信号に基づいてロータ振動を算出する。
【0158】
そして、弁制御装置42は、算出したロータ振動が、予め設定されるロータ振動より大きい場合は電磁弁43を閉弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0159】
このときの所定ロータ振動は、蒸気タービン3の性能等に基づいて、適宜設定すればよい。
【0160】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて閉弁し、高圧蒸気供給源45からの与圧室29への駆動用蒸気の流入を遮断する。
【0161】
与圧室29に駆動用蒸気が流入しないとき、受圧ヘッド30は、戻りバネ31の付勢力によって受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。
【0162】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動すると、シール基板25が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。この位置においては熱変形によりシール基板25上のシールフィン34、およびロータ18上のシールフィン24と対向する快削性スペーサ28が接触し得る。
【0163】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン34、およびシールフィン24に損傷は生じない。
【0164】
また、弁制御装置42は、算出したロータ振動が、予め設定される所定ロータ振動以下の場合は電磁弁43を開弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0165】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて開弁し、高圧蒸気供給源45から与圧室29に、駆動用蒸気が流入する。
【0166】
受圧ヘッド30は、高圧蒸気供給源45から与圧室29に流入する駆動用蒸気の圧力によって蒸気圧の押圧軸方向に移動する。
【0167】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押圧軸方向に移動すると、シール基板25が蒸気圧の押圧軸方向に移動し、受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、シール基板25側のシールフィン34上にロータ18側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面、ロータ18側のシールフィン24上にシール基板25側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面を対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン34、およびシールフィン24とそれぞれに対向する快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。そして、シールフィン34と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小となり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
【0168】
(第2形態)
また、蒸気タービン3の運転状態は、例えば、蒸気タービン3の蒸気温度によって検出することが好適であり、運転状態検出装置44は、蒸気タービン3の蒸気温度を検出する蒸気温度検出装置になる。
【0169】
蒸気温度検出装置である運転状態検出装置44は、蒸気タービン3の蒸気温度を検出して検出信号に変換し、弁制御装置42に入力する。
【0170】
弁制御装置42は、運転状態検出装置44(蒸気温度検出装置)から入力される検出信号に基づいて蒸気温度を算出する。
【0171】
そして、弁制御装置42は、算出した蒸気温度が、予め設定される所定蒸気温度より小さい場合は電磁弁43を閉弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0172】
このときの所定蒸気温度は、蒸気タービン3の性能等に基づいて適宜設定すればよい。
【0173】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて閉弁し、高圧蒸気供給源45からの与圧室29への駆動用蒸気の流入を遮断する。
【0174】
与圧室29に駆動用蒸気が流入しないとき、受圧ヘッド30は、戻りバネ31の付勢力によって受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。
【0175】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動すると、シール基板25が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。この位置においては熱変形によりシール基板25上のシールフィン34、およびロータ18上のシールフィン24と対向する快削性スペーサ28が接触し得る。
【0176】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン34、およびシールフィン24に損傷は生じない。
【0177】
また、弁制御装置42は、算出した蒸気温度が、予め設定される所定蒸気温度以上の場合は電磁弁43を開弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0178】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて開弁し、高圧蒸気供給源45から与圧室29に、駆動用蒸気が流入する。
【0179】
受圧ヘッド30は、高圧蒸気供給源45から与圧室29に流入する駆動用蒸気の圧力によって蒸気圧の押圧軸方向に移動する。
【0180】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押圧軸方向に移動すると、シール基板25が蒸気圧の押圧軸方向に移動し、受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、シール基板25側のシールフィン34上にロータ18側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面、ロータ18側のシールフィン24上にシール基板25側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面を対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン34、およびシールフィン24とそれぞれに対向する快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。そして、シールフィン34と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小となり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
【0181】
(第3形態)
また、蒸気タービン3の運転状態を、例えば、蒸気Stの圧力によって検出する構成であってもよい。この場合、運転状態検出装置44は、蒸気Stの圧力を検出する圧力検出装置になる。
【0182】
圧力検出装置である運転状態検出装置44は、蒸気タービン3を流通する蒸気Stの圧力を検出して検出信号を弁制御装置42に入力し、弁制御装置42は蒸気Stの圧力を算出する。
【0183】
そして、弁制御装置42は、蒸気Stの圧力が予め設定される所定圧力値より低い場合は電磁弁43を閉弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0184】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて閉弁し、高圧蒸気供給源45からの与圧室29への駆動用蒸気の流入を遮断する。
【0185】
このときの所定圧力値は、蒸気タービン3の性能等に基づいて適宜設定すればよい。
【0186】
与圧室29に駆動用蒸気が流入しないとき、受圧ヘッド30は、戻りバネ31の付勢力によって受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。
【0187】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動すると、シール基板61が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。この位置においては熱変形によりシール基板25上のシールフィン34、およびロータ18上のシールフィン24と対向する快削性スペーサ28が接触し得る。
【0188】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン34、およびシールフィン24に損傷は生じない。
【0189】
また、弁制御装置42は、算出した蒸気圧力値が、予め設定される所定蒸気圧力値以上の場合は電磁弁43を開弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0190】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて開弁し、高圧蒸気供給源45から与圧室29に、駆動用蒸気が流入する。
【0191】
受圧ヘッド30は、高圧蒸気供給源45から与圧室29に流入する駆動用蒸気の圧力によって蒸気圧の押圧軸方向に移動する。
【0192】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押圧軸方向に移動すると、シール基板25が蒸気圧の押圧軸方向に移動し、受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、シール基板25側のシールフィン34上にロータ18側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面,ロータ18側のシールフィン24上にシール基板25側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面を対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン34、およびシールフィン24とそれぞれに対向する快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。そして、シールフィン34と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小となり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
【0193】
(第4形態)
また、蒸気タービン3の運転状態を、例えば、ロータ軸方向熱伸び量からケーシング軸方向熱伸び量を引いた熱伸び差量によって検出する構成であってもよい。この場合、運転状態検出装置44は、蒸気タービンの熱伸び差量を検出する熱伸び差検出装置になる。
【0194】
熱伸び差検出装置である運転状態検出装置44は、蒸気タービン3の熱伸び差量を検出して検出信号を弁制御装置42に入力し、弁制御装置42は熱伸び差量を算出する。
【0195】
そして、弁制御装置42は、熱伸び差量が予め設定される所定熱伸び差量より小さい場合は電磁弁43を閉弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0196】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて閉弁し、高圧蒸気供給源45からの与圧室29への駆動用蒸気の流入を遮断する。
【0197】
このときの所定熱伸び差量は蒸気タービン3の性能等に基づいて適宜設定すればよい。
【0198】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて閉弁し、高圧蒸気供給源45からの与圧室29への駆動用蒸気の流入を遮断する。
【0199】
与圧室29に駆動用蒸気が流入しないとき、受圧ヘッド30は、戻りバネ31の付勢力によって受圧ヘッド30を蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。
【0200】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動すると、シール基板25が蒸気圧の押し込み方向と逆方向に移動する。この位置においては熱変形によりシール基板25上のシールフィン34、およびロータ18上のシールフィン24と対向する快削性スペーサ28が接触し得る。
【0201】
このとき快削性スペーサ28には接触による凹みを生じるが、快削性スペーサ28と接触するためシールフィン34、およびシールフィン24に損傷は生じない。
【0202】
また、弁制御装置42は、算出した熱伸び差量が、予め設定される所定の熱伸び差量以上の場合は電磁弁43を開弁する制御信号を電磁弁43に送信する。
【0203】
電磁弁43は、弁制御装置42から送信される制御信号に基づいて開弁し、高圧蒸気供給源45から与圧室29に、駆動用蒸気が流入する。
【0204】
受圧ヘッド30は、高圧蒸気供給源45から与圧室29に流入する駆動用蒸気の圧力によって蒸気圧の押圧軸方向に移動する。
【0205】
受圧ヘッド30が蒸気圧の押圧軸方向に移動すると、シール基板25が蒸気圧の押圧軸方向に移動し、受圧ヘッド30が、蒸気圧の押圧方向の停止位置まで移動したときに、シール基板25側のシールフィン34上にロータ18側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面,ロータ18側のシールフィン24上にシール基板25側の未接触状態の快削性スペーサ28の表面を対向させるように構成すると、与圧室29に流入する蒸気Stの圧力が高くなると、互いに対向するシールフィン34、およびシールフィン24とそれぞれに対向する快削性スペーサ28の隙間を初期設定状態にすることができる。そして、シールフィン34と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小となり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
【0206】
なお、図9の説明においては運転状態検出装置44の運転状態検出例については一検出項目の例について説明したが、同時に複数項目を検出する構成とすることも可能である。
たとえば運転状態として蒸気温度と蒸気圧力を検出し、いずれの値も予め設定される所定蒸気温度、および所定蒸気圧力以上のときのみ、受圧ヘッド30を蒸気圧の押圧方向へ移動させる構成とすることができる。これらはいずれも本発明と発明の本質を異にするものではない。
【0207】
上記快削性スペーサ28として通気性金属を用いた快削性スペーサ28とすることができる。通気性金属を用いた快削性スペーサ28を用いることにより、シールフィン34,シールフィン24の破損の防止のみならずできる、シールフィン34,シールフィン24と快削性スペーサ28の接触により生じる接触発熱を除去でき、接触発熱による熱変形を防止できる。
【0208】
また、図9に示すラビリンスシール装置23,駆動用蒸気を高圧蒸気供給源45から与圧室29に流入して受圧ヘッド30を方向に移動させる構成としたが、例えば図示しないアクチュエータで、受圧ヘッド30を方向に移動させる構成であってもよい。
【0209】
また、ノズルダイヤフラム外輪20,動翼17の間に組み込まれるシール構造を、図9に示すシール構造と同じ構成にしてもよい。
【0210】
以上のように、本実施形態に係る蒸気タービン3は、図3に示すように、固定部である静翼21と、回転部であるロータ18の間に、ラビリンスシール装置23,ロータ18側のシールフィン24、及びシール基板側25の快削性スペーサ28を含んだシール構造が組み込まれている。そして、快削性スペーサ28が備わるシール基板25が、ロータ18の軸方向に移動可能に備わることを特徴とする。
【0211】
この構成により、蒸気タービン3の負荷が増大すると、受圧ヘッド30はロータ18の蒸気の負荷圧軸方向に移動し、受圧ヘッド30と接続されるシール基板25が、蒸気の負荷圧軸方向に移動する。移動後のシールフィン24位置に対向する位置にある快削性スペーサ28は未接触状態が保たれているため、シールフィン24と快削性スペーサ28の間のクリアランスが最小状態になり、静翼21とロータ18の間のシール性能が向上する。
したがって、静翼21とロータ18の間のシール性能を向上し、漏れ蒸気によるタービン効率の低下を抑制できるという優れた効果を奏する。
【0212】
さらに、快削性スペーサ28を、切削性に優れるアブレイダブル材である快削性金属で形成する構成とした。この構成によって、シールフィン34及びシールフィン24と快削性スペーサ28が接触しても快削性スペーサ28が切削されることで、シールフィン34及びシールフィン24の破損を防止できるという優れた効果を奏する。
【0213】
なお、例えば、図3に示す、ラビリンスシール装置23,シールフィン24、及び快削性スペーサ28を含んだシール構造は、ノズルダイヤフラム内輪側22とロータ18の間に限定されず、ケーシング19(図2参照)とロータ18の間など、他の固定部と回転部の間に組み込むことができる。
【符号の説明】
【0214】
1 発電プラント
3 蒸気タービン
6 ロータ
17 動翼
19 ケーシング
21 静翼
23 ラビリンスシール装置
24,34,40 シールフィン
25 シール基板
26,35 ハイ部
27,36 ロー部
28 快削性スペーサ
29 与圧室(駆動装置)
30 受圧ヘッド(可動部)
31 戻りバネ(付勢手段)
32 ガイド
33,41 ガイド受け
39 カバー
42 弁制御装置(駆動装置)
43 電磁弁(駆動装置)
44 運転状態検出装置
45 高圧蒸気供給源(駆動装置)
46 蒸気通路
St 蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ及び前記ロータと一体に回転する部材からなる回転部と、
前記回転部を内包するケーシング及び前記ケーシングに固定される部材からなる固定部と、を有する蒸気タービンに組み込まれ、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方に設けられたシールフィンと、
前記シールフィンと対向する前記回転部または前記固定部に設けられ、快削性金属を用いたスペーサと、を有する蒸気タービンのシール構造であって、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、駆動装置により前記固定部に備わる前記シールフィンは、前記回転部に対してロータ軸方向に移動可能であり、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記駆動装置により前記固定部に備わる前記スペーサは、前記回転部に対してロータ軸方向に移動可能であることを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項2】
前記駆動装置として、
前記固定部には、前記蒸気タービンを流通する蒸気の圧力によってロータ軸方向に移動するとともに、付勢手段によって前記蒸気の圧力の作用方向と逆向きの方向に付勢されて移動可能な可動部が備わり、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは前記可動部に取り付けられ、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは前記可動部に取り付けられており、
前記蒸気の圧力が前記可動部をロータ軸方向に移動させる押圧力が、前記付勢手段が前記可動部を前記逆向きの方向に付勢する付勢力より小さいときは、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサが接触可能な状態になり、
前記押圧力が前記付勢力以上になると、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となる位置に前記可動部が移動することを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項3】
前記駆動装置として、
前記可動部は、前記シールフィンまたは前記スペーサが固定されるシール基盤と、該シール基盤が固定され、前記押圧力を受ける受圧ヘッド部と、前記受圧ヘッドに設けられたガイド部とを備え、
前記固定部は、前記受圧ヘッド部を内部に保持する与圧室と、該与圧室内に設けられ、前記ガイド部を支持し、前記受圧ヘッド部のロータ軸方向移動をガイドするガイド受けと、前記与圧室に連通し、前記与圧室へ前記蒸気タービンを流通する蒸気を導く蒸気流路と、前記受圧ヘッドに付勢力を与えるバネとを備えることを特徴とする請求項2に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項4】
前記駆動装置として、
前記固定部には、蒸気の圧力によってロータ軸方向に移動するとともに、付勢手段によって前記蒸気の圧力の作用方向と逆向きの方向に付勢されて移動可能な可動部が備わり、 前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは前記可動部に取り付けられ、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは前記可動部に取り付けられ、
前記可動部を移動させる前記蒸気の流路に設けられ、前記蒸気の供給量を制御する弁と、
前記蒸気タービンの運転状態を検出する運転状態検出装置と、
前記運転状態検出装置からの信号により前記弁の開度を制御し、前記可動部の移動量を制御する制御装置とを備え、
前記蒸気の圧力が前記可動部をロータ軸方向に移動させる押圧力が、前記付勢手段が前記可動部を前記逆向きの方向に付勢する付勢力より小さいときは、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサが接触可能な状態になり、
前記押圧力が前記付勢力以上になると、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となる位置に前記可動部が移動することを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項5】
前記運転状態検出装置は、前記ロータの振動を検出するロータ振動検出装置であって、前記蒸気タービンの運転状態を前記ロータの振動によって検出し、
前記制御装置は、前記ロータ振動が所定振動値以下のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させることを特徴とする請求項4に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項6】
前記運転状態検出装置は、前記蒸気の温度を検出する温度検出装置であって、前記蒸気タービンの運転状態を前記蒸気の温度で検出し、
前記制御装置は、前記蒸気の温度が所定温度値以上のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させることを特徴とする請求項4に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項7】
前記運転状態検出装置は、前記蒸気の圧力を検出する圧力検出装置であって、前記蒸気タービンの運転状態を前記蒸気の圧力で検出し、
前記制御装置は、前記蒸気の圧力が所定圧力値以上のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させることを特徴とする請求項4に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項8】
前記運転状態検出装置は、前記ロータと前記ケーシングの軸方向の熱伸び差を検出する熱伸び差検出装置であって、前記蒸気タービンの運転状態を前記熱伸び差で検出し、
前記制御装置は、前記熱伸び差が所定熱伸び差以上のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させることを特徴とする請求項4に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項9】
前記可動部は、前記シールフィンまたは前記スペーサが固定されるシールリング部と、該シールリングが固定され、前記押圧力を受ける受圧ヘッド部と、前記受圧ヘッドに設けられたガイド部とを備え、
前記固定部は、前記受圧ヘッドを内部に保持する与圧室と、該与圧室内に設けられ、前記受圧ヘッドのガイド部を支持し、前記受圧ヘッドのロータ軸方向移動をガイドするガイド受けと、前記与圧室に連通し、前記与圧室へ前記蒸気を導く蒸気流路と、前記受圧ヘッドに付勢力を与えるバネとを備え、
前記弁は前記蒸気流路に設けられていることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項10】
前記快削性金属は通気性金属であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の蒸気タービンのシール構造。
【請求項11】
ロータ及び前記ロータと一体に回転する部材からなる回転部と、
前記回転部を内包するケーシング及び前記ケーシングに固定される部材からなる固定部と、を有する蒸気タービンに組み込まれ、
前記回転部と前記固定部の両方またはいずれか一方に設けられたシールフィンと、前記シールフィンと対向する前記回転部または前記固定部に設けられた快削性金属を用いたスペーサと、前記固定部に設けられ、駆動装置によって移動可能な可動部とを有し、
前記固定部に前記シールフィンが備わる場合、前記固定部に備わる前記シールフィンは前記可動部に取り付けられ、
前記固定部に前記スペーサが備わる場合、前記固定部に備わる前記スペーサは前記可動部に取り付けられてなるシール構造の制御方法であって、
前記蒸気タービンの定常負荷運転の実施と共に、前記可動部をロータ軸方向に移動させ、互いに対向する前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となる位置に移動させる手順を備えることを特徴とするシール構造の制御方法。
【請求項12】
前記ロータの振動を検出する手順と、
前記ロータの振動が所定のロータの振動以下のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させる手順と、を備えることを特徴とする請求項11に記載のシール構造の制御方法。
【請求項13】
前記蒸気の温度を検出する手順と、
前記蒸気の温度が所定の蒸気の温度以上のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させる手順と、を備えることを特徴とする請求項11に記載のシール構造の制御方法。
【請求項14】
前記蒸気タービンを流通する蒸気の圧力を検出する手順と、
前記蒸気の圧力が所定圧力値以上のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させる手順と、を備えることを特徴とする請求項11に記載のシール構造の制御方法。
【請求項15】
前記ロータと前記ケーシングの軸方向の熱伸び差を検出する手順と、
前記熱伸び差が所定熱伸び差以上のときに、前記可動部を前記シールフィンと前記スペーサの隙間が予め定めた設定値となるロータ軸方向位置に移動させる手順と、を備えることを特徴とする請求項11に記載のシール構造の制御方法。
【請求項16】
前記快削性金属は通気性金属であることを特徴とする請求項11乃至請求項15のいずれか1項に記載のシール構造の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−21445(P2012−21445A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159271(P2010−159271)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】